九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
ケンコク イゴ ノ チュウゴク トシブ ニ オケル ジュウタク キョウキュウ セイサク ト ソノ ジツゲ ン ニ カンスル ケンキュウ
白, 英貨
https://doi.org/10.11501/3148615
出版情報:Kyushu Institute of Design, 1998, 博士(工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
氏名・本籍(国籍) 白 英カ(中国)
学位の種類 博士(工学)
学位記番号 甲第26号
学位授与の日付 平成11年3月18日 学位授与の要件 学位規則第4条第1項該当
学位論文題目 建国以後の中号都市部における住宅供給政策とその実現 況に関する研究
審査委員会 幹事 教授 杉本正美 委員 教授 片野 博
委員 教授 友清貴和(鹿児島大学)
論文内容の要旨
本論文は、現在混迷化している中国の住宅供給を適切なシステムに転換するための方策 を明らかにするために、建国以降の住宅供給政策の推移と供給状況の関係に焦点をあて、
問題点の所在を明らかにしたものである。
1.研究の背景と目的
1949年の建国以降、中国都市部において住宅は、一種の福祉として国による一元的投資 と「単位」(=中国における職場の呼称)による建設・分配という体制下で、無償に近い低 家賃で都市民に供給された。これにより国家財政は逼迫し、70 年代末に政府は、公有住宅 の家賃引上げや新旧公有住宅の払下げ、「商品住宅」の供給などを通しての、国による一元 的住宅建設投資体系から「中央・地方・単位・個人」の四者による建設投資体制への方針 転換を内容とする住宅制度改革をおこなった。しかし、これらの施策も一定の成果は得た もののいずれも難航、「単位」間の所有住宅の格差と建設する経済力の格差の存在は、現在 に至って都市民の住宅格差を一層拡大させている。
本論文は、こうした現代中国の都市住宅問題の解決策を求めるための基礎的研究として、
建国から現在に至る約半世紀間に政府が定めてきた改革以前と改革以後とで全く異なる住 宅供給政策のそれぞれの策定過程と実施・実現状況を明らかにすることで、建国以降の住 宅供給政策に対する総合評価をおこなうことを目的とし、その考察に基づいて、今後の都 市住宅供給施策の展開に対する提案を試みたものである。
2.論文の構成と概要
本論文では序章と結章および本編3章の全5章から成る。
第2章では、建国から1978年改革までの政策に着目し、改革以前の政策の三本柱である 低家賃供給体系と国による一元的投資の形成過程および「単位」による住宅建設・分配の 実態とそれによって自力での住宅取得を考えず「単位」の住宅分配に頼る「等・靠・要」(と う・こう・よう)概念の形成過程を捉えることで、従来ほぼ否定されてきた改革以前の政 策に対する再評価をおこなった。ここでの考察では、主に建国初期の政策内容と改革後の
新たな政策方針とを比較しながら、建国初期の政策の合理的な部分を評価し、その合理的 な部分が失われる過程を考察することで改革に対する政策的提言をおこなった。
第 3 章では、改革後の政策に着目し、改革の実施状況を捉えた上で政府が定めてきた政 策全体の問題点を考察した。それによって、これまでの改革の20年間、政府は公有住宅の 取得可能な都市民を偏重する政策を採ってきており、公有住宅が取得不可能な都市民につ いては、経済力のある者だけが重視され、経済力も乏しい都市民は軽視されてきた実態を 明らかにした。さらには改革以前の旧体制下はもとより、改革後の住宅供給においても「単 位」が変わらず政策上で極めて重要な位置を占め続けたことが、市場経済の下で構築すべ き都市民と住宅の直接商品関係を今日まで形成できていない根本的な要因となっているこ とが分析できた。つまり、「単位」を通じて公有住宅を取得しない限り、都市民は「福祉」
政策の受益者から外れざるを得なかったということであり、改革後の政策も全ての都市民 の住宅保障政策とはなり得なかったという評価を得ることができた。
第 4 章では、近年議論の焦点にもなった「商品住宅」の売れ残り問題に着目し、個人の 自力による住宅取得の問題点と可能性を考察した。この章は、2、3 章における建国以後の 住宅政策の総合的検証に基づく現代における住宅問題研究の在り方を示す一例としての性 格を持つと同時に、本論文の今後の発展の可能性を示すものとして位置づけられる。
3.結論
中国都市部の住宅供給において、現在なお個人の経済能力に応じた公平な住宅取得体制 を形成できていない理由として、①改革による政策転換にもかかわらず住宅の直接消費者 である都市民と住宅の間に「単位」が介在し続けたこと、および、②それによって「等・
靠・要」という改革実現を困難にする概念が都市民の間に根強く形成されたこと、という 二つの要因を明らかにできた。この考察に基づき、中国都市部の住宅供給政策における今 後の課題として、(1)より公平な「社会保障型の住宅供給体制」を構築するためには、都市 民と「単位」との住宅面での依存関係を断ち、これまでの「単位」ごとの住宅保障体系か ら社会保障体系へ徐々に転換を図る必要があること。なお住宅供給体制のなかから「単位」
がまだ分離されていない現時点では、少なくとも住宅の購入時に「単位」の補助の度合い によって異なる住宅所有権を与える体制を採る必要性があること。(2)今後は都市民に住宅 を持たせようとする持家政策に一方的に傾斜せず、公的補助下での安い賃貸住宅および家 族形態による期限付き「社宅」的なものの供給の必要性があること、の 2 点を挙げること ができた。
論文審査の結果の要旨
中国都市部では1949年の建国以降、都市民に対する住宅は、国による一元的投資と「単 位」(=中国における職場の呼称)による建設・分配という体制により、一種の福祉として 無償に近い低家賃で供給されてきた。これによる国家財政の逼迫に対し、70 年代末に政府 は住宅制度改革をおこなった。それは、家賃引上げや新旧公有住宅の払下げおよび民間に
よる「商品住宅」の供給といった、国による一元的住宅建設投資体系から「中央・地方・
単位・個人」の四者による建設投資体制への方針転換を内容とするものであった。しかし これらの施策も一定の成果は得たもののいずれも難航し、「単位」間の所有住宅の格差と建 設能力の格差の存在が、現在に至ってもなお都市民の住宅格差を一層拡大させている。
本論文は、こうした中国都市部を対象に、建国から現在に至る49年間を住宅制度改革以 前とそれ以後現在までの 2 期に分け、政府による住宅供給政策の策定過程とその実施・実 現状況、およびそこに見られる特徴と問題点を明らかにしたものである。この分析に基づ き、建国以降の住宅供給政策の再評価および現在中国で最も問題とされている個人による 住宅取得、特に「商品住宅」取得の問題点とその売れ残り問題を詳細に分析し、その要因 を解明している。
第 2 章では、まず改革以前の住宅供給施策が、その初期において、住宅の改修や改築費 用を含む家賃設定という適正な供給システムを保持していたことを明らかにし、それが後 半には住宅供給を福祉対策とする極めて低廉な家賃設定となり、新築ばかりか既存住宅の 改善さえできない状況に陥った過程を解明している。改革以前の住宅供給政策を取り上げ た既往研究はごく少数であり、そのいずれもが、改革の必要性を擁護するために定説化し ていた改革直前期の政策の問題点を指摘したものであったのに対し、本論文では、建国初 期の政策に一定の合理性を評価した上で、それらが失われた過程を明らかにするという既 往研究にはない視点を有している。
第 3 章では、改革後に展開された多様な住宅政策について論究している。改革後は「単 位」への住宅建設依存から、政府による住宅供給、民間活力の導入等の新たな供給システ ムの構図が図られたが、これらは所属する「単位」によって左右される公有住宅の取得可 能性によって、施策対象となる都市民が限定されたため、入居者・購入者の不平等感を助 長させる結果を招いたと結論づけている。この改革以後の住宅供給政策に関する既往研究 は多数あるが、いずれも政府の改革施策を是認し、その実現を妨げる問題の解決策を述べ るに止まり、本研究のような住宅供給政策全体の問題点の考察には至っていない。
第4章では、2、3 章で得られた知見を根拠として、現代の中国都市部において問題とな っている民間開発の「商品住宅」の売れ残り問題について論究している。限られた高所得 層を対象とした「商品住宅」が計画性の乏しい不動産ブームによって建設され、やがて売 れ残る過程を示し、今後の中国都市部における個人による住宅取得の問題点と可能性を明 らかにした点に意義を見出すことができる。
本論文のように、建国当初から改革後を通しての住宅政策の展開状況を一貫して明らか にしたものは既往研究には無く、かつ改革以前の住宅供給に一定の合理性を見出した成果 は高く評価できる。さらには住宅供給における「単位」の役割およびその「単位」や国家 に住宅供給を依存する都市民の「等・靠・要」意識の形成の視点から、今日の「商品住宅」
供給上の問題と課題を考察した成果はユニークである。研究の方法も、既存の定説や論調 に依拠せず、論文や文献から得られる一次データを多用し、また信頼性のある政府の通達
文書の分析から根拠を得るなど妥当なものである。
以上のように本論文は、着眼点が独創性に富みかつ論としても論理性が高く、今後の中 国の住宅政策に多くの知見を与えるものと判断できる。よって本審査委員会は、本論文を 博士(工学)の学位論文に値するものと判定した。
最終試験の結果の要旨
1月29日に公開発表会が開催され、環境設計学科および学外関連分野の研究者、民間研 究者など約30名が参加した。論文提出者に対し、出席者及び各審査委員から、中国住宅市 場における民間開発業者の役割と参入の可能性、今後の政府と民間による供給住宅の再編 の展望、自由主義経済化がもたらす住宅供給政策への影響と問題点等についての質問が出 され、活発な質疑応答がおこなわれたが、これらの質問に対しては論文内容に即した論文 提出者からの納得のいく説明がなされた。
引き続き審査委員によっておこなわれた最終試験においては、中国および日本の中国住 宅政策研究における本研究の位置付けと得られた成果の独創性、今後の研究の展開の可能 性等についての質問が出されたが、これに対しても論文提出者より十分な説明が得られた。
また、論文内容、発表内容および質疑応答によって学力も十分と認められた。
よって審査委員会合議の結果、最終結果は合格と決定した。