翻刻『会稽多賀誉』(下)
著者 翻刻の会
雑誌名 同志社国文学
号 77
ページ 138‑176
発行年 2012‑12‑20
権利 同志社大学国文学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000013336
翻刻
『 会 稽 多 賀 誉
﹄ ︵ 下 ︶
翻 刻 の 会
一︑ 底本 には 大阪 府立 中之 島図 書館 の七 行九 十七 丁本 を用 い︑ 適宜
︑京 都府 立総 合資 料館
︑京 都大 学附 属図 書館 の所 蔵本 を 参照 した
︒ 二︑ 底本 を忠 実に 翻刻 する こと を原 則と した が︑ 次の よう な校 訂方 針に 拠っ た︒ 本文 は文 字譜 を手 掛か りに して
︑適 宜改 行を 施し た︒ ただ し︑ 道行
・景 事の 類︑ 会話 の途 中等 では 改行 しな かっ た︒ 各丁 の表
・裏 の終 わり は︑ 丁数 の数 字と オ・ ウの 略号 を︵
︶で 示し た︒ 仮名 は現 行の 字体 に統 一し た︒ ただ し︑ 感動 詞︑ 送り 仮名
︑捨 て仮 名の 類以 外の
︑本 文中 の﹁ ニ﹂
﹁ハ
﹂﹁ ミ﹂ は
﹁に
﹂﹁ は﹂
﹁み
﹂と した
︒ 漢字 は︑ 一部 の異 体字 を除 いて は︑ 原則 とし て通 行の 字体 に統 一し た︒ 漢字
・仮 名と もに
︑誤 字︑ 脱字
︑当 て字
︑仮 名遣 い︑ 清濁 は底 本の 通り とし た︒ 特殊 な略 体︑ 草体
︑合 字等 は現 行の 表記 に改 めた
︒ 畳字 は︑ 平仮 名は
﹁ゝ
﹂︑ 片仮 名は
﹁ヽ
﹂︑ 漢字 は﹁ 々﹂ に統 一し た︒ ただ し︑
﹁〳 〵﹂ はそ のま ま残 した
︒ 文字 譜の 類は すべ て採 用し
︑本 文の 右傍 の適 切と 思わ れる 位置 に翻 字し た︒ 三︑ 本文 の翻 刻は
︑次 に掲 げる 翻刻 の会
︵学 部学 生の 研究 会︶ の会 員に よっ てな され た︒ 澤恵 里香
︑城 阪早 紀︑ 樋口 𠮷男
︑江 南昌 樹︑ 竹内 淳之 介︒ 文字 譜︑ 改行 及び 本文 の最 終確 認は 山田 和人 が担 当し た︒
(山 田和 人)
翻刻
﹃会 稽多 賀誉
﹄
一三 八
つい たる 折フシ
から に︒ 組地色
子ウ
引連 九ハル
鬼数 兵衛
︒ヤ詞 ア作 十郎 の横わう
道とう
者︒ 上を たば かる 工たく
みの 段々
︒遂ちく
一に 顕あら
はれ て殿 の御 機嫌 以もつて の外
︒広ひろ
庭には
でお 手討 と御 意を 受た 此数 兵衛
︒引 立に 来つ たり との ゝし れば
︒様地ハ
子ル
を聞 て 驚をとろ く姫
︒唐ウ 橋扨 はと 心に 点色 き︒ 諚詞 意と 有ば ぜひ もな し︒ いざ 御同どう
道〳〵
サア あゆ めと 追地ウ
取か こめ ど悪ウ びれ す︒ 是ハル
なふ 待て とと ゞむ る姫
︒押 退のけ
〳〵 広ハツ
庭ミフ
さシ
して 引立 行︒ 姫地ハ
ルウ
はり ゝし く帯 引色 しめ
︒一詞 ツ旦たん
定マ
る殿 様の 安あん
否ひ
︒生 死一 つと 庭には
伝つた
ひ跡色 を︒ し上 たふ て三
〽重
広座 敷︒ 政地ハ
道ル
くも らぬ かゝ み山
︒早ウ 枝殿 の奥 庭中 先泉ヲク
水リ
︒築 山物ウ 好の
︒其キン
風流 に引中 かへ て︒ 下ハル
キン
部か はこ ぶ水
︵五 十一 オ︶ 手桶 土下 壇たん
の︒ 拵へ 調ひ しと
︒言ハル
上す れば 押ひ中 らく
︒障ウ 子の 内は 銀燭キン
台ヲク
昼リ
かと
︒疑 ふ金 殿に
︒時ウコ ハリ
元卿 は厳げん
然ぜん
と︒ 切ウ 柄リつか
はめ し新あら
身み の刀
︒引 さげ て立 給ハル
へは
︒左 右を 守しゆウ
護こ する 近習 の大 勢さ も目フシ
さま しく 見へ にけ る︒ 太地色
ハル
守仰 出さ中 るゝ は︒ 作詞 十郎 事幼よう
少せう
より 膝元 にて 育そたち なが ら︒ 私の 趣しゆ
意ゐ に我 を欺たば
かり
︒暇 を乞 はに つく きし れ者
︒ソ レ引 出せ の壇 の下
︒は地ハ
つル
と答こた
へる 縄なわ
取に 引立 られ て唐中 橋は
︒死 地に つく 身も 業ごうウ
因ゐん
と︒ 諦あきら
れむ
共猶 残ハル
る︒ 無念 は顔 にあ らは れて 用中フ
意シ
の︒ 席に 座し 居た る︒ 兼地色
てウ
意ゐ 趣しゆ
有九 鬼数 兵衛
︒しハル
たり 顔に のさ色 はり 寄︒ ハ詞 レヤ レ唐 橋不 便ひん
千万
︒ 執しゆつ 頭顔 に羽 をの した も︒
︵五 十 一ウ
︶終つゐ
には 大小 もぎ 取れ
︒見 るか けも ない 羽は 抜ぬけ
鳥︒ コリ ヤヤ イ三 ケ国 の物 知抔なと
と︒ 広かう
言けん
はい た瀬 左衛 門は 学太 郎様 か芋 さ し料 理︒ 弟の 其方 も殿 の御 前ン
で縛しば
り首
︒扨 々お 手討 に縁 の有
︒兄 弟て は有 はい と嘲地ハ
るル
詞に 屈色 せぬ 唐橋
︒盛詞 衰は 此身 にか ぎ らず
︒保 元に は悪 源太 源氏 嫡流 の御 身で さへ
︒六 条河 原で 縛り 首︒ 善悪 共に 皆天 命︒ サア さつ はり と遊 ばせ と︒ 色地ハ
もル
変へん
せ中 ぬ 丈ウフ
夫シ
の一 言︒ ヲ詞 ヽよ き観 念ねん
出か した り︒ 生置 なは 一方 の役 にも 立べ きあ たら 若者
︒ぜ ひに 及ば ぬ覚 悟せ いと
︒件地ウ
の一 刀抜ハル
給中 へは
︒近 習ン
は立 寄手 桶の中 水︒ さら 〳〵 筧かけひ のしウ げみ にか くれ
︒︵ 五十 二オ
︶息ウ を詰 たる 折田 平五
︒欠 出ん 〳〵 とあ せり 給ふ
翻刻
﹃会 稽多 賀誉
﹄
一三 九
姫ハル
君を
︒じ つと とゞ めて 窺ウ ひ居 る︒ 作ハル
十郎 は覚かく
悟ご の合 掌︒ 南詞 無あ みだ 仏の 声諸 共︒ ひ地ハ
らル
めく 利刃 すつ ぱり と︒ 作十 郎か 髻際きは
切ツ
たる 切先 縄め もは色 らり
︒コ詞 リヤ お手 がそ れた のか
︒ど ふ有 ても 助ケ
ぬと
︒唐地ウ
橋め がけ 数兵 衛か
︒切 込隙 も新 身の 刀︒ 後ハル
げさ にど つさ中 りと
︒切ハル
捨給 ふ御 手の 内人フシ
々驚 計ク
也︒ ヤア 騒詞 なク
旁︒ 高知 をも 足たれ
りと せず
︒強がう
欲よく
非ひ 道だう
の学 太郎 に︒ 追おも
従ねり
諂へつら ふ人 非ン
人︒ 家中 の見 せし め身 が手 討︒ 又作 十郎 か首 は 此 髻もとど
︒り
切取 たれ は禿 の縁
︒某 を 欺あざむ
んか
と及 ぬハ
工たくみ は小 児の 戯たはむ
︒れ
小児 なれ は成せい
長迄
︒罪つみ
を 赦ゆるす か国 家の 定ちやう 法ほう
︒周しう
の穆 王 寵愛 有彼かの
慈し 童どう
︒過 て君 の 枕まくら を越こゆ
る其 時︒ 群くん
臣しん
︵五 十二 ウ︶ 評義 をな し︒ 幼よう
弱じやく 成リ
迚命 を助 左ケさ
迁すらへ の身 とな し給 ふ︒ 其後 慈し 童どう
は山 路じ に分 入ケ
︒折 しも 盛さか
りの 菊の 華に 帝みかど の情 忘れ 得ぬ
︒四 句の 文もん
言こん
書印
︒都 の空 を明 暮ケ
に拝 して 帝長 久の 念ン
願ン
を こら せし が︒ 終つい
に仙せん
術しゆつ を学 び得 て彭ほう
祖そ とよ ばれ
︒七 百歳さい
の 寿ことぶ
をき
保たもち し 例ためし 汝迚 も幼やう
弱しやく の︒ 昔むかし の 因ちなみ あん なれ ば︒ われ 穆ぼく
王わう
の慈じ 愛あい
にな らひ 一命 を助 たケ
り︒ 作十 郎は 世を 去ツ
て︒ 今の 姿すがた は其 侭に 禿かぶろ
︒〳 〵と 仁地中
愛ウ
も深 き 恵めくみ に有ハル
がた 涙︒ ス詞 リヤ 私が 本心 を︒ ホヽ 見抜ぬき
し故 に放ほう
埒らつ
を︒ 却かへつ て加 増応 せし は︒ 敵に 油断 をさ せん 為︒ 又一 つに は︒ 宝の 詮議 一途づ にな さば
︒是 ぞ天 下の 囚めし
人うど
にて
︒汝 が願 ひも
︵五 十三 オ︶ むそ くな らん
︒夫 故レ
わざ とと ゞめ しぞ や︒ 今 髻もとど
をり
払ひ しは 主しう
従〳〵
の縁ゑん
断たち
切証せう
拠こ
︒ 出家 と成 て修しゆ
行げう
にな ぞら へ本 意を 遂とけ
よ︒ コリ ヤ短たん
慮りよ
を出 さば 御宝 を︒ 破は 脚きやく せん も 計はから れず
︒サ 必々 油断 なく
︒兄地ハ
かル
教けう
養やう
怠おこた るな と残ウ る方 なき 情の 詞︒ ハ詞 アヽ 心しん
魂こん
に徹てつ
する 御教けう
訓くん
︒ケ 程の 御恩 を 顧かへりみ ぬぬ
︒不 忠至し 極ごく
の私 が一 命を 助給 ふは
︒ヱ ヽ広地ハ
大ル
無辺 の御 慈悲 心︒ よも 此ウ 上の 有べ きや と勿上 体涙 出廻 には たと
︒身 を投 ふし にハル
くフシ
も︒ とろ くる 思ひ 也︒ 漸地色
ハル
に涙 を払色 ひ︒ よ詞 しな き歎 きは 返つ て恐
︒レ
只今 君の 給たま
はつ たる 禿の 文字
︒二 つに 分て 法名 を︒ 喝かつ
儿ぱう
と相 改︒ 今地ウ
より 後は 雲
翻刻
﹃会 稽多 賀誉
﹄
一四
〇
水の やど り︒ 定ハル
めぬ 三︵ 五十 三ウ
︶界がい
無庵
︒名中フ シハ
残ル
は尽 しお中 さら ばと
︒おウ 暇申 立出 るを ヤレ 待色 喝儿 餞別 せん 此詞 髻もとゝ
はり
命毛 の無 実 に絶たゆ
るを とゞ めし 絆きずな
︒修 行の 大願 終り なば 此髻 を添 に入
︒御 大イ
学の 御み 前に おい て︒ 怨おん地
キン
敵てき
退たい
散さん
を修しゆ
せん 時の
︒降かうハ
魔まル
の利 剣 を寄 進中 せん と︒ 投ウ やり 給ふ 黒髪 や裁 く剣 は来 国色 吉︒ 日ハル
も吉 時入 吉頃 も中 吉︒ 早出 立と 出ハル
行喝 儿︒ 姫ウ も倶 にと かけ 出る を︒ 折ウ 田か 隔へだ
て折中 も待
︒又ハル
の再 会互 の色 胸︒ 明ハル
て云 れぬ 仇ウ 討の
︒門 出祝 ふも 心と 心実
︒武 士の
︒かキン
ゝみ 山館色 を色
︒跡上 に三重
〽出 て行 第七 代地ハ
をル
こめ中 て直ハル フシ
なる は竹
︒曲まが中
れる は只ウヲ
クリ
浅ま しき 人ハル
心︒ 身ウ のた つき こそ ぜひ も中 なき
︒︵ 五十 四オ
︶堤つつウ
のみ
上に みだ れ共 めん つを 其 侭まま
高ハル
枕まくら
︒誠ウ にく はず 貧ひん
楽らく
の其 日暮ぐら
しぞフシ
気さ んじ 也︒ 藤地ハ
六ル
は色 大 欠あくび
︒ア詞 ヽさ つて も寝ね れは 寝ら るゝ 物じ や︒ コリ ヤじ らよ
︒権 よ︒ もふ 起キ
おら んか い︒ いか にお こし てが ない 迚︒ 日の 暮る もし らず ねつ ゞけ
︒但 しの せ物 でも かこ ふた か︒ ヱヽ ごく どう めら て有 わい の︒ ヱヽ 鳶とんび めが 醉よい
がさ めた と思 ふて
︒ よい 口な 事ぬ かす はい
︒コ リヤ ヤイ こち らが ねる には 当が 有︒ ナア 権よ
︒ヲ ヽソ レ〳 〵︒ われ は知 まい
︒頭 かい ふに は︒ 今 夜は 大仕 事か 有程 に︒ 待て 居い とい はれ たが
︒モ ウ来 そふ な物 じや がと
︒見地ウ
やる 向ふ への つか 〳〵 頭と 見ゆ る大 男︒ 田ハル
舎め きた る侍 と打 連立 て出 来り
︒道ウ 一は いに 立色 はた かり
︒︵ 五十 四ウ
︶コ詞 リヤ 〳〵 皆の 者︒ 云イ
付ケ
置た もふ け筋
︒随すい
分ふん
ぬか るな 合点 かと
︒い地ウ
ふに 三人 ヤコ レ色 お頭
︒シ詞 テ其 仕し 事こと
の筋 はど んな 事で ごん すぞ いの
︒イ ヤ其 子し 細さい
云イ
聞さ んと
︒頭づ地ハ
巾きんル
を取 ば松色 浦 軍蔵
︒是詞 なる は平 野官 兵衛 殿と いふ 身が 傍ほう
輩ばい
︒我 々が 主人 はか ゝみ 山の 分国 大道 寺学 太郎 様︒ 其御 主人 を敵 とね らふ 唐橋 作 十郎 とい ふや つ︒ 喝かつ
儿ぱう
と改かい
名めい
し六 十六 部に 身を やつ し︒ 上方 を徘はい
徊かい
する 由よし
其喝 儿を ばら して 仕廻 ば︒ ほう びは 我レ
達が 望に
翻刻
﹃会 稽多 賀誉
﹄
一四 一
任まか
すと
︒い地ハ
へル
は鳶 がア詞 ヽお 気遣 なさ れま すな
︒ぬ かる こつ ちや ござ りま せぬ
︒殊 に御 ほう びと 有ば
︒ナ ア皆 の者
︒ヲ ヽテ ヤ 福徳 の三 年め
︒随 分と がん ばり まし よ︒ ホ出 かし た〳 〵︒ もし 手に 余ら ば此 軍︵ 五十 五オ
︶蔵
︒飛とひ
道とう
具ぐ にて たつ た一 打うち
︒其 方共 は此 辺を 心が け︒ 見付 次第 にし らす べし 早行フシ
〳〵 と追 立や り︒ 両地ハ
人ル
跡を 打見 やり
︒官 兵衛 は差色 寄て
︒イ詞 ヤ何 軍蔵 殿︒ 学太 郎様 の仰 らる ゝは
︒瀬 左衛 門を 討た る事 上聞ふん
に達たつ
し︒ 室町 殿よ り 宝たから の詮 義有 ん時
︒ 館やかた に有 ては 事の 妨さまた
︒げ
後日 の邪じや
魔ま と某 にお 預ケ
なさ れ︒ 昼夜 肌はた
身み を放 さね ば︒ 此義 にお いて 気遣 はイ
ご ざら ぬ︒ 成程 〳〵 左様 でご ざる
︒只 心か ゝり は喝 儿め
︒こ いつ を生 置ケ
ては 夜が ねら れぬ
︒早さつ
速そく
討取 と有 て某 わざ 〳〵 参り まし た︒ いか にも 我等 迚も 御主 人の 御意 を受
︒此 こと く盗とう
賊ぞく
と 姿すかた をや つす も喝かつ
儿ぽう
めを ばら さん 為︒ ちと 心当 も有 ばレ
身共 は枚ひら
方かた
の 宿しゆく を吟きん
味み せん
︒貴き 殿でん
は橋 本の 辺を 尋ら れよ
︒然地ウ
らば 後刻 と両 人は
︵五 十五 ウ︶ 左ウ 右へ 別れ 急キ
行︒ 跡地ハ
にル
孫市 小色 かげ を出
︒ハ詞 テ合 点の 行ぬ
︒思 はず 此所 へ来 かゝ つて 様子 を聞 ば︒ 御主 人瀬 左衛 門様 の 弟おとと 子ご
︒喝 儿と 改名 し諸 国修しゆ
行ぎやう に出 給ひ
︒此 辺を 徘はい
徊くわい なさ ると 今の 咄し
︒扨 は兄 御の 敵を 討給 はん 思し 立︒ ヱヽ 忝い
︒何 卒尋 お目 にか ゝり
︒御 勘 当御 赦しや
免めん
を願 ひ︒ 敵討 の御 供せ ば武 士の 本望もう
此上 なし
︒有地ハ
がル
たや 嬉し やと 天に も上フシ
る心 の悦 び︒ 併詞 心へ がた きは 今の 両人
︒ 喝儿 様を 覘ねらふ 様子
︒一 時も 早ふ 御目 に 懸かかり
︒此 事お 知ラ
せ申 たい が何 国
い つ
をく
尋て よか らふ ぞ︒ ヤマ ア何 にも せよ こふ して は居 ら れぬ
︒葛くず
葉は 辺へん
を尋 て見 んそ ふじ や︒ 〳〵
地ハ ル
と足 も空そらフ
道 シ
を早 めて 急キ
行︒ 茂しげハ
ルフ シキ ン
り木 や︒ 山 中キ
郭 ン
公
ほと ゝと きす
鳴なく
音ね さへ
︒血ウ をは く思 ひ紅かうハ
梅ばいル
姫︒ 迷長地
ふウ
恋こい
路じ の旅 衣︵ 五十 六オ
︶き つゝ なれ にし 我ウ 夫マ
を尋 行ゆく
ゑへ を爰中 かし こ︒ しウ たふ も人 の目 せき 笠キン
傾く
︒日 影枚 方の
︒堤 に暫フシ
し休 らひ 給ひ
︒
翻刻
﹃会 稽多 賀誉
﹄
一四 二
平詞 吾︒ 恋し と思 ふ喝 儿様
︒い づく にお 出遊 はす やら
︒夫地色 ハル
婦と 成し 計に て一 夜チ
の枕 もか はさ れず
︒別ウ れも つら き館 の騒さう
動どう
︒ 風の 便リ
を力 草︒ 尋し たふ て来中 れ共
︒いハル
つか 尋て 逢あは
れふ やら
︒心 細ほそ
やと 計に て打ノル
し中フ
ほシ
れた る御ハル
姿︒ 平ウ 五も 心根 いと をし く︒ 倶中 にし ほる ゝ気 を取 直し
︒ハ詞 テ扨 又し ても 其様 にお 歎キ
なさ れて はお 身の 障さはり
︒御 病気 でも 起おこつ ては 可か 愛わい
と思 し召
︒喝 儿殿
︒ 尋る 事も 叶ひ ませ ぬが
︒ヱ ヽお 気遣 なイ
され ます な︒ 平五 めか 付キ
添そふ
から は︒ ぜひ 一度 は尋 逢︒ お手 渡し 致し ます
︒と地色
かウ
う いふ 内も ふ日 暮︒ 今ウ 宵は 枚ひら
方かた
に一 宿し て明 日︵ 五十 六ウ
︶は 早く 津つの
国へ と心 さし
︒大ハル
坂辺へん
を尋 て見 ん︒ サア 〳〵 お出 と介中 抱 し伴 ふ向 ふへ 非ハル
人共
︒点うなウ つき
囁さゝや
のき
さ色 ばり 出︒ 一詞 文取 して 下あ れと
︒ばフシ
ら〳 〵〳 〵と 取巻 たり
︒ 平地ウ
五は 腰に 有合 す銭ウ 取出 し投なけ
やれ ば︒ 鳶ハル
が掴 んで コ色 リヤ 何じ や︒ 此詞 様な 端はした 銭ぜに
当あて
にす る者 じや ない
︒定 てメ
路用 金ず つし り と持 て居 よ夫 をレ
爰へ まき 出せ
︒ヲ ヽソ レ︒ こふ 見た 所が 幻げん
妻さい
もよ つ程 まぶ な代 物︒ 着は つた 物を 引ぱ いで
︒胴 がら は新 町 へ捨 売に して も百 両は ぶら 〳〵
︒何 とう まい 仕事 じや ない かい
︒ム ヽ扨 は 儕おのれ 等ら は盗 賊な
︒命 知す のう づ虫 め指 でも さゝ ば 撫なで
切と
︒姫フシ
をか こふ て身 がま へた り︒ イヤ モど詞 ふで 素す 手で は行 おる まい とて地ウ
ん手 に割わり
木き 槙まき
ざつ ぱ︒ 打か くる をし つか と留
︒足詞 弱よは
を御 供と こら へて 居れ ば︵ 五十 七 オ︶ 付上 り︒ 様々 のマ
ほで 伝てん
業ごう
︒イ ヤ申 お姫 様︒ 此先 のキ
宿迄 いて お待 遊ば せ︒ サヽ 早地ハ
ふル
〳〵 に姫 君は 提つつハ
みル
伝ひフシ
を逃 給ふ
︒ シヤ ち地ウ
よこ ざい なと 振ふり
放はな
し︒ 又ウ 打か ゝる を引 掴ン
で 猧ゑのこ
投ろなげ
︒三ウ 人一 度に 立か ゝる
︒性しや色
こう
りも なき 非人 共︒ 此ウ 世の 暇取 せん とずウ はと 引キ
抜太 刀風 に︒ 皆ハル
蜘の 子の ちり 〴〵 に︒ 跡を も見フシ
ずし て逃 て行
︒ 後地ウ
に 窺うかゞ ふ軍 蔵が 油断 見す まし 切付 れば
︒う んと 倒たを
るゝ 折田 平五
︒只 一討 と振 上る
︒脇わき
腹はら
足に て踏ふみ
のめ され
︒たハル
ぢろ く内 に
翻刻
﹃会 稽多 賀誉
﹄
一四 三
起上 り互 に︒ 秘術 を三重
〽尽上 せし が︒ 折ウ 田は 剣太 刀に 急所 を切 れ死ウ 物 狂くるい の働 きに
︒軍ハル
蔵も 持もて
あつ かい 叶ハ
ぬ赦ゆる
せと いつ さん ばし り︒ ヱ詞 ヽ残 念や ぜひ もな や︒ 喝 儿殿 に尋 逢︒ 姫君 を手 渡シ
し︒ 宝の 行ゆく
ゑも 倶とも
々〳〵
に詮せん
︵五 十七 ウ︶ 義せ んと 思ひ しに
︒何 事も 水の 泡あは
︒申 姫君 様︒ 私が 打果 な ば誰 かカ
はつ て御 介かい
抱ほう
︒御 先せん
途ど を見 届とゞけ ん︒ お地上
名残 惜おし
やと いふ 声も 次第 〳〵 に切 果て
︒も ろく も息フシ
はた へに けり
︒ 尋地ハ
入ル
仏ル
の御み 法のり
夜ル
の中 道︒ 踏ふみ
分わけ
歩あゆむ 五ム
月
さ つ
闇きやみ
︒諸ウ 国修 行の 僧そう
侶りよ
の旅
︒笈おいハ
仏ぶつル
背せウ 負おい
かね の音 も︒ い中 とし ん〳 〵と 物ウ 凄すごき 枚方
︒堤フシ
に差 かゝ れば
︒襟ゑり地
元 ウ
ぞつ と胸 さナ
はぎ
︒ハ テ心 得ず と気きウ 配くば
り目 配り
︒窺ウ ふ足 元 躓つまづ く死ハル
がい
︒ヱ詞 ヽむ ごた らし う切 おつ た︒ 扨は 旅人 の路 用を 宛あて
に追おい
剥はぎ
共の 所為
し は
なざ
らん
︒非ひ 業ごう
に死 れス
ば尽じん
未み 来らい
︒う らむ 期ご なし との 経きやう 説せつ
は不 便の 者の 有様 と︒ 我地ハ
をル
尋る 人 ぞ共
︒しウ らぬ が仏 の名めう
号ごう
を手た 向むけ
てこフシ
そは 行過 る︒ 向地ウ
ふへ つく 〳〵 以前 の非ひ 人︒ 隠かくハ
れ ル
ど道 に立色 ふさ かり
︒ヤ詞 コレ 修行 者︒
︵五 十八 オ︶ 報ほう
謝しや
がほ しい
︒〳 〵下 あれ と︒ い地ウ
がみ かゝ れど 喝儿 は︒ わハル
ざと 詞を 和中 らげ て︒ 人詞 に物もの
乞こふ
各おの〳
も〵
此身 も同 修シ
行の 身︒ 路用 迚は かつ ゝて なし
︒道地ウ
をひ らい て通 され よと
︒いハル
へば 鳶が そ色 ふは なら ぬ︒ 我詞 が 体からだ の其 内に 大事 の物 か有 筈じ や︒ 夫レ
を仲 間へ 報ほう
謝しや
にも らは ふ︒ アヽ イヤ 一いつ
笈きゆう 一いつ
鉢はつ
の外 迚は 何 貯たくは
なへ
き優う 婆ば 塞そく
に︒ 望ム
施せ 行きやう は︒ 命が ほし い︒ 何が 何と
︒ヲ ヽ侍 衆に 頼ま れ︒ とふ から 爰に はつ て居 た︒ 喝儿 とや らい ふ六 部︒ 爰へ うせ たは 百年 め︒ ぶち 殺し てほ うび にす る︒ 皆合 点か とい地ウ
ふよ り早 く右う 往はう
左さ 往はう
に取色 巻は
︒心ウ へ修しゆ
杖じやう では つし はし
︒手ウ 練の 手並なみ
なき 立れ ば︒ 踏ウ ちら した る砂すな
煙けふり ふす ぼり かへ るごハル
まの 灰︒ ばつ と一 度にフシ
逃ち つた り︒ 従地ハ
者ル
に隙ひま
づい へ 宿しゆく 有方 へ︵ 五十 八ウ
︶急いそ
がん と︒ 笈おいウ
をゆ り上 ゆう 〳〵
中
とあ ゆむ 膝ひざ
口ど つさ りと
︒響ひゞハ
く ル
鉄てつ
炮ほう
火つよ
薬うフシ
んと 計リ
翻刻
﹃会 稽多 賀誉
﹄
一四 四
に 倒たおれ 伏︒ 仕地色
済ウ
した りと 稲む らを ぬつ と出 たる 軍蔵 が︒ 傍ハル
り見 廻し ほく そ中 づき
︒慥詞 に手 ごた へよ い死 ざま
︒喝 儿さ へぶ ち殺 せば 若殿 の 禍わざは
はい
︒根 をた つて 葉を 枯から
す御 ほう ひは 宝たから の山
︒イ デ此地色
通ウ
注進 と飛とぶハ
が ル
ごと くに かけ り行
︒次ハル フシ
第に 更ふく
る︒ 月中キ
影ン
も︒ 傾かた
く運うん
の 姫ハル
君は
︒折ウ 田を 尋爰 か中 しこ 怪あや
しや 伏た る其 姿︒ こハル
フシ
は〳 〵な が中 ら立 寄て
︒すウ かし 窺ふ 月明 り︒ 尽つきハ
せ ル
ぬ夫 婦が 二世 の縁
︒能よく
々〳〵
見 れば
︒ヤ ア喝詞 儿様
︒我 夫と
︒呼地上
どこ たへ もあ らざ れば
︒詮 方か たへ に有中 合す
︒水 の溜 を救 い上 口ハル
に含 んて 抱だき
おこ し︒ 一滴てき
う るを す喝 儿が
︒息 吹か へす を抱いたき
しめ
︒コ レ申詞 喝儿 様︒ 気を 慥に 持︵ 五十 九オ
︶て 下さ んせ 紅梅 姫で ござ んす と︒ 呼地ハ
はル
る声 の 聞へ てや
︒苦キン
しき 息を ほつ とつ き︒ ヱヽ た詞 ばか られ しか 口惜 や︒ 非人 共と 思ひ の外
︒飛とび
道どう
具ぐ にて だま し打
︒扨 は敵 の廻 し者
︒ たと へ此 侭まゝ
死る 共︒ 魂たまし
此い
土ど にと ゞま つて
︒兄 の敵 我身 の仇
︒儕 はら さで おこ ふか と︒ 立地ハ
んル
とす れと 火くは
薬やく
の 痛いたみ 詮スヱ
方な くも 見へ中 にけ り︒ 姫上 は有 にル
も有 れラ
ぬ思 ひ︒ 折せつウ
角かく
尋逢 なが ら此 様に むご たら しう
︒何ウ 者か だま し討
︒おウ 前に 別れ 自は 何と 成ふ ぞ悲ハル
しや と取 付縋すが
り泣 給ふ 心フシ
の内 ぞい たは しき
︒ 作地ハ
十ル
郎も 尽せ ぬ涙
︒女ウ の身 にて はる 〴〵 とし たひ 給は る心 ざし
︒嬉 しい ぞや 忝中 い︒ 勿ハル
体な くも 御主 人の
︒おウ ゆる し受 たる 縁 なれ ば︒ 死で もか はら ぬ︵ 五十 九ウ
︶契ちぎ
りぞ と︒ いへ 共い た手 の苦 しみ に又 も 哀あはれ を︒ そフシ
へに けり
︒ 非地ウ
人が しら せに 平野 官兵 衛︒ 大ハル
たら 横た への色 さば り出
︒作詞 十郎 久し いな
︒平 野官 兵衛 見忘 はレ
せま いな
︒儕 一レ
人ト
と思 ひの 外ぬ れ手 で粟あは
の紅 梅姫
︒か うい ふ形なり
て徘はい
徊くはい する も︒ 儕レ
をば らせ と主 人の 御意
︒軍 蔵が 鉄炮 でく たば つた と︒ 思ひ の外 の 死損 い︒ トリ ヤ是 から おれ が一 料りやう 理り
︒不地ウ
便な がら と立 かゝ る︒ かウ よは き姫 も一いつ
生しやう 懸けん
命めい
︒用ようウ
意ゐ の懐 剣抜 放し
︒官 兵衛 目が け
翻刻
﹃会 稽多 賀誉
﹄
一四 五
突か ゝる を︒ 引ハル
はづ して しつ かと 取︒ ヱヽ ち詞 よこ ざい なげ んさ いめ
︒学 太郎 様へ 連て いて
︒土 産
み や
にげ
せん と思 ふた が︒ 喝儿 め がく たば つた ら︒ うぬ も生 てキ
は居 おる まい
︒迚 もの 事の 世話 次手
︒わ地ウ
れ︵ 六十 オ︶ から 先へ やつ てや ろと 刃ウ 物も ぎ取 只一 つき
︒むフシ
ざん とい ふも 愚おろか 也︒ 喝地ハ
儿ル
は身 をあ せり
︒かウ ゝる うき めは 天道 も︒ 神ウ 仏に も捨 られ しが
︒ヱ ヽ能よくウ
武ぶ 運うん
に尽 果ノル
しと 怒いかり の涙 血を そゝ ぎ落 て流 れて
︒ 枚方 の堤ハル
も中
︒染フシ
る計 也︒ ハヽ ヽヽ ヽヲ ヽ嘸詞 御無 念に ござ りや しよ
︒御 尤で ござ りや す〳 〵〳 〵︒ ハヽ ヽヽ ヽヤ イ喝 儿︒ もふ 諦あきら め︒ 譬たとへ 体からだ は自し 由ゆう
で も某 に手 向ひ なら ぬ︒ と云 はフ
コヽ ヽヽ 是じ や︒ 瀬左 衛門 が預 りお りし 此一いち
軸じく
︒手 向ひ なき は只 一裂さき
︒但 し手 向ひ して 見る か︒ サア 夫は
︒サ ヽヽ けち ぶと いや つの
︒此 ざま で︒ 念仏 成と 題たい
目もく
成と
︒う ぬが 勝かつ
手て にこ つき 出せ
︒夫 かレ
らお らが 御引いん
導どう
︒ 未み地色
来らいウ
の為 のお がみ 討︒ まウ つ此 様に と抜 刀︒ 既すてウ
に 危あやふ き折中
︵六 十ウ
︶か ら︒ 始終
し ゞ
立う
聞孫 市が 憎き 敵の 荷か 担たう
人ど めと
︒刃ハル
尖に 切色 付 れば
︒コ ハ叶 はじ と逃 行を
︒飛フシ
かゝ つて 大け さ切
︒ 其地ハ
侭ル
立寄 手て 拭ぬぐひ に︒ 疵ウ 口し つか と抱色 おこ し︒ コ詞 申︒ 作十 郎様
︒田た 代じろ
孫市 でご さり ます
︒作 十郎 様︒ お心 慥に 〳〵 と︒ い地ハ
ふル
に 喝儿 力色 を得
︒危あや詞 ふい
所へ かけ 付し 不思 議の 対面 悦ば しや とに地ウ
じり 寄て 死し 骸がい
の 懐ふとこ
︒ろ
取ハル
出す 一軸 押中 載き
︒ヱ ヽ有詞 がた し︒ 此一 軸 手に 入か らは
︒兄 が恨 をは らさ んは 瞬またゝ
内く
︒と地色 ハル
はい へむ ざん の紅 梅姫
︒我ウ 故レ
かゝ るは かな き最さい
期ご
︒いウ たは しさ よと 悔くやみ 泣︒ 孫ウ 市も 拳こぶし を 握にぎり り︒ ヱヽ 今ウ 一足 早く は︒ ナ斯ウ 御最 期も 有ま じと 先非 をく いし
︒無中フ
念シ
の涙
︒や地ハ
ゝル
有て 両色 手を つき
︒今詞 日お まへ
︵六 十一 オ︶ 様マ
の様 子フ
を承 りハ
︒方 々と 尋し に︒ 逢奉 るも 三世 の縁
︒御 主人 瀬左 衛門 様︒ 先キ
達て 人手 にか ゝり 御最 期と
︒
翻刻
﹃会 稽多 賀誉
﹄
一四 六