360°揺れる椅子を使用したデスク作業における身体的影響の評価 Evaluation of physical effects of desk work using a chair swaying 360°
1W153042-2 川島 稜平 指導教員 河合 隆史 教授 KAWASHIMA Ryohei Prof. KAWAI Takashi
概要:オフィス業務において、長時間の着座による健康への悪影響が問題とされている。そこで体を動かすことを誘発す るオフィスチェア、360°揺れる椅子が注目されている。本研究では、その椅子を使用したデスク作業において、脳の活性 度と心拍変動のバランスの関係および身体部位への影響という観点から客観的指標を用いて評価した。その結果、360°揺 れる椅子を使用したときには、従来の椅子と比較して適度なリラックス状態とストレス状態を作り出すと同時に、脳が賦 活していることがわかった。そのことから 360°揺れる椅子は創造的思考作業に向いている椅子であることが示唆された。
また、360°揺れる椅子を使用すると肩甲骨付近の僧帽筋などの特定の部位における筋負担が改善されることがわかった。
キーワード:揺れる椅子、デスク作業、身体的影響、客観的評価 Keywords: swaying chair, desk work, physical burden, and objective evaluation
1 はじめに
近年IT化などにより、VDT作業がオフィスワークの中 心になったことによって座位時間の増加が健康問題を引 き起こしている[1]。そこで、労働者の健康が企業価値に繋 がることから健康経営という視点で多くの企業が問題改 善に向けて対策を講じている[2]。その中の一つに、新しい オフィス家具の導入が挙げられる。本研究ではオフィス家 具の中でも、作業時に身体に大きな影響を及ぼす椅子に着 目して研究を行うこととし、特に360°揺れる椅子について 研究した。360°揺れる椅子は人の動きに合わせて自由に 360°身体を動かすことで心地よいリズムを作り出し、体と 脳の動きを活発化させる設計となっている。そこで今回、
360°揺れる椅子と従来の椅子の2種類を使用したデスク 作業における身体的影響について客観指標を用いて評価 し、椅子の座面が動くことによる、脳の活性度と心拍変動 バランスの関係および身体部位にどのような影響を及ぼ すのかを比較・検討することを目的とした。
2 実験方法
実験で使用した椅子を表 1 に示す。実験条件は、360°
揺れる椅子 A、B と揺れる機構を持たない従来の椅子 C の 2 条件とした。椅子 A と B では背もたれの形状が異 なるが、本実験では 360°揺れる椅子として同じ条件で設
定した。実験は男女 12 人の実験参加者で行った。実験タ スクは椅子に着座した状態で1時間行い、その椅子の新し い使い方に関する企画書を作成してもらうこととした。
表 1 実験条件
評価指標は、①NIRS(HOT121)を用いた前頭葉における 脳 血 流 と 心 拍 変 動 、 ② デ ジ タ ル 筋 硬 度 計(NEUTONE TDM-Z2(BT))を用いた僧帽筋(首と肩甲骨付近の2箇所)
および脊柱起立筋の筋硬度、③巻き尺を用いたふくらはぎ および足の甲のむくみ、④レーザー血流計(プローブ-RBF- 101,RBF-P101)を用いた脊柱起立筋における血流といっ た客観評価とし、実験中は身体の動きを記録するために、
上方および横からの動画撮影を行った。これらの評価指標 に加え、椅子A、Bを実験条件とした場合のみ、トラッカ ーを用いた揺れ回数を測定した。
条件 条件1 条件1 条件2 椅子の種類 椅子A 椅子B 椅子C
360°揺れる 〇 〇 ×
3 実験結果
各椅子において NIRS で測定した各実験参加者の心拍 変動のバランスは条件1と条件2とも副交感神経優位のバ ランス良好であった。また、ウィルコクソンの符号順位検
定にて1%水準で条件1が条件2に比べ有意にLF/HFの値
が大きいことがわかった。また、脳血流は絶えず増減を繰 り返しており、各ピーク数や傾向に注目すると、条件1で は脳血流のピークがバランスよく分布しているものや、
徐々に増加傾向にあるものが見られた。一方、条件2では 脳血流が1時間を通して変化が少ないもの、減少傾向であ るものが存在した 。さらに、脳血流と心拍変動バランスの 時間的変化を詳しく見るために、脳血流のデータに加工を 行い、カーネル密度推定を用いて解析・可視化を行った。
図1 条件1(椅子B)におけるカーネル密度図例
図2 条件2(椅子C)におけるカーネル密度図例
カーネル密度推定を行った結果について、代表的な実験 参加者の例を図 1,2に挙げる。横軸が時間、縦軸がLF/HF 値、密度が脳血流である。条件1と条件2のカーネル密度 推定による図を比較すると、脳血流の密度分布に違いがみ られた。高い脳血流が測定された濃淡の濃い分布をみると、
横軸では条件1と条件2ともに1 時間、継続していること がわかる。縦軸では条件1の方が広く、高い範囲で分布し ていることがわかった。
4 考察・まとめ
条件間のカーネル密度図による脳血流の密度分布を比 較すると、条件1の方が高いLF/HF値の範囲で、広く分布 していたことがわかった。また、条件1の方が条件2より も脳血流が増加傾向にある実験参加者がいたこともわか った。このことから、条件1では1時間のデスク作業を通 して、適度なリラックス状態と集中状態を持続させ、継続 的に脳を賦活させていたことが推察される。このことは、
各条件の LF/HF 平均値において心拍変動がバランス良好
(副交感神経優位)でありながらも、条件1の方がより交 換神経が働いていたという結果とも一致する。以上のこと から、360°揺れる椅子は心拍変動をバランス良く維持させ ると同時に脳を活性化させるという点で、脳の活性化だけ でなくリラックス状態も必要だとされている[3]創造的思考 作業に向いている椅子ということが示唆される。
本研究によって新しいオフィスチェア、360°揺れる椅子 を使用した際の身体に与える影響を客観的観点から明ら かにした。
5 参考文献
[1] 中本哲、小田和美, “VDT作業における疲労:主観的及 び客観的指標を用いた評価,” 東京女子体育短期大学紀要, 第 53, pp. 157-163, 2018.
[2] 厚生労働省, “健康経営オフィスレポート,” 健康寿命延 伸産業創出推進事業・健康経営に貢献するオフィス環境の 調査事業, 2015.
[3] 高橋洵子, “色温度と照明が与える生理・心理機能への 影響-集中課題と創造性課題を用いた検討-,” 千葉大学 大学院工学研究院 人間生活工学研究室 修士論文, 2010.