第65巻 第1号39–69 2017c 統計数理研究所
[研究詳解]
高頻度データに基づく確率微分方程式モデルの ハイブリッド推定
内田 雅之1,2,3
(受付2016年6月28日;改訂10月14日;採択10月17日)
要 旨
本論文では,高頻度データを用いた確率微分方程式モデルの未知パラメータにおけるハイブ リッド推定について解説する.最適な収束率より遅いベイズ型推定量を初期推定量とした,マ ルチステップ推定法や適応的最尤型推定法を説明し,それらの推定量の漸近的性質について述 べる.エルゴード的拡散過程,非エルゴード的拡散過程,微小拡散過程の
3
種類の拡散モデル を取り扱い,数値実験により提案した推定量の漸近的挙動を考察する.キーワード:拡散過程,確率微分方程式,最尤型推定量,ハイブリッド推定量,ベイ ズ型推定量,マルチステップ推定量.
1. はじめに
情報技術の発展により,金融などの時系列データが高頻度に観測可能となり,連続時間確率過 程モデルの統計解析の需要が増してきている.特に,確率微分方程式で定義された拡散型確率 過程モデルの統計解析は今までに盛んに研究されている(Kutoyants, 1984, 1994, 2004; Prakasa
Rao, 1988; Yoshida, 1992a, 1992c; Genon-Catalot and Jacod, 1993; Bibby and Sørensen, 1995;
Kessler, 1997; Prakasa Rao, 1999; Iacus, 2008; Sørensen, 2012)
.非線形で非定常な連続時間確率 過程である拡散過程モデルは表現力豊かな統計モデルである反面,尤度関数を明示的に求める ことができない難点があるが,マリアバン解析や疑似尤度解析を援用することにより,統計的 漸近理論を展開することが可能である.高頻度データにおける統計的モデリングやモデル選択 のための情報量規準についても精力的に研究されていて,実際にデータ解析を行う上での問題 点が指摘されている.例えば,エルゴード的拡散過程モデルでは,ドリフトパラメータとボラ ティリティパラメータという2
種類の未知パラメータを推測する必要があるが,疑似尤度関数 が複雑で,パラメータ空間が高次元である場合,疑似尤度関数の最大化によって疑似最尤推定量(または最尤型推定量)を計算することが困難となることが多々ある.最尤型推定量の導出に失 敗して,誤った値を算出した場合,情報量規準に基づくモデル選択に影響が出ることも知られ ている.このことから,理論的に保障された推定量であっても,実際にデータ解析において正 しい推定量を算出できるかは別の問題となる.本論文では,確率微分方程式モデルのパラメー タを効率よく推定するための統計的手法の一つであるハイブリッド推定法について解説する.
1大阪大学大学院 基礎工学研究科:〒560–8531大阪府豊中市待兼山町1–3
2大阪大学 数理・データ科学教育研究センター(MMDS):〒560–8531大阪府豊中市待兼山町1–3
3CREST
最初に,I.I.D.モデルにおけるハイブリッドマルチステップ(HMS)推定量について考察する.
l
n(θ)
はθ ∈
Rに関して滑らかな対数尤度関数とする.q∈ (0, 1/2], J = [− log
2q]
とすると,2
J−1q ≤ 1/2 < 2
Jq
となる.初期推定量θ ˆ
(0)は,M >0
に対し,sup
n
E
θ∗[ | n
q(ˆ θ
(0)− θ
∗) |
M] < ∞ (1.1)
を満たすとする.ここで,θ∗はパラメータ
θ
の真値で,Eθ∗は真のモデル(分布)P
θ∗ の下での 期待値を表す.k= 1, . . . , J
に対し,k-
ステップ推定量θ ˆ
(k)をθ ˆ
(k)= ˆ θ
(k−1)− [∂
θ2l
n(ˆ θ
(k−1))]
−1[∂
θl
n(ˆ θ
(k−1))]
と定義する.ただし,∂θ
=
∂θ∂, ∂
θ2=
∂θ∂2 で,∂
θ2l
n(ˆ θ
(k−1)) = 0
とする.θは1
次元パラメータで あることに注意する.テイラーの定理より,∂
θl
n(θ
∗) = ∂
θl
n(ˆ θ
(k−1)) + ∂
θ2l
n(ˆ θ
(k−1))[θ
∗− θ ˆ
(k−1)] + R
n[(θ
∗− θ ˆ
(k−1))
2], R
n=
1
0
(1 − t)∂
θ3l
n(ˆ θ
(k−1)+ t(θ
∗− θ ˆ
(k−1)))dt
だから,θ ˆ
(k)= ˆ θ
(k−1)− [∂
θ2l
n(ˆ θ
(k−1))]
−1[∂
θl
n(θ
∗) − ∂
θ2l
n(ˆ θ
(k−1))[θ
∗− θ ˆ
(k−1)] − R
n[(θ
∗− θ ˆ
(k−1))
2]]
= ˆ θ
(k−1)− [∂
θ2l
n(ˆ θ
(k−1))]
−1[∂
θl
n(θ
∗)] + (θ
∗− θ ˆ
(k−1)) + [∂
θ2l
n(ˆ θ
(k−1))]
−1R
n[(θ
∗− θ ˆ
(k−1))
2]
となる.ゆえに,θ ˆ
(k)− θ
∗= − [∂
2θl
n(ˆ θ
(k−1))]
−1[∂
θl
n(θ
∗)] + [∂
θ2l
n(ˆ θ
(k−1))]
−1R
n[(ˆ θ
(k−1)− θ
∗)
2].
特に,2q
≤ 1/2
のとき(初期推定量θ ˆ
(0)が√
n -
一致性が保証されていない場合),n
2q(ˆ θ
(1)− θ
∗) = −
1
n ∂
θ2l
n(ˆ θ
(0))
−1n
2qn ∂
θl
n(θ
∗)
+ 1
n ∂
θ2l
n(ˆ θ
(0))
−11
n R
n[(n
q(ˆ θ
(0)− θ
∗))
2].
したがって,√1
n
∂
θl
n(θ
∗)
やn1R
nの可積分性などの正則条件の下で,sup
n
E
θ∗[ | n
q(ˆ θ
(0)− θ
∗) |
M] < ∞ = ⇒ sup
n
E
θ∗[ | n
2q(ˆ θ
(1)− θ
∗) |
M] < ∞
が言える.これを繰り返すことによって,マルチステップ推定量は,ある正則条件の下でsup
n
E
θ∗[|n
2q(ˆ θ
(1)− θ
∗)|
M] < ∞ = ⇒ sup
n
E
θ∗[|n
22q(ˆ θ
(2)− θ
∗)|
M] < ∞, .. .
sup
n
E
θ∗[ | n
2J−2q(ˆ θ
(J−2)− θ
∗) |
M] < ∞ = ⇒ sup
n
E
θ∗[ | n
2J−1q(ˆ θ
(J−1)− θ
∗) |
M] < ∞ , sup
n
E
θ∗[|n
2J−1q(ˆ θ
(J−1)− θ
∗)|
M] < ∞ = ⇒ sup
n
E
θ∗[| √
n(ˆ θ
(J)− θ
∗)|
M] < ∞
となり,J
-
ステップ推定量θ ˆ
(J)は漸近有効になる.注目すべきことは,(1.1)からわかるよう に,この初期推定量は最適な収束率をもつことを仮定していないが,マルチステップ推定量は 最適な収束率をもつことである.よく知られているワンステップ推定量は初期推定量が√
n -
一 致性をもつことを仮定している.このことからも,初期推定量の条件が緩いマルチステップ推 定量がより有用であることがわかる.(1.1)を満足する初期推定量として,最尤型推定量とベイズ型推定量を考えることができるが,
最尤型推定量の導出には最適化が伴い,初期値の設定が重要な鍵となる.一方で,ベイズ型推 定量は,マルコフチェーンモンテカルロ(MCMC)法を用いた数値計算により導出される.最尤 型推定量の数値計算に比べて,ベイズ型推定量の数値計算は初期値の影響が少ない.本論文で は,ベイズ型推定量を初期推定量として用いて,最尤型推定(マルチステップ推定)により,漸 近有効推定量を導出する方法をハイブリッド推定法と呼ぶことにする.特に,初期ベイズ推定 量を用いたマルチステップ推定法をハイブリッドマルチステップ推定法と表現することにする.
本論文の構成は次の通りである.第
2
節では,エルゴード的拡散過程について3
種類のハイ ブリッドマルチステップ推定量を提案し,モーメント収束性などの漸近的性質について論じる.また,具体例とシミュレーション結果を示す.第
3
節では,非エルゴード的拡散過程について ハイブリッドマルチステップ推定量を提案し,モーメント収束性を含めた漸近的性質について 説明する.ハイブリッドマルチステップ推定量の具体例とシミュレーション結果を述べる.第4
節では,微小拡散過程について,適応的最尤型推定量と適応的ベイズ型推定量について考察 し,それらを混合したハイブリッド推定量を提案し,その漸近的性質について概説する.ハイ ブリッド推定量の具体例と数値実験結果について言及する.言うまでもなく,推定量の極限分布は統計的漸近理論には必須であり,モデル選択問題におけ る情報量規準を正当化するために,推定量のモーメントの収束性を示すことは不可欠である.幾 多の統計的漸近理論の研究があるが,特に
Ibragimov and Has’minskii
(1981),Kutoyants
(1984,2004)
,Yoshida
(2011)の精読を薦める.拡散過程のモデル選択に関しては,Uchida and Yoshida
(2001, 2004a, 2006, 2016),Uchida(2010)を参照.
2. エルゴード的拡散過程
本節は,Kamatani and Uchida(2015)の結果に従って,エルゴード的拡散過程のドリフトパ ラメータおよびボラティリティパラメータのハイブリッドマルチステップ推定量を導出し,そ の漸近的性質を考察する.
2.1 モデルと仮定
次の確率微分方程式で定義される
d -
次元拡散過程を考える.すなわち,dX
t= b(X
t, β)dt + a(X
t, α)dw
t, t ≥ 0, X
0= x
0. (2.1)
ここで,
w
はr -
次元標準ウィーナー過程,x0 は初期値,θ = (α, β) ∈ Θ
1× Θ
2= Θ
で,Θ
1,Θ
2 はそれぞれ,Rm1,Rm2のコンパクトで凸な部分集合とする.さらに,b
:
Rd× Θ
1→
Rd, a :
Rd× Θ
2→
Rd⊗
Rr とする.θ∗= (α
∗, β
∗)
はθ
の真値とする.θ∗
∈ Int(Θ)
であり,パラメータ空間は局所的にリプシッツ境界をもつと仮定する.Adamsand Fournier
(2003)を参照.データXn= (X
tni
)
0≤i≤nは離散観測され,tni= ih
nとする.pは整数で
p ≥ 2
とする.n→ ∞
のとき,hn→ 0,nh
pn→ 0
であるとし,十分大きなn
に対しn
0≤ nh
nを満たす0
∈ (0, (p − 1)/p)
が存在するとする.hn= 1/n
1/4の例を考える.n→ ∞
のときnh
n→ ∞,nh
5n→ 0
となるが,nh4nは0
に収束しない.この場合p ≥ 5
となるp
を選択 する必要がある.Kutoyants
(1984, 2004)に代表されるように連続観測データに基づくエルゴード的拡散過程モデルによる統計推測はこれまで精力的に研究されてきており,離散観測データからのエルゴー ド的拡散過程モデルによる統計解析についても,今なお多くの研究者によって研究され続けて いる.Prakasa Rao(1983, 1988),Yoshida(1992c, 2011),Bibby and Sørensen(1995),Kessler
(1995, 1997),Gobet(2002),Uchida(2010),Uchida and Yoshida(2001, 2011, 2012, 2014),
Masuda
(2013a, 2013b)を参照.また,ジャンプ付拡散過程とレヴィ過程についてはShimizu and Yoshida
(2006),Shimizu
(2006),Ogihara and Yoshida
(2011),Masuda
(2013a, 2013b)を参照.特に
Kessler(1995, 1997)
は,nhpn→ 0
の仮定の下での1
次元拡散過程の疑似対数尤度関数U
p,n(α, β)
を提案している.k0= [
p2],A(x, α) = aa
(x, α)
とおく.ここでは転置とする.Lθ
は拡散過程(2.1)の生成作用素,すなわち,
L
θ=
di=1
b
i(x, β)∂
i+
12di,j=1
A
ij(x, α)∂
i∂
jとする.ΔX
i= X
tn i− X
tni−1
, A
i−1(α) = A(X
tni−1
, α), b
i−1(β) = b(X
tni−1
, β)
とする.→
p と→
d はそれぞ れ,確率収束と分布収束を表す.同じサイズの行列A, B
に対し,A
⊗2= AA
,B[A] = tr(BA
)
を定義する.| · |はユークリッド距離を表し,行列A
に対し,||A||2= tr(AA
)
とする.疑似対数尤度関数
U
p,n(θ)
は次のように定義される.U
p,n(θ) = − 1 2
n i=1
h
−1nk 0 j=0
h
jnD
(j)i−1(θ)
[(X
tni
− r
(ki−10)(h
n, θ))
⊗2] +
k0
j=0
h
jnE
(j)i−1(θ)
.
ここで
(r
i−1(k0)(h
n, θ))
m=
k0j=0hjn
j!
L
jθf
m(X
tni−1
), f
m(x) = x
mである.さらにj = 0, 1, . . .
に対 し,D
(j)i−1(θ) := D
(j)(X
tni−1
, θ), E
i−1(j)(θ) := E
(j)(X
tni−1
, θ)
を次のように定義する.q, r= 1, . . . , d
に対し,(Ξ
(l)(h
n, x, θ
∗))
qr=
l v=0h
vn l−v w=0h
wnw! L
wθ¯ g
qr,x,θ(v)(x),
¯
g
(0)qr,x,θ(y) = (y
q− x
q)(y
r− x
r),
¯
g
(j)qr,x,θ(y) = − (y
q− x
q) L
jθf
r(x)
j! − (y
r− x
r) L
jθf
q(x) j!
+
r≥1,s≥1 r+s=j
L
rθf
q(x) r!
L
sθf
r(x)
s! , (1 ≤ j ≤ l).
(Ξ
(l)(h
n, x, θ))
qr=
lj=0
h
jnγ
qr(j)(x, θ)
とおけば,γ
qr(0)(x, θ) = 0, γ
qr(1)(x, θ) = A
qr(x, α), γ
qr(2)(x, θ) = 1
2
L
θA
qr(x, α) +
d j=1{ (∂
xjb
q(x, β))A
jr(x, α) + (∂
xjb
r(x, β))A
jq(x, α) }
となる.オーダー
l
までの(h
−1nΞ
(l)(h
n, x, θ))
−1のテイラー展開はlj=0
h
jnD
(j)(x, θ)
であり,D
(0)(x, θ) = A
−1(x, α),
D
(1)(x, θ) = − A
−1(x, α)γ
(2)(x, θ)A
−1(x, α),
D
(2)(x, θ) = { (A
−1(x, α)γ
(2)(x, θ))
2− A
−1(x, α)γ
(3)(x, θ) } A
−1(x, α)
となる.同様に,オーダーl
までのlog det(h
−1nΞ
(l)(h
n, x, θ))
のテイラー展開はlj=0
h
jnE
(j)(x, θ)
であり,E
(0)(x, θ) = log det(A(x, α)), E
(1)(x, θ) = tr(A
−1(x, α)γ
(2)(x, θ)), E
(2)(x, θ) = 1
2 tr(2A
−1(x, α)γ
(3)(x, θ) − { (A
−1(x, α)γ
(2)(x, θ))
2} )
となる.疑似対数尤度関数
U
p,n(α, β)
の詳細についてはKessler
(1997)やUchida and Yoshida
(2012)を参照.Kessler(1997)は同時最尤型推定量
θ ˆ
p,n= ( ˆ α
p,n, β ˆ
p,n)
をU
p,n( ˆ α
p,n, β ˆ
p,n) = sup
α,βU
p,n(α, β)
と定義し,n→ ∞,nh
pn→ 0
のとき,次のような漸近正規性を持つこと を示した.( √
n( ˆ α
p,n− α
∗), √
nh
n( ˆ β
p,n− β
∗)) →
d(ζ
1, ζ
2) ∼ N
m1+m2(0, Γ(θ
∗)
−1).
ここで,
Γ(θ
∗) = (Γ
ij1(θ
∗))
1≤i,j≤m10 0 (Γ
ij2(θ
∗))
1≤i,j≤m2
, Γ
ij1(θ
∗) = 1
2
Rd
tr{A
−1(∂
αiA)A
−1(∂
αjA)(x, α
∗)}μ
θ∗(dx), Γ
ij2(θ
∗) =
Rd
(∂
βib(x, β
∗))
A(x, α
∗)
−1∂
βjb(x, β
∗)μ
θ∗(dx).
しかし,先述した通り,
Θ
の次元が大きいとき,同時最尤型推定量の導出は困難となる.Yoshida(1992c)は
nh
3n→ 0
という仮定での適応的最尤型推定を考察した.適応的最尤型推定とはドリ フトパラメータと拡散係数パラメータを別々に推定する有効な方法である.nhpn→ 0
について はKessler
(1995)を参照.Uchida and Yoshida(2012, 2014)はIbragimov-Has’minskii-Kutoyants
の手法(Ibragimov and Has’minskii, 1981; Kutoyants, 1984, 2004)とYoshida
(2011)の結果を応 用して,モーメント収束性を有する3
種類の適応的最尤型推定量と適応的ベイズ型推定量を提 案した.k0,l0は整数で,k
0= [
p2],l
0= [
p−12]
とする.ここでl
0≤ k
0≤ l
0+ 1
であることに注 意する.タイプI
の適応的最尤型推定量α ˆ
(lp,n0), ˆ β
p,n(k0)はk = 1, 2, . . . , k
0に対し,U
p,n( ˆ α
(k−1)p,n, β ˆ
p,n(k)) = sup
β∈Θ2
U
p,n( ˆ α
(k−1)p,n, β), U
p,n( ˆ α
(k)p,n, β ˆ
p,n(k)) = sup
α∈Θ1
U
p,n(α, β ˆ
(k)p,n)
で定義される.ここで,ˆα
(0)p,n= ˆ α
(0)n はU
n(0)( ˆ α
(0)n) = sup
α∈Θ1
U
n(0)(α)
を満たし,U
n(0)(α) = − 1 2
n i=1
{ h
−1nA
−1i−1(α)[(ΔX
i)
⊗2] + log det(A
i−1(α)) }
である.次に適応的ベイズ型推定について考える.事前分布
π
1(α),π
2(β)
は連続でα∈Θ
inf
1π
1(α) > 0, inf
β∈Θ2
π
2(β) > 0
を満たすとする.タイプ
I
の適応的ベイズ型推定量α ˜
(lp,n0),β ˜
(kp,n0) は次のように定義される.k = 1, 2, . . . , l
0に対し,˜ α
(k−1)p,n=
Θ1
α exp {H
(k−1)p,n(α, β ˜
(k−1)p,n) } π
1(α)dα
Θ1
exp {H
(k−1)p,n(α, β ˜
p,n(k−1)) } π
1(α)dα , β ˜
(k)p,n=
Θ2
β exp {
H˜
(k)p,n( ˜ α
(k−1)p,n, β) } π
2(β)dβ
Θ2
exp {
H˜
(k)p,n( ˜ α
(k−1)p,n, β) } π
2(β)dβ ,
˜ α
(lp,n0)=
Θ1
α exp{U
p,n(α, β ˜
p,n(l0))}π
1(α)dα
Θ1
exp { U
p,n(α, β ˜
p,n(l0)) } π
1(α)dα , β ˜
p,n(l0+1)=
Θ2
β exp{U
p,n( ˜ α
(lp,n0), β)}π
2(β)dβ
Θ2
exp { U
p,n( ˜ α
(lp,n0), β) } π
2(β)dβ .
k
0= l
0のとき,β ˜
p,n(l0+1)は不要であることに注意する.さらにk = 1, 2, . . . , l
0に対しH(0)p,n
(α, β) = 1 n
1−2pU
n(0)(α),
H(k)p,n(α, β) = 1
n
1−2(k+1)pU
p,n(α, β),
H˜
(k)p,n(α, β) = 1
(nh
n)
1−p−12kU
p,n(α, β).
p ≥ 3
の場合,Uchida and Yoshida
(2014)はn → ∞, nh
pn→ 0
のとき,すべてのM > 0
に対し,sup
n
E
θ∗[|n
1p( ˜ α
(0)p,n− α
∗)|
M] < ∞, sup
n
E
θ∗[|(nh
n)
p−11( ˜ β
p,n(1)− β
∗)|
M] < ∞
が成り立つことを示した.˜
α
(0)n ,β ˜
n(1)の収束率は疑似対数尤度関数U
n(0),Up,nの正規化に依存 することに注意する.Uchida and Yoshida(2012, 2014)は適応的最尤型推定量と適応的ベイズ 型推定量が漸近正規性およびモーメント収束性を有することを示した.最尤型推定量を求める ためには最適化が必要であり,ベイズ型推定量の計算には多大な時間を要することはよく知ら れている.次にワンステップ推定量を考えてみる.すべての
M > 0
に対しn → ∞
,nhpn→ 0
のときsup
n∈N
E
θ∗[ | ( √
n( ˇ α
(0)p,n− α
∗), √
nh
n( ˇ β
(0)p,n− β
∗)) |
M] < ∞ (2.2)
を満たす初期推定量
θ ˇ
(0)p,n= ( ˇ α
(0)p,n, β ˇ
p,n(0))
を用いて,ワンステップ推定量θ ˇ
p,n(1)= ( ˇ α
(1)p,n, β ˇ
(1)p,n)
はθ ˇ
(1)p,n= ˇ θ
(0)p,n− [∂
2θU
p,n(ˇ θ
(0)p,n)]
−1∂
θU
p,n(ˇ θ
p,n(0))
で定義される.ある正則条件の下で,n
→ ∞,nh
pn→ 0
のときE
θ∗[f( √
n( ˇ α
(1)p,n− α
∗), √
nh
n( ˇ β
p,n(1)− β
∗))] →
E[f(ζ1, ζ
2)]
がすべての多項式増大な連続関数
f
に対して成り立つ.ワンステップ推定量についての詳細はLehmann
(1999)などを参照.しかし確率微分方程式モデルの場合,モーメント条件(2.2)を満たす初期推定量
θ ˇ
p,n(0) の導出は容易ではない.以上の理由から,本節では,nhpn
→ 0
という一般的な仮定の下で,初期推定量の条件を緩め たハイブリッドマルチステップ推定量を提案し,その推定量が漸近正規性とモーメント収束性 をもつことを示す.これ以降に用いる記号を定義しておく.C↑k,l
(
Rd× Θ;
Rd)
は次の条件を満たす関数f
の空間と する:(i)f(x, θ)
はRd× Θ
上のRd-
値関数である.(ii)f (x, θ)
はx
に関してk
回連続微分可能 で,それらの導関数はθ
について一様に,x
に関する多項式増大である.(iii)|n| = 0, 1, . . . , k
に 対し,∂
nf(x, θ)
はθ
に関してl
回連続微分可能である.さらに,| ν | = 1, . . . , l, |n| = 0, 1, . . . , k
に 対しδ
ν∂
nf(x, θ)
はθ
について一様に,x
に関する多項式増大である.ここで,n= (n
1, . . . , n
d),
ν = (ν
1, . . . , ν
m)
はマルチインデックスであり,m = dim(Θ), |n| = n
1+. . .+n
d, | ν | = ν
1+. . .+ν
m,
∂
n= ∂
1n1· · · ∂
ndd, ∂
i= ∂/∂x
i, δ
ν= δ
θν11
· · · δ
θνmm
, δ
θi= ∂/∂θ
i である.F↑(R
d)
は,f(x)がx
に関 して多項式増大なRd上のR-
値関数となるような可測関数の空間とする.次を仮定する.
[A1]
(i)
ある定数K > 0
が存在して,すべてのx, y ∈
Rdに対し,sup
α∈Θ1
|| a(x, α) − a(y, α) || + sup
β∈Θ2
| b(x, β) − b(y, β) | ≤ K | x − y | .
(ii) inf
x,αdet(A(x, α)) > 0.
(iii) X
tの不変測度μ
θ∗がただ一つ存在し,Rd
| f(x) | μ
θ∗(dx) < ∞
を満たす任意のf ∈ F
↑(
Rd)
に対し,T→ ∞
のとき,1 T
T
0
f(X
t)dt →
pRd
f(x)μ
θ∗(dx)
が成り立つ.(iv)
すべてのM > 0
に対して,suptE[|X
t|
M] < ∞.
(v)
Rd
g(x)μ
θ∗(dx) = 0
を満たす任意のg ∈ F
↑(
Rd)
に対し,ある関数G(x),∂
xiG(x) ∈ F
↑(
Rd) (i = 1, . . . , d)
が存在し,すべてのx
に対し,L
θ∗G(x) = − g(x).
(vi) Γ(θ
∗)
は正則.[A2]
(k,
l)a∈ C
↑k,4(R
d× Θ
1;
Rd). b ∈ C
↑l,4(R
d× Θ
2;
Rd⊗
Rr).
注1.
[A1]
の十分条件については,Uchida and Yoshida(2012)を参照.2.2 ハイブリッドマルチステップ推定量 初期推定量に対して次を仮定する.
[B]
p ≥ 2,q = max{p, 4}
とする.(i) α
の初期推定量α ˆ
(0)n はn → ∞ , nh
pn→ 0
のとき,すべてのM
1> 0
に対しn
1q( ˆ α
(0)n− α
∗) →
p0, sup
n
E
θ∗[|n
1q( ˆ α
(0)n− α
∗)|
M1] < ∞
を満たす.(ii) β
の初期推定量β ˆ
(0)n はn → ∞,nh
pn→ 0
のとき,すべてのM
2> 0
に対し(nh
n)
q−11( ˆ β
n(0)− β
∗) →
p0, sup
n
E
θ∗[|(nh
n)
q−11( ˆ β
n(0)− β
∗)|
M2] < ∞
を満たす.[B]
を満たす初期推定量は次のように得ることができる.Y
(α) = − 1 2
Rd
tr[A(x, α)
−1A(x, α
∗) − I
d] + log det(A(x, α)) det(A(x, α
∗))
μ
θ∗(dx)
とおき,以下を仮定する.[A3]すべての
α ∈ Θ
1に対し,Y(α) ≤ − χ | α − α
∗|
2となる正定数χ
が存在する.初期最尤型推定量
α ˇ
(0)n はU
n(0)( ˇ α
(0)n) = sup
α∈Θ1
U
n(0)(α)
で定義される.ここでU
n(0)(α) = − 1
2
n i=1{ h
−1nA
−1i−1(α)[(ΔX
i)
⊗2] + log det(A
i−1(α)) } .
初期ベイズ型推定量α ˜
(0)n は˜ α
(0)n=
Θ1
α exp
1 n1−2q
U
n(0)(α)
π
1(α)dα
Θ1
exp
1 n1−
2q