家族システムの歪みによって 引き起 こされる問題性 について
1.は じめに
著 しい経 済成長 によ り,工業化や都市化が進 行す る中で,家族の形態が大 きく変容 し, この よ うな動 きにつれ て,離婚率の増加や子供 たち の情緒や適応上の問題の多発な どが顕著 とな り, 家族 関係 に焦点 を当てた家族臨床 心理学が注 目 集 めるよ うにな った (平木 ・中釜, 2006)0
家族 システム論 な どに代表 され る家族臨床 心 理学は,個人が過去 に受 けた心的外傷 に着 目す るだけでな く,家族成員 間の相互作用や コミュ ニケー シ ョンの過程 を重ん じて臨床 的な問題 を 捉 えよ うとす るものであ る (亀 ロ,1992)。 こ の よ うな心理学 の円環的認識論 では,夫婦 間の 関係性の問題 に よ り子供 の非行 が発生す る とい う一方 向的な因果関係 を把握す るだけでな く, 子供 の非行対応す ることに忙殺 され ることで, その夫婦の疎遠 な関係 が表面化せず に維持 され ているとい う異 なる視点か らの因果 関係 に も 目 を向けることになる。言 い換 えると, これ は, 家族 を一つの有機的なシステム とみな し,各 々 の成員が相互に影響 を及 ぼす複雑 な因果 関係や 力学関係 に視点 を据 えて,様 々な問題発生のメ カニズムや治療法な どを探 ろ うとす るものであ る (亀 口,1992)
さて,家族 システムに歪みが見 られ る不健全 な家族 には,適切 でない世代境界,特定の家族 成員 に偏 った役割や責任 ,問題性 の否認 な どの 不合理 な家族 間のルール な どが示 され てお り, それが原因 とな り,正常な コ ミュニケー シ ョン
原 英樹
や対人関係作 りな どが妨 げ られ て,多 くの心理 臨床 的問題 が発生す ることが明 らかになってい る (Friel良Friel,1998)
0
そ こで,本論文では,上記 の家族 システムに おける構造的な歪み とそれ によって引き起 こさ れ る様 々な障害や心理臨床 的問題 を概観 し,そ の家族 の在 り方や その中で展開 され る関係性 を 把握す ることの意味 を再検討 していきたい。
2.家族 内の不健全な役割
Friel良 Friel (1998)に よれ ば,不健 全 な 家族 では,各成員が担 う役割 に柔軟性 がな く, 特定の人物 に偏 った役割や責任 が課せ られ てお り,以下のよ うな適切 さを欠 いた様 々な役割が 存在 していることが述べ られ ている。
(1) ドゥア‑ (TheDo‑er)
この役割 を果たす人物は,家族の主な仕事や 機能 を一手 に引 き受 ける傾 向が強 く,時に疲労 や空虚感 を持つ ことがあって も,他者 の役 に立 つ とい う満足感や責任感 か ら労苦 を厭 わず,食 事や炊事か ら,家族成員 の細々 と した世話 まで
し続 けることになる。
(2)イネイブラー (TheEnabler)
あ らゆる 自らの犠牲や努 力 を以 って,家族全 員 をま とめあげ るとす る役割 である。家族 内の 争 いを諌 めた り,発生 している問題 が表面化 し ないよ うに常に配慮 しなが ら行動 してい くこと
神奈川大学心理 ・教育研 究冷塊 第30号 (20日年3月31日)
になる。
(3)ロス トチャイル ド(TheLostChjld) 一人 で遊ぶ,部屋 に閉 じこもるな どの孤独 な 行動 を特徴 と し,家族 か ら自らの存在 を消すか らの よ うに逃避す る形で機能不全状態の家族 に 対応 しよ うとす る。
(4)英雄 (TheHero)
不断の努力 によ り社会や学校 な どで成功,宿 躍 を示 し,不幸な状態にあ る家族 に名 誉や誇 り を与える重い責任 を引き受 ける存在 である。
(5)マスコッ ト(TheMascot)
自分 自身の辛 さや孤独 な どの感情表現 を抑 え て,常にお どけた言動 で家族 を陽気 に させ よ う とす る道化師的役割 である。
(6) いけにえの羊 (TheScapegoat) 非行や犯罪 ,アル コール依存な ど社会的に問 題 のある行動 を起 こ して,家族の厄介者 を体現 す ることにな る。他 の家族成員か ら 「あいつが いなければ, この家は平和 なのに ・・・」な ど と非難 の的にな り,家族 内の問題や矛盾 を引 き 受 けることになる。
(7)プリンセス (Dad's littlePrincess) 父親や母親 のパー トナー的な役割 を演 じる役 割である。子供 らしい感情や意志の表現 を抑圧 し,親 に合わせた行動 をと り続 けることで,成 長 してか らも他者 か ら虐待 の被害 を受 ける傾 向 が強い。悪化 した事例 では,子供 たちが精神的 な近親相姦的な役割 を強い られ,深刻 なス トレ ス障害 を被 ることもある。
(8)聖者 (TheSaint)
家族 内の暗黙の期待 に こたえて,聖職者 よ う な,常に正 しく酒新 で精神的に価値 の高い崇高 な行動 を体現す る役割 である。
Kritisberg (1985)の論 じる ところに よる と,不健全 な家族 では,各 々の成員が前記 の よ うな役割の,一つの役割,あ るいには,複数の 役割 を担 っていて,家族 内の力動性 の変化 が生 じると,異 なる役割 へ と役割 を変 えてい くこと も少 な くない とされ ている。 また, これ らの役 割 の機能的意味 を考察す る と,ある種 の問題 を 抱 える家族が,真 の問題性 を覆 い隠 しなが ら, 現状の家族 間の力動的安定性 を維持す ることに 資す ることが明 らかになっている (Kritisberg, 1985)。
3.不適切な家族内のルール
Kritisberg (1985)や緒方 (1996)に よ り, アル コール依存症 を始 め と した家族 システムに 歪みがある機能不全家族 には,混乱 した家族 内 に一定の秩序付 けを為すべ く,以下の よ うな適 切性 を欠いたルールが用い られていることが論
じられ ている。
(1)硬直のルール
アル コール依存者 な どの問題行動 を示す者 を 抱 える家庭 では,その者 が家族 内で暴れ た り, 暴言 を吐いた りす るよ うな不測の事態 に対応 し て家庭 を維持 しよ うと,常に身構 えて硬直性 の 高い言動で発生す る事態 に対応 しよ うとす る傾 向が強い。 この よ うな対応姿勢 は柔軟性 を欠 く ものであるため,事態の本質的な転換や変化 に は対応 で きない ことが多い。
(2)沈黙のルール
アル コール依存者 の家族 は,家の中で起 きて いる受 け入れがたい事態 を部外者 に対 しては も ちろん,家族 内で もそれ を話題 に してはな らな い とい うルール に縛 られ てお り,家族が問題 に 対 して積極的に取 り組む きっかけが得 られ ない
とされ ている。
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(3)否認のルール
家庭 内に依存症 な どの問題 を示す者がいる機 能不全家族 では,家族成員 が家族 内に問題 が存 在す ることや事態が悪化 してい く現実 を一切認 めない とす る原則に基づいて行動 し, 自分 たち の家族 には問題 がない と装 うことで,根本的な 変化 の必要性 を否定 しよ うとす るのである。
(4)孤立のルール
飲酒 な どの家族 内の問題 が,家族 以外の周囲 の者 に知 られ ないよ うに,問題 を抱 える家族 の 者 が他者 との親密 な交流 を拒 も うとす る行動傾 向で,他者 との交流が妨げ られ ることで,適切 な関係性 を築いてい く上で大きな障害が生 じる。
上記のル ール は,依存症 な どの問題 を抱 える 家族 が,混乱 した事態 を緩和 して家族 内に安定 性 をもた らそ うとす るものであるが,その試み も家族 システムの歪み を根本的に修正す ること には至 らないた め,事態 を建設 的な方向‑ と導 くことにはつなが らない ことが論 じられ ている (Krltisberg,1985)
.
4. 不 適 切 な世 代 境 界
Friel&Friel(1998)揺,不健 全な家族 で 紘,両親 と子供 たちとの世代間の境界 に以下の よ うな問題性が見 られ ることを指摘 している。
(1)強過 ぎる世代境界
両親 と子供 との世代間の境界が,強過 ぎる家 庭 では,親 と子供の間の精神的,物理的な交流 が妨げ られ る傾 向が強い ことが明 らかに され て いる。 両親 と子供 との問に遊びや話 し合 いな ど の深い関わ りがな く,親の厳然 とした姿勢のみ が示 され る場合 , 子供 は両親の暖かい養育性 を 感 じ取れず,孤独感 に さいなまれ ることが論 じ
られ ている。
家族 システムの歪みによって引き起 こされ る問越性 について
(2)弱過 ぎる世代境界
両親 と子供 との世代境界が弱す ぎて,子供 が, 大人の役割や責任 を果たす ことを求め られ ると, 子供 らしい感情や欲求 を持つ ことが妨げ られ て, 大 きな心身的ス トレスを受 け ることが示 され て いる。時には,肉体的な近親相姦,精神的な近親 相姦な どに至る深刻 なケース も報告 されている。
Friel&Friel(1998)に よる と,不健全 な 家族 では,強過 ぎる世代境界 ,あるいは,弱す ぎる世代境界が見 られ るか,または,両者 の間 を行 き来す るな ど,柔軟 に状況に応 じて適度 な 距離感 を保 った形 で対人関係 を持つ ことがな さ れ ていない と指摘 され ている。つ ま り, この よ うな家庭 は,家族成員 が適度 な関わ りを維持 し なが ら,家族全体 と して一 体感 を保 つ ことが出 来ず,その家庭 で生活す る子供 たちが適応 的な 集団生活 を営むための養 育的環境 に欠 けている ことを意味 しているのである。
5. 家 族 内 に 見 られ る三 角 関 係 の 問 題 性 遊佐 (1984)は,家族 臨床 心理学の理論家 で あるボーエン(Bowen)や ミニューチン(MLnUChin) な どによる家族 システム論 を基 に,以下の よ う に,不健全な家族 内に起 こる三角関係的 な問題 を明 らかに している。
ボーエンによれば,二者間の融合性 に関 して, 近親性 ‑の欲求 と適度 な対人的距離感 の維持 と い う背反す る感情 を適切 に コン トロール しなが ら,安定 した関係 を維持 してい くことが難 しい 状態にある場合,第三者 を巻 き込んだ,三角関 係 (triangle)と呼 ばれ る新 た な対 人 関係 的 システムを構成 しよ うす る傾 向が強 くな る とさ れ ている。
とりわけ,緊張 した二者 関係 に対 して,不満 をよ り強 く感 じる者 が,新 た に引き入れ た第三 者 との間に融合 関係 を結ぶ傾 向が強 く,取 り残 され た一人が遊離的な状態に移行す る とされ て いる。 この よ うな三角化 のシステムによ り,‑
神 奈川 大乍 心理 ・教育研 究論姓 第30号 (20日年 3)」31日)
時的 には二者 関係 で発 生 した緊張 関係 が緩 和 さ れ るものの,遊離 的 な状態 にな る者 が疎外感 を 感 じるな ど,別 の対人関係 的問題 が生 じて,安 定 した関係性 が本 質的 に構 築 され るには程遠 い 状態 である と論 じられ てい る。
また, ミニ ューチ ンの家族間の提携 と機能 に 関す る見解 に よる と,家族 内の三者 の関係性 で は,強 い提携 関係 を結ぶ二者 と遊離状態 にある 者 が組 み合 わせ され て,い くつかのパ ター ンが 形成 され てい る こ とが明 らかに され ている。
(1)片親 と子供 の強 固な融 合性
片親 が,た とえば父親 な どが不在 であるな ど, 何 らかの理 由で家庭内の役割や存在感 な どを示 せ ない状況 あ る場合,そのパー トナー であ る母 親 は,夫か ら得 られ ない親 近感や 協力 な どを子 供 に求 め るよ うにな り,不満 を感 じた一方 の親 と子供 との問に強 い融合 関係 が築 かれ る。 しか し,残 され た も う一方 の親 が孤立 した状態 にな り,本質的 に安 定 した関係 を形成す ることには 至 らない とされ てい る。
(2)迂回連合
両親 間に解 決 され ない強 い葛藤 関係 が存在す る場合 に,両者 が子供 の非行な どの問題性 を共 に批判 す ることで,あたか も連合 関係 を持 つか の よ うな姿勢 を示す こ とを意味 してい る。 この 関係 を,両親 の側 か ら見 る と,子 供を非難す る とい う間接 的な方 法で連合性 を示 してい ると解 釈 され ,他方 ,子供の側 か ら見 る と,子供 が非 行 を行 うこ とで,両親 の不和 を顕在化 させ ない よ うな機能 を果 た している と理解 され るのであ る。
6.亀口による歪んだ家族システムの類型
亀 口 (1992)は,上記 の よ うな歪 んだ家族 シ ステ ムにつ いて,我が国の社会や家庭 の実情 を 踏 まえて研 究 を進 め,以下の よ うな よ り詳細 な 類型 を明 らかに してい る。
(1)父親孤立型 システム
日本 の平均的 な家庭 では,父親 は職場 で機 能 す るこ とが最優 先 され ,家庭 内の役割や存在感 が軽視 され る傾 向が強 く,父親本 人が 自覚す る しないに関わ らず ,心理 的,情緒 的 に孤 立 した 状態 にな り,結果的 に,母子 が密着 した関係性 を築 くとい う問題 が発生す る こ とが多 い。
(2)迂回攻撃 型 システム
葛藤や トラブル を抱 えた夫婦が問題 に直面せ ず ,非行 な どの問題行動 を示 す子供 を攻撃す る パ ター ンである。 子供 を共 に攻撃す るこ とであ る種 の疑似 的連帯感 を持 つ こ とにつ なが り,一 時的 には,彼 らの間の疎遠 な関係 を希 い隠す こ とにな るが,根本 的 な改善にはな らず,問題 が 繰 り返 され る。
(3)迂回保護型 システム
前述 の よ うに夫婦 間の葛藤 が見 られ る場合 で も,子供 が病気や 障害 を持 ってい るよ うな事例 では,子供 を保護養 育す るた めに,彼 ら自身 の 関係性 の問題 を棚 上 げに して, 協調 しあ うこと が多い。 この よ うなケースで は, 当座 の連帯感 が もた らせ られ るが,本質 的 問題 が隠蔽 され て いるこ とに変わ りはな く, 当事者 がその問題 に 気 が付 く機 会が 中々得 られず に,真 の関係性 の 改善が進 まない ことが多 い と指摘 され てい る。
(4)分裂型 システム
夫婦間が疎遠 で, 子供 が複 数 いる家庭 にお い て,それ ぞれ の親 が,別 々の子 供を味方 につ け て対立関係 を生 じるパ ター ンであ る。 両親 た ち が問題 を顕在化 させ ない場合 には,家族 の分裂 が回避 され るが,それ が表面化 す るよ うな事態 に至 る と,離婚 や別居 な どを引 き起 こす ことも 多 いO
(5)世代断絶型 システム
両親 の世代 と子供 た ちの世代 との間に,人生 や行動 に関す る価 値観や規範 意識 な どの著 しい
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隔た りが見 られ ,それが固定化す る と,親子間 の親密 な交流が妨 げる要因 となることが知 られ ている。
(6)離散型 システム
上記の世代間の断絶 に加 えて,夫婦間,子供 たちの同世代のサブシステムに も亀裂が見 られ るケースで,一人一人が単なる同居人のよ うな 形で暮 らし,家族 内の一体感,所属感が薄れ て, ま とま りのない状態 になる。都市化 した近代的 な生活スタイル の中で,過度 な個人の権利や多 様性 が強調 され過 ぎた家庭 で多発 しやすいシス テムの歪み であ ると論 じられ ている。
(7)密着型 システム
離散型 と対極 にある家族 システムで,家族 の 成員全員 が心理的に過度 に密着 し過 ぎるため, 成員の一人に問題 が起 こると家族全体 に動揺や 葛藤 が伝播す る傾 向が強い。世代間の境界,同 世代サブシステ ム間の境界共に唆味で,個人 と しての分化度が未熟 であるため,その中で暮 ら す成員は, 自他 の区別 が出来ず に適切 な対人関 係 を形成す ることが困難 になると指摘 され てい
る。
(8)均衡型 システム
この家族 システムは歪みがな く,理想的な状 態 を表 しているO各々の家族成員 間に適度 な距 離感 があ り,世代間の境界や同世代サブシステ ム間の境界の双方が維持 されている。相対的に, 家族 内の力動性 がバ ランスよく配置 され ている 健全 な家族形態 であると言 えるのである。
前述の よ うに,問題のない均衡型 を除いた, 家族 システムの歪みが示 された様 々な類型では, 何 らかの形で家族間の適切な交流や コミュニケー
シ ョンが妨 げ られ るな ど,様 々な心理臨床的問 題 の発生につながる要因が形成 され ていること が明 らかに され ている (亀 口, 1992)0
'#族 システ ムの歪み によって引 き挺 こされ る間越作 について
7.家族 システムの歪み と共依存関係 依存症 は,社会生活や対 人関係 な どに繰 り返 し重大な障害 をもた らす悪癖 であ り (信 田,20 00),物質 に対す る依存 と してのアル コール依 存症や薬物依存症 ,プ ロセ ス (行為過程) に対 す る依存症 と してのギャンブル依存症,買い物 依存症,窃盗癖 ,また,人 間関係 の依存症 とし ての共依存症,恋愛依存な どがある とされ てい る (斎藤,2009)。
代表的な依存症 であるアル コール依存症 とそ の家族 に関す る知見 を鑑み ると,依存症 は,世 代 を超 えて伝播す ることが捉 え られ ていて,そ のよ うな依存症者 を生み出す家族 システムには, 特徴的な問題 が見 られ るとされ ている (斎藤, 2009)0
さて,対人関係 の依存症 である共依存 は,ア ル コール依存患者 の夫 とそれ を支 える嚢 との依 存的な対人関係 を表す概念 として生 まれ, 当初 はアル コール依存症 な どの噂好者が生み出 され る家族 関係 な どを対象 と した ものであったが, 近年 では,アル コール依存 ,噂好な どの枠 を超 えて,前述の よ うに機能不全状態にある様 々な 家族 間に見 られ る依存 関係 な どにも適用範 囲が 広げ られつつある(緒方, 1996;信 田,2000)0 この よ うな近年 の状況 を踏 まえて共依存の定 義 を見てい くと,その問題 は, 自己中心的で思 慮 に欠 ける行動や,社会や対人関係 に支障 をき たす よ うな問題行動 で他者 を振 り回す者 と,そ の よ うな社会生活 に破綻 をきたす よ うな問題行 動 を続 ける者 に対 して,一 方的な世話や援助 を 行 うことに没頭 し続 けるこ とで相手 を無意識的 に支配 しよ うとす る者 との二者 間の依存関係 で あ り,互いに嫌悪感 ,憎悪や憎 しみ な どを抱 き つつ も相互 に離れ られ ない深刻 な関係性 の病理 を表す ものである とされている (斎藤, 1997)0
さて,斎藤 (1997)は,アル コール依存者 の 夫 とその妻 の間に存在す る共依存的関係 を典型 例 と して取 り上げ,その依存者 である夫は誰の 目に も明 らかな形 で社会生活に支障のある行動
神奈川 大学 心理 ・教 育研 究論塊 第 30号 (2011年3JIJ3L日)
を示す ことになるために,その本人の問題 は, るのである。
色 々な面で幅広 い注 目を集 めるが,一方,生活 破 たんを引き起 こす夫 を支 え続 けている妻 に関 しては,その問題性が顕在化 しないため,近親 者 は もちろん,親 しい周囲の者 に も周知 され難 くく,反対に, 甲斐 甲斐 しく夫 を支 える愛情深 い人物 として称賛 され ることも少な くない こと を論 じている。注 目すべきは,一見す ると,悲 悲深 く捉 え られ る妻の行動 も,別 の視点か ら見 る と, 自分がいない と生活が困難 となる夫 を支 えることで, 自らの存在意義 を確認 し,他者 を コン トロールす る欲求 を満たそ うとす ることで あるこ とも多 く,結果的には,支 えす ぎる妻の 過度の保護的な行動が,夫の問題行動 を維持す ることに貢献す るいわゆる "ィネ ー ブラー ′′ と呼ばれ る問題行動 を体現す ることに他 な らな い と解せ ることなのである (斎藤,1997)0
上記 のよ うに,共依存状態が展開 されてい る 家族 システムの中で育つ子供たちは,両親 間に 示 され る対人関係 のや りと りを見聞 きす ること で,上記のよ うな問題性の高い対人関係や コミュ ニケー シ ョンの持 ち方な どを身につけることが 知 られ てお り,その結果,夜尿症 ,不登校 ,秦 庭 内暴力,非行,食行動異常な どの症状 を呈す ことが知 られ ている (斎藤, 1986)。 中で も, アル コール依存症 な どの機能不全家庭 で生育 し た女子は, 自分の父親 と同様のアル コール依存 症者 な どを人生のパー トナーに選択 し,一方的 な世話 を し続 けるよ うな夫婦関係 を形成す る割 合が高いことが示 され てお り,依存症 な どの問 題 を抱 えた歪 んだ家族 システムは世代 を超 えて 伝播 してい く傾 向が強い ことが指摘 され ている
(緒方,1986,斎藤,1984)。
前述の知見や論議 をま とめると,共依存関係 で生育す る子 どもたちは,親の世代か ら歪んだ 対人関係や コ ミュニケー シ ョンを学び取 り, 自 らの世代でその共依存 関係 を再生産す る傾 向が 強 く,共依存 は世代間 を超 えて継 承 され る簡単 には根絶 できない,歪んだ家族 システムによ り 媒介 され た根深 い対人関係 の病理であると言 え
8.円環的因果律による問題考察の重要性 亀 口 (1992)によって述べ られているよ うに, 家族臨床心理学の円環的因果律 による問題行動 の考察は,両親 の不和 に起因 した子供 の養育時 における協力性 の欠如 によ り,非行が発生 した とい うよ うな親 か ら子供 への一方 向的な影響 を 考察す るだけでな く,他方,子供 の非行によ り, 両親 がその対応 に追われ る結 果,親 たちの疎遠 な関係 とい う問題性 が緩和 され,覆 い隠 され る とい う子供 の行動が両親 に与 える異なった方 向 性か らの影響 をも検討す るのである。 つま り, 円環的因果律 による問題考察 では,家族 を有機 的につながっている一つのシステム とみ な し, 家族成員間の相互力学や関わ り方の複雑 に連鎖 した作用過程 を詳細 に分析 して,心理臨床的問 題性 の発生や対応 を考 えてい くのである。
とりわけ,問題行動を為す者のパーソナ リティー や,その人物が過去に被 った心的外傷 な どの個 人的観 点に焦点付 けを行 って も,その発生の原 因や メカニズムが明確化 できないよ うな事態 に 対 しては,その問題行動の本質的理解 を促進す るため,当該人物の家族 システムについて,円 環的因果律的観点か ら,その問題性の考察 を行 うことが重要 となることも多 い と考 え られ る。
斎藤(1996)によれば,非行や不登校 な ど一見 す る と個人的な原因によるもの と思われ る心理 臨床的な問題 も詳細 に考察 してみ ると,その問 題 が家族 システムの歪みに起因 していて,偏 っ た形 で背負 わ され ている責任や役割 の重 さに耐 えきれ な くなった特定の個人が,アイデ ンテ ィ フ ァイ ド ・ペ イ シャン ト (IP)と して ,何 ら かの形 で問題行動 を起 こ し,その家族全体の構 造的問題 に響鐘 を鳴 らしてい るものであると解 釈 され る事例が見 られ ると指摘 され ている。
そ こで,い くつかの問題行 動の事例 を円環的 因果律的立場か ら考察す ると,以下の よ うに家 族 システム上の問題 点が焚 り出 され ,また,そ
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の よ うな問題行動が システムの歪みに起因 した ものである と判 明す ることも珍 しくないことが 分か るのである。
ある児童期の女子学生 を例 に とると,その子 は常に明 る く,快活で,新 聞配達か ら一家の家 事炊事 をも一手 に担 い,親代わ りに弟たちの世 話 まで しっか りこな し,学校 では, クラスでは 学級委員 を務 め,運動部の活動に も懸命 に参加 す る典型 的 な ′′よい子′′であ ったが,学校 の 休暇 中に突然家 出を して周囲を惣 かせ た。 それ に対 して,親や教師な ど周 囲の誰 もが 「なぜ, あんなに真面 目で しっか りした子が家出を した のか理 由が さっぱ り分 か らない。」 とい う趣 旨 の ことを異 口同音 に述べるよ うな状態にあった。
個人的な視 点か らは この事例の家出の原因は理 解 し難 いものであったが,彼女 の家族 システム に視点 を据 えて問題 を考察 してみ る と,その子 は,親 の期待 に応 え,遊びたい盛 りに もかかわ らず子供 らしい欲求や思いを抑 えて,児童期 の 年齢 に不相応 な役割や責任 を果た し続 けてきて お り,その過重 な負担か ら逃げ出す唯‑の方法 と して家出を選択 しなければな らなかった こと が明 らかになるのである。
また,ある共働 きの家庭 で鍵 っ子 として暮 ら す男子児童のケースについて考 えると,その 下 は,著 しい非行 な どの行動傾 向は一 切伺 えず, 経済的 に も何不 自由ない状態にあ りなが ら,時 折万引 きを繰 り返 し,その原因が理解出来ない 親や教師な どを困惑 させていた。顕著な非行傾 向や経 済的な困窮状態 もない子供 が犯 したその 万引きも,鍵 っ子 と していつ も孤独 に放置 され ていたその子が,万引きす ることで,心配す る 親 な どの家族全員 を呼び寄せ よ うとす る試みで あると解釈す る と,その問題行動の原因が歪ん だ家族 システムによるものであ り,問題 を起 こ す子供 は,IPと して家族 全 体の問題 に警鐘 を 鳴 らす役割 を果 た していた と推 察す ることが可 能 にな るのであ る。
上記 で論 じた事例 な どを再検討す ると,既 に 述べた よ うに,個人的な視点に基づ きパー ソナ
家族 システムの歪み によって引き起 こされ る問題性 について
リテ ィーや心理的外傷 な ど対す る考察 を進 めて も,問題 の発生原 因や介入的 アプ ローチ を充分 に見出す ことが難 しい よ うな場合,その本質的 理解 を促進す るために,家族 を一つの システム とみな して,その成員 間の複雑 な交流や力学的 作用 を重ん じて,心理臨床的問題 を捉 えてい く ことが望 ま しい と言 えるではないだろ うかO
9.
おわ りに
人間は,固有 の気質や一人一人の独 自の体験 を礎 に成長 してい くものであ り,個人 を起点 と してその心理的な問題 を捉 えることが重要なの は言 うまで もない。 同時に,個人は,家族 とい う相互に影響 を与 えあ う対人 関係 のネ ッ トワー クか ら切 り離せ ない存在 と して生育す る存在 で あるため,様 々な問題 の発生原 因や メカニズム を的確 に把握す るためには,共 に生活 してきた 家族 内の役割,ルール,世代境界,家族 の構造 形態な どを丁寧 に理解す るこ とが必要 となる。
従 って,適切 な教育や心理的治療 を行 うために は,個人的な視点に加 えて,家族 システム とい う観点 を しっか りと踏 まえて,心理臨床的問題 性 を検討 し,その原 因や対応 を検討 していく こ
とが不可欠であると言 えよ う。
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