音受聴時における皮膚振動の呈示
Presentation of Skin Vibrations Corresponding to Heard Sounds
1W0903676-6 鳥飼 雄亮 指導教員 及川 靖広 教授
TORIKAI Yusuke Prof. OIKAWA Yasuhiro
概要: 聴覚の代行手段として触覚を用いるものを総称してタクタイルエイドと言い、振動から音声情報を伝え る研究が行われてきた。その多くは指先に振動子を装着させることで音声情報を呈示することが多く、必ずしも 効率の良い伝送方法であるかどうか明らかではない。そこで本研究では、体各部位の皮膚の振動特性に着目し、
各々の振動特性に適した振動を呈示することで情報伝達の効率化を図り、音受聴時における音声知覚の了解性向 上の検討を行った。まず皮膚の振動特性を得るために音の伝搬による皮膚振動、周波数特性の計測を非接触にて 行った。さらに計測より得られた体各部位の皮膚の振動特性に基づいた振動を呈示することで聴覚情報へどのよ うな影響を与えるのか、音声の了解度を用いて検証した。
キーワード:タクタイルエイド、皮膚振動、
Keywords: Tactile Aid, Vibration of Skin,
1.まえがき
音は空気の振動であり、人間は鼓膜から伝搬す る空気振動を音として知覚する。またそれと同時 に全身に伝搬する空気振動も振動覚として知覚 することがある。健聴者にとって、音により全身 を伝搬する振動は、聴覚情報に重なり総合的に知 覚されることは多くない。しかし聾者にとって、
この空気振動は音を判別する上で重要な役割を 担っている。聾者のパーカッショニスト、Evelyn Glennie は、高い音を頭及び首など、低い音を足 下から感じ取ることで演奏を成立させている[1]。
近年では Gick らの研究において音声判断に空気 圧による触覚情報を付加することにより、破裂音 の明瞭度を上げたという報告がなされている[2]。
本研究では、このような音による皮膚振動に着 目し、身体の各部位における振動特性を計測、各 部位の振動特性に適した振動を呈示することで 情報伝達の効率化、また音声知覚の了解性向上を 検討した。
2.音受聴時における皮膚振動の計測
本研究では、音受聴時における皮膚振動を高速 度カメラ及びレーザドップラ振動計(以下 LDV と する)を用いることにより非接触にて計測した。
2.1.高速度カメラを用いた皮膚振動の観測 高速度カメラは高いフレームレートを有し、肉 眼では確認できない高速現象を非接触により記 録することが可能である。
本測定では高速度カメラを用いることにより、
低周波数帯域の音受聴時の顔面の皮膚振動につ いて観測し、周波数による振動部位の違いを確認 した。高速度カメラにて撮影した画像を図―1、
30Hz での解析結果を図―2に示す。
図―1 撮影した画像
図―2 30Hz での解析結果 2.2.LDV を用いた皮膚振動の計測
LDV は、物体表面のある 1 点における振動の変 位を非接触で計測することができる。これにより 高速度カメラ同様、音場に影響を与えることなく 離れた点からの振動計測が可能である。
2 2.2.1.走査型 LDV を用いた皮膚振動の計測 本測定では高速度カメラでの結果に基づき、
30Hz での顔面の皮膚振動を走査型 LDV にて観測、
音の伝搬の様子を確認した。測定結果を図―3に 示す。
図―3 測定結果
2.2.2.単一点 LDV を用いた皮膚振動の計測 本測定では、体の部位毎による皮膚の振動特性 の違いを確認するため、単一点レーザドップラ振 動計を用いた測定を行った。
被験者は 20 歳代の男性 4 名である。実験場所 は、西早稲田キャンパス 59 号館 415 教室である。
各部振動特性を図―4、図―5に示す。
101 102 103 104
10ï9 10ï8 10ï7 10ï6 10ï5
Vibration Velocity [m/s]
Frequency [Hz]
図―4 額での振動特性
10101 102 103 104
ï9 10ï8 10ï7 10ï6 10ï5
Vibration Velocity [m/s]
Frequency [Hz]
図―5 胸での振動特性
5.ボイルコイル型振動子
今回皮膚への振動呈示を行うためにボイスコ イル型振動子を製作した。ボイスコイル型振動子 を用いる利点は、入力に対する応答性が良い点、
また垂直振動を呈示できる点にある。振動子の大 きさは直径 21.0mm、高さ 16.0mm である。ネオジ ウム磁石を用い、磁石を固定しないためにポリウ レタンを挟んだ。振動子の構造を図―6、周波数 特性を図―7に示す。
図―6 振動子の構造
図―7 振動子の周波数特性
6.音受聴時における皮膚振動の呈示
本実験では、耳から雑音を付加した音声を、皮 膚から皮膚の振動特性にあわせた音声の原信号 の振動を与えることにより了解性の向上を検討、結果として正答率の向上が認められる。
表―1 振動刺激の有無による正答率の違い SN 比 -15dB -20dB -25dB 振動刺激あり 50% 75% 30%
振動刺激なし 50% 30% 10%
7.むすび
本研究では、音受聴時における皮膚振動を高速 度カメラ及びレーザドップラ振動計により非接 触で計測を行い、得られた振動特性に基づいた振 動を呈示することで音声知覚の了解性向上の検 討を行った。
皮膚振動の呈示による音声知覚については、単 語了解度試験を用いて、振動刺激の有無による正 答率の向上が認められたと考えられる。
参考文献:
[1] Evelyn Glennie,“Hearing Essay”
[2] Donald Derrick , Bryan Gick ,“ Aero-tactile integration in speech perception”,Nature,
vol.462,pp.502-504,26 September 2009