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      研究分担者:朝野和典(大阪大学大学院医学系研究科  感染制御学  教授) 

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平成 26 年度厚生労働科学研究費補助金(健康安全・危機管理対策総合研究事業) 

医療・介護福祉施設を含む地域密着型の感染制御ネットワークの構築に関する研究  総括分担研究報告書 

   

      

研究代表者:加瀬哲男(大阪府立公衆衛生研究所  ウイルス課長) 

      研究分担者:朝野和典(大阪大学大学院医学系研究科  感染制御学  教授) 

      浅田留美子(大阪府茨木保健所  参事) 

      駒野淳(国立病院機構  名古屋医療センター  臨床検査科長) 

 

     

研究要旨         

  高齢化社会を迎え、国民への質の高い介護福祉と医療の提供を財政的に担保する必要がある。本研究は、

「地域」と「感染症制御」の視点から介護と医療を捉える事により、課題克服への貢献を目指す。高齢者は 感染症への抵抗性が低く、医療施設における感染制御対策において介護施設入所者の関与は深い。我々は介 護施設での感染症対策を強化する事で、感染制御に要する医療費を削減できる可能性について検討を加える。

本年度は大阪府吹田市をモデル地区に選定し、管内の特別養護老人ホーム 20 施設を対象として吹田市高齢支 援課、吹田保健所、大阪府立公衆衛生研究所が参加する施設内感染対策支援ネットワークを構築し、現状の 把握と効率的な支援活動のあり方を模索した。感染症対策に関する知識、意識、経験、対策基準には施設間 で差があり、現状の対策に不安がある実態が判明した。ネットワーク活動が感染制御に恩恵をもたらすとの 共通認識を醸成することができ、ネットワークを通じた感染対策支援が介護福祉の質の改善にもたらす影響 について科学的知見を収集できる基盤が整備できたと考える。今後、医療・介護福祉施設を含む地域密着型 の拡大感染制御ネットワークを編成することによって、地域住民に安心・安全を提供できる福祉への貢献が 期待される。 

     

A. 研究目的   

  医療施設における院内感染は患者や医療従事者に 不必要な苦しみと医療機関に多大な負担を及ぼす。

これに対応するため、効果的な院内感染防止が体系 的に進められてきた。2006 年に制定された良質な医 療を提供する体制の確立を図るため医療法等の一部 を改正する法律に基づいて医療安全管理指針が示さ れた。さらに 2012 年に適切な院内感染対策をとるこ とにより感染防止対策加算として診療報酬を算定で きるようになった。これにより、医療機関における 感染制御対策はさらに質の高いものに進化しつつあ る。この流れの背景には、院内感染防止への投資の

方が院内感染発生後の処置よりも費用対効果が高い ことが指摘される。 

  医療機関における感染制御(院内感染対策)は確 立しつつあるが、医療関連感染(Healthcare‑ 

associated infection)制御の観点から、医療機関 以外の施設における対策が必要である。医療関連感 染予防を地域で効果的に実施できれば、高い費用対 効果で感染症対策を実施できる可能性がある。これ は限られた厚生予算の効果的な運用に貢献できる。

このような背景の中で医療機関に対し大きな感染対 策ストレスになることが指摘されている福祉施設に おける感染制御について戦略的な対策を講じること ができれば、社会に対する貢献度は非常に大きいと 思われる。 

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  福祉施設における施設内感染は入所者や施設従事 者に不必要な苦しみと施設に多大な負担を及ぼす。

これは医療機関における状況と全く同じであり、対 策においても類似のアプローチが有効であることを 示唆する。そこで、医療機関の取り組みを模倣し、

福祉施設の感染症対策ネットワークを構築する。こ れを通じて施設内感染対策を強化すると同時に、感 染制御にかかる地域の医療費を削減できる可能性に ついて科学的基盤の提供を試みる。 

 

B.方法と経過   

地区•施設の選定 

介護福祉施設のネットワークを最も効果的に運営で きる地区として、行政と地域の保健所が感染制御に 関して必要性を強く認識し対策に積極的であること、

行政と福祉施設が良好な関係にあり、施設数が研究 事業の推進に適切な規模であること、医療機関にお ける院内感染連絡会が既に存在し効果的に機能して いることなどを指標に大阪府管内の地区を評価し対 象地域を絞り込んだ。さらに行政の担当課と協議し、

最も必要性の高いと思われる福祉施設を選定した。

26 年度も 25 年度に引き続き吹田地区を選定した。 

 

研究事業への参加要請 

26 年度は新たに加わった 1 つを含めて 20 の特別 養護老人ホームで継続的に本研究事業に参加依頼し た。また、施設長会議では重ねて事業への参加を要 請した。 

 

感染制御に係る現状と問題の把握 

  25 年度に行った施設内感染の現状と対策を把 握するために記述式アンケートによる調査をおこな った。さらに感染制御に係る現状と問題点を整理し、

25 年度の全体会議だけでは十分に把握できない施 設の現状および個別のニーズに応えるために、25 年 度後半から大阪府立公衆衛生研究所等の職員による 施設への個別訪問を開始した。施設個別訪問には講 習型、アウトブレイク事後調査型、平常時の感染症 対策調査型の三タイプがあり、それぞれ大阪府立公 衆衛生研究所と保健所および医療機関の専門職を施 設に派遣した。 

感染制御ネットワーク研究会の活動 

  大阪府公衆衛生研究所、福祉施設の施設長または 感染制御に関わる施設の担当者、吹田保健所、吹田 市役所を招聘して定期的に感染制御ネットワーク研 究会を開催してきた。平成 25 年度に 3 回開催したの に引き続き、平成 26 年度は 4 回の会議を吹田保健所 にて開催した。 

  会議では研究班が収集した調査結果の解析報告、

感染症の専門家による講演、施設の感染症対策に関 する経験に関する情報共有、ネットワーク研究会活 動の運営方法、活動方針等について意見交換を行っ た。 

 

医療施設との連携 

吹田保健所管内院内感染対策連絡会議と相互訪問 活動に大阪府立公衆衛生研究所の主任、分担、協力 研究者らがオブザーバー参加し、活動内容を把握し た。また、大阪府管内で発生した院内感染事例にお いても、保健所、国立感染症研究所と共同して、大 阪府立公衆衛生研究所の専門家が現地調査を行った。 

 

ネットワーク運営形態に関する検討 

  茨木地区では行政組織である茨木保健所が主導し て平成 24 年度から「茨木保健所管内感染防止対策ネ ットワーク会議」を開始しており、26年度には「ICT 合同会議」および「有床診療所・老人福祉施設・老人 保健施設部会」(以下「施設部会」)が立ち上げられた。

これまで5回の会議が催されている。研究班として 全ての会議に出席し、保健所行政が主導する場合と 自主的な運営を目指す吹田ネットワークとの差違に ついて現状分析した。

多剤耐性菌の地域拡大に関する解析 

  調査地区における多剤耐性菌の広がりを解析する ために、介護老人福祉施設における多剤耐性菌の保 有状況調査を実施する。このため、参加施設の選定、

調査にかかる準備、倫理的配慮等について調整を行 った。並行して、多剤耐性菌が転院等により地域に 広がることが指摘されていることを受けて、地域の 流行状況を把握するため、吹田および茨木地区のネ ットワーク参加医療機関にて検出された MDRP、MDRA、

CRE の菌株を大阪府立公衆衛生研究所で収集するシ

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ステムを構築した。耐性の真偽の確認と地域におけ る集積性について分子疫学的解析を行う。 

 

他の地域への活動支援 

  吹田地区における活動を他地域に生かすため積極 的に情報を大阪府立公衆衛生研究所のホームページ やセミナーにて発信した。

事業活動に対する評価 

  本事業活動が感染制御に有益な効果をもたらすか を評価するために、従業員の意識調査と施設内感染 の実態について過去3年にさかのぼった調査を書面 にて平成 27 年 2 月に実施した。

 

(倫理面への配慮) 

我々の研究では、個人を特定できる情報は収集し ないが、法人間での情報共有、あるいは研究成果を インターネット上で公開する等が行われるので、研 究参加者が不利益にならないように情報収集するこ とについて、大阪府立公衆衛生研究所運営審査会倫 理審査部会で審査を受け、承認された。 

   

C.研究結果   

地区選定および研究事業への参加要請 

  吹田市高齢支援課と吹田保健所は共に本研究事業 の必要性を高く評価し、積極的な支援を表明してい ただいたことから、引き続き大阪府吹田市を研究実 施地区に選定した。平成 26 年 4 月の吹田地区特養連 絡協議会(施設長会)にて本研究事業に参加協力要請 を行った。その結果、平成 26 年度も吹田地区で研究 実施を継続することにした。吹田市内にある特別養 護老人ホーム計 20 施設を選定した。 

 

感染制御ネットワーク研究会の活動 

感染症対策に関する対策を講じる上で、研究会の 存在意義と構成員(施設、保健所、市役所、大阪府 立公衆衛生研究所)について異論はなく、研究会の 活動内容について特に開催の頻度、日程調整、会議 場所、議事内容、参加者の選定を中心に意見交換し た結果、平成 26 年度の開催頻度は年 4 回程度、2 ヶ

月前までに開催日時を調整し、保健所にて研究会を 開催する、内容は講演形式と情報共有を基本として、

トピックスはアンケート結果を参照しつつ施設長会 議で調整することになった。 

それを受けて、平成 26 年度は、年 4 回(7 月、9 月、11 月、1 月)感染制御ネットワーク研究会を実 施した。 

研究会の主題は施設側の要望に最大限配慮して院 内感染、ノロウイルス感染症、インフルエンザ感染 症、疥癬、HIV 感染症と介護、感染制御の実演、結 核、ワクチンについて取り上げた。 

25 年度の院内感染に関する講演では、医療機関が ネットワークを形成して院内感染対策にあたるよう になった歴史的背景と効果について紹介があり、施 設間ネットワークのあり方について大きな示唆を与 えた。また、ノロウイルス感染症に関する講演では、

知識の共有に関する重要性が認識された。さらに、

個々の施設からこの研究活動にかかる経験について 報告を受けた。この中にはアウトブレイクを経験し た施設が独自に写真解説したノロウイルス感染症マ ニュアルも含まれる。優れたマニュアルを共有する 事や、アウトブレイクに際して施設間で感染対策資 材の共有に関する可能性について議論を深めた(文 献 1)。 

  25 年度の施設個別訪問は講習型が 1 件、アウトブ レイク事後調査型が1件、平常時の感染症対策調査 型が 1 件で、講習型ではインフルエンザとノロウイ ルス感染症についての勉強会が主なテーマだった。

アウトブレイク事後調査型では、ノロウイルス感染 症の事例後に大阪府立公衆衛生研究所の職員が専門 家の立場から現地視察を行った。発生概要と施設の 対応、および大阪府立公衆衛生研究所の現地調査し た結果は、第 3 回感染制御ネットワーク研究会で発 表された(文献 1)。平常時の感染症対策調査型では 保健所、大阪府立公衆衛生研究所、医療機関の ICN が共同で調査に赴き、現地視察と対策にかかる協議 を行った。結果は 26 年度におこなわれた第 4 回感染 制御ネットワーク研究会で発表された。また、一部 施設においては感染制御マニュアルの提出を受け、

不足部分に対して指導した。

  第4回研究会では疥癬対策(資料1)とダニから感染 する感染症(資料2)について講演された。第5回研究

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会は、施設における感染対策の実際・実習(資料 3) と結核対策(資料4)を中心に開催した。第6回研究会 は相互訪問の活用(資料5)とワクチンによる感染制 御(資料6)について学習した。第 7 回研究会では HIV 感染者の療養生活(資料 7)、およびこれまですべて の活動について総合討論を行い、これまでの研究会 を踏まえてこれからの企画内容や継続方法について アンケート調査方式を併用して議論された。

研究会の内容は、印刷物だけでなく、ビデオ撮影 しDVDとして保存して、その後の活用を図った。 

  なお第4回〜第7回までのプログラムを表1に示 した。 

 

医療施設との連携 

地域における多元的薬剤耐性菌対策を推進するた めに、医療機関側のネットワークの構築と情報共有 の活動を行い、従来の院内感染対策の枠を超えた包 括的感染対策ネットワーク拡大への意識改革を行っ た。すなわち、医療機関側にネットワークを通じ、

介護施設への関心を高め、医療機関との感染防止対 策の連携を構築することの重要性の認識の醸成を行 った。また介護施設の職員に対しても、研修会を通 じて、病院における感染対策の実状と病院と施設の 連携の重要性について啓発を行った。 

研究分担者の朝野を中心として行われた、平成 26 年度の具体的活動は以下の通りである。 

  平成26年度第1回大阪府吹田保健所管内院内感染 対策連絡会議(平成 26 年 6 月 13 日)では、国立病 院機構大阪医療センターにおけるカルバペネム耐性 腸 内 細 菌 科 細 菌 ( Carbapenem  Resistant  Enterobacteriacae; CRE)のアウトブレイク事例な どを受け、吹田保健所管内感染対策連絡会議におい て、CRE の細菌学的、疫学的解説および質疑を行っ た。特に米国では高齢者施設と病院の間で伝播、増 加している点に注意が必要であることを解説した

(資料 8)。 

  平成26年度第2回大阪府吹田保健所管内院内感染 対策連絡会議(平成27年1月30日)では、エボラ出血 熱に対する保健所と医療機関の連携についての説明 を受け、エボラ出血熱や中東呼吸器症候群(MERS)、

インフルエンザH5N1、H7N9の流行状況に関する情報 提供を行った。また、CREのアウトブレイクを受けて

新たに厚生労働省から発出された 「医療機関におけ る院内感染対策について」(医政地発1219第1号)に ついての解説を行った。 

  厚生労働省第12回院内感染対策中央会議(平成27 年2月1日)に参考人として出席し、吹田市院内感染 対策連絡会議の活動の紹介を行った。これからの院 内感染対策は、感染防止対策加算取得の有無にかか わらず地域全体を包括するネットワークづくりが必 要なことを述べ、そのためにも保健所の参加するネ ットワークの構築が必要であると結論した。また、

地域包括的ネットワークには、医療機関のみならず、

施設も含めた対策が必要であることも述べた(資料 9)。中央会議の議論は提言としてまとめられ、通知 がなされるが、保健所をハブとした、地域の医療機 関と施設まで包括した新たな地域ネットワークのあ り方が提示されるものと期待される。 

また、高槻市内医療機関における多剤耐性緑膿菌 アウトブレイク事例の改善支援のコンサルテーショ ンを高槻市保健所から受け、大阪大学は外部委員と して支援を行った。大阪府立公衆衛生研究所も耐性 菌の検査、現地調査、対策会議等において貢献を果 たした(文献 2)。 

 

施設訪問等による調査研究 

  平成 26 年度も 3 カ所の施設訪問(平常時の感染症 対策調査型 1 件と講習型 2 件)を実施した。また感 染症対策のマニュアルの提示を受け、問題点などを 指摘した。 

 

ネットワーク運営形態に関する検討 

  茨木保健所管轄管内でのネットワーク事業につい ては下記の会議が開催された。

・感染防止対策ネットワーク会議  (1/)  平成 27130()

ICT合同会議 (2/)

1回  平成2678()    2回  平成2612 17()

・有床診療所・老人福祉施設・老人保健施設部会(2/年)

1回  平成26年8月18日(火) 2回  平成2612 2()

  我々は、各々の会議に参加して、行政主導による

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介護福祉施設の感染制御ネットワーク構築と運営の 問題点を吹田モデルと比較検討した。茨城保健所の 事業ではすべての福祉施設を対象にしているが、行 政主導のため参加率は高かった。各種施設で問題と なる感染症の種類や対策が多岐にわたるため、会議 で各種施設を満足させる内容を選定するのは容易で はない。主題決定が行政主導であるために、吹田モ デルの参加施設が発現する積極性に比べると受動的 な姿勢が見え隠れする。事業活動を通して各施設が 受益する会議作りには施設の選定と提供する話題を 工夫する必要であると思われた。継続性については 保健所の実務担当者が交代しても会議の招集と開催 は可能と予想されたが、担当者の交代はしばしば十 分な連絡が行き届かないために事業推進を混乱させ る要因になるため、踏み込んだ対策が必要と思われ た。

  これに対して、吹田モデルでは施設の均一性があ り、事業の主体が施設の代表者にある形態をとるの で、行政への負担は軽い上、連絡体制が密であるた めに継続的な事業展開とニーズにあった議題選定が 可能である。参加施設数は事業参加による受益性が 認識されると次第に増加すると思われる。実際、吹 田モデルでは事業開始2年目にこれまで参加に消極 的だった施設からの参加があった。事業者主導と行 政主導ではそれぞれ特徴があることが明確となった (2)

多剤耐性菌の地域拡大に関する解析 

  長期療養型老人福祉介護施設と医療機関の間では 患者の受け渡しに際して耐性菌も伝搬する可能性が 以前から指摘されている。この効果的な対策にはエ ビデンスの蓄積が必須である。本研究事業において も感染制御の観点から多剤耐性菌に対する対策を策 定するため、実態調査は必須と考えられた。そこで、

対象施設の選定と調査にかかる具他的な障壁を明ら かにして、調査が実施できる土台作りに取り組んだ。

  選定施設は問題意識を持つ病院併設型施設で、対 象とする耐性菌を選定した。保菌状況を検査するた めには、陽性と判明した際の対策をあらかじめ明ら かにして、従業員と入所者に理解を深めておく必要 があるだけでなく、入居者家族への説明と同意も欠 かせない。以上の要件を明らかにした上で、現在IRB

に倫理審査を請求している。

  一方、耐性菌がどのように地域で伝搬していくか を調査するためには分子遺伝学的解析が欠かせない。

地域の耐性菌を参照するためには菌株を継続的に採 取する必要がある。この長期的視点にたって、吹田 お よ び 茨 木 地 区 で 検 出 さ れ た 多 剤 耐 性 菌

MDRP,MDRA,CRE)の収集保存を大阪府立公衆衛

生研究所で実施する体制を整えた。これまでに茨木 地区の病院で検出されたCREの菌株(肺炎患者の喀 痰由来)4 検体の保存および解析を大阪府立公衆衛 生研究所細菌課で実施した。

 

他の地域への活動支援 

  大阪府立公衆衛生研究所のホームページに本事業 活動記事(資料 10、11)を掲載した。このように吹田 管内における活動を積極的に情報発信することによ り、活動のノウハウ提供や施設内感染制御に関する 助言または講演を茨城地区および豊能地区から依頼 され、吹田地区以外においても感染制御に貢献する ことができた。

 

事業活動に対する評価 

  事業者における評価(吹田地区):第 7 回研究会開 催後、書面によるアンケート調査を実施した。送付 した 20 施設のうち 10 施設 11 人から回答を得た。 

アンケート結果については、研究会を開催してきた ことは施設職員の意識向上につながり、また他施設 の実情に関して情報共有できたことは有益であった ことが述べられている。また、印象に残った演目は ノロウイルス対策に関連ものが多く、結核やワクチ ンはあまり印象に残らなかったとの回答であった (1)。今後最も連携して情報共有すべき機関に保健 所があげられ、保健所のもつ感染症制御の役割はよ く理解されているようであった(2)

  行政的評価:吹田保健所では、研究会事業は継続 されるべきであるという見解を示している。茨木保 健所では、病院および福祉施設のネットワーク構築 に関して地方公共団体が関与して事業化していくべ きとの意見も出ている。

 

D. 考察 

 

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事業開始にかかる関係施設との事前調整 

今回の研究では事業の対象として吹田市内の長期 療養型特別養護老人ホームを選定した。本研究のア プローチが有用である事が確証づけられた場合、

我々は事業モデルを別の行政区や当該施設以外の施 設に適応拡大する事を提唱する。特に地域密着型介 護老人福祉施設入居者生活介護、介護療養型医療施 設、介護老人保健施設に必要である。この場合、事 前調整とネットワーク構築と運営のノウハウは非常 に貴重と考える。政策への提言とは別に、感染症制 御のための福祉施設間ネットワーク形成と維持に関 するマニュアル整備が望まれる。 

 

事業活動の問題点とこれからの課題 

本研究ではネットワークを通じた情報収集が鍵と なるため、感染制御ネットワーク活動による恩恵を 施設がより実感できるように配慮する必要がある。

これには、専門家による平時の現地調査、有事の現 地指導、感染症に対する知識の向上をバランスよく 実施することが肝要である。今回は厚生労働省の研 究事業として感染制御ネットワークを立ち上げたた め、運営には公衆衛生研究所が積極的に関与した。

しかし、活動を積み重ねる事により、ネットワーク に参加する施設における感染制御スキルを除々に向 上させ、施設のリーダーシップによる自律的な取り 組みが達成できると期待される。自律的な事業推進 のために公的機関が関与するかについては議論の余 地がある。茨木における保健所主導の対策会議では 参加率が高い傾向にあったが、対象施設が多階層に わたり受益感や参加への積極性に関して改善の余地 があると思われる。吹田地区における施設間感染制 御ネットワークの取り組みにおいては、行政の関与 が希薄で、施設のリーダーシップが強い。枠組みや 取り組み内容は地域によって事情が異なる可能性が あるため、それを最大限に利用しながら永続的な対 策ができるような体制作りにすることが重要と思わ れた。他の地域への活動支援を通じて、適応拡大に 関する課題の抽出と対策を講じる重要性について学 ぶことができた。 

福祉施設においては施設長による施設間会議、各 職階のスタッフによる施設間会議等があり、感染症 対策に関する施設内委員会も存在する。これまでも

会議等では感染症に関する情報交換は行われてきて いる。しかし、感染症制御の専門家を交えて、これ を中心的な話題とする施設間会議はなかった。従っ て、施設への負担を考えると、感染制御ネットワー クを構築した際に現有の施設間会議や教育機会を差 別化する必要もある。 

ネットワークを通じた感染対策支援が介護福祉の 質の改善にもたらす影響について科学的知見を収集 できる基盤が整備できたと考える。ただし、耐性菌 の流行実態やネットワーク活動による経済効果につ いては科学的知見を今後も収集し続ける必要がある。

厚生労働省における医療・福祉事業に貢献を果たす までには今一歩の積み重ねが必要であろう。 

 

保健所(行政)の視点から 

保健所と施設における感染制御との接点は、これ までアウトブレイク発生後の報告及び監督・指導以 外は希薄であった。今回研究会構成において平時の 感染症対策から施設と保健所が情報交換できる状況 が整備された。感染制御にノウハウを持った保健所 の関与は施設にとって大変心強い(図 2)。逆に、保 健所側にとっても本ネットワークへの貢献がアウト ブレイクの予防に直結し、事後調査の負担を軽減で きるという点でも意義がある。公的権力を有する行 政機関がネットワークを 主導 することについて は事業への参加率が高くなる反面、施設側が抵抗感 を持つことが危惧される。さらに、保健所は現有業 務の負担が大きい。将来的に福祉施設における感染 制御ネットワークを他の地域に適応拡大する際に、

地域の保健所に主導的役割での福祉施設ネットワー クの運営を求めるのは無理があるかもしれない。こ の点からネットワーク活動においては施設側が自律 的にネットワークを運営することがより好ましいと 考える。つまり、ボトムアップ型のネットワーク運 営である。オブザーバー的な立場で関与を求めるほ うが保健所からの有用な情報還元が期待できる。し かし、これは保健所が事業の理念に否定的であると いうのではない。現有業務に加えて、施設まで拡大 した感染制御対策を組織できるだけの人的余裕がな いことにつきる。行政に人的補助を要求するよりも、

事業者が進んで対策に乗り出すほうがタイムリーで 仮想的な対策が可能と思われる。ただし、感染制御

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を助言できる専門家をリクルートすることについて は行政機関に協力を求めるのが効率的であろう。 

院内感染対策会議は医師、看護師、薬剤師、検査 技師が出席するが、本研究会議には必ずしも医療の 専門職が出席するとは限らない。また一時的滞在と なる病院とは異なり、施設は利用者にとって生活の 場そのものであるという決定的な相違もある。 

実際各施設から出される意見をみると、一様に感 染症に対する関心は高いが、施設毎で現行の感染症 対策に係るシステムには差異がある現状が見受けら れ、各施設感染症対策責任者の持つ権限の相違、異 動の多い介護職員に対する均一な感染症対策教育の 徹底と実践の難しさ等、老人介護福祉施設ならでは の課題も認識された。 

今後は厚生労働省の事業という枠からはなれて、

地域の施設と行政が一体となったネットワーク事業 として自立が求められる。感染症に対する講演の他、

施設間の情報交換を行うことによりさらなる課題を 抽出し、より良いネットワークにするため、より一 層の団結とリーダーの育成が必要である。また、こ れまでに参加のない施設についても施設長会やホー ムページ等を通し引続き情報提供を続け 1 施設でも 多くの参加を得ること、また現在参加されている施 設についてもより深い理解をいただき、施設が自ら 会議を運営し、(吹田)保健所は施設側と緊密な連携 を取りながらこれをサポートする体制が確立される ことが期待される。 

 

 院内感染対策連絡会議の視点から 

医療機関の感染対策ネットワークは、地域の保健 所をハブとすることによって地域全体の医療機関の 参加を促し、かつ保健所が従来の監査型の役割から 問題解決型の行政機関の機能を付加することを支援 することも目的としている。これは新型インフルエ ンザ等特別措置法に基づく政府、大阪府行動計画に も合致する方向性であり、新型インフルエンザ等対 策も踏まえて、ネットワークの推進を行っている全 国的にもユニークで先進的な組織である。本研究を さらに本格的に実施していくうえで院内感染対策と の連携は今以上に不可欠である。吹田保健所管内院 内感染対策連絡会議からみた施設内感染対策につい て今後実施していくための視点を、医療関連感染に

おける薬剤耐性菌の状況と対策という観点から下記 にまとめた。 

WHO が 2011 年の国際保健デーで、また CDC が 2013 年に薬剤耐性菌の脅威というキャンペーンを行い、

薬剤耐性菌の拡大に警鐘を鳴らしている。わが国の 現状も、近年なっても複数の医療施設で多剤耐性菌 のアウトブレイクが報道されるなど、危機的な状態 であるとの認識が必要である。一方で、このような 薬剤耐性菌がどこから由来するのか、明確な分析は なされていない。医療機関における抗菌薬の不適正 な使用や不十分な院内感染対策などが大きな原因で あると言われているが、動物飼料中の抗菌物質もよ り大きな役割を担っているという指摘もある。さら には、いくつかの院内感染のアウトブレイクの原因 として、医療機関と行き来のある介護施設内での拡 散も、病院の院内感染のリソースとして注目されて いる。そのため、介護施設と病院との間の薬剤耐性 菌の往来を監視することも地域における院内感染対 策の重要な柱になる。 

施設と病院の連携を促進するためにはいくつかの 障害が存在する。最も大きなものは、縦割り行政の 壁である。施設は市町村役所が管轄し、病院は保健 所が管轄しているため、対応の強制力や報告の義務 が異なる。病院に求められている行政的な報告の義 務が、施設には適応されない。このため、情報の共 通性、連続性がないことが効率的な感染対策の阻害 因子になっている。もう一つの切実な問題は、施設 においては、感染対策にかかる費用の原資が、多く の場合、施設側の持ち出しになっていることである。

医療においては、感染防止対策加算などの医療保険 上の費用の確保が進められている。さらに、感染対 策に関する知識やそれを習得するための教育の機会 などが介護施設には不足している。 

以上のことから、①病院及び高齢者施設間に共通 の問題認識を醸成し、②高齢者施設の耐性菌の現状 を調査し、③教育の機会を設けることによって、医 療機関および施設両方の感染防止対策が効率的な耐 性菌制御をもたらすことを証明し、その結果として 施設に対する公的な感染対策が経済的にも医療費を 削減し、かつ国民の健康に貢献することについて、 

科学的な裏付けを提供するため、研究事業の持続的 運営方法を検討していかなければならない。 

(8)

事業の発展的な拡大に向けて 

  吹田地区で行われた研究会では、疥癬の講演会等 好評なものが多かったが、参加施設を持続して確保 していく点が難しかった。また、当初、職種を替え て異なるスタッフの参加を期待していたが同じ施設 からは同一人物が参加することが多かった。従って、

ネットワーク会議では施設の代表に対して情報提供 し、スタッフへの情報提供は戸別訪問により達成す るなどの工夫が必要と思われた。 

  施設個別訪問を展開する中で、多くの施設職員と 直接接する機会が増えれば、より啓発・啓蒙が進み やすいと感じられた。施設における全体のレベルの 向上には、施設訪問は有効であると思われるが、人 的資源が限られる中、その実効性を持続するには、

施設間相互訪問を断続的に企画して、その成果を共 有するなどの対策が必要であろう。 

平成 26 年度は吹田地区に加えて、保健所主導で行 われている茨木地区のネットワーク構築事業にオブ ザーバー参加した。茨木地区では ICT 合同会議、施 設部会、感染防止対策ネットワーク会議が行われ、

スムーズに運営されている印象をもった。しかし、

行政主導と事業者主導の運営形態で会議の内容やコ ミットメントに温度差があることがわかった。北摂 地区への相談においては事業者が主導する運営形態 を支持したが、専門家や講師の派遣については研究 班の持つ人的ネットワークが支援する必要があると 思われた。いずれの地区においても、参加施設の自 主的な運営が継続して行われていくかが課題である。 

  多剤耐性菌の地域における伝播状況を、長期療養 型老人福祉施設を中心としてとらえ直す試みは極め て重要と思われる。これをより意義深いものにする ためには地域の医療機関における多剤耐性菌との比 較が必要となる。我々が組織したネットワークは福 祉介護と医療施設を橋渡ししているため、この相互 比較が可能になる。先駆的な収集案は、地域保有状 況や院内感染が発生した場合の感染源の推定に非常 に役立つシステムであるとも考えられ、医療施設に 対してもメリットがある。菌株の保存の意義は、今 後持続的に継続していくことによって明らかにされ ると思われる。 

 

E.  結論 

 

医療・介護福祉施設を含む地域密着型の感染制御 ネットワークを構築するために、モデルとなる地域 と施設を選択し、ネットワークシステムを試験的に 運用した。現状の把握と効率的な支援活動のあり方 を模索し、ネットワークの有用性に関し一定の成果 をあげ、感染対策支援が介護福祉の質の改善にもた らす影響について科学的知見を収集できる基盤が整 備できたと考える。ネットワークを構築することに よって地域住民に安心・安全を提供できる福祉への 貢献が期待される。 

  参考文献 

1.  加瀬哲男他、医療・介護福祉施設を含む地域密 着型の感染制御ネットワークの構築に関する研究  平成 25 年度厚生労働科学研究費補助金(健康安全・

危機管理対策総合研究事業)平成 25 年度総括分担研 究報告書  (平成 26 年 3 月) 

2.  金山敦宏他、高槻市保健所管内 X 病院における 多剤耐性緑膿菌分離症例の集積について (IASR Vol. 

35 p. 227‑228: 2014 年 9 月号)   

F. 健康危機情報 

 

特になし   

G. 研究発表   

口頭発表 

1.加瀬哲男  医療・介護福祉施設を含む地域密着型 の感染制御ネットワークの構築  第 198 回公衛研セ ミナー  大阪府(2014 年 9 月) 

 

その他の発表  

1.【研究の窓から】「『医療・介護福祉施設を含む地 域密着型の感染制御ネットワークの構築に関する研 究 』 を 平 成 25 年 度 か ら 始 め ま し た 。」。 

http://www.iph.pref.osaka.jp/merumaga/back/125

‑2.html 大阪府立公衆衛生研究所(ホームページ)  2. 公衛研ニュース  第 54 号平成 26 年 11 月 14 日  医療・介護福祉施設を含む地域密着型の感染制御ネ ットワークの構築に向けて 

(9)

http://www.iph.pref.osaka.jp/news/vol54/news54

̲2.html 大阪府立公衆衛生研究所(ホームページ)   

H.知的財産権の出願・登録状況 

 

 

 

   

なし                                                                       

(10)

                                                                     

(11)
(12)
(13)
(14)

      表 2  ネットワーク運営形態の特徴 

実施主体  保健所  施設 

全体会議開催  2回  4回 

施設カテゴリー  全種類  特定の種別 

会議内容  行政から伝達  要望に対応 

施設への個別対応  △  ○ 

保健所負担  大  小 

発言の積極性  △  ○ 

支援  病院 ICT  衛生研究所 

オブザーバー  自治体  保健所・自治体 

(15)

      図

研究会で印象に残った演目  

      図

感染制御ネットワークを構築する上で最も情報共有したい機関  

 

参照

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