第 2 部
分 野 別 目 標 と 施 策 の 方向 東京の平均気温は、この100年で約3℃上昇しており、地球温暖化による影響といわれる約0.7℃
の上昇を大幅に上回っている。東京の著しい気温上昇をもたらしているヒートアイランド現象は、
長い時間をかけて進行してきたものであるが、近年は、地球温暖化による気候変動の危機ともオー バーラップして、そのもたらす影響への懸念が高まっている。
いまや、ヒートアイランド現象は東京や大阪など国内の都市だけではなく、ニューヨークなど世 界の大都市でも、その進行が注目され、都市の熱環境の改善(「熱汚染の解消」)は、環境施策の重 要な課題のひとつとして明確に認識されるようになっている。
ヒートアイランド現象は、都市を冷やす役割を担ってきた水や緑の空間の減少、熱を蓄える人工 的地表面や建築物の増大、都市の高密化に伴う風の流れの阻害、大量の排熱を発生させるエネルギ ー使用量の増加など、都市存立の前提となる自然との共存・調和の視点を欠いた都市化の進展の結 果として生じてきたものであり、これまでのまちづくりのあり方に警鐘を鳴らすものである。
ヒートアイランド現象が引き起こす問題は、①熱中症の増加など健康被害のリスクの増大、②ビ ルの谷間など都心空間の高温化や熱帯夜の増加に代表される、都市の快適性の阻害、③夏の冷房需 要の増加によるエネルギー使用量の増大、④冬の気温上昇による感染症増加のリスク拡大、という4 点に集約される。
ヒートアイランド現象がもたらす、こうした問題への対応策を考える際には、この現象をもたら した都市づくりのあり方を転換する視点に立つことが必要である。夏の高温化に対して、単に冷房 の完備といった対症療法を進めることは、排熱の増大や、エネルギー使用の増加を引き起こし、更 なる温暖化の加速をもたらす。
ヒートアイランド化の抑制を目指す熱環境対策は、地球全体を視野に入れた気候変動対策、水と 緑空間の回復を目指す緑の都市づくりとともに、東京を持続可能な都市として再生させる総合的な 環境政策の一環として位置付け、進めていく必要がある。
○継続する東京の気温上昇
東京のヒートアイランド現象に改善の傾向は 見られず、2005年(5年移動平均)で、平均 気温16.6℃、熱帯夜は28.0日となっている。
○地域によりばらつきのある現象
詳細なモニタリングの結果により、ヒートア イランド現象も地域により差があることが明確 になってきている。地域とその特性に応じた対 策が必要である。
1875 1885 1895 1905 1915 1925 1935 1945 1955 1965 1975 1985 1995 2005年 18
17
16
15
14
13
12
40 35 30 25 20 15 10 5 0 平均気温
熱帯夜
気温(℃) 日数(日)
熱環境の改善による快適な都市空間の創出 第 3 節
図表2-3-3-1 東京の年平均気温と熱帯夜日数(5年 移動平均)
現状
<日最低>
都心部を中心に、気温の高い地域が広がっている。
これらの地域では地表面のコンクリート化やアスファル ト化、緑地の減少といった「地表面被覆の人工化」により、
日中蓄えられた熱が夜間に放出されることと、夜間も続く
「人工排熱の発生」により、(日最低)気温が下がりにくく なっている。
<日最高>
日最高気温の分布は、区部中央部から北部にかけて高い 傾向が認められる。
区部中央部では主に、「地表面被覆の人工化」や、建物、
自動車などからの「人工排熱の発生」により、高温化がも たらされらものと考えられる。北部については内陸である ことから、日中高温となりやすいと考えられる。
○都の先駆的なヒートアイランド対策の展開 都は、2002年策定の環境基本計画において、
初めてヒートアイランド問題を環境施策の主要 な柱の一つとして位置付け、その後、2003年 3月に策定した「ヒートアイランド対策取組方 針」に定めた、①都市づくりと合わせた対策の 推進、②都庁内外の総力を結集する総合的な施 策の展開、③最新の研究成果を取り込んだ施策 展開という基本的な考え方の下に、以下のよう な施策を進めてきている。
①都における率先行動
道路の保水性舗装や都施設の緑化、校庭芝生 化など
②民間と共同した施策の推進
熱環境マップ※とヒートアイランド対策ガイ ドラインの提示による地域特性に応じた建物の 新築や改修時の対策の推進、ドライミスト※や
クールルーフ※の推進、大規模開発におけるガ イドラインの策定など
③施策に直結する調査研究の推進
METROS観測網※を構築し、よりきめ細や かなモニタリング実施、屋上緑化や高反射性塗 料による効果の実証実験、面的・集中的対策の シミュレーションによる効果把握など
図表2-3-3-2 日最高/最低気温の平均(2005/7/20〜2005/9/30)
※ 熱環境マップ:2003年に都が作成した、東京都区部における人工排熱や地表面被覆等が大気へ与える影響を分析し、ヒートアイランド現象の要 因を10分類し、500mメッシュで地図にプロットしたもの。
※ ドライミスト:人工的に微細な霧を発生させ、気化熱で周辺気温を下げる仕組み
※ クールルーフ:夏の冷房消費エネルギー量削減やヒートアイランド対策を図ることを目的として建築物の屋根や屋上面に、屋上緑化の設置や高 反射率塗料の塗布を行うこと。
※ METROS観測網:Metropolitan Environmental Temperature and Rainfall Observation System(首都圏環境温度・降雨観測システム)東京都区部 のヒートアイランド現象の正確な把握を行うため、2002年からの3年間、約120箇所に気象観測機器を設置し、気温や風などの連続測定を行った 観測網
第 2 部
分 野 別 目 標 と 施 策 の 方向
東京における今日のヒートアイランド現象 は、戦後数十年間の都市づくりの結果として生 じているものであり、その緩和や解消という課 題を達成するためには、長期的で継続的な取組 が必要である。このため、水と緑の空間の回復 を目指す緑施策の展開、エネルギー利用のあり 方を転換する気候変動対策の推進とともに、都 市内での排熱の抑制や局地的な気候に配慮した 建築や市街地整備、地表面の蒸散機能の向上な ど、熱環境対策の視点を都市づくりのあり方の 中に内在化させていく。
同時に、ヒートアイランド現象が特に強くあ らわれている地域などを対象とした集中的な対 策を実施し、局所的に高い気温低減効果、特に 体感温度の緩和を図っていく。
1 多様な手法による対策(気候変動 対策、緑施策とともに進める対策)
○都市排熱の軽減
気候変動対策として取り組むエネルギー施策 は、同時に、都市排熱を減らし、ヒートアイラ ンド現象の緩和にも寄与するため、強力に推進 する(具体的には第2部第1章第1節参照)。ま た、固有のヒートアイランド対策として、より 効果的に排熱からの影響を減らすよう回収を促 進したり、排熱の場所や方法の配慮を行ってい く。
○熱環境対策としての緑化の推進
緑の都市づくりは、ヒートアイランド対策に とっても重要な柱であることから、市街地にお ける緑と水の回復を目指し、今後一層力を入れ て進めていく(具体的には、第2部第3章第1 節参照)。
加えて局所的に効果の高いヒートアイランド 対策として、緑の量の確保だけでなく、道路や 建物周辺、広場等において、より広く快適な木
●2016年に向けて、新たに1,000haの緑を創出(再掲)
●2016年に向けて、街路樹を100万本に倍増(再掲)
●あらゆる手法を駆使して、既存の緑を保全(再掲)
●2016年度までに、ヒートアイランド対策推進エリアの全地域で、被覆状態の改善や排熱の 減少、風の道の形成などにより、熱環境の改善がなされている。また、多摩地域の市街地に おいては、現況に比べ熱環境の悪化が防止されている。
中短期的目標
●市街地の中に豊かな水と緑が回復し、風の流れや都市内の微気候に配慮にした都市づくりが進ん でいる。パッシブなエネルギー利用や省エネルギー化、被覆の改善などが進み、ヒートアイラン ド現象が緩和され、真夏日や熱帯夜の日数が減っている。
●アスファルトやコンクリートに覆われていた地表面が、緑などの自然に近い被覆状態に替わり、
緑の木陰などで涼しさを感じる場所が多く形成され、真夏でも快適に歩けるまちとなっている。
施策の方向
あるべき姿・目標
陰を創出するような樹種や植栽方法の選択を行 う。
○被覆対策の推進
地表面や建物の被覆を熱環境に配慮したもの に変えていくことも重要な対策である。敷地や 人工地盤上においても、緑化に適したところで は積極的に緑を増やしていくが、構造上人工的 な舗装が必要なところでは、保水性舗装や遮熱 性舗装などの環境対策型舗装の活用を推進して いく。また、クールルーフ実験で効果が検証さ れた高反射性塗料も、耐荷重の低い屋根など、
場所やタイプに応じて活用していく。
2 都市づくりとともに進める対策
○熱環境を考慮した都市構造への転換
都市の熱環境の改善に当たっては、個々の建 物での配慮や、緑地の増大、被覆対策に加え、
卓越風※を阻害しないような建物の配置や高さ への配慮、大きな緑をクールスポットとして確 保するなど、都市構造自体を熱環境が悪化しな いようにしていくことが重要である。
面的な開発や、大規模な公共事業などで十分 な配慮をするよう指導していくとともに、個々 の大規模建築物で緑を配置する場合に、「公開 空地等のみどりづくり指針」に基づき、緑の広 がりと厚みを持った良好な空間形成を誘導する など、周辺の地形や建物の関係を考慮して、連 続性を確保していくための指導を引き続き進め ていく。
○地域特性を踏まえた対策
東京においては、緑の分布など被覆状態や排 熱量の違いが地域によって異なることから、都 内全域で同質的にヒートアイランド対策を講じ ていくのではなく、区市町村や公共物管理者に よる地域・地点特性に応じた環境施策展開、民
※ 卓越風:ある地域、ある期間(季節など)に吹く、最も頻度の多い風向の風
図表2-3-3-3 熱環境マップ
第 2 部
分 野 別 目 標 と 施 策 の 方向 間事業者や住民など身近な主体によるまちづく
りを進めていくことが重要である。
そのために、熱環境マップとそれに基づくガ イドラインなどを活用し、地域の特性に応じた 対策を広く普及し、特に熱環境の悪化している 地域では、地元自治体、民間関係権利者などと 連携して集中的対策やモデル事業を進めてい く。
また、多摩地域においては、駅前市街地周辺 などで今後の開発により緑の減少が懸念される 地域がある。このような地域においては、ヒー トアイランド現象が顕著に現れないよう、あら かじめ積極的に対策を施していく。
地域的には、以下のような分類例を踏まえ、
適正な対策を進める。
●現にヒートアイランド現象が顕在化・深刻化 している地域(区部都心部など)
集中的対策やモデル事業などの実施によ り、身近な生活空間において暑さに適応す る対策を推進し、快適に歩けるまちを構築 していく。
●今後、深刻化するおそれがある地域(区部周 辺・多摩地域の中心市街地など)
現在、一定程度の緑地が確保されている周 辺区部や多摩地域の中心市街地において、
ヒートアイランド現象を食い止めるため、
その予防策をあらかじめ検討し、事前に対 応していく。
●ヒートアイランド現象は顕著に発生していな いが、クールスポットとして機能している地 域(多摩地域の郊外など)
引き続き、クールスポットの機能を守るた め、緑の保全などを図っていく。