二女歴離第二、鋼言)
最近3年間における鼻出血患者の 臨床統計的観察
東京女子医科大学耳鼻咽喉科学教室(主任 岩本彦之蒸教授)
濱 之 上
ハマ ノ ウエ
オ
講師 小
洋 ・ 守
ヒロシ モリ
田 輝 子
ダ テル コ
屋 知 子 ・ 堀 幸 江
ヤ トモ コ ホリ ユキ エ
(受付 昭和39年!0月!4日)
1.緒 言
鼻出血は日常しばしば出会う疾患で軽度なもの から,頻発しかつ重大な結果を招来する程度まで いろいろである.われわれは昭和36年から38年に 至る3年間に当教室において鼻出.血の診断で治療 を受けた恵者について,総数発生頻度,性別,
年令別,発生月別,誘因別,出血部位別,処置に ついて各々老察を加え,いささかの知見を得たの で報告する.
II.統計的観察
1。鼻出血患者総数および外来患者総数に対す る比率
これは第1表に示すごとく,昭和36年70例で外 来患者総数に対する比率は1.7%,37年96例で 2.2%,38年83名で1.9%にあたり,3年間を通じ て凡そ2%前後である.渡部1)の報告によると阪
第 1 表
大付属病院の33年から35年までの3年間にL8
%,東京医大付属病院の29年から33年までの5年 聞にL5〜2.4%との事であるが,われわれの報 告もほぼ同じような比率である.このうち入院を 要した例数は36年5名,37年0名,38年6名であ
った.
2. 性別
第2表に示すごとく,3年間合計では男142名 57%,女107名43%で,各年度とも男性にやや多
外来患者
年度 総数 者総数鼻出血思 。/o
第2表 鼻出血患者の性別頻度
富∴糎
性昭36年 37年 38年 計
43名(61.4%)
54 (56.2 )
45 (54.2 )
142 (57.00/o)
女 陸 合 計.
27名(38.6%)
42 (43.8 )
38 (45.8 )
/07 (43.Oo/.)
70名 96
83 249
昭36年 37年 38年 計
4,164名
4,366
4,313
12,840
70名 96
ee 249
1.7
2.2
1.9
1.9
い.しかし,これは外来患者総数の男女比をみて いないから,この男女比がそのまま全疾患の男女 比とは考えられないが,渡部の報告でも男性76%
前後,女性24%前後であり,H:. James Haraの 報告でも10年間の鼻出血憲者1.404例のうち,
852例が男性,552例が女性で,男性の方が多い Teruko ODA, Hiroshi HAMA)IOUE, Tomoko MORIYA & Yukie HORI (Department of Oto−
Rhino−Laryngology, Tokyo Women s Medical College): Clinical statistical observationsFlon the epistoxis from 1961 to 1963.
59 一
第3表 鼻出血患者の年度別,年令別,性別頻度 年度
年令
昭 36 年
男 女1計
O一一 5 6一一10 11〜ユ5 16t−20 21 一25
5 9 4 8 4
26N30 1 5
31・v35
36N40
?一.
1 41 一45 46・一一50
51N55 56N60 61N65
66・v70
71N75
o o 1 o o o 1
1 4 5 2 3 4 3 1 1
1 o o o
ユ
6 13 9 10 7 9 5 2 1 1 2 o o o 2
昭 37 年
・1剥計
5 6 3 4 8 4 4 4 1 1 2 2 5 o o
4 4 o 12 5 2 1 1
!
1 1 2 1 o 3
9 10 3
ユ6
13 6 5 5 2 2 3 4 6 o 3
昭 38 年
男 女1計
2 6 3 5 7 1 3 2 1 1 2 2 1 o 2
2 2 9 3 8
6 2 1 1 1 1 2 2 o o
4 8 12 8 15 7 5 3 2 2 3 4 3 o 2
合 計
男 女 計
12 21 10 17 19 10 9 7 2 2 5 4 6 o 3
7 19
10 14 17 16 12 6 3 3 2 3 4 3 o 4
31 24 34 35 22
ユ5
10 5 4 8 8 9 o 7
例40
数
ズ!へ 30
@へ/ \
20
/o
ノへきコ
_一.一 hT
一 ♀
/0 20 30 40 50 60 70年令
第1図 鼻出血患者3年間合計の性別,年令別頻度
と報告されている.
3. 年令別
年令別分類を第3表および第1図に示す.男女 とも5才から30才までの間に大きいピークがあ り,i数の上ではずつと少数ではあるが50才から65 才および70才以上にピークがみられる.男女では 少しくおもむきを異にし,高令層では大差はない が,若年層では男性は5才から10才の間,および 15才〜25才の間に2つのピークを示し,女性では 10才よりなだらかに上昇して15才〜25才で最高を 示し,30才をすぎると減少する傾向にある.これ は渡部の報告とほぼ同じ傾向を示すもので,この
男女における特異性は幼児期,学童期における機 械的刺激,外傷に基づく因子,又は男女の発育期 における内分泌因子等が老えられると,渡部氏も 述べているが,著者らの統計からもうなづけるこ とである.そしていずれにしても男女共に5才〜
10才,15才〜25才代に最も多い分布を示す.
4. 月別.性別
第4表に各年度別および3年間の合計の性別,
月別発生を示し,第2図に3年間の合計を図示し た.各年度別では変動があるが,3年間の合計で は,男性では1月,3月および9月に多く,女性 では1月および9月に多く,男女合計では1月お よび9月に頻発している.H. James Hara2)に よると,1,2,3月に多く,夏から初秋にかけ て少ないと報告しており,冬は室内のオーバーヒ ーテaングによる空気の乾燥等が鼻出.血増加の因 子であると述べ,渡部は女性は7月に多く,つい
で8月,4月の順,男性は3月,6月の季節の変
りめに多くみられると報告しており,著者らの報 告とは少しく時期を異にする.5.誘因別
第5表に示す.誘因不明は記載不充分な点も含 まれるが,いずれにせよ患者自身誘因を認めない
60 一
第4表 鼻出血患者の年度別,性別,月別頻度 年度
月別 1月 2
一石
4 5
昭 36 月
・眩【計
8 4
2 2 2
10 6
37 年
男【.女 計
3 3 3
6 o
7 8 9
2 3一 3 10
11
2 5
5 o 1
/
3 5 2 2
6 1 5 1 10
8 7
3 3
1 3 6 8
7 6 3 5 8 丁.
3 3 6 2 2 4 1 7 3 6 2 0 3
9 7 12 9 7 7 10 8 14 3 3 4
38 年
男1剥計
5 13 2 1 3 7 3 4
15 [ 20 3 5 2 4 6 2 3
4 8 4 5 9 9 6
2 6
gti
合 計
男 女 計
12 7 2 9 1
5t
?
19 6 16 12 7 9 12 11
ユ5
3
!1 8
3 13
20 11 9 9 8 8 10 9 13 7 5
39 17 25 21 15 17 22 20 28 15
2 4
18
10 7 17
例40 30
2Ci
10
x x
\ ハ x / x
v x
尊
x
x,
/
一一一一一 ワ計
L U 7@A盾
,,L,
,/ /,
/一....../ X
x/
9
.A s
第6表 各年度別鼻出血患者の出血部位別
]Tti ...xx
i 一.一x
趣鮪
年度
xx...一
1キーゼルパツノ 音駆 下 鼻 道
上 裂
昭36年 49例 o o
37年
tO
1 1
下甲介先端 3 3
鼻中隔穿孔縁 1
中 甲 介 3
0
1
中 鼻 道 鼻入口部
1 2
2 o
1茅3456789/0〜!12月
月別
第2図 鼻出血患者3年間の合計,性別年令別,月 別頻度
第5表 各年度別鼻出血患者の誘因別
38年 55
合計 174
咽頭後壁 ofli Ti nvdl 一一i
13南F21 55
3 4 1 1 2 2 1 7 ロ1 1 2
・コ・1
0 1 3
012
1初診時出、【血なきもの
\\ 年度
調\
不 明感 冒 打 撲 掻 爬 携 鼻
昭36年 68例
。
2
37年 77
8
o
3
4
38年 71
合計
4
5
2!6
/2
10
3 7
ものが多い.
6. 出血部位別
第6衷に示す如くキーゼルバッハ部位が断然多 い.また初診時には出」血しておらず,その形跡を 一 61
も認めないものがかなりあった.
.7. 止血処置
第7表に示すごとく,出血部位の腐蝕,収敏に よる処置が最も多く,止1二二投与のみは診察時出 血してない場合で,特に局所処置を要さなかった ものである.外頸動脈の永久結紮を行なった例は
第7表 各年度別鼻出血患者の局所処置別
\\ 年度
処置 \一\
腐蝕・収敏 タンポン挿入 鼻中隔矯正術 電気焼灼 止血剤投与のみ
昭36年 20例 8
1 o 42
37年 38 18 10 o 35
38年 32
7 6 1
40 合計
90 33 17
1
117
3年間を通じて1例もなかったが,一時的に外頸 動脈を結紮して,出血部位を明らかにし,その部
:分を電気灼焼したのち,結紮を解除したものは1 例あった.タンポン挿入による処置は腐蝕法に次 いで多く,鼻中隔矯正術がこれに次ぐ.
8. 内科的疾患の有無
3年間を通じて鼻出血患者総数249例のうち,
何らかの内科的疾患を有するものは第8表に示す 如く49例で,鼻出血西門総:数の19.6%にあたる.
心疾患々者が多いのは当院に心臓血圧研究所が付 属しているためと老えられる.
第8表 昭36〜38年の鼻出血患者の 既往内科的疾患内訳
患 疾 名1例数
心 疾 目 高 血 圧 肺 結 核
白五病
目 疾 患 腎 炎
ネフロL一一ゼ
神経科疾息 胃 潰 瘍 紫 斑 病 期
23 6 5 4 3 3 2 2 1 49
III.考 按
わが科領域で取扱う出血の問題は,術後の出」血 をも含めて比較的重要視されている.その成因や 処置についても多くの論説3)がなされているが,
なかでも鼻出1血は日常外来で多く遭遇し,手早い 処置が要求されるものである3).周知の如く鼻出 血の特徴は,1)出血部位の確認が容易でない.2)
縫合や結紮ができない.3)特殊な血管構造4)をも つ,等である.したカミつて処置法についても特殊 な工夫がなされるわけであって,鼻腔前部からの 出血に対しては部位の確認が比較的容易であるた め,コカイン・アドレナリン液塗布,圧迫,過酸 化水素水の塗布,ついで5%鉄ミョウバン液塗布 による出血局所の収敏,クローム酸,三塩化酷酸 等による腐蝕,電気焼灼,放射線療法等が単猫に 又は組合わされて用いられる.そして頻発する場 合には鼻中隔矯正術を行なう.鼻腔後部からの出
血は部位不明の事が多く,かつ循環器障害,高1血 圧による大出一血の事が多く,タンポン挿入(ザル ベガーゼタンポン,スポンゼル,ゲルフォーム,
ポリーゼその他5),外頸動脈結紮等が行なわれ る. また前回骨動脈や内顎動脈の結紮6),胃内 に単簡な手術操作を加えて焼灼を行なったりする 方法7)も報告されている.局所処置に加えて全身 的療法も重要な事で,止一血剤(凝固促進,血管壁 強化,アンチプラスミン等)の各種,1血管神経症 性出血には7%重曹水静注1),副腎皮質ホルモン 注射,鎭静剤,輸!血,輸液等が行なわれる,著者
らの報告では特殊な処置,薬剤を用いたのではな く,日常普通の処置を行なった症例につき,その 例数,性別,年令別,発生月別,誘因,処置を通 観してみたものである.
IV.総括ならびに結語
1)昭和36年から38年に至る3年間の東京女子 医大病院耳鼻科外来患者について,鼻出血の統計 的観察を行なった.
2)鼻出一血患者数総は249名で,外来患者総数 の2%前後にあたる.入院を要したものは11名で 僅少であった.
3)性別は,男にやや多く57%で,女は43%で
ある.
4)年令分布は,男女とも15才〜25才で最高を 示し,ただ男性は5才〜10才にもピークがあっ
た.
5)発生月別では,男性は1月3月および9月
に多く,女性では1月および9月に多く,男女合 計では1月および9月に頻発している.6) 出血の原因.誘因がみとめとめられないも のが大多数で,到明しているものは感冒,打撲,
掻爬,下等の順である.
7)出血部位は殆んどがキーゼルバッハ部位 で,初診時既に止血しているものも多数あった.
8)治療は,腐蝕,タンポン挿入,止血剤投与 が主たるもので,外頸動脈の永久結紮を行なった 例は1例もなかった.ただし一時的に結紮し出血 部位を電気焼灼したのち,結紮を解除したものが
1例あった.
一一一 62 一
9) 内科的疾患を有するも.のは49例(19.6%)
であった。
C本論文の要旨は第3回鼻・副鼻腔研究会(昭39年9 月28臼)において口演発表した).
稿を終るに臨み,御指導,御校閲を載きました岩本彦 之蕪教授ならびに佐藤イクヨ教授に感謝いたします.
文 献
1)渡部泰夫・他:鼻出血の統計的観察.耳鼻臨床 .54(11♪ 925(昭36).
2) Hara, H.J.: Severe Eyistaxis. Arch otol 75 (3) 258 (1962).
3)耳鼻咽喉科(特集 出血と止血)33(4)277(昭 36).
4)山本悼三=鼻腔の易出血部位の形態学的研究 (1)(2).日耳鼻会報63(4)1008(昭35).
s) Tibbels, E.W.: EValuation of a new met−
hod of Epistaxis. Laryngoscope 73 (3) 306 (1963).
6) Horpinan, J.A.: Management of Epistaxis other than from hittles Area. Arch Otol 75 (3) 254 (1962).
7) Ringenberg, J.C.: A new aid in the Treat−
ment of Epistaxis. Laryngoscope 73 (10 1493 (1963).