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60グラフェン界面構造の合成と超潤滑特性
1. はじめに
ナノメートルサイズの世界では摩擦 の効果が著しく増大する.その理由は,
ファンデルワールス相互作用や共有結 合による引力の効果が重力と比べて相 対的に強くなるためである.したがっ て微視的サイズでの低摩擦条件の探索 は,あらゆるサイズの機械の効率的な 稼働に寄与するため,産業上の要請で ある.
そこでわれわれはナノメートルの厚 さのシート(グラフェン)で,ナノメー トルのボール(フラーレン C60)をは さむとボール(C60)が転がってシー トが滑りやすくなるのではないかと考 えた(図 1).いわゆる「C60分子ベア リング」のアイデアをもとに,ナノレ ベルで摩擦を低く抑えるシステムを合 成して,その超潤滑機構を研究してい るのでその現状を紹介する.
2. C60単分子層サンドウィッチ 構造(1)
グラファイト基板上に蒸着させた C60単層膜の上にグラファイト薄膜を 重ねると,サンドウィッチ構造を作製 す る こ と が で き る. 摩 擦 力 顕 微 鏡
(FFM)の探針でグラファイト薄膜を スライドさせると,摩擦力は C60分子 の配置を反映する格子周期パターンを 示 し, 動 摩 擦 力( 平 均 水 平 力 ) は FFM の分解能(0.1nN)以下でゼロ となる(図 2).
3.C60封入グラファイト構造(2)
グラファイトを硝酸と硫酸の混酸中 で撹拌した後水洗いし,1 000℃以上 でフラーレン C60粉末と共に 2 週間ほ ど保つ.C60分子が封入されたグラファ イト構造が作製される.透過電子顕微 鏡測定から,C60分子はグラファイト の平面内で最密充填構造を取り,c 軸 方向に約 1.3nm の間隔で積層するこ とがわかった.
2 節のサンドウィッチ構造のときと は異なり,100nN 以下の荷重領域では,
すべての走査方向に対して摩擦力像に は明確な格子周期パターンが現れず,
最大静止摩擦力(最大水平力)と動摩 擦力(平均水平力)が共に FFM の分 解能以下でゼロとなる(図 3).また 摩擦係数は,代表的な固体潤滑剤であ るグラファイトの摩擦係数 0.001(FFM 測定結果)よりも小さくなった.した がって本構造は,前述の C60単分子層 サンドウィッチ構造と比較して,固体
潤滑剤としての用途に適している.た とえば,長時間の正確な稼働を要求さ れる精密機器部品を本構造のフィルム でコーティングすれば,摩耗の防止に 役立つ.4.C60 グラフェン界面構造の超
潤滑特性(3)
3 節の封入構造では,FFM の分解 能以下で最大静止摩擦力と動摩擦力の 両方がゼロになった.しかし,実はピ コニュートンレベルの超低摩擦力は有 限の値を取り,走査方向の異方性を示 すことがわれわれの分子力学シミュ レーションからわかっている.
C60単層膜/グラフェン界面系で,
グラフェンシートの走査角度θを変え て摩擦力を計算すると,図 4のよう に平均水平力〈FL〉はグラフェン六員 環格子配列の回転周期の 60°で変化す る.整合性の良いθ=- 30°,30°,
90°の角度で極大値を取り,極めて狭 いピークの角度領域θ≃ 30°± 0.5°を 除いて 1pN 以下の値を取る.また,
C60/グ ラ フ ェ ン 界 面 系 の ピ ー ク 値 6.4pN は,グラフェン/グラフェン界 面系のピーク値 15pN の約 40%であ る.この違いは C60/グラフェン界面 での C60分子の微小回転と,C60分子 とグラフェンとの間の弾性接触が,グ ラフェンのスライド方向の有効バネ定 数を減少させることに由来している.
5. おわりに
本稿では C60/グラフェン界面構造 の合成と超潤滑特性について解説し た.C60分 子 を グ ラ フ ェ ン で サ ン ド ウィッチした構造では動摩擦力が,グ ラフェン層間に封入した構造では静摩 擦力と動摩擦力の両方が測定分解能以 下でゼロになった.一方シミュレー ションから,グラフェンをスライドさ せる方向によって,グラフェンと C60
分子の接触領域の格子の重なりに整 合・不整合の度合いの差が現れるた め,pN オーダで摩擦力の異方性が生 じることがわかった.システムの実用 化にはまだ多くの関門があるが,炭素 というありふれた材料を使って,われ われがかつて経験したことのない新し い超低摩擦の世界が出現する可能性が 秘められている.
(原稿受付 2013 年 8 月 27 日)
〔佐々木成朗 成蹊大学, 三浦浩治 愛知教育大学〕
●文 献
( 1 )Miura, K., Kamiya, S. and Sasaki, N., C60
Molecular Bearings, Phys. Rev. Lett., 90
(2003), 055509.
( 2 )Miura, K., Tsuda, D. and Sasaki, N., Su- perlubricity of C60 Intercalated Graphite Films, e-J. Surf. Sci. Nanotech., 3(2005), 21-23.
( 3 )Sasaki, N., Itamura, N., Asawa, H., Tsuda, D. and Miura, K., Superlubricity of Gra- phene/C60/Graphene Interface ― Simula- tion and Experiment, Tribol. Online, 7
(2009), 96-106.
ナノのシート(グラフェン)
ナノのシート(グラフェン)
ナノの ボール
(C60)
図 1 C60分子ベアリング構造の概念図
摩擦力像 摩擦力ループ
−1
1nm 走査位置(nm)
0
0 4 8
1
水平力(nN)
図 2 C60単分子層サンドウィッチ構造 の超潤滑測定(荷重 9nN)
摩擦力像
走査位置(nm)
1nm
水平力(nN)
0 0 1
−1
4 8
摩擦力ループ
図 3 C60封入グラファイト構造の超潤 滑測定(荷重 10nN)
走査角度θ(deg)
平均水平力
(pN)〈 L〉
〈L〉
(pN)
15
グラファイトC60ベアリング 10
5
0−30 0 30 60
30 θ(deg)
0 5 10 15
29.5 30.5
90 図 4 C60/グ ラ フ ェ ン,グ ラ フ ェ ン/グ ラ
フェン界面構造の超潤滑の異方性.
走査角度θの関数としてプロットし た平均水平力〈FL〉
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日本機械学会誌 2013.12 Vol.116No.1141 865