博士学位論文
保育におけるソーシャルワーク研究
鹿児島国際大学大学院
福祉社会学研究科 社会福祉学専攻
笠 野 恵 子
2017年9月
i 目次
凡例(ⅳ) 図表一覧(ⅳ~ⅴ)
序 章
1 問題の所在および研究目的 ... 1
2 研究クエスチョン... 4
3 研究方法・倫理的配慮 ... 5
4 本論文の構成 ... 6
第1章 保育ソーシャルワークに関する研究動向と方向性 ... 8
1 先行研究の動向 ... 8
2 保育とソーシャルワーク ... 9
3 保育ソーシャルワークの展開 ... 12
4 保育ソーシャルワークの方向性 ... 13
第2章 子育て支援の理論化の必要性とソーシャルワーク ... 16
1 多様化する子育て支援の理論化 ... 16
1)子育て支援の視点と子育て観 ... 16
2)子育て支援の動向―地域子育て支援拠点事業 ... 18
3)男女共同参画の視点からの子育て支援 ... 22
(1)多様化と高まるニーズ ... 22
(2)誰のための子育て支援論か―脱ミウチ論― ... 23
(3)子育ての「社会化論」 ... 24
2 ソーシャルワークの専門性とスクールソーシャルワーク ... 24
1)ソーシャルワークの専門性と価値 ... 24
ii
2)スクールソーシャルワーク事業 ... 27
3 家庭支援と子育て支援の課題 ... 28
第3章 乳幼児保育と保育ソーシャルワーク ... 30
1 乳幼児保育 ... 30
1)保育観 ... 30
2)保育の質 ... 31
3)保育士と家族支援―ケアワークとソーシャルワーク― ... 32
2 ソーシャルワーク機能 ... 34
1)ソーシャルワーク機能の必要性 ... 34
2)保育所保育指針にみるソーシャルワーク機能 ... 35
3)「保育」におけるソーシャルワーク機能 ... 37
3 保育ソーシャルワーク機能とはなにか ... 42
1)相談援助機能と連携・協働の必要性 ... 42
2)組織的対応と保護者支援 ... 44
3)保育ソーシャルワークの課題 ... 44
第4章 子ども分野のソーシャルワークの認識―調査の目的と方法、基本的属性― ... 46
1 調査の目的 ... 46
2 調査方法と分析方法 ... 46
3 倫理的配慮 ... 47
4 結果 ... 48
1)基本的属性 ... 48
2)子ども分野のソーシャルワークの関心度 ... 49
iii
3)子ども分野のソーシャルワークと社会福祉専門職 ... 51
4)子ども分野のソーシャルワークにおけるリーダーの必要性 ... 53
5)現在、取得しているソーシャルワーク関係の資格の活用法 ... 54
6)子ども分野のソーシャルワークについての意見や希望 ... 57
5 子ども分野ソーシャルワークの可能性における分析と考察... 60
第5章 子ども分野における保育ソーシャルワークの位置づけ ... 65
1 乳幼児ソーシャルワークとスクールソーシャルワークの関連 ... 65
2 保育ソーシャルワークに関する認識 ... 73
3 子ども分野における保育ソーシャルワークの位置づけのアンケートの分析と考察 . 76 第6章 子どもに関するソーシャルワーク研修のあり方 ... 81
1 社会福祉専門職としての研修のあり方 ... 81
2 子どもに関するソーシャルワーク研修のあり方 ... 82
3 子どもに関するソーシャルワーク研修のあり方のアンケートの分析と考察 ... 86
終 章―研究クエスチョンの検証・総合考察・研究の意義と課題― ... 90
1 研究クエスチョンの検証 ... 90
2 総合考察 ... 92
3 研究の意義と課題... 93
謝辞 ... 95
引用文献 ... 96
参考文献 ... 103
資料 ... 1ページ~4ページ
iv
凡 例
本論文における資料の引用は以下によるものとし、脚注を同頁下に主要参考文献を 巻末に示した。
1. 本論文においては、和書・洋書を問わず、本文の中で(著編者名:出版年:頁)
の順で示した。
2. 雑誌掲載文献についても、和書・洋書を問わず、 (著編者名:出版年:頁)の 順で示した。
3. インターネットの参考に関しては、URL、当該情報のタイトル、アクセス年月 日を示した。
4. 引用文献中の省略は……で示した。
図表一覧
表
1-1 ... 9表
1-2 ... 11表
3-1 ... 38表
3-2 ... 40図
4-1 ... 48図
4-2 ... 49図
4-3 ... 49図
4-4 ... 50図
4-4-1 ... 50表
4-1 ... 51図
4-5 ... 52表
4-2 ... 52v
図
4-6 ... 53図
4-6-1 ... 54表
4-3 ... 55表
4-4 ... 56表
4-5 ... 57表
5-1 ... 65表
5-2 ... 67図
5-1 ... 69図
5-2 ... 70表
5-3 ... 70表
5-4 ... 72図
5-3 ... 73表
5-5 ... 74表
5-6 ... 76図
6-1 ... 81図
6-2 ... 82図
6-3 ... 83表
6-1 ... 83図
6-4 ... 891
序章
1 問題の所在及び研究目的
わが国では急速に少子高齢化が進み、社会基盤の脆弱化が懸念される一方で、世界経済 のグローバル化、IT による情報のボーダレス化というこれまでに経験のしたことのない 事態につぎつぎと迫られ、国民の安心安全な生活がもはや行政だけに頼っていては手に入 れられない時代になった。このような背景から、個人のライフスタイルや価値観の多様化 といった子どもと家庭を取り巻く環境が著しく変化し、子育てに対する無理解や孤立化に よる過保護や過干渉、育児不安や子ども虐待といった子どもと保護者に起因する問題が指 摘されている。こうした点は、2008年3月に改定された厚生労働省の「保育所保育指針」
においても踏襲され、保育の中心的役割を担う保育所保育士に対して、保護者への子育て 相談援助、家庭や地域社会との密接な連携、虐待予防、権利擁護機能1も含めた児童福祉施 設における社会福祉専門職としての役割の強化が明示された。ここに保育所の社会的責任 と保護者支援が盛り込まれ、保育所のソーシャルワーク機能の強化が示され、それをテー マにした保育者研修も開催されるようになった。だが、全国保育士会によるソーシャルワ ークの理論によるリカレント教育として「保育スーパーバイザー」養成研究会2も開催され ているものの、2日間の日程での一部の時間でソーシャルワークについては、十分な時間 が確保されているとは言えないところもある。
2008年以来、9年ぶりに大きく改定された厚生労働省の「保育所保育指針」(2017年3 月31日改定、以下、「新指針」という。)において、「改定の方向性」として、①乳児・1 歳以上3歳未満児の保育に関する記載の充実、②保育所保育における幼児教育の積極的な 位置づけ、③子どもの育ちをめぐる環境の変化を踏まえた健康及び安全の記載の見直し、
④保護者・家庭及び地域と連携した子育て支援の必要性、⑤職員の資質・専門性の向上と いった内容が示された。適用は2018年4月1日からであるが、この改定の議論は「社会 保障審議会児童部会保育専門委員会」で行われ、その特徴は、「小学校との円滑な接続」の ために「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」が最上位の目標として掲げられ、それを 達成するために保育計画を策定し、評価し、改善しなければならないとなったことである。
1 福田(2001:36)は、「児童福祉サービスは、本来子どもの権利を擁護するものである。つまり、児 童福祉法は、それ自体が、子どもの権利擁護システムそのものの一角を担うものである」と述べている。
2 「全国保育士会ホームページ」によれば、子どもの安全性確保、発達保障など様々なニーズに応えるた
めの支援実現のため、主任保育士・主幹保育教諭など一定の受講要件をクリアした人が対象となってい る(http//:www.z-hoikushikai.com/about/donnna/kensyuu.html 2017.2.20)。
2
厚生労働省の通知によるとこの「新指針」は保育現場の関係者への周知を図るとともに、
同時に子育て中の保護者にも理解されることが必要であること、職員の資質を向上させる ための研修が「施設長の責務」において行われることなどが明記されている。資質向上は 重要な課題だが、今、保育現場では、劣悪な最低基準や慢性的な人手不足などにより長時 間過密労働が常態化している。そのような中で、研修を単に施設長の責務に帰すだけでは 問題の解決にはならない。今回の改定では、背景に虐待児などの増加もあり、子どもの育 ちを家庭とともに連携し支援していくということから、さらに前回よりきめ細やかで内容 を深めたものとなっている。さらに、保育所のソーシャルワーク機能の充実を求めた形と なっている。尚、「新指針」総則の中でも保育所における保育は、従来から言われている「養 護及び教育を一体的に行うことをその特性とするものとし、保育所における保育全体を通 じて、養護に関するねらい及び内容を踏まえた保育が展開されなければならない」として いる。
しかし、家族支援や子育て支援など、保育士の役割が増大しているとはいえ、ソーシャ ルワークの定義をそのまま従来の保育に当てはめることはできない。保育所には入所児童 とその親に加え、既述のようなソーシャルワーク機能を有することの必要性が求められて いる。実践においては、これまでの保育の専門性を基盤とし、ソーシャルワークの視点や アプローチの方法論を活用することが有効であると考えられていた。しかしながら、近年 では保育所のみでソーシャルワークを行うことについての疑問や限界についても議論され ており、保育ソーシャルワークの在り方についてはまだ十分な議論や見解に至ってないこ とも明らかになった(山本 2013:49)。こうした背景を踏まえ、本研究では福祉的な視点で 改めて現代社会における保育所の役割をとらえ直し、より保育の専門性を高めるためにソ ーシャルワーク機能がどのように活用できるのかを「保育ソーシャルワーク」の確立に向 けて考察することを研究の目的とする。
周知のように、現代社会においては共働き世帯が増加し、かつて子育てや老人介護など の家族や地域で担ってきた生活の部分が外部化され、伝統的な相互扶助関係も希薄化して きている。一昔前まで、ケア機能は私的な生活のなかで営まれていたが、今日ではそれが 独立し、新たに社会的公的ケア領域へとしてシフトはじめている。高齢者や障碍者、低所 得者などの分野ではソーシャルワークは充実してきているが、子ども分野のソーシャルワ ークは、障碍児や学童に対するものを除いて前進がみられない。また、保護者への支援に おいては、幼稚園や保育所に入所する子どもの家庭の在り方は変容し、保育現場等では、
3
さまざまな保護者に対する支援が必要とされている。保育者は様々なクレーム対応に迫ら れている。それ以上に、複雑な事情を抱える家庭や人間関係の希薄化が進む中で保護者へ の支援に苦慮し、保育者の心理的負担にもつながっている(笠野2016)。このような現状 をふまえつつ、保育における質や子どもと保護者を第一義的に考えた保育ソーシャルワー クのあり方、特に子育て支援と子ども分野におけるソーシャルワークの機能と役割を検討 する。
保育士は、働く施設により「施設保育士」、「保育所保育士」と大きく2つに分けられて いるが、本論文では、幼稚園教諭、保育教諭3も入れた保育所保育士の立場4で論述し、こ れらを含めた用語として保育者ということにする。また、「保育ソーシャルワーク」に関し ては、多くの文献があり、ほとんどが保育所を中心としているが、ここでは幼稚園、認定 こども園5におけるソーシャルワークも「保育ソーシャルワーク」の範囲としたい。理由と しては、2014 年には「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」(以下、「教育・保育要 領」と略)が内閣府・文部科学省・厚生労働省から告示され、教育課程と教育・保育の内 容について定められたため、今後この「教育・保育要領」に基づいた実践の一層の充実が 求められ、「幼保連携」という方向に向かっていくと考えられるからである。
繰り返すことになるが、本研究が意図している保育ソーシャルワークについては、対人 援助の対象を幼稚園や保育園に在園する子どものみならず、広く保護者も含めることとし、
その内容は福祉的な視点からウェルビーイングの増進を目標とする活動、換言すれば多職 間協働による質の高い保育を目指す取り組みと定義づけることとする。その観点から、保 育を巡る問題や課題の把握は、人間と環境・社会との関係性に求めることになる。その意 味からすれば、本論における保育ソーシャルワーカーとは、社会福祉士や精神保健福祉士 の有資格者に限定するものではないが、ソーシャルワークについての深い洞察力があり、
ソーシャルワークの視点と技術を用い、地域との連携・協働を進め、子育て環境の改善を
3 新たな「幼保連携型認定こども園」は、学校教育と保育を一体的に提供する施設であるため、その職員 である「保育教諭」については、「幼稚園教諭免許状」と「保育士資格」の両方の免許・資格を有してい ることを原則としている。しかし、段階的に経過措置として当面は、どちらか一方の資格でよいとされ ている。新たな認定こども園制度施行(平成27年4月以降)から5年後までの特例である。
4大森ら(2015)の保育士のキャリアパスで考案された保育所保育士の専門性と施設保育士の養護の専門 性には,構造化の差異が存在することが示唆されている。
5 認定こども園には、幼稚園および保育所等の施設・設備が一体的に設置、運営されているタイプの「幼 保連携型」、認可された幼稚園が保育所的な機能を備えたタイプの「幼稚園型」、認可された保育所が幼 稚園的な機能(幼児教育)を備えたタイプの「保育所型」、都道府県の認定基準により認定されたタイプ
「地方裁量型」の四タイプがある。本論文では、四タイプすべての認定こども園を対象としている。
4
図る保育に係る専門職者と捉えることがてきよう。尚、本稿では、「子供」表記を「子ども」
6と統一して記す。
2 研究クエスチョン
保育ニーズの多様化・複雑化により、保育士には家庭や保護者の問題と向き合い、支援 していく知識と技術が求められている。厚生労働省による『保育所保育指針解説書』には、
「保育士が行う子育てに関する相談や助言など、子育て支援のため、保育士や他の専門性 を有する職員が相応にソーシャルワーク機能を果たすことも必要であり、その機能は現状 では主として保育士が担う」と明記されている。つまり、保育の領域においてもソーシャ ルワークの視点と技術が求められていることを意味している。しかし、実際の保育現場は 保育士が担う保育実践にソーシャルワーク機能を付与することの必要性が強調されながら も明確な援助技術としての確立がなされておらず、より困難さを増す対応に適切な解決方 法が見出せずに苦慮しているのが現状である。社会状況と人びとの生活の変化に対応し、
ソーシャルワークがより高度で専門的なものに深化することが求められているにもかかわ らず、社会福祉に関係した各種の資格制度の出現によって社会福祉の教育は混迷を深め、
また、規制緩和によって社会福祉施策は多様化し、福祉の産業化も進展している。このよ うな現実から、実践場面でのソーシャルワークの機能と役割に期待が寄せられているが、
とりわけ、子どもの分野・保育分野において子どもへの支援とともに保護者支援でのソー シャルワークの有効役割が期待されている。そこで、保育ソーシャルワークの機能と役割 を研究する本稿では、主として次の研究クエスチョンを設定した。
わが国ではソーシャルワーカーの仕事への理解が乏しいため、その有効性と有用性の社 会的な承認を得る必要がある。各専門領域でのソーシャルワークの議論に留まらず、ソー シャルワークの立場、考え方、広義の幅広い専門性を社会に示していく必要性があるが、
本研究では第一に既存研究では保育ソーシャルワークをどのように定義されたか、を明ら かにしたい。これが第一の研究クエスチョンである。
児童養護施設等や学校にソーシャルワーカーを配置する動きがあるように、子育て支援 の中心的な役割を担う保育所をはじめ幼稚園等にもその配置は必要ではないか。実際に、
6 「供」という字が「お供え物」「お供する」などを連想させ、差別的な印象を与えるという等が理由で あるが、実際は、「子供」という表記方法もある。保育関連の文書では、ほとんど「子ども」が主流であ り柔らかいイメージがあるので統一した。
5
保育所にソーシャルワーカーが配置され、様々な問題に取り組むことによって、新たな役 割が広がり、その有効性・有用性の理解が進むものと考えられる。しかし、子育て支援の 現場では、ソーシャルワークに関する認識に相違がある。そこで、子ども領域におけるソ ーシャルワークはどのように位置づけられているのかが、第二の研究クエスチョンである。
ニーズの多様化がみられ、保育だけでは対応できない困難事例、たとえば、家族支援や 地域子育て支援など、保育士の役割が増大する中、保育ソーシャルワークは、多職種連携 だけではなく多職種協働により、さらにソーシャルワーク機能が高められ、結果として子 どもの最善の利益確保と保護者へのサービスの質の向上につながることが考えられる。こ の点で、専門職種でもある社会福祉士は保育ソーシャルワークについて、どのような認識 を有しているのか。これが第三の研究クエスチョンである。
3 研究方法・倫理的配慮
本研究は、保育現場におけるソーシャルワークについて整理し、子どもの最善の利益と 保護者への支援を考えた保育現場をとりまくソーシャルワークの現状の中でソーシャルワ ークの専門家と位置付けられている社会福祉士の業務に着目し、実証的に検討しようとす るものである。研究方法は、文献研究を基としながら、保育の水準・内容及び保育ソーシ ャルワーカーの担い手の可能性を把握するために全国社会福祉士会会員へのアンケート調 査を実施した7。文献の取り扱いなどについては、倫理的配慮を行うとともに、調査に当た っては、「鹿児島国際大学教育研究倫理審査委員会」の承認のもとに行っている。
インタビューなどの質的調査に関しては、調査目的や方法、結果の公開などについて施 設管理者に説明し、プライバシ-に配慮し名前などが特定されないよう十分に留意した。
結果の分析などから得られたデータは、本研究の目的以外には使用しないことし、同意を 得て協力を依頼した。全国社会福祉士会会員への調査は、事前に電話等で調査目的や内容 などを説明しあらかじめ各都道府県の支部長または事務局長の同意を得たうえで、それを 協力依頼文書に添付し行った。また、調査票に同封した調査依頼文書に、調査の目的、調 査で得たデータの取り扱いは厳重することとし、勤務先や個人名が特定されないように十 分配慮することとした。いずれの調査も、無記名回答とし、カギのかかる保管庫厳密に保
7 笠野(2017)は、社会福祉士会会員調査とは別に、実践現場や家族の現状を把握し、どのような課題があ るのかを明らかするために、保育所や幼稚園、認定こども園の管理者に対するインタビューを行い、また 離島の保育所の聞き取り調査も実施した。
6
管し、個人情報の保護の観点の意味からも厳重な取扱に注意した。
4 本論文の構成
本論文は8章構成である。序章では問題の所在、研究クエスチョン、研究方法・倫理的 配慮、論文の構成を明示した。第1章では2000 年以降の保育ソーシャルワークに関する 研究動向と方向性を概観した。そこでは、先行研究の動向、保育とソーシャルワーク、保 育ソーシャルワークの展開、保育ソーシャルワークの方向性を先達の知見に学び整理した。
第2章では子育ての理論化の必要性とソーシャルワークと題し、多様化する子育て支援と 理論化、ソーシャルワークの専門性とスクールソーシャルワーク、家族支援と子育て支援 の課題について、第3章では乳幼児保育と保育ソーシャルワークとして、乳幼児保育の意 義、ソーシャルワーク機能、保育ソーシャルワークとは何か、等について述べた。第4章 では子ども分野のソーシャルワークの認識、第5章では子ども分野における保育ソーシャ ルワークの位置づけ、第6章では子ども分野に関するソーシャルワークの研修のあり方と 題し、社会福祉士会会員調査結果の考察を三分割して述べるこことした。そした最後に終 章として、研究クエスチョンの検証、総合考察、研究の意義と課題についてまとめた。
なお、本研究のベースになった論考を発表順に列挙すると次のようになる。
①「社会的ひきこもりにおける家族支援への一考察」
(『九州社会福祉学』 (4), 2008年3月)
②「大学における高等学校福祉科教員養成のありかたに関する一考察-今後の介護福祉 士国家試験受験資格のある高等学校福祉科教員養成への検討を含めて- 」
(『九州社会福祉学』 (6), 2010年3月)
③「子育ての外部化における保育の質の一考察」
(『九州社会福祉学年報』(5),2014年3月)
④「子育ての外部化と家族機能についての一考察-施設経営者のインタビュー調査から-」
(『九州社会福祉学年報』(6), 2014年10月)
⑤「保育の質とケア論‐メイヤロフとノディングスのケア論を手がかりにして‐」
(『九州社会福祉学年報』(7), 2015年10月)
⑥「子育ての外部機関の現状と幼児の教育課程の意義に関する一考察 」
(『中九州短期大学論叢』38(1), 2015年10月)
7
⑦「保育学への姿勢 :保育方法論ならびに保育課程論に見る学生のアンケートシート分析 結果」(『中九州短期大学論叢 』38(1), 2015年10月)
⑧「幼児期の生活‐保育と教育」
(『少子高齢社会の家族・生活・福祉』時潮社 2016年3月)
⑨「保育の外部化に関する一考察」
(『九州社会福祉学』(12), 2016年3月)
⑩ 保育の質を高めるためのこどもソーシャルワークに関する一考察」
(『鹿児島国際大学大学院学術論集』(8),2016年11月)
⑪「幼児教育の歴史から見た保育指導法に関する一考察」
(『中九州短期大学論叢』 39(1-2), 2017年3月)
⑫「幼稚園における戸外遊びに関する一考察:鬼ごっこ遊びを題材に」
(『中九州短期大学論叢』 39(1-2), 2017年3月)
⑬「第7章 鹿児島県内の保育現場の管理者からみた家族の現状」
(『福祉を拓く‐自律性と関係性の形成‐』南方新社2017年3月)
⑭「ソーシャルワークと子育て支援」
(『九州社会福祉学年報』(8), 2017年3月)
上記の論考は本研究をまとめる段階でいずれも加筆修正されている。因みに上記①②③
④⑤⑨⑩⑭については「査読付論文」である。
8
第1章 保育ソーシャルワークに関する研究動向と方向性
1 先行研究の動向
近年、保育実践においてソーシャルワークの必要性と関心が高まり、2000年頃からそう した研究がみられるようになった。保育ソーシャルワークの定義や内容に統一した見解は ないものの、保育とソーシャルワークをテーマにした研究は、2000年頃より発表されるよ うになり、学際的領域として保育ソーシャルワークへの研究が高まっている(伊藤2011)。 ここでは保育ソーシャルワークをさしあたり、「保育に関するソーシャルワーク」、「保育を 対象とするソーシャルワーク」とし、これに関する先行研究を国立情報学研究所の学術情 報ナビゲータCiNii を用いてデータベース検索を行った結果、2016年3月時点で114件 がヒットした。この数字が多いか少ないかは議論の分かれるところではあるが、いずれに せよ、保育所は「ソーシャルワーク」の実践を担うことが期待されていると考えることが できる。
実践に関する先行研究では、子どもと家族の「生活の全体性」への視点の必要性やそれ に伴うアセスメントの実施(今堀2002、土田2006)、保育ソーシャルワークの実践モデル を提示(鶴2006:65)した報告などがある。土田(2010:16)は、保育にソーシャルワ ークが必要とされてきた理由として、保育所が①子どもとの関わり、②保護者との関わり、
③地域との関係の側面において、社会福祉の視点、個別支援の実施が必要になってきてい ることをあげている。子どもや保護者の抱える生活上のストレスや不安は時に行動化し、
保育所において個別対応を要する必要性が増している。その背景には「気になる」子ども、
すなわち保育実践において困難さを伴う子どもや保護者の存在があり、特別な配慮を要す るケースも報告されている。その結果保育においては、地域の社会資源の活用とネットワ ーク形成を行うことがますます求められることになる。
このように保育所における支援は、保護者やその家庭、そして地域へと支援対象を拡大 させており、保育所の持ち得る専門性のみでは対応が困難な場合もあり、地域の関係機関 の専門性の活用やネットワークの構築が必要となる。しかし、その一方で「連携の困難さ」
が、保育士から示されており(石田・前迫・智原2004)、外部機関との連携の在り方を探 ることは保育ソーシャルワークの実践において重要である。保育所が他の外部機関と「連 携」するきっかけは、配慮を必要とする子どもの存在に気付いた時や保育をするうえで困 った時など、専門的な助言を必要とする場合である。また、保育士のみで判断がつかない 問題等について、外部機関を利用せず保育所内だけで解決を図るといった現状も報告され
9
ており、保育所から外部機関に円滑につながらないケースがあることが明らかになった。
最近では、鶴ら(2016)の保育ソーシャルワークに関する研究のレビューを通して、保 育所における保護者支援の課題を明らかにするための研究がある。保育ソーシャルワーク に関する35 本の文献を通して分析した結果によれば、保育ソーシャルワークの主な機能 として相談援助機能と連携機能がある点と組織的対応の重要性が指摘されていた。しかし、
子育て以外の生活課題への言及はあったが、鶴らはそこでは具体的内容は不明であると述 べている。これらは文献が 35 本のみであるため、この結果が一般化できるかは疑問であ る。
そのため、再度、CiNii からキーワードを「保育 ソーシャルワーク」として検索を試 みた結果、研究機関等が発行した紀要や論文、書評を中心に2017年1月7日時点で119 件が該当した。それに関する発行年をみると、1998~1999年は0件だったが、1999~2000 年に2件となりその後、増え続けてはいるが、大きく増えてはいない。論文(書評を含む)
は、2005年には13件になり、2016年までは、以下のようになり、2000 年から2016年 までの発表は合計119本となっている(表1-1)。
表 1-1 保育&ソーシャルワーク」に関する論文発表年(件)
1998年 1999年 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年
0 0 2 4 4 1 5
2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年
13 6 8 11 5 9 8
2012年 2013年 20014年 2015年 2016年
12 11 6 10 4
2 保育とソーシャルワーク
近年の「家族や地域の変化」、それに伴う親や地域の「養育力低下」等により、地域の子 育て支援拠点として、保育所が従来から発揮してきた専門性を軸に、子育て支援にソーシ ャルワーク視点をもった支援を期待されていると考えることができる。ここでいう保育所 における「従来の専門性」とは、たとえば「保育に欠けている子どもに対して親や家族が 行うべき保育を代替・補完するもの」(松本2007:69)としての役割、また「①保護者の 就労支援、②子どもに対する養護、③教育を通して保育技術を地域社会・住民へ提供する
10
といった機能」(土田2011:21)等と説明される。保育所における支援の対象については、
これまでの保育は乳幼児がその主な対象であったが、現在では保護者やその家庭、さらに 地域へと支援対象が拡大したと見なされている。
2003年にまとめられた「次世代育成支援施策に向けて」の報告書においては、子育て家 庭の状況が多様化していることを踏まえ、個々の子どもや子育て家庭のニーズに即したき め細かな施策を実施することが提言された。そして、サービスの量的拡大を図る一方で、
専門性を高めていくことが必要であるとして、その観点から保育所は地域の子育てを支援 する存在として地域に開かれた施設であることを求めている。さらに、地域の子育て支援 の拠点として、広く子育て家庭の相談に応じるとともに虐待等に至る前の予防対応を行う など、保育所のソーシャルワーク機能を発揮していくことが必要であるとした。また2008 年には保育所保育指針改定が行われ、保育所の社会的責任の明示と保護者支援が新たに盛 り込まれている。この改定により、保育所の役割及び機能が適切に発揮されるよう、子ど もの保育や保護者支援にあたる保育士の業務内容を明確化し、保育所内の職員間の連携や 地域との連携ついても明示され、保育所内だけでなく外部への保育実践の拡大が示された
(松本2007:68-69)。
しかし、既述したように、ソーシャルワークの定義をそのまま従来の保育にあてはめる ことには違和感がある。この点について、若宮(2012:120)は「保育所の専門機能であ る教育的視点にたった発達支援・ケアワークに加えてソーシャルワーク機能が必要である という点は認めつつも誰がどのように担うのか、どの援助をシャルワークと指すのかなど については統一した見解はない」と述べている。ソーシャルワーク論の保育への単なる適 用ではなく、保育の原理や固有性を踏まえた独自の理論、実践を構築する必要があるが、
それは新たな支援の仕組みの必要性から従来の保育の専門性に上乗せするという認識だけ でなく、社会福祉専門職としての保育士実践を「保育ソーシャルワーク」として構築する うえで、これまでの実践を捉えなおし、丁寧にそれらを意味づけていく作業が必要となる。
いずれにしても、保育所に子どもと子育て家庭に対し、ケースワーク、グループワーク、
コミュニティワーク、ネットワークといったソーシャルワークにかかる技術が必要とされ ている( 山本2013:51)。
井上は、先行研究より「保育士が行うソーシャルワーク活動」としての保育ソーシャル ワークにおいて、何がソーシャルワークとしてとらえられているのかを明らかにするため に「CiNii」より保育ソーシャルワーク関連の主要な論文を吟味し(井上2010:128)、16
11 件に絞り表にまとめている(井上2010:130)。
表 1-2 「保育士が行うソーシャルワーク」における「ソーシャルワーク」
論文 直接援助技術 間接援助技術
発表年 論題及び執筆者 ※()内執筆者 ケ ー ス
ワーク グループワーク コミュニティ ワ ー ク
ソーシャル ワ ー ク ・ リ サ ー チ
ソーシャル・
アドミニスト レーショ ン
ソーシャル・
プラニング
ソーシャル・
アクショ ン
1 2000 「保育所機能の多様化とソーシャルワー
ク(山本真美) ○ ○ ●
2 2002
「保育ソーシャルワーク研究―保育士の 専門性をめぐる保育内容と援助技術の問 題から-」(今堀美樹)
○ ●
3 2004 「保育所におけるソーシャルワーク援
助」(石田慎二他) ○ ○
4 2005 「保育士による家族に対するソーシャル
ワークに関する研究」(赤瀬川修) ○ ○ ●
5 2006 「保育所におけるソーシャルワーク機能
の検討」(福田公教他) ○ ○
6 2006 「エコロジカル・パースペクティブによ
る保育実践」(土田美世子) ○ ○ ● 7 2007
「保育所の子育て支援に対する意識とソ ーシャルワーク機能に関する考察」(石田 慎二)
○ ○
8 2007
「保育士に求められるソーシャルワーク とその教育の課題-地域子育て支援をめ ぐる動向から-」(松本しのぶ)
○ ○ ○
9 2007
「トランスセオレティカモデルを活用し た保育ソーシャルワーク研修の試み」(新 川康弘)
○
10 2007 「保育ソーシャルワーク展望」(伊藤利恵
他) ○ ○
11 2007 「保育所保育士による家族支援-27 例
のケース検討会から-」(千葉千恵美他) ○ ○ ○ 12 2007
「保育ソーシャルワークを再考する-統 合保育の実践から学ぶもの-」(松岡俊 彦)
○ ○
13 2008
「保育所におけるソーシャルワーク機能 についての研究-テキストマイニングに よる家族支援についての分析-」(伊藤利 恵他)
○ ○ ○ ○
14 2008 「保育における子育て支援の課題-求め
られる新しい理念と技術」(宮里慶子) ○ ○ ○ 15 2008
「子育てをめぐる状況・施策の変遷から みた保育士に期待される役割と養成につ いての一考察」(五十嵐裕子)
○ ○ ○
16 2008 「地域に求められる保育士によるソーシ
ャルワーク」(武田英樹) ○
井上(2010:130)一部修正
注)コミュニティワークのうち「○印」は現状適応を志向するもの、「●印」は現状変革を志向するものを表している。
この表からは、保育士はケースワーク業務には携わることが可能であり、さらにグルー プワーク、コミュニティワークの可能性はあるが、それ以外のソーシャルワークリサーチ
12
などの間接援助技術は活動内に含まれない傾向がみられる。
3 保育ソーシャルワークの展開
保育にソーシャルワーク機能が必要だとすれば、この機能を保育所において「保育ソー シャルワーク」をいかに展開させていくべきかが課題となる。2008年の保育所保育指針改 定によると、「保育所における保護者への支援は、保育士等の業務であり、その専門性を生 かした子育て支援の役割は、特に重要なものである」とされ、「保護者支援」の重要性が指 摘されている。
先行研究から明らかなように、子どもあるいは保護者をアセスメントし、そこから支援 課題を読み取るという一連のプロセスはソーシャルワークに必須のものである。今堀
(2002)によれば、アセスメントには子どもと家族の「生活の全体性」を理解する必要が あること、また、保育所と地域に存在する施設や機関等の社会資源と共に子育てを協働で 担うための働きかけの必要性を説いている。この今堀の見解は、ソーシャルワークがこれ までの保育実践と無関係ではなく、保育の専門性を基盤に子どもや保護者、地域との連携 のあり方をソーシャルワーク視点から再考する立場にあると理解できる。関連して鶴
(2006)も、保育方法ないしは保育内容とソーシャルワークが分離した状態で議論がなさ れていることを指摘し、保育所保育にソーシャルワークを読み込むモデルとして、解決志 向型の家族ソーシャルワークおよび行動ソーシャルワークを統合した実践モデルを提示し ている。ソーシャルワークのモデルとアプローチは支援の手掛かりとして多様な事例で用 いられており、それを保育実践に導入するというものである。また土田(2006)は、保育 実践におけるエコロジカル・パースペクティブの有効性を述べている。子どもは家庭、保 育所をはじめ様々な生活環境を有しており、それぞれの複雑かつ多面性な関係性、生活の 連続性などをふまえ子どもをとらえる視点が必要とされる。すなわち従来の保育において 強調されがちであった、目の前の子どもにのみ焦点化されず、子どもや家族を取り巻くと いう環境という視点からとらえ、実践する枠組みの提供である。さらに土田はエコロジカ ル・パースペクティブに基づく保育実践事例を分析し、ケアワークやソーシャルワーク等 の機能を分化している。具体的には、子どもへの支援、親支援は「保育技術」、専門職との 連携、コミュ二ティへの介入は「ソーシャルワーク」の機能というような位置づけである(山
本2013:53)。
以上のことから、保育ソーシャルワークを実践していく上で、一つのポイントとして理
13
解できることは、子どもや保護者の生活全体をエコロジカルな視点で捉え理解するための スキルを保育者が修得することの必要性である。それは普段の保育における丁寧な観察や コミュニケーション等を通したアセスメントの方法であるといえる。中村(2007)は構想の 段階ではあるが、保育所保育士のアセスメントスキルトレーニングのため、子どもと家庭 を包括的かつ統合的に理解するためのアセスメントツールを提示している。また上述した 土田(2006)や鶴(2006)の論文も、それらへの具体的なフレームを与えるものである。これ からは保育ソーシャルワークの必要性が論じられるだけではなく、現場実践で活用ないし 応用できる手段の検討、開発が必要であると考えられる。関連して、保育ソーシャルワー クに関連する文献において指摘される課題として「連携」がある。地域のフォーマル、イ ンフォーマルな社会資源との連携は、保育所が地域子育て支援を担う上で重要になる。「保 健所・保健センター」「福祉事務所(家庭児童相談所)」「児童相談所」「医療機関」「他の保 育所」「小学校」などのフォーマルな社会資源との連携の必要性には誰も異存がないと思わ れるが、連携の困難さもある。先行研究の多くが保育所と地域社会資源との連携性の必要 性をとりあげているが、その具体的な連携のあり方を示したものはあまり見当たらない。
2008 年の児童福祉改正では多くの保育所が実施する地域子育て支援センター事業とつ どいの広場事業が統合される等、地域で子育て支援を担う場も拡大してきている(山懸 2010)が、保育所と地域社会資源との連携のあり方を具体的に示すこと、「つながる仕組 み」の創出が必要になってきている。
4 保育ソーシャルワークの方向性
保育所の子育て支援施設として位置づけ、また、関連機関とのネットワークをどのよう に形成しているかについては、これまでの先行研究から明確にすることはできなかった。
後者については、地域福祉の視点やコミュニティワーカーとして保育所が地域の社会資源 の連携・協働、または資源の開発などを担う中心的な存在になり得るかどうかといった、
保育ソーシャルワークの方向性にかかわる問題であると考える。先行研究からは、これか らの保育は入所児だけではなく、保護者に対する支援、地域の子どもや保護者に対する支 援を視野に入れ、保育指導、子育てに関する相談、情報提供、必要に応じて関係機関・関 係者との連携等といったソーシャルワーク機能を有する必要性が求められてきた経緯が確 認できる。しかし、これら保育ソーシャルワークをどのように活用し、展開していくかと いうことについては、未だ十分な議論や見解に至っているとは言えないようである。先行
14
研究では、保育ソーシャルワークの充実に向け、保育所ないしは保育士が意識を高め、さ らに知識や技術を向上させることを課題としてあげている研究がある(たとえば、今堀
2002、石田 2004、松本 2007)。一方で、特に地域の子育て家族を対象とした支援に際し
ては、保育所がソーシャルワークを担うことについて、その限界や疑問を呈する見解も見 られる。
山縣(2010)は保育所および保育士が地域子育て支援を実践する際の課題について、子 育て支援の施策の推進において多様な地域の社会資源が子育て支援を担うようになったこ と、その中で保育所の強みが実践で求められるものとのずれが生じてきていること等を述 べている。ここでは、保育士の業務は子どもの育ちへの支援が中心であるという、本来の 保育所機能を強調する立場で論じられている。そのうえで、相談援助技術や地域福祉視点 といったソーシャルワークは保育所のみで担うことは困難であり、むしろ保育士が中心的 職種として実践する必要はないと結論付けている。
また、土田(2011)は基本的にケア専門職である保育所ワーカーに、地域全体を視野に 入れた支援を期待する妥当性について問題提起する。土田は保育所でできる地域子育て支 援機能は、「基本的に保育所がもつ専門技術(ケアワークを含む保育技術、乳幼児に関する 知識等)」の提供であるとし、保育所のみで解決が不可能な場合は、ネットワークを利用し て支援にあたるとする。この見解は、地域福祉の展開がこれまでにない保育技術として付 加されたとしながら、現実には従来の保育の専門性で外部へ向けてきた支援が行われてき たこと、また、その支援は親子遊びや保育指導等「従来の保育の専門性」を通して、利用 者に一定の効果をもたらしていることから説明できる(新川2010)。加えて土田は、保育 所におけるソーシャルワークは日々の保育におけるケアワークを基盤としたうえで、子ど もと保護者の関係性、保護者、地域社会に働きかけるものとし、児童相談所などがもつソ ーシャルワーク機能とは境界があることを示唆する。これら保育所でのソーシャルワーク 実践への課題や疑問に関する先行研究からは、現行の保育所において発揮でき得るソーシ ャルワークを明確にし、かつ地域の他の社会資源といかに子育て支援のネットワークを形 成することができるかという方向へ視点が向けられていると考えられる。
一方、保育ソーシャルワークの方向性を考える上で、保育実践のあり方と並行し、これ からの保育を支える人材の教育について検討する必要性もある。保育士の養成課程のおけ る教育のあり方を提言した研究としては、家庭や地域をターゲットとした支援に要する知 識技術を習得するため、教育課程における具体的教科について教授法を探求したものがあ
15
る。現代の子育てニーズに対応すべく、養成段階において実践の基礎的力量を形成するこ とは、保育所におけるソーシャルワーク機能にも効果をもたらすと考えられる。しかし、
現状の保育士養成8課程在学生は、2年課程在学生が半数以上在籍し、保育の専門的技術・
知識を中心としたケアワークに加え、ソーシャルワークを教授することは大きな課題とな っており、「4年課程での養成を視野に入れた見直しの必要性」なども提示されている(松
本2007:74)。
このように保育ソーシャルワークの方向性については、これまでの先行研究によれば、
従来の保育の専門性を基盤としつつ、子ども、保護者、地域へ向けた支援を行い、保育所 のみでは解決が困難なケースについては、ネットワークを通して地域の社会資源との連携 を通じて支援にあたるという見解が見られた。ここでは、保育所が子育て支援拠点として、
中心的な役割を担うというよりは、子どもと家庭に関する専門性を備えた機関などと協働 して関わっていくといった支援のあり方を想定することができる。また、ソーシャルワー ク機能を外部化する等、新たなシステムを構築する可能性を摸索することも一つの方向で あろう。その一方で、「保育所を利用する子どもと家庭の多様なニーズに対応するため、保 育者の研修やリカレント教育を通し、知識や技術等の研鑽をサポートする体制の設備も必 要とされ、養成課程のおけるソーシャルワーク教育の整備充実と両輪となって、保育実践 の質的向上を図ることが求められる」(山本 2013:55)。社会情勢が変化する中、ニーズ も多様化し、多元的なサービスを望む声も増えてきている。それらをうけて、子どもを含 めた家庭の支援に向けての保育ソーシャルワークの役割については、関連する資料や文献 を紐解きながら検証していきたい。
8「子ども・子育て支援法」が平成27年4月1日に施行されたことに伴い、指定保育士養成施設の指定 等について権限移譲に向けて、その移譲日を政令で定めるとともに、当該権限の移譲を円滑に進めると いう趣旨の下、平成28年3月31日に申請・届出 審査が地方厚生局から都道府県に権限移譲された。
指定保育士養成施設一覧によると653校が保育士養成校として指定を受けている(平成28年4月1日現 在)。なお、全国保育士養成協議会会員名簿によると、平成28年12月19日現在、大学214、短期大学
215、専門学校92、施設1、高校専攻科1の合計523校が加盟し、4年制大学における保育士養成が増加
してきている(http//:www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000.../0000138290.pdf 2017.1.31)。
16
第2章 子育て支援の理論化の必要性とソーシャルワーク
1 多様化する子育て支援の理論化 1)子育て支援の視点と子育て観
子育て支援は、極めて多様な意味あいで使われている言葉である。この点、下夷(2000) は「経済的費用」、「ケアサービス」、「時間」という子育てに必要な三つの資源に注目して、
子育て支援が具体的にどのような方法でなされるかを整理している。すなわち、子育て支 援とは、家族が子育てを行うための経済的費用、ケアサービス、時間を公的に支援・保障 することであり、日本における主たる政策としては、児童手当、保育政策、育児休業制度 がそれぞれに対応するものとして挙げている(下夷 2000)。たとえば、経済的費用について は、2000 年に児童手当の支給対象者が拡大されており、時間については、 1992 年に育児 休業法が施行され、その後も育児休業給付の引き上げや休業可能期間の延長が行われるな ど、このいずれについても、1990 年代以降、概ね拡充の方向をとり続けてきた。
周知のように、1994 年に政府による子育て支援の総合計画としていわゆる「エンゼル プラン」が策定された。このエンゼルプランの正式名称は、「今後の子育て支援のための施 策の基本方向について」であるが、これが国の政策において明確に「子育て支援」という 言葉が使われた最初のものである(汐見 2008)。エンゼルプランでは、「安心して出産育児 ができる環境整備」「家庭における子育てを支援する社会システムの構築」「子育て支援に おける子どもの利益の最大限の尊重」の 3 点が基本的視点として掲げられている。また、
同年には特に保育に関する具体的計画として、「緊急保育対策 5 か年事業」が策定され、
低年齢児保育、延長保育、一時保育などのサービスの大幅な拡充が、具体的な数値目標と ともに打ち出された。
1999 年に「重点的に推進すべき少子化対策の具体的実施計画」(新エンゼルプラン)、
2004 年には「少子化対策大綱に基づく具体的実施計画」(子ども・子育て応援プラン)が策 定され、こうした過程において、保育サービスの拡充による共働き家庭の母親の育児と仕 事の両立支援のみならず、男性も含めた働きかたの見直しによる仕事と家庭生活の調和(ワ ーク・ライフ・バランス)の実現などにも、より重点が置かれ始めた(内閣府 2009)。これ らの施策の総合化の傾向は、その後の少子化対策、子育て支援施策にも見てとることがで きる。そして、これらの計画・方針が実行された結果、認可保育所の定員や入所児童数は 増加してきた。たとえば、2002 年度から推進された「待機児童ゼロ作戦」などの結果とし て、その後の 3 年間で、保育所などでの受け入れ児童数は 15 万 6000 人の拡大を達成し
17
ている(内閣府 2009)。また、特に 0 歳児保育、延長保育、休日保育、夜間保育、病後児保 育などを提供している保育所は、ここ 10 年間で大幅に増加しており、保護者の多様なニー ズに応えるための保育サービスの多様化が進行している(増田 2007)
このように、1990 年代から 2000 年代を通じて、持続的に社会問題化され続けた少子化 への対応策として、子育てを社会的に支援することの必要性に焦点が当てられ、実際に各 種の支援サービスは、1990 年代から 2000 年代を通じて、持続的に社会問題化され続けた 少子化への対応策として、子育てを社会的に支援することの必要性に焦点が当てられ、実 際に各種の支援サービスの供給が開始されていった。もちろん、現実に供給されている支 援サービスの量および質が充分なものとなっているかどうかについては、議論の必要があ るだろう。(松木 2011:13-14)。
ここで必要なのは「少子化」対策でなく、「子育ての社会化」対策をどうするかを考え る視点である。つまり、子どもを増やすことが第一の目的ではなく、子育ての枠組みを「母 のみ・ ・子育て」に偏った構造から、「性別やミウチのみにとらわれない」構造へとパラダイム 転換することが求められる。原らがこのパラダイムハ転換を「次世代育成力の再構築」と 名付けた(原・舘 1991)9。しかし、その後も「少子化対策としての子育て支援」の施策が 相次いで出され続け、新エンゼルプラン (1999)、新々エンゼルプラン(2004)がそれである。
それにもかかわらず、少子化傾向にはどめはかからなかった。 それは、これらの施策が、
母親自体が子どもを育てるということを前提とする「母親に対する子育て支援」だったた めではないか。「子ども(次世代)を育てるのは誰なのか」という大きなビジョンを問い直す ことをせずに、 子育て支援は母親を支援するということと同義とされ、母親が担うべき子 育てを保育者ないしは子育て経験のある女性たちが支援するという構造自体は、この間に 何も変わっていなかったのである。
このような流れのなかで、「少子化社会対策基本法」と「次世代育成支援対策推進法」
(2003:以下「次世代法」と表記)が制定される。次世代法の目的には「次代を担う子どもと 家庭を支援するための国、地方公共団体、事業主及び国民の責務と、行動計画策定といっ た事項を定める」とある。つまり子育て責任は社会にあることを明記したのである。そし
9 原ひろ子は、次の世代を産み育てる能力として「次世代育成力」という用語を提案している。特に後 者は、男女共にという視点を超え、家族を超えた人と人との絆のなかでの子産み子育てという次世代への 文化の継承を含めた広大な地平を予測している。また、舘かおるは、少々異なった角度から男女の基本的 人権として「産育権」を唱える(木脇2012)。
18
て「仕事と家庭の両立支援と働き方の見直し」として、男性の子育て参加や企業の取り組 みなどを定めている。「母親の問題」として矮小化されてきた子育てが、社会的な問題とし て取り上げられた。ここに育児政策の転換がみられるが、しかしながら、子育てをめぐる 社会的な構造がドラスティックに変化してきたとはいえない。父親たちの子育て意識は高 まっているものの、子育てに関わる時間は諸外国と比較しても著しく低いことが牧野らの 6 カ国比較調査(2010)10 からも明らかにされている。
以上のように、現在の子育て支援政策は十分な理論構築がなされていない中で実施され てきた。まず、社会構造の枠組みの中で次世代育成を誰がどう負担するのかを考える必要 がある。そのためには場当たり的な施策を打ち出すことではなく、男女ともに働き方及び 役割を見直し、母親に依存してきた子育てを根幹から見直すことが必要となり、2012 年の
「社会保障制度改革国民会議の報告書―確かな社会保障を将来世代に伝えるための道筋」
によって、子ども・子育て支援法の制度的理念が確立された新制度は介護保険モデルを適 用しているが、子ども・子育て支援新制度は子どもを社会全体で育てることを主張してい る。これにより、「子ども・子育て支援は社会保障制度の変革であると同時に、子育て観を 大きく変えることとなった」(中田 2015:242-245)。
2)子育て支援の動向―地域子育て支援拠点事業
現在、保育所などの子育ての外部機関に当たっては、国レベルにあっては、2012 年 8 月に制定公布された「子ども・子育て関連3法」(正式名称は、「子ども・子育て支援法」、
「就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律の一部を改正 する法律」、「子ども・子育て支援法及び就学前の子どもの教育、保育等の総合的な提供の 推進に関する法律の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」の 3つの法律)に基づき、既存の教育・保育制度の再編成を根幹とする子ども・子育ての総 合的な支援体制の構築に向けて様々な施策が検討され、その一部については、すでに前倒 し実施されつつある。そのなかで、重要な基本的な考え方及び具体的な施策の1つとして、
「地域における子ども・子育て支援の充実(地域子育て支援拠点など)」が挙げられる。
10 日本、韓国、タイ、アメリカ、スウェーデン、フランスの 6 ヵ国について、(1)社会変動に伴う育児 の変容の分析、(2)家族文化の比較分析(3)ジェンダー秩序に着目した育児の比較分析を行っている(牧野 カツ子他(2010)『国際比較にみる世界の世界の家族と子育て』ミネルヴァ書房)。
19
地域子育て支援拠点事業は、子どもや子育てをめぐる環境が大きく変化する中で、家庭 や地域における子育て機能の低下や子育て中の親の孤独感や不安感の増大等に対応するた め、地域において子育て親子の交流等を促進する子育て支援拠点の設置を推進することに より、地域の子育て支援機能の充実を図り、子育ての不安感等を緩和し、子どもの健やか な育ちを支援することを目的としている。実施主体は、市町村(特別区及び一部事務組合を 含む。以下同じ。)である。
厚生労働省の「地域子育て支援拠点事業実施要項」によれば、この事業の内容としては、
乳幼児及びその保護者が相互の交流を行う場所を開設し、子育てについての相談、情報の 提供、助言その他の援助を行う事業で、事業方法としては、①基本事業、②一般型、③連 携型がある。このうち①の基本事業には、ア、子育て親子の交流の場の提供と交流の促進、
イ、子育て等に関する相談、援助の実施、ウ、地域の子育て関連情報の提供、エ、子育て 及び子育て支援に関する講習等の実施(月 1 回以上)等がある。②の一般型は、常設の地 域子育て支援拠点(以下「拠点施設」という。)を開設し、子育て家庭の親とその子ども
(主として概ね3歳未満の児童及び保護者)(以下「子育て親子」という。)を対象とし て①に定める基本事業を実施する。実施場所は、(ア)公共施設、空き店舗、公民館、保育 所等の児童福祉施設、小児科医院等の医療施設などの子育て親子が集う場として適した場 所、(イ)複数の場所で実施するものではなく、拠点となる場所を定めて実施すること、(ウ)
概ね 10組の子育て親子が一度に利用しても差し支えない程度の広さを確保することとな っており、 実施方法は、(ア)原則として週3日以上、かつ 1 日5時間以上開設すること、
(イ)子育て親子の支援に関して意欲のある者であって、子育ての知識と経験を有する専 任の者を2名以上配置すること(非常勤職員でも可)、ウ)授乳コーナー、流し台、ベビ ーベッド、遊具その他乳幼児を連れて利用しても差し支えないような設備を有すること、
となっており、 地域の子育て拠点として地域の子育て支援活動の展開を図るための取組み としては、市町村以外の者が(1)に定める基本事業に加えて、子育て支援活動の展開を図 ることを目的として、次の(ア)~(エ)に掲げる取組のいずれかを実施するとともに、
多様な子育て支援活動を通じて、関係機関や子育て支援活動を行っているグループ等とネ ットワーク化を図り、連携しながら、地域の子育て家庭に対し、よりきめ細かな支援を実 施する場合について、拠点施設の業務を円滑に実施するため、当事業の別途加算の対象と するとなっている。(ア)~(エ)の運営を市町村以外の者への委託等によって行ってい る場合も当該加算の対象とする。すなわち、(ア)拠点施設の開設場所(近接施設を含む。)
20
を活用した一時預かり事業(法第6条の3第7項に定める事業)またはこれに準じた事業 の実施、(イ)拠点施設の開設場所(近接施設を含む。)を活用した放課後児童健全育成 事業(法第6条の3第2項に定める事業)またはこれに準じた事業の実施、(ウ)拠点施 設を拠点とした乳児家庭全戸訪問事業(法第6条の3第4項に定める事業)または養育支 援訪問事業(法第6条の3第5項に定める事業)の実施、(エ)その他、拠点施設を拠点 とした市町村独自の子育て支援事業(未就学児をもつ家庭への訪問活動等)の実施である。
地域の実情や利用者のニーズにより、親子が集う場を常設することが困難な地域にあっ ては、(ア)開設日数は、同一の出張ひろばにおいて週 1~2日、かつ 1 日5時間以上とす る、(イ)一般型の職員が、必ず 1 名以上、出張ひろばの職員を兼務する、(ウ)実施場 所は、年間を通して同じ場所で実施する、等の方法により、公共施設等を活用した出張ひ ろばを実施することができるものとし、この場合について別途加算の対象とするとしてい る。ただし、地域の実情に応じて、開設後に変更することも差し支えないが、その場合に は、子育て親子のニーズや利便性に十分配慮することとなっている。また、地域全体で、
子どもの育ち・親の育ちを支援するため、地域の実情に応じ、地域に開かれた運営を行い、
関係機関や子育て支援活動を実施する団体等と連携の構築を図るための事業を実施する。
③の連携型は、効率的かつ効果的に地域の子育て支援のニーズに対応できるよう児童福祉 施設・児童福祉事業を実施する施設(以下「連携施設」という。)において、①に掲げる 基本事業を実施する。連携型の実施場所は、(ア)児童館・児童センターにおける既設の 遊戯室、相談室等であって子育て親子が交流し、集う場として適した場所、(イ)概ね 1 0組の子育て親子が一度に利用しても差し支えない程度の広さを確保することが必要で、
実施方法は(ア)原則として週3日以上、かつ 1 日3時間以上開設すること、(イ)子育 て親子の支援に関して意欲のある者であって、子育ての知識と経験を有する専任の者を 1 名以上配置すること(非常勤職員でも可。)が必要で、連携施設に勤務している職員等の バックアップを受けることができる体制を整えること、(ウ)授乳コーナー、流し台、ベ ビーベッド、遊具その他乳幼児を連れて利用しても支障が生じないような設備を有するこ とが求められている。
事業の実施状況をみると11、平成 27 年度は前年度よりも 280 か所増の 6,818 か所となっ ている。これを運営主体別にみると、社会福祉法人が 2,608 か所で最も多く、市町村直営 が 2,445 か所、NPO 法人が 681 か所となっている。親子が予約もなく自由につどうことが
11 厚生労働省「子ども・子育て支援平成27年度実施状況」。