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小学校における着衣水泳実施の課題

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(1)

柴田義晴・森山進一郎・渡辺律子

スポーツ方法学研究 第17巻 第1号 抜刷

    2004年3月10日 発行

(2)

41

J

小学校における着衣水泳実施の課題

      Astudy on the issues concerning

Swimming with street clothes on in the elementary schoo1

柴森渡 田山辺

i義 晴(東京学芸大学教育学部)

進一郎(日本女子体育大学体育学部)

律子(跡見女子大学短期学部)

Yoshiharu Shibata*

Shinichiro Moriyama**

Ritsuko Watanabe***

Abstract

   The purpose of this research is to clarifY some problems for use With swimming with street clothes on as one of the learning materials fbr the elementary school physical education program since waterside activity has been added and also in consideration of actual drowning accidents as a real social problem.

   For this purpose, research was conducted with a survey concerning elementary school teachers and their pupils swimming with clothes on, an examination of the water quality befbre and after the swim class, and the degree of physical intensity while swimming with clothes on. The fbllowing results were obtained.

   1)The water quality after swimming with street clothes on has always met the sanitatioll standards for sWimming pool water quakty because of the inst uρtions regardiロg what clothes are acceptable to swim in, and the simple inspection befbre entering the water.

   2)It became evident that those elementary school teachers with more experience in swi血ming with clothes on and instructing that class demonstrated a higher motivation to teach the class of swimming with clothes on, and also harbored a greater sense of caution during the instruction. Thus, it is necessary to hold a practical training on swimming with clothes on in order to further motivate the teachers. And by doing so, we expect that instnlctors wilI learn more about reacting to danger.

   3)Since some teachers felt danger and some students were afraid of swimming with clothes on, it became to be clearly that key points of caution need to be addressed during the swim class. For this reason, it is necessary to improve the knowledge and skills on teaching how to fall into the water, come out of the water, and swim with clothes on in the case of distance, interval, and dhrection.

   4)The degree of physical intensity while swimming with clothes on was conspicuously small with the breaststroke and the elementary backstroke compared to that with the crawl and the backstroke. Regardless of the swimming style, by swimming faster, the degree increased significantly. Therefbre, it is indispensable to teach not only how to swim correctly or swim slower and longer using the breaststroke and the elementary backstroke, but also how to float with a floater and wait while floating.

Key words:elementary school, swimming with clothes on,1earning materials,

       小学校,着衣水泳,学習教材,水質,身体負担度

water quality, physical intensity

  *Tokyo Gakugei University

**

iapan Women s College of Physical Education

***Atomi Junior College

(3)

1 緒  言

 文部省(1999)の小学校学習指導要領解説体育 編では,現代の子ども達は自然の中での遊び等の 体験が不足しているとした観点から,自然体験的 な身体活動を地域や学校に応じて積極的に取り扱 うととを明記し,雪上・氷上遊びスキー,ス ケートに加えて「水辺活動」が新たに加えられた.

水辺活動では,単に体育的活動のみならず,水中 に生息する動物や植物,地理や地形,ひいては地 域のくらしのこと等を学ぶ複合教材として大きな 意義を有する(中学校体育・スポーツ教育実践講 座刊行会編1998,PP.210−217)反面,自然の水 域に身を置く機会も増えることから安全対策につ いても十分考慮されなければならない.このこと は,警察庁の水の事故に関する報告(2003,pp.1−

4),すなわち水泳以外の行為(水辺活動等)で亡 くなった者が全体の約80%,海,湖,川等の自 然水域での水死事故が全体の約97%,6月〜8月 の水死事故が年間の約47%であり,水死事故の 大半が衣服を身につけた状態で,自然水域におい て,しかも夏休み中に起こっていることが示唆す るところでもある.また,このことに関連して,

荒木ほか(1995,pp.8−19)や柴田(1997)は,泳 げる者の着衣による水死事故も看過できないと指 摘している.

 このような背景から,今日,小学校では学校行 事等において着衣水泳が徐々に取り入れられるよ うになってきてはいるが,着衣水泳の実施時期に ついては着衣水泳後のプール汚濁による水泳計画 への影響を菱慮してプール納め(9月)の際のセ レモニーとして行われているところが多く,水辺 活動の学習指導や水死事故の比率が最も高い夏期

に対応していないのが現状である.

 そこで,本研究では,着衣水泳実施に関わる諸 要因の検討により問題点を明らかにすることを目 的とし,着衣水泳実施後のプール水の汚濁状態を 調べるため水質検査を実施し,加えて小学校教員 に対して体育授業における着衣水泳の実施に関す る実態調査を行うとともに着衣水泳を経験した児 童の感想やその際の身体負担度について調査し

た.本研究の成果は,水泳の指導計画に支障なく 着衣水泳を学習教材として適時な実施に資するこ とや,着衣水泳が不測の事態の疑似体験であるこ とから着衣水泳の安全指導は元より水辺活動の指 導法の確立にも寄与することができ,スポーツ方 法学に大きく貢献するものと考える.その意味で 興味ある知見を得たので報告する.

E 方  法 1.着衣水泳実施前後の水質検査

 水質検査は,着衣水泳後のプール水がその後の 水泳授業に影響を及ぼすような変質を示すか否か を調べるために実施した.そのため,東京都N区 の4小学校を対象として着衣水泳実施前後に学校 環境(プール水)の衛生基準(東京都衛生局,

1999)に基づきプール内の対角線上かつ等間隔3 点の水深20cmからプール水を採水し,水素イオ

ン濃度,濁度,過マンガン酸カリウム消費量,遊 離残留塩素濃度,大腸菌群,および一般細菌につ いて調査した.

2.着衣水泳に関する実態調査

 小学校教員に対しては,着衣水泳実施に必要な 要因や未実施の要因等について明らかにするた め,東京都内の近隣の区市(N区(67名),B区

(22名),C市(20名))の体育主任(109名)を対 象に,各区の教育委員会あるいは体育部会を通し て質問紙法による調査を行った.調査内容は,着 衣水泳の実施状況,実施していない理由,着衣水 泳の経験の有無着衣水泳指導の経験の有無指 導経験で感じたこと,着衣水泳に関する意見等と した.なお,調査用紙の回収率は,84.4%(92名)

であった.

 小学校児童に対しては,児童の着衣水泳に対す

る感想を把握し今後の着衣水泳の指導に活用する

ため,東京都N区の3小学校5,6年(それぞれ

156名,176名,計332名)の児童を対象に着衣水

泳の体験感想について,各小学校のクラス担任を

通して質問紙法による調査を行った.調査用紙の

回収率は,94.3%(313名)であった.

(4)

小学校における着衣水泳実施の課題 43

3.着衣水泳時の身体負担度

 身体負担度は,着衣水泳において過剰負荷とな るような内容を明らかにするため,生理的反応と しての心拍数と心理的反応としてのRPE(主観的 運動強度)を用いて表すこととし,東京都N区の 小学校における着衣水泳の授業において調査し た.なお,着衣水泳の授業時の心拍数は,担当の 教員により男女合計105名中から選出された泳力 的に中位水準の健康な男子児童5名を対象に全体 を把握すべくモニターとして活用し,プールの横 方向の距離(15m)を泳いだときの心拍数につい て心拍測定器(バンテージNV:ポラール製)を 用いて5秒毎に計測し,表示した.各泳法別の心 拍数は,5秒毎の心拍数値表からビデオ映像と照 合して求めた.また,RPEについては,各泳法を 泳いだ直後に日本語に表示されたBorgのスケー ル表(小野寺ほか,1976)を用いて該当する数値

を指示させることによって表示した,なお,高速 泳時には「できるだけ速く」泳ぐこと,緩速泳時 には「ゆっくり」泳ぐことを指示した.所要時間 は,ビデオ映像を用いて各種泳法による着衣水泳 の15m間を計測した.

いては,平均値と標準偏差を算出し,泳法別,泳 速別に有意な差が認められるか否かについてはt 検定を用いて分析した.なお,有意性の判定に は,危険率5%未満を有意水準として採用した.

皿 結 果 1.着衣水泳実施前後の水質検査

 表1は,東京都N区の4小学校において行われ た着衣水泳実施前後の水質検査結果を示したもの

である.

 着衣水泳実施前後の水質検査は,いずれの小学 校においてもプール水に注目されるような水質汚 濁は認められず,また学校環境(プール水)の衛 生基準を逸脱するような検査項目は認められな

かった.

 なお,着衣水泳実施に先立って,いずれの小学 校においてもよく洗った長袖シャツ,長ズボン,

運動靴の持参を求めた保護者および児童への「お 知らせ」あるいは「お願い」等が配布され,また 実施前には担当教員による簡易な衣服や靴の点

検が行われた.

4.統計処理

 調査項目の分析には,SPSS(統計解析ソフト)

を用いてクロス集計を行い,Pearsonのカイ2乗 検定を実施して各項目間の独立性について分析を 試みた.また,心拍数RPEおよび所要時間につ

2.着衣水泳に関する実態調査

 表2は,着衣水泳の実施状況に関する調査結果 を示したものである.着衣水泳は,調査校の 80.4%が実施して比較的高い値を示したが,

19.6%の小学校が未実施であった.着衣水泳を実

表1 着衣水泳実施前後の水質検査結果

小学校  検査項目  PH 濁度 有機物質等 大腸菌群 一般細菌 実施時間,人数天候,

  気温,水温

A 実施前  7.4

実施後  7.3

満満

未未

2.94mg/1

3.39mg/1

不検出 不検出

0個/ml O個/ml

90分,105名,晴

33.5°C, 29.8°C

B 実施前  7.5 実施後  7.4

1未満  1

2.78mg/1 2.62mg/1

不検出 不検出

0個/m1 0個/ml

80分,158名,晴

32.8°C, 29.5°C

C 実施前  7.5

実施後  7.5

1未満  1

2.69mg/1 2.37mg/1

不検出 不検出

0個/m1 0個/ml

45分,158名,曇

29.5°C, 27.5°C

D 実施前  7.7

実施後  7.8

満満

未未

1.26mg/1

1.33mg/1

不検出 不検出

0個/ml O個/ml

120分,130名,晴

32.0°C, 28.5°C

*遊離残留塩素濃度は,いずれも0.4〜1.Omg/1の範囲で検出された

(5)

表2 着衣水泳の実態調査結果 1着衣水泳実施状況

 有  無

2.着衣水泳未実施の理由  時間調整ができない  水質汚濁問題  実施の合意が難しい  未研修、指導者不在  その他(着衣の管理が大変)

3.着衣水泳の必要性  必要

 不要  わからない 4.着衣水泳の経験

 有  無

 見たことがある 5,着衣水泳の指導経験

 有  無

6.着衣水泳時に危険を感じたこと

 有  無  わからない 7.危険を感じた状況  水への落ち込み  脱衣脱靴等  離水時  浮き方の練習時

80.4%

19.6%

59.4%

39.8%

13.2%

12.6%

5.1%

84.8%

5.4%

9.8%

80.4%

15.2%

4.4%

83.7%

16.3%

10.9%

76.1%

13.0%

51.5%

25.3%

25.3%

13.1%

8.着衣水泳の実施学年   5,6年

  6年   全学年   5年生   4年生   4,6年生   その他

9.実施時期   9月   7月   7,9月   6月

  8月         ・ 10.着衣水泳の時間配当   年1回

  年2回   年3回   2時間   1時間   その他

11.着衣水泳時の服装   長袖長ズボン靴   長袖長ズボ≧

  その他

12.着衣水泳で用いる着衣等の指示   よく洗濯した物

  真新しい物   何も指示なし   色落ちしない物

36.2%

18.1%

18.1%

6.1%

6.1%

3.0%

4.5%

60.8%

32.4%

4.1%

1.4%

1.4%

95.0%

3.8%

1.2%

49.4%

39.7%

10.9%

82.4%

10.8%

6.8%

88.7%

10.4%

0.9%

0.3%

施していない理由は,着衣水泳のための「時間調 整ができない(59.4%)」ことやプールの「水質汚 濁問題(39.8%)」が大きな理由としてあげられ た.着衣水泳の必要性については多くの教員

(84.8%)が必要であるとし,着衣水泳の経験の ある教員(80.4%)や着衣水泳の指導経験のある 教員(83.7%)がほぼ同様の値を示した.なお,

危険を感じた状況については10.9%の教員が危険 を感じており,危険を感じた状況は水に落ち込む

!際が最も多く(51.5%),脱衣脱靴時(25.3%),

離水時(25.3%)が続いて多かった.

 着衣水泳の実施学年は,5,6学年で実施してい る小学校が最も多く(36.2%),これに続いて全

学年の実施校と6学年のみの実施校が同率

(18.1%)で多かった.実施時期は9月(60.8%),

7月(32.4%)の順,実施回数は年1回が95.0%で 最も多く,配当時間は2時問(49.4%)が最も多 く,続いて1時間(39.7%),3時間,30分の順で 多かった.実施時の服装は長袖+長ズボン+靴の 組み合わせ(82.4%),長袖+長ズボンの組み合わ せ(10.8%)の順で多く,着衣については88.7%の 小学校がよく洗濯した着衣等の持参を求めてお り,また真新しい物,色落ちしない物を求めた小 学校がそれぞれ(10.4%,0.3%)であった.

 表3は,クロス集計を行い関連性が高いと思わ

れる項目について,Pearsonのカイ2乗検定を実

施した結果,有意(p<.005)に関連する独立性が

認められなかった項目について示したものであ

(6)

小学校における着衣水泳実施の課題 45

表3 カイ2乗検定による関連項目 関連項目 検定統計量  有意確率 実践経験×指導経験

   ×指導希望 指導経験×指導希望    ×危険感の経験 指導希望×危険感の経験 必要性×指導希望

6.505 9.114 5.341 12.123 22.013 6.045

.000

.010

.021

.002

.000

.049

る.これらを見ると,着衣水泳の経験を有する 者ほど指導経験を有し今後も指導を積極的に 行っていきたいと思っていること,指導経験を 有する者ほど指導中に危険を感じたことがある が今後も指導を積極的に行っていきたいと思っ ていること,また今後も指導を積極的に行って いきたいと思っている者ほど指導中に危険を感 じたことがあること,そして着衣水泳の必要性 を感じている者ほど今後も指導を積極的に行っ ていきたいと思っていることを示す結果が表れ

た.

 表4は,児童に対するアンケート調査結果を示 したものである,これらを見ると,水に入ったと きの感想では「重いと感じた(36.7%)」「衣服が

絡み変な感じ(28.9%)」「気持ちが悪い

(26.4%)」等をあげ,泳いでいるときの感想では

「泳ぎにくい(36.7%)」「重いと感じた(28.9%)」

「進まない(24.7%)」等をあげ普段の水泳に比 べて種々の違和感を表した.また,怖いと感じた ときの感想では「背泳ぎ等で水を飲んだとき

(17.8%)」を最も多くあげ,続いて「水から落ち るとき(8.5%)」をあげている.着衣でプールサ イドから離水するときの感想では,ほとんどの児 童が「重くて上がりにくい(96.2%)」をあげ,「ふ らついた(16.9%)」「水の中に落ちた(4.4%)」

「足をすべらせた(3.8%)」等,事故に繋がるよう な体験を表した.また,着衣水泳を体験して心に 残ったことについては,いずれも初めて着衣水泳 を体験した児童であったが,「着衣水泳の大変さ がわかった(29.2%)」を筆頭に「この体験を活か したい(12.4%9)」「ペットボトルで浮いたこと

(11.6%)」「あわてないようにすること(10.1%)」

等をあげている.

3.着衣水泳時の身体負担度

 図1は,各種泳法による着衣で泳いだ時の心拍 数の変化を示したものである.いずれの泳法にお

表4 児童に対するアンケート調査結果 1.水に入ったとき

 重いと感じた  衣服がからみ変な感じ  気持ちが悪い  動きにくい  締め付けられる

2.泳いでいるとき  泳ぎにくい  重いと感じた  進まない  体がどんどん沈む  バタ足が難しい 3.怖いと感じたとき  背泳ぎ等で水を飲んだとき  水に落ちるとき  泳げなくなったとき  クロールの呼吸のとき  イカ泳ぎ†のとき

142名 112名 102名 33名 14名 142名 112名 71名 32名 31名 69名 33名 26名 18名 16名

36.7%

28.9%

26.4%

8.5%

3.6%

36.7%

28.9%

24.7%

8.3%

8.0%

17.8%

8.5%

6.7%

4.7%

4.1%

4.着衣でプールから離水するとき  重くて上がりにくい

 ふらついた  水の中に落ちた  足を滑らせた

5.心に残ったこと

 着衣水泳の大切さがわかった  この体験を活かしたい  ペットボトルで浮いたこと  あわてないようにすること  体が浮くペットボトルの持ち方  普段体験できないことができた  浮いて待つ,イカ泳ぎ†の大切さ  水中では脱ぎにくいこと  水着泳の開放感を感じた  本当であれば動揺する

374名 23名 17名 14名

113名 48名 45名 39名 22名 20名 13名 11名  9名  8名

96.2%

16.9%

4.4%

3.8%

29.2%

12.4%

11.6%

10.1%

9.3%

8.5%

5.5%

4.7%

4.4%

3.8%

†:エレメンタリー・バックストロークのこと

(7)

拍 数

(bpm)

平泳ぎ

囲緩速泳 團高速泳

※p<0.05

† エレメンタリー・バックストロークのこと

図1 15m着衣水泳時の心拍数

石司※

白マーク:緩速泳時のRPE 黒マーク:高速泳時のRPE

◎ イカ泳ぎ※時のRPE

※ p<0.05

 (sec 15   70   60 m

泳 時 50 の 40 所 30 要 20 時 10 間

主20 観18  16 的 運

動14 強12

 10 a Pt 8

圃緩速泳 團高速泳

※ p<0.05

NS有意差無

     購

 平泳ぎ クロール 背泳ぎ イカ泳ぎ†

 † エレメンタリー・バックストロークのこと

図3 15m着衣水泳時の所要時間

† エレメンタリー・バックストロークのこと

  図2 15m着衣水泳直後のRPE

いても速く泳ぐことによって心拍数が顕著に上昇 し,各種泳法間ではいずれの泳速度においても平 泳ぎおよびエレメンタリー・バックストロークと 他の泳法において心拍数に有意な差が見られた.

 図2は,各種泳法による着衣水泳直後のRPEの 変化を示したものである.いずれの泳法において

も速く泳ぐことによってRPEが有意に高くなり,

平泳ぎでは泳速度に関わらずエレメンタリー・

バックストロークを除く他の泳法に比較して RPEが有意に低く表れた.また,背泳ぎでは,

緩速泳時と高速泳時のRPEには有意な差は見ら れなかったが,クロールの高速泳時を除く他の泳 法のRPEに比較して有意に高く表れた.

 図3は,各種泳法による着衣水泳時の所要時間 の変化を示したものである.各種泳法の緩速泳時 と高速泳時の所要時間を見ると,平泳ぎでは高速 泳時の所要時間が有意に短縮したが,その他の泳 法では有意な差は見られなかった.背泳ぎでは,

他の泳法に比較して顕著に長い時間を要したが,

高速泳時では緩速泳時に比較して統計学的に有意 な差はないもののやや長くなる傾向を示した.な お,エレメンタリー・バックストロークの所要時 間は,平泳ぎおよびクロールの緩速泳時と比較し て有意な差は見られなかった.

N 考  察

 まず,着衣水泳実施の際常に話題となるプー

ル水の汚濁問題について得られた結果から検討を

加える.着衣水泳実施後のプール水の水質は,今

回調査を行ったいずれの小学校においても学校環

境(プール水)の衛生基準を逸脱するような検査

項目は見られなかった.このことは,今回行われ

た着衣水泳では各学校から保護者や児童に向けた

着衣水泳実施の「お知らせ」や「お願い」等のプリ

ントを配布し,特に衣服や靴等については「よく

洗濯した物」「真新しい物」「色つきの物は一度洗

濯しておく」等を前日までに知らせたこと,また

実施直前の着衣や靴等の簡易な点検を行ったこ

と,加えて近年プール水の循環濾過装置の性能が

(8)

小学校における着衣水泳実施の課題 47

著しく向上したこと(日本災害救護推進協議会 編2002)によるものと考えられる.したがって,

着衣水泳実施の際には,荒木ほか(1995,PP.20−

21)の報告と同様に,着衣水泳前日までの適切な 指示や直前の着衣等の点検によってプール水の汚 濁を避けることが十分可能であると思われる.こ のことは,すなわちその後の水泳指導計画に何ら 悪影響をもたらすものではないことを示唆するも ので,6月から始まる水泳の指導計画に組み入れ て行うことが可能となり,それによって着衣によ る水の事故が急増する夏休み前に着衣水泳の実施 ができるとともに,今後取り扱われることになる 水辺活動の指導への布石ともなり得るものと考え

る.

 つぎに,着衣水泳の実態調査結果をもとに,着 衣水泳実施に必要な諸要因や未実施の諸要因等に ついて検討を試みる.着衣水泳実施の小学校は 80.4%であったが,高橋ほか(2001,p.519)の報 告(73.5%)に比較してやや高い実施率を示した.

これは,東京都と関東地方といった調査地域の違 いによるものと考えられるが,いずれにしても多 くの小学校では着衣水泳が実施されていることを 示している.その意味で,まず,未だ着衣水泳を 実施していない小学校の調査結果について検討を 加え,実施へ向けた問題解決の糸口を考えていく

ことが必要である.

 現在,着衣水泳未実施の小学校では,その理由 の代表的なものに「プール水が汚濁する」ために つぎの水泳授業に支障を来たす可能性や水質管理 が大変であること,着衣水泳のための「時間調整 が困難である」ために授業時間を確保できないこ とをあげ この両者の合計値は先に示した高橋ほ か(2001,配付資料)とほぼ同数の96.2%を示し た・プール水の汚濁問題については,先述のよう に着衣・靴等についての適切な指示があれば着 衣水泳実施によってプール水を汚濁することはな いことが明らかとなった.また,授業時数の調整 にっいては,平成14度から実施されている学習 指導要領(文部省編1998)の体育の内容に「水 辺活動」が加えられたことや今日の水による事故 の実態(警察庁編2003,P.13),すなわち着衣で

の事故,自然水域での事故,夏期中の事故,中学 生以下の子ども達の事故について教員の認識を高 めるとともに,統計処理により有意性が見られた

「着衣水泳の必要性を感じている者ほど着衣水泳 を積極的に指導していきたいと思っている」こと が示唆するように,小学校教員に対して着衣水泳 の必要性を理解させることが先決であると考え る.あるいはまた,着衣水泳の経験のない教員が 19.5%を占めたが,統計処理により有意性の見ら れた「着衣水泳の経験を有する者ほど着衣水泳の 指導に積極的である」ことを逆に考えれば着衣 水泳の指導に自信を持っていないことを示唆して おり,それを補うためにも着衣水泳に関する指導 者研修会等を開催することが焦眉の急と思われ

る.

 ところで,着衣水泳は不測の事態の疑似体験学 習であるため,着衣水泳実施中の安全確保が重要 な課題である.安全確保とは,菅原(1992)が指 摘するように安全管理と安全指導の両輪がかみ 合って初めて可能となるもので,安全対策とは安 全確保の策であると考える.したがって,こうし た観点から調査結果の検討を進めていく.まず,

教員では,経験の有無にかかわらず着衣水泳のね らいを不測の事態の疑似体験であるとした認識に 基づいて設定しているが,指導中に危険を感じた

ことがある者が10.9%,危険があったかどうか分

からない者が13.0%,自信を持って危険を感じた

ことは「ない」と答えた者が76.1%であった.ま

た,統計処理により有意性の見られた「着衣水泳

の経験や指導経験を有する者ほど着衣水泳指導中

に危険を感じている」ことについては,着衣水泳

の経験や指導経験により危険への予知能力ひいて

は回避能力が高まっていることによるものと考え

られるが,教員の着衣水泳の経験者が80.4%で

あったにもかかわらず着衣水泳の指導経験者が

83.7%であり,一部ではあるが着衣水泳の経験の

ない教員が不測の事態の疑似体験としての着衣水

泳を指導しているという実態が浮き彫りとなった

ことと,指導の際危険を感じるようなことがあっ

たか否かわからない者が13.0%を示したことを考

え合わせると,指導中の危険の予知能力や回避能

(9)

力を育成するためにも実践的研修会等の開催が必 要である.また,危険を感じた状況は「水への落 ち込み(51.5%)」が最も多く,続いて「脱衣脱靴 時」「離水時」が同率(25.3%)を示した.この点 に関して児童の感想から見ると,怖いと感じた時 は「背泳ぎ等で水を飲んだとき(17.8%)」で最も 多く,続いて「水に落ちるとき(8.5%)」であっ た.教員と児童が共通してあげた「水に落ちると き」については,テレビ放映やビデオ映像((財)

リバーフロント整備センター編1992)等による 影響か,多くの学校では水に落ちる行為を「プー ルサイドから突き落とす」ことが定番になってい るようであるが,現実的に「人を突き落とす行為」

が着衣による水の事故の発生を代表するものでは ないことと,プールの水深が浅い点を考えれば人 を突き落とす行為はむしろ危険と考えられ,自ら 落ち込む方法を取る方がよいように思われる.

 着衣水泳の授業の際児童の感想で明らかに なった点について検討を加える.着衣でプールか

ら離水するとき「重くて上がりにくい(96.2%)」

ことによるものか,中には「ふらついた

(16.9%)」「水の中に落ちた(4.4%)」「足をすべ らせた(3.8%)」者が見られ,これは通常の水泳 の際にも多少見られる現象であるもののやや頻度 が高いと考えられる.したがって,着衣水泳で は,特に離水時の注意の喚起あるいは離水の仕方 についても指導内容として加えることが必要と考 えられる.また,着衣水泳では,児童個々の泳力 差が着衣によってさらに大きくなり,等間隔に泳 ぎ始めてもプールが混雑を極める状態となり,そ れによって水を飲んだり(17.8%),泳げなくな る(6.7%)原因となっている.(財)日本水泳連 盟(19667)が指摘するように,泳ぐ方向,距離 泳ぎ方に応じて,臨機に泳ぐ間隔を考慮して泳が せることが必要である.

 つぎに,着衣水泳の実施に向けた今後の課題を 探るため,着衣水泳実施の小学校における実態に ついて考えてみる.着衣水泳の実施時期は,多く の小学校では夏休み後の2学期に入ったいわゆる プL−・一・ル納めのセレモニーの一環として行われてい るとした報告(柴田ほか,2002)と同様iであった

カs ,その理由はプール水の汚濁がその後の水泳の 授業計画に影響を及ぼすことを憂慮したものであ る.このことについては,着衣水泳後のプー・・ル水 の汚濁は見られなかったことと,水死事故の発生 状況(夏期中,自然ゐ水域に多発すること)を勘 案すると9月の実施が各校の掲げた着衣水泳のね らいから逸脱していることを考え合わせると,荒 木ほか(1992,P.21)や日本災害救護推進協議会

(2002,P.6)が指摘するように夏休み前すなわち 1学期中の水泳授業で積極的に取り入れていくこ とが必要であろう.また,着衣水泳を正課授業に 取り入れることによって着衣水泳の教材研究がさ らに進められ,これがひいてはより安全で効果的 な授業づくりの基礎ともなる.着衣水泳の実施回 数は年1回が95.0%で最も多く,時間配当は2時 間(49.4%)が最も多く,続いて1時間(39.7%)

であった.このように,着衣水泳が不測の事態の 疑似体験学習である点を考えれば少なくとも1〜2 時間程度の時間配当があれば実施可能であり,未 実施の理由が授業時数を確保することが困難であ るとした点を払拭できるものと考える.

 最後に,今後の授業内容を構成するために着衣 水泳が児童に及ぼす身体負担度の面から検討を加 える.着衣による緩速の平泳ぎでは,心拍数 RPEがクロールや背泳ぎに比較して有意に低く,

所要時間はクロールとほぼ同程度で,背泳ぎに比 較して有意に短かった.また,速く泳ぐことは,

平泳ぎのみにその効果が現れたが,代償としてい ずれの泳法においても心拍数やRPEの有意な上 昇をみた.このことは,Ohkuwaらの報告(2002),

すなわち着衣水泳では平泳ぎが最も身体負担が小 さく効率的である点,背泳ぎではさらに甚大な身 体負担を招来する点,そして身体負担の増大傾向 は慌てて速く泳こうとすればそれだけ顕著となる 点で一致するところである.したがって,既習の 泳ぎ方で泳がせる中で,速く泳がせたりゆっくり 泳がせたりすることによって,「平泳ぎでゆっく り」泳ぐことが大切であることを理解させる必要 がある.このことについて,荒木ほか(1995,

pp.112−116)も同様の指摘をしている. Austra−

lianTechnical Committee Ed.(1987, pp.60−61)の

(10)

小学校における着衣水泳実施の課題 49

教程にも取り上げられているエレメンタリー・

バックストローク (elementary backstroke)は,

いずれの調査項目を見ても平泳ぎとほぼ同様の傾 向を示したが,平泳ぎに比べて「技術が容易であ る」(日本体育・学校健康センター,1999,pp.72−

79)ことを考えれば,いわゆる「水泳」の学習段 階に至っていない低学年児童の指導内容として考 慮することが望まれる.しかしながら,いずれに しても着衣水泳は通常の泳ぎに比較して身体負担 度が大きいことは事実((財)リバーフロント整 備センター編1992,pp.93−94)であることから,

藤本ほか(1998)が指摘するように泳げないと判 断した際には浮いて助けを待つことが大切で,

Australian Technical Committee Ed.(1987, pp.68−

70)が示しているようにペットボトルのような物 を利用した浮き方についての学習を避けてはなら ないと考える.

 水泳指導は,(財)日本水泳連盟(1967,p.74)が 指摘するように指導と管理が表裏一体の下で行わ れなければならないが,イギリス(Amateur Swim−

ming Associatioin, Ed.,1976, pp.64−72)やオースト ラリア (Australian Technical Committee Ed.,1987,

pp.151−154)等の水泳指導では着衣水泳等のサバ イバルテクニックといった安全水泳の学習が泳法 指導の前提となっているのに対して,わが国では 泳げるようになるための「浮き方」の学習に始ま り,競泳のための「泳ぎ方」の学習に終始している.

その結果,柴田(1999)が指摘するように欧米で は水死事故が少なく競泳メダリストが多い,それ に対してわが国では水死事故が多く競泳メダリス トが少ないといった皮肉の現象をもたらしてい る.わが国の学校水泳においても,柴田(1995)

や中学校体育・スポーツ教育実践講座刊行会

(1998,PP.163−167,210−217)が指摘しているよ うに「水泳」から「アクアティックスポーツ」と いった視野へと水泳内容のバリエーションを広 げその一つとして安全に泳ぐ力を育む着衣水泳 は是非適時期に取り入れたいものである・その意 味から,得られた知見に基づき着衣水泳の実践に 向けた方策をいくつか提言したが・これらが水辺 活動の指導に関連することや水泳の安全を担うべ

く水泳指導法の確立といった面でスポーツ方法学 に貢献するものと確信する.

V 結  論

 本研究では,小学校体育の内容に「水辺活動」

が加えられたことや現実的社会問題としての水死 事故の実態を鑑み,小学校における着衣水泳実施

に関わる諸要因の検討により問題点を明らかにす ることを目的とした.そのため,着衣水泳前後の 水質検査,小学校教員や児童を対象とした着衣水 泳に関するアンケート調査,着衣水泳時の身体負 担度について調査を行った.その結果,以下に示

した結論を得た.

1)着衣水泳実施後のプール水の水質は,着衣に   関する事前の指示と簡易な点検によりプール   水の衛生基準から逸脱することはなかった.

  このことにより,水による事故の実態や水辺   活動に対応した1学期(夏休み前)の学習教   材として積極的かつ計画的に取り入れられる   可能性が示唆された.

2)小学校教員では,着衣水泳の経験や指導の経   験を有する者ほど着衣水泳の指導意欲が旺盛   で,また指導中に危険感を抱いていることが   明らかとなった.このことから,着衣水泳の   指導に積極的に当たらせるためにも着衣水泳   に関する実践的研修会の開催が必要であり,

  それによって指導中の危険への予知能力も培   われることが期待される.

3)着衣水泳の指導中に教員が危険を感じた場面   と着衣水泳の授業中に児童が怖いと感じた場   面の調査から,着衣水泳の指導中に注意を喚   起すべき点が明らかとなった.このことか   ら,着衣水泳自体の指導に加え,水への落ち   方,離水の仕方,そして着衣水泳の指導(距   離間隔,方向等)に関する知識と技能の向   上を図ることが必要である.

4)着衣水泳時の身体負担は,クロールや背泳ぎ

  に比較して平泳ぎやエレメンタリー・バック

  ストロークでは有意に小さく,いずれの泳法

  においても速く泳ぐことによって有意に大き

(11)

くなった.このことから,着衣水泳ではク ロールや背泳ぎは体験に留めても,平泳ぎや エレメンタリー・バックストロークでは泳ぎ 方や緩徐に長く泳ぐような指導を加え,浮遊 物を持った浮き方(浮いて待つこと)の指導 は必要不可欠と考える.

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参照

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