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日本スポーツマネジメント学会第2回セミナー講演録:スポーツスポンサーシップを科学する

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Academic year: 2021

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1.日 時 2008 年 3 月 20 日(木・祝)13:00 ∼ 16:50 2.会 場 日本青年館ホテル 3F 国際ホール  東京都新宿区霞ヶ丘町 7 − 1 3.セミナープログラム 13:00 ∼ 13:10 【開会の挨拶】  原田宗彦氏(JASM 会長・早稲田大学教授) 13:10 ∼ 14:40 【基調講演】 「スポーツスポンサーシップを科学する:地域スポーツからスーパーボウルまで」  デイビッド・スタットラー氏(北コロラド大学教授) 14:40 ∼ 15:30【講演②】 「NFL のスポンサーシップ戦略∼ブランド価値を最大化する∼」  町田光氏(NFL JAPAN 株式会社代表) 15:50 ∼ 16:30 【講演③】 「アミノバイタル事業とスポーツマーケティング(スポンサーシップ)について」  吉峯英虎氏(味の素株式会社アミノ酸コンシューマープロダクト部長) 16:30 ∼ 16:50 【閉会の挨拶】 まとめに代えて  武藤泰明氏(JASM 理事・早稲田大学教授)

講 演 録

日本スポーツマネジメント学会 

第2回セミナー

スポーツスポンサーシップを科学する

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はじめに

今日は LG エレクトロニクスのスポンサーシップについてお話しします。スーパーボウルのよう な大きなイベントにチャレンジすることもありますが、実は草の根レベルの小さなイベントに関す る調査もしてほしいという要望もあります。 まずはスポンサーシップの定義をご確認ください。理論的には交換理論ということで成り立って います。これは、スポンサー側とスポーツ組織側が同等に何らかのベネフィットを得るということ です。 スポンサーシップの意思決定は、測定不能な目的で行なわれたり、会社のトップの意思だけで決 められるようなことはもう無くなりました。現在のビジネスにおいて、スポンサーシップは他のビ ジネス上の意思決定と同様に、利益と損失の両方の検討を通して意思決定されるものとなっていま す。スポーツ界のリーダーであるピアーノ氏の定義ですが、スポンサーシップは、そのパフォーマ ンスが、正確な人口統計学的要因や心理的要因も含めて、企業が狙っているターゲットにマッチし たところに届けることができる能力や、プロダクトやサービスの売り上げを良くしていくというこ と、それらを助けることをどの程度できるのか、ということがきちんと測られるものでないといけ ません。 現在の研究では、スポンサーシップを通した企業のマーケティングにおいて、それぞれどのよう にベネフィットを得るのかという基準やモデルが提示されています。このリサーチは、基準につい ては検討されているが、方法については検討されていません。いくつかの企業はその基準を開発し それに沿ってスポンサー選びをしているが、非常に主観的で簡単に決定している企業も多くありま す。現在のビジネス界では、主観的な決定は減少しており、よりデータに基づいた意思決定が行な われるようになってきています。ビジネスの世界では、スポンサーシップのベネフィットやスポン サーシップにかかわる要因というのは、現場では分かってきているが、リサーチは欠落しています。 つまり、それを実際にどのように測定するのか、実施するのかというリサーチが現在のところあり ません。 本日のプレゼンテーションでは、意思決定モデルやスポンサーシップの選択、その利用方法にお いて、韓国の LG エレクトロニクスが直面している問題を検討し、これらの問題の解決に向けた研 究を紹介したいと思います。この会場には現場や企業の方、あるいは研究者の両方の立場の人がい ると思いますが、両者がうまくアイディアを出し合って仕事を行うことが出来ればベストであると 考えます。

LG Electronics の事例

LG の組織図を見ると、世界的に大きな会社で、消費者対象の家庭用の電化製品や携帯電話など を販売しています。世界の各エリアごとに大きく成長しており、非常に複合化が進んでいる大きな

スポーツスポンサーシップを科学する

:地域スポーツからスーパーボウルまで

基調講演

デイビッド・スタットラー氏

(北コロラド大学教授)

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会社であります。 この研究における大きなチャレンジは、どのエリアやセクションごとにでも対応できるようなシ ステムや方法を作るということです。LG では、他の多国籍企業と同様に、様々なスポーツ活動を 支援しています。毎週 100 以上のプロポーザルが送られてきます。LG にはそれぞれの地域によっ て異なった基準があり、それぞれのプロポーザルに関して検討しています。LG の問題は、世界各 国で通用するような、スポンサープロポーザルを検討・評価する基準や標準となる方法を作ること です。同時に、その基準がそれぞれの地域の文化などの違いにも柔軟に対応できるものを作ること が課題となっています。ヨーロッパではサッカーのスポンサーに、アメリカではゴルフの他にもア クションスポーツという新しいスポーツのスポンサーにもなっており、またインドや南アフリカで はクリケットのメインスポンサーとして、LG があります。 ここで、構成概念の妥当性、内容の妥当性を検討する方法についてご説明します。まず、スポン サーシップを選ぶ基準となる主要な要因を先行研究から選び出します。ここで挙げられたいくつか の要因が、最終的にはスポンサーを選ぶ際の意思決定の重要なカテゴリーとして挙げられています。 先行研究から挙げられたスポンサーシップの意思決定に用いられるいくつかの要因が意思決定の基 準の測定に適切であるのか、妥当であるのかを検討するために、専門家数名で協議を行いました。 この専門家の中には、LG のマーケティング意思決定者2名、スポーツマーケティングを専門とす る大学教員3名が入りました。 この専門家らは、「Best-Worst Scaling」という測定方法を用いて、ランダムに並べられた基準と なる各項目・変数に対して「Best」もしくは「Worst」とそれぞれをランク付けし、項目を評価し ていきました。この研究は Louviere ら(2000)が行なった研究です。その専門家らによるランク 付けにおいてどの程度同意されているかということを測定し、その同意の割合が基準である 70% を切った場合は、言葉の変更や微調整を行い、最終的に基準に関する項目のランクを決定し、評価 基準を完成させました。 この研究の最終的な目的は、スポンサーシップの提案に対する選択および評価において、企業が 活用できる明確で簡潔な基準を確立することです。これから説明する 23 のカテゴリーは、この研 究方法を用いて抽出した基準となる項目です。ここで作成された評価基準は事後評価でも同じもの が使われます。 このスケールを使う人々に対しては、「スポンサーシップの提案に対して、あなた(担当者)の 分析をもとに評価して下さい。それぞれの基準には概念があるので、それをしっかり読み、理解して、 あなた自身の判断でスコアを入れて下さい。スコアを記入したら、次にパソコンへそのスコアを入 力してください。そうすれば、トータルスコアが自動的に出てきます。」という指示が与えられます。 Category1 は「提案されたイベントについて」です。ここで簡単な事例をあげれば、たとえば私 がもし LG ジャパンの立場で、NFL JAPAN からスポンサーシップの提案を受けたとします。まず、 提案書を見て、NFL JAPAN がそのスポーツのカテゴリーの中でトップ5にあるかを確認します。 私は、1番は野球、2番はサッカー、その次が NFL ではないかと思います。私がそのように判断 した場合は、「9or10」のスコアを記入します。例えばの話ですが、大阪トライアスロンなどとい ったイベント(団体)から提案が来た場合は、おそらく低いスコアを付けることになるだろうと思 います。これは、潜在的な可能性を持ったイベントではない、と判断するからです。この主観的な 言葉に合わせて、客観的な評価(数字)を書き入れていくという方法をとります。 Category2 は「イベントマネジメントについて」です。「9or10」という一番高いスコアに入るの は、マネジャーの信用や経験がとても素晴らしいということです。このイベントマネジャーが、こ

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のフィールドでは知られている人で尊敬されている、そして、LG の担当者と協力的に仕事ができる、 という人に対する評価であります。「あなたが日本で本当に有名で評判の良い方であれば、私は一 緒に仕事をしますよ」ということです。先ほどの大阪トライアスロンの例に戻りますが、そのイベ ントマネジャーについて評判が良かった場合は、「検討の余地がある」と評価します。このように、 非常に多様な言葉を使って評価をするようにしています。 その他のカテゴリーについては、時間の都合上、トップ評価(9or10)のカテゴリだけ示して いきます。 Category3「イベントマネジメント経験」の最高の評価とは、イベントマネジメントチームが実 績を持っており、LG の最高責任者にとっても信頼のおける、そして、財政的にも素晴らしく、イ ベント規模に適した運営が行われているということです。イベントというのは適切な組織によって 運営されています。 Category4「イベントロケーション」(場所)は、非常に大きなマーケット、あるいは LG にとっ て非常に重要なマーケットで行われているか、ということです。低いスコアが付いてしまう評価対 象としては、小さなマーケットであったり、LG にとってそれほど重要ではないマーケットである ということです。 Category5 は「施設」です。イベントが開催される施設は非常に高い水準のものであり、過去の 実績や観客を惹きつけた実績がある場合は高い評価をするということです。もし私がスポンサーと いう立場であれば、質の悪いスタジアムや施設で開催されるイベントのスポンサーにはあまりなり たくありません。 Category6「イベントの種類」においては、イベント自体がその領域でトップ5に入っていること、 そして、多くの観客・参加者を集めることができることが条件です。今朝、テレビでサッカーの試 合を見たのですが、観客はほとんどいませんでした。そのようなイベントのスポンサーにはなりた いとは思いません。 Category7「イメージの一致とその統一性」については、LG というブランドやプロダクトと、強く、 かつ自然なマッチングがあるかということです。企業のイメージとスポーツ、あるいはスポーツイ ベントがきちんと一致しなければなりません。そのイベントの立場や地位が、マーケットにおける LG ブランドを強めることができるか、高めることが出来るかどうか、ということがポイントです。 Category8「イベントの数」は、そのイベントは長期間なのか、大規模なのか、密度はどうなのか、 ということがポイントとなります。オリンピックの場合は、単発であるが規模の大きい密度の濃い ものになっています。一方で、長期的、定期的に行われるイベントについては、企業イメージやマ ーケティング活動、イベントスケジュールなどと合致するかどうかが重要なポイントとなります。 例をあげるならば、アメリカの EA スポーツというゲーム会社は大学バスケットボールのイベント スポンサーで、このタイミングがクリスマス直前なので、買い物の時期と重なってグッドタイミン グとなります。 Category9「イベントの期間や継続」などについてです。この提案された日時などが、LG のプロ ダクトを市場に出すタイミングとどの程度合うかを評価します。NFL のスポンサーについて言う と、NFL の開幕は9月であり、このタイミングはスポンサーとなっている車のメーカーにとっては、 新しい車が販売される時期と一致しているのです。 Category10「観客の数・サイズ」では、現地での観客・参加者が5万人以上というのが一番高い ランクに評価されます。 また、Category11「観客の人口統計的要因や心理統計的要因」というのも重要です。それらが、

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LG がターゲットとするマーケットの消費者と一致しているかどうかも評価のポイントとなります。 LG エレクトロニクスは、アクションスポーツ(日本では X スポーツなど言われる)といったアク ロバティックなニュースポーツのスポンサーをしているが、その対象者の多くが 10 代の若者で、 LG が携帯電話を購入してほしい購買層(10 代)とマッチしている、という事例があります。 Category12 は「メディアのカバーの割合」です。テレビで放映されることが条件で、しかも、視 聴率やシェアが高いということが条件です。また、スポンサー名をアナウンスされるかどうか、そ れが保証されているかどうかということも重要です。例えば、アナウンサーがスポンサーの冠名、 「LG」というスポンサー名をきちんと喋るのかどうかも非常に大切です。また、テレビにおいても 広告の機会が確保されているかどうか、そして、アンブッシュを排除しているか、いわゆる競合企 業を排除しているかどうかということがポイントになってきます。LG としては、ソニーやパナソ ニックなどが出てこないことが条件です。 新聞においても、LG の広告が掲載されることも重要です。そして、イベント開催側が、LG が 広告に掲載されている事を、たとえば実際の新聞記事を集めるなどして証明することが条件となり ます。また、ラジオにおいても同様の条件であるならば、「LG」という言葉がきちんとアナウンス されているかどうかがポイントになります。 Category13「宣伝計画」についてです。まず、テレビでのプロモーションは長さやユニット、頻 度などが確保されているのか、そして、それが優れていればスポンサーになるということです。ま た、つくられる質の高さ、きちんと説明されていることが必要となります。プロモーションが悪い、 ひどいイベントにスポンサーすることはないでしょう。 新聞においても同様のプロモーションが果たされていることが条件です。ラジオも同様です。ま た、ウェブ上でもスポンサーが広告活動できることが必要です。スポンサーの立場からすると、ス ポーツイベントやスポーツ側のホームページ上ですぐにスポンサー名もしくはそのバナーがみつけ られるかどうか、ということが重要になります。いくつもアクセスして探さなければならないと、 スポンサー側は不利益なものであると判断します。一度 IOC のホームページを見て下さい。スポ ンサー企業を探すことはできないはずです。これは本当にひどいことです。そして、そのホームペ ージからスポンサー企業にリンクされている事も重要です。ウェブのアクセス数が高いことも重要 です。そして、スポンサーが払っている料金に見合ったロゴやバナーの大きさや場所が確保されて いる事も重要です。 Category14「相互作用のプロモーション」については、スポーツイベントや組織からの DM にロ ゴが付くかどうかもポイントです。DM を含めた広告物にどのようにロゴが掲載されるのか、数や 頻度はどうなのか。それがすばらしいと高評価に結びつきます。それから、スポーツ側やスポーツ イベント側が保有しているデータベースが使えるのかということも重要で、もしそれが使えるなら ば、スポーツ側の顧客にも LG の商品をすぐに見せることが出来るからです。スポーツイベント自 体の参加者や観客に対する PR 活動、マーケティング活動が優れていて、そこに LG が含まれてい るかということです。NFL がファンに対してイベントをする時に、スポンサーという立場で含ま れているかどうかが非常に重要です。 次は Category15「スポンサーシップの質のレベル」についてです。提案書の中にスポンサーのレ ベル(ランク)が含まれているかどうかであり、タイトルスポンサーやオフィシャルスポンサー、 サプライヤーなど、その全てのカテゴリが細かく明確にされている事が条件です。それぞれのレベ ルのスポンサーシップというのは、それぞれ得られるベネフィットに関して、そのランク以下の スポンサーカテゴリーのベネフィットも全て含まれている事が条件です。それぞれのカテゴリーは

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LG の複数の製品を十分に包括できているか、異なるカテゴリーのすべての製品を含んだ提案かど うかという点が大切です。オリンピックにはいくつかのスポンサーのカテゴリーがあり、その中に 消費者向け家庭用電化製品というのがあります。そのスポンサーがパナソニックです。この消費者 向け家庭用電化製品には、携帯電話もテレビも含まれるのか?ということが問題となります。ちな みに、サムソンがオリンピックにおける携帯電話のカテゴリースポンサーとなっています。他のも のは含まれません。それは、パナソニックがテレビというカテゴリーをおさえているからです。 私は 2002 年のソルトレークオリンピックに関わる仕事をした際の事例を一つご紹介します。オ リンピック側はパナソニックに 2,000 のテレビを設置要求しました。ただ、オリンピック側はも っと欲しいと要求しました。そこで、サムソンはその要求にこたえ、サムソンのロゴを隠すという 形で 2,000 台のテレビを提供しました。このように、プロダクトのカテゴリーが狭すぎる場合は 競合企業が入ってくる余地もあるので、それを排除するということも必要になってきます。 タイトルスポンサーになった場合は、そのイベントの名称の前に企業名を持つことが条件とな ります。プレゼンティングスポンサーであれば、企業の名称はイベント名称の後につきます。タイ トルスポンサーとプレゼンティングスポンサー、この2つの違いを明確にすることが重要です。も し、パートナースポンサーであれば、得られるベネフィットというのは他のパートナースポンサー と同じであるべきです。サプライヤーになった場合は、そのイベントに入り込むような状態を希望 します。例えば、飲料をみなさんに提供することであったり、そのイベントで使われるパソコンを 提供するといった具合に、そのイベントの一部に入り込むことが重要になります。NFL の例ですが、 ゲータレードというスポーツドリンクの会社は長期間スポンサーとして契約しており、試合のコー トサイドには商品が陳列されています。つまり、イベントやゲームの一部となっています。 たくさんのスポンサーがいくつも存在すると非常に多くの混乱が起こるので、それを最小限に抑 える必要があります。アメリカでは現在「少ないスポンサーの数で、大きなイベントでたくさんの 観客がいることがより優れている」と評価されています。最後のポイントとして、オーナーシップ になる権利として、イベントの主催者の一部になるということが条件として重要になります。 次の Category16「スポンサーミックス、過去、現在、未来におけるスポンサーシップ」について です。資料がきちんと提示されている事、その資料の中にネガティブな情報や経験が過去にないと いうことが条件となります。様々な企業がスポンサーになることは大事なことで、例えば、コカコ ーラ、マクドナルド、LG という3社がスポンサーになるといった異なった分野のスポンサーミッ クスも必要です。また、共同でプロモーションすることも大事で、例えば「マクドナルドに行って LG の製品が当たるカードがもらえる」というように、同時にスポンサーになった会社と共同プロ モーション活動を行ったという実績も高く評価されます。 Category17「看板とメッセージ」については、開催会場における看板や広告の種類、数、大きさ などが非常に目立つものであることが条件です。単に広告ボードをフィールドに置くのではなく、 具体的な大きさ、それをどこに置くといった提案が必要となります。動くボードや時間によって変 わるボードについては、どのタイミングでどの時間帯で露出されるのかということもきちんとした 提示が必要です。それから、看板の作成や片付けといった提案も必要です。誰がその看板を作るの か、企業側なのかスポーツイベント側なのか、誰がセッティングするのかなど、詳細に示されなけ ればなりません。さらに、会場内でどれだけ企業名をアナウンスするのか、頻度も提示しないとい けません。 スポンサー可能なベネフィットの中で、Category18「ホスピタリティ」があります。ホスピタリ ティとは、スポンサーとなった企業が関連会社の人々をもてなす場所が準備されるのですが、その

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場所が会場から近いか遠いかなど、ロケーションも重要です。ホスピタリティの機会をスポンサー 企業側が準備しないといけないのか、それともスポーツイベント側が準備しないといけないのかと いうことも明確にされていないといけません。B to B、いわゆる企業間のマーケティングがスポン サーの価値に見合っているか、超えているかどうかも条件です。スポンサー企業側は、ホスピタリ ティのためにチケットを獲得して、関連企業を招待するのですが、そのためのチケットの数や席種、 または VIP 席にアクセスできるパスがもらえるのかどうかといった点が優れているかどうかとい うことも条件になります。また、式典などにも VIP として招待されるのかということも条件とな ります。 NFL のスポンサーになった場合、VIP として入り、スポンサーの立場として試合の前に行うコイ ントスができる、といったことも条件の一つです。VIP として、選手と接触できるかどうか、スタ ー選手と会えるかどうかというのも一つのメリットとなるので、これも評価の基準になります。 私はこれまでずっと、それぞれの Category におけるベストをお話ししています。決してこれだ けが全てではありません。NFL だけがこれまでのベストにあてはまる条件を提案しています。 次は、Category19「販売に関するベネフィット」についてですが、LG が全てのプレイベントに かかわって自社製品を販売する、あるいは試供品などを提供する機会が得られるかどうかが条件に なります。試合会場でディスプレイやブースが設けられることや、観客が LG の商品を実際に触っ て体験することが可能かどうかということも条件です。試合の中で観客に対してプレゼントや商品 を提供したり、ギブアウェイを出したりする事に関われるかということもポイントになります。 続いて、Category20「評価報告書」です。スポンサーシップ活動を通してどのような事が得られ たのか、すべての項目について非常に詳細に明確に報告されるかどうかという事がポイントです。 また、投資したものに対して見返りがあったのか、返ってくるのかどうかも確かめたいものです。 Category21 は「理論的根拠」です。この提案が LG のビジネスの構造を深く理解しているのか どうかということがポイントとなります。NFL JAPAN から LG 側に提案に行く場合、まず NFL JAPAN 側は LG のビジネスについて正確に把握することが必要です。 Category22 は「予算とその価値」です。価値の計算というのは、スポンサー契約に払うお金にあ った価値が得られるかどうか、そして、この価値の計算がしっかりと示されているかどうかがポイ ントです。LG では 5 セント という数字を使うのですが、「1 人の観客に対する広告価値が 5 セ ントあるかどうか」ということを基準に行ってきました。いくつかの企業がこの 5 セントという 基準を使うのですが、すべてがこの数字を使っているわけではありません。あくまでも、一つの例 として考えてください。それから、ホスピタリティに関わるコストも検討しないといけません。他 の B to B との機会と比較検討をします。さらに、プリントメディアの価値も評価しなければいけ ません。そして、その価値にあったベネフィットを得られるかどうか、それを正確に示して計算し ているかどうかというのも必要です。全てが用意されるのではなく、柔軟な契約交渉ができること も条件となります。 最後が、Category23「ボーナスポイント」です。最後のポイントは感情、つまり「NFL が好きだ」 という思いが加算されることです。このボーナスポイントの中には競合企業に対する戦略的なもの もあり、例えば、コカコーラがこのスポンサーに乗らないとペプシに取られてしまう、といったや り取りもここには含まれています。 これまで説明してきたのがそれぞれのカテゴリーですが、プロセスに戻ります。それぞれのスポ ンサーシップのカテゴリーについて評価をしてきました。そして、そのスコアを入力します。全て のマーケットは特徴が違うので、それぞれのカテゴリーにおける重みも違ってきます。よって、重

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みをつけるわけです。世界中それぞれの地域によって、各カテゴリーの重要度が異なってくるため、 その重要度を加えた数式をセッティングします。そして、その重みづけされてスコアが出てきて、 最終的に意思決定をするスコアが上がってきます。そして、スポンサーシップをするべきか否かと いう資料が出来上がります。例えば、あるマーケットにおいて企業の認知を高めなければならない、 これが重要な要素であるという場合は、イメージマッチや観客数、人口統計的な数字、メディアカ バレッジ、プロモーションなどの要素を重く評価していきます。また、異なったマーケットにおい て B to B が必要であるというマーケットでは、メディアカバレッジ、ホスピタリティ、プロモー ションを重み付ける式を作って計算することになります。 800 点∼ 1,000 点が付くと、LG としては「すぐに実行すべきである」ということになり、650 ∼ 799 点だと、「しっかりと検討する有力な候補である」という段階、500 ∼ 649 点は「検討の 余地がある」段階、500 点未満は「これに関わるべきではない」という判断をします。そして、 この方法が適しているかどうか、フィールドテストを用いて試しました。これはロサンゼルスで行 われた「アクションスポーツチャンピオンシップ」のスポンサーということで用いました。実際に プロポーザルを検討し、スコアを付け、出てきた数字が 854、重み付けスコアが 835.67 になりま した。先ほどの判断基準からして、「LG はスポンサーになるべきだ」という結論が出ました。

まとめ

最終的には教育的には研究者が入り込むことで、企業の意思決定者が地域レベルで、世界的なス タンダードと同時に、それぞれの地域にあった柔軟な基準を持つことができます。そして、実際に このような評価基準ができたことで、世界基準でも、さまざまな地域に合った形で使うことも可能 です。

はじめに

今日は、私からは先のスタットラー氏の講演とは違う方向で、スポンサーの可能性についてお話 しします。 スタットラー氏の講演ですごく示唆に富んでいたと思うのは、結局、企業側の戦略やビジネスは どんどん科学的になってきているということです。これは間違いありません。では、日本のスポー ツはそのような企業のニーズや視線に耐えうるものになり得るか、なっているか、あるいはそうい う視点で活動しているか、というと全くそうではありません。未だに「いいスポーツだから一つよ ろしく」とか「僕らすごい頑張ってるんですよ。応援してください」。私はこれを否定するつもり は全くありませんが、少なくとも企業側の意識はどんどんそれとは異なる方向へ科学的になってい るという現実はそこにあるわけです。

NFLのスポンサーシップ戦略

―ブランド価値を最大化する

講演②

町田光氏

(NFL JAPAN 株式会社代表)

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日本のスポーツにおける問題は、スポーツの価値が社会との関係の中で初めて成り立っている、 という当たり前のことが認識されていないことであると思います。スポーツというのは「するもの」 であり、「する人たちが」「するための組織」を作って、「自分たちがやっていることは素晴らしい から応援してください」という発想です。それは「寄付」です。しかし企業スポンサーを獲得する ということは、企業が行う活動に対してスポーツは何らかの価値を提供してその対価をいただくと いうことです。それがスタットラー氏のお話のような洗練されたものであるか、また科学的な検討 が十分にされたものであるかどうかはともかくとしても、少なくとも「スポーツが企業の活動や社 会にとってどのように有用であるか」という視点がない、というのが日本の1番の難しいところで す。実はそのことによって、企業の側もスポーツをどう使ったらいいか良くわからない、というの が現状だと思います。最終的に、間に立つ広告代理店に今1番スポーツのノウハウが集まっていて、 しかしスポーツ側も企業側もそのノウハウを十分に理解していないため有効活用できず、スポーツ 側の人は内側を向いているので、「いやぁ代理店にやられちゃったよ」「テレビ局にいじられちゃっ た」というあまり生産的でない声が強くなるということが現状ではないかと思いました。 実は、スタットラー氏の講演を聞いて率直に芽生えたのは、1990 年代の日本の企業がとにかく 「アメリカ型を取り入れるのがいいのだ」と、例えば「年功序列を廃止して実力主義にしよう」な どとして、結果的に、それが数年後社員のモラルを下げ、社員の気持ちをバラバラにして企業の生 産力を失ってしまったという事実と同じにならないといいな、というものです。それは、日本の企 業や働く人、また消費者がそのようなメンタリティになっておらず、また日本はそのような社会シ ステムにも教育システムにもなっていないからです。ある科学やテクノロジーがうまく機能し、最 終的に社会を良いものにするためにはその背景となる社会的なシステムや環境、そして何よりも 人々の認識や合意が必要です。スタットラー氏のお話の内容を支えているのは徹底した科学的合理 主義による資本主義社会です。日本社会がいまそのような意味での「科学的合理主義社会」である かどうかは大きな疑問です。また日本がこのような社会になってゆくのが本当に幸せなのかどうか についても真剣に考える必要があるでしょう。またスタットラー氏の科学から今の日本のスポーツ を判断したら、阪神タイガース、浦和レッズ、以外すべてのスポーツは NG です。 しかし明らかに企業はグローバル化の中で、そういう方向を向いている、ということは事実です。 IR、つまり投資に対して、何を獲得できるのか、という視点はますます研ぎ澄まされてゆくでしょ う。ですから、スポーツ側は本当にスポンサーを獲得したいのであれば、「スポーツはいいものだ からサポートしてくれる」なんて発想ではなく、「企業や社会に対してスポーツがどんな価値を提 供できるか」を考え、具体的な価値を作り出さねばなりません。そのためには繰り返しになります が、少なくとも「スポーツは社会との関係の中で存在価値が生まれるのだ」という意識を持つこと が必要です。 実はそれは日本の多くの「スポーツ関係者」にとって簡単なことではありません。なぜなら、こ のことはスポーツのことを考えるだけでなく「日本の社会やそこで生きる人はどんな意識や価値観 を持っているのか」について考えることに他ならないからです。「スポーツ関係者」はスポーツの 内部にしか視線が行かないようです。ビジネスが社会や市場に向いているのとは逆のベクトルです。 しかし(本当に企業のスポンサーシップが必要であるならば)企業や社会、そこで生きる人々に対 する考察と、スポーツの果たせる役割を考え、企業や社会や自治体への提案を行い、自分たちでで きる具体的活動を行い、人々の反応をよく観察し、更なる提案を行う、などを繰り返す中から、日 本におけるスポーツのスポンサーシップの形が見えてくるのだと思います。今は試行錯誤が必要な 段階です。

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そういう私も普段なかなか NFL のスポンサーが売れなくて苦労しているのですが、2 年ほど前 に NFL のスポンサー担当から、ある「いい資料」をもらいました。今日はその資料の話をします。 それは、スポーツには「コ・ブランド」すなわち、ブランドを共有する、ブランドを一緒に作り上 げていくという形のスポンサーシップの考え方がある、という内容でした。前半は「コ・ブランド」 について、後半はそれを日本にどう応用できるか、について私論をお話したいと思います。

NFL /アメリカ最大の人気スポーツ

NFL はアメリカで一番人気のあるスポーツです。1985 年以降、MLB とずっと張り合っていた のが、2005 年には MLB の 2 倍以上の支持を得るほどの大きな差になって、それはテレビの視聴 率にも跳ね返ってきています。

NFL /世界で最も成功しているスポーツリーグ

他のリーグやチームのお金の分配方式が異なるので単純に比較はできないのですが、2007 年度 の NFL の売り上げは日本円でおよそ 8,000 億円です。NFL は人気スポーツであると同時に、大変 大きなビジネスのリーグであるということです。

NFL / NFL の成功を支える「共有・共栄」の思想と戦略

なぜ NFL はこんなに成功しているのか。NFL の成功を支えているのは、共有共栄の思想です。 つまり、NFL の 32 チーム全てがゲームを行う上でイコールコンディションになるためのリーグの システムを作り出しています。 まず、「リベニューシェアリング」。NFL では、テレビ放映権の 100%、(これだけで年間 4,500 億円くらいになります)、ライセンス収入のほぼ 100%、チケット売り上げの 40%の 3 つがリー グに一回入り、それを 32 チームに共同分配しています。共同分配することで現在 NFL32 チーム の収入のうち平均 70 ∼ 73%ぐらいがリーグからの分配金で成り立っています。これによって貧 乏チームと金持ちチームができないのです。さらに「サラリーキャップ制」があることで選手給与 に対して使えるお金が決まっており、金持ちのチームによる優秀なクオーターバックの引き抜き合 戦、といったことが制限されます。さらに、「ウェーバー制ドラフト」。前年度優勝チームが第一指 名権を持つということです。この 3 つが極めて厳格に守られていて、それにより全てのチームが 経済的に安定をして、選手の強化に努めることができ、スポーツの様々なところに投資が出来るよ うになります。これによって、常に高いレベルで戦力が均衡する状況が作られ、それが対戦のレベ ルを上げて、「捨てゲーム」がなくなります。これによりテレビの視聴率もシーズンの前半から後 半まで非常に安定し、前の年ダメだったチームも次の年に期待できます。 このように NFL はアメリカという世界最大の資本主義の国の中で「共有、共栄」といういわば「社 会主義システム」を採用していますが、このシステムだからこそ可能になるもう一つ重要な点が、 本日お話する「スポーツのブランドマネジメント」です。リーグがイニシアチブを持っていること によって、リーグ全体のトータルのブランドマネジメントが可能になるのです。「他のチームはこ れをやるけど、うちのチームは関係ない」といった状況が生まれにくいということです。

NFL BRAND ①

以前、日本でスポンサーが売れないと話をしていた時、アメリカのスポンサーシップ担当の者が 企業に持っていく企画書を私にくれました。その企画書に沿ってご説明します。

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普通のスポーツだと、「私達のスポーツはすごい」「人気がある」と書いてあるものですが、最 初に「Power of the NFL BRAND」「Key Consumer Insight」と書いてあります。つまり、消費者は今 どのような状況に居て、どのようなものを求めているのか、ということから始まるのです。「In a world where people are doing more with less time.」これはいろいろな翻訳があると思いますが、「短い 時間の中で色々なことをやろうとするこの時代、忙しかったり余裕が無かったり常に何かに追い 詰められたりするこの時代において、人々の中に新たなニーズが高まっている。それは『reconnect =何かにつながっていたい』、『belong =何かと一体になりたい』という気持ちである。これが今の 消費者の中の気持ちの中心にある」ということです。それに対して NFL は「The NFL is a powerful unifying force」、非常に力強くこれらを繋ぐ力になるということです。これらとは何かというと、「家 族」であり「友達」であり「職場仲間」であり「コミュニティー ( =地域社会 )」です。 このことについて NFL の人間と色々と話をしました。他民族国家であるアメリカ、資本主義が 進み同じ会社の中でも大成功している人間と絶対に将来ダメなヤツもいる、宗教も違う、こういう 価値観も、世界観も言語も異なる人間であふれている国の中で、人々の1番心の底にあるのは「何 かに繋がって一体感を持ちたい」ということなのです。これはスポーツだからこそ解決できる、も の凄く大きな課題なのではないでしょうか。「NFL は社会に対してどんな価値が提供できるのか」 を明確にしているのです。ここにいらっしゃる方は何らかの形でスポーツに関わられていると思い ますが、おそらく感覚的にも論理的にもご理解いただけるのではないかと思います。これが、スポ ンサーシップセールスの1ページ目に書いてあるということが、私は極めて単純に嬉しかったです。 「こういうことを分かっているのだ」という気持ちで、このリーグで働いていることにプライドを 感じたのを覚えています。

NFL BRAND ②

では、NFL の「brand positioning」は何か。NFL を人々が見た時、考えた時、経験した時に、 NFL を「premiere sports and entertainment brand」として認識し、「…brings people together, connecting them socially and emotionally…」、人々を社会的に、そして心の中で感情的に繋ぐ力になるのだ、と いうことです。さらに「…like no other.」、他のものではできない、他のものよりはるかに力強く NFL は人々を「socially」「emotionally」に「connect」する。それが NFL の「brand positioning」だ ということです。スポーツにはそういう力があるということは、感覚的にわかるでしょう。NFL はそのことを明確に表明します。いま、お金持ちと貧乏、色々な国籍を持っているなど人々がバラ バラで、情報化社会において人々が近いようで遠い存在になる社会の問題の中で、NFL は社会的・ 感情的に人々を繋ぐ、それを実現するのが NFL の「brand positioning」だということです。本当は ここで「brand」という言葉についても定義が必要だと思いますが、今回はこのまま進めたいと思 います。

NFL BRAND ③

次に、いま述べてきたような「brand positioning」をした NFL の「personality」つまり、「NFL っ てどういう組織の性格なのだろう」ということについて、いくつかの言葉で定義しています。

まず 1 つ目は「Leader, Strong and Confident」。NFL は社会の中で「リーダー」になり「力強く」 いつも「自信」を持ちしっかりした存在になろう、ということです。NFL はそういう組織を目指 しており、NFL はアメリカの中でそのような存在になろうということをここで言っています。2 つ 目は「Positive and Progressive, informed and in-Touch」、NFL は常に革新的であり、人々に情報を発

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信し続け人々と繋がろうとするということです。3 つ目が「social Approachable」、NFL は開かれて いて人々は非常に近づきやすい、接しやすい存在ということです。4 つ目が「Success-Oriented with High Standards」、ハイレベルな目標を立てて常に成功を目指す組織であるということです。 先ほどのかなり力強いブランドポジショニングをしたからこそ、NFL という「personality」はこ のようなものでなければならないというメッセージが込められています。おそらくスポーツに関 わっている多くの人が「スポーツってどういうものだろう」「スポーツって人々に何を与えるのだ ろう」「スポーツリーグって何を果たさなくてはならないのだろう」ということを話しているとき に、ここで述べている単語が飛び交っていると思います。飛び交って浮遊している単語を、1つ1 つ明確な言葉に落とし込んで、ブランドメッセージとしてきちんと創り上げていくということなの です。社会がどんなことを求めているか、どんな問題や課題があるのか、それに対してスポーツは 何をするか、どんな存在になれるかということを明確な言葉にするのです。「言葉にする」という ことは真剣に考え論議するということです。どこかの外部のコンサルタントとやプランナーに任せ て「コピーライティング」するのとは違います。NFL の中の人間でものすごい論議をしてこの言 葉に絞り込んだのです。何百もある言葉をみんなで論議して決めるのです。このプロセスが重要で す。そういうプロセスに参加することで、1人1人が自分で考えているのです。そうやって出てき た言葉だということです。こうして社会の根底にある課題は何かということを見出し、そこに対す る NFL の姿勢を決め、NFL がどのような存在であるかということを「personality」という形で提示 する、これがブランドビルドということだと思います。

NFL の BRAND コミュニケーション①(Key Words)

ブランディングが出来たら、次はコミュニケーションです。今度はどうやって自分たちのブラン ドを社会に伝えていくか。

ここで極めて重要なのは、スポーツのブランドと他のブランドとの違いということかもしれませ ん。スポーツにおけるブランドは、NFL の言葉を使うと「not tagline, but activation line」、すなわち 「ぶら下がっている看板ではない「具体的な活動を行うこと」、なのです。スポーツのブランディン ング、ブランドコミュニケーションは人や社会とリアルにつながり、その中で人々が心の中にブラ ンドに対する価値観や世界観、イメージを作ってゆくということです。それはスポーツに課せられ た「使命」であり、スポーツが持っている「権利」であるということです。なぜなら、人々はスポ ーツ団体が何かをやってくれるということをいつも心待ちにしており、すごく歓迎してくれるから です。今日は企業の広報の方もいらっしゃると思いますが、例えば一般企業が「森に木を植えてい ます」などと言うと、「素晴らしいな」と思う人と「そんなことやるより、値引きしろ」と思う人 がいる。皆さんもそういう気持ちあるでしょう。ところが、スポーツの人が「森に木を植えています」 と言うとすごく自然に聞こえるじゃないですか。なぜなら、人々がもともとスポーツに求めている ものが、そういうことだからです。つまり人々は感動を求めているのです。心を豊かにしたいので す。スポーツは心を豊かにしてくれる存在として「見られて」いるのです。あらゆる企業が自分を 「よい存在として見てほしい」と願い広報、宣伝、CSR に取り組んでいます。それに対してスポー ツははじめから「見られている」のです。これはすごい差別化、競争力です。こんなビジネスは他 にありません。ただしここでいう「見られている」は「競技」を見ているということではありません。 スポーツは、スポーツファンであるかないかに関わらず、広く人々から「見られている」というこ とです。具体的言うと、サッカーチームがサッカー教室をやるのは、ブランドコミュニケーション という観点から見ると対象が狭すぎます。その地域の 99%の人は「私には関係ない」と思うでし

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ょう。しかしサッカーを通じて経験し獲得した「人間の成長の話」「世界の子供の話」「戦争とスポ ーツの話」を普通の小中学生に話をした時に初めてたくさんの人にコミュニケーションができます。 もちろんその話し手は十分にコミュニケーションの鍛錬が必要です。「ブランド」を作っているんだ、 という視点を持つとスポーツ組織が行うべき課題がよく見えてくるのではないでしょうか。 ここからあとは「NFL OVERVIEW」の中のいくつかキーワードに基ついて、スポーツのブラン ディングの具体的な内容についてお話を進めたいと思います。 まず 1 つ目はスポーツの activation、ブランドコミュニケーションはすべての人を対象とすると いうことです。もちろん、男女、年齢、人種を問わないのは当たり前なのですが、大切なのはその 人が「NFL のファンであるかどうか」「アメリカンフットボールのファンであるかどうか」は特に 関係ないということです。NFL のスポーツを「競技」として観戦する人は「アメリカンフットボ ールのファン」でしょう。しかし、NFL の NFL によって感動したり具体的な利益を得たりする人 は、「NFL のファン」であるかどうかは全く関係ありません。先ほどの例で言えば、「森に木を植 える」という活動をもし NFL が行なった時に、そのことによってメリットを得る人は、その人が 普段 NFL をゲームとして見るかどうかは関係ないのです。しかし、そのことで「NFL ってこんな ことをやってくれるんだ」と、ブランドをリアルに感じるのです。「俺アメリカンフットボールよ り音楽の方が好きだけど、あのリーグってすごいちゃんとしている、スーパーボウルくらい見てみ るか」と思う、これはすごく大きいパワーです。こんな風に圧倒的に全ての人にリーチできるプロ ダクトはあまりありません。そういう意味で、私のようにスポーツ外の仕事を長年してきた人間か らすると、スポーツは社会から与えられた特権を持ったビジネスだと、そう思います。 2 つ目は、同じようにゲームだけではなくて 365 日いつでも NFL というブランドは人々とコミ ュニケーションができるということです。常に NFL の価値と可能性があり、逆に言えば「やらな ければならない」ということです。 3 つ目は「どこででも」、スタジアムに来た人に良いゲームを見せる、その良いゲームの周りで サイン会をやる、これももちろん大事です。しかしそれも全体から見るとほんの一部です。それ以 外にも、NFL のブランドを展開できる場所はたくさんあります。この2,3については後で詳しく 具体的に紹介します。 4 つ目として「アンバサダー」というのも大切です。リーグに関わるすべての人間が、ファンや コンシューマーや一般社会の人から見られる存在であるということです。見られる存在にあたるの は、コミッショナーみたいなとても偉い人からオーナー、コーチ、プレイヤー、チアリーダーなどで、 私もその 1 人です。NFL の社内には「ゲームプラン」という社員規定みたいなものがあるのですが、 その中で「NFL の従業員は NFL ブランドの north star になれ」と書いてあります。north star とは北 極星、Polaris です。Polaris は「道しるべ」であったり、色々なことに例えられます。全ての星の 中で唯一絶対に動かない星、これはアメリカ的にはカッコよくて、私はカッコいいのはあまり好き ではないのですが、「north star になれ」なんて書いてあるんです。意味は、「我々のすべての活動・ 発言が、NFL のブランドを作るのだ」ということです。そのような意味において、NFL は選手の 教育にものすごく力を入れているのです。一般的に、スポーツをずっとやってきた人は社会性を持 ちにくいのです。スポーツに自分の全ての時間を注ぎ自分のプライドを作ってきた人は、最も多く 社会の視線から見られているにもかかわらず、その対応の仕方が下手かもしれないし、人とのコミ ュニケーション能力も一般の人より低い場合があります。しかし人々の期待はそれとは逆にとても 高いので、そこにはギャップがあるのです。だからこそ NFL は入団をしたときに約2週間の合宿 があり、徹底した選手の教育を行うのです。「あなたは社会からどのように見られているのか」「だ

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れがあなたの存在価値を決めているのか」「NFL は社会にどんなメッセージを発信しているのか」 などを学びます。なんとなく道徳的に「スポーツ選手は潔癖でなくてはならない」と言われている のではなく、NFL は今までこのようなこと標榜しているブランドだからこそ、そうでない行動を 取った者に対しては具体的なペナルティがあると明確に伝えるのです。このように全員がアンバサ ダーであるということがブランドコミュニケーション、そして具体的な活動のキーワードの一つで す。 最後は「integration」、ここはスタットラー氏の講演、つまりスポーツのスポンサーシップに直接 つながります。NFL は常に多様な activation を展開しています。それは NFL 自身がイニシアチブを とっていますが、同時にどうやってメディアと組むか、どうやって自治体と組むか、どうやってコ ミュニティーの人たちと一緒にやるか、そして、そこにどうやってビジネスパートナーと integrate するか、を常に考えています。NFL のビジネスパートナーが NFL のブランドのコミュニケーショ ン、具体的な activation に参加することで、その企業も「今の社会において人々を互いにつなぎ、人々 が安心感を持ち、スポーツを通じ勇気を持つ」という NFL のミッションに共感し参加しているの だということを表明するのです。つまり NFL は企業に activation のプラットホームを提供している のです。それを通じて企業は人々から「ポジティブに見られる」存在となるのです。 その点から J リーグを見ると、リーグスポンサーと J リーグが標榜している「百年構想」との関 係は、実はあまり見えません。ゲームにゆくと 10 社の看板は出ている。でも J リーグの「百年構 想」という J リーグの理念であり、日常の activation、つまり J リーグの「ブランド」と一体とは 見えません。だいたい J リーグのスポンサー企業は「百年構想」に積極的に参加しているか、ある いは J リーグがスポンサーに活動できるプラットフォームを提供しているか、というと私にはあま り伝わってきません。そこには「つながって無さ」が見えるのです。世の中の人はそういうことに 敏感です。「大衆は最終的には賢明な選択をする」と言いますが、そういうことなのだと思います。 こんな風にリーグやチームの活動をスポンサーと integrate することが co-brand なのです。この領 域は日本においてはまだまだ未開発の領域という気がします。

NFL の BRAND コミュニケーション②(Examples)

ここからあとは具体的な話をしましょう。たくさんある中から、まずはスーパーボウルからです。 スーパーボウルは今年もおよそ 42%の視聴率を取りました。アメリカのテレビ放送の視聴率歴 代ベスト 10 すべてがスーパーボウルです。私はスポンサーを探すときに「スーパーボウルはすご い」と伝えるための言葉に困っていました。ある時ふと思いついたのは、「スーパーボウルは、昭 和時代の日本における紅白歌合戦ですよ」と言って、自分の中で納得できました。スーパーボウル は、ゲームとしては NFL の一番を決めるゲームです。しかし、なぜ 42%もの人が見るのでしょうか。 まさに今年、それを非常に象徴するメールが NFL 社内を飛び交いました。昨年 NFL に入社したば かりの女性がスーパーボウルの翌々日に今のコミッショナーに送ったメールを社員全員で共有した ものです。詳しくは覚えていないのですが、その女性はスーパーボウルが開催される日曜日に車で スーパーに買いものに行きました。いつも空いているスーパーの駐車場が今日はいっぱいでした。 スーパーに入って「スーパーボウルを見ながら色々食べよう」とポテトチップスやお肉を選んでい たら、どこも行列で並んでいて「あれ?」と思ったら、そこにいる人たちは皆スーパーボウルの話 をしている。それを見て、「これが NFL がいつも言っている『スーパーボウルはアメリカの国民の 休日』なのだ」と。「みんなでセレブレイトしよう、フットボールが好きどうかは関係ない。フッ トボールが好きじゃない人もスーパーボウルの4時間はお父さんお母さん友達も集まってパーティ

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ーをする、そういう『ひとが繋がる場』を提供するのだ。スーパーボウルはそういうものなのだ。 そうでなければ 40%という視聴率は出てこない」ということなのです。 もう1つ面白いエピソードをお話ししますと、ご存知の方もいらっしゃると思いますが、4年ほ ど前に「おっぱいポロリ事件」というのがありました。ハーフタイムショーでジャネットジャクソ ンが最後におっぱいをポロっと出したのです。私は現地にいてよく分からなかったのですが、夜遅 くホテルに帰ってテレビをつけたらそのことばかりです。「別にそれくらいいいじゃないか」とい うのが、その時の率直な感想でした。ところが、翌朝起きたらもっとすごいことになっていました。 コミッショナーが謝罪会見を開き、そのハーフタイムショーを演出した MTV の人間が数人解雇さ れた、とかです。よく覚えているのは、いかにもアメリカのいい家庭のお父さんお母さんと子ども 2人がインタビューされていて、「私は必ずしもフットボールのファンじゃない。でも、うちは父 が自分が子どもの時からスーパーボウルの日はどこにも行かないで家族と一緒にゲームを見てご飯 を食べるということをずっと文化にしてきた。だから、私も今日は子どもたちに『家にいなさい』 と言っていた。それなのに…」といって泣き出したのです。これを見て、「ああ、なるほど」と思 いました。つまり、そういうものなのです。紅白歌合戦なのです。だからこそ、国民一体のイベン トであり、スポンサーの CM の 30 秒が3億円なのです。これは単に視聴率が高いということだけ ではないのです。翌日にはスーパーボウルの CM に対する投票があって、その投票が下がるとそ この企業の株価が変わる、それほど影響力があるのです。だから、スーパーボウルの CM の日に 合わせて、絶対に今まで流さなかった CM を企業は考えるのです。こんなところまで出来上がっ てきたのは、NFL というものが、スーパーボウルというものが一つの競技を超えた「祝祭」で、人々 が「自分はアメリカの国民だ」、自分のチームは出ていなくとも自分自身がその地域の人間である と実感する、そういう仕掛けがたくさん入っています。そういうことがあってのスーパーボウルな のです。 次にチアリーダーについてお話します。チアリーダーは踊っているだけ、と思われるでしょう。 ダラス・カウボーイズのチアリーダーズが日本に来たときによく話を聞いたら、「私たちが踊るの はホームゲームの年間8試合だけです」と。「他の日は何をやっているのか? ヒマなのか?」と 聞いたら、「いや、ダラス・カウボーイズのチアリーダーは年間 300 日 activation をするという決 まりがあります」と。もちろん一つのチームが 300 日全部出ているということではなくて、大体 チアリーダーは 32 人、8人のスクワット4つで構成されていて、日によってどのスクワットが活 動するのかが決まっています。この4スクワッと合計で 300 回ということです。それは、病院の 訪問であったり、介護施設の訪問であったり、チアリーディングのクリニックだったり、ダラス市 の代表として他の州の人を招き入れたり、世界各国の姉妹都市の人が訪問した際にダラス市の代表 として迎え入れたりしているのです。現在日本人の NFL チアリーダー6人いますが、その人たち に聞くと、「本当にびっくりしました。その活動に価値があるということがアメリカに来て本当に 分かりました。私達も、辛かったけれどこの活動を通じてスポーツが社会に果たす役割がよくわか り、自分自身がひと回りもふた回りも大きくなりました」と話していました。選手はなかなか時間 もなくコミュニケーションができないのに対して、チアリーダーという存在はチームを代表し、時 には地域を代表し、時には国家を代表して、様々な人に対してコミュニケーションし activation を してきたのです。 以前ダラス・カウボーイズのチアリーダーが約 1 週間の日本の滞在でイベントを行なう際、「絶 対に日本の色々な施設訪問をしたい」と言いました。私は最初の頃、「それは日本においては売名 行為みたいになるからあまり良くない」と言い、断っていました。すると「それだったら私達は行

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かない」と言うのです。「これは私たちの決まり、義務だ」と。「施設の訪問とか子どもたちに対す るチアリーディングクリニックとか、社会から模範生と見られるような行為がないと行かない」と 言うのです。色々悩んだあげく、結局ある両親のいない子供の育児施設に連れて行きました。実は、 これで非常に良い2時間を過ごしました。翌年にサンフランシスコ・フォーティナイナーズのチア リーダーが来たのですが、彼女たちも同じことを言いました。そこで、今度はかなり重度の障害を 持つ子どもたちがいるある施設に行きました。私は心配で、あらかじめ施設を見に行きました。本 当に様々な重度の障害を持つ子どもがいて、胸が痛みました。正直なところ自分の中では「やって しまった、やはりやるべきではなかった」と思いました。それでチアリーダーが到着したときに「み んなちょっと集まれ、すごいシリアスだぞ」と伝えました。すると彼女たちは「歌は歌ってもいい のか、Tシャツを配ったら着せてもいいのか」などと真剣に聞いてきました。打ち合わせをした上で、 ホールに子どもたちとお父さんお母さん、施設の方を皆集めて、約2時間ほど歌を歌ったりTシャ ツをプレゼントしたり握手をして過ごしました。非常に暖かくて素晴らしい雰囲気でした。ご両親 の中には涙を流している方も多くいらっしゃいました。それでも終わった後に自分の中にわだかま りがあり、思い切って、施設の園長に「こういうのをみなさんはどう思っているのですか?」と率 直に聞きました。園長は「そういうわだかまりもよくわかりますが、私達は本当に嬉しいのですよ」 とおっしゃったのです。何が嬉しいかというと、もちろん子どもたちも嬉しいけれど施設の人が何 より嬉しいのだと。この施設では、毎日仕事の終わりに報告会議があって「○○ちゃんが3日ぶり に一瞬笑ってくれた」という話が出てくる。施設の人たちはそういう環境にいて、つまり精神的に 煮詰まっているのです。そこに対して外部の人が興味を持ってくれたこと自身がうれしく、また子 どもたちが2時間本当に楽しそうにしていて、いつもなら見せない反応、たとえば手を出して握手 を求めるなど、それを見るだけで本当に解放された気持になるのだそうです。子どもたちも嬉しい けれども、施設の人間、そして、ご両親が喜んでいるのです。まあそんな話を聞いて、そういうこ とで悩んでいるちっぽけな自分にとても反省したのですが、チアリーダーたちは「自分たちはこの ようなことを行うために存在する」と認識しており、そのためのトレーニングされているのです。 つまり、これも先ほどの「NFL は人々を繋げる、人々に勇気を与える」ということの表現の一つ をチアリーダーが行なっているということです。 プレイヤーについては、時間がありませんのでこれは私の書いた本(「Jリーグの挑戦と NFL の 軌跡―スポーツ文化の創造とブランド・マネジメント」)に書いてあるので読んでください。 そして、記念日について。例えば「父の日」。アメリカ中の国民に呼びかけて、「自分が一番好き なお父さん」というテーマのエッセイコンテストをやります。それを NFL の選手が読んで、すご く良い人に NFL の観戦チケットを贈ります。簡単でしょう。簡単だけれど、それを例えば J リー グがやればすごいいいと思うのです。簡単だけどできることがあります。つまり、こうやってアメ リカの元々の祝日に NFL が乗っかっていくことで、すごくシンプルに、先ほどの「family を繋げる」 ということが実現できるのです。

NFL の BRAND コミュニケーション③(Play 60)

NFL は CSR にも力を入れています。「Play 60」とは、アメリカの子どもの肥満問題の解決のために、 NFL がアメリカ心臓学会とタイアップして「1 日 60 分、外に出てスポーツしよう」というプログ ラムです。庭に三角コーンを置いてその間を子どもたちが走ったり、子どもがフットボールのボー ルを投げて走っていって振り返ったときにボールが飛んでくるとか、そういうことをします。数人 で運営ができて、そんなに広いグランドでなくてもできます。NFL はアメリカ中から指導員のボ

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ランティアを集めました。このボランティアの応募がすごいのです。この指導員のボランティアを 行なった人は「人は社会に対していいことをしたいと思っている。でも、普段は仕事が忙しくてス トレスがきつくてできない。NFL は人々がいいことをするためのプラットフォームを提供してい る。だから、私たちは喜んでやっているのだ」と言います。こうして NFL も、参加する子どもも、 ボランティアをする人たちから「ありがとう」と言われるのです。こう聞くと「できそう」と思い ませんか。浦和レッズがこういう活動をしたら、多くの人が手を挙げるでしょう。ブランドの構築 などと言うと何か難しいことのように聞こえますが、小さいところからできることがたくさんある のです。 このように NFL のブランドというものを「社会に対して何が出来るのか」という形で明確にし、 それに対して、選手、チアリーダー、1人1人のスタッフ、チーム、色々なものが一体となって様々 な activation を行うことで、「単に言っているだけ」ではない現実化をしているわけです。これにつ いて前コミッショナーのポール・タグリアブー氏が次のようなことを言っています。「NFL は、ス ポーツが人々に果たせることは何なのかを考え、積極的に行動し続けなくてはなりません。そうす ることで、NFL を社会に欠かすことのできない信頼されるブランドとして、確固たる存在になる のです」。NFL とはここにおいて、「アメリカンフットボールの競技団体」ではないのです。スポ ーツそのものもですが、NFL もその全ての活動を通じて社会に欠かすことのできない存在となる のです。 そしてそれは NFL というプラットフォームに参加することで、自分たちが良き市民として「社 会に対してこんな活動をしていますよ、我々は社会の役に立ちたいんですよ」ということを co-brand して表現する企業にとっても必要な存在なのです。またボランティアに参加する人にとって も、自分が社会に貢献できる存在となれるプラットフォームを提供する組織として NFL を必要と しているのです。このように色々なところで「NFL って欠かせないよね」と思う人たちを作って いく活動そのものが、NFL の「ブランド」を高め、ビジネスを永遠に成功させるのです。そして その活動はメディアにとっても価値のある話題であり、それが取り上げられればそれを見た人は「自 分も参加しよう」と考える。 スポーツリーグというのはそういう動きを作ることができるのです。そして、スポンサーは、そ ういうブランドを一緒に持ちたいと考える。だから、NFL は「スポンサー」ではなく「パートナ ーシップ」という呼び方をしています。現在の NFL のトップスポンサーの1つは IBM です。ご存 知の通り IBM はパソコン部門をレノボに売ってしまいましたので、B to B の仕事しかありません。 にもかかわらず、IBM は年間何十億というお金を NFL に支払っています。「IBM はあなたたちが 最も好きなスポーツであり最も信頼するブランドである NFL の選手のスタッツのシステムも、そ して NFL という会社を動かすシステムも、全部 IBM 製です」。これでもう IBM が NFL に支払っ たお金は十分に回収できるでしょう。IBM はアメリカの社会の根本的な問題の1つを解決しよう としている NFL のパートナーとなることで自らの社会的責任を果たす姿勢を見せているのです。 日本において、スポーツは人や社会に対して何ができるのか。 スポーツは、日本の今後の社会のどの問題をどのように解決できるのか。 最後に、では日本において、スポーツは人や社会に対して何ができるのか。 おそらく、このような問題提起自体が存在しないのが日本のスポーツでしょう。「社会はスポー ツに何をしてくれるの?」ということは 150 万 5,000 回ぐらい聞きましたが、「スポーツは社会に 対して何ができるのか?」という話はあまり聞いたことがありません。今こそ「スポーツは、日本 の今後の社会の、どの問題をどの様に解決できるのか」という意識を持たなければなりません。こ

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