(121)
曇ム ロ冊
説
ア メ リ カ に お け る 地 方 政 府 の 出 訴 資 格
1州裁判所判決を手がかりとしてー
柴 田 直 子
は じ め に
ニ ュ ー ヨ ー ク 州 に お け る 地 方 政 府 の 出 訴 資 格 法 理 の 形 成
一地方政府の出訴資格の大原則一地方政府の﹁法的性格﹂に関する合衆国裁判所判決二地方政府の﹁出訴資格﹂に関する合衆国裁判所判決三地方政府の﹁出訴資格﹂に関する州裁判所判決四﹁州の創造物﹂としての地方政府の出訴資格
121
二財産的利益にもとつく出訴資格一﹁法人﹂としての地方政府二﹁財産的利益﹂基準
(一)ζ弩霞ohΩ蔓oh乞Φ≦ぎ爵タ冨≦8艮一㊤︒︒刈)
X22
(二)Oo巨蔓9カΦコωωΦ一山霞≦幻Φぴq9︒⇔(一ゆ㊤一)
三﹁財産的利益﹂基準の限界
三州の行政処分の第三者としての出訴資格一﹁法律による授権﹂基準二﹁法律に保護された圏内﹂基準三州の行政処分の第三者としての出訴資格の基準
神 奈 川 法 学 第36巻 第 ユ号2003年
四州の裁決的関与に対する出訴資格一﹁州の代理機関﹂としての地方政府二﹁独立の機関﹂としての地方政府三﹁法律による明示的・黙示的な授権﹂基準四州の裁決的関与に対する出訴資格の基準
五地方政府を名宛人とする州の行為に対する出訴資格一訴訟能力とスタンディングニ修正﹁法律による明示的・黙示的な授権﹂基準
六州政府によるマンデイトに関する出訴資格一州政府によるマンデイトニ﹁原告に憲法違反の危険がある場合﹂基準三﹁原告に憲法違反の危険がある場合﹂基準の適用
(122)
七州法による権限の剥奪に対する出訴資格一﹁州の創造物﹂原則の適用二﹁ホームルール権限﹂を有する地方政府
八州の予算や州法自体を争う出訴資格
(123)
最 Ω 近 蔓 の0 判2例CD
ぜ堅
蟹 巴
CD
O
歪
塗
九 小 括
二地方政府の出訴資格と地方政府の法的地位
ア メ リ カ にお け る地 方 政 府 の 出 訴資 格
一﹁州の創造物﹂の訴訟能力欠如原則一﹁州の創造物﹂の﹁訴訟能力﹂二地方政府の﹁訴訟能力﹂と﹁法的地位﹂二﹁法人﹂としての地方政府三地方政府の﹁固有の自治権に四﹁公法人﹂としての地方政府五﹁州政府による適法性の統制﹂と﹁タテの権力分立﹂六﹁ホームルール権限﹂を獲得した地方政府七ニューヨーク州における地方政府の法的地位
三ニューヨーク州以外の州における地方政府の出訴資格の法理
地 方 政 府 の 出 訴 資 格 に 関 す る 様 々 な 州 裁 判 所 判 決
一 厳 格 な 出 訴 資 格 要 件 f ー ワ イ オ ー ミ ン グ 州 二 Ω 蔓 o 胤 Z Φ ≦ 囑 o 昏 判 決 の 基 準 の 採 用 1 ー バ ー モ ン ト 州
三 ス タ ン デ ィ ン グ 審 査 の 放 棄 l ー ア リ ゾ ナ 州 四 地 方 政 府 の 公 共 訴 訟
123
ー ニ 二
﹁住 民 の 利 益 を 代 表 す る 出 訴 資 格 ﹂
ミ ネ ソ タ 州 マ サ チ ュ ー セ ッ ツ 州
124
(一)住民を代表するスタンディングの例外(二)住民を代表するスタンディングの限界
三カリフォルニア州
(一)ωΦぎoq興タΩ蔓Ooきo嬬o津げΦΩ蔓o{幻Φ亀彗αω(一⑩○︒Φ)
(二)OΦ導逗UΦ惹芝舞Φ﹃>oqΦ口身く●ω聾Φ≦鉾興閑Φωo霞808qo已8a(一8ω)
四小括
神 奈 川法 学 第36巻 第1号2003年
四﹁住民の利益を代表する出訴資格﹂
﹁第三者の権利を主張するスタンディング﹂一﹁第三者の権利を主張するスタンディング﹂の禁止二﹁団体が構成員の権利を主張するスタンディング﹂二誰が公益を代表するか一州政府と地方政府二﹁住民の利益を代表する出訴資格﹂に関する州裁判所判決三﹁住民の代表﹂としての地方政府
お わ り に
は じ め に
(124)
一九九九年七月︑日本では︑地方分権推進委員会の勧告にもとづき︑四七五本の法律改正を伴う︑地方分権一括法が国会
を通過した︒この改正によって︑機関委任事務は廃止され︑国等による自治体への関与の方法は大きく変更されることとな
った︒中央地方関係を律する理念も︑従来の﹁上下・主従﹂関係から﹁対等・協力﹂関係へと変わる︒
(125}
ア メ リカ に お け る 地 方 政府 の 出 訴 資 格 125
ところで︑この﹁対等・協力﹂の新しい中央地方関係を実現する方法の一つとして︑国と自治体との紛争処理の手続に現
在関心が集まっている︒今回の改正では︑国の関与に不服がある地方公共団体が︑国地方係争処理委員会に審査を申し出︑
その上で︑機関訴訟を提起することができるようになった︒今後︑この手続に︑どのような争いが持ち込まれ︑どのような
解決の過程が生まれるのか︑大変興味深い︒しかし︑.﹂の手続に定められたのは︑国の覆の関与に関す矯争のみである︒
そこで︑自治体の出訴資格をどのように解釈すべきであるかという︑根本的な課題は残されたままであった︒
この問題に関連して︑現在注目されているのが︑大分県日田市が︑元通商産業省(現経済産業省)を相手取って提起した
訴訟である︒これは︑隣市である別府市が運営する別府競輪の場外車券売場を︑日田市内に設置することを元通商産業省が
許 可 し た こ と か ら ︑ 設 置 に 反 対 す る 品 市 が ︑ そ の 無 効 確 認 を 求 め て 提 起 し た 抗 止 ・ 訴 訟 で あ る ︒ 畠 市 に 対 露 国 の 霧 の
関与ではないため︑日田市の原告適格について︑裁判所がどのような判断を行うのか︑その判決が待たれていた︒結局︑第 ヨ 一審の大分地方裁判所は︑今年一月二入日の判決において︑日田市の原告適格を否定し︑訴えを却下した︒この訴訟を契機
として︑自治体の出訴資格の理論的な枠組構築へ向けた議論はさらに活発になっている︒
日本の地方自治体は︑一方においては︑憲法上自治権を保障され︑国から独立した地位を与えられた法的主体であり︑法
人である︒また︑もう一方においては︑個々の住民によって構⁝成され︑﹁住民の福祉の増進等に責任をもつことを基本とし﹂︑
﹁地域における行政を自主的かつ創造的に実施する役割﹂を広く担う団体であることが︑新地方自治法に定められている
(新地方自治法一条の二第一項)︒筆者は︑この規定にみられる文言が︑日本における今後の自治体の出訴資格を考察する上
(4)で︑大きな示唆を含むものであると考える︒
本稿は︑このような日本の現状を北目景に︑アメリカにおける地方政府の出訴籍の分析を行︑竃のである︒地姦府が上
位政府との紛争の司法的解決を求める出訴資格に関しては︑諸外国の制度との比較研究など︑多くの先行研究があり︑アメ
神 奈 川 法 学 第36巻 第1号2003年 126
(126)
(6)リカの地方政府の出訴資格を取り上げた研究もある︒これらの研究は︑アメリカの積極的な当事者適格法理を︑様々な事例
を手がかりに分析する中で︑地方政府の当事者適格を取り上げたものや︑あるいは︑地方政府の原告適格法理を主に合衆国
裁判所判決の分析をとおして明らかにしたものである︒しかし︑地方政府の出訴資格に関する判例は︑州において様々であ
り︑また︑もともと合衆国憲法が︑地方政府に関する制度を各州法に委ねているため︑合衆国裁判所は︑地方政府の出訴資
格にかかわる判決を述べる際に︑必ずしも︑その法的根拠︑あるいは︑地方政府の自治権との関係を明確にしていない︒そ
.﹂で︑森では︑地譲府の出訴幕に関して︑より詳細な資料を撰する州裁判所の判決を手がかりとして︑その理論的
枠組みの分析を試みたい︒
この試みは︑さらに︑アメリカにおける州政府τ地方政府ー住民の法的関係を論じるものでもある︒なぜなら︑州裁判所
の判決において︑地方政府の出訴資格は︑地方政府が州政府あるいは住民との関係においてどのような法的地位を有してい
るのか︑という問題に密接に結びついているからである︒アメリカは︑連邦制の国であるため︑法制度は州によって異なる︒
それにもかかわらず︑地方政府の出訴資格にかかわる州裁判所判決を見るとき︑アメリヵの地方政府の出訴資格は︑大きく
二つに分けられるように思われる︒一つは︑州と関係から規定される出訴資格であり︑これは︑州法上の権利にもとついて
付 与 さ 訟 ︒ も つ ; は ︑ 住 民 と の 関 係 か ら 規 定 さ れ る 出 訴 幕 で あ 筆 ︺ れ は ︑ 住 民 の 利 益 を 袋 す る と い う 髪 の 中 で
付与される︒本稿では︑地方政府の出訴資格にかかわる州裁判所判決の分析から︑この二つの出訴資格が︑地方政府の法的
地位・役割の歴史的な変遷の過程で︑これを司法的に実現するために発展したものであることを導き牝・
筆者はかつて︑別の論文で︑アメリカ地方政府の法的地位について考察し︑地方政府創設以降の法的地位を四つの時代に
分けて説明した︒すなわち︑(一)植民地政府のもとで﹁法人﹂と扱われた時代︑(二)独立戦争後︑その地位をめぐって︑
地方政府の自治権に否定的な﹁州の創造物﹂説と肯定的な﹁固有の自治権﹂説が対立した時代︑(三)﹁州の創造物﹂説が優
X127)
ア メ リカ に お け る 地 方 政府 の 出訴 資 格 127
勢になりディロンの法則が広く適用された時代︑そして︑(四)その反動でホームルール運動が起こり︑地方政府が州から
ホームルール権限を獲得した時代である︒
このような地方政府の法的地位の変遷は︑実は地方政府の出訴資格にかかわる州裁判所の個々の判決の中にも組み込まれ
ていた︒とりわけ︑一九九五年のニューヨーク州最高裁判所判決︑Ω蔓ohZΦ芝団o葺タω母80h乞Φ毛鴫o蒔(以下︑Ω昌9
ZΦ≦嘱o蒔)は︑これまでのニューヨーク州における地方政府の出訴資格に関する諸判例を統合し︑包括的な基準を示した
判決であるが︑この判決が示した出訴資格の判定基準の中には︑地方政府の法的地位の変遷と出訴資格とのパラレルな関係
が見事に体現されている︒
Ω蔓o{乞Φ≦くo蒔判決は︑まず︑地方政府の出訴資格に関して︑アメリヵ全域で採用されている厳格な大原則を述べる︒
すなわち︑﹁﹃州の創造物﹄である地方政府は︑その創造主である州に対して訴訟を提起する出訴資格を有さない﹂という原
則である︒しかし︑続いて︑この判決は︑ニューヨーク州裁判所の判例法上認められてきた︑四つの例外を列挙する︒すな
わち︑(一)私人と同一の資格によって法人の財産的利益を追求する出訴資格︑(二)﹁ディロンの法則﹂の下で︑法律の明
示︑あるいは黙示の授権がある場合にのみ認められる出訴資格︑(三)州が地方政府の﹁ホームルール権限﹂を侵害する場
合に認められる出訴資格︑そして最後に︑(四)原告である地方政府らが︑もし州法に従うことを強制されたなら州憲法の
規定に違反する恐れがある場合に︑当該州法の合憲性を確認するために訴訟を提起する出訴資格である︒
Ωな9乞Φ≦団o葺判決は︑これら四つの出訴資格を再確認するにあたって︑多くの州裁判所の先例を引用した︒そして︑
それらの判決には︑地方政府が州との関係で確立してきた法的地位を保障するために︑その時々の州裁判所が︑州法の解釈
ロ を通じ︑何とか出訴資格を導き出そうとしてきたことがよく示されている︒これらは︑州法によって与えられた地方政府の
権利を州裁判所において主張する資格の探索であった︒
128 神 奈 川 法 学 第36巻 第1号2003年
(128)
ところで︑ニューヨーク州から他州へと目を転じるとき︑地方政府の役割を拡充する他の様々な出訴資格の法理を見つけ
ることができる︒その中でも︑マサチューセッツ州︑ミネソタ州︑カリフォルニァ州の判例に見られる﹁住民の利益を代表
する出訴資格﹂は︑地方政府の法的地位とその役割について︑大きな示唆を含むものである︒なぜなら︑ニューヨーク州の
前述の出訴資格が︑地方政府が州法によって与えられた権利を州裁判所において主張する資格であったのに対して︑﹁住民
の利益を代表する出訴資格﹂は︑住民によって創設され︑住民の身近に存在する地方政府が︑住民の代表としての資格で住
民の権利を主張する出訴資格であるからである︒
﹁住民によって創設され︑住民の利益を代表する地方政府﹂という解釈は︑地方政府の創設以来︑とりわけ︑地方政府の
法的地位に関する大論争の時代にミシガン州裁判所のトーマス・M・クーリー裁判官によって主張されたものである︒クー
リー裁判官の﹁固有の自治権﹂論は︑その後の裁判所の支持を受けず﹁固有の自治権﹂という概念自体が︑既に過去のもの
と理解されているようであるが︑アメリカ州裁判所判決にみられるこのような出訴資格は︑アメリカにおいて︑地方政府を
住民との関係から規定する法理が︑今なお有効な側面を持っていることを示している︒
本稿では︑第一章においては︑地方政府の出訴資格に関する分析に先立って︑ニューヨーク州裁判所による諸判例を紹介
する︒先にあげた︑一九九五年のΩ蔓鼠2Φ≦ぎ跨判決は︑地方政府の出訴資格に関するニューヨーク州判例法を統合す
る形でまとめられたものであるが︑この判決自体は︑非常に簡潔なものである︒そこで︑この簡潔さを補うためにも︑まず
は︑この判決に至るまでの地方政府の出訴資格に関する州裁判所判決を取り上げる︒
その際︑判決を七つの類刑干ー‑地方政府が︑財産権の主体として財産的利益を追求する場合︑地方政府が州やその行政機
関の処分の名宛人である場合︑同じく処分の第三者である場合︑州の裁決的関与を争う場合︑州の法律による関与︑とりわ
けマンデイトを争う場合︑州の法律による権限剥奪を争う場合︑そして地方政府が州の法制度全体を争う場合丁ーに分けて
(129}
ア メ リカ にお け る地 方 政 府 の 出訴 資 格 129
紹介する︒これらの各類型が︑判例法の中で四つの例外の一つ一つを作り上げてきたためである︒しかし︑同時に分類を行
うにあたっては︑日本で自治体の出訴資格を論じる際に用いられる類型を意識した︒
つづいて︑第二章においては︑地方政府の歴史を振り返り︑地方政府が創設当初からいくつかの重要な法的段階を経てき
たことを確認し︑第一章で得られた出訴資格の例外が︑それぞれ︑アメリカ合衆国における地方政府の法的地位の歴史的な
変遷に︑そのまま結びついていることを明らかにする︒すなわち︑(一)植民地政府のもとで確立した﹁法人﹂としての地
位は︑﹁法人﹂として﹁私人﹂と同じ資格で財産的利益を主張する出訴資格に︑(二)﹁州の創造物﹂という地位は︑﹁創造主﹂
である州に対して訴訟を提起できないという出訴資格否定の大原則に︑(三)ディロンの法則は︑﹁州法による授権﹂がある
場合の出訴資格に︑そして︑(四)地方政府が獲得したホームルール権限をもつ政府という地位は︑﹁ホームルール権﹂を主
張する出訴資格に結びついている︒これは︑各時代が地方政府に与えてきた役割を裁判所が担保してきたことを示すもので
あり︑これは︑本稿の研究から得られる重要な結論の一つである︒
第三章においては︑ニューヨーク州以外のいくつかの州の判決︑とりわけ︑﹁住民の利益を代表する出訴資格﹂に関する
判決を取り上げる︒つづいて︑第四章においては︑この﹁住民の利益を代表する出訴資格﹂の法的な根拠について︑判例の
分析を通して考察する︒地方政府が︑一般的な住民の利益あるいは公益を代表することを認めるこの出訴資格は︑裁判所と
いう場で︑地方政府の考える公益を州の考える公益と対等に戦わせ︑州全体の意思決定の過程に地方政府が参加することを
可能にする︒これらの判決は︑地方政府を﹁州の創造物﹂と解釈する見解が優勢となった一九世紀末以降も︑地方政府に対
して﹁住民の代表﹂としての役割を期待する見方が︑アメリヵの歴史の根底に太くはないとしても脈々と流れていたことの
お 表れであると解釈できる︒
周知のように︑アメリヵ州裁判所における地方政府の出訴資格は︑州によって大きく異なる︒また︑各州内においても︑
130
扱いが必ずしも統一されていない︒本稿は︑アメリカの地方政府の出訴資格に関して︑興味深い理論を示すものを個別に取
り上げるものであり︑包括的な研究からは程遠い︒また︑アメリカの地方政府に関する理論は︑日本のそれとは根本的に異
なるところがあるため︑わが国の制度と直接比較できるものでもない︒しかし︑アメリカにおける地方政府の出訴資格に関
する考察は︑わが国の制度を考察する上で︑何らかの参考になるものと思われる︒
ニ ュ ー ヨ ー ク 州 に お け る 地 方 政 府 の 出 訴 資 格 法 理 の 形 成
神 奈 川 法学 第36巻 第1号2003年
(14)ニューヨーク州において︑一九九五年に出された最高裁判所判決︑Ω曙ohZΦ≦くo蒔く.○︒冨80hZΦ≦くo蒔は︑州の行
為を争う地方政府の出訴資格に関して︑それまで州裁判所において積み重ねられてきた判例理論を総括し︑地方政府の出訴
資格の統一的な基準を提示するものであった︒本章では︑この一九九五年判決を紹介するとともに︑この判決に至るまでの
地方政府の出訴資格にかかわるニューヨーク州判決を類型別に地方政府が私人と同一の資格で財産的利益を追求する場
合︑地方政府が州やその政府機関の処分の名宛人になる場合︑同じく処分の第三者である場合︑州の裁決的関与を争う場合︑
州の法律による関与︑とりわけマンデイトを争う場合︑州の法律による権限剥奪を争う場合︑そして地方政府が州の法制度
全体を争う場合判例法の形成にかかわる順序で取り上げる︒
地 方 政 府 の 出 訴 資 格 の 大 原 則
(130)
一地方政府の問法的性格﹂に関する合衆国裁判所判決
周知のように︑アメリカ合衆国憲法は︑第四条第四節において︑﹁合衆国はこの連邦のすべての州に共和政体(帥
{131}
ア メ リカ に お け る 地 方 政 府 の 出訴 資 格 131
H 8 暮 一一 〇 き h o H ヨ o 臨 oq o < Φ ﹁ ロ 日 Φ 韓 ) を 保 障 し ⁝ : ﹂ と 規 定 す る 以 外 に は ︑ 特 に ︑ 州 政 府 内 部 の 制 度 に 関 す る 規 定 を お か な い ︒
に また︑第一条においては︑連邦政府の権限の及び事項を限定的に列挙し︑その他の事項は全て州政府と人民に留保する︒ここから︑アメリヵでは︑地方に関する制度はもっぱら州が定める事項と考えられてきた︒
そこで︑地方政府の出訴資格に関する制度についても︑各州法を見る必要があるが︑一般的には︑州憲法のもとでは︑地
方政府は︑他の政府機関と同じ﹁州の創造物﹂あるいは﹁州の下部組織﹂であり︑それゆえ︑親である州政府の行為を争う
め 出訴資格を有さないと考えられている︒
地方政府の﹁州の創造物﹂としての法的性格を典型的に述べているのは︑一九〇七年の合衆国最高裁判所判決︑国ロ韓雪
ざΩ暮曇甘ω9極(以下︑野轟)である︒これは︑アルゲイニ市民が︑ビッツ→グ市とアルゲイニ市の合併を命じ
たペンシルベニァ州法が合衆国憲法に違反すると主張し︑この法律に依拠した州最高裁判所の合併命令の取り消しを求めて
提起した訴訟である︒
この訴訟の中で︑原告は︑合併を命じる州法は︑地方政府と住民との契約を侵害するものであり︑また︑合併に伴う原告
らの税負担の増加は︑適正手続なしに原告らの財産を奪うものであるため︑合衆国憲法に違反すると主張した︒しかし合衆
国最高裁判所は︑この主張を退け︑ここで︑自治体法人(日ロ巳o言巴ooε霞鋤け一8)の法的性格に関して︑その後何度も引
用されることとなる合衆国裁判所見解を述べた︒
すなわち︑﹁自治体法人は︑州が政府権限を行使するために便利な行政機関として創設され︑権限を委託された︑州の政
治的下部組織である︒これらの権限を適切かつ効果的に行使するために︑自治体法人は通常︑人的・物的財産を取得.保
持・運営する権限を与えられている︒これらの法人に与えられる権限の数・性格・期間︑および︑これらの自治体法人が管
轄する領域は︑州の完全なる裁量の下にある︒自治体法人の憲章や︑政府権限を与える法律︑及び政府目的での利用のため
132 神 奈 川 法 学 第36巻 第1号2003年
(132)
に与えられた財産︑あるいは︑それらの財産についてこれを保持し運営する権限の付与並びにこれに対する税の免除は︑一
切合衆国憲法のいう契約ではない︒それゆえ︑州は︑自治体法人が所有している︑あるいは行政機関に委託している財産に
関して︑保障することなしに︑随意に︑その全ての権限を変更咲剥奪することがで襲Lという見解で劾・
地方政府の自治権を狭く解釈するこの判決は︑これ自体︑各州内における地方政府の地位について述べたものではなかっ
た︒しかし︑地方政府の法的位置付けに関する大論争の末に示されたこともあり︑地方政府の出訴資格を含む︑その後の州
内における地方政府の地位に大きな影響を与えることとなった︒
二 地 方 政 府 の ﹁出 訴 資 格 ﹂ に 関 す る 合 衆 国 裁 判 所 判 決
国 琶 § 判 決 に 示 さ れ た 地 方 政 府 の 自 治 権 に 関 す る 厳 格 な 解 釈 基 準 は ︑ 地 方 政 府 の 出 訴 資 格 に 関 す る 法 理 に も 適 用 さ 幾 ・
ハお
一 九 三 三 年 の ≦ 5 9︒ 白 く ・ ζ 錯 o H 9︒ 巳 O o ¢ コ ︒ ロ 9 じd 聾 巨 o お ( 以 下 ︑ ζ 効 ︽ o 同 ) は ︑ バ ル テ ィ モ ア 市 の 市 長 と 議 会 ︑ ア ナ ポ リ
ス 市 の 市 長 と 市 議 会 議 員 ︑ そ し て 両 市 自 体 が ︑ 特 定 の 鉄 道 会 社 の 財 産 に 対 す る 地 方 税 を 免 除 し た メ リ ー ラ ン ド 州 法 が ︑ 合 衆
国 憲 法 修 正 一 四 条 等 に 違 反 す る と 主 張 し て ︑ そ の 無 効 の 確 認 を 求 め た 訴 訟 で あ る ︒ こ こ で ︑ 原 告 で あ る 市 ら の ﹁ 合 衆 国 憲 法
上 の 保 護 を 求 め る ス タ ン デ ィ ン グ ﹂ の 有 無 が 問 題 と な っ た ︒ し か し ︑ 合 衆 国 最 高 裁 は ︑ こ れ を 否 定 し た ︒ そ の 理 由 は ︑ ﹁ 自
治 体 (ヨ ¢ 巳 o ぢ p︒ 一 〇 〇 巻 o 鑓 江 o 口 ) は ︑ 州 が よ り よ い 政 府 秩 序 を 築 く た め に 設 置 し た も の で あ り ︑ 合 衆 国 憲 法 は ︑ 自 治 体 に 対
して︑彼らがその創造王に異議を申し立てる根拠となるいかなる特権も免除も与そい轟﹂からであった・
この合衆国裁判所の解釈は︑地方政府は︑州の下部組織であり︑私人とは異なるため︑修正一四条の平等条項や適正手続
条項によって保護されておらず︑それゆえ出訴資格もない︑というものである︒それゆえ︑出ロ曇興判決と同様︑ζ錯o同判
決は︑この合衆国憲法の条文にもとつく地方政府の権限を否定はしたものの︑州裁判所における市の出訴資格までを否定す
(133)
ア メ リ カ にお け る地 方 政 府 の 出 訴資 格 133
るものではなかった︒このことは︑ζ翅o﹁判決が︑﹁州憲法の違反に対する訴えを裁判所で聞いてもらう﹂目的における市
ム のスタンディングは︑﹁州の法実務の問題であり︑これに関して︑連邦裁判所は独自の判断を行わない﹂︑と述べたことにも
表れている︒
それにもかかわらず︑ζ錯o﹃判決を含む一連の合衆国判決は︑州裁判所における厳格な出訴資格の原則をより強固なも
のとしたようである︒州のレベルにおいても︑多くの裁判所が︑連邦の法理に倣って︑﹁地方政府は州の創造物であるので︑
州の行為を争うスタンディングはもたない﹂と述べ︑地方政府の出訴資格を否定した︒
三 地 方 政 府 の ﹁出 訴 資 格 ﹂ に 関 す る 州 裁 判 所 判 決
あ
一 九 五 四 年 の ニ ュ ー ヨ ー ク 州 裁 判 所 判 決 ︑ 国 β︒ 爵 国 く 窪 切 o oq ロ 聾 ぢ Φq U 一ω 三 9 ざ ﹀ α ぎ 巳 9︒ 爵 い Φ 凶 mq 器 Ω 暮 (以 下 ︑ 国 碧 評
国 く Φ H カ Φ oq 三 四 口 昌 Φq U 一︒︒ 窪 一〇 什 ) も そ の 一 つ で あ る ︒ こ れ は ︑ ニ ュ ー ヨ ー ク 州 ハ ー キ ー マ ー ( 一山 O N 犀 一目 P Φ H ) ・ カ ウ ン テ ィ に あ る ︑
ブ ラ ッ ク 川 及 び そ の 支 流 の 水 量 統 制 を 目 的 と す る 貯 水 池 ・ ダ ム の 建 設 計 画 案 が ︑ 州 憲 法 や そ の 他 の 法 律 に 違 反 し な い と す る
確 認 判 決 を も と め て ︑ ブ ラ ッ ク 川 規 制 区 政 府 が 提 起 し た 訴 訟 で あ る ︒ こ の 計 画 案 に つ い て は ︑ す で に 保 存 委 員 会
(0 8 ω Φ 署 9︒ け 一8 0 0 ヨ 巨 ω 忽 o 昌 ) の 建 設 許 可 が 下 り て い た が ︑ そ の 後 ︑ こ の 計 画 に 否 定 的 な 州 憲 法 修 正 が 行 わ れ ︑ こ の 修 正 に
もとついて新たな州法(ストークス法)が制定さ礼煙・そこで︑当該建設計画の実施において︑これらの州法が蕩である
か否かが問題となったのである︒
裁判においては︑原告である規制区が︑これらの州法の有効性を争う権限あるいは出訴資格を有するか否かが争点の一つ
となった︒裁判所は︑まず︑合衆国の出88﹁判決やζ昌霞判決を引用して︑﹁公的目的を実施することを委任された規制
区は﹂︑﹁その存在と機能を州の統治と監督の下におかれている︒その権限の数と性格は︑州の完全な裁量の下にあり︑これ
134 神 奈 川 法 学 第36巻 第1号2003年
らの権限に対する州立法府によるいかなる変化︑侵害︑破壊獣憲法上の問題を引き起こさ轟Lと述べて・合衆国憲法修
正 一 四 条 の デ ュ ー プ ロ セ ス 条 項 に も と つ く 出 訴 資 格 を 否 定 し た ︒
次 に ︑ 裁 判 所 は ︑ 規 制 区 の 主 張 す る 利 益 の 性 格 に 関 し て ︑ 連 邦 の 基 準 (眺 Φ α Φ 噌 蝉 一 ﹃ ロ 一① ) を 用 い て ︑ 州 に よ る 授 権 は ﹁ 確 定
的 権 利 (< ① ω 什Φ ユ ユ σq 簿 ) ﹂ に は な ら な い と し た ︒ す な わ ち ︑ 州 に よ る 授 権 は ︑ 公 的 信 託 に 似 て ︑ 公 共 善 の た め に 執 行 さ れ る よ
う に 委 託 さ れ た も の で あ り ︑ ど れ だ け の 期 間 そ の 権 限 が 存 在 す る の か ︑ そ れ が ど の よ う に 修 正 さ れ る の か ︑ あ る い は 変 更 さ
れるのかについての排他的な決定権は︑市民にあるとする︒当該建設計画に対する許可も︑原告に︑提案された場所や貯水
池の建設に関して︑立法府の行為から保護された契約上の利益を与えるものではなかった︒それゆえ︑これらは原告の出訴
資格の根拠とはならなかった︒
規制区の法的性格自体については︑裁判所はこう述べる︒すなわち︑﹁規制区は州と異なる特別の性格を有してはおらず︑
規制区の利益と州の利益は同一である︒﹂そして︑﹁規制区の唯一の目的は貯水池の建設であり︑明白に︑それは市民の健康︑
の 安全︑福祉に存する利益を実現する州の目的である︒﹂
これらの理由をあわせて︑裁判所は︑規制区は︑﹁[州の﹂法律や憲法の有効性について異議を唱える権限﹂をもたず︑本
件で問題となっている州法の合憲性を争う身分やスタンディングも有さない・と判決﹂煙・
このように︑多くの州裁判所の判決が州の法律や行為を争う地方政府の出訴資格を否定している︒
四﹁州の創造物﹂としての地方政府の出訴資格
日本では︑国と自治体との紛争を裁判所が扱う場合に︑これが︑いわゆる﹁法律上の争訟﹂に該当するかが︑議論となり
麟 麺 . そ こ で ︑ ア メ リ ヵ の 各 州 裁 判 所 に お い て ・ 州 政 府 に 対 す る 地 方 政 府 の 訴 馨 こ の 葎 上 の 争 訟 ﹂ と の 関 連 に お い
(135)
ア メ リカ にお け る地 方 政府 の 出訴 資 格 135
てどのように解釈されているかに興味がもたれるが︑州裁判所判決のレベルでは︑この議論にうまく重なるような説明はみ
られない︒
合衆国のレベルにおいては︑合衆国憲法第三条が司法権の及ぶ範囲を﹁事件・争訟(O餌ωΦのOHOOP什HO<Φ目ω一Φω)﹂に限定し
ているため︑少なくとも︑訴訟が︑この合衆国憲法上の要件を満たしているか否かの議論は生じうる︒通常︑合衆国レベル
お では︑原告適格の問題として︑この合衆国憲法三条の観点と︑裁判所の自己抑制の観点の双方から︑議論が行われる︒
しかし︑合衆国憲法は︑州の司法権に対しては適用されない︒そこで︑州の憲法を見ると︑本稿で扱う州を含む多くの州
の憲法は︑合衆国憲法三条のような厳格な﹁事件・争訟の要件﹂を定めていない︒このような州の裁判所においては︑いわ
お ゆるスタンディングの問題も︑もっぱら︑裁判所の自己抑制の問題と老えられており︑地方政府の出訴資格は︑通常︑この
自己抑制の問題としてのスタンディング︑すなわち︑個々の事例において︑地方政府が訴訟を提起するのに最適な当事者で
お あるかという議論の中で扱われることとなる︒
そこで︑州裁判所が︑州・地方政府間の紛争について︑司法的解決に馴染まないとの判断を示す際に︑どのような理由を
述べているか︑が次の関心事である︒通常︑州裁判所は︑既に見たじd冨o屏国く興幻Φoq巳卸什50qu響腎什判決と同様︑﹁地方政
府は﹃州の創造物﹄であるため︑親である州の行為を争う出訴資格を有さない﹂というフレーズを用いるだけであり︑それ
以上の分析を行っていない︒すなわち︑アメリカにおいて州裁判所が地方政府の出訴資格を否定する理由は︑判決の中でも
必ずしも明白にはされていないのである︒
しかし︑稀に︑州裁判所が︑このフレーズを少しずつ異なるニュアンスを含む言い方で補うことがある︒ここには︑アメ
リカの州裁判所が︑州・地方政府間の紛争を司法的解決に馴染まないものと考える︑より具体的な理由が示されているよう
に思われる︒そこで︑以下に紹介する︒
神 奈 川 法 学 第36巻 第 ユ号2003年 136
(136)
第一に︑地方政府は︑州立法府が州の活動の一端を担わせるために設置した組織であり︑その意味で︑州の一部︑あるい
は州自身である︒そこで︑その一部が他の一部を訴えるということは︑自分で自分を訴えるということになり︑それは裁判
に必要な﹁対立性﹂という形式に馴染まない・と述べるものが臥葡︒
第二に︑第一と重なる部分もあるが︑地方政府は︑州の一部として州の活動によって生じる利害を共有する存在
(ωプ費Φα一算Φおω叶)であるため︑不利な場合だけ訴訟を起こすというのは不適当であるという﹁衡平﹂的な考慮を示すもの
が 墾 ・
さらに︑第三として︑﹁州の創造物﹂という言葉の示唆する︑州と地方との﹁主従関係﹂に着目するものがある︒とりわ
け︑地方政府が州による法律的な関与を争う出訴資格を否定する判決の背景には︑地方政府の権限は︑全て︑州が裁量権の
下で︑付与してよいと判断し付与したものであり︑その是非を判断する能力を地方政府は有さない︑あるいは︑設置された
個々の組織が自らの権限を定めた州法を争うことは論理的に矛盾する・という解釈がみ雛︒
そして︑第四に︑裁判所の自己抑制という観点から︑憲法によって裁判所以外の政府部門に委ねられた問題に関する立法
府あるいは州とその政治的下部組織の政治的な関係の中に介入することは︑﹁権力分立﹂に反することであり︑裁判所は自
お 粛すべきである︑と述べる判決がある︒
これらから推測されるのは︑州政府と地方政府との争いを﹁同一の主体﹂︑あるいは﹁共通の利害を有する行政内部の機
関同志﹂の争いであり︑必ずしも﹁対立性﹂を有さない︑あるいは︑﹁政治的﹂﹁行政的問題﹂であり︑裁判所の介入すべき
ものではない︑と見るアメリヵ州裁判所の基本的な解釈枠組みである︒ここには︑日本の議論とある程度比較できる部分が
ある︒
ところで︑原則的には︑このような理由にもとづき地方政府の出訴資格を否定しながらも︑既にわが国においても紹介さ
(137)
ア メ リ カ にお け る地 方 政 府 の 出 訴 資 格 137
れているように︑州裁判所が︑例外的に︑地方政府の出訴資格を認めることがある︒これは︑どのような法的な根拠にもと
つくものであるのか︒どのような場合に︑州裁判所は︑州政府と地方政府との関係を﹁内部関係﹂と構成する個々の事情が
克服されたと判断し︑州と地方政府との紛争が裁判所で解決されるのが適当であると判断するのか︒
本章では︑以下︑ニューヨーク州裁判所の判決を分析しながら︑一九九五年のΩ蔓9乞o芝団o蒔タω母89乞Φ≦団o蒔
において明確な基準を示すまでの問に︑ニューヨーク州裁判所が︑地方政府の出訴資格に関してどのような法理論を形成し
てきたのかを類型別に検討する︒
一一財産的利益にもとつく出訴資格
ニューヨーク州裁判所は︑長い歴史の中︑いくつかの場合において︑例外的に︑地方政府が州の法律あるいは行為を争う
出訴資格を認めてきた︒本節以下では︑ニューヨーク州裁判所が認めた例外的な事例を類型別に取り上げる︒
一﹁法人﹂としての地方政府
第一の例外は︑地方政府が財産権の主体として︑私人と同一の資格で訴訟を提起した場合である︒アメリカにおいてもか
なり早い段階から︑地方政府が財産的利益(嶺o買一Φβ蔓一暮臼Φωけ)を追求する場合には︑州の行為や法律を争う出訴資格
を有するという考え方があった︒このような出訴資格の可能性について示唆したのが︑一九一二年のOo旨昌oh≧げ帥昌タ
出oo犀曾(以下︑缶oo屏巽)である︒
当時の州憲法の一九〇五年修正は︑高速道路建設のため︑州に五〇〇〇万ドルを上限に公債を発行する権限を付与してい
た︒そして︑この公債の元本︑利子を支払うために︑少なくとも半分を州の負担︑残りを修復の行われた地区のカウンティ
神 奈 川 法 学 第36巻 第1号2003年 X38
X138)
とタウンの負担で減債基金(ω言匹郎oq診巳)を設立することを規定し︑資金が道路を修復する地方政府間で公平に分配され
ることを保障していた︒しかし︑一九二年に制定された州法は︑新たな州高速道路修復において︑これとは異なる負担の
方法を提示した︒そのため︑この州法が州憲法に違反すると主張して︑オールバニー・カウンティが訴訟を提起したのか本
許訟であり︑ここで︑カウンティの出訴資格が問題となった︒
裁判所は︑カウンティの出訴資格を審査するに際して︑まず︑アメリカ全土におけるカウンティ創設の歴史を振り返り︑
カウンティとは︑﹁州政府が統治の便利のために州をいくつかの地域に区分し︑州の権限の行使を代理させるために設置し
た単なる州の代理機関﹂であり︑それゆえに︑﹁カウンティには︑その権限の行使に関して︑自らがその一部であるところ
の州に対して訴訟を継続する能力はない﹂とする原則が存在することを確認し姻︒
しかし裁判所は︑このとき︑﹁自治体法人(ヨ琶ζ冨汀oεo蜀梓δ口)としてのカウンティやミュニシパリティは︑法人と
しての権能において︑財産に対する権利と利益を有しており︑これを訴訟で保護することができる﹂とする理論を採用し裡・
これは︑カウンティが政府の機関でありながらも︑自然人と同じ立場で︑財産上の権利を主張することができ︑その場合に
は︑出訴資格を有する可能性を示唆するものであった︒
しかし︑結局︑この事件では︑﹁財産的利益﹂を主張する出訴資格は︑認められなかった︒裁判所によると︑本件の背後
にあるカウンティの目的は︑⊥q同速道路の修復に支出される公的資金の公正な配分に存するカウンティ住民の利益と権利を保
護することであり︑これは︑政府としての公的業務に関係する目的であった︒そこで本件は︑カウンティが︑私人として法
律上あるいはエクイティ上の財産権を追求する訴訟ではなかったので裁・さらに裁判所は・そもそもカウンティには・市
民のそのような権利を保護したり︑市民の損害の救済を求めたりする権限は認められていないとも述魅・そこで・最終的
にカウンティの出訴資格は否定された︒
{139)
しかし︑この判決の理論は︑その後︑財産的利益を根拠とする地方政府の出訴資格を判定する際に度々引用された︒
ア メ リ カ にお け る地 方 政 府 の 出訴 資格 139
二 ﹁財 産 的 利 益 ﹂ 基 準
(一)︼≦9Ω9﹃OhΩなOhZO毛副δ蒔<・署8口(昌㊤◎◎刈)
最近の例では︑いわゆる州のマンデイトを実施するために市が支出した費用の返還を求めた︑一九八七年のζ国#興oh
Ω言hzΦ乱︒量藝8(以下︑い葺︒艶がある︒州政府は︑連邦政府のいわゆる﹁マドスタンプ・プ易フム﹂
や﹁未成年の子をもつ家族への援助プログラム(﹀国UO)﹂の実施を市に委任しており︑そのための部課がニューヨーク市
にも設置されていた︒市が本プログラムの実施のために支出した費用の返還については︑州法が規定しており︑規則で具体
的な計算方法も示されていた︒しかし︑州は︑この法律を改正し︑この改正法において返還費用の新たな計算方法を提示し︑
さらに・この計算方法が遡及的に適用されることを定めた︒そこで︑ニューヨーク市が︑この遡及的適用を定めた改正法が
違憲であることの確認︑及び︑改正前の費用については改正前の方法で計算されることを求めて訴訟を提起した︒
州は︑市は州の下部組織であり︑それゆえ州の行為を憲法にもとついて争う権限はない︑という原則を主張した︒しかし︑
ここで裁判所は︑国oo屏興判決を引用して︑﹁州の下部組織が立法府の行為を争うスタンディングをもたないという原則は︑
法律が下部組織の財産的な権利ではなく政府的な権利に関係する場合にのみ適用される︒申立て人による特定の資金に対す
る 権 利 の 主 張 は ︑ 財 産 的 な 主 張 で あ り ︑ し た が っ て ス タ ン デ ィ ン グ を 有 す る ︒ ﹂ と 述 べ た ︒
( 二 ) O O ロ 昌 蔓 O h 寄 昌 ω ω Φ 冨 O ﹃ く . 寄 αq 軸5 (一 ㊤ ⑩ H )
ま た ︑ 飲 酒 運 転 の 減 少 を 目 的 と し た ﹁ 飲 酒 運 転 に 関 す る 特 別 交 通 プ ロ グ ラ ム (ω b Φ o 一鉱 窪 臥 h 一〇 8 ユ o 口 ω b ﹁ o Φq H 9︒ 8 h 自
酔 一く ヨ oq 妻 三 一Φ 一耳 o 臨 8 叶 巴 ) ﹂ に つ い て 定 め た 州 の ﹁自 動 車 交 通 法 (,く Φ げ 一 〇 一Φ 9ρ 廿 rα ] コ﹁ 曽 臣 目 O [ mP≦ ) ﹂ の 合 憲 性 を 争 っ た 一 九 九 一
神 奈 川 法 学 第36巻 第1号2003年 14Q
(140)
ソ年の08p蔓o臨幻窪ωωΦ鼠興く・幻①αq卿コ(以下︑Oo§蔓o出幻ΦpωωΦ一鋤興)がある︒この州プログラムは︑多くのカウンティが
プログラムに参加することを奨励するために︑飲酒運転が関係する違反に際してカウンティ裁判所が徴収した罰金について
は︑その全額を当該違反行為が行われたカウンティが自由に利用できると定めていた︒しかし︑州はその後︑州の会計検査
長が裁判所で課された罰金のうち二%を当該プログラムの実施の費用に割り当てることができる︑とする予算法案を通過さ
せた︒そこで︑レンサレア・カウンティが︑この予算はカウンティのホームルール権を保障した州憲法九条に違反するなど
の理由により無効である︑と主張した︒
これに関して︑州地方裁判所の控訴部門は︑い鋤葺8判決を引用し︑原告は特定の資金︑すなわち﹁飲酒運転に関する特
別交通プログラム﹂を定めた﹁交通法﹂に明記された︑全ての違反行為に関する手続で裁判所が徴収した罰金の全額を受け
とる権利︑という﹁財産﹂に関する主張を行っているとし︑それゆえスタンディングを有すると述庖・
三﹁財産的利益﹂基準の限界
このように︑ニューヨーク州に限らず︑地方政府が私人と同一の資格で︑財産権の主体として︑財産的利益の保護を求め
る場△.に訴地方政府の出訴幕が認められる.﹂とが多い.財産的利益にもとつく出訴資格は︑呆においても展的に認
められており︑戦前においても︑﹁公共団体力財産権ノ主体タル資格二於イテ国家二対スル場合ノ地位ハ私人ノ国家二対ス
ぬ ルト異ナラス﹂とされていた︒同じことが︑アメリカにおいても判例法の中で確立したのである︒
しかし︑地方政府が金銭的な請求を行っている場合であっても︑何がここでいわれる﹁財産的利益﹂であるかについては
議論がある︒第一に︑何が裁判所の救済を得られる﹁財産的利益﹂であるか︑第二に︑﹁私人と同一の資格による主張﹂と
﹁政府機関としての主張﹂との区別である︒これらについては︑一九八八年の↓︒≦︒2§妻︒︒舞風ω塁麹(以
(141)
ア メ リカ に お け る地 方 政府 の 出 訴 資 格 141
下︑↓o妻ロohζ自8ロ)がある︒
この訴訟は︑州から地方政府への消費税収入の配分方法に関して︑(一)人口比︑あるいは︑(二)カウンティとカウンテ
ィ内の市町村との協定︑という二つの選択肢を定めた州税法の合憲性が争われたものである︒サラトガ・カウンティと原告
であるモロー町を含む同カウンティ内の市町村は︑後者の選択肢にしたがって協定を結んだが︑その後︑人口比で配分され
た方が︑配分が多くなることを発見したモロー町は︑当該州法が州憲法に違反すると主張して︑前者を選択していれば獲得
できたであろう金額の税配分を求めて訴訟を提起した︒被告カウンティは︑﹁モロー町には州法の合憲性を争うスタンディ
ングはない﹂として却下を求めたが︑モロー町は︑ピ餌葺o口判決等にならって︑﹁特定の資金について権利を有している﹂
ため︑スタンディングがあると主張した︒
ここで裁判所は︑﹁財産的利益﹂について︑以下のような基準を示した︒すなわち︑﹁スタンディングの要件である財産的
利益を主張﹂するためには︑﹁単に特定額の資金﹂を請求するだけでは不十分であり︑﹁確定的利益(<ΦωけΦα一口けΦ同Φω什)の主
張 が 必 要 で あ る ﹂ と い う 華 で 紮 ・ 本 件 の モ マ 町 は ︑ 地 方 政 府 が 法 律 に よ っ て 特 定 の 資 金 を 付 与 さ れ て い た ピ 讐 ︒ コ 事
件とは異なり︑カウンティ消費税のいかなる割合についても受けとる権利を有していたわけではなかった︒そこで︑裁判所
ロ は︑本件におけるモロー町の主張は︑﹁財産的利益﹂の主張ではないと判断した︒
さらに︑裁判所は︑財産的利益の具体的内容に加えて︑﹁政府機関としての主張﹂と﹁私人としての主張﹂に関する区別
についても論じた︒これについては︑一九一二年の=oo貯輿判決が既に扱っており︑このとき裁判所は︑﹁カウンティが︑
主権の一部として︑州の高速道路の建設に利害をもつ場合︑これは︑政府的・公的な利害であり︑個別的.私的な法人とし
(紹)(騒)ての問題ではない﹂と述べて︑﹁財産上の権利﹂を根拠とする出訴資格を否定した︒
本判決でも︑裁判所は鵠oo評霞判決のこの部分を引用して︑原告が主張する税収入の配分の問題は︑﹁基本的な政府機能
142
の 問 題 ﹂ で あ り ︑ そ れ ゆ え ︑ モ ロ ー 町 は ︑ 財 産 的 利 益 を 主 張 し て い る わ け で は な い ︑ と 述 べ ︑ 出 訴 資 格 を あ く ま で 私 人 と 同
一の資格において財産権を主張する場合に限定した︒
このように︑財産的利益を根拠とする出訴資格は︑アメリカにおいても認められているが︑政府としての機能がかかわる
場合に︑裁判所は︑地方政府の出訴資格に対して厳格である︒そこで︑次節において︑地方政府が明らかに政府的な立場で
訴訟を提起する場合の出訴資格に関する判決を検討する︒
神 奈 川 法 学 第36巻 第 ユ号2003年
(142)
三州の行政処分の第三者としての出訴資格
本節においては州の機関あるいは地方政府が︑州の行った行政処分の第三者である場合に︑その固有の資格において処分
の有効性を争う出訴資格に関する事例を二つ取り上げる︒
}﹁法律による授権﹂基準
まず最初が︑充七七年の℃§;窪帥︒ωΦ三8・︒量ωωδ三以下℃︒︒曳である・これは・州法によって設
立された消費者保護局(ω8800富ニヨ曾甲oけΦo什一8し08a)の長が︑同州の公共サービス委員会(勺ぎ一ぢω嘆三8
00ヨ9一ωω一8)の裁決を争うため裁判所に提起した訴訟である︒消費者保護局を設置した州法は︑消費者保護局の長に︑同
局が命じる場合には︑州の行政機関に対して︑消費者を代表する権限を与えていた︒そこで︑一九七四年︑同局の長である
プーラーは︑授権を得て︑公共料金にかかわる公共サービス委員会に参加し︑その中で電力会社による料金値上げ要求に異
議を唱えた︒しかし︑公共サービス委員会が値上げを承認したため︑プーラi局長は︑この決定を争うため裁判所に訴訟を
提起した︒そこで消費者保護局.局長が︑公共サービス委員会の決定を争うために訴訟を提起する能力を有するか否かが争
(」.43)
ア メ リカ に お け る地 方 政 府 の 出訴 資 格 143
いとなった︒
当初被告とされた電力会社は︑消費者保護局の権限は︑公共サービス委員会が最終的な決定を行った時点で終了し︑その
後に︑委員会の命令について司法審査を求める能力までは持たないと主張した︒裁判所は︑被告のこの主張を認めた原審を
支持し︑原告の出訴資格を否定した︒
裁判所は︑ここで︑﹁もし︑公的機関自体が︑他の政府の機関によって損害を与えられた場合であれば︑裁判所において
主張するスタンディングをもっていたかもしれない﹂と述べつつ︑本件の原告は︑私人が訴訟を提起する場合においてすら
ハむ 要求される︑﹁原告個人に生じた損虫Eというスタンディング要件を満たしていないことを指摘した︒
しかし︑それに加えて裁判所は︑関連する法律の解釈から︑﹁立法府は︑もし︑申立て人が本件の委員会の命令によって
損害をうけたと考えられる場合においてでさえ︑訴訟を提起したり︑提起されたりする権限を上告人や消費者保護局に与え
ることが相応しいとは考えていなかった﹂と述べ︑法律は︑本件の原告に︑スタンディング以前の問題として︑﹁訴訟の当
事者となる能力﹂を付与していないという解釈を述べた︒
ここで︑訴訟の当事者となる能力に関して︑裁判所は︑二段階の審査を行った︒まず︑原止暴頁会の権限を定めた執行法
(国U閑ΦO口口くΦ [倉o≦)と公共サービス法(℃暮一一〇ωΦ署一〇Φいo妻)の中に︑原告に対する明示的な授権があるか否かの審査であ
る︒しかしこれらの法律には︑原告に対する﹁明示的に権限﹂はなかった︒そこで︑次に︑法律に黙示的に︑訴訟を提起す
る能力が示唆されているか否かを審査した︒しかし︑裁判所は︑原告の立場からは﹁それが如何に望ましいものであろうと﹂︑ お ﹁原告の訴訟能力が︑立法府が適していると判断し付与した権限から︑必然的に引き出されるとは考えない﹂と結論付けた︒
結局︑法律による明示的な授権も黙示的な授権もなかったため︑本件の原告の出訴資格は否定された︒
144 神 奈 川 法 学 第36巻 第1号2003年
(144)
二﹁法律に保護された圏内﹂基準
二つめは︑同じく州の機関が行った処分の第三者である地方政府の出訴資格が争われた一九八二年のしd鑓90aOΦ算邑
み
ω o げ 0 9 9 ω 霞 一〇 什 ︿ ・ ﹀ 日 σ 鋤 o ロ (以 下 ︑ ゆ 轟 島 o 艮 ﹀ で あ る ︒ こ の 訴 訟 は ︑ 原 告 学 校 区 が ︑ 学 校 区 内 で 勤 務 す る 音 楽 教 員 に 対 し
て ︑ 州 法 の 規 定 す る ﹁ 学 校 区 の 推 薦 ﹂ の 要 件 を 満 た さ な い に も か か わ ら ず ︑ 教 員 免 許 (o Φ 同 叶 墜 8 叶 δ ⇒ ) を 付 与 し た 教 育 委 員
会 ( O O 臼 8 一ω ω 一〇 づ Φ 因 O h ]円 α 口 O po 什 一〇 口 ) を 相 手 取 っ て ︑ 教 六 旦 安 員 会 の 決 定 が ﹁ 恣 意 ・ 専 断 的 ﹂ で あ る た め 無 効 で あ る 確 認 を 求 め
お て提起した訴訟である︒
ここで︑学校区が教育委員会の決定を裁判所において争うスタンディングが問題となった︒結論から述べると︑最高裁判
所は︑学校区の教育局が︑教員の雇用主として︑教育委員会の決定に異議を唱えるスタンディングを認めた︒しかし︑本案
の審理の結果︑教員に教育免許を与えた教育委員会の決定を支持した︒
原告の出訴資格を判断するに当たって︑量口同裁判所は︑勺oo一Φ﹃判決では︑その適用までに至らなかった∪鉱二く紹判決の
スタンディング基準を採用した︒これは︑﹁法的権利の侵害﹂を要求した伝統的で厳格なスタンディング法理を否定し︑一
ハロ 九七〇年の合衆国最高裁判決︑︾∪﹀勺Q︒○ざO蝉ヨbの示した緩やかな審査基準を採用したスタンディングの審査基準で︑第
一に︑原告の主張する利益が﹁法律によって保護された利益の圏内﹂にあり︑第二に︑﹁現実の損害﹂が存在する場合に︑
原告のスタンディングを認める︒
本件の最高裁は︑第一の要件については︑当該教員の教員免許が無効であった場合に︑原告である教育局の個々の構成員
までもが︑﹁有資格教員のみを雇用する﹂義務への違反を問われ︑民事的・刑事的な制裁を受ける可能性があるため︑本件
の 原 告 ら に は ︑ 贅 免 許 の 有 効 性 に つ い て 司 馨 査 を 請 求 す る 法 的 な 利 益 が あ る と 趨 ・ 第 二 の 要 件 に つ い て は ・ 本 件 に お
いては︑教員免許の付与において法律が学校区に与えた裁量権が侵害されたため︑﹁現実の損害﹂があるとした︒さらに︑
⑮本件で関連する法律や先例には︑この原告のスタンディングを排除しようとする意図はない︒それゆえ︑裁判所は︑学校区ロ れズ がスタンディングを有すると判決した︒
ア メ リ カに お け る地 方 政 府 の 出訴 資 格 145
三州の行政処分の第三者としての出訴資格の基準
本節では︑州の政府機関が他の政府機関の行為の合法性を争う訴訟のうち︑特に︑原告である政府機関が被告政府機関の
行為の直接の対象でない場合の出訴資格の基準について述べた二つの判決︑勺oo一震判決と切轟α8a判決を紹介した︒
前者の℃oo一巽判決は︑当該機関が訴訟を遂行する能力を有しているかという観点から︑原告の出訴資格を審査し︑﹁明示
的授権﹂あるいは︑﹁黙示的授権にを要件とする二段階の基準を示した︒そこで︑財産的利益を主張する場合に加えて︑﹁明
示的﹂であれ﹁黙示的﹂であれ︑州議会が法律によって権限を付与している場合には︑出訴資格が認められることが確認さ
れた︒
後者の切δ亀oa判決の示した基準は︑私人に対して用いるのと同じスタンディングの基準を適用しながら︑その中で︑
学校区の﹁現実の損宝Eを要求するものであった︒
四州の裁決的関与に対する出訴資格
地方政府が州の行為の直接的な対象でない場合の出訴資格の議論は︑別の場面においても生じる︒例えば︑州政府あるい
はその下部組織が︑地方政府の決定に対する異議申し立ての裁決機関である場合に︑原処分機関である地方政府が︑裁決機
関の裁決を裁判所において争う︑という場面である︒本節では︑このような裁決的関与に対する出訴資格について扱った判
例を取り上げる︒
146 神 奈 川法 学 第36巻 第1号2003年
{146)
一﹁州の代理機関﹂としての地方政府
ニューヨーク州裁判所は︑連邦あるいは州のマンデイトの実施過程で︑州の⁝機関が地方の機関の上級機関と解釈される場
合に︑地方の機関が︑州の機関の裁決に異議を唱える出訴資格を厳格に排除する︒
これに関しては︑例えば︑カウンティの社会サービス部が州社会サービス省長官の裁決を争った︑一九七八年のζ舞霞
の
o 暁 しU 雷 鼠 o 一ロ タ 日 o す (以 下 ︑ ↓ o 冨 ) が あ る ︒ 争 わ れ た 州 社 会 サ ー ビ ス 省 長 官 (↓ o 一蝉 ) の 裁 決 と は ︑ カ ウ ン テ ィ 社 会 サ ー ビ
ス 部 に ︑ 九 歳 に な る 義 理 の 姪 の 公 的 援 助 受 給 資 格 (O ロ げ 一一 〇 曽 ω ω 一ω β コ o Φ ) を 否 定 さ れ た カ ウ ン テ ィ 住 民 の 請 求 に 応 じ て ︑ こ の
決 定 を 再 審 査 し た 裁 決 で あ る ︒ こ の 裁 決 で ︑ 長 官 は ︑ カ ウ ン テ ィ 社 会 サ ー ビ ス 部 の 当 初 の 決 定 を 覆 し ︑ こ の 少 女 の 公 的 援 助
受 給 資 格 を 認 定 す る と と も に ︑ カ ウ ン テ ィ に 対 し て ︑ 少 女 に 公 的 援 助 を 支 給 す る こ と を 命 じ た ︒ し か し ︑ カ ウ ン テ ィ は 支 払
い を 拒 ん だ ︒ そ の た め ︑ 住 民 は ︑ 再 審 査 の 結 果 に 従 っ て 支 払 う よ う 命 じ る 判 決 を 求 め て 訴 訟 を 提 起 し ︑ こ れ に 対 し て ︑ カ ウ
ン テ ィ の 社 会 サ ー ビ ス 部 も ︑ 長 官 の 決 定 の 取 り 消 し を 求 め る 訴 訟 を 提 起 し た ︒ こ れ ら の 訴 訟 は 併 合 さ れ (O O ]口 ω O = 鉱 鋤 叶 Φ α ) ︑
そ こ で ︑ ま ず ︑ カ ウ ン テ ィ 社 会 サ ー ビ ス 部 の ス タ ン デ ィ ン グ が 問 題 と な っ た ︒
れ 結論としては︑最高裁はカウンティの出訴資格を否定した︒その理由には︑本件のような州マンデイトの実施における制
度的特徴があった︒
この訴訟で争われた州福祉プログラムは︑連邦政府の﹁未成年の子をもつ家族への援助プログラム(﹀閃∪0)﹂に州が参
加するために作成されたものであった︒その実施のため︑ニューヨーク州は︑州全体で五八の社会福祉特別区を設置し︑こ
れらを︑州社会サービス省およびその長官の全般的な指揮監督の下で機能させていた︒各カウンティ社会サービス部内で実
施に携わる地方行政官(ooB邑ωω一8興ω)らについて︑州法は︑彼らを州社会サービス省の代理機関と位置づけており︑公
的援助の実施に要する資金が︑連邦︑州︑あるいは地方の財源のいずれから支払われるものであれ︑地方行政官の権限と責
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ア メ リカ に お け る地 方 政 府 の出 訴 資 格 147
務は・カウンティではなく・社会サービス省にあると定めてW超・さらにこの制度は︑カウンティで働く地方行政官が︑州
の省庁の代理機関と位置づけられている限り︑行政の混乱を回避するため︑州の規制に関する自らの解釈を︑州の省やその
長官の解釈に置き換えることを禁じていた︒
これらの規定から︑最高裁は︑行政の統一化が州議会の意思であると解釈した︒そこでカウンティの地方行政官が︑州の おズれ
長 官 が 公 正 な 聴 聞 の 後 に 行 っ た 決 定 に 対 し て 司 法 審 査 を 請 求 す る こ と を 認 め な か っ た ︒
二 ﹁独 立 の 機 関 ﹂ と し て の 地 方 政 府
し か し ︑ 原 処 分 庁 と 裁 決 庁 と が 独 立 し て い る 場 合 ︑ す な わ ち 裁 決 庁 が 第 三 者 的 裁 決 機 関 で あ る 場 合 ︑ 裁 判 所 の 判 断 は よ り
緩 や か で あ る ︒ 原 処 分 庁 が 裁 決 庁 の 代 理 機 関 で は な く ︑ ﹁独 立 の 機 関 ﹂ で あ る 場 合 に ︑ 裁 決 庁 の 裁 決 を 争 う 出 訴 資 格 を 認 め
お た判決に︑一九八一年のζp︒暮興9コ艮Φざ悶話ωげ≦蝉話H芝Φ二きαω﹀℃bΦ巴ωゆ09︒ao津げΦ6り富叶Φo団乞Φ≦嶋o﹃評(以下︑
コ接Φ)がある︒
州の淡水湿地帯を保護・保存するために︑その利用や開発を規制する州の﹁淡水湿地帯法﹂は︑環境保護省が﹁淡水湿地
帯﹂と指定した地域については︑いかなる開発についても同省の許可が必要であると定める︒本件においても︑ある開発会
社による公園施設の拡張予定地が︑この法律のもとで﹁淡水湿地帯﹂と指定されていた︒しかし︑開発会社の請求によって︑
淡水湿地帯再審査委員会(甲窃け毛讐霞箋①汁一︒︒巳︒︒>bO$一ωじdo窪島)が再審査を行った結果︑環境保護省の指定は取り消さ
れた︒そこで︑原処分庁である環境保護省長官が︑再審委員会の指定取消決定の取り消しを求めて本訴訟を提起した︒
本件においては︑州最高裁判所は︑環境保護省の出訴資格を審査するにあたって︑先の℃oo一臼判決の審査基準を適用し︑
本件で問題となった淡水湿地帯法が︑長官の出訴資格を﹁明示的﹂あるいは﹁黙示的﹂に付与しているか否かを審査した︒
148 神 奈 川 法 学 第36巻 第1号2003年
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﹁明示的授権﹂について︑この法律は︑長官に再審委員会の決定を争う直接の出訴資格に関する﹁明示的な規定﹂を有して
はいなかった︒しかし︑同法は︑まず︑長官が一般的な権限として淡水湿地帯法にかかわる訴訟を提起する権限があること
(76)(77)を明記しており︑また︑再審委員会の決定が司法審査に服することを明記していた︒また︑この法律の一般的な枠組みは︑
﹁長官と省がニューヨーク州の淡水湿地帯を保全・保護する第一義的かつ包括的な責任をもつ︑ということを明白に示して
い 李
そこで裁判所は︑これらの規定からは︑環境保全省が淡水湿地帯と指定した土地について︑淡水湿地帯再審委員会が︑司
法審査を受けることのない︑最終的な決定を行う権限をもつことを立法府が意図していたとは解釈できない﹂と述べ︑本件
の環境保護省長官の﹁黙示の﹂出訴資格を導き出した︒
ところで︑ここでは︑ニューヨーク州裁判所は︑裁決的関与にかかわる事例においても︑勺09霞判決の提示した︑﹁法律
による授権﹂のテストを適用した︒しかし︑一九八二年にしd冨錬o﹃島判決が出されると︑勺oo一①H判決の基準に加えて︑
しd毒◎8a判決の基準が適用されるようになる︒
三﹁法律による明示的・黙示的な授権﹂基準
充 八 三 年 の o ξ 隻 Φ 乱 ︒ ﹃ 貯 ≦ ξ ︒ 三 ω 聾 8 ︒ ︒ 塁 一誓 三 以 下 ︑ ξ Ω ≦ ω Φ 三 8 ︒ ︒ 量 ωω δ 艶 は ・ 原 処
分庁であるニューヨーク市人事部が退役軍人である警察官に対して行った人事決定を︑その再審査機関として設置されてい
るニューヨーク市人事委員会が覆した際︑原処分庁がこれを裁判所において争う能力を有するかが争われた訴訟である︒こ
れらの警察営は︑郵便局員のストライキ中︑郵便サービス事業の維持を助けるという任務を軍から命じられたが︑数時間後︑
本来の警察官としての職務があるために任務を解かれた︒にもかかわらず︑彼らは︑この勤務のみを理由に︑﹁退役軍人優