保育者・教員養成におけるピアノ授業科目での試み : ピアノ伴奏に対する感性の高まりに着目して
著者 森村 祐子, 菊田 知子
雑誌名 東京家政大学研究紀要 1 人文社会科学
巻 56
ページ 31‑39
発行年 2016‑03
出版者 東京家政大学
URL http://id.nii.ac.jp/1653/00009358/
1.はじめに
子どもの豊かな発達に関わる保育者や幼児・児童の教育 者には,豊かな発想や感性が求められる.音楽領域におい ては,保育・教育現場で多く用いられているピアノは,子 どもにとっても身近で,豊かな音楽提供のツールとして果 たす役割も大きい.実際に多くの保育現場ではピアノを保 育に使用している実態があり,保育者にはピアノ演奏や弾 き歌いの技能が求められる.平成 22 年に保育士養成課程 等が改正され,教科目が「基礎技能」から「保育表現技術」
に名称変更された.「子どもの表現を広くとらえながら,
子どもの活動や遊びを促していくために」と改正の内容が 述べられていることから
1),音楽領域においては単なるピ アノ技術の習得だけではなく,子どもの表現活動の支えと なるような保育と関連付けた技術習得がより求められるよ うになった.保育者には子どもの表現したいことを受け止 め広げられるピアノ表現や弾き歌いなど,子どもの心に寄 り添った表現技術が求められると言える.そのため保育者 を目指す学生は,子どもたちの表現がより豊かなものにな るよう,様々な音楽表現技術を習得することが求められる.
さらにそういった子どもたちの様々な思いを汲み取り,心 で感じ取る「感性」を日頃から磨いておく努力が必要であ ると考えられる.
『幼児音楽教育ハンドブック』では,「感性」とは外界の 刺激を心に感じ取る能力であると説明している
2).何らか の外界からの刺激に対し,まだ感性が乏しいと,感情はた だの快・不快といった「表出」にすぎないが,感性が豊か に育まれていけば,感情は喜怒哀楽といった「表現」とい
う形で表れていくという.その説明を筆者らが図式化した ものが図1である.
ただし,このハンドブックでは,乳幼児期の感情の発達 段階を表す指標のひとつとして「感性」を説明に用いてい る.外界からの刺激は音楽で言えば主に「音」であり,本 論では,音や音楽の刺激を心に感じ取る能力として, 「感性」
という語句を用いる.
「音楽に対する感性」とは,小学校学習指導要領解説の 音楽編の言葉を引用すると,「音楽的な刺激に対する反応,
すなわち,音楽的感受性」であり,音楽的感受性とは, 「音 楽を感覚的に受容して得られるリズム感,旋律感,和声感,
強弱感,速度感,音色感など」である
3).音楽に対する感 性を高めるためには,それら音楽的感受性としての音楽を 形づくっている様々な要素を感じ取る体験を多くすること が効果的ではないかと考える.
2.本研究の目的
保育者・教員養成校では弾き歌い等の実技演習科目を展 開しているところが多い.学生の実態はピアノ初心者も多 く,その上,多くの子どもの歌を短い期間で習得しなけれ
保育者・教員養成におけるピアノ授業科目での試み
−ピアノ伴奏に対する感性の高まりに着目して−
森村 祐子
*・菊田 知子
**(平成 28 年1月 14 日査読受理日)
Attempts at Piano Classes in Teacher Training:
Focusing on the growing sensibility to the piano accompaniment M ORIMURA , Yuko K IKUTA , Tomoko
(Accepted for publication 14 January 2016)
キーワード:保育者・教員養成,ピアノ伴奏,感性
Key words:Teacher training,Piano accompaniment,Sensitivity,Sensibility
感情
快・不快 喜怒哀楽 感性
in
out out
豊か
乏しい 刺激
表出 表現
豊かな感性
外界からの
感じる心
図1 感性の図
* 児童教育学科
** 帝京短期大学こども教育学科
ばならないため,じっくりと学生の感性を磨くようなレッ スンをおこなうことが難しいのが実状である.
実際に弾き歌いのピアノ伴奏では,初心者でも習得しや すい必要最低限の限られたコードを使用し,ワンパターン 化しやすく,感覚に訴えかけるような伴奏にはなり難い.
確かに短い習得期間の中で,教員側が学生に対し提供でき ることには限度がある.しかし,その短い習得期間の中で も,少しでも感性が豊かになるような機会を持つ必要があ ると考える.
そこで,本研究では,子どもの歌のピアノ伴奏に対して 学生の感性を高める方法として,コードのアレンジに観点 を置いて,①教員による模範演奏の視聴,②教員との連弾 体験,③コードアレンジの題材曲の聴取の3点から考察す る.
なお,本研究は,日本保育学会第 68 回大会(2015 年5月)
での口頭発表の内容に追加し,発展させたものである.
3.先行研究の調査及び研究方法 3ー1 先行研究
教員による模範演奏の視聴に関しては,小倉ら
4)や深 見ら
5)の研究に,e ラーニングシステムを内容としたもの がいくつか見られる.これらは,初学者の学習の支援や普 段の授業におけるレッスン時間の不足を補うために,学生 の自己学習を支援して子どもの歌の弾き歌いを習得するこ とが目的であり,伴奏のアレンジや感性については言及さ れていない.
また,連弾については,ピアノデュオ作品やその奏法な どについての研究が多く,保育者養成等における弾き歌い レッスンの連弾について研究されたものは少ないが,高木 ら(2008)が養成校における連弾の研究を行っている
6). これについては考察(7−2)で述べる.
全体的に見て,養成校におけるピアノ弾き歌いの研究は 多いが,コードアレンジと感性について研究されたものは 少ない.その中で,紙屋と後藤(2008)による研究
7)が 興味深いので,以下に引用する.
紙屋らは,幼稚園において幼児が子どもの歌を歌う際に,
簡易伴奏で飽きた子どもたちが,アレンジした伴奏を用い ることで,もう一度歌に惹きつける効果があることを実証 している.子どもたちがよく知っている曲として「ぞうさ ん」と「げんこつやまのたぬきさん」を取り上げ,それぞ れ簡易伴奏とアレンジ伴奏を用意した.簡易伴奏では子ど もたちがよく知っている歌を2回も歌うと飽きてくる様子 が見られ,そこで3回目にアレンジした伴奏を用いると,
途端に興味を示し始めた様子が見られたと述べている.伴 奏の違いに気が付いた幼児は全体の半数から三分の二程度 であったようだが,気付くことができるということは,つ まりピアノの伴奏という音楽に対する感性を持っていると
いうことだろう.このことから,子どもたちの感性を育む ためには,保育現場においては単調で飽きてしまうような 伴奏ばかりを弾くのではなく,より音楽的なアレンジを時 には加えることが必要であると言える.そのためには,や はり教員を目指す学生自身が,より音楽的とはどういうこ となのかを感じ,音楽に対する感性を身に付けておく必要 があるだろう.
学生自身が音楽に対する感性を身に付け,より高めるた めに着目したのが,「聴く」ということである.音楽は主 に聴覚を介し,聴くことがベースにある.子どもがアレン ジされた伴奏を聴いて反応したように,今まで聴いたこと のないようなアレンジの伴奏や,わくわくするような伴奏 を聴くことがなによりの近道であると考える.そこで,学 生にとって身近な,教員による模範演奏の聴取やアレンジ 曲の聴取などといった音楽素材の提供,アレンジを直接体 験,実感することのできる連弾という,教員とのかかわり の面からアプローチを試みることにした.
3−2 研究方法
・調査対象及び時期
筆者らの勤務校において,それぞれの担当クラスの学生 を対象とした.
対象: K大学児童教育学科1年生 計 14 名(「音楽科基礎
Ⅱ」授業)T短期大学こども教育学科1年生・2年 生・専攻科 計 25 名(「ピアノ実技Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ」授 業)
調査時期:2014 年9月〜 2015 年1月
・調査方法
各クラスの授業にて,連弾の体験をしたり,アレンジさ れた曲を聴いたり,イメージしたりする活動を行った.そ の後活動についての聴き取りやアンケートを実施し,そこ から読み取れた内容から,感性をキーワードに考察した.
なお,本研究は学生に対するアンケート調査や授業の振 り返り実践を考察したものであり,学生に対して,本研究 に基づく趣旨説明を行った.さらに,本研究に必要な情報 開示,資料提示について,学生の協力の同意を得ている.
また,本論において「素敵」という言葉が以降しばしば 出てくるが,コードのアレンジにおける「素敵」さを,メ ロディに対して変化や工夫のある和音設定,例えば代理 コードを使って伴奏に少し変化をつけるとなんとも妙な響 きが生まれるような,またはわくわくするような,そういっ た感性に響くものを,本論では「素敵」と定義して用いる.
4.授業での模範演奏について 4−1 教員による模範演奏
学生が課題曲に取り組む時,まず教員が,こんな曲だと
模範演奏を示すことが多い.この模範演奏は,学生の意欲
森村 祐子・菊田 知子
喚起に大いに作用すると思われる.さらに教員の表現を身 近に感じられる機会でもある.教員の演奏を聴いて,「わ,
素敵な曲!」「自分も弾いてみたい」と思えば,取り組み もおのずと意欲的になるだろう.動機付けになることを考 えると,教員は素敵に聞こえるようによくよく準備をしな ければならない.しかし,アレンジが懲りすぎてしまった りテンポが速すぎてしまったりすると,学生によっては弾 いてみたいという意欲よりも,「自分には無理だ」という 思いの方が強くなってしまい,あまり良い動機付けとはな らないことを,日々の実践から実感している.この模範演 奏のさじ加減は難しいところである.つまり教員は,一人 ひとりの学生のメンタル面にも配慮しつつ,いかにその曲 の持っている魅力を伝え,学生のモチベーションを上げて いけるかが大切である.初心者におけるレッスンでは,こ れらのことを特に気をつける必要がある.
4−2 授業での使用テキスト
教員による模範演奏のひとつに,学生が学習する弾き歌 いの伴奏や,伴奏パターンを示すことがある.それに伴い,
現在授業で使用しているテキストは難しいか,記載されて いる歌伴奏は素敵か,素敵にアレンジしたら弾いてみたい かなど,学生にアンケートを行った.以下に結果を示す.
なお,T短期大学とK大学においては使用テキストが違う ため,若干質問項目を変えている
8).
質問項目1は,現在使用しているテキストの歌伴奏譜は,
難しいと感じるかというものである.難しいと感じる場合 は5,感じない場合は1として5段階評価で回答しても らった.結果は以下の通りである.(表1)
この質問に対し,両校とも「どちらでもない」を示す「3」
を回答した学生が半数以上を占めた.ほとんどがピアノ初 心者であるため,初心者には難易度はちょうどよいテキス トと言えるのだろう.
次に,現在使用しているテキストの歌伴奏譜は素敵だと 感じるかを回答してもらった.なお,T短期大学使用のテ キストは伴奏譜が載っているものなのでこの質問とし,K 大学は伴奏譜ではなく,伴奏パターンが載っているタイプ のもの(自分で伴奏パターンを参考に作って伴奏を付ける タイプ)なので,質問を「現在使用しているテキストの伴
奏パターンは素敵だと感じるか」というものに変更してい る.素敵だと感じる5〜感じない1とし,結果は以下であっ た.(表2)
この結果から,K大学の方が若干素敵であるという回答 割合が高かったが,両校とも「どちらでもない」という回 答が目立った.
さらに,テキストに載っている歌伴奏を素敵にアレンジ したら弾いてみたいと思うか(思う5〜思わない1)との 質問には,以下のような結果が表れた.(表3)
どちらでもないという結果も目立つが,4,5の評価を 合わせると両校とも半数を超えており,弾いてみたいと意 欲的で関心のある様子が見られた.両校ともに1,2名回 答のあった,あまり弾いてみたいと思わない学生は,「好 きな曲がない」や「そこまでの実力がない」,「やる気がお きない」という理由を挙げている.このような学生にはモ チベーションを上げることから丁寧に向き合う必要がある だろう.例えば伴奏パターンならば,初心者の学生でも弾 けそうな,簡単だけれども曲想に合った,素敵に聴こえる パターンを教員が模範で示すことが重要である.素敵なア レンジを弾いてみたいと意欲的な学生が半数以上いること からも,教員が示す模範演奏は,学生のモチベーションを 左右すると言っても過言ではないだろう.
5.連弾の取り組み
音楽的に素敵だと思える曲は,和声感であったり,テン ポ感であったり,流れるようにひとつのまとまりを持った 曲である.そのような曲を一人で弾けるようになるには,
多くの練習時間と経験が必要である.初心者の学生からし てみたら,道のりは遠く感じるだろう.早く弾けるように 表1 テキストの伴奏の難しさ
T短期大学(平均値 2.72)
評価 5 4 3 2 1
人数 1名 2名 15 名 3名 4名
割合 4% 8% 60% 12% 16%
K大学(平均値 3.14)
評価 5 4 3 2 1
人数 0名 3名 10 名 1名 0名
割合 0% 21.5% 71.5% 7% 0%
表2 テキストの伴奏の素敵さ T短期大学(平均値 3.4)
評価 5 4 3 2 1
人数 4名 6名 12 名 2名 1名
割合 16% 24% 48% 8% 4%
K大学(平均値 3.78)
評価 5 4 3 2 1
人数 3名 5名 6名 0名 0名
割合 21% 36% 43% 0% 0%
表3 素敵伴奏アレンジを弾いてみたいか T短期大学(平均値 3.68)
評価 5 4 3 2 1
人数 7名 6名 10 名 1名 1名
割合 28% 24% 40% 4% 4%
K大学(平均値 3.64)
評価 5 4 3 2 1
人数 2名 6名 5名 1名 0名
割合 14% 43% 36% 7% 0%
なりたいと思っても技術的に追い付いてこないため,初め のうちは,単純な音の羅列をゆっくりなテンポで弾かなけ ればならず,バイエルピアノ教則本のようないわゆる初歩 の練習曲もそのように作られているため,ポップス曲など に親しんできている学生にとってはこの上なく退屈で苦痛 な練習時間となるであろうことは容易に想像できる.そう なると,意欲喚起にはほど遠くなってしまい,ピアノが苦 痛となってしまう.
そのような初心者の学生に効果的なのが,連弾である.
連弾にはたくさんの魅力があるが,メリットの一つとして,
ピアノ初心者は限られた音だけ弾いても,パートナーの技 術によっては,表現の幅が格段と広がるという点である.
心地よい響きが生まれたり,一気にお洒落な響きに変化し たりするのである.少しでもピアノを弾くことを楽しいと 思ってもらいたいことから,教員と連弾する活動を試みた.
5−1 普段の授業における連弾の活用
K大学においては,小学校教員養成課程に所属するピア ノ初心者の学生は,初めのうちはバイエルピアノ教則本を 用いて基礎的な知識・技能の習得を行っている.バイエル ピアノ教則本は,前半部分は片手だけだったり,両手でも オクターブで同じ音を弾くものだったり,初心者向けに容 易に構成されている.そのため一人で弾くには冗長な感が 否めない.バイエルもまた,それを補うようにして教師に よる連弾ができるように譜を載せている.授業の中では,
教師用の連弾部分をできるだけ取り入れて,単調な練習曲 が少しでも音楽的に聞こえるように配慮してきた.学生の 反応は,「おーかっこいい」など,少し楽しそうになる様 子が見られた.また,授業が進み両手左右違う動きが出て きて難易度が上がると,片手ずつならできるが両手になる とできないといった声がよく上がるようになり,練習が追 い付かない場合は曲の雰囲気や流れをつかむためにも,片 手ずつ,教師が一方を一緒に弾く連弾も適宜行ってきた.
一人ではたどたどしく弾く学生が,教師が支えて流れを作 ることで,学生も一緒に流れて弾けるようになり,本人も 周りで聴いている他の学生も顕著にわかるほどよく弾ける ようになった.学生自身も流れや雰囲気をつかみ,どのよ うに弾けばよいのかを実感することができたため,その後 一人で弾いた時には明らかに上達している様子が見られ た.
T短期大学においては,教職課程のための大学ピアノ教 本を用いて,基礎的な知識・技能習得を行っている.保育 者・教育者を目指す学生に向けて書かれているため,一般 的なバイエル教則本と比べ,実際に現場で求められるこど もの歌に伴奏をつけて弾くことを合理的に修得できるよう な内容になっている.そのため,左手の伴奏パターンを集 中的に取り扱っていたり,右手は一点ハから学習できたり
するように編集されている.しかし,単調で地道な努力が 求められる練習曲であるため,曲に対して嫌悪感を抱く学 生が多いのが現状である.授業で使用しているレッスン室 は個室で閉塞感のある環境であるため,ただでさえ独特な 緊張感が生まれがちである.連弾は,そういった緊張感を 少しでも解消でき,学生と話をしつつ,リラックスした楽 しい雰囲気の中,短時間に曲の流れや雰囲気をつかむこと ができる大変有効な方法である.連弾を取り入れることで,
より効果的に基礎的な知識・技能習得ができるようになっ たと考えられる.
5−2 「きらきら星」を連弾して
普段の授業の課題曲とは別に,アレンジにより連弾の効 果の得られやすい「きらきら星」を教材に,教員と連弾す ることを試みた.誰もが知っている曲で,初心者でも弾き やすい「ドドソソララソ〜」のメロディである.すぐに弾 けるよう片手だけで良いとし,右手でこの曲のメロディを 弾いてもらった.そこに,和声感を補うアレンジされたき らきら星を教員が両手で伴奏として入れて,連弾を行った.
アレンジ譜は,K大学で使用しているテキスト
9)に記載 のリハーモニゼーションの学習のページで,コードチェン ジの法則をすべて使用したものを用いた
10).(図2)
この譜面は通常一人で弾くものだが,教員が全ての音を 楽譜通りに弾き,学生には高音部(メロディ)のみを1オ クターブ上で弾いてもらった.
この連弾体験後に,教員と連弾を体験してみてどのよう に感じたか,5段階評価のアンケートを行った.①は教員 と連弾をして楽しかったかを問い, 「楽しかった」を5, 「楽 しくなかった」を1とした.②は教員との連弾で表現の幅 に広がりを感じたかを問い,「表現の幅に広がりを感じた」
を5,「表現の幅に広がりを感じなかった」を1とした.
①の結果は,表4の通りである.母数が少ないので割合 の誤差は大きいが,平均値はともに 4.6 を超えており,「と ても楽しかった」と感じている学生が大多数を占めた.
図2 連弾に用いた「きらきら星」の譜(一部)
表4 教員との連弾は楽しかったか T短期大学(平均値 4.6)
評価 5 4 3 2 1
人数 19 名 4名 1名 0名 1名
割合 76% 16% 4% 0% 4%
K大学(平均値 4.64)
評価 5 4 3 2 1
人数 10 名 3名 1名 0名 0名
割合 71.5% 21.5% 7% 0% 0%
森村 祐子・菊田 知子
②の結果は,表5の通りである.T短期大学では平均値 は 4.68 となり,K大学では平均値は 4.64 であった.K大 学の方は,①と同じ値となった.
表現の幅に広がりを感じたかの問いは,教員との連弾が 楽しかったかの問いとほぼ同じ値を示し,楽しかったと回 答した学生は,同時に表現の幅に広がりを感じている結果 となった.K大学は①と②が全く同じ値となったが,実際 の回答を見ても,全回答者が,①と②を同じ値で回答して いる.
6.題材曲のアレンジ聴取の効果
子どもの頃から歌い,また普段自分たちが練習し聴き慣 れている子どもの歌を,初めて聴くアレンジで聴いてみた ら,また違った世界が広がるのではないか.学生がそれぞ れの曲に対して持っているイメージと,初めて聴くアレン ジに対して持つイメージでは,異なるイメージが持たれる と予想される.
そこで,誰もが知っている「ちょうちょう」
11)を題材に,
「ちょうちょう」に対して持つイメージと,少しおしゃれに,
しっとりと子守歌風
12)にアレンジされた「ちょうちょう」
を聴いてのイメージの違いをアンケートにより調査した.
6−1 「ちょうちょう」をイメージして
学生が「ちょうちょう」についてどのようなイメージを 持っているのかを知るため,まず何も見ず・聴かずに「ちょ うちょう」をイメージしてもらい,思い浮かぶ色や形,風 景や音などを記述式で回答するアンケートを行った.質問 項目は,①イメージされる色(3色まで回答)②イメージ される形(そう思った理由も)③イメージされる風景④イ
メージされる音,の4項目である.以下に結果を示す.な お,記述式で記入の言葉は, 「ちょうちょう」や「ちょうちょ」
など表記のゆらぎはあるが,アンケートに書かれていたま まを載せている.
①イメージされる色(( )内は回答数)
T短期大学:黄色(22),白色(14),ピンク色(10),水 色(9),緑色(4),青色(3),赤色(3),黄緑色(3),
オレンジ色(2),紫色(1)
K大学:黄色(13),白色(8),ピンク色(6),緑色(5),
赤色(2),青色(1),黄緑色(1),虹色(1)
②イメージされる形とその理由
T短期大学:(形)花,ちょうちょう,雲,まる,三角,
しかく,羽,空,ふわふわ
(理由)丘,野原,開放感,やわらかさ,春,羽の形,丸っ こい,花や水,沢山の喋々がとんでいる,角ばっている K大学:(形)まる,丸,丸い感じ,ほわほわした丸,だ えん,ふわふわ,やわらかい,ちょうちょ,モンシロチョ ウ,花
(理由)やさしい感じだから,曲がやわらかいイメージだ から,全体的に柔らかい曲だから,春であたたかく爽やか なイメージだから,ちょうちょがゆらゆらとんでいるから,
ちょうちょうのイメージから,自由に飛んでる感じがする から,曲名がちょうちょだから,菜の花,桜にとまりそう,
ちょうちょには花が必要だから
③イメージされる風景
T短期大学:川のせせらぎ,花畑,野原,青空,何もない 野原に一面に広がる菜の花,花の周りに沢山の喋々,そよ 風,葉,森,水,自然の多いところ,静かなところ,丘,
ピアノを弾く少女
K大学:春,花畑,花畑をちょうちょがとんでいる,たく さん花がある,菜の花畑にモンシロチョウがたくさんいる,
春,土手みたいなものに菜の花が咲いている,明るい草原,
青空,ちょうちょがひらひらしてる,はらっぱ,野原,山 とか自然,太陽がのぼるかんじ
④イメージされる音
T短期大学:風の音,羽の音,ゆったりした音,さらさら と流れる小川,小鳥の鳴き声,鈴,陽気な音,女の人の歌 声とピアノ,ひらひら,トントン
K大学:しずか,少し風の音,風がやさしく吹いている感 じ,やさしいゆっくりとした,風とか鳥の音とかののどか な感じ,川の流れる音,草花がゆれる音,川の水が流れる 音,鳥が鳴いている,明るい,パタパタ,ポンポン するように編集されている.しかし,単調で地道な努力が
求められる練習曲であるため,曲に対して嫌悪感を抱く学 生が多いのが現状である.授業で使用しているレッスン室 は個室で閉塞感のある環境であるため,ただでさえ独特な 緊張感が生まれがちである.連弾は,そういった緊張感を 少しでも解消でき,学生と話をしつつ,リラックスした楽 しい雰囲気の中,短時間に曲の流れや雰囲気をつかむこと ができる大変有効な方法である.連弾を取り入れることで,
より効果的に基礎的な知識・技能習得ができるようになっ たと考えられる.
5−2 「きらきら星」を連弾して
普段の授業の課題曲とは別に,アレンジにより連弾の効 果の得られやすい「きらきら星」を教材に,教員と連弾す ることを試みた.誰もが知っている曲で,初心者でも弾き やすい「ドドソソララソ〜」のメロディである.すぐに弾 けるよう片手だけで良いとし,右手でこの曲のメロディを 弾いてもらった.そこに,和声感を補うアレンジされたき らきら星を教員が両手で伴奏として入れて,連弾を行った.
アレンジ譜は,K大学で使用しているテキスト
9)に記載 のリハーモニゼーションの学習のページで,コードチェン ジの法則をすべて使用したものを用いた
10).(図2)
この譜面は通常一人で弾くものだが,教員が全ての音を 楽譜通りに弾き,学生には高音部(メロディ)のみを1オ クターブ上で弾いてもらった.
この連弾体験後に,教員と連弾を体験してみてどのよう に感じたか,5段階評価のアンケートを行った.①は教員 と連弾をして楽しかったかを問い, 「楽しかった」を5, 「楽 しくなかった」を1とした.②は教員との連弾で表現の幅 に広がりを感じたかを問い,「表現の幅に広がりを感じた」
を5,「表現の幅に広がりを感じなかった」を1とした.
①の結果は,表4の通りである.母数が少ないので割合 の誤差は大きいが,平均値はともに 4.6 を超えており,「と ても楽しかった」と感じている学生が大多数を占めた.
図2 連弾に用いた「きらきら星」の譜(一部)
表4 教員との連弾は楽しかったか T短期大学(平均値 4.6)
評価 5 4 3 2 1
人数 19 名 4名 1名 0名 1名
割合 76% 16% 4% 0% 4%
K大学(平均値 4.64)
評価 5 4 3 2 1
人数 10 名 3名 1名 0名 0名
割合 71.5% 21.5% 7% 0% 0%
表5 教員との連弾で表現の幅に広がりを感じたか T短期大学(平均値 4.68)
5 4 3 2 1
20 名 4名 0名 0名 1名
80% 16% 0% 0% 4%
K大学(平均値 4.64)
5 4 3 2 1
10 名 3名 1名 0名 0名
71.5% 21.5% 7% 0% 0%
以上の結果から,「ちょうちょう」と聞いて思い浮かぶ 色は,黄色や白色,ピンク色などが両校とも最も多く,形 は,丸やふわふわした感じなどやわらかいイメージのもの が多かった.イメージされる風景では,花畑や野原,自然,
春など明るいイメージが多く,音も,川の水が流れる音や 鳥が鳴いている音,風の音など自然を表すような音が多 かった.またポンポンやパタパタ,ひらひら,トントンな どの擬音語の回答も見られた.
6−2 アレンジされた「ちょうちょう」を聴いて 次に,アレンジされた「ちょうちょう」
13)を録音済み のデジタル音源で聴かせ
14),同じように思い浮かぶ色や形,
風景や音などを記述式で回答を求めた.以下に結果を示す.
なお,聴取に使用したアレンジ譜例(一部)は図3である.
①イメージされる色
T短期大学:ピンク色(6),白色(5),水色(5),黄 色(4),緑色(3),青色(2),黒色(2),オレンジ色
(2),紫色(2),金色(1),銀色(1),紺色(1),ク リーム色(1),紅色(1),黄緑色(1),透明(1)
K大学:黄色(9),白色(4),ピンク色(4),水色(4),
緑色(4),淡白色(2),淡黄色(2),淡ピンク色(2),
青色(2),赤色(2),オレンジ色(2),肌色(1),淡
黄緑色(1)
②イメージされる形とその理由
T短期大学:(形)丸,花,シャンデリア
(理由)やわらかい,ゴージャス,いい雰囲気,なめらか,
きれい,優雅,おしゃれ,大人っぽい,子どもが羽を広げ ているよう,ゆるやか,スケールが大きい,男性的な感じ K大学:(形)丸,丸め,まるい,やわらかい形,上品,ふ わふわ,ちょうちょ,モンシロチョウ,森の中,星や月,線
(理由)柔らかいイメージだから,静かでおしゃれな感じ,
夕日を思い浮かべたから,音がやわらかいから,ゆっくり とした曲調なので,やさしい音だから,ふわふわ浮いてる 感じ,ちょうちょが飛んでいそうだから,白っぽいから,
さわやかだから,静かな感じで子守り歌みたいだから,
さーっとしたような感じだから
③イメージされる風景
T短期大学:パーティー,お城の中,都会,夜空,姫,お しゃれなバーやお店,大きな花畑に一匹の蝶,空を飛んで いるよう,広い野原,ハウルの動く城のとても広いお花畑 のシーン
K大学:花畑,ちょうちょがゆっくりとんでいる風景,ちょ うと花畑と森とかのさわやかな感じ,緑の中にモンシロ チョウが飛んでいる,川辺ちかくの花がたくさん咲くよう な所,小川が流れてる,夜,草原と湖,夕方,昼の感じ,
晴れている,春の穏やかな野原,飛んでいけそうな感じ,
人気のない谷間や野原に光がさしている感じ,お母さんが 子どもをあやしているような感じ
④イメージされる音
T短期大学:さまざまな楽器の音色,ハープ,自然の音(風・
水・草木,森林など),工事,喋々が増えていきいきと飛 んでいる,きれいな,大人っぽい,おしゃれな音楽 K大学:風,そよ風,風の音(やさしい),ほとんど無音 に近い風,静か,静かな中に鳥のさえずり,やさしい音,
なめらかな音,おちつく音,川の音や草の音,眠くなるよ うな音,さーっ,川の水が流れてくる音,花がゆれる音,
鳥の声と草が風でなびく音,カラスの鳴き声とか人の足音
以上の結果から,「ちょうちょう」をイメージしただけ の時との違いが明らかとなった.
アレンジされた「ちょうちょう」を聴いて思い浮かぶ色 は,T短期大学では上位3色はピンク色,白色・水色(同 位),黄色の順で,K大学では黄色が最も多く,次に白色・
ピンク色・水色・緑色が同位となった.両校で若干の違い はあるものの,黄色や白色,ピンク色といった色が上位に 上がっている点では,イメージしただけの時と同じ傾向が 図3 アレンジされた「ちょうちょう」の譜(一部)
/ 編曲:笹井邦彦
森村 祐子・菊田 知子
表れた.
違いは,淡黄色や淡白色,淡ピンク色など,「淡い色」
とあえて指定している回答が見られたことや,金色や銀色,
透明など,イメージだけでは得られなかった色が出てきた 点にある.違いは色だけではない.イメージされる形では,
丸やふわふわなどやわらかい感じのイメージに加え,星や 月,シャンデリアといった回答が見られたことも特徴的で ある.さらに,イメージされる風景では,都会,夜空,パー ティーなどといった回答が見られ,既成の一般的なちょう ちょうのイメージとは全く別のイメージが出てきたことは 面白い結果である.また,イメージされる音では「様々な 楽器の音色」や「おしゃれな音楽」,「大人っぽい」といっ た回答も見られ,「静かな中に鳥のさえずり」や「無音に 近い風」といった,聴いて感じ取ったことを,単純な音で はなくより複雑な言葉に表そうとしている様子が,イメー ジするだけの時よりも見られた.
7.考察
以上の内容から,感性をキーワードにピアノ授業につい て考察する.
7−1 模範演奏の効果
授業で使用しているテキストについてのアンケートから,
テキストの難易度については両校ともそれほど難しいとは 感じておらず,初心者に適している難易度であることが明 らかとなった.テキストの伴奏の素敵さについては,K大 学の学生は「素敵だと思わない」との回答はなかった(3 以上であった)が,T短期大学の方は数名が「素敵だとは 思わない」である2や1を回答している.これはT短期大 学では使用しているテキストが,本来とても素敵な曲であっ ても簡易伴奏にするためにほとんどがハ長調の曲にアレン ジされており,素敵とは言い難い伴奏になってしまってい ることを,学生が感じ取っているためと考えられる.それ は「素敵だとは思わない」と回答した学生の感性が判断し たことだと言える.この学生は自分の中の判断基準と照ら し合わせられるだけの,素敵だと感じる伴奏などを聴いて いる,蓄積があると言えるだろう.一方,K大学の方は,
決まったアレンジの伴奏譜が載っているテキストではない ため,判断基準がそれぞれ違うことになる.伴奏パターン の組み合わせや活用によっては様々なアレンジが可能にな るため, 「素敵だとは思わない」との回答には結びつかなかっ たと考えられる.両校とも,歌伴奏を素敵にアレンジした ら弾いてみたいかとの問いに半数以上が「弾いてみたい(4 ないし5)」と回答していることから,意欲的な様子はうか がえる.教員が,初心者の学生でもできそうだと思えるア レンジの模範演奏を示すことは重要である.
ひとつ例を挙げよう.「はじめの一歩」(新沢としひこ作
詞・中川ひろたか作曲)という曲は,ハ長調でミーミーソ ファミレドーと始まる.K大学で使用しているテキストに 掲載のこの曲には,出だしのそのメロディ2小節分にコー ドが C, C/B, C/A, C/G とついている.この4つはいずれ もCのコードであるが,C/○という表記は分数コードで あり,ベース音が分母の音に指定される.テキストにも「単 音伴奏するとき分数コードは分母の音を弾こう」と学習者 にわかるように注が記載されている.違いを聴き取らせる ために,試しに,この2小節をすべてCのコードでドのみ の単音伴奏で弾き歌いをしてみる.変化がなく単調である.
次に C, B, A, G の順に分母の音を弾いて弾き歌いをしてみ る.するとなんとも音に深みが出て,単音なのにぐっと音 楽が広がった感じになる.聴いていた学生たちは,「ああ
〜!」とその違いを顕著に感じ取る.これは学生たちが明 らかに C, C, C, C とコードを弾いた時よりも C, B, A, G と 弾いたときの方が音楽的に素敵だと感じ取っていることの 表れである.しかも単音伴奏でこれだけの違いが出るので,
学生たちはすぐに取り組んでみたくなり,実際に自分で弾 いてみる.単音なのですぐにできるし,しかも素敵な伴奏 が弾けるのである.このようなちょっとした模範を示すだ けでも,学生のモチベーションを上げるためには非常に有 効である.そして,どのようなものが素敵に聴こえるのか という判断基準は,比較を示すことでより明らかになるし,
多くの素敵な伴奏(それは模範を示す教員が素敵だと思う もので良い)を模範演奏として示すことで,学生の聴く耳 や感性が育っていくと思われる.
7−2 連弾の効果
3−1の先行研究で触れたが,高木らは保育者養成にお ける連弾の研究を行っている
15).それによると連弾は初 心者への活用にとどまらず,「他者を意識した演奏」に習 熟させることに役立つという.保育現場が求めるピアノ技 能としては歌唱伴奏力が第一であり,これは正に子どもと いう「他者を意識した演奏」でなければならないことを指 摘している.確かに,連弾にはそのような効果が期待され るし,他者を意識しなければ息も合わせられないため,教 員を目指す学生の教育には有効な手段であると共感する.
ただし,高木らの研究による連弾は,学生同士の連弾によ るモチベーションの高まりなどを期待したものである.
本研究においての連弾のポイントは,教員との連弾とい う点にあり,教員との連弾体験は,「他者を意識した演奏」
という視点よりも,教員の技術や音色,表現などを間近で 感じ取ることができるという点にある.普段の授業内での 連弾の取り組みは,教員の手の形や動きから音色やテンポ まで,流れに乗る感覚を味わうこともできたと思われる.
また「きらきら星」の連弾では,一人では聴くことのでき
なかったアレンジコードが展開され,連弾による純粋な音
の増加と,アレンジによる音の深みや広がりがさらに加 わって,学生自身の感覚に訴える貴重な機会になったと考 えられる.実際に教員との連弾では「すごい!鳥肌たっ た!」「お洒落きらきらぼしだ!」「雰囲気が一気に変わっ た」「素敵で同じ曲とは思えないくらい驚いた」等の声が 聞かれ,固定観念による「きらきらぼし」のイメージを良 い意味で壊し,自身の価値観と表現の幅を広げるきっかけ になったと考えられる.したがって,連弾は感性を引き出 す教授法の一つとして大変有効であると考えられる.
7−3 題材曲アレンジ聴取の効果
「ちょうちょう」をイメージしただけの時よりも,アレ ンジされた「ちょうちょう」を聴いてイメージしたときの 方が,明らかにイメージする範囲,イメージの幅が広がっ ている傾向が両校共に見られた.固定観念により「ちょう ちょう」と聞いて思い浮かぶのは皆同じようなイメージで あったが,アレンジを聴いてイメージが広がったのは,初 めて聴くアレンジの「ちょうちょう」が自分の感性に働き かけたと考えられ,それにより今まで持っていた自分のイ メージが崩れたり,全く別物に聴こえたりして,単なるイ メージだけでは出てこなかった発想に結び付いたと考えら れる.
このように,音楽の広がりを感じることができるような 多彩な音色や,感覚に訴えかけるような音楽,自分の感性 に働きかける音楽を聴いてイメージする方が,より豊かな 発想が生まれると考えられ,イメージするものの広がりや 柔軟さが養われると考える.
2の先行研究で述べた紙屋と後藤の研究でも,「ぞうさ ん」と「げんこつやまのたぬきさん」の曲で,簡易伴奏と アレンジ伴奏の違いに気が付いた子どもは,「いつもと違 う」という知覚がなされ,「きれいな音がした」や「なめ らか」「おもしろかった」などといったその子なりの感受 がなされていたと言える.そして「ぞうさん」の曲の方で は,アレンジを加えた伴奏はどう感じたかという質問に,
「ぞうさんがゆっくり歩いている感じ」や「水浴びしてい る感じ」といった歌のイメージが広がっている様子がうか がえる.これは簡易伴奏よりもアレンジした伴奏の方がよ り音楽的で,「弾き手も簡易伴奏時よりも気持ちを込めて 弾くようにした」という記述もあるためか,より豊かな響 きと表現が子どもに伝わったためであると考えられる.ま た,違いには気付いても何がどう違うのかをまだうまく言 葉にできない子どももたくさんいたようで,そのような子 どもたちは,言語能力の発達に伴い,自分なりに言葉にで きる感性が育成されると期待される.
一方,伴奏が変わったことに気が付かなかった子どもは,
集中していなかったのか,違うと感じていても表現できな かったか,本当に違いがわからなかったのかは,この研究
からは読み取れなかったが,より音楽的な歌伴奏を用いる ことは,音楽的感受性を高めていくことに作用するもマイ ナスには影響しないだろうと思われる.ただし,アレンジ した伴奏を聴いて「簡易伴奏のほうがよかった」と答えた 子どももいたようなので,それが普段聴き慣れているもの と違ったからすぐには受け入れられなかったか,またはア レンジが複雑すぎたのか,それも読み取ることはできない が,どのようなアレンジが子どもにとって効果的なのかは,
さらなる研究が必要と思われる.
以上のように,同じ曲を聴いても感じ方は既に様々であ ることは,それもそれぞれが持つ感性の違いによるもので ある.程度の差はあれど,それぞれの感性の育成には,多 様な音楽を聴くこと,画一的で無難な簡易伴奏だけではな く,様々なアレンジ伴奏を聴くことも必要である.そのた めに,子どもたちの保育・教育に携わる教師には,より音 楽的な伴奏が弾けるよう,ピアノ伴奏技術とともに,自分 自身の感性を高めておく必要があると考える.
8.まとめと今後の課題
本研究では,①模範演奏の視聴,②連弾体験,③題材曲 の聴取という3点から,保育者・教育者を目指す学生の,
特に子どもの歌の弾き歌いでのピアノ伴奏に対する感性の 高まりに焦点を当てて,授業での試みを通して考察してき た.これらの試みに共通していることは,「聴く」という ことである.学生自身が感性を高めるためには,学生の感 覚に触れる音楽をたくさん聴くことが必要である.学習し ていることとリンクさせるならば,子どもの歌のピアノ伴 奏を,たとえ簡易伴奏であっても,単調なものではなく,
少し素敵に聴こえるもので弾けるようにすることや,そも そもどういったものが素敵なのかを聴き分けられる力を付 けることが必要であろう.それが保育者・教育者になって 子どもと一緒に活動することになったとき,音楽環境の設 定(より美しい,より心地よい音楽の取捨選択による音環 境の提供など)にも役立つだろうし,子どもの感性を豊か に発達させる一助となることだろう.
課題としては,大人が美しいと感じるものが,子どもに とっても同じように美しいと感じるのか,といった疑問が 残る点である.人によって美しい,素敵だと感じる感性は それぞれなので一概には言えないが,例えば子どもが好む 歌伴奏はどのようなものか,逆に不快だと感じる伴奏はど のようなものかといったことなどから,子どもの豊かな発 達に即して,さらなる調査・研究を深めていきたい.
注
1) 保育士養成課程等検討会(2010)「保育士養成課程等 の改正について(中間まとめ)」p.7
2) 全国大学音楽教育学会編(2012)『新訂 幼児音楽教
森村 祐子・菊田 知子
育ハンドブック』音楽之友社,p.44
3) 文部科学省(2008) 『小学校学習指導要領解説 音楽編』
教育芸術社,p.8
4) 小倉隆一郎,田中功一(2011)「モバイルラーニング を利用したピアノ学習」『文教大学教育学部研究紀要』
第 45 集,pp.123-130 や,小倉隆一郎(2012)「ML 学 習に演奏モデルを活用する試み〜学習者に子どもの歌 の弾き歌い映像を提供する〜」『文教大学教育学部研 究紀要』第 46 集,pp.77-84 など.
5) 深見友紀子,中平勝子,赤羽美希(2009)「ピアノ弾 き歌いにおける遠隔・非対面指導の効果と課題」『京 都女子大学発達教育学部紀要』第5巻,pp.31-40 6) 高木誠,稲葉順子,鈴木賀子,野村麻里,平野智美,
和田淳一(2008)「連弾の研究―各教員の指導報告か ら―」『千葉経済大学短期大学部 研究紀要』第4号,
pp.109-121
7) 紙屋信義,後藤みゆき(2008)「ピアノによる子ども の歌伴奏の効果―アレンジによる伴奏法を考える―」
『東京未来大学研究紀要』第1号,pp.67-75
8) T短期大学使用テキスト:長谷川久美子編著(2010) 『誰 でもスグに弾ける 保育のうた・こどものうた 120』
シンコーミュージック・エンタテイメント
K大学使用テキスト:細田淳子,笹井邦彦,西海聡子,
悠木昭宏(2011)『かんたんメソッド コードで弾き うたい』カワイ出版
9) 前掲書8)K大学使用テキスト
10) 前掲書8)K大学使用テキスト p.106 原則としてメ ロディの1音1音にコードを入れ,右手のメロディの 下に1〜2音,左手に根音を配置して創作されたもの.
アレンジは笹井邦彦による.
11) 誰もが知っている唱歌「蝶々」である.スペイン民謡 かドイツ民謡など諸説あるが(ドイツの歌が元になっ ている説が現在では有力である),外国で作られたメ ロディに日本語のわらべ唄の歌詞を当てはめて作られ た曲で,作詞は野村秋足による.
12) 筆者が感じる,題材に使用したアレンジされた「ちょ うちょう」へのイメージである.
13) 編曲及び演奏は笹井邦彦(東京家政大学)による.
14) 4−1において教員による模範演奏の大切さを述べて いるが,録音済みのデジタル音源で聴かせたのは,2 校で実践しているので同じ条件で調査をするためであ る.
15) 前掲6)
Abstract