日・米・欧の企業結合審査における問題解消措置設 計
著者 田平 恵
雑誌名 同志社法學
巻 60
号 1
ページ 147‑270
発行年 2008‑05‑31
権利 同志社法學會
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000011387
日・米・欧の企業結合審査における問題解消措置設計一四七同志社法学 六〇巻一号
日・米・欧の企業結合審査における問題解消措置設計
田 平 恵
(一四七)
第一章 問題の所在第二章 欧米における反競争効果の分類および問題解消措置の目的・分類 第一節 反競争効果の分類 第二節 問題解消措置設計の目的 第三節 問題解消措置の分類 第三章 欧米の事例の検討 第一節 米国の事例
第二節 ECの事例 第三節 小括
第四章 日本における現状 第一節 企業結合ガイドラインにおける言及 第二節 近時の事例の検討 第三節 小括 第五章 検討 第六章 結語
日・米・欧の企業結合審査における問題解消措置設計一四八同志社法学 六〇巻一号
(一四八)
第一章 問題の所在
企業結合 (
求利のリソースを有効に用なしてさらなる利潤を追ど員、人われる場合、企業は経が営権を握り、資産・行 1)
すること、あるいは、経営の合理化や取引費用削減を目的とすることが多い。また、企業結合により生産や販売の効率性が高まる可能性や、資源配分上の効率性が高まる可能性が生じる。このように、企業結合は、社会的にも望ましい効
果をもたらしうる。しかし、企業結合により反競争効果が生じうる場合には、私的独占の禁止および公正取引の確保に関する法律(以下、﹁独占禁止法﹂と記す)のもとで当該企業結合は禁止される (
な業大多に際の合結企、は社会事当。 2)
資産や人員を投入する。そのため、当該企業結合が独占禁止法のもとで禁止されるか否か、あるいは、一定の措置を講じれば企業結合を遂行することができるか否かをできるだけ早い段階で知ることは、当事会社にとって非常に重要なこ
ととなる。他方、日本の競争当局である公正取引委員会(以下、﹁公取委﹂と記す)としても、早い段階で当事会社から当該企業結合に関する情報を得ることは、企業結合審査の迅速化につながるため、好ましいことといえる。そこで、
現在は、正式届出前の事前相談の段階で当事会社と公取委との間で措置を協議し、それを条件として企業結合を認めるという、いわゆる﹁条件付承認 (
イら。その際に講じれ多る、企業分割やラいがのとよる企業結合承﹂認がなされるこに 3)
センスの付与などの措置を、﹁問題解消措置 (
remedy()﹂と呼ぶ。 4)
このような問題解消措置が設計される場合、当該企業結合により生じる反競争効果との関係が当然に問題となる。当
該企業結合による反競争効果の有無は、適切に画定された市場、当事者の市場シェア、市場内の競争状況、新規参入の蓋然性、効率性などの種々の事柄に基づいて判断されることとなる。適切な問題解消措置とは、当該企業結合により生
じる反競争効果を除去するに足りる問題解消措置の設計、および、その問題解消措置の確実な実行を意味する。
日・米・欧の企業結合審査における問題解消措置設計一四九同志社法学 六〇巻一号 ところが、わが国では、適切な問題解消措置の重要性が提唱されている (
にお解題問、びよ、措性合適のと置消置消てめたるす討検いのつに行実な実確措解難競題は言いい。反争効果除去と問 十理な分も、のの的論た検討がなされてきと 5)
は、ある程度の事例の蓄積が必要となる。日本では、合併に関しては新日鉄合併事件 (
な般ため、過去の事例を整理して一原あうれさながとこい則とす出き導をるで相公前部談事例ので中表されるものは一 件唯一の正式事がであり、また事 6)
かった。しかし、反競争効果除去と問題解消措置との適合性に関しては、近年、JAL・JASの事業統合事例 (
提問こるれさ起なが疑との々数、てったと ( にいお 7)
。 8)
他方、米国では一八八〇年代の第一の合併ブームをはじめとして、一九二〇年代、一九六〇年代、一九八〇年代と四度の合併ブームがあり、一九九〇年代半ばに、第五の合併ブームが続いた (
消条解題問で認承付件はで国米、で中のそ。 9)
措置が設計された企業結合事例が多数ある。そのような事例の蓄積により、様々な問題解消措置が講じられている。
また、EC (
制示月二一年〇〇〇二、れさ入導が規告〇では、一九九年併に本格的な合に 10)(
が公表されるなど、法制度が 11)
整備されてきている。米国と同様、企業結合事例の蓄積もあり、問題解消措置の種類も多岐に渡っている。
このように、欧米では、一般に公開された企業結合事例の蓄積があるうえ、実証研究に基づき、目に見える形で実務
の変更も進んだ。そのため、欧米における規制、企業結合事例の蓄積などは、日本法への重要な示唆となるものと考え
る。
以上の理由から、本稿では、日本における企業結合審査において、反競争効果を除去するに足りる問題解消措置が設 計されているのかということにつき、欧米との比較を通して検討を行う。日本では、反競争効果除去に足りる問題解消措置設計について、個別の事例ごとに論じる論稿こそみられる (
し、類分を例事の々個、たまらか点観的法較比、ののも 12)
て総合的に検討するものはみられなかった (
お討例を紹介・検し、た後、日本に事論米。、制規るけおに議欧、はで稿本 13)
(一四九)
日・米・欧の企業結合審査における問題解消措置設計一五〇同志社法学 六〇巻一号
ける規制、事例を整理し、日本の企業結合審査における問題解消措置設計の現状を把握することを目的とする (
。 14)
先述の通り、適切な問題解消措置とは、反競争効果除去に足りる問題解消措置設計、および、その確実な実行を意味する。両者の混同を避けるため、また、そもそも、日本においては、企業結合から生じうる反競争効果の整理、欧米で
の議論も含めた問題解消措置に関する議論の整理が十分になされておらず、本稿のテーマの前提となる議論の整理を行うことも必要であると考えたため、本稿は反競争効果除去に足りる問題解消措置設計に焦点をあてて検討する。無論、
適切な問題解消措置が設計されても、当該問題解消措置が実行されなければ、反競争効果除去という目的は達成されなくなる。実効性確保手段についても、検討が必要なことは言うまでもない。この点については、今回は検討の対象外と
し、必要な限りで適宜言及する。
本稿の叙述の順序は以下のとおりである。まず、反競争効果の分類、問題解消措置の目的・分類に関する従来の議論
を、米国とECのそれぞれについて整理・紹介する(﹁第二章﹂)。検討の前提として、企業結合により生じうる反競争効果のタイプを把握するために、反競争効果発生のシナリオを紹介する。(﹁第一節﹂)。そして、問題解消措置設計の目
的に関する議論や規制を紹介する(﹁第二節﹂)。そのうえで、問題解消措置の分類をそれぞれ紹介する(﹁第三節﹂)。続いて、欧米の事例の紹介、検討に移る。欧米では企業結合事例の数が多く、問題解消措置の種類は多岐に渡っている。
そこで、実際の企業結合事例において、どのように反競争効果が認定され、いかなる問題解消措置が講じられてきたのかということについて紹介する(﹁第三章﹂)。米国の事例(﹁第一節﹂)および、ECの事例(﹁第二節﹂)を紹介し、整
理する(﹁第三節﹂)。次に、日本における現状を紹介する(﹁第四章﹂)。日本では、二〇〇七年三月に、公取委のガイドラインが改正された。問題解消措置に関する記述も、改正対象となったことから、その記述について紹介する(﹁第一
節﹂)。そして、問題解消措置設計につき注目すべき、日本の企業結合事例を紹介する。日本では合併に関する正式事件
(一五〇)
日・米・欧の企業結合審査における問題解消措置設計一五一同志社法学 六〇巻一号 は新日鉄合併事件だけである。ただし、公取委は、一部ではあるものの、事前相談事例を公表している。このなかから、JAL・JAS事業統合事例をはじめとする、比較的近時の注目すべき事例を取り上げ、紹介、検討し、(﹁第二節﹂)、
現状と課題を把握する(﹁第三節﹂)。そして、欧米との比較を行ったうえで、日本法への示唆を試みたい(﹁第五章﹂)。最後に、今後の展望、課題を提示する(﹁第六章﹂)。
⑵ 本稿の検討対象となる企業結合 日本・米国・ECで問題となる企業結合の範囲は異なる。そこで、第二章に入る前に、本稿の研究対象となる企業結合を示すため、日本・米国・ECそれぞれの競争法の下での企業結合規制を紹介する (
。 15)
日本の独占禁止法は、第四章で、会社の株式の取得若しくは所有(第一〇条一項)、役員兼任(第一三条一項)、会社以外の者の株式の保有(第一四条一項)、又は会社の合併(第一五条一項一号)、共同新設分割若しくは吸収分割(第一
五条の二第一項)若しくは営業譲受け等(第一六条一項)が、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合及び不公正な取引方法による企業結合が行われる場合に、これを禁止している。本稿では、欧米との比較の分
析対象としては独占禁止法第一五条の対象となる合併に限定せず、独占禁止法第四章の規制対象となる企業結合を検討
対象とする。
米国における企業結合規制の根拠は、不公正な競争方法を禁止する連邦取引委員会法五条と、クレイトン法七条(15U.S.C.§18)である。クレイトン法七条は、資産ないし株式の取得は、その効果が関連市場における﹁競争を実質的に減殺するか、独占を形成する傾向にある(substantially to lesson competition, or to tend to create a monopoly)﹂場合に 禁止される、と規定する。一定規模以上の資産ないし株式取得については、ハートスコットロディノ法(15U.S.C.§18a)
(一五一)
日・米・欧の企業結合審査における問題解消措置設計一五二同志社法学 六〇巻一号
に基づき、司法省および連邦取引委員会への事前届出義務がある (
。 16)
EC (
年れ則は一九八九合に制定さ、併一九九七年に改正された規 ( 記。るれさなりよに)すと規事合結の間者業、﹂は制規併合るけの則に(則規併合、﹁下以則に規会事理るす関お 17)
月す一年四〇〇二、後のそ)。記と﹂則規併合旧、﹁下以( 18)
二〇日に新理事会規則 (
模規体同 ( 合規則﹂と記す)。制併規合の対象は、共併新一、﹁定され、同年五月日がに施行された(以下制 19)
ceallnstioranton cncentrationsco結﹁)。項一、合(一)﹂とは条旧則(の﹁すべての結合)﹂規である(新合併 20)
①従前独立していた二以上の事業者または事業の一部の合併(新旧合併規則三条一項⒜号)、または、②一以上の他の事業者の全部または一部の直接または間接の支配 (
、号はていつに②。るいてれさと)⒝項一条三則規併合旧新(得取の 21)
少なくとも一事業者を既に支配している一以上の者による、証券または財産の購入、契約またはその他の手段によるか否かにかかわらないとされている(新旧合併規則三条一項⒝号)。また、自立的な経済主体が行う全ての機能を継続的
に有する全てのジョイント・ベンチャーの設立は、三条一項⒝号の﹁結合﹂に該当し(旧合併規則三条二項、新合併規則三条四項)、共同体規模を有する場合には、合併規則が適用される。このように、新旧合併規則で用いられる﹁結合
(concentrations)﹂は、合併、買収、事業の譲受、一定のジョイント・ベンチャーを対象としている。 実体基準は、結合が共同体市場と両立するか否か(shall be declared compatible with the common market)である。
旧合併規則では、支配的地位を形成又は強化し、その結果として、共同体市場又はその実質的部分において有効な競争を著しく阻害することとなるか(creates or strengthens a dominant position as a result of which effective competition
would be significantly impeded in the common market or in a substantial part of it)否かであった(旧合併規則二条二項、三項)。新合併規則では、特に支配的地位を形成又は強化する結果として共同体市場またはその実質的部分において、
有効な競争を著しく阻害するか否か(significantly impede effective competition in the common market or in a
(一五二)
日・米・欧の企業結合審査における問題解消措置設計一五三同志社法学 六〇巻一号 substantial part of it, in particular as a result of the creation or strengthening of a dominant position)が基準となる(新合併規則二条二項、三項)。
以上が、日本・米国・ECそれぞれの競争法の下での企業結合規制であり、本稿の検討対象となる企業結合である。
第二章 欧米における反競争効果の分類および問題解消措置の目的・分類 本章では、欧米における反競争効果の分類、および問題解消措置の目的・分類を紹介する。まず、企業結合により生じうる反競争効果のタイプを、米国とECに分けて整理する(﹁第一節 反競争効果の分類﹂)。次に、それらの反競争
効果を除去する問題解消措置が、いかなる目的をもって設計されるのか、すなわち問題解消措置設計の目的につき、欧米での見解を紹介する(﹁第二節 問題解消措置設計の目的﹂)。そのうえで、設計される問題解消措置の分類につき、 欧米での議論の経緯および現状を紹介する(﹁第三節 問題解消措置の分類﹂)。 第一節 反競争効果の分類
問題解消措置は、懸念された反競争効果を除去すべく設計される。そのため、適切な問題解消措置設計には、的確な反競争効果の認定が不可欠となる。そこで、本節では、企業結合により生じうる反競争効果のタイプを整理する。
企業結合の形態は、三つの形態に大別される。第一に、競争者間で行われる水平合併である。第二に、取引会社間で行われる垂直合併である。第三に、水平合併、垂直合併のいずれにもあてはまらない、混合合併 (
がある。 22)
これらの形態の企業結合から生じうる反競争効果については、共通部分が多いものの、欧米間で異なる見解をとると
(一五三)
日・米・欧の企業結合審査における問題解消措置設計一五四同志社法学 六〇巻一号
ころもある。そのため、本節では米国、ECの順にそれぞれ概説する。
米国については、先に紹介した企業結合の形態による整理を行う。 ECについては、企業結合により生じうる反競争効果のタイプの整理を主眼に置く。そして、企業結合の形態との関
係は、適宜紹介する。また、ECでは、それぞれの反競争効果に対して講じられうる問題解消措置の傾向も指摘されていることから、その点についても適宜紹介する。
⑴ 米国 (
23)
米国で懸念される反競争効果については、①水平合併、②垂直合併、③混合合併、④ジョイント・ベンチャーにより生じうる反競争効果、に分けて紹介する。
① 水平合併により生じうる反競争効果 水平合併により生じうる反競争効果として、⒜相互的調整行為によるもの、⒝単独行為によるもの、⒞戦略的行動によるものがある (
。 24)
⒜ 相互的調整行為が成功するには、参加企業が利益を得られるような条件の合意と、逸脱を発見、処罰する能力が必要となる。協調効果が生じる場合とは、当該水平合併によって市場シェアが増加する結果、寡占的協調行為による価
格引き上げ等の競争阻害効果の発生の可能性が高まる場合をいう。
⒝ 単独効果が生じるのは、主として、合併企業が単独で価格を引き上げたり、競争業者を排除する等の競争阻害効 果が発生する場合をいう。単独行為に関して、一九九二年の米国司法省・連邦取引委員会水平合併ガイドライン (
は、当 25)
(一五四)
日・米・欧の企業結合審査における問題解消措置設計一五五同志社法学 六〇巻一号 事会社の市場シェアの合計が三五%以上となる企業結合が、単独行為による反競争効果を生じさせる場合として、以下の二つの場合を挙げている。ⅰ市場における製品が差別化されており、当事会社が代替的な製品を販売している場合 (
。 26)
ⅱ製品が比較的差別化されておらず、主に生産能力により企業が識別されるような、競争の特徴が形成される場合 (
。 27)
⒞ 戦略的行動によるものとは、ライバル費用の引き上げをいう。例えば、有力企業が、供給者や顧客に、自身のラ イバルを差別させるようにする場合をいう。ライバル費用引き上げについては、垂直的な結合に多くみられるものであるが、垂直的な結合に限定されない (
。引るべ述に次、はていつにげ上き用に。ルバイラるよ費合結な的直垂 28)
② 垂直合併により生じうる反競争効果 垂直合併により生じうる反競争効果には、主に以下の四つがある (
入⒞おに業産制規、る進促の為行整調け価互効参的在潜⒟、果る格せさ脱逸を制規的相場果の市閉鎖は効、⒝共謀また バイラやの別差格価費ル促用の引き上げ。進など⒜ 29)
者の参入を困難にさせること、である。
⒜ 価格差別に関しては、第一の市場において市場支配力を有している企業が当事者となる垂直合併において生じう るとされている。垂直合併の結果、第二の市場における競争者への差別を助長することがあるとされる (
。また、ライバ 30)
ル費用の引き上げに関しては、垂直合併により競争者の競争圧力が弱まり、結合企業による価格引き上げが可能となることをいう。第二の市場における企業結合前の参入障壁が高い場合に、ライバル費用の引き上げが生じうるとされる (
。 31)
⒝ 垂直合併では、共謀または相互的調整行為が促進されることがある。当該垂直合併により、当事会社は相互監視が容易となり、また、競争者に関する非公開の情報へのアクセスが可能となる。その結果、市場の透明性が高まり、共
謀または相互的調整行為が行われうる。
(一五五)
日・米・欧の企業結合審査における問題解消措置設計一五六同志社法学 六〇巻一号
⒞ 価格規制を逸脱する手段として、当事会社が、垂直合併を行なうことがある。また、垂直合併は、規制により禁 止される価格差別を促進することもある (
。 32)
⒟ 当該垂直合併により、第一の市場における新規参入者に、二段階参入が要求されることで供給者や流通業者への
アクセスが市場閉鎖されることがある。結果、第二の市場への参入障壁が高まることとなる。
③ 混合合併により生じうる反競争効果 混合合併により生じうる反競争効果には、⒜潜在競争の消滅、⒝エントレンチメント、⒞互恵取引がある (
。 33)
⒜ 潜在競争の消滅に関しては、潜在的競争理論 (
tiaoteoperceived penturyl entrant acthal poryeotetht antrenl iant大に)と)、﹁現実の潜在的参者﹂理論(入別論理( 論。争競的在潜れるさ明説てっ理はに、﹁知覚された潜在的参入者﹂よ 34)
される。﹁知覚された潜在的参入者﹂理論は、寡占市場において新規参入の脅威が既存企業による価格設定行動を抑制している状況の下で、企業結合を通じてかかる新規参入の脅威が消滅することにより価格引き上げ、産出量引き下げが
可能となる場合、すなわち潜在的競争者が関連市場の外又は周辺にあるため、既存会社が競争政策上好ましい行動をとらざるを得なくなることを潜在競争の現在効果と見て、それが、企業結合により消滅することが問題であるとする考え
である。他方、﹁現実の潜在的参入者﹂理論は、将来の参入によって企業結合前における既存会社間の協調が困難になることを潜在競争の将来効果とみて、それが企業結合によって減殺されることが問題であるとする考えである。﹁現実
の潜在的参入者﹂理論においては、企業結合によらなくても現実に潜在的参入者は単独で参入していたであろうことの主観的証拠が必要とされており、その立証が困難であるため、﹁現実の潜在的参入者﹂理論は事実上採用されなくなっ
てきている。
(一五六)
日・米・欧の企業結合審査における問題解消措置設計一五七同志社法学 六〇巻一号 ⒝ エントレンチメントについても、エントレンチメント理論によって説明される。エントレンチメント理論は、巨大企業が他市場の有力企業を取得する場合に、被買収企業が、買収企業である巨大企業の経済力(巨大な資金力、広告 宣伝力)を背景に、略奪的価格設定や莫大な広告宣伝費支出を行うことが可能となり、その結果、競争企業を圧倒し、同時に市場の参入障壁を高めるという理論である。リーディングケースとして、Proctor & Gamble事件 (
がある。 35)
⒞ 互恵取引は、二社の間で、一方の企業の製品を購入することを目的として交わされる取引をいう。互恵取引は、共同行為を禁止する、シャーマン法一条 (
edatlidsoonCーィングケしスとーて、デリ。違す関に引取恵互るるうりなと反 36)
Foods事件 (
がある。 37)
混合合併に関しては、米国ではガイドラインが形式上存続しているものの、主に潜在的競争の問題を取り上げるのみ であり、一九八〇年代以降、米国における混合合併の規制事例は事実上存在しないとされる (
。 38)
④ ジョイント・ベンチャーにより生じうる反競争効果 (
競い以下の三つが指摘されてるて。⒜協調行為、⒝潜在的、しにとョイント・ベンチャーより生じうる反競争効果ジ 39)
争の減殺、⒞市場閉鎖である (
。 40)
親会社が競争者や潜在的競争者である場合に、ジョイント・ベンチャーが、親会社間での協調行為を促進することがある (
、こ出物を相互に規制するとのが可能となる場合、また産れーぞョイント・ベンチャ形。成により親会社がそれジ 41)
ジョイント・ベンチャーの成功のために密接かつ継続的な協力が必要となる場合に、協調行為が行われやすくなる。協調行為は、カルテルに有効な手段となりうるため、前述の三つの反競争効果のうちで最も重大であるとされる (
。なお、 42)
ジョイント・ベンチャーの事業分野以外の親会社の事業分野において生じる、カルテル的な競争制限的効果を、スピル
(一五七)
日・米・欧の企業結合審査における問題解消措置設計一五八同志社法学 六〇巻一号
オーバー効果という。この現象は、ジョイント・ベンチャー形成により、親会社間の接触が行われ、この接触がジョイ
ント・ベンチャーの事業分野以外の親会社の事業分野へ拡大することから生じる。
ジョイント・ベンチャーによる潜在的競争の減殺効果は、前記﹁③混合合併により生じうる反競争効果﹂に挙げた、
知覚された潜在的参入者の理論と、現実的な潜在的参入者の理論を並存する。そして、潜在的競争の減殺効果は、親会社の市場、ジョイント・ベンチャーの市場など、複数の市場に多角的に及ぼされる。
ジョイント・ベンチャーは、不可欠設備へのアクセスの面で、ジョイント・ベンチャーの当事者以外の企業を排除、阻害することによる競争減殺効果を持つことがある (
物場入投が者争競るす有を力配支市、は果効鎖閉場市なうよのこ。 43)
供給のジョイント・ベンチャーを形成する場合、また、ジョイント・ベンチャーが自然独占という特徴を有している場合に生じやすい。
⑵ EC ECでは、企業結合により生じうる反競争効果のタイプは、以下の五つに分類される (
る配③垂直型効果、④共同の市場支力果ベよにーャチン・、トンイョジ⑤、効ロおグオリット効果マよポートフォリび 支単独の市場②配力、コン。① 44)
スピルオーバー効果、である。以下、この順に説明する。また、ECでは、反競争効果のタイプに応じて、講じられうる問題解消措置の傾向についても指摘されていることから、この点についても適宜紹介していく。 (一五八)
日・米・欧の企業結合審査における問題解消措置設計一五九同志社法学 六〇巻一号 ① 単独の市場支配力 第一に、単独の市場支配力がある。単独の市場支配力は、水平合併の形成により生じうる。単独の市場支配力に対す る問題解消措置は、水平的関係にあることが多い当事会社間での重複事業の分割が一般的とされている (
。 45)
② コングロマリット効果およびポートフォリオ効果 第二に、コングロマリット効果およびポートフォリオ効果がある (
争合競反るうじ生りよに併合混、は果効のられこ。 46)
効果である。ポートフォリオ効果とは、混合合併によるブランド集積等の効率性向上が合併企業の優位性を高める結果、競争者を市場から排除する効果をいう (
割は問題解消措置、的分割あるいは分な果効効れらの反競争果。に対する最もこ 47)
に類似した措置とされている (
。 48)
先述の通り、企業結合による反競争効果分析には、共通部分が多いものの、欧米の間にも異なるところがある (
。それ 49)
を顕著にあらわすのが、ポートフォリオ効果の扱いである。ECでは、ポートフォリオ効果を問題視する。他方、米国では、ポートフォリオ効果が生じるシナリオを完全には否定しないが、企業結合による効率性向上は競争促進的効果が
高いとして、ポートフォリオ効果を問題視せず、ECの態度に批判的である (
。 50)
実際にこの違いが顕著にあらわれた事例として、GEによるHoneywellの買収事例 (
。問コングロマリット効果が題でとなり、合併は禁止されたはCめE、方他。たれら認が併 国米で。るはで合条件付承認があ 51)
もっとも、ECにおいてもポートフォリオ効果の扱いは変化している。二〇〇七年二月に欧州委員会が公表した非水平型企業結合ガイドライン案 (
しグッョシプットスンワ、てとン果効オリォフトーポ、はでピ 52)(
のインセンティブが高まる 53)
ことによる市場閉鎖効果が言及されるのみである。従来の考えでは、ワンストップショッピングのインセンティブが高
(一五九)
日・米・欧の企業結合審査における問題解消措置設計一六〇同志社法学 六〇巻一号
まる一方で、抱き合わせやバンドリングを問題にしてきたことから、﹁過去の規制の傾向からは後退しているのは明ら
かである (
﹂との指摘がなされている。 54)
③ 垂直型効果 第三に、垂直合併により生じうる垂直型効果がある (
問遮るす対に鎖閉場市。るあが断報情や鎖閉場市、はに的体具。 55)
題解消措置は、インフラ、知的財産権、製品へのアクセスの付与が一般的とされている (
問て消も割措置とし用解いられるとされる題 ( 分、はに合場の定特、しかし。 56)
プ、解消措置にはさ問まざまなタイ題る直。消解を果効型す垂、めたのそ 57)
の問題解消措置があるといわれる (
。 58)
④ 共同の市場支配力 第四に、共同の市場支配力がある。共同の市場支配力は、水平合併、垂直合併、混合合併のいずれによっても生じう る。共同の市場支配力に対する問題解消措置は、分割、または、競争者との構造上の関係性を絶つ問題解消措置が好ましいとされる (
。 59)
⑤ ジョイント・ベンチャーによるスピルオーバー効果 第五に、ジョイント・ベンチャーによるスピルオーバー効果がある。ジョイント・ベンチャーによるスピルオーバー効果には、ジョイント・ベンチャーと親会社との間で行動の独立性を確保することが必要とされる (
。分割や、排他的契 60)
約の終了が問題解消措置とされることがある (
。 61)
(一六〇)
日・米・欧の企業結合審査における問題解消措置設計一六一同志社法学 六〇巻一号 第二節 問題解消措置設計の目的 本節では、問題解消措置設計の目的につき、欧米での現行規制および欧米での議論を紹介する。第一節でみた反競争効果に対する問題解消措置を設計する際の目的について、欧米の見解を紹介する。そして、欧米間で目的の捉え方に差
異はあるか否かについても、若干ではあるが言及する。
⑴ 米国 米国連邦取引委員会に在籍経験のあるRichard G. ParkerとDavid A. Baltoは、適切な問題解消措置を選択する際に考 慮に入れるべきこととして、以下の三点を示した (
第るしと的目をとこす、と能可をとこるけて有を護。るすとのもるす保効を争競に全完つか受益に実確らか争競の度便 合措消、は置に消解題問、者一費前が企業結。と企業結合後で同程第 62)
二に、問題解消措置は、可能な限り、高い確実性(certainty)を持って競争を保護するものとする。第三に、問題解消措置は、少なくとも競争当局が有する、競争保護のための義務に違反することのない範囲で、企業結合の潜在性を高め
る効率性を保護するものとする。
また、競争当局が公表した指針として、司法省のPolicy Guide to Merger Remedies (
cyuidPolie Gす記と﹂)、﹁下以( 63)
がある。Policy Guideは、問題解消措置の類型化を試み、問題解消措置設計の指針を提示している。Policy Guideには、問題解消措置を講じる場合に司法省反トラスト局が前提としていることとして、競争回復は反トラストにおける問題解 消措置の中核となる、と記されている (
れきが促進さりるべで競あるとされている争 ( 問よに置措消解題、、りの際、保護されるべきは競。争者ではなく、競争であそ 64)
重る措置を考慮す場解合、事実を慎消題反。が局トスラト問省法司、たま 65)
に認定し、企業結合による効率性を可能な限りで保護する一方で、特定の反競争効果に対する問題解消措置を法的原則
(一六一)
日・米・欧の企業結合審査における問題解消措置設計一六二同志社法学 六〇巻一号
および経済原則に基づいて講じるものとしている (
。 66)
米国では、第三章第一節で紹介するように、問題解消措置設計により、競争当局が当該企業結合を承認した事例の蓄積がある。ただし、ガイドライン等における問題解消措置に関する記述や、請求権の根拠となるような規定などはない。
⑵ EC ECにおいても、米国と同様、問題解消措置設計により、競争当局が当該企業結合を承認した事例の蓄積がある。米国と異なることは、事例の蓄積があることに加え、﹁問題解消措置に関する告示 (
示る告。るあでとこいてれさ定制が﹂ 67)
によると、﹁当事会社の市場シェアを低減させること、および、企業結合により支配的地位が形成・強化された結果、歪曲された有効な競争を回復すること (
置しこの告示に関てるは、問題解消措。い設て問題解消措置計﹂の目的とされが 68)
へのアプローチの透明性を著しく高めたとの評価もある (
。 69)
なお、二〇〇七年四月に、問題解消措置に関する告示案 (
委と、は的目の置措消解題問、るよに案示告。たれさ表公が 70)
員会が認識した競争上の懸念(competition concerns)を取り除くことであるとされる (
争、として、集中化が、共同体市場あ結お競な効有るけにる部一のそはい果のり位と化け支配的地わの成あるいは強形 上して、競争との懸念は、。そ 71)
を重大に阻害しうるという深刻な疑義、あるいは予備的な認定(findings)であるとされている (
。 72)
新合併規則 (
れ、実施を禁止し、また企合業結合がすでに実施さの結お業四項では、決定にい八て、欧州委員会は企条 73)
ている場合に、事業者の所有する株式の売却または資産の分離により当該企業集中を解消させ、またはこれに代わるその他の有効な競争を回復するために適切な措置を命じることができると明記されている。また、新合併規則によれば、
コミットメント (
をも全に除去するのいでなければな完れな問は﹁競争上の題そに比例し、かつら 74)(
﹂とされている。合併 75)
(一六二)
日・米・欧の企業結合審査における問題解消措置設計一六三同志社法学 六〇巻一号 規則は法的拘束力を有することから、この点はECの特徴といえる。このように、ECでは、規則や告示において、問題解消措置設計の原則が規定されている。
第三節 問題解消措置の分類 本節では、問題解消措置の分類につき、米国およびECにおける従来の議論をそれぞれ紹介する。従来の問題解消措置の分類方法として、構造措置と行動措置に分類する方法がある (
当を。るあで置措るす更変造構の業企、は置措造構。 76)
該問題解消措置の実行後は、当事会社の行動に対する競争当局等による規制・監視(モニタリング)を必要とはしない。他方、行動措置は、将来も継続的な行動を当事会社に求める措置である。
ただし、問題解消措置の分類について、現在のところ、確立された分類はない。そこで、本節では、問題解消措置の分類につき、従来の議論や事例における判断等を用いて紹介する。
⑴ 米国 ⅰ Richard G. Parker とDavid A. Baltoによる分類 (
77)
ParkerとBaltoは、問題解消措置を以下の五つのタイプに分けた。①企業結合の禁止、②継続中の事業全体および関連資産すべての分割、③業務や資産の部分的分割、④知的財産権のライセンス、または供給契約のような、契約的取決、
⑤非差別条項、ファイアーウオールの設定のような行動的措置、としている。
この分類における②企業分割は、構造措置である。③知的財産権のライセンスまたは供給契約のような契約的取決、
および④非差別条項、ファイアーウオールの設定のような行動的措置は、行動措置である。ただし、③知的財産権のラ
(一六三)
日・米・欧の企業結合審査における問題解消措置設計一六四同志社法学 六〇巻一号
イセンスは、知的財産権の譲渡という性質から、構造措置に近いため、準構造措置であると指摘されている (
。 78)
ⅱ Policy Guideによる分類 Policy Guideでは、問題解消措置を、構造措置と行動措置に分類している。Policy Guideは、構造措置を、当事会社による資産売却としている (
てあが含まれる場合がるンということも記しスセ容イして、資産の内に。知的財産権のラそ 79)
いる (
ンル的動行なうよの定設のー置オウーアイァフ、項条別措の非止ベ・トンイョジ、務義避問業競、かほの置措消解題差 、を合活業事の社会事当の後結の業企、は置措動行、た動規。る④述前、はに的体具。い制てしとるあで置措るすま 80)
チャールールの設定なども含まれるとしている (
。 81)
⑵ EC ⅰ 告示による分類 まず、現行規制として、告示による分類を紹介する。告示は、問題解消措置を、構造措置と行動措置という区分を用いながら、﹁分割﹂と﹁分割以外の措置﹂の二種類に分類している (
割止分、き除を法方ういと禁の合結業企、は示告。 82)
が最も効果的な問題解消措置であるとしている (
障特ネるす関に許るトなとーキ、参入ッワ壁合るいてげ挙を場ーるあが合統のクや ( るるた、告示は、行動措置が適す場。合として、排他的契約から生じま 83)
。 84)
なお、告示案 (
、造競争的な市場構のて確保を挙げる。案し示ンは、コミットメトとの基本的な目的告 85)(
、そ別的なアクセス付与というの非他の構造措置の二種類を挙げ差の、ととして、分割とへーキなや物入る投ラフンイ で置措造構、は 86)
それに加えて、当事会社の将来的な行動を規制するコミットメント、という区別を行っている (
。そのうえで、分割が、 87)
(一六四)
日・米・欧の企業結合審査における問題解消措置設計一六五同志社法学 六〇巻一号 水平的重複から生じる競争上の問題を排除する最善の方法であり、また、垂直合併、混合合併から生じる問題を解決する最善の方法でもありうるとする。行動を規制する措置については、例外的な場合にのみ講じられるとされている。
コミットメントの基本的な目的が、競争的な市場構造の確保であるという原則を示した事例として、告示が引用する (
88)
事例がある。それが、次に紹介する、Gencor事件である。以下は、実務等の状況、傾向を紹介する。 ⅱ Gencor事件による定義 (
89)
事例において構造措置の定義をしたものとして、Gencor事件がある。Gencor事件は、構造措置を、﹁支配的地位の形成あるいは強化を一度だけ、あるいは数回で回避する措置であり、さらに、中・長期的なモニタリングを必要としない
措置 (
つを行はで点るいてし求要為措行に者事当、は渡譲の動置産造持を果効の様同と置措構とはてしと果効、がるえい権財 権の財的知、とう従に類分こ的、しかし。たしとるあ産の﹂と知。たれさなが摘指のる譲あで切適不が分区の渡で 90)
からである。そこで、次に紹介するように、柔軟と評価される解釈を欧州委員会は行うようになった (
。 91)
ⅲ 欧州委員会の定義 欧州委員会の解釈は、先の﹁ⅱ Gencor事件による定義﹂よりも広い解釈をとっている。欧州委員会が二〇〇五年に公表した問題解消措置に関する報告書である、﹁Merger Remedies Study (
RStemedies udy記るあが)﹂す。と﹂、﹁下以( 92)
Remedies Studyは、分割措置を、市場の地位を譲渡するコミットメント、ジョイント・ベンチャーからの退出のコミットメントであるとしている (
とコの地位を譲渡するミ市ットメントである場、的はのうえで、排他ラ。イセンスの付与そ 93)
する (
。含、分割措置にま与れることになるは付排のの立場では、他。的ライセンスこ 94)
(一六五)
日・米・欧の企業結合審査における問題解消措置設計一六六同志社法学 六〇巻一号
しかし、この見解は、告示における欧州委員会の排他的ライセンスの扱いとは一致しない。Remedies Studyでは、 排他的ライセンスの措置は分割を構成することはないとしている (
。 95)
ⅳ 欧州第一審裁判所(以下、﹁CFI﹂と記す)による分類の傾向 (
96)
CFIによる分類の傾向も、先の﹁ⅲ欧州委員会の定義﹂と同様、﹁ⅱ Gencor事件による定義﹂よりも広い解釈を
とっている。
CFIは、関連市場の市場構造への影響の有無によって構造措置または行動措置を定義していない。構造措置にせよ、
行動措置にせよ、支配的地位が形成あるいは強化された市場構造に変化がもたらされる場合にのみ、合併規則のもとで問題解消措置が承認されるとしている。
構造措置は、関連市場の構造に、即座に、そして、永続的とはいえないまでも、少なくとも長期間の変化をもたらす措置である。そして、その措置が一度実行されると、支配的地位が出現あるいは形成されることはなく、せいぜい短期
のモニタリングを必要とする措置であるとされる。
行動措置は、以下の三種類からなるとされる。第一に、その行動措置が一度実行されると、構造措置と同様の、関連
市場における即座の、かつ永続的な構造の変化を生じさせる行動措置である。いわゆる﹁準構造措置﹂と呼ばれる措置である。たとえば、知的財産権の非差別アクセスの付与が挙げられる。知的財産権の非差別アクセスの付与は、モニタ
リングを必要とする点、および当事会社に行為を要求している点では行動措置といえるが、市場構造への影響は即座かつ永続的であるため、構造措置と同様の効果を持つ。第二に、関連市場における即座の、かつ永続的な構造の変化を生
じさせる行動措置ではないものの、その措置が市場構造へ部分的に影響を与える措置である。この例として、知的財産
(一六六)
日・米・欧の企業結合審査における問題解消措置設計一六七同志社法学 六〇巻一号 権の譲渡をしないことに関する当事会社の同意や、排他的契約を実施しないことに関する当事会社のコミットメントが挙げられる。第三に、市場に構造の変化をもたらすことがない行動措置である。この例として、消費者に過度の価格を
支払わせないことを内容とするコミットメントが挙げられる。
第三章
欧米の事例の検討 本章では、米国およびECにおける企業結合事例を用いて、いかなる問題解消措置が設計されたかを紹介する(﹁第一節 米国の事例﹂、﹁第二節 ECの事例﹂)。それらを踏まえ、第二章第一節において紹介した反競争効果のタイプと、設計された問題解消措置の種類には傾向や関連性があるのかということについて考察する(﹁第三節 小括﹂)。 第一節 米国の事例
本節では、米国の事例を個々に紹介、検討していく。本節の紹介は、第二章第一節で紹介した企業結合の形態に従う。
⑴ 水平合併① Olinの取得事例 (
97)
〔事実の概要︺
Olin Corporation(以下、﹁Olin﹂と記す)およびFMC Corporation(以下、﹁FMC﹂と記す)は、ともに水泳プール用
殺菌消毒剤を製造していた。水泳プール用殺菌消毒剤には塩素化イソシアヌル酸(以下、﹁ISOS﹂と記す)と、次
(一六七)
日・米・欧の企業結合審査における問題解消措置設計一六八同志社法学 六〇巻一号
亜塩素酸カルシウム(以下、﹁CAL/HYPO﹂と記す)がある。Olinは、FMCから水泳プール用殺菌消毒剤の製造 にかかる資産を取得した。市場シェア (
ル数マュシーハ・ー指ダンィフーハやン 98)(
もO/LAC―SSYI、﹁下以(場HPるIと場市SOS)、Oす記と﹂場市市なよCSOSおびAL/HYPOから HIH、、﹁下と﹂I記す)をみると(以 99)
に非常に集中化が進んでいた (
。もたっあで況状な難困入参規新、えゆれそ。 100)
連邦取引委員会は、次のように判断し、本件取得がクレイトン法七条(15U.S.C.§18)および連邦取引委員会法(以下、
﹁FTC法﹂と記す)五条(15U.S.C.§45)に違反すると主張した。本件取得は、市場のより一層の寡占化を促進し、参加企業間で寡占的協調および単独の市場支配力行使の蓋然性を高め、ISOS―CAL/HYPO市場とISOS市場
の二市場における競争を実質的に減殺する。
なお、本件で関連市場は以下のように画定された。地理的市場は、米国である。製品市場については大きな争いがあっ
た (
が、SSNIPテスト 101)(
。たれさ SHYPO市場、ISOL市場の二市場と/A)C定的独占者テストに(基づき、ISOS―仮 102)
〔問題解消措置︺
連邦取引委員会は、水泳プール用殺菌消毒剤を製造する化学プラントすべての分割を命令した。また、受託者
(trustee)の選任も併せて命じられた。連邦取引委員会の決定後、分割にかかるすべての権利と権限をOlinから受託者に移転させ、受託者が一二个月以内に分割を完了させるように命令された。
〔検討︺
本件は、競争者による水平合併の事例である。本件取得により、ISOS―CAL/HYPO市場およびISOS市
場での単独の市場支配力行使と寡占的協調の蓋然性に依拠して、競争の実質的減殺が認定された。 (一六八)
日・米・欧の企業結合審査における問題解消措置設計一六九同志社法学 六〇巻一号 本件の当事会社は、国内大手総合化学メーカー四社のうちの二社であった。また、市場シェア、HHIからもわかるように、大手四社の集中度は非常に高かった。製品市場の画定に関しては争いがあったところであるが、Olinの主張に
拠ったとしても、非常に高度の集中状態であったと思われる。ISOS―CAL/HYPO市場及びISOS市場ともに新規参入も困難な状況であった。これらの状況から、本件取得の反競争効果として単独および共同の市場支配力が懸
念された。
問題解消措置が設計される際には、まず構造措置の採用が考慮される。構造措置には、行動措置に比べてコストがか からないという大きなメリットがある (
ン懸おに場市たれさ念がる果効争競反、りよにけ企こ持イびよお段手るす維業を態状争競の前合結とうを割分。るな行 はる、はに合場考れさ慮業が置措造事資あ慮ととこるれさ考るが割分の産。い構 103)
センティブを、分割資産の購入者が持ち合わせることが可能となる。そのため、分割対象と考えられる事業や資産が分割可能なものである限り、問題解消措置として分割が選択される。本件では、分割対象とされたのは、水泳プール用殺
菌消毒剤のプラントであり、分割可能なものであった。
分割の範囲については、水泳プール用殺菌消毒剤のプラントすべてを分割することで、重複事業のみの分割がなされ る場合よりも、より確実に反競争効果を除去することが可能となる (
、問後たじ命を置措消解題の件本が会員委引取邦連。 104)
Olinは、ISOSを製造するためのシアヌル酸を製造するプラントの一部分を分割の範囲から除くように要求した。これに対して連邦取引委員会は、水泳プール用消毒剤を製造するプラントの一部分が独立して稼動するという証拠がない
(シアヌル酸を作り、ISOSを製造することも考えられうる)という理由から、要求を却下した。連邦取引委員会は、プラント全体の分割が、﹁競争上成功する、現実的なチャンスを取得者に与える﹂ために必要である、という結論を下
した。
(一六九)
日・米・欧の企業結合審査における問題解消措置設計一七〇同志社法学 六〇巻一号
また、本件では、確実に問題解消措置を実行するための手段、すなわち実効性確保手段として受託者が任命されたこ とも特徴といえる (
テを命任を者託受るす有識る知的門専、めたのそ。すこな資ルサンコ営経、行銀投と、はに者託受。るあがいいせわて 能のにかいが割分産資ば定特しばし、は局当争機す。十あち持を識知な分るるり足にるす断判をか競 105)
ィング会社、会計会社などが任命されてきた (
。割得たと、分あを完成させる しを認承の局当争競、断、判命された受託者は分。割の相手方について任 106)
本件は、問題解消措置としての分割の採用、および分割の範囲が適切であるという点でリーディングケースとなる事例である。また、本件は重複事業よりも広範囲の分割を命令する、連邦取引委員会の新しい政策をとる先駆けとなった 事例であるとも評価されている (
107)(
。 108)
② 3Dの取得事例 (
109)
〔事実の概要︺
3D Systems Corporation.(以下、﹁3D﹂と記す)は、三次元の物体を迅速かつ低価格で作るためのシステムであるRP(高感度プロトタイプ)システムおよびRPシステムで用いられる関連施設、材料の製造業者であり、製品の開発、 製造、販売、サポートやメンテナンスサービスの提供を行っている。DTM Corporation.(以下、﹁DTM﹂と記す)は、RPシステムのデザイン、製造、販売、サポートを行っており、RPシステムで用いられる材料も扱っていた。3Dが
DTMを取得する旨の合意が3DとDTM間でなされた。 RPシステムには、Industrial RPシステム (
naProfessiol RPテとムシス 110)(
、容めたるあが差量。たっあが類種二の 111)
Professional RPシステムは、Industrial RPシステムの代替品とはならなかった。このことから、製品市場はIndustrial
(一七〇)
日・米・欧の企業結合審査における問題解消措置設計一七一同志社法学 六〇巻一号 RPシステムとされ、地理的市場は米国とされた。Industrial RPシステム使用国は、ドイツ、日本など、米国以外にもあったが、3DやDTMの所有技術を対象とした特許により、他国の製品が米国で販売されることはなく、消費者が他国
の製品に乗り換えることは困難であったからである。
3DとDTMは米国国内におけるIndustrial RPシステムの製造業者三社のうちの二社であり、3Dは約六〇%、DTMは 約二〇%の市場シェアを有していたことから、米国国内のIndustrial RPシステム市場は高度に集中していた。本件取得により、3DおよびDTMはさらにシェアを伸ばし、価格を上昇させる危険性があった。3DおよびDTMが有する特許に
より、参入障壁が高く、新規参入者が望まれない状況であったことから、本件取得は、両者の立場を一層強固にする危険性があった。3DとDTMの競争によってIndustrial RPシステムの利用者は低価格でシステムを利用でき、関連する材 料やサービスを利用することも可能であったが、本件取得は、利用者に負担を負わせることとなることも懸念された。以上から、本件取得はIndustrial RP システムの改良、製造、販売における競争を実質的に減殺するおそれがあり、クレ
イトン法七条違反であると主張された。〔問題解消措置︺
本件取得に対する問題解消措置として、以下の四点を内容とする分割が命令された。①RP産業用設備製造のため取 得者によって目下利用される技術となるであろう、SL技術 (
あるいはLS技術 112)(
たン、しだた(スセ通イラな的他排流につスれらめ認は権ン関セイラブサるす非持対とる製品を象した、以下の内容を か分のでれずに野きおいてのみ利用のい 113)
が、製造に関するサブライセンス権は付与されない)。開発、検査、製造、取引、販売若しくは分割、又はサポート/サービス若しくはメンテナンス/サービス提供のため、RP特許のもとで永続的で譲渡・移動可能なもの。②選択され
た技術 (
3Dい北アメリカでの購入者すのすべてのリスト、あるる購入にがSL技術である場合、からRP産業用設備を 114)
(一七一)
日・米・欧の企業結合審査における問題解消措置設計一七二同志社法学 六〇巻一号
は選択された技術がLS技術である場合に、DTMからRP産業の設備を購入する北アメリカでの購入者のすべてのリ スト。③北アメリカで3DおよびDTMらが利用したRP産業用設備を購入し、再販売するため取得者によって必要とされた、ソフトウエアの著作権に関するすべてのライセンス。④DTMのプラント。
〔検討︺
本件は、水平合併であり、分割が命じられたという点では、先に検討したOlin事件と共通する。しかし、分割資産の
対象として知的財産権が内容となった点で、特徴がある。
本件取得による反競争効果として、三社から二社による競争となり、合併企業がさらに市場シェアを伸ばすこととな るため、単独の市場支配力が問題となった。このことは、商品価格上昇と顧客による価格上昇分の負担の懸念を生じさせた。市場が三社から二社へと複占状態になることに加え、3DとDTMの市場シェア(両社で約八〇%)をも考慮すると、
本件取得が将来的には独占につながるおそれもあった。
本件では、新規参入や輸入が考慮できないほどに、各当事会社が有するRPシステムに関する特許が重要な役割を果 たしていた。このことから、分割対象としてRPシステムに関する特許や著作権ライセンスが分割対象となった。知的財産権が取得対象資産のなかで重要であると判断された場合、知的財産権が分割対象となることは、Policy Guideにお
いても言及されている (
。 115)
③ Lehman Brothers の取得事例 (
116)
〔事実の概要︺
AlliedSignal Inc.(以下、﹁AlliedSignal﹂と記す)は、AlliedSignal Ocean Systems (以下、﹁Ocean Systems﹂と記す)
(一七二)