九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
ニワトリの苦味受容体群の機能解析
バポン, デイ
http://hdl.handle.net/2324/1866345
出版情報:Kyushu University, 2017, 博士(農学), 課程博士 バージョン:
権利関係:Public access to the fulltext file is restricted for unavoidable reason (3)
氏 名 バポン デイ
論 文 名 Functional Analyses of Bitter Taste Receptors in Chickens
(ニワトリの苦味受容体群の機能解析)
論文調査委員 主査 九州大学 教授 田畑正志 副査 九州大学 准教授 山内伸彦
副査 九州大学基幹教育院 准教授 スルチョードリ•ビシュワジット 副査 九州大学 准教授 西村正太郎
論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
味覚は甘味、うま味、苦味、酸味、及び塩味の五基本味に大別される。その中でも苦味は毒物を 忌避するために必要な味質として知られている。しかし、食品や医薬品等の有用なものであっても 苦味を呈するものがあるため、苦味のマスキングに関する研究が多くなされてきた。一方で、重要 な産業動物であるニワトリにおいて苦味を制御する技術を確立できれば、これまで苦味物質を含む ことによって飼料として使えなかったものが使えるようになるなど、新規飼料開発への貢献が期待 できる。しかし、ニワトリの苦味受容機構は未だ不明な点が多い。本研究ではニワトリの苦味受容 機構に着目し、機能的苦味受容体とそのアンタゴニストやアゴニストを同定するとともに、成長段 階における苦味感受性の変化に関する知見を得た。
ニワトリゲノム上には T2R1、T2R2、及びT2R7の3つの苦味受容体候補遺伝子が存在する。こ れまでT2R1は機能的苦味受容体であることが明らかとなっていたが、T2R2 及びT2R7 について は不明であったため、味覚行動試験によりT2R2及び T2R7の哺乳類アゴニストに対する忌避性を 検証した。その結果、T2R2 のアゴニストはほとんど忌避されず、一方で T2R7 のアゴニストを濃 度依存的に忌避することを明らかにした。このことから既知の知見と合わせるとT2R1とT2R7 が ニワトリの機能的な苦味受容体であると示唆された。
次に、この 2種類の機能的苦味受容体に作用するアンタゴニストを探索した。ニワトリT2Rsの アミノ酸配列はヒトの苦味受容体の1種であるT2R39と相同性が高いため、ヒトT2R39のアンタ ゴニストである6-メトキシフラバノンに着目した。既に研究室で保有していたT2R1遺伝子と本研 究でクローニングしたT2R7遺伝子を用い、ニワトリT2R1又はT2R7を一過的に発現した培養細 胞系を構築した。これらの細胞に対し、既知の苦味物質と同時に6-メトキシフラバノンを添加して Ca2+イメージングに供すると、苦味刺激による細胞内Ca2+濃度の上昇が抑制されることが示された。
さらに、ニワトリを用いた5分間の味覚行動試験により、6-メトキシフラバノンによる苦味抑制能 の有無を検証した。ニワトリは T2R1又は T2R7のアゴニストを含む苦味溶液を忌避したが、6-メ トキシフラバノンをそれらの苦味溶液に混ぜると水と同程度まで摂取した。これらの結果から、6- メトキシフラバノンはニワトリにおいても苦味を抑制する物質であることが示された。
続いて、ニワトリの成長段階による苦味感受性の変化について、1日齢、4週齢及び 8週齢のヒ ナを用いて検証した。味覚行動試験により苦味溶液に対する忌避性を検証したところ、成長するに つれて感受性が低下することがわかった。機能的苦味受容体であるT2R1及びT2R7の口腔組織に おける発現をウエスタンブロッティングにより定量したところ、それらの発現量は成長するにつれ て減少することを明らかにした。これらの結果より、ニワトリでは成長とともに機能的苦味受容体 の発現量が低下することにより苦味感受性が低下することが示唆された。
最後に、ニワトリ飼料として広く流通している飼料原料の中から、機能的苦味受容体に作用する 苦味物質の同定を試みた。ある植物由来原料から抽出液を作製し、この抽出液を T2R1 又は T2R7 発現細胞の培養液中に添加すると、細胞内Ca2+濃度が上昇することから、この抽出液中に苦味受容 体アゴニストが含まれていることが示された。また、この抽出液による苦味受容体の活性化が6-メ トキシフラバノンにより抑制されることも示された。さらに、味覚行動試験においても、この抽出 液はニワトリに忌避されること、並びにその忌避は6-メトキシフラバノンにより抑制されることが 示された。これらの結果より、飼料原料として用いられている物質の中に機能的苦味受容体のアゴ ニストが実際に含まれていることが明らかになった。
以上要するに、本論文はニワトリの機能的苦味受容体を同定し、それらの活性化を抑制するアン タゴニストを見出し、ニワトリの苦味受容機構に関する有用な知見をもたらした。これらの知見は、
畜産学および家畜生体機構学に寄与する価値ある業績である。よって、本論文は博士(農学)の学 位に値すると認める。