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マグネシウム合金への表面処理技術の開発

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Academic year: 2021

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福岡県工業技術センター  研究報告 No. 19 (2009)  

  - 95 -

マグネシウム合金への表面処理技術の開発 

―マグネシウム合金用3価クロム化成処理技術の開発(第1報)― 

古賀 弘毅

*1

  中野 賢三

*1

  宅野 千秋

*2

   

Development of Surface Treatment for Magnesium Alloy

- Development of Conversion Treatment Using Trivalent Chromium for Magnesium Alloy(1

st

report) -

Hiroki Koga, Kenzo Nakano and Chiaki Takuno   

マグネシウム合金は大変反応活性な金属であることから表面に腐食生成物を生じやすく,塗装密着性を得るため には下地処理として化学的に安定な皮膜を付与する化成処理が必要不可欠である。本研究では自動車部材等へ使用 可能な高耐食性化成処理法を開発するため,リン酸,硫酸クロムカリウム等を使用した 3 価クロム化成処理方法を 検討した。リン酸量,クロム(Ⅲ)量等を最適化することにより,24 時間塩水噴霧試験においてに腐食生成物の 生じない処理条件を得ることができた。また,一般的に使用されるアクリル系塗料との塗装密着性についても充分 な密着性が得られた。 

 

1  はじめに 

マグネシウム合金は,軽量でかつ高強度であること から,ノートパソコンや携帯電話等の筐体などに使用 されており,今後,さらに使用量が増加すると言われ ている

1)

。 

一方,自動車産業においても二酸化炭素排出量低減 のため,車体重量の軽量化が必要不可欠であり,マグ ネシウム合金の利用が有効であるとされている

2)

。し かしながらマグネシウム合金は実用金属中で最も卑な 金属であることから耐食性に劣るため,その利用もシ ートフレームやステアリングホイール等のコクピット 内の部材への利用に限られている。今後,マグネシウ ム合金の利用拡大のためには高耐食性の表面処理が必 要不可欠である。 

現在,採用されているマグネシウム合金の表面処理 は塗装が一般的であり,その下地処理として低コスト な化成処理が採用されている。過去には6価クロムを 使用した化成処理が一般的であったが,昨今の欧州指 令(RoHS,ELVなど)の影響を受け,6価クロムを使用 しない化成処理方法が使用されるようになっている。   

近年の化成処理の開発動向は,クロムを使用しない いわゆるノンクロム化成処理に関するものが中心であ るが,これらの処理は一般的に6価クロム化成処理の

耐食性に及ばないため,携帯端末等の商品寿命が短く,

かつ,腐食環境の緩やかなものに適用されている。自 動車部材として使用するためにはさらなる高耐食性が 必要不可欠である。 

本研究では,自動車部材として使用可能な高耐食性 化成処理法の開発を目的として,リン酸,硫酸クロム カリウム等を使用した3価クロムを用いた化成処理方 法を検討した。 

 

2  実験方法  2-1  供試料 

実験には社団法人日本マグネシウム協会製のAZ91D 標準試験片(150mm×60mm×t3mm)を使用した。化成 処理のための試験片は研磨紙により♯600まで湿式研 磨して試験に供した。 

塗装密着性試験では,化成処理した試験片について,

実際に二輪車部材について行われるアクリル系樹脂を 塗装をしたものを使用した。塗装条件を表1に示す。 

 

表1  塗装条件 

操作  条件 

①脱脂  なし 

②下塗り アクリル-アルキッド系樹脂,刷毛塗り 

③乾燥  常温,5〜10分間 

④上塗り アクリル-メラミン-エポキシ系樹脂,刷毛塗り

⑤乾燥  160℃,20分間 

 

*1  機械電子研究所 

*2  ケイアンドエムテクノロジィ(株) 

(2)

福岡県工業技術センター  研究報告 No. 19 (2009)  

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2-2  化成処理方法 

マグネシウム合金に限らずあらゆる金属への表面処 理ではその前処理方法が重要であるが,今回は化成処 理剤とその処理方法の開発に重点をおくため,湿式研 磨したサンプルを用いることで前処理工程を省略した。 

今回,化成処理剤の健浴には,硫酸クロム(Ⅲ)カ リウム12水和物(関東化学(株) 特級),リン酸(関 東化学(株) 特級),硫酸アンモニウム(和光純薬工 業(株) 特級)等を使用した。処理方法は単純な浸 漬法で行った。基本的な化成処理条件を表2に示す。

組成構成試薬量は最適組成を探索するため,適宜,変 更した。処理後は流水で軽く水洗し,エアブローで乾 燥した。 

 

表2  化成処理基本条件 

項目  条件 

CrK(SO

4

2

・12H

2

O 1g/L(Crとして)

(NH4)

2

SO

4

1g/L(NH

4+

として)

H

3

PO

4

10g/L(PO

4

3-として)

pH 3.0 浴温 40℃

処理時間 1分間

 

2-3  評価方法 

本法により得られた化成皮膜組成および深さ方向元 素分布の測定には,グロー放電発光分析装置((株)

堀場製作所 JY-500RF型,GD-OESと略す。)を使用した。

また,皮膜表面の観察にはX線分析機能付き走査型電 子顕微鏡((株)エリオニクス ERA-8800型,SEM-EDX と略す。)を使用した。耐食性評価には,塩水噴霧試 験機(スガ試験機(株) STP-120型)を使用して24時 間の中性塩水噴霧試験

3)

を実施した。中性塩水噴霧試 験の試験条件を表3に示す。 

 

表3  塩水噴霧試験条件 

項目  条件 

噴霧塩水組成 50g/L 塩化ナトリウム pH 7.0 試験温度 35℃

塩水噴霧量 1.5ml/hr(水平採取面積80cm

2

当り)

試験片角度 20°(鉛直線に対し)

試験時間 160℃,20分間

塗装密着性の評価は,碁盤目試験

4)

により実施した。

塗装後そのまま試験を行う一次密着性評価と,温水に 浸漬した後試験を行う二次密着性評価を実施した。二 次密着性評価を実施した際の温水浸漬試験の条件を表 4に示す。 

表4  温水浸漬試験条件 

項目 条件

水 イオン交換水 温度 40℃

試験時間 120時間  

3  実験結果および考察  3-1  化成皮膜の組成分析結果 

表2に示す基本条件による化成皮膜をGD-OESにより 深さ方向の元素分析を行った結果を図1に示す。クロ ム,リン,窒素については本来の濃度を5倍して表示 している。この結果から本処理ではクロム,リン,酸 素,窒素およびマグネシウムからなる化成皮膜が形成 されていることが明らかとなった。なお,本処理によ り得られた化成皮膜の膜厚は定量計算によると約1μm であった。この基本条件をベースにクロム濃度を変化 させたところ,クロム濃度が少ない条件では膜厚が減 少し,多い条件では膜厚が増大した。このことから化 成処理剤中にクロム濃度が多いと反応速度が増すと考 えられる。なお,基本条件により得られる化成皮膜中 のクロム濃度は深さ方向により増減があるが概ね10%

前後,リン濃度も同様に10〜15%程度であった。なお,

化成皮膜中のリン濃度は化成処理剤中のクロム量を増 やすと減少する傾向が見られた。 

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100

0 0.5 1 1.5 2 2.5 3

深さ / μm

濃度 / %

P×5倍 Cr×5倍

N×5倍 O

Mg

Al

 

図1  基本条件における化成皮膜のGD-OES分析結果 

(3)

福岡県工業技術センター  研究報告 No. 19 (2009)  

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3-2  化成皮膜表面のSEM観察 

  化成皮膜表面をSEM-EDXにより観察した結果を図2お よび図3に示す。図2は基本条件により得られた化成皮 膜表面,図3は基本条件のクロム濃度を5倍にしたもの である。図2より基本条件ではクロム,リン,酸素か らなる2〜3μm程度の粒状析出物が無数発生した。そ の他の箇所の点分析ではマグネシウム,酸素,リン,

クロムが検出された。一方,図3ではほぼ全面にわた ってマグネシウム,酸素,リン,クロムからなる化成 皮膜が観察され,図2で見られた粒状析出物は個数こ そ減少しているが,ひとつひとつの析出物がより大型 化して観察されている。また,クロム,リン,酸素の 濃化部では皮膜にクラックが発生した。 

  ここで,リン酸および3価クロムを用いた化成処理 の反応メカニズムを次式のとおり整理する。 

 

・  マグネシウムの溶解反応 

2H

2

PO

4-

 → 2H

+

 + 2HPO

42-

 ・・・・・・・・・・・・・・・(1)

 

Mg + 2H

+

 → Mg

2+

 + H

2

 

・・・・・・・・・・・・・・・(2) 

・  リン酸水素マグネシウムの生成反応 

Mg

2+

 + HPO

42-

 → MgHPO

4

↓・・・・・・・・・・・・・・(3) 

・  Mg溶解によるpH上昇とリン酸マグネシウムアン モニウムの生成反応 

Mg

2+

 + HPO

42-

 + NH

4+

 + OH

-

 

       → MgNH

4

PO

4

↓ + H

2

O ・・・・・(4) 

・  Mg溶解によるpH上昇と水酸化クロムの生成  Cr

3+

 + 3OH

-

 → Cr(OH)

3

↓・・・・・・・・・・・・・・(5) 

・  リン酸クロムの生成反応 

Cr(OH)

3

 + H

3

PO

4

 → CrPO

4

↓ + 3H

2

O ・・・・・(6)   

化成皮膜を構成する不溶性塩の生成は(3)〜(6)式の 反応によると考えられる。化成皮膜はまず(3)式及び (4)式による皮膜が形成されると考えられ,その後,

皮膜欠陥からの水素発生に伴い(5)式による水酸化ク ロムを生じ,次いで(6)式によるリン酸クロムが発生 すると考えられる

5)

。図2に見られる粒状析出物は(6) 式の反応によるリン酸クロムであると考えられる。一 方,図3では化成処理液中のクロム量が基本条件の5倍 と多く,成膜速度も速いことから(3)〜(6)式で示され る不溶性塩が複合的に成長したのではないかと考えら れる。 

  図2  基本条件による化成皮膜表面のSEM観察結果 

 

  図3  基本条件にクロムを増量した場合の化成皮膜表

面のSEM観察結果   

3-3  塩水噴霧試験結果 

表2の基本条件をベースに,クロム濃度およびアン モニウムイオン濃度を変化させて化成処理を行った試 験片について,24時間の塩水噴霧試験を行った。試験 片は化成処理後,端部をマスキングテープで覆い,試 験面の有効面積を100mm×50mmとした。試験後の試験 片外観を図4に示す。全ての試験条件において白錆び の発生はなかったが,全ての条件で糸状腐食が発生し た。糸状腐食部をSEM-EDXで点分析すると,アルミニ ウム を 多く 含 んだ 腐 食生 成 物で あ るこ と がわ か る。

AZ91合金はAlリッチなβ相が金属組織中に析出してお り,このβ相付近は化成皮膜が形成しにくく化成皮膜 の欠陥が発生しやすいと考えられるため,この欠陥を 基点とした腐食ではないかと推察される。なお,クロ ム濃度0.5g/Lの条件において,アンモニウムイオン濃 度が1g/L以上では比較的糸状腐食の発生は少なかった。

また,クロム濃度5g/Lの条件でアンモニウムイオン濃

度10g/Lでは糸状腐食の発生はわずか1箇所であった。 

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福岡県工業技術センター  研究報告 No. 19 (2009)  

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図4  24時間塩水噴霧試験後の試験片外観 

(丸印:糸状腐食発生箇所) 

 

3-4  塗装密着性試験結果 

  本法により最も耐食性が良かったクロム濃度5g/L,

アンモニウムイオン濃度10g/Lの条件において化成処 理を実施した試験片に表1の条件により塗装したもの について,100マスの碁盤目試験による塗装密着性を 評価した。この結果,一次密着性,二次密着性ともに 剥離は皆無であり,本処理による化成皮膜が良好な塗 装密着性を示すことが明らかとなった。 

               

図5  二次密着性試験後の塗膜試験部外観   

3-5  6価クロム溶出試験結果 

  基本条件により製作した化成処理品について,6価 クロムの溶出試験を行った。試験方法はマグネシウム 合金用の規格が見あたらないため,JISで制定されて いる「電気亜鉛めっきおよび電気カドミウムめっき上 のクロメート皮膜(JIS H8625)」の中の「クロメート

皮膜の6価クロム定量試験 ‒ ジフェニルカルバジッド 比色法」を用いた。試験の結果,6価クロムの溶出は 0.05μg/cm

2

以下であった。このことから6価クロムの 溶出量に規制のある欧州指令について対応しているこ とが明らかとなった。 

  4  まとめ 

 リン酸,硫酸クロムカリウム等を使用した3価クロ ム化成処理方法を検討した結果,以下の知見を得た。 

基本条件による化成皮膜はクロム,リン,窒素,マ グネシウム,酸素等から構成されることがわかった。 

基本条件をベースとした化成処理では,クロム濃度 5g/L,アンモニウムイオン濃度10g/Lにおいて最も優 れた耐食性を示した。また,この条件で処理した化成 皮膜はアクリル系塗料に対し良好な密着性を示すこと が明らかとなった。 

6価クロムの溶出試験を実施したところ,6価クロム の溶出は確認されず,欧州指令に対応していることが 明らかとなった。 

 

5  参考文献 

1) 井手浩樹:日本パーカーライジング技報,No.16,

pp.60-64(2004) 

2) 武林慶樹:神戸製鋼技報,Vol.47(No.2),pp.69- 72(1997) 

3) JIS Z2371 中性塩水噴霧試験  4) JIS K5600-5-6  クロスカット法 

5) 軽 部 健 志 : 表 面 技 術 , Vol.55( No.11), pp.710-

714(2004) 

参照

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