事業再生とプライオリティ修正の試み : Critical Vendor Ordersにみる商取引債権優先化プロセスの 透明性
著者 杉本 純子
雑誌名 同志社法學
巻 60
号 4
ページ 151‑215
発行年 2008‑09‑30
権利 同志社法學會
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000011466
事業再生とプライオリティ修正の試み 一五一同志社法学 六〇巻四号
事業再生とプライオリティ修正の試み
︱ Critical V endor Ordersにみる商取引債権優先化プロセスの透明性︱
杉 本 純 子
︵一四一三︶ 第一章 はじめに
第二章 アメリカにおける商取引債権の優先的取扱い 第一節 鉄道再建事件のみの優先的取扱い 第二節 優先弁済の柔軟な運用 第三節 要件の確立による優先弁済の規制化 第四節 二〇〇五年連邦倒産法改正による影響
第五節 小括 第三章 わが国で求められる商取引債権の優先的取扱い
第一節 わが国における商取引債権の優先的取扱い 第二節 日米の比較 第三節 わが国における商取引債権の優先的取扱いへ の提言 第四章 おわりに
事業再生とプライオリティ修正の試み 一五二同志社法学 六〇巻四号
第一章 はじめに 事業再生において最も重要なことは︑従前の事業価値をいかに毀損することなく︑維持していくかであろう︒事業を
再生するためには︑消費者のニーズに合わせて十分な商品を揃える必要があり︑そのためには従前から商品を仕入れて
いた仕入先との取引を継続することが必要不可欠である︒仕入先が欠けてしまうと商品の確保が出来なくなり︑少しで
も商品の品揃えが不十分であれば︑瞬く間に客離れが起こってしまう︒一度失われた消費者の信頼を回復することは容
易ではなく︑事業再生も困難となる︒
私的整理の場合︑通常︑金融機関債権以外の商取引債権 ︵
等は保護され︑専ら金融機関債権に対してのみ債権放棄を求 1︶
めることとなる ︵
︒これは︑商取引債権を私的整理の手続に取り込んでしまうと︑当該商取引債権者は︑債務者に納入す 2︶
る商品の数量・種類を制限して債務者との取引を縮小するなどして自らの損失の回避を図ろうとし︑その結果︑債務者
の事業価値は毀損してしまい︑事業再生に著しい支障が生ずることになるからである︒私的整理ガイドラインの趣旨が
﹁事業基盤の毀損を回避し︑回収額の極大化を図る ︵
︑﹂ことにあるように私的整理においては︑一般の商取引債権者等 3︶
を保護することで債務者の事業価値を維持し︑結果的に金融債権者の回収額を増加させることを予定している︒
一方︑再生手続や更生手続等の法的倒産手続では︑原則として債権者は平等に取り扱われることになる︒優先的に取
り扱う場合にも︑そのプライオリティは明確に条文において規定されている︒したがって︑法的倒産手続が開始される
と︑金融機関債権も商取引債権も︑原則として弁済が禁止され︑債権者平等の原則の下に再生計画または更生計画︵以
下︑両方併せる場合には﹁再建計画﹂という︒︶に基づく弁済を受けることになる︒
しかし︑この原則を貫くと︑商取引債権者は自らの売掛債権が弁済禁止となり︑また将来︑再建計画において相当の ︵一四一四︶
事業再生とプライオリティ修正の試み 一五三同志社法学 六〇巻四号 債務免除を受けることを知って︑もはや債務者との取引の継続を拒否しようとしたり︑売掛債権が弁済禁止となることで︑商取引債権者自体の経営が悪化して︑そもそも債務者への商品供給が続けられなくなったりする場合が生じてしまう ︵
︒そうなると︑債務者は従前の仕入れが不可能となり︑事業価値が著しく毀損されてしまうことになる︒ 4︶
このような事態を回避すべく︑法的倒産手続による事業再生においても︑債務者が事業を継続するために商取引債権
を優先的に取り扱う必要性は大変高い︒しかも︑従前の事業価値を維持するためにも︑その保護は手続開始後︑迅速に
なされる必要がある︒現在︑商取引債権を優先的に取り扱う方法としては︑①少額債権の弁済規定の活用︵会更四七条
五項︑民再八五条五項︶︑②中小企業者に対する弁済︵会更四七条二項︑民再八五条二項︶︑③弁済禁止の保全処分の対
象外債権もしくはその一部取消し︵会更二八条一項・二項︑民再三〇条一項・二項︶︑④和解契約による弁済︑⑤再建
計画における弁済等が考えられる ︵
︒実務的には︑商取引債権が会更四七条五項後段の﹁早期に弁済しなければ更生会社 5︶
の事業の継続に著しい支障を来す﹂少額債権︑民再八五条五項後段の﹁早期に弁済しなければ再生債務者の事業の継続
に著しい支障を来す﹂少額債権に当たるとして裁判所から弁済許可を得て全額弁済する方法が一般的とされる ︵
︑︒また 6︶
裁判所の許可または監督委員の同意を得て︑商取引債権者と債務者間で和解契約を締結して弁済した事件もある ︵
︒ 7︶
このように︑わが国においても商取引債権を優先的に取り扱う方法は存在しており︑実務的にも活用されている︒し
かし︑少額債権の弁済規定を用いるにしても︑﹁事業の継続に著しい支障を来す﹂とはいかなる場合か︑あるいは︑﹁少
額﹂としてはどこまで許容されるのか︑等の要件についての判断基準は未だ不明確な部分があることは否めない︒本来
ならば︑商取引債権は再建計画に基づいて弁済を受けるべき債権なのであり︑倒産法の定めるプライオリティ︑債権者
の平等・衡平との関係からも︑商取引債権に対してのみ無制限に優先的取扱いをすることは問題であろう︒一方で︑迅
速に商取引債権を保護しなければ︑事業価値の毀損を回避できなくなってしまうという現実もある︒本稿の目的は︑特
︵一四一五︶
事業再生とプライオリティ修正の試み 一五四同志社法学 六〇巻四号
に﹁事業継続に著しい支障を来す﹂債権の弁済に際する判断基準に焦点をあてながら︑商取引債権の要保護性と債権者
の平等・衡平との調和をいかに図るべきかについて止揚を試みるものである︒
検討にあたっては︑アメリカ連邦倒産法下における必要不可欠な商取引債権者の優先的取扱いの状況を紹介する︒ア メリカでは︑
critical vendor orders
やfirst day orders
として既に古くから債務者の事業継続に必要不可欠な商取引債権を優先的に取り扱う運用が存在し︑それを巡って裁判上でも活発に争われてきた︒そして︑裁判所の判断を中心
にして︑必要不可欠な商取引債権者︵
critical vendor
︶に対する取扱いは時代とともに変遷してきたと言える︒しかし︑その根底には常に︑債務者の事業継続のために商取引債権を優先的に取り扱うことによって︑倒産法上定められている
プライオリティを修正してしまうことへの懸念があった︒裁判所には倒産法上のプライオリティを再構成する権限が与
えられているのか︑事業価値の維持を図るために無制限に商取引債権を優先弁済してもよいのか︒これらの問題に対し
て︑裁判所は様々な見解を示してきた︒本稿では︑このようなアメリカにおける状況の変遷を紹介していきたい︒そし
てアメリカの状況を参考に︑事業価値の維持と債権者の平等・衡平との調和策を模索しながら︑わが国で今後求められ
る商取引債権の優先的取扱いのあり方を検討したい︒
倒産手続における債権者の平等・衡平の観点から︑倒産法のプライオリティは遵守するのが原則である︒このプライ オリティを修正することはどこまで許されるのか︒その修正が許されるためには何が必要になるのか︒前稿 ︵
においては︑ 8︶
本来ならば実体法上承継されるべきプライオリティが︑政策的理由あるいは信用供与の観点から修正される場面につい
て論じてきた︒本稿では︑債務者の事業継続のために︑原則として再建計画に従って弁済を受けるべき商取引債権を優
先的に取り扱うことはどこまで許されるのか︑すなわち︑事業再生の実現という観点からのプライオリティの修正を考
えてみたいと思う︒ ︵一四一六︶
事業再生とプライオリティ修正の試み 一五五同志社法学 六〇巻四号 第二章 アメリカにおける商取引債権の優先的取扱い アメリカでは︑事業継続に必要な商取引債権を優先的に取り扱うことによって事業価値の毀損を回避する方法は古く
から存在していた︒しかし︑本来ならば無担保債権であるはずの商取引債権に対して優先弁済することは︑倒産法で定
められているプライオリティを修正することになるため︑当初は公共性の高い鉄道再建事件においてしか適用が認めら
れていなかった︒ところが︑時代を経るにつれ︑この運用には変化が生じてくる︒以下では︑アメリカにおける商取引
債権の優先的取扱いを巡る状況を歴史的に見ていくことにする︒
第一節 鉄道再建事件のみの優先的取扱い
⑴
Six month rule
六ヶ月ルール︵︶ アメリカにおいて︑商取引債権を優先的に扱うことによって事業価値の維持を図るという方法は︑古くは公共性の高 い鉄道事業の再建手続においてのみ許されていたものであった ︵︒その最初の方法として活用されたのは︑旧連邦倒産法 9︶
七七条
⒝
を根拠に︑労働力や備品等の確保のために︑手続申立て日より六ヶ月前までに生じた一定の債務に優先権を付与することを許可する命令を出すことによって︑鉄道再建に着手するという実務であった︒これは一般的に六ヶ月ルー
ル︵
Six month rule
︶と呼ばれている︒このルールは衡平法上のものであり︑手続申立て前直近に生じた鉄道事業の業 務を継続するために必要な費用にのみ適用されるものであった ︵︒旧倒産法七七条 10︶
⒝
は︑一九七八年倒産法制定時に︑鉄 道再建手続について規定する連邦倒産法一一章第四節の一一七一条⒝に承継された ︵︒このような規定は鉄道再建以外の 11︶
手続には規定されておらず︑そのため六ヶ月ルールは鉄道再建事件においてのみ適用されるものとされてきた ︵
︒ 12︶
︵一四一七︶
事業再生とプライオリティ修正の試み 一五六同志社法学 六〇巻四号
六
ヶ 月 ル ー ル の 明 確 な 定 義 は 定 か で は な
い ︵
13︶
︒ し か し︑ 後 述 す る﹁ 弁 済 必 要 性 の 原 理︵
Necessity of Payment
Doctrine
︶﹂との類似性からこのルールについては古くから活発に議論がなされてきた︒六ヶ月ルールについて最高裁 裁判所が初めて明確に言及したのはFodsick v . Schall
事件 ︵である︒この中で最高裁は︑鉄道会社が通常の営業に必要な 14︶
自動車数台を所有権留保の下で購入していた場合︑その後に譲渡担保権者︵
mortgagee
︶から受戻権喪失手続︵foreclose
︶を申し立てられた後も︑レシーバーが選任されていた期間と選任前六ヶ月間分の当該自動車の月々の返済金額を︑レシ
ーバーシップによる収益外で弁済する許可を与えることの可否について︑次のように述べている︒債務者が通常の事業
に必要な費用を弁済せずに譲渡担保権の弁済を行うことで受戻権喪失手続を回避しようとするならば︑衡平法上︑通常
の事業のために必要な費用に基づく債権に対して特別の優先権を与えなければならない︑と ︵
︒ 15︶
六ヶ月ルールの定義や適用については様々な議論があるものの︑一般的に以下のような要件が認められているようで
ある ︵
︒すなわち︑①債権が手続申立て日より六ヶ月前までに生じたものであること︑②原材料や労働力など現に必要な 16︶
業務費用として︑通常の事業の範囲内において支払義務を負っていること︑③当該債権者が︑鉄道事業の一般的信用に
依拠するのではなく︑鉄道事業の営業収益から弁済されることを期待していること︑である ︵
︒ 17︶
六ヶ月ルールに関して注目すべきは︑このルールは鉄道再建のために必要な債権を優先的に計画外で弁済することに
よって優先的に取り扱うのではなく︑弁済計画案において当該債権に優先権を付与することで優先的に取り扱うという
点である︒ところが︑この優先権が一一章手続における計画案の中で︑どれほど優先されるべきかについては明確には
決められていないようである ︵
︒計画案を作成するにあたっては︑連邦倒産法五〇七条において定められているプライオ 18︶
リティを遵守しなければならない︒五〇七条のプライオリティの中に六ヶ月ルールが適用されるような債権も含めよう
とするならば︑当該債権は同条においても第一順位で定められている管財費用債権となってしまう︒しかし︑元来六ヶ ︵一四一八︶
事業再生とプライオリティ修正の試み 一五七同志社法学 六〇巻四号 月ルールが適用される債権は原則として無担保債権だったのであり︑通常ならば優先権も与えられないはずである︒そのような債権を五〇七条が規定するプライオリティの中でも第一順位の債権として扱うことは︑その他の優先債権との関係において優先性が高過ぎてしまう︒したがって︑六ヶ月ルールが適用される債権は︑五〇七条で規定されている優先債権には劣後して扱われている ︵
︒六ヶ月ルールが付与する優先権とは︑その債権の要保護性から他の無担保債権との 19︶
比較において衡平法上与えられたものであるため︑通常の手続においてすでに優先権が付与されている五〇七条の優先
債権に対しては︑衡平さにバランスを欠いてしまわないよう配慮することが重要である︒実際には︑事案ごとに総合的
な計画案の分析を行った上で決める必要があるとされる ︵
︒ 20︶
⑵
Necessity of Payment Doctrine
弁済必要性の原理︵︶ 弁済必要性の原理は︑六ヶ月ルールとは異なり一定の債権に対して優先権を付与するための原理ではない ︵︒この原理 21︶
は債務者の事業継続に必要な商品やサービスの提供を続けてもらうために︑一定の債権を優先的に弁済することを管財
人に許可するものとして発展してきた ︵
︒すなわち︑商取引債権を優先的に取り扱うことで事業価値を維持しようとする 22︶
最初の試みであったと言える︒
弁済必要性の原理について初めて言及したのは︑
Miltenberger v . Logansport Railway
事件 ︵の最高裁である︒この事件 23︶
は︑受戻権喪失手続︵
foreclose
︶の申立てに伴って選任された鉄道会社のレシーバーが︑手続を申し立てた譲渡担保者︵
mortgagee
︶の有するリーエンに先立って︑鉄道事業に必要な資材等を約一万ドル分購入したことに対して︑譲渡担保権者が異議を申し立てた事件である︒この中で︑最高裁は﹁鉄道事業やその財産の保護のために︑裁判所による命令
に基づいて︑レシーバーが︑レシーバーシップによる収益外で︑︵略︶特定のクラスの既存債務を弁済することが必要
︵一四一九︶
事業再生とプライオリティ修正の試み 一五八同志社法学 六〇巻四号
不可欠な状況は多々存在する ︵
﹂と述べて︑レシーバーによる当該資材等の弁済を認めた︒ 24︶
弁済必要性の原理は︑裁判所が一定の商取引債権に対する優先弁済を許可することによって鉄道事業の営業を継続す ることは︑利害関係人の利益につながると同時に︑公共の利益にもなるのだという根拠に基づいている ︵
︒したがって︑ 25︶
弁済必要性の原理が適用されるのは鉄道再建の事案に限定されており︑優先弁済を許可しなければ鉄道事業の継続が困
難であるという危機的状況がなければ︑この原理は適用できないとされてきた ︵
︒ 26︶
ところが︑弁済必要性の原理は︑事業の継続に必要な債権者に対して計画認可前に優先的に弁済できるという債務者
にとって有益な手段であったため︑債務者らは鉄道再建以外の一般事件にもこの原理の適用を認めるよう何度も裁判所
に求めた︒そして︑一九四五年にその適用を認めた
Dudlley v . Mealey
事件 ︵が現れてからは︑破産裁判所において一般事 27︶
件にも弁済必要性の原理の適用を認める傾向が広がっていった︒しかし︑多くの巡回区裁判所においては︑やはり弁済
必要性の原理は鉄道再建事件にのみ適用されるとして︑一般の倒産事件については適用を認めない姿勢を貫いてきた︒
加えて︑一九七八年倒産法制定後には︑六ヶ月ルールは鉄道再建手続に規定されたものの︑類似の衡平法上の原理であ
る弁済必要性の原理は規定されなかったため︑もはや倒産法はこの原理の適用を廃止したのではないかとの議論が生じ
た ︵
︒この問題には見解の対立があったものの︑多くの巡回区裁判所における姿勢に変化はなかった︒以下では︑弁済必 28︶
要性の原理と上述した六ヶ月ルールが鉄道再建時にのみ適用されることを明確に述べた巡回区裁判所の裁判例を紹介す
る︒
⑶
B&W Enterprises, Inc.
事件 ︵29︶
この事件は︑六ヶ月ルールと弁済必要性の原理が鉄道再建事件以外には適用されないことを明確に述べた代表的裁判 ︵一四二〇︶
事業再生とプライオリティ修正の試み 一五九同志社法学 六〇巻四号 例である︒事実の概要は︑以下の通りである︒
Shoemaker
社とその親会社であるB&W Enterprises
社︵以下︑債務者という︶は︑一一章手続を申し立てた際︑未払いの債務が数多く存在するなか︑債務者の事業継続にとって必要な四社の債権についてのみ︑当該債権者から今後も原
料やサービス等を提供する︑あるいは信用供与することの合意を得た上で︑当該債権を優先的に弁済した︒その後手続
は清算手続に移行したが︑これらの合意や弁済が破産裁判所による公告︑許可等を得ずに行われたことを理由に︑管財
人は当該弁済等を否認し︑債権者らに弁済額を返還するよう求めた︒これに対し︑債権者らは当該弁済は六ヶ月ルール
と弁済必要性の原理によって認可されると主張したが︑破産裁判所はこれを退けた︒その後︑地方裁判所もその判断を
支持し︑第九巡回区裁判所も以下のように述べて︑債権者らの主張を退けた︒
まず︑六ヶ月ルールについて裁判所は︑このルールが伝統的に鉄道事業においてのみ適用されてきたこと︑その伝統
を受けて一九七八年倒産法が制定される際も︑議会は六ヶ月ルールについての規定を鉄道再建のみを扱う一一章第四節
の一一七一条⒝に定めたことに言及している︒そして︑連邦倒産法一〇三条⒢にも﹁本法第一一章第四節は︑同章によ
る鉄道に関する手続についてのみ適用される︒﹂と規定されていることから︑連邦倒産法において六ヶ月ルールは鉄道
事業に関する事件においてのみ適用されると判断した︒
弁済必要性の原理については︑まず︑六ヶ月ルールと違って︑弁済必要性の原理が一九七八年倒産法において維持さ
れているのかは明確ではないと述べている︒というのも︑弁済必要性の原理は六ヶ月ルールのように優先権を与える衡
平法上のルールではないため︑一一七一条⒝には含まれないからである︒したがって︑この原理には︑連邦倒産法一〇
三条⒢で規定されている鉄道再建事件のみの制限も適用されない︒しかし︑弁済必要性の原理は鉄道再建のために創り
出されたという歴史的背景を鑑みると︑やはりこの原理は鉄道再建にのみ適用されるべきであると述べている︒決定的
︵一四二一︶
事業再生とプライオリティ修正の試み 一六〇同志社法学 六〇巻四号
な理由はないが︑一九七八年倒産法において定められているプライオリティを容易に修正することは認められないとし
て︑一般事件への適用を否定した︒
⑷
一般事件における適用への模索B&W Enterprises
事件によって︑鉄道再建以外の一般事件には六ヶ月ルールや弁済必要性の原理を適用しないという裁判所の見解が明確となったため︑一般事件の債務者は︑事業継続に必要な商取引債権者への優先弁済を正当化するた
めの他の根拠を模索することになる︒そこで用いられたのが連邦倒産法一〇五条⒜ ︵
であった︒裁判所に大幅な裁量を認 30︶
めていると解される本条を根拠にして︑鉄道再建以外の事件についても︑事業再生という一一章手続の趣旨を実現する
ために必要な商取引債権者への優先弁済を許可するよう求めたのである︒これを受けて︑破産裁判所は本条を根拠にし
て︑再建計画認可前に優先権を有する債権者への弁済に先立って︑無担保債権者である商取引債権者へ弁済することを
認めるようになってくる ︵
︒ところが︑このような破産裁判所の傾向に対して︑倒産法上優先権が付与される租税債権を 31︶
有する州や連邦政府は︑倒産法の規定があるにもかかわらず︑自らの債権が一般の無担保債権に劣後する扱いを受けて
いると不満を抱いていた ︵
︒一定の無担保債権者にのみ優先弁済を許可するような命令を出すことは︑明らかに議会によ 32︶
って定められたプライオリティに反し︑倒産手続の秩序を傷つけることになると批判された ︵
︒ 33︶
こうした批判が存在しながらも︑破産裁判所では一〇五条⒜を根拠に一定の商取引債権者への優先弁済を許可する命
令が多々認められていたが︑上訴裁判所である巡回区裁判所においては一切認められなかった︒以下に紹介する巡回区
裁判所の判例は︑いずれも一〇五条⒜を根拠に一般の無担保債権者への優先弁済を認めた下級審の判断を否定してい
る︒
Southern Railway
社が一一章手続を申立てたJohnson
社に対して︑Southern Railway
社の所有地の排水溝の清掃を ︵一四二二︶事業再生とプライオリティ修正の試み 一六一同志社法学 六〇巻四号 するための費用を優先的に弁済するよう求めた︑第三巡回区裁判所における
Southern Railway Company v . Johnson Bronze Company
事件 ︵では︑﹁おそらく破産裁判所に衡平法上の権限を付与している一〇五条⒜は︑規則二〇〇二条⒤ 34︶
の要件に従う手続の範囲内で公告を受けなかったことから生じた損害を証明できる債権者に何らかの救済を与える権限
は認めている︒しかし︑一〇五条⒜は︑破産裁判所に実体法の下で適用できないような権利を創り出すことは認めてい
ない ︵
﹂と述べる︒ 35︶
商取引債権に関する事例ではないが︑一一章手続を申し立てた
A. H. Robins
社が製造していたダルコンシールド ︵の使 36︶
用によって被害を被った女性の中で︑一定の要件を満たす者にのみ外科手術を受ける費用を負担するための緊急基金が
計画認可前に創設されたことへの是非が争われた
︑第四巡回区裁判所における
The Official Committee of Equity
Security Holders v . Ralph R. Mabey
事件 ︵では︑以下のように判示している︒﹁一〇五条⒜から生ずる衡平法上の権限は 37︶
一般的な倒産法の理念において極めて重要であり︑このような権限は裁判所にとって革新的なものであるけれども︑こ
のような衡平法上の権限は︑裁判所に倒産法上の条文や規則の明確な文言や趣旨を無視することを許可したわけではな
い︒︵略︶倒産法は︑一一章手続において事前に認可された再建計画に基づく場合以外の無担保債権者への配当を認め
ていない︒︵略︶緊急基金の創設は︑特定の無担保債権者への個別的な計画認可前の弁済を許可することになり︑一一
章手続の趣旨に明確に反する︒また︑このような行動は債権者に対して︑債権の認容と計画の認可後にしか配当を許可
しないという倒産規則三〇二一条にも反する ︵
38︶
︒ ﹂
賃貸借契約を斡旋する仲介人であった
Oxford Management
社が一一章手続を申し立てた際に︵後に七章手続に移行している︒︶業務提携を結んでいた数社から自らが受け取るべき手数料を優先的に弁済するよう求められた︑第五巡回
区裁判所における
In the Matter of Oxford Management, Inc.
事件 ︵では︑まず︑﹁一〇五条⒜は破産裁判所に︑倒産実体 39︶
︵一四二三︶
事業再生とプライオリティ修正の試み 一六二同志社法学 六〇巻四号
法の条文の実現に必要がある場合には︑本件のような命令を発することを認めている︒︵略︶しかし︑この条文によっ
て与えられている権限は︑連邦倒産法に矛盾しない方法で行使されなければならない ︵
United States v .
﹂と述べた上で︑ 40︶Sutton
事件 ︵における﹁一〇五条⒜は破産裁判所が︑実体法に適用できないような実体的権利を創り出したり︑衡平法に 41︶
基づく扱いをするための自由な権限を構成することを認めているわけではない ︵
﹂との一文を引用している︒そして︑﹁︵優 42︶
先的な︶支払を命ずることによって︑破産裁判所は被控訴人の地位をその他の一般の無担保債権者よりも高めたことに
なり︑倒産法が構想している配当の按分弁済という目的から外れてしまった︒この命令は︑倒産法の規定の許されない
実体的変更を実施したのである ︵
﹂と示している︒ 43︶
以上のように︑巡回区裁判所では︑倒産法一〇五条⒜を根拠に裁判所の裁量で倒産法の理念や趣旨を変更するような
命令を出すことは許されないとする見解を貫いていた︒紹介判例においては︑必ずしも事業再生に必要な商取引債権へ
の優先弁済が争われていたわけではない︒しかし︑やはり倒産法上のプライオリティを修正してまで一定の無担保債権
を優先的に取り扱うためには公共の利益が必要であり︑鉄道再建以外の一般事件においては︑いくら事業再生にとって
必要な商取引債権者であっても︑実体法を修正するだけの公共性も要保護性も存在しないと考えている巡回区裁判所の
姿勢が窺えよう︒
第二節 優先弁済の柔軟な運用 ところが︑巡回区裁判所は一般事件において一定の無担保債権者に優先弁済することを認めない姿勢であったにもか
かわらず︑破産裁判所や一般実務の運用としては︑倒産法一〇五条⒜を根拠に︑事業再生の実現に必要な場合や再建の
可能性を保護すべき場合には︑特定の無担保債権者にのみ優先弁済をすることを認めるのが一般的となってしまってい ︵一四二四︶
事業再生とプライオリティ修正の試み 一六三同志社法学 六〇巻四号 た ︵
critical vendor orders first day orders
︒このような実務は︑やと呼ばれ︑事業再生以外の一般事件においても 44︶標準的な実務として︑二〇〇〇年前後にはごく頻繁に運用されていた ︵
︒以下に紹介する裁判例は︑裁判所が﹁債務者の 45︶
事業再生にとって必要である﹂という点を根拠にして︑比較的容易に商取引債権者への優先弁済を認めた代表的裁判例
である︒
⑴
In re Just For Feet, Inc.
事件 ︵46︶
︻事実︼ 一一章手続を申し立てた
Just For Feet
社︵以下︑債務者という︶は特にブランド物のスポーツウェア等の小売業を 営んでいた︒一一章手続を申し立てた四日後︑債務者が商取引債権者の申立前債権 ︵の弁済を認めるよう裁判所に申請し 47︶
たところ︑その二日後に︑金融債権者らと連邦管財官が債務者の申立てに対して異議を唱えた︒
債務者は必要不可欠な商取引債権者としてその申立前債権を弁済するかわりに︑当該取引債権者に従前と類似かある
いはそれよりも長い期間まで信用供与を延長することに同意してもらうことを提案していた︒しかし︑債務者は必要不
可欠な商取引債権者と言いながら︑取引先全てに対して申立前債権の弁済を申請していた︒
異議を唱えた債権者らは︑倒産法一〇五条⒜は裁判所が倒産法によって確立されている条文上のプライオリティを変
更することを許可していないことを理由に︑裁判所が必要不可欠な取引債権者の申立前債権の弁済を認めることはでき
ないと反論した︒また︑仮に裁判所に一〇五条⒜を根拠に申立前債権の弁済を認める権限があるとしても︑債務者は申
立前債権の弁済が必要であるのかを決定するのに十分な説明をしていないと主張した︒
︵一四二五︶
事業再生とプライオリティ修正の試み 一六四同志社法学 六〇巻四号
︻裁判所の判断︼
裁判所はまず︑原則として一一章手続の申立てをすると倒産法三六二条⒜
⑹
に基づいて自動停止することを確認しながらも︑特定の従業員や商取引債権者が有する申立前債権は︑事業再生の成功を促進させるために弁済する必要がある
場合もあると述べている︒
債権者らは︑必要不可欠な商取引債権者への申立前債権の弁済を認めると︑倒産法で確立されているプライオリティ
を変更してしまうため︑裁判所は一〇五条⒜に基づいて申立前債権の弁済を認めることはできないと主張していた︒こ
れに対して裁判所は︑鉄道再建時にのみ認められていた﹁弁済必要性の原理﹂は連邦倒産法には規定されていないが︑
申立前債権の弁済が一一章手続において債務者の事業継続に必要である場合は︑当該弁済を認めるために︑倒産法一〇
五条⒜に基づいて衡平法上の権限を行使できると述べた︒さらに︑裁判所は︑第三巡回区裁判所においても地方裁判所
においても︑申立前債権の弁済が一一章手続における債務者の事業継続のために必要であれば︑弁済必要性の原理に基
づいて当該弁済を認めている場合があると反論した ︵
︒ 48︶
また︑債権者らは債務者の申請に対して︑仮に裁判所が一〇五条⒜に基づいて申立前債権の弁済を認めることができ
るとしても︑本件における債務者は商取引債権者の申立前債権の弁済が必要であるかについて詳細に説明していないと
も主張していた︒これに対しては︑裁判所は︑弁済必要性の原理に依拠して特定の商取引債権者にのみ申立前債権を弁
済するためには︑債務者は当該弁済が﹁債務者の再生にとって必要不可欠である﹂ことを示さなければならない ︵
として︑ 49︶
本件における商取引債権者の申立前債権の弁済が債務者の再生に必要不可欠であるかどうかについて︑裁判所が自ら検
討を行っている︒
その結果︑債務者はブランド物のスニーカーやウェアが店内になければ︑事業継続することができないため︑有名ブ ︵一四二六︶
事業再生とプライオリティ修正の試み 一六五同志社法学 六〇巻四号 ランドの取引相手からの商品供給の継続を必要としていること︑また︑これらの取引相手からの新商品がなければ債務者は事業継続することはできないと代表者が証言していること等を考慮して︑裁判所は一定の商取引債権者︵スポーツウェア等︶の申立前債権の弁済は一一章手続において債務者の事業継続に不可欠であると認めた ︵
︒ 50︶
⑵
In re Payless Cashways, Inc.
事件 ︵51︶
︻事実︼ 建築材料を建設業者や個人に販売する店舗を一一七店舗経営していた
Payless Cashways
社︵以下︑債務者という︶は︑一一章手続を申し立てた当日︑債務者の事業再生に必要不可欠な材木取引債権者に対して︑彼らの有する申立前債権の
全部あるいは一部を優先的に弁済すること︑手続開始後の債権については倒産法五〇三条⒝︑五〇七条⒜に基づく管財
費用のプライオリティを与えることを裁判所に申請した︒債務者が指定した必要不可欠な材木の取引債権者は︑優先弁
済等を受ける代わりに︑手続開始から再建計画認可後一年間の間も︑通常の信用供与期間で取引を継続することに合意
していた︒
その後︑裁判所が開いた担保権者らとの緊急聴聞会を経て︑債務者は︑優先弁済する債務総額を一〇〇〇万ドルから
八〇〇万ドルに減額すること︑必要不可欠な材木の取引債権者との交渉によって信用供与を延長してもらう代わりに︑
当該債権者の手続開始後債権の九〇%を超えない範囲の額を管財費用にする旨の申立てに変更した︒ところが︑連邦管
財官は︑倒産法は裁判所に︑債務者が計画認可前に申立前債権の弁済をすることを認める権限を与えていないと主張し
て異議を唱えた︒
︵一四二七︶
事業再生とプライオリティ修正の試み 一六六同志社法学 六〇巻四号
︻裁判所の判断︼
裁判所は︑倒産手続において配当を認める際は倒産法で確立されているプライオリティを遵守することを義務付けら
れている︵七二六条︶ことを確認しながらも︑倒産法は計画認可前の申立債権の弁済を絶対的に禁止しているわけでは
ないと述べる︒その根拠として︑管財人に﹁本章あるいは裁判所によって認められていない
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
傍点筆者︶申立前債権﹂︵ 0
の支払義務についてのみ否認することを認めている倒産法五四九条⒜
⑵
の反対解釈を挙げている︒開始後債権に関しても︑倒産法三六四条⒝が︑裁判所に対して︑営業の通常の過程・方法によらずに無担保信用を取得し︑または無担保
債務を負担する権限を管財人に付与することができると定め︑この債務は五〇三条⒝
⑴
の管財費用となる旨定めていることを挙げる︒したがって︑倒産法は裁判所が一定の債権者に対する優先的取扱いを認める限定的な権限を有している
ことを認めているのだと判示している︒
そして︑裁判所は︑倒産法が裁判所に認めているこの権限はいかなる場合に行使することが適切であるのかについて
検討する︒そのためには︑まず︑債務者がしかるべき時期に同等の性質の在庫品や労働力を確保することが債務者の事
業継続にとって必要不可欠であることが明確であるならば︑裁判所は︑特定の債権者を優先的に取り扱うことと︑優先
的取扱いを認めずに︑事業を廃止したり︑事業継続に必要な商品が欠けるために徐々に廃業していくこととを比較して︑
いずれがより良い結果を生むかどうかを判断しなければならないとする︒また︑その際には︑最も直接的に影響を受け
るその他の無担保債権者の意見が重要であると述べている︒本件では︑無担保債権者を代表する債権者委員会が︑債務
者の申請に同意していた︒裁判所は︑これらの要素を考慮して︑申立前債務の弁済は必要不可欠な商取引債権者から申
立後債権の無担保信用を得るために必要であること︑これらの商取引債権者から木材製品を調達することはまさに債務
者の存続にとって必要不可欠であることを認めた︒さらに︑裁判所としては︑優先弁済される額が債務者の申立前総債 ︵一四二八︶
事業再生とプライオリティ修正の試み 一六七同志社法学 六〇巻四号 務の二パーセントにも満たなかったことも優先弁済を認める要因であることを示している︒そして︑必要不可欠であると認めた商取引債権者の申立前債権の弁済額について︑裁判所が上限を八〇〇万ドルと限定した点も本件において注目すべき判断である︒⑶ 裁判例の分析
Just for Feet
事件もPayless Cashways
事件も︑債務者が必要不可欠であると主張した商取引債権者の有する申立前債権の弁済について︑比較的容易に認めた裁判例である︒ただ︑前者は一〇五条⒜や弁済必要性の原理を根拠に弁済を許
可しており︑裁判所が申立前債権の弁済が債務者の事業継続に必要であるとさえ認識できれば︑衡平法上の権限を行使
して許可を出すことができると述べている︒もっとも︑当判決において裁判所は︑申立前債権の弁済を許可するために
は︑当該弁済が﹁債務者の再生にとって必要不可欠である﹂ことを債務者が示さなければならないとは述べている︒し
かし︑改めて債務者に証拠の提出を求めることはせず︑有名ブランドのウェア等の小売業を営む債務者にとって有名ブ
ランドの取引相手からの商品供給は事業継続にとって必要不可欠である︑という理由のみで弁済を認めた︒
一方︑後者の
Payless Cashways
事件は︑前者に比べるとやや理論的な解釈の下で申立前債権の弁済を認めているように思われる ︵
︒まず︑前者が弁済を認める根拠として一〇五条⒜や弁済必要性の原理を適用していたのに対して︑当判決 52︶
では﹁裁判所によって認められていない﹂申立前債権の弁済を管財人が否認できるとする五四九条⒜
⑵
の反対解釈を用いている︒つまり︑裁判所が認めた申立前債権の弁済については管財人は否認できないのだとすれば︑倒産法は裁判
所が一定の債権者に対して優先的取扱いを認める権限を有することを限定的に認めているのだと述べるのである︒さら
に︑裁判所がこのような権限を有していることを確認した上で︑いかなる場合に行使することが適切であるかを検討し︑
︵一四二九︶
事業再生とプライオリティ修正の試み 一六八同志社法学 六〇巻四号
一定の商取引債権者への申立前債権の弁済が債務者の事業継続にとって必要不可欠であるか︑当該弁済をせずに事業が
毀損していくこととの利益の比較等を考慮している︒五四九条⒜
⑵
の下で認められる限定的な裁判所の権限をさらに限定的に解しているように思われる︒そして︑結果的に金額に上限を定めて申立前債権の弁済を認めた︒
両者を比較すると︑後者の方が倒産法のプライオリティを可能な限り遵守しようとする裁判所の姿勢が窺える︒ただ︑
後者もやはり最終的には﹁債務者の事業継続にとって必要不可欠である﹂という債務者側の主張を比較的容易に受け入
れて︑多額の申立前債権の弁済を認めている点は類似している︒
第三節 要件の確立による優先弁済の規制化 巡回区裁判所は六ヶ月ルールや弁済必要性の原理を原則として一般事件には適用しないという姿勢であったにもかか
わらず︑前述のように︑下級審の裁判所は債務者の事業継続にとって必要不可欠であるならば︑比較的容易に特定の商
取引債権者に対して申立前債権の優先弁済を認めるのが一般的となっていた︒ところが近年︑このような倒産法のプラ
イオリティを容易に修正してしまう傾向に対して︑下級審の裁判所も厳しい姿勢をとるようになってきている︒それま
で優先弁済を認める倒産法上の根拠についても︑事業継続に﹁必要不可欠﹂という内容についても︑裁判所はかなり曖
昧に判断していた︒しかし︑以下に紹介する代表的な裁判例においては︑それらについて詳細な検討を行い︑特定の商
取引債権者への優先弁済のために債務者が証明しなければならない要件を確立している︒倒産法の定めるプライオリテ
ィの修正と債務者の事業再生との調和を図るために︑裁判所は﹁事業継続に必要不可欠な商取引債権者﹂と認定するた
めの証明を債務者に課したのである︒ ︵一四三〇︶
事業再生とプライオリティ修正の試み 一六九同志社法学 六〇巻四号
⑴
In re CoServ
事件 ︵53︶
︻事実︼ 電気通信サービス︑ケーブルテレビ︑インターネット事業を行っていた
CoServ
社とその関連会社六社︵以下︑債務者という︶は︑それぞれ一一章手続を申立てたが︑同日一つの事件に併合された︒申立てから三ヶ月後︑債務者は二七
の商取引債権者が有する申立前債権︑約二二七万ドルの弁済を認めるよう裁判所に求めた︒その後︑債務者は﹁必要不
可欠な商取引債権者﹂のリストを七社にまで減らしたが︑それでも申立前債権の総額は約五六万ドルであった︒
この申立てに対し︑裁判所は債権者委員会らと聴聞会を行ったが︑申立てに異議を唱える者はいなかった︒ところが︑
裁判所は︑裁判所には倒産法を遵守しなければならない義務があること︑本件では連邦管財官は選任されていないが︑
その他の類似事案では連邦管財官が必ず申立てに対して異議を唱えていたこと等を理由に︑必要不可欠な商取引債権者
への優先弁済を求める申立てに関しては慎重に対処する必要があるとした︒そして︑本件申立てからは︑①破産裁判所
は再建計画認可前に︑一一章手続の債務者が一般の無担保債権者に申立前債権を弁済することを認めることができるの
か︑②もし認めることができるのであれば︑申立前債権を弁済すべきかどうかを決定するに際して破産裁判所はいかな
る基準を適用すべきなのか︑という問題が抽出されるとして詳細な分析を行った︒
︻裁判所の判断︼
⑴
弁済必要性の原理と倒産法一〇五条⒜債務者は︑弁済必要性の原理を根拠に︑裁判所は再建計画認可前に特定の申立前債権の弁済を許可する広い衡平法上 の権限を有していると主張していた ︵
︒そして︑この原理の根拠条文として︑倒産法一〇五条⒜︑三六三条⒝ 54︶
⑴ DIP
︑の︵一四三一︶
事業再生とプライオリティ修正の試み 一七〇同志社法学 六〇巻四号
権限を定める一一〇七条⒜︑否認権を定める五四九条を挙げていた︒
これに対し裁判所は︑まず︑裁判所としては再建計画によらずに債務者に申立前債務を弁済することを許可できるこ
とに賛同しないわけではないが︑それは特別な状況下においてのみ許されることであると述べて裁判所の前提となる見
解を示し︑その後︑債務者が根拠条文として挙げた各条文について検討している︒
裁判所は始めに︑申立前債権の優先弁済に関して︑倒産法五四九条ならびに三六三条⒝
⑴
は適用されないと断言した︒そして︑唯一一〇五条⒜に基づいてのみ︑裁判所は申立前の一般無担保債権は再建計画に従って衡平に満足を受けなけ
ればならないという一一章手続の目的に反することを認めることができるとした︒しかし続けて︑裁判所が一〇五条⒜
に基づいて行使できる権限は広範なものではなく︑とても制限されていると述べている︒弁済しなければ債務者が業務
をできなくなる特定の無担保債権の優先的取扱いが議会によって許可されている場合や︑既存の優先権を有する債権者
が同意している︑あるいは彼らが明確に当該無担保債権者に優先権を与えている場合を除いては︑破産裁判所は特別な
状況がなければ無担保の申立前債権の弁済を許可することができないとした ︵
︒ 55︶
⑵
申立前の一般無担保債権の優先弁済許可の基準 次に裁判所は︑一〇五条⒜を根拠に申立前の一般無担保債権の優先弁済を認めるとしても︑当該債権が優先弁済されるべきものであるかを判断するために︑一定の基準を設けるべきだと述べる︒これまでの類似判例はどれも︑一〇五条
⒜が適用される場合の明確な基準を立てていなかった︒なぜなら︑一〇五条⒜に基づく破産裁判所の権限は衡平法上の
権限であるため︑その行使は緩やかになされるべきだからである︒したがって︑従来の裁判例では︑﹁債務者の事業継
続に必要不可欠な ︵
﹂︑﹁再生の促進 56︶︵
﹂︑﹁再生に必要不可欠な 57︶︵
﹂といった一般的基準のみで申立前債権の優先弁済を認めて 58︶ ︵一四三二︶
事業再生とプライオリティ修正の試み 一七一同志社法学 六〇巻四号 いた︒しかし︑このような一般的基準のみで優先弁済を認めてしまうと︑倒産実務に関わる実務家は優先弁済は容易に認められるのだと判断し︑弁済の﹁必要性﹂の合理的概念には程遠いような申立てを導いてしまう︑と裁判所は述べる︒
そして裁判所は︑申立前の一般無担保債権の優先弁済を許可してもらうために満たさなければならない三つの﹁必要性﹂
の基準を提唱し︑これら三つの要件全てが証拠の優越︵
preponderance of evidence
︶によって証明される場合にのみ︑弁済の必要性が証明されたことになって当該債権の優先弁済を認めるとしている︒裁判所の提唱する三つの基準は以下
の通りである︒
①債務者は当該債権者と取引をしなければならないこと
この要求を満たすために︑債務者は以下のことを証明しなければならない︒すなわち︑債務者が︵何らかの理由で︶
当該債権者と取引をすることが収益性ある業務や資産保護のために実質的に欠かせないことである︒債務者の消費者 ︵
︑ 59︶
商品を供給する唯一のサプライヤー︑債務者財産の資産価値に影響を及ぼす債権者については︑まずこの要件を満たさ
なければならない︒
②当該債権者と取引継続できないことが︑当該債権の額に不釣合いな損失を招く危険性が高い︑あるいは経済的優位を
排除してしまうこと
この要件を満たすためには︑債務者は当該債権者と取引継続することによって︑資産あるいは事業継続価値に有意義
な経済利益が生ずること︑あるいは申立前債権を弁済することで深刻な経済損失が避けられるであろうこと︑その際避
けられる損失は資産や事業の潜在的な損失よりも本質的に少ないことを示さなければならない︒
③当該債権の弁済をするための実務的法的選択肢が存在せず︑弁済が唯一の方法であること
法的な選択肢として裁判所は︑もし債権者が契約上債務者に拘束されるならば︑債務者が申立前から取引を行ってい
︵一四三三︶
事業再生とプライオリティ修正の試み 一七二同志社法学 六〇巻四号
る間は︑契約上債権者も行わなければならない ︵
︑と述べている︒ 60︶
以上のような基準を確立した裁判所は︑本件において債務者が申立前債権の優先弁済を求めた必要不可欠な商取引債
権者七社のうち︑二社についてのみ基準を満たしているとして優先弁済を認めた︒
⑵
In the matter of Kmart Corporation
︵61︶
︻事実︼
Kmart
社 ︵︵以下︑債務者という︶は一一章手続を申し立てたが︑同日︑取引相手が今後二年間︑通常の信用供与期間 62︶
で商品を供給することに同意することを条件に︑すべての必要不可欠な商取引債権者の申立前債権全額を直ちに弁済す
ることの許可を裁判所に求めた︒
この申立てに対し︑破産裁判所は︑優先弁済を受けないその他の債権者に告知することなく︑適切な証拠を受け取る
こともなく︑必要不可欠な商取引債権者への全額弁済によって︑その他の債権者がより多くの利益を得るか︑もしくは
同等になるかについての事実を提示するようも求めることもなく︑債務者が提案した必要不可欠な商取引債権者への命
令を認容した︒破産裁判所は︑債務者が求める必要不可欠な商取引債権者への全額弁済は﹁債務者︑債務者財産︑債権
者の最善の利益である﹂と述べ︑その根拠として倒産法一〇五条⒜を引用しているが︑その理論的根拠については何も
説明していなかった︒
破産裁判所の許可を受けて︑債務者は二三三〇の商取引債権者に対して全額弁済を行い︑その総額は三億ドルに達し
た ︵
︒その他の二〇〇〇あまりの﹁必要不可欠﹂であるとされなかった商取引債権者と四三〇〇〇の無担保債権者には︑ 63︶
結局一割の配当しか与えられなかった︒ ︵一四三四︶
事業再生とプライオリティ修正の試み 一七三同志社法学 六〇巻四号 必要不可欠であるとされなかった
Capital Factors
社は︑必要不可欠な商取引債権者への全額弁済を破産裁判所が認容した後すぐに異議を申し立てた︒その一四ヶ月以上後になって︑地方裁判所は︑倒産法一〇五条⒜も﹁必要性の原理﹂
も命令を支持する根拠にはならないとして︑破産裁判所の許可を覆したのである︒しかし︑その時には既に必要不可欠
な商取引債権者全てに全額弁済がなされ︑債務者の再建計画ももうすぐ認可されるという時期であった︒
これに対し︑優先弁済を受けた商取引債権者らは︑命令を覆すには時期が遅すぎると主張して控訴した︒
︻裁判所の判断︼
最初に裁判所は︑破産裁判所が特定の商取引債権者への弁済を認める根拠にした倒産法一〇五条⒜について︑一〇五
条⒜は破産裁判所に倒産法のプライオリティや配当に関する倒産法秩序を変更する権限を与えているわけではないと述
べ︑破産裁判所の判断を否定した︒そして改めて︑倒産法は債務者がその他の債権者よりも特定の取引相手を優先的に
扱うことを認めているのだろうか︑と疑問を呈している︒控訴人らは︑自らへの優先弁済を認める根拠として︑倒産法︑
三六四条⒝︑五〇三条︑三六三条⒝を挙げていたため︑裁判所はこれら各々について検討を行った︒
まず三六四条⒝については︑当条文は債務者に信用を得ることを認めているのであって債権者間のプライオリティに ついて何も言及していないため︑この条文を根拠にすることはできないとする ︵
︒次に︑五〇三条については︑申立前か 64︶
ら存在する債権は管財費用ではなくその対極にあるものであると述べ︑倒産手続申立後の企業の負担の下に申立前債権
を管財費用債権として扱うことは︑既存債務の弁済を止めて生存可能な企業が崩壊するのを防ぐという倒産法の趣旨を
没却することになると否定する︒しかし︑三六三条⒝
⑴
については︑必要不可欠な取引相手を維持するべく申立前債務の弁済に財産を使用することは︑倒産において財産を管理するための通常の過程以外に財産を使用することであること
︵一四三五︶
事業再生とプライオリティ修正の試み 一七四同志社法学 六〇巻四号
から︑この条文は根拠となる余地があると述べた︒ただし︑そうだとしても︑三六三条⒝
⑴
も明文でプライオリティの変更を認めていない以上︑倒産法において確立されているプライオリティへの影響は最小限になるように︑慎重に適用
しなければならないとする︒
ところが︑裁判所は三六三条⒝
⑴
が唯一特定の申立前債権の弁済を認める根拠になり得ると判断しているものの︑本件においては三六三条⒝
⑴
をいかに解釈するか以前に︑必要不可欠な商取引債権者への弁済が本件において本当に必要であったのかが明確でないと述べたのである︒
裁判所によれば︑債務者が必要不可欠な商取引債権者への優先弁済を求める根拠は︑従前の納品に対する弁済が出来
なくなった取引相手には︑取引債権者はもはや新たに納品することを拒否するであろうと信じていることにあると言
う︒売るための商品がなければ︑債務者のような小売業者はつぶれてしまう︒もし必要不可欠な取引相手に弁済するこ
とで事業再生が成功し︑優先弁済を受けなかったその他の債権者にもより多くの利益を提供することができれば︑全て
の債権者は自分が﹁必要不可欠﹂だと指名されていたか否かに関係なく︑当該弁済に同意するだろう︒しかし︑そのよ
うな前提に立ったとしても︑債務者は︑優先弁済を受けない債権者に清算価値保障原則が維持されることに加えて︑債
務者が指定した必要不可欠な商取引債権者は︑既存債務が本件訴訟継続中も未払いのままになっていたならば︑納品を
やめてしまっていたであろうことを示す必要があると言うのである ︵
︒ 65︶
このように述べた後︑裁判所は︑例え倒産法三六二条⒝
⑴
が原則として必要不可欠な商取引債権者への弁済許可命令を認めているとしても︑命令を認めるためには次の二点を証明しなければならないとした︒すなわち︑①債務者が直ち
に申立前債権の弁済をしなければ︑取引相手は取引をやめるであろうこと︑②優先弁済する取引相手と取引を継続する
ことで︑優先弁済を受けないその他の債権者にも少なくとも必要不可欠な商取引債権者への弁済許可命令が出されなか ︵一四三六︶
事業再生とプライオリティ修正の試み 一七五同志社法学 六〇巻四号 った場合と同等の配当を与えることができるほどの利益が得られることである︒ 本件において破産裁判所は以上の二点に関する証明を求めていなかった上に︑本件記録にもそれらが示されていなかったため︑裁判所は当該命令を認めることはできないとして破産裁判所の判断を覆した︒⑶ 裁判例の分析
CoServ
事件とKmart
事件においては︑必要不可欠な商取引債権者の申立前債権の弁済を認めるにあたって︑必要不可欠であると看做すための要件を定め︑債務者にそれらの証明を求めた︒いずれも無担保債権者である一定の商取引債
権者に対して︑倒産法のプライオリティを修正するような優先的取扱いを限定的にのみ認めようとする姿勢を採ってい
ることは明確である︒ただ︑両者は一定の場合にのみ必要不可欠な商取引債権者への弁済を認めているものの︑その根
拠については全く逆の見解を採用している︒前者の
CoServ
事件では︑債務者が根拠条文として挙げていた三六三条⒝⑴
を否定し︑必要不可欠な商取引債権者への弁済は一〇五条⒜に基づいてのみ認める余地があると述べる︒従来の判例 も一〇五条⒜による裁判所の衡平法上の権限に依拠して容易に弁済を認めてきたのであるが︑CoServ
事件で注目すべきは︑一〇五条⒜の下に裁判所が行使できる権限は広範なものではなく︑極めて限定的なものであるとして︑裁判所が
自ら衡平法上の権限を行使する場面を制限した点である︒一方︑後者の
Kmart
事件は︑一〇五条⒜には倒産法のプライオリティを変更する権限までを裁判所に与えているのではないとして︑一〇五条⒜を根拠にすることを否定する︒そし
て︑管財人は通常の営業の過程によらずに財団を使用・売却できると規定する三六三条⒝
⑴
にのみ根拠となる可能性があると述べた︒ただ︑三六三条⒝
⑴
を根拠に挙げたものの︑適用についてはプライオリティへの影響が最低限になるよう慎重に検討すべきだとして︑適用場面をより制限的に解している点は類似している︒
︵一四三七︶
事業再生とプライオリティ修正の試み 一七六同志社法学 六〇巻四号
次に︑
CoServ
事件では三つの要件︑Kmart
事件では二つの要件をそれぞれ定めているが︑両者の要件は実質的に類似している ︵
Kmart
︒事件で確立された①債務者が直ちに申立前債権の弁済をしなければ︑取引相手は取引をやめるであろ 66︶うこと︑②優先弁済する取引相手と取引を継続することで︑優先弁済を受けないその他の債権者にも少なくとも必要不
可欠な商取引債権者への弁済許可命令が出されなかった場合と同等の配当を与えることができるほどの利益が得られる
ことを証明することができれば︑少なくとも
CoServ
事件における①債務者は当該債権者と取引をすることが必要不可欠であること︑②当該債権者と取引継続できないことが︑当該債権の額に不釣合いな損失を招く危険性が高いことにつ
いて証明することができると考えられている ︵
︒しかし︑これらの要件を申立て直後の債務者に証明させるのは厳し過ぎ 67︶
るのではないかとの批判もある ︵
︒例えば︑倒産を申し立てた当日に︑債務者に対して︑必要不可欠な商取引債権者の申 68︶
立前債権を弁済することでその他の債権者にも清算価値保障原則が保障されるかを分析して破産裁判所に示せと要求す
るのは困難である ︵
︒また︑裁判所が要求する証拠を示せたとしても︑申立てによって今にも取引先が離れていこうとし 69︶
ている非常時に︑裁判所がそれらの証拠を検討して︑いかなる商取引債権者が債務者の事業継続に必要不可欠であるか
を判断するのを待つのは実務的に難しいと言われている ︵
︒ 70︶
倒産法のプライオリティを遵守しようとする裁判所の姿勢と︑実際の倒産事件における実務には隔たりがあるようで
ある︒しかし︑ただ﹁債務者の事業継続に必要不可欠である﹂という理由のみで多額の申立前債権の弁済を認めてきた
裁判所が︑必要不可欠であると認めるための要件を定め︑一定の商取引債権者の優先的取扱いを限定的にのみ認めたこ
とは︑倒産法秩序と債務者の事業価値の維持とを調和させた解決策であると評価できよう︒ ︵一四三八︶