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漢字学習につまずいた初級学習者を対象とした補講授業報告

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(1)

漢字学習につまずいた初級学習者を対象とした補講授業報告

前田真紀・河内彩香

キーワード:初級漢字学習、補講、PowerPoint教材、漢字の覚え方、漢字指導改善

1. はじめに

 2019 年 4 月、東京外国語大学に国際日本学部が新設され、2019 年春学期の基礎日本語科目であ る初級 1 集中日本語 100 クラス1(以下、集中 100 と略称する)は、国際日本学部 1 年生と予備教 育の研究留学生2で構成されるようになった。週に 10 コマ、集中的に日本語を学ぶクラスで、1 学期で初級をほぼ終える。前年は 1 クラス 11 名であったが、今年度は 20 名になり、個々の学生 に教師の目が行き届かなくなった。集中 100 の国際日本学部の学生は、翌学期に初中級に進むこ と、4 年次には上級に到達し、ゼミ等で日本語が使えるようになることが期待されている。また、

研究留学生も程度の差はあれ、配置後の大学院で日本語力が必要となるため、本学で 10 コマの日 本語の授業を履修・合格することが修了要件となっている。

 中間試験の結果、国際日本学部生 2 名、研究留学生(専門は工学)1 名の成績が思わしくなく、

特に漢字学習につまずいている様子が窺えた。全員非漢字圏の学生である3

【表 1】漢字学習につまずいた初級学習者 3 名の漢字の中間試験結果 漢字合計/100 点 認識

/10 問× 1 点 漢字語彙を見て意 味(英語)を選ぶ

/25 問× 2 点読み 漢字の読みを ひらがなで書く

/20 問× 2 点書き 下線部のひらがな

を漢字で書く

書き問題で ほぼ書けた

漢字 学習者A 30 点 ○ 6 問

6 点 (60%) ○ 8 問

16 点 (32%) ○ 4 問

8 点 (20%) 日・本・水 学習者B 22 点 ○ 3 問

3 点 (30%) ○ 7 問△ 2 問

16 点 (32%) ○ 1 問△ 1 問

3 点 (8%) 本・年 学習者C 18 点 ○ 7 問

7 点 (70%) ○ 4 問△ 1 問

9 点 (18%) ○ 1 問

2 点 (5%) 日

― 224 ―

東京外国語大学国際日本学研究 プレ創刊号 Tokyo University of Foreign Studies Japan Studies Review №0

1 本学の基礎日本語(全学日本語プログラム)は、初級 1(100)~超級(800)の 8 レベルに分かれている。

詳細はJLPTUFSアカデミック日本語Can-doリストを参照。

http://www.tufs.ac.jp/common/jlc/kyoten/development/ajcan-do/

2 「研究留学生」とは日本の大学で研究を行うにあたり、日本語の予備教育が必要であるとされる国費外

国人留学生のことで、本学留学生日本語教育センターでは予備教育の必要な研究留学生を受け入れてい

3 る。国籍や母語の情報は個人名が特定できてしまう恐れがあるため、掲載を控える。

(2)

 まず、集中 100 クラスの文字学習について説明する。プレースメントテスト時に、日本語未習 者を対象にひらがな教室が開講され、2 時間でひらがな清音 46 文字を導入する。開講後、8 日間 で特殊音を含めたひらがなの学習を終え、カタカナを学び、開講 3 週目から漢字学習を開始す る。ほぼ毎日、漢字を学び、1 日に教科書『大学の日本語初級ともだち』の新しい漢字を 6 ~ 7 字

(Vol.2 では 7 ~ 8 字)導入する。書き方を導入し、教科書の練習帳に書いて、教師が正しく書け ているかをチェックする。基本的な音読み・訓読みを導入し、当該漢字を使用した既習語彙を読 ませる。1 課終了ごとに宿題を課し、宿題返却から数日後に漢字テストを実施する。学期に 2 回 実施する定期試験では、350 点満点中、漢字試験は 100 点で、文法試験と同じ比率を占める。

 そのように指導し、漢字学習につまずいてしまった 3 人の中間試験結果からは、書ける漢字が 少ないという共通点が見いだせる。中間試験前に 111 字の漢字を学習したが、学習者Aは「日・

本・水」、学習者Bは「本・年4」、学習者Cは「日」しか正確に書けなかった。書いたが不正解 だった漢字は、全て認識・読みの問題に出題されている字を写した可能性がある。例えば、「立っ てください」という読み問題に書かれた漢字を参照して、同じ音つながりで「たべます」に「立 べます」という漢字を充てたと推察される。

 3 人が正確に読めた漢字は「今」、「子ども」、「国」など、単漢字であった。「外国」も「くに」

と読んでいたことから、漢字 1 字に 1 音を対応させて覚えていた可能性がある。

 漢字語彙を見て意味(英語)を選ぶ問題については、学習者Aと学習者Cは比較的できていた が、学習者Bは間違いが多かった。「休日」に「Sunday」を選び、読みの「毎日」の「日」の上に

「ようび」と書いていたことから、「日=ようび」と覚えていたと考えられる。また、「来月(next

month)」は選べていたが、「先月」は「holiday」を選んでいたため、「月=month」という覚え方

をしていないことがわかる。

 試験結果から、3 人は数字、曜日といった初歩的な漢字も習得していないことが判明した。急 きょ基礎日本語部会と研究留学生部会に諮り、漢字補講の実施が決定した。

 本稿では、漢字補講の担当者であった前田と集中 100 のコーディネーターであった河内が全 5 回の補講を計画し、実践した授業内容を報告する。3 人の学習者は補講を経て、漢字の習得が進 み、期末試験では成績が飛躍的に向上した。そこで、3 人に漢字補講に関するアンケート調査を 実施し、その結果から漢字学習の困難点と役に立った補講内容を探り、初級レベルにおける総合 クラスの漢字指導の改善を提案したい。

2. 補講の概要

補講学習者:3 名(A女性、B女性、C男性)全員、非漢字圏の学習者。

授業時間:60 分× 5 回(水曜日 12:40 ~ 13:40)

目的: 漢字の学習方法を身につけ、自律的に漢字を覚えられるようになる。

期末試験で合格点(60 点以上)をとる。

目標: 60 分の授業で最低 10 文字、5 回の授業で 50 字~ 100 字の①漢字の書き方、②読み方、

③意味を覚える。

教材・教具:PowerPointスライド、裏紙、青のマーカー、その他のプリントなど 確認クイズ・復習プリント:4 枚

― 225 ―

4 ただし、「年」は縦線が 2 画目の横線を突き出ていたため、1 点減点した。

(3)

4 PPT 教材作成のポイント

・ 1枚のスライドに大きく1字のみのせ、黒字で示す。文字を大きく表示することで、

字形の細部まで意識させ、文字の特徴や違いに気づかせる。

・1画ずつ色を変え、アニメーション機能を使って筆運びを表示する。

色を変え、動きをつけると、一筆の書き方が認識しやすい。また、 学 習者の様子を見ながらPPTの操作が可能であり、スライドに注目し ているかどうかを把握できる。

・漢字の意味は英語、読みはひらがなで示す。必要に応じてスライドに イラストや歌を追加して学習者が覚える際の手がかりを示し、記憶の 定着を図る。

・読みは頻度の高い1つに限定し、確実に覚えさせる。(例外:数字、曜日、家・家族等)

・偏と旁など、パーツで色分けして表示し、漢字の構造を意識化し、漢字がパーツの組 み合わせで成り立っていることを理解させる。

22..22 指指導導のの流流れれ

・漢字書き順スライドの後に白紙のスライドを入れ、文字を見ないで漢字を書かせる。

・裏紙や反故紙を大量に用意し、1枚に1文字、青のマーカー7で大きく書かせる。

・文字が書けない場合はすぐに正しい字を見せ、無駄に考える時間をとらない。

・記憶に定着したかを確認するため、授業の最後、翌日、1週間後の計3回、同じ漢字 クイズを行う。

補講の進め方

①スライドの文字を見ながら読む練習(基本的に1文字につき1つの読み方に限定)。

②英語で意味を確認。

③スライドのアニメーションを2回見せてから白紙のスライドにして、何も見ないで、

裏紙1枚に大きく1文字、青マーカーを使って書く。教師は学習者が書いている間、

読みを繰り返す。(例:「いち、いち、いち…」)

④書いた文字はすぐに教師が回収し、ヒントを見ずに漢字を書く作業を2〜3回繰り返す。

書けずに手が止まったら、回収しておいた正しく書けた文字をすぐに見せる。

⑤何も見ずに書けるようになったら、次の文字に移り、①〜④の作業を繰り返す。

⑥数文字ごとにまとめて復習する。(例:「一・二・三」「四・五・六」…「一〜十」)

⑦最後に確認クイズ(書きクイズ、読みクイズ、意味クイズ)を行い、書けなかった文

7五感を使うと記憶に定着しやすいという点から、教室内にあった太くて臭いのあるマーカーを使用した。

赤・黒・青のうち、青字は記憶力向上効果があるとする相川(2015)のメソッドを参考にして青を選択した。

ひ  にち

4 PPT 教材作成のポイント

・ 1枚のスライドに大きく1字のみのせ、黒字で示す。文字を大きく表示することで、

字形の細部まで意識させ、文字の特徴や違いに気づかせる。

・1画ずつ色を変え、アニメーション機能を使って筆運びを表示する。

色を変え、動きをつけると、一筆の書き方が認識しやすい。また、 学 習者の様子を見ながらPPTの操作が可能であり、スライドに注目し ているかどうかを把握できる。

・漢字の意味は英語、読みはひらがなで示す。必要に応じてスライドに イラストや歌を追加して学習者が覚える際の手がかりを示し、記憶の 定着を図る。

・読みは頻度の高い1つに限定し、確実に覚えさせる。(例外:数字、曜日、家・家族等)

・偏と旁など、パーツで色分けして表示し、漢字の構造を意識化し、漢字がパーツの組 み合わせで成り立っていることを理解させる。

22..22 指指導導のの流流れれ

・漢字書き順スライドの後に白紙のスライドを入れ、文字を見ないで漢字を書かせる。

・裏紙や反故紙を大量に用意し、1枚に1文字、青のマーカー7で大きく書かせる。

・文字が書けない場合はすぐに正しい字を見せ、無駄に考える時間をとらない。

・記憶に定着したかを確認するため、授業の最後、翌日、1週間後の計3回、同じ漢字 クイズを行う。

補講の進め方

①スライドの文字を見ながら読む練習(基本的に1文字につき1つの読み方に限定)。

②英語で意味を確認。

③スライドのアニメーションを2回見せてから白紙のスライドにして、何も見ないで、

裏紙1枚に大きく1文字、青マーカーを使って書く。教師は学習者が書いている間、

読みを繰り返す。(例:「いち、いち、いち…」)

④書いた文字はすぐに教師が回収し、ヒントを見ずに漢字を書く作業を2〜3回繰り返す。

書けずに手が止まったら、回収しておいた正しく書けた文字をすぐに見せる。

⑤何も見ずに書けるようになったら、次の文字に移り、①〜④の作業を繰り返す。

⑥数文字ごとにまとめて復習する。(例:「一・二・三」「四・五・六」…「一〜十」)

⑦最後に確認クイズ(書きクイズ、読みクイズ、意味クイズ)を行い、書けなかった文

7五感を使うと記憶に定着しやすいという点から、教室内にあった太くて臭いのあるマーカーを使用した。

赤・黒・青のうち、青字は記憶力向上効果があるとする相川(2015)のメソッドを参考にして青を選択した。

ひ  にち

4 PPT 教材作成のポイント

・ 1枚のスライドに大きく1字のみのせ、黒字で示す。文字を大きく表示することで、

字形の細部まで意識させ、文字の特徴や違いに気づかせる。

・1画ずつ色を変え、アニメーション機能を使って筆運びを表示する。

色を変え、動きをつけると、一筆の書き方が認識しやすい。また、 学 習者の様子を見ながらPPTの操作が可能であり、スライドに注目し ているかどうかを把握できる。

・漢字の意味は英語、読みはひらがなで示す。必要に応じてスライドに イラストや歌を追加して学習者が覚える際の手がかりを示し、記憶の 定着を図る。

・読みは頻度の高い1つに限定し、確実に覚えさせる。(例外:数字、曜日、家・家族等)

・偏と旁など、パーツで色分けして表示し、漢字の構造を意識化し、漢字がパーツの組 み合わせで成り立っていることを理解させる。

22..22 指指導導のの流流れれ

・漢字書き順スライドの後に白紙のスライドを入れ、文字を見ないで漢字を書かせる。

・裏紙や反故紙を大量に用意し、1枚に1文字、青のマーカー7で大きく書かせる。

・文字が書けない場合はすぐに正しい字を見せ、無駄に考える時間をとらない。

・記憶に定着したかを確認するため、授業の最後、翌日、1週間後の計3回、同じ漢字 クイズを行う。

補講の進め方

①スライドの文字を見ながら読む練習(基本的に1文字につき1つの読み方に限定)。

②英語で意味を確認。

③スライドのアニメーションを2回見せてから白紙のスライドにして、何も見ないで、

裏紙1枚に大きく1文字、青マーカーを使って書く。教師は学習者が書いている間、

読みを繰り返す。(例:「いち、いち、いち…」)

④書いた文字はすぐに教師が回収し、ヒントを見ずに漢字を書く作業を2〜3回繰り返す。

書けずに手が止まったら、回収しておいた正しく書けた文字をすぐに見せる。

⑤何も見ずに書けるようになったら、次の文字に移り、①〜④の作業を繰り返す。

⑥数文字ごとにまとめて復習する。(例:「一・二・三」「四・五・六」…「一〜十」)

⑦最後に確認クイズ(書きクイズ、読みクイズ、意味クイズ)を行い、書けなかった文

7五感を使うと記憶に定着しやすいという点から、教室内にあった太くて臭いのあるマーカーを使用した。

赤・黒・青のうち、青字は記憶力向上効果があるとする相川(2015)のメソッドを参考にして青を選択した。

ひ  にち

 学習者は期末試験で合格点をとることが求められたが、漢字を書く能力の不足が特に問題で あった。補講では、既習の漢字を必要度・重要度の高いものから覚え直し、漢字学習ストラテジー を身につけ、その上で期末試験対策を行うこととした。

 補講では授業時間内に当該漢字を確実に覚えることを目標にした。「覚える」とは漢字が①書け る②読める③意味が分かることを意味する。漢字は繰り返し書いて覚える方法が一般的である。

しかし、テキストや手本を見ながら漢字を書いているだけでは、本当に記憶して書いているのか、

写しているだけなのか、教師には判断ができない。学習者が意識的に漢字を時間内に覚えるよう な授業を設計する必要があると考えた。

 茂木健一郎は『脳を活かす勉強法』で、視覚・聴覚などの五感を使い、様々なモダリティから 働きかけたほうが記憶の定着率が高まると述べ、原文を一度見たら目を離し、一時的に頭の中に 記憶してから写す作業を繰り返す記憶法を紹介している。補講ではこれを応用し、時間内に漢字 を記憶する方法を試みることとした。

 また近年、漢字書字に困難がある学習障害に関する研究が進み、書字困難に対する無料支援ツー ルや補助教材5も多数開発されている。漢字補講では、これまでの日本語教育における漢字習得 研究のみならず、書字障害への実践的な取り組み例や、すでに開発されている補助・支援ツール、

メソッドなども取り入れ、補講へ応用することとした。

2. 1 PowerPoint 教材作成

 補講では、学習者の反応を見ながら操作できるPowerPoint教材(以下、PPT教材と表記)を用 いた。教材はMicrosoftのフリーソフト「小学生で学習する文字のPowerPointスライド」6を使用 して作成した。以下に教材作成・指導のポイントを列挙する。

PPT教材作成のポイント

・1 枚のスライドに大きく 1 字のみのせ、黒字で示す。文字を大きく表示するこ とで、字形の細部まで意識させ、文字の特徴や違いに気づかせる。

・1 画ずつ色を変え、アニメーション機能を使って筆運びを表示する。色を変え、

動きをつけると、一筆の書き方が認識しやすい。また、学習者の様子を見なが らPPTの操作が可能であり、スライドに注目しているかどうかを把握できる。

・漢字の意味は英語、読みはひらがなで示す。必要に応じてスライドにイラスト や歌を追加して学習者が覚える際の手がかりを示し、記憶の定着を図る。

・読みは頻度の高い 1 つに限定し、確実に覚えさせる。(例外:数字、曜日、家・

家族等)

・偏と旁など、パーツで色分けして表示し、漢字の構造を意識化し、漢字がパー ツの組み合わせで成り立っていることを理解させる。

― 226 ―

5 「読み書き基礎スキルの評価課題と支援ソフト(学芸大学版)」https://www.dik-uni.com/koik/

「スマイル式プレ漢字プリント」http://www.smileplanet.net/などがある。

6 この書き順付き文字スライドは、近藤武夫・中邑賢龍(東京大学先端科学技術研究センター)とマイ クロソフト株式会社の共同研究により開発されたものを使用した。入手先は「PowerPoint活用サイト」

https://www.microsoft.com/ja-jp/enable/pptを参照。

(4)

5

字があれば、練習してから再クイズ。時間があれば、漢字を使って文章を書く練習。

自室での復習用に確認クイズと同じ復習プリントを宿題として渡す。

⑧翌日の総合クラスで休み時間を利用して書きクイズ。

1

週間後の補講の最初に書きクイズ。

第第44回回漢漢字字ククイイズズ

⑴書きクイズ ⑵読みクイズ ⑶意味→書きクイズ ⑷文章クイズ

3. .補 補講 講の の実 実践 践

33..11

補 補講 講で で扱 扱っ った た漢 漢字 字と と活 活動 動内 内容 容

1

回 数字、値段など(

16

文字)

一、二、三、四、五、六、七、八、九、十、百、千、万、円、口、目 第

2

回 曜日、時間、人の名詞など(

16

文字)

日、月、火、水、木、金、土、本、人、今、時、半、分、男、女、子 第

3

回 動詞、名詞(

16

文字)

私、何、見、行、来、食、飲、会、言、話、買、作、肉、魚、茶、家 第

4

回 名詞、動詞(

12

文字)

朝、昼、夜、飯、仕、事、使、帰、開、閉、起、思 第

5

回 形容詞、名詞(

12

文字)

明、暗、近、遠、楽、不、便、早、英、語、教、室 家族の読み方:父、母、兄、姉、弟、妹

1

回目の補講では、最初にひらがなシートを見せて文章や単語を読ませ、どの程度 ひらがなが認識できているかをチェックし、自室での漢字学習時間について質問した。

学習者

A

B

は、ひらがなはほぼ認識していたものの、他の授業の課題に追われ、授業 時間以外では漢字を学習していなかった。学習者

C

はひらがなも確実には読めなかった。

1

回目の漢字は数字が中心で簡単だったため、スライドに絵は入れず文字情報のみにした。

読み方は初めに「いち〜じゅう」と音読みで練習し、意味を確認した後、スライドのア ニメーション機能で筆順を見せて書く練習に入った。一から三までは手本がなくても問

5

字があれば、練習してから再クイズ。時間があれば、漢字を使って文章を書く練習。

自室での復習用に確認クイズと同じ復習プリントを宿題として渡す。

⑧翌日の総合クラスで休み時間を利用して書きクイズ。

1

週間後の補講の最初に書きクイズ。

第第44回回漢漢字字ククイイズズ

⑴書きクイズ ⑵読みクイズ ⑶意味→書きクイズ ⑷文章クイズ 3

3. .補 補講 講の の実 実践 践

33..11

補 補講 講で で扱 扱っ った た漢 漢字 字と と活 活動 動内 内容 容

1

回 数字、値段など(

16

文字)

一、二、三、四、五、六、七、八、九、十、百、千、万、円、口、目 第

2

回 曜日、時間、人の名詞など(

16

文字)

日、月、火、水、木、金、土、本、人、今、時、半、分、男、女、子 第

3

回 動詞、名詞(

16

文字)

私、何、見、行、来、食、飲、会、言、話、買、作、肉、魚、茶、家 第

4

回 名詞、動詞(

12

文字)

朝、昼、夜、飯、仕、事、使、帰、開、閉、起、思 第

5

回 形容詞、名詞(

12

文字)

明、暗、近、遠、楽、不、便、早、英、語、教、室 家族の読み方:父、母、兄、姉、弟、妹

1

回目の補講では、最初にひらがなシートを見せて文章や単語を読ませ、どの程度 ひらがなが認識できているかをチェックし、自室での漢字学習時間について質問した。

学習者

A

B

は、ひらがなはほぼ認識していたものの、他の授業の課題に追われ、授業 時間以外では漢字を学習していなかった。学習者

C

はひらがなも確実には読めなかった。

1

回目の漢字は数字が中心で簡単だったため、スライドに絵は入れず文字情報のみにした。

読み方は初めに「いち〜じゅう」と音読みで練習し、意味を確認した後、スライドのア ニメーション機能で筆順を見せて書く練習に入った。一から三までは手本がなくても問

2. 2 指導の流れ

・漢字書き順付き文字スライドの後に白紙のスライドを入れ、文字を見ないで漢字を書かせる。

・裏紙や反故紙を大量に用意し、1 枚に 1 文字、青のマーカー7で大きく書かせる。

・文字が書けない場合はすぐに正しい字を見せ、無駄に考える時間をとらない。

・記憶に定着したかを確認するため、授業の最後、翌日、1 週間後の計 3 回、同じ漢字クイズを 行う。

補講の進め方

①スライドの文字を見ながら読む練習(基本的に 1 文字につき 1 つの読み方に限定)。 

②英語で意味を確認。

③スライドの筆順アニメーションを 2 回見せてから白紙のスライドにして、何も見ないで、裏紙 1 枚に大きく 1 文字、青マーカーを使って書く。教師は学習者が書いている間、読みを繰り返す。

(例:「いち、いち、いち…」)

④書いた文字はすぐに教師が回収し、ヒントを見ずに漢字を書く作業を 2 ~ 3 回繰り返す。

書けずに手が止まったら、回収しておいた正しく書けた文字をすぐに見せる。

⑤何も見ずに書けるようになったら、次の文字に移り、①~④の作業を繰り返す。

⑥数文字ごとにまとめて復習する。(例:「一・二・三」「四・五・六」…「一~十」)

⑦最後に確認クイズ(書きクイズ、読みクイズ、意味クイズ)を行い、書けなかった文字があれ ば、練習してから再クイズ。時間があれば、漢字を使って文章を書く練習。自室での復習用に 確認クイズと同じ復習プリントを宿題として渡す。

⑧翌日の総合クラスで休み時間を利用して書きクイズを実施。

⑨ 1 週間後の補講の最初に書きクイズを実施。

 第 4 回漢字クイズ

  ⑴ 書きクイズ      ⑵ 読みクイズ    ⑶ 意味→書きクイズ   ⑷ 文章クイズ

― 227 ―

7 五感を使うと記憶に定着しやすいという点から、教室内にあった太くて臭いのあるマーカーを使用した。

赤・黒・青のうち、青字は記憶力向上効果があるとする相川(2015)のメソッドを参考にして青を選択した。

(5)

3. 補講の実践

3. 1 補講で扱った漢字と活動内容 第 1 回 数字、値段など(16 文字)

一、二、三、四、五、六、七、八、九、十、百、千、万、円、口、目 第 2 回 曜日、時間、人の名詞など(16 文字)

日、月、火、水、木、金、土、本、人、今、時、半、分、男、女、子 第 3 回 動詞、名詞(16 文字)

私、何、見、行、来、食、飲、会、言、話、買、作、肉、魚、茶、家 第 4 回 名詞、動詞(12 文字)

朝、昼、夜、飯、仕、事、使、帰、開、閉、起、思

第 5 回

形容詞、名詞(12 文字)

明、暗、近、遠、楽、不、便、早、英、語、教、室 家族語彙の読み方:父、母、兄、姉、弟、妹

 第 1 回目の補講では、最初にひらがなシートを見せて文章や単語を読ませ、どの程度ひらがな が認識できているかをチェックし、自室での漢字学習時間について質問した。学習者A、Bは、

ひらがなはほぼ認識していたものの、他の授業の課題に追われ、授業時間以外では漢字を学習し ていなかった。学習者Cはひらがなも確実には読めなかった。1 回目の漢字は数字が中心で簡単 だったため、スライドに絵は入れず文字情報のみにした。読み方は初めに「いち~じゅう」と音読 みで練習し、意味を確認した後、スライドのアニメーション機能で筆順を見せて書く練習に入っ た。一から三までは手本がなくても問題なく書けたが、四からは途中で手が止まるようになった。

スライドを 2 回見ても書けないときは、筆順をもう一度見せてから書くように促した。「一~十」

まで書けるようになったところで、「ひとつ~とお」の読み方を練習。さらに「百~目」まで書く 練習をし、「一~目」の 16 文字を総復習として書いてから、確認クイズ⑴~⑶を実施した。翌日 の再クイズを予告して授業を終了した。漢数字の点つなぎプリントと復習プリント⑴~⑶を宿題 として渡した。

 第 2 回目は曜日を中心に行った。「曜日の歌」を使って、曜日の言い方を復習・確認してから、

書きの確認をした。表意文字が多かったので、漢字の意味を記憶しやすくするためにフリーのイ ラスト素材をスライドに貼り付けて意味を提示した。1 回目と同様にその場で覚えるよう指示し たところ、スライドを見ながら読み方を口にし、アニメーションの動きに合わせて指を動かす空 書の仕草が見られるようになった。確認クイズ⑴~⑶を行った後、「今、1 時半です」「男の人が 一人います」など、これまで勉強した漢字を使って簡単な文を書く練習をした。宿題プリント⑴

~⑷を渡して補講終了。

 第 3 回はよく使う動詞と名詞を練習した。2 回の補講で漢字の練習の仕方が身についたので、期 末試験対策を始めることにした。集中 100 クラス全員に配布された期末試験の書き問題に出題す る漢字 40 字の中から復習漢字を選択した。画数が多くなるので、漢字をイメージで覚えられるよ うに文字とイラストを使用した。また、画数毎に色分けする前に、偏は黒、旁は赤など分割して 表示して見せ、漢字がパーツの組み合わせであることを視覚的に理解しやすくした。確認クイズ は⑴~⑶を行ったが時間を 10 分超過した。

― 228 ―

(6)

 第 4 回は画数が多いものが多く、少し負担を減らすため 12 文字にし、「朝・昼・夜」などの時 の名詞と動詞を学習した。「仕事」のように 1 文字ではなく語彙としてよく使う漢字は、1 枚のス ライドに 2 文字表示した上で、1 文字ずつ書き練習を行った。最後にこれまで習った漢字を使っ て自分のことを文章に書く練習をした。確認クイズは⑴~⑷まで行い、宿題プリントは⑴~⑷を 渡した。

 第 5 回は形容詞や名詞 12 文字を学習し、残り時間で日常会話によく使う家族語彙の漢字を見 せ、読み方を復習した。象形文字以外ではイラストが的確に文字の意味を表現するとはいえない ので、イラストは使用せず意味の説明は英語表記のみとした。期末試験前最後の補講となったが、

漢字を覚えるという作業に慣れた様子で、複雑な字形でも時間内にスムーズに練習が進められた。

確認クイズ⑴~⑷を行い、宿題プリント⑴~⑷を配布。

3. 2 学習者の様子

 学習者A:筆圧が強くダイナミックな文字を書く。その場で覚えて書くのは一番早いが、3 文

字程度まとめて書くように指示すると思い出せないこともあり、一時的に覚えら れるが忘れやすい特徴が見受けられた。2 回目以降は覚え方にも慣れ、指で空書 し、読み方を唱えながら文字を書いており、自分なりのストラテジーで覚えよう

としている様子が見られた。3 回目から、字形が複雑になってくると「何」の偏が「彳」に、「会 う」の冠が「宀」になるといった間違いが見られたが、すぐに復習し、宿題や翌日の確認クイズ までには覚えてきていた。

 学習者B:ゆっくり丁寧に文字を書き、覚え方も慎重。学習者Aと同様、空書をし、読み方を

口にしながら漢字を書くようになった。また、1 ~ 2 文字、補講中に覚えきれな いこともあったが、まとめ書きや確認クイズでの点数は高く、その場で記憶する 力がついたようだった。

 学習者C:英語もひらがなも他者には判別しにくい、崩れた字を書く。最初、漢字の読み書き

がほぼできなかった。直線はゆがみ、棒の数や角度もあまり意識せずに書いてい た。補講では紙 1 枚に大きく書くことに戸惑い、小さい字を書こうとした。1 枚 の紙に大きく文字を書く練習をすると、字形や横棒の数や向きなどに意識が向く

ようになった。第 3 回確認クイズで、ひらがなを漢字にする(1)は 16 文字全て書けたが、英語 の意味を見て漢字を書く(3)は 6 文字しか書けなかった。全く同じ漢字を書くクイズにも関わら ずこのような差が出たことから、字と読みは繋がったが、字と意味が繋がっていないことが明ら かになった。時間の関係で書くことを優先し、意味は英語で少し確認する程度だったことが原因 であると考えられる。

3. 3 補講の成果

 補講では、毎回 40 枚~ 60 枚の裏紙を使って書き練習を行った。その結果、補講の最後、補講 の翌日、1 週間後の補講時のクイズでは、学習者A、Bは毎回ほぼ満点をとり、Cも満点から 7 割 程度の点数がとれるようになった。学習方法が身につき、漢字を記憶に定着させるために、習っ た文字を自律的に復習している様子が窺えた。集中 100 の際にも、クイズやディクテーションで 自主的に漢字を使うようになり、漢字への苦手意識が軽減されたように思う。英語を使わずに、

― 229 ―

(7)

日本語を使って話すという明らかな変化も観察された。漢字を覚えられるようになると同時に、

日本語力全体が向上したと解釈できるのではないだろうか。期末試験の結果を【表 2】に示す。

【表 2】漢字学習につまずいた初級学習者 3 名の漢字の期末試験結果 漢字合計/100 点 認識

/10 問× 1 点 漢字語彙を見て意 味(英語)を選ぶ

/23 問× 2 点読み 漢字の読みを ひらがなで書く

/22 問× 2 点書き 下線部のひらがな

を漢字で書く

書き 22 問中 ほぼ書けた

(△)は減点漢字 学習者A 82 点 ○ 7 問

7 点 (70%) ○ 15 問△ 3 問

33 点 (72%) ○ 20 問△ 2 問

42 点 (96%) 22 字

(△ 2 字)

学習者B 68 点 ○ 4 問

4 点 (70%) ○ 12 問

24 点 (52%) ○ 16 問△ 2 問

40 点 (91%) 18 字

(△ 2 字)

学習者C 53 点 ○ 3 問

3 点 (30%) ○ 9 問△ 5 問

23 点 (50%) ○ 11 問△ 5 問

27 点 (61%) 16 字

(△ 5 字)

 漢字が書けるようになったことが第一の成果である。中間試験では 1 字~ 3 字しか書けなかっ たが(【表 1】参照)、全員、書く力が顕著に伸びた。学習者Aは 22 字全て当該漢字が書け、惜し い間違いで減点されただけだった。学習者B、Cは空欄もあったが、「便」を「更」、「使」を「便」

と書く等、似ている字を書いた誤答が多かった8

 読みも全員、伸びたが、学習者Aと学習者B、Cとでは、傾向に違いが観察された。学習者B、

Cは、読みの問題で 50%正解したが、正解したものは、全て補講で復習した漢字で、補講で扱わ なかった字は全く正解しなかった。しかし、学習者Aは補講で扱わなかった字も正解していた。

その点から、学習者Aは、補講の漢字を覚えるだけでなく、集中 100 で学んだ漢字も自律的に学 ぶことができるようになったと言える。

 意味の認識問題は、学習者Aは中間試験と変わらない得点率だったが、学習者Bは中間試験 と同様にあまり正解せず、学習者Cは得点率が低下した。学習者A、Bは「医者」に「hospital」

「study」を選んだが、人を示す選択肢は「doctor」しかなかったため、「者」に「person」という意 味を結びつけて記憶していなかったと考えられる。

4. 補講授業に関するアンケート調査

 春学期終了後、3 人が補講前に何につまずいていたのか、そして補講で何を学んだのかを探る ために、アンケート調査を実施した。調査は英語を用いて、Googleフォームを使用してオンライ ンで行った。アンケートは 5 段階評価にし、9「補講を受けてどのように変わったか」と 11「補 講へのコメント・提案」は自由記述にした。学習者には調査目的、個人情報の保護等を記載した 研究協力依頼書を渡し、同意書に署名をもらった。

 【表 3】にアンケートの全質問項目と 3 人の学習者の回答を示す。

― 230 ―

8 他には、「味」を「明」と書いた間違い(偏が類似)、「起」の「己」の向きが反転した字、「飯」を「平」

と書いた間違い(「半」と間違えたかと思われる)があった。

(8)

 アンケートは、Ⅰ.ひらがな学習、Ⅱ.集中 100 クラスの漢字学習、Ⅲ.漢字補講という 3 つ のパートからなる。

 Ⅲ-10「総合的に、補講に満足したか」に関して、全員「大変満足」と回答しており、学習者 の満足度が高かったと言える。学習者AのⅢ-9「(日本語学習が)どのように変わったか」には、

「最終的にコースの教材が理解できると感じられるようになった」というコメントがあり、漢字学 習が習慣化することで、日本語力全体が向上したと言えよう。

― 231 ―

9

【表表 33】】アアンンケケーートトのの質質問問項項目目とと学学習習者者のの回回答答

たか」には、「最終的にコースの教材が理解できると感じられるようになった」というコ メントがあり、漢字学習が習慣化することで、日本語力全体が向上したと言えよう。

Ⅰ.ひらがな学習に関しては、全員、難しさを感じていなかった。しかし、学習者C はひらがなの習得までに時間を要し、期末試験の頃も字形が崩れることがあったため、

本人が難しいと感じていなかったことが意外に思われた。自分の書く字の字形が崩れて いることを自覚できていなかった可能性がある。

名前

(差し支えなければ) 学習者A 学習者B 学習者C 学習者A 学習者B 学習者C

④ひらがなで音を示す とても役に立つ とても役に立つ 役に立つ

1.ひらがな学習は 簡単 簡単 普通 ⑤絵で意味を示す とても役に立つ とても役に立つ 役に立つ

2.ひらがな学習で何が難しかった

か。以下の点について評価。 ⑥英語で意味を示す とても役に立つ とても役に立つ 役に立つ

①進度が速い 普通 普通 普通 ⑦歌を使う 役に立つ 役に立つ どちらとも言えない

②1回の授業で勉強するひらがな

が多い 簡単 簡単 普通 6.補講のやり方は とてもよい とてもよい とてもよい

③ひらがなを覚える 簡単 簡単 普通 7.漢字を覚えるのに何がよかった

か。以下の点について評価。

④ひらがなの字形 簡単 簡単 簡単 ①ヒントなしで書く 役に立つ 役に立つ とても役に立つ

⑤書き順 簡単 簡単 普通 ②1枚の紙に大きく書く とても役に立つ とても役に立つ とても役に立つ

⑥形と音を結びつける 簡単 簡単 簡単 ③青いペンで書く とても役に立つ とても役に立つ とても役に立つ

④書いた紙を集める どちらとも言えない どちらとも言えないとても役に立つ 1.集中100の漢字学習は 普通 難しい 難しい ⑤何回も書く とても役に立つ とても役に立つ とても役に立つ 2.漢字学習で何が難しかったか。

以下の点について評価。

⑥書けない時、すぐに正しい字を見

とても役に立つ とても役に立つ 役に立つ

①進度 普通 普通 速い ⑦何文字かやって、また繰り返す とても役に立つ とても役に立つ 役に立つ

②1回の授業で勉強する漢字が多

普通 普通 難しい ⑧毎回テストをする とても役に立つ とても役に立つ 役に立つ

③漢字の字形を覚える 難しい 難しい 難しい ⑨次の日に同じテストをする とても役に立つ とても役に立つ 役に立つ

④音(読み)を覚える 難しい 難しい 難しい ⑩翌週に同じテストをする とても役に立つ とても役に立つ 役に立つ

⑤1つの漢字にいろいろな読み方

がある 難しい 難しい 難しい 8.補講を受けて日本語学習が変

わったか。 はい。 はい。 はい。

⑥書き順 普通 普通 普通

⑦それぞれの漢字の意味 難しい 難しい 普通

⑧いろいろなフォントがある 普通 普通 普通

⑨きれいに書く 普通 普通 普通

⑩漢字を覚える 難しい 難しい 難しい

1.漢字補講は とてもよい とてもよい とてもよい 2.漢字補講は役に立ったか。以下

の点について評価。

①漢字を読む とても役に立つ とても役に立つ とても役に立つ

②漢字を書く とても役に立つ とても役に立つ とても役に立つ

③漢字を覚える とても役に立つ とても役に立つ とても役に立つ

④意味 とても役に立つ とても役に立つ とても役に立つ

3.学生の人数は 少ない 少ない 少ない 10.総合的に、補講に満足したか。 大変満足 大変満足 大変満足

4.PPTは とてもよい とてもよい とてもよい

5.PPT教材は役に立ったか。以下 の点について評価。

①1枚のPPTに1文字を示す とても役に立つ とても役に立つ 役に立つ

②ストロークごとに色を変える とても役に立つ とても役に立つ とても役に立つ

③アニメーションで書き順を示す とても役に立つ とても役に立つ とても役に立つ

Ⅰ..ひひららががなな学学習

Ⅱ..集集中中110000のの漢漢字字学学習

Ⅲ..漢漢字字補補講 漢字補講は、時

間がある時にど のように漢字を学 ぶのかを示してく れた。

私たちの質問に 先生が答えてくれ て、漢字を学び、

覚えるのをサポー トしてくれたので、

個別指導のような このクラスが非常 に楽しかった。

漢字学習をサ ポートし、私がつ まずいた時に諦 めずに教えてくれ た先生方に大変 感謝している。

とてもよかった。

変更すべき点は 見つからない。

11.漢字補講へのコメント・提案 9.(8で「はい」と答えた人)

どのように変わったか。

例)勉強時間が増えた。練習方法が 変わった。

漢字補講を通して もっと勉強するよ うになった。私は 漢字補講でテク ニックを学び、そ れを日々の自宅 学習でも使える ようになった。

漢字補講でやっ たように、何回も 紙に書いて練習 した。この補講は、

とても役に立ち、

学習動機を与え てくれた。最終的 にコースの教材を 理解できると感 じられるように なった。それで、

以前よりも、より 努力し、よい長い 時間、漢字学習 に費やすように なった。

たくさん漢字を勉 強するようになっ た。何度も何度も 書いて、自分でテ ストをした。漢字を 覚えるまで、これ を繰り返した。漢 字補講は私の日 本語学習の習慣 を変化させてくれ た。

【表 3】アンケートの質問項目と学習者の回答

(9)

 Ⅰ.ひらがな学習に関しては、全員、難しさを感じていなかった。しかし、学習者Cはひらが なの習得までに時間を要し、期末試験の頃も字形が崩れることがあったため、本人が難しいと感 じていなかったことが意外に思われた。自分の書く字の字形が崩れていることを自覚できていな かった可能性がある。

 Ⅱ.集中 100 クラスの漢字学習については、学習者B、Cが困難を感じていた。3 人全員が「難 しい」と回答した項目は、2-③「漢字の字形を覚える」、2-④「音(読み)を覚える」、2-⑤「1 つの漢字にいろいろな読み方がある」、2-⑩「漢字を覚える」で、全て「覚える」作業である。初 回の補講時に、全員が授業時間外に漢字を勉強しないと言っていたことから、補講前は覚える方 法がわからなかったのではないかと考えられる。

 Ⅲ.漢字補講について 2「漢字補講が役に立ったか」を項目別に尋ねたところ、全員が 2-①

「漢字を読む」、2-②「漢字を書く」、2-③「漢字を覚える」、2-④「意味」の全てを「とても役 に立つ」と評価し、9「日本語学習がどのように変わったか」には「自宅で何度も書いて練習する ようになった」といった類のコメントを記入した。この点からも、補講前は学習方法がわからな かったことが窺える。3 名の漢字力が顕著に伸びた要因は、反復練習を行う、自分で記憶を確認 する、授業時間外にも練習するなど、学習習慣の変化にあると言えるのではないか。「漢字学習に つまずいた初級学習者は、漢字を覚える方法を知らないだけの可能性がある」ことが補講の実施 とアンケート調査から示唆された。

 2.2、3.1 で詳述した、漢字補講での教え方の工夫に関しては、5-②「1 ストロークごとに色を 変える」、5-③「アニメーションで書き順を示す」という項目で全員が「とてもよい」と回答し た。MicrosoftのPPTは日本語教育においても効果的なものであると言える。

 漢字を覚えるのに何が役に立ったかを尋ねた項目では、7-②「1 枚の紙に大きく書く」、7-③

「青いペンで書く」、7-⑤「何回も書く」で全員が「とても役に立つ」を選んだ。「青いペンで書 く」のが役に立つという回答は、筆者らにとって意外な結果であった。視覚、嗅覚、触覚など複 数の感覚を刺激したことによる学習効果という可能性が考えられる。先行研究を調べたが、青文 字による学習効果が実証されているとは言えず、今後の検証が待たれる。7-④「書いた紙を集め る」以外は、全員が「とても役に立つ」「役に立つ」を選んでおり、全て効果があったと言えよ う。

 7-④「書いた紙を集める」について「どちらとも言えない」を選んだ学習者A、Bは、7-①

「ヒントなしで書く」も他の項目に比べると評価が下がる。学習者A、Bは、文法の授業で教科書 を使う際に、常に語彙リストを参照し、語彙を覚えていない印象があったが、漢字学習でも常に 教科書を見ながら書いていた恐れがある。参照できる紙を回収されることに抵抗があったのでは ないかと推察される。ヒントを見ないで書くプロセスを経て、覚えていないものを繰り返し練習 したからこそ、覚えられるようになった可能性があるが、紙の回収に抵抗がある場合は紙を裏返 すだけにするのも一案である。いずれにしても、記憶したか否かを自己点検するプロセスが重要 であると考える。

5. 初級の総合クラスにおける授業改善

 補講対象者の中間・期末試験及びアンケート調査の結果から見えてきた漢字のつまずきの原因 は、漢字の①書く②読む③意味、全てを覚えることが難しく、覚えるための学習方法がわからな

― 232 ―

(10)

かったことによるものと推察される。音と文字が対応する仮名は比較的容易に短時間で記憶する ことができる。しかし、漢字は字形が複雑で数が多く、複数の音と意味がある。漢字の覚え方が わからないことが、漢字習得を困難にしている一因であると考えられるため、学習者の漢字のつ まずきを防ぐためには、総合クラスで学習者が自分に合った漢字の学習方法を身につけることが、

重要であると考える。

【表 4】中間・期末試験の得点率の変化   

書き 読み 認識(意味) 漢字合計

中間 期末 中間 期末 中間 期末 中間 期末 得点差

学習者A 20% 96% 32% 72% 60% 70% 30 82 +52 学習者B 8% 91% 32% 52% 30% 40% 22 68 +46 学習者C 5% 61% 18% 50% 70% 30% 18 53 +35

 【表 4】は 3 人の学習者の中間・期末試験の得点率の変化を示したものである。補講に対する満 足度が高かったのは、学習者の書き能力が向上したことが大きな要因である可能性がある。書け る漢字が増えたことで、「できる」という実感が持てたのではないだろうか。しかし、今回の補講 では読みや意味の認識能力を十分に引き上げることはできなかった。漢字の総合力をあげるため には、書き・読み・意味の 3 つが繋がるような授業を行う必要がある。

 このような考察に基づき、今後、初級総合授業で配慮できるポイントについて提案を行いたい。

(1)PPT 教材の利用

 漢字の字形を見せる際に利用したMicrosoftが提供している「小学生で学習する文字の

PowerPointスライド」は、文字の導入に非常に有用である。補講で効果を実感し、集中 100 の授業

でもこのソフトを使用し始めた。PPT教材を使うようになって、スライドに注目する、アニメー ションを見ながら空書する、筆順を意識するという学生の変化が感じられた。筆者の河内が 2019 年春学期に担当した中級 1 総合 301、中上級漢字 903bでも使用したが、偏と旁など、パーツごと に色分けして表示できる点やアニメーションが中級以上の学習者からも好評であった。1)普及し

ているMicrosoftのPPT教材で、誰でも使用可能、2)無料、3)色分けやアニメーションの有無

がアレンジできる、4)プロジェクターを使えば大教室にも対応可能など、汎用性が高い点が利点 として挙げられる。授業に合わせて簡単に作成できるので、授業で活用しやすいと思われる。

(2)授業中に「覚える」ことを意識させる取り組み

 前述の通り、漢字をどうやって覚えるのかが分からず、漢字学習につまずく学習者がいる。こ のため、限られた時間の中でヒントを参照せずに覚えるプロセスを教室で体験することも大事で はないだろうか。そこで覚えることができれば、学習者は漢字学習の方法が分かり、自律学習に も繋がると思われる。例えば、授業開始時に「5 分間で 3 文字記憶してテスト」をし、授業終了 間際にもう一度同じテストをする。記憶する方法と記憶の保持について自分なりのストラテジー がみつかるかもしれない。2019 年秋学期の初級 1 総合 101 では、授業内で漢字テストをすること を予告して、4 文字の漢字の導入・練習を試みたところ、通常以上に真剣に取り組む姿が見られ た。ほぼ全員が教科書を見ずに書けるようになり、翌日の漢字クイズの出来もよかった。

 また、2019 年春学期の中上級漢字 903bでは、受講者全員がお勧めの漢字勉強法を紹介する時

― 233 ―

(11)

間をとった。スマートフォンのアプリの利用法、自分でストーリーを作って覚える方法、カード を使って語彙と一緒に漢字を覚える方法など、様々な方法が紹介された。学習者間で漢字の覚え 方について情報共有することも「覚える」活動の意識化に繋がると思われる。

(3)「読み」の限定

 初級の段階では、一度に全ての「読み」を示すのではなく、覚えるべき「基本の読み」に限定 することが学習者の負担の軽減に繋がると考える。まずは、音読み・訓読み 1 つずつを導入し、

確実に覚えさせることが大切である。最初は「四」を「よん」と読めればよい。「四時」を「よ じ」、「四月」を「しがつ」と読むことは語彙として学習すればよく、漢字の読みとして最初に提 示するのは、初級学習者には負荷が高いと思われる。

(4)意味の理解

 漢字には文字に意味があることを理解する必要がある。アルファベットにはない特徴で、語彙 の増加に大きく貢献する。「日本語」「アラビア語」など「語=language」が記憶できれば、国名 に「語」を付けるだけでその国の言語を表現できるようになり、漢字の造語力の有用性への気付 きとなろう。また既習の漢字同士を組み合わせた「語学」「語法」「語頭」など、未習語彙の意味 を推測するトレーニングなどを行うことで、語彙力が向上すると思われる。

(5)提示方法の工夫

 漢字を覚える際に、動詞や形容詞などの品詞別、体の漢字、家族の漢字など意味のグループ別 に提示するなど、意味や形でグループを分けたほうが、学習者が理解しやすい場合がある。集中 100 クラスでは、漢字が難しいという学習者が多かったため、中間試験以後、グループ化して教 えた。教科書通りの提出順だけでなく、学習者の様子を見て、再編集し、グループ化して提出す るなどの工夫も必要であると考える。

(6)ワークシートや宿題の活用

 テストと同じ形式の宿題だけではなく、時には漢字の様々な覚え方のヒントになるようなワー クシートや宿題を活用する。文字・読み・意味を繋げるマッチングや、パーツを合わせる文字の 組み立て、偏や旁の仲間集めなど、ゲーム感覚でも楽しめるワークシートや宿題も有効であると 思われる。学習方法の確立と学習意欲の維持・向上にもつながる可能性がある。また授業内では 個別対応は難しいが、宿題なら学習者の特性にある程度あわせたものを準備することも可能だと 思われる。

6. 終わりに

 漢字能力の向上には、字形・音・意味・用法をつなげることが最終的に必要だが、まずは、字 形と基本的な読み、字形と意味をつなげ、覚えていくことが大切である。そして、音や意味を推 測できるようになることで、漢字学習を日本における日常生活の手段に役立てていけると思われ る。

 総合クラスで、どのような授業を行えば、学習者の漢字のつまずきを防ぐ事ができるのか、5 節で授業改善を提案したが、その効果について今後検証していく必要がある。漢字学習への意欲 を向上させ、苦手意識や挫折感を持たせないようにするために何ができるか、検討しなければな らない。

 聴覚優位や視覚優位など書字障害の特性を持っている学習者もいる。学習者に合わせた個別の

― 234 ―

(12)

対策が必要となることもあろう。書字障害への研究は進んでおり、日本語教育でもその知見を取 り入れ、応用することは可能であると思われる。また無料で利用できる補助・支援ツールなども 多く、それらをうまく活用することで教材や宿題作成に関わる時間も短縮できるのではないだろ うか。漢字のつまずき防止及び抑制を考える上で、日本語教育と書字障害研究との連携も視野に 入れるべきであろう。

(参考文献)

相川秀希(2015)『頭がよくなる青ペン書きなぐり勉強法』KADOKAWA

岡本邦広(2014)「漢字書字に困難のある児童生徒への指導に関する研究動向」『国立特別支援教育総合研究 所研究紀要』41, 63-75

加藤醇子編著(2016)『ディスレクシア入門 ―「読み書きのLD」の子どもたちを支援する』日本評論社 川口義一・加納千恵子・酒井順子編著(1995)『日本語教師のための漢字指導アイデアブック』創拓社 北川美香(2014)「漢字の効果的学習法に関する授業報告」『大阪大学日本語日本文化研究センター授業研

究』12, 17-21

栗原由加(2019)「日本語学習者の漢字習得プロセスについて考える ―タイの非漢字系学習者へのアンケー ト調査を通じて―」『神戸学院大学グローバル・コミュニケーション学会紀要』4, 17-28

小池敏英(2016)『LDの子の読み書き支援がわかる本』講談社 小池敏英・奥住秀之(2019)『これでわかる学習障害』成美堂出版

小池敏英・雲井未歓・渡邉健治・上野和彦(2002)『LD児の漢字学習とその支援一人ひとりの力をのばす 書字教材(CD-ROMつき)』北大路書房

河野俊寛(2012)『読み書き障害のある子どもへのサポートQ&A』読書工房

小林由子(1998)「漢字授業における学習活動:認知心理学的モデルによる検討」『北海道大学留学生セン ター紀要』2, 88-102

関麻由美(2016)「漢字の学習方法を学ぶ教材の試作」『JSL 漢字学習研究会誌』8, 43-52

高橋登・中村知靖(2015)「漢字書字に必要な能力 ―ATLAN 書取り検査の開発から―」『心理学研究』86

(3), 258-268

坂野永理他(2009)『KANJI LOOK AND LEARN』ジャパンタイムズ 南雲治嘉(2008)『色の新しい捉え方』光文社新書

茂木健一郎(2007)『脳を活かす勉強法』PHP研究所

(まえだ まき 東京外国語大学 非常勤講師)

(かわち あやか 東京外国語大学世界言語社会教育センター 特任助教)

― 235 ―

(13)

資料:漢字確認クイズ 学習者A

学習者B

学習者C

― 236 ―

(14)

A Report on Catch-up Classes for Beginner Students who had Difficulties Learning Kanji

MAEDA Maki, KAWACHI Ayaka KEYWORDS: beginnerʼs kanji studies, catch-up class, PowerPoint teaching materials,

how to remember kanji, improving kanji teaching

This paper reports on five catch-up classes that were conducted for three students who faced difficulties learning kanji in the intensive beginner Japanese class. After the kanji catch-up classes, the final exam grades of all three students improved.

Because the three studentsʼ questionnaire answers indicated that they had many difficulties, it was very important to assist them find learning techniques that best suited them at the beginner stage.

The analysis results identified six techniques to improve our kanji teaching method:

(1) using PowerPoint presentations to show one big letter per slide, and animating the kanji strokes in different colors;

(2) conducting activities that motivated the students to memorize the kanji characters within the limited class timeframe;

(3) limiting readings to two, one kun and one on;

(4) using classroom activities to help the students correctly understand the meaning of kanji characters;

(5) categorizing the kanji characters into groups, such as those having the same hen parts and those with similar meanings; and

(6) designing attractive worksheets and assignments so that the students enjoy using the kanji characters.

― 237 ―

参照

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