. 序論 文部科学省は、児童・生徒の体力低下の問題に関し て、基礎的な身体能力を身に付けさせるとともに、運 動する児童と運動しない児童の二極化を解消し、体力 を高めることの重要性とその対策の強化を重視してい る。その結果、文部科学省が毎年実施している 全国 体力、運動能力・運動習慣調査報告書(2018) による と、全国の児童の体力は緩やかな向上を示す体力項目 が多くみられるようになった。しかし、1985年頃と比 べると、依然として走能力は3∼5%程度低下、跳能 力と投能力については17∼20%程度も低い状況である。 特に2015年の小学 男子立ち幅跳びの記録は過去最低 の値を記録している。こうしたことから跳能力を評価 する立ち幅跳びの記録の向上を図った積極的な取り組 みが必要であると える。 近年、運動能力の二極化が進むなかで運動能力の高 い児童は、運動遊びのなかで跳ぶ動作を自然と身につ け、運動を繰り返し行うことで運動能力を高くしてい ることが えられる。一方、運動経験や遊びに消極的 な児童は動作の学びがなく、運動能力が低いままとな っている可能性がある。特に跳能力が低い児童達には、 体育の授業や運動遊び(以下、運動学習とする)を通じ て、少しでも基礎運動能力を高めるための 意工夫が 必要である。また幼児期や児童期前半に高く跳ぶ・遠 くに跳ぶ動作の運動経験が重要であり、その経験不足 が根本的な問題だと指摘する報告もある 。そのため、 できるだけ幼児期や児童期前半の早い時期に個別また は集団での運動指導が必要不可欠になると える。 加齢に伴う基礎的な跳能力や動作の発達に関する研 究報告では、幼児期や児童期前半に動作が急激に発達 する時期であり、跳動作は7∼8歳頃にはほぼ成熟し た状態に達しているという報告が多い 。一方では小 学 期全般を通じて体力とともに運動能力を規定する 動作因子が変化しながら成熟していくという報告もあ る 。さらに成熟過程には男女の性差がみられるとい う報告もある 。いずれにしても幼児期や児童期の早 い時期から運動能力を高めるために、動作の習熟を促 す指導が必要になっていくと える。 児童期前半の運動指導が可能となるのは、体育の授 業であり、その時間の中で跳動作の指導の充実が必要 である。しかし、授業で扱える時間には制限があるた め効率性の高い教材や教具を える必要がある、最近 ではタブレット端末やビデオ映像で児童の動きを撮影 し、撮影した児童の映像や模範となる動きを視聴させ、 そのときに撮影した映像をスロー再生やコマ送りしな がら、ポイントを伝え指導するなどの工夫をして児童
運動学習が小学生低学年の跳能力と動作に及ぼす効果について
The Effect of Exercise Learning on Jumping Ability and Motion
in Elementary School-aged Lower Grade.
要旨
2019年10月8日受理 本研究では、大阪府岬町立F小学 の1年生と2年生、男女20名対象として立ち幅跳びの記録と動作の関係性を 明らかにした。また1回の授業で記録や動作がどのように変化してくのかについて検討した。その結果、立ち幅跳 びの記録と動作に関して19項目について検討を行ってみると、運動初期では、記録と①最大バック時の肩関節角度、 跳躍角度との間に高い関係性がみられた。また、1回の運動指導を行った前後の比較では、③最大バック時の膝 関節角度、⑩離地時の股関節角度、 着地時の膝関節角度が記録の向上に強く影響していた。すなわち立ち幅跳び の記録を高める動作として、腕をできるだけバックスイングして、肩関節の屈筋群を引き伸ばし、それと同時に最 大沈み込み時に股関節角度を小さくして重心を低くするようにしゃがみ込む動作をしながら、踏み切り動作をする ことが記録を伸ばすために有効であることがわかった。長 根 わかば
Wakaba NAGANE
(岬町立深日小学 )
矢 野
勝
Suguru YANO
(和歌山大学教育学部)
本 山
貢
Mitsugi MOTOYAMA
(和歌山大学教育学部)
本 山
司
Tsukasa MOTOYAMA
(東亜大学人間科学部)
本 山
光
Hikaru MOTOYAMA
(和歌山大学教育学部)
岡 田 良 平
Ryohei OKADA
(岬町立深日小学 )
達が跳ぶイメージを持ちやすくさせる授業実践に取り 組み、効果的であったという報告が数多い 。 跳動作を学習した後には、運動時間を増やす工夫が 必要となる。そのためには、授業の業前・業間・昼休 みの時間で運動遊びの時間を多くすることが重要であ る。学 生活の中で一番運動量を増やすことのできる 時間は、屋外での集団で実施する運動遊びである。そ のためには運動できる環境を整備することや楽しいと 感じる遊びの種目を 案し、実施することが不可欠と なる。また児童達が積極的に遊び参加するためには、 教員が中心となり学 全体で外遊びを誘導していく取 り組み姿勢が必要となる。 人が運動やスポーツをするということは、 歩く 、 走る 、 跳ぶ 、 投げる の基礎的な運動能力や技 能の組み合わせであり、全ての動作が習熟されている ことが望ましい。特に跳能力・動作を高めるためには、 ただ単に運動量を増やすことだけでは不十 であり、 動作の技術的支援があることで能力の向上は飛躍的に 高まると える。そのためには発達段階の年齢や性別 に相応しい指導方法が動作の科学的な理論に基づいて 行われることが必要であると える。 児童の跳能力を高めるための跳動作の 析に関する バイオメカニクス的研究報告は数多い 。湯浅ら は、跳ぶ時の肩関節最大伸展角度と腕の振り込み速度 が跳躍の向上に重要であること、Ashyら は上肢を上 手く うことで跳躍距離が伸びること、陳ら は下肢 の筋力の向上のみならず、筋の動員力や神経系の調整 力を高め、さらに上肢と下肢のそれぞれの部位におけ る動作のタイミングの取り方によって記録は向上する ことを、動作 析法を用いて明らかにしている。しか しながら小学 の1年生、2年生を対象として跳能力 や動作に着目し、長期間にわたって体育の授業や運動 遊びを実践し評価した報告は、筆者の知る限り見当た らない。 そこで本研究では、体育の授業や運動遊びを通じて 体力向上を目指して取り組んでいる大阪府岬町立F小 学 の1年生と2年生を対象に、6カ月間にわたって 運動学習を行い、その期間に立ち幅跳びの記録の測定 と動作を撮影し、低学年の運動能力と技術的変化を経 時的に比較を行い、記録や動作がどのように変化して いくのかについて検討した。さらに、1回の集中的な 授業前後での変化についても検討した。 . 研究方法 1. 対象者 対象者は大阪府岬町立F小学 に在籍する1年生男 子6名、女子3名の合計9名、2年生男子6名、女子 5名の合計11名、 計で20名を対象とした。身体的特 徴として身長および体重の平 値と標準偏差(SD)を 表1に示した。 2. 調査期間 跳能力と動作については立ち幅跳びで測定した。調 査期間は6月∼11月までの6カ月間とした、学 で行 う体育の授業と運動遊びの期間は6月∼7月、9月 ∼11月とした(7月後半∼8月末までは夏休み期間)。 また運動遊びについては、積極的に運動場などで外遊 びをするように指導した。 立ち幅跳びの記録は、6月5日と6月29日、7月2 日、10月22日、11月15日の合計5回実施し、動作撮影 については6月29日と7月2日の2回実施した。また 7月2日は、45 間の体育授業(立ち幅跳び)で跳び方 の指導を個別に行った後に動作撮影を行った。 3. 実験方法 1)動作撮影 立ち幅跳びの撮影方法は、躍方向に向かって対象者 の右側方10ⅿ地点に三脚でビデオカメラを固定した。 ビデオカメラの高さは、地面から1ⅿである。撮影速 度は、HSで300fpsに設定し、動作の撮影を行った。 (図1)。 2)二次元動作解析 撮影した立ち幅跳びの映像は、コンピューターに取 り込み、MEDIA BLENDを用いて 析を行った。 立ち幅跳びで撮影した映像の中で、対象となる児童 の最も記録のよい試技を 析した。立ち幅跳びにおけ るデジタイズポイントは、頭頂、右肩峰点、右肘関節 中心、右尺骨茎状突起、大 骨右大転子、右腓骨外果、 足先部の計7点であった。立ち幅跳びでの局面につい て、肩関節が最大バックスイング時を 最大バック 表1 対象者の身体的特徴 図1 立ち幅跳び 撮影方法
時 、膝の角度が最小時を 最大沈み込み時 、つま先 が地面から離れる離地瞬間時を 離地時 、踏み切り後 に足裏全体が地面に接地した瞬間時を 着地時 と定 義する。また、最大バック時から最大沈み込み時を 沈 み込み局面 、最大沈み込み時から離地時までを 踏み 切り局面 とする。 析項目は、①最大バック時の肩 関節角度、②最大バック時の股関節角度、③最大バッ ク時の膝関節角度、④最大バック時の体幹の前傾角度、 ⑤最大沈み込み時の肩関節角度、⑥最大沈み込み時の 股関節角度、⑦最大沈み込み時の膝関節角度、⑧最大 沈み込み時の体幹の前傾角度、⑨離地時の肩関節角度、 ⑩離地時の股関節角度、 離地時の膝関節角度、 離 地時の体幹の前傾角度、 跳躍角度、 着地時の肩関 節角度、 着地時の股関節角度、 着地時の膝関節角 度、 着地時の大転子の水平角、 着地時の地面から の大転子の高さ、 踏み切り時の初速度の合計19項目 である。立ち幅跳びの 析項目は、図2に示した。 踏み切り時の初速度については、足のつま先が地 面から離れる瞬間のコマから、30コマ後を 析の数値 とした。各関節の角度では、画面上から身体計測点を 結んでできる角を各関節の角度として用いた。肩関節 の角度は、上腕骨外果、肩峰点、大 骨大転子の3点 を結んでできる角度。股関節の角度は、肩峰点、大 骨大転子、腓骨外果の3点を結んでできる角度とした。 膝関節角度は、大 骨大転子、膝関節の中心位置、腓 骨外果の3点を結んでできる角度である。なお肩関節 角度では、腕が体幹の後ろにある角度を、負の数で、 体幹の前にある角度を、正の数で表した。 4. 岬町立F小学 の体育授業 1)6カ月間の体育授業 岬町立F小学 は児童数の減少とともに、1年生は 9人、2年生は11人と少人数であるため、体育の授業 は毎回1、2年生が合同で行っている。また、体育の 授業の指導については、体育専科の教員1名、1年生 の担任1名、2年生の担任1名の合計3人で行ってい る。 体育の授業は年間を通して授業計画に基づいて実施 され、運動遊びによる楽しさに触れ、基本的な動きを 身につける遊び方やその工夫をして友達に伝える力を 養い、友達と一緒に仲良く意欲的に運動する知識と技 能を身につけるための体育の授業目標となっていた。 年間計画は 体つくりの運動遊び 、 器械・器具を っての運動遊び 、 走・跳の運動遊び 、 水遊び 、 ゲ ーム 、 表現リズム遊び の内容で実施していた. 体 つくりの運動遊び では 体ほぐしの運動遊び 及び 多様な動きをつくる運動遊び で構成され、体を動 かす楽しさや心地よさを味わうとともに、伸び伸びと 体を動かしながら、様々な基本的な体の動きを身に付 けることを主なねらいとする運動遊びを計画的に実施 していた。跳ぶ運動については 体つくりの運動遊 び 、 器械・器具を っての運動遊び 、 走・跳の運 動遊び の単元の中で取り組んだ。 2)跳動作に焦点を当てた45 間の体育授業 跳動作の 跳ぶこと をテーマにして45 間の体育 の授業を7月2日に行った。まず、6月29日にタブレ ット端末で動作撮影を行った児童像を一人抽出し、授 業の始めにスクリーンに投影し、どのような動きをす れば遠くに跳べるのか、どのようなことを意識すれば よいのかなどについて問いかけた。また映像をスロー モーションで流しながら、腕をしっかり振り上げてい ること、膝を抱え込み跳ぶこと、跳んだ後の着地時に 膝を抱え込むことを強調し、児童達に指導と個別指導 を行った(写真1)。この授業での めあて は 腕を 大きく振り上げることができるようになること を授 業の単元目標とした。そのため3つの練習方法を用意 した。まず1つ目は、川跳び越えである(写真2)。マ ットの上に青いビニールテープを数本引き、それを川 に見立て、踏まないように跳び越える練習を行った。 幅は、全てが一定になるのではなく広い幅と狭い幅を 作り、児童達が自ら色々な距離に挑戦できるように場 の設定を行った。2つ目は、跳躍する位置を地面から ではなく、跳び箱の上から点数付けしたマットに向か っておもいっきり跳ぶ練習である(写真3)。この練習 では、高いところから跳ばせることによって跳ぶ感覚 を養うことができるようになるためである。また、し っかりと腕を振ることにより前に行くということも児 童達に理解させる工夫であった。跳び箱の高さは、安 全面も 慮し、3段に設定した。3つ目は、体育館の 少し高い位置にある手すりにひもをつるし、そこから 等間隔になるように風 を6個取り付け、また風 の 高さは、地面から1ⅿ50㎝に設定した(写真4)。等間 隔につるしている風 を地面から踏み切り、ばんざい をするように腕を振り上げ、風 にタッチしながら進 んでいく練習である。この3つの練習をそれぞれ7 程度、合計で約20 間行った。授業の最後には効果を 判定するために立ち幅跳びの記録の測定と動作の撮影 を行い、授業を終了した。 図2 立ち幅跳び 析項目
5. 統計処理 立ち幅跳びの記録と動作についての比較は、対応の ある二要因 散 析と多重比較を行った。また立ち幅 跳びの2回の記録と動作については、対応のあるt検定 を行った。さらに記録と投動作との関係については重 回帰 析、また年齢と性別の要因の影響を取り除いた 偏相関関係で評価した。統計処理は統計ソフト(SPSS Statistics 24)を利用し、有意水準は5%未満とした。 . 結果 1)立ち幅跳び 記録の比較 5回 立ち幅跳びの記録は、6月に2回、7月、10月、11 月の合計5回実施し、動作撮影については6月(6月29 日)と7月(7月2日)の2回実施した。その結果、記録 については5回連続して記録を測定し、また2回の動 作 析が実施できた1年生男子5名、女子3名の合計 8名、2年生男子6名、女子5名の合計11名、 計で 19名を対象として 析を行った。その結果は図3に示 した。男女全体の立ち幅跳びの記録(平 ±標準誤差) は、1回目で100.7±5.05ⅿ、2回目で110.4±1.38ⅿ、 3回目で113.7±2.51ⅿ、4回目で91.19±2.91ⅿ、5 回目で110.6±3.98ⅿとなり、1回目に比べて3回目で は有意に増加していた(P<0.05)。また2回目と5回 目で記録の増加傾向がみられた(いずれもP=0.062)。 さらに2回目に比べて3回目には有意に増加していた (P<0.01)。しかし2回目に比べ4回目および3回目 に比べて4回目では有意に低下していた(P<0.01)。 また4回目に比べて5回目では有意に増加していた (P<0.01)。 男女別(男子:11名、女子:8名)に 類して比較を 行った。その結果、男子の立ち幅跳びの記録は、1回 目で99.7±8.01ⅿ、2回目で112.7±2.01ⅿ、3回目で 116.6±2.51ⅿ、4 回 目 で103.0±3.54ⅿ、5 回 目 で 115.8±4.36ⅿとなり、1回目に比べて3回目には増加 傾向がみられ(P=0.061)、5回目には有意に増加して いた(P<0.05)。また2回目に比べて3回目には有意 に増加していた(P<0.05)。しかし2回目に比べて4 回目および3回目に比べて4回目には有意に低下して いた(P<0.05∼P<0.01)。 女子の立ち幅跳びの記録は、1回目で101.6±4.21 ⅿ、2回目で108.13±1.66ⅿ、3回目で110.8±2.58 ⅿ、4回目で79.4±4.97ⅿ、5回目で105.4±7.18ⅿと なり、1回目に比べて2回目には増加傾向がみられ (P=0.092)、3 回 目 に は 有 意 に 増 加 し て い た(P< 0.05)。また2回目に比べて3回目には増加傾向を示し ていた(P=0.74)、しかしながら 1回目に比べて4回 目には有意に低下していた(P<0.01)。2回目および 3回目に比べて4回目には、有意に低下していた(P< 0.05∼P<0.01)。4回目に比べて5回目には有意に増 加していた(P<0.01)。 2)体育授業前後での記録及び動作の変化 記録と動作 析を行うことができた2回目と3回目 の2回の 析を行った。2回の記録と動作 析19項目 のうち前後比較で測定できた18項目について、男女全 体の測定値で前後比較をした。その結果、記録は前(2 回目)の110.8±6.22ⅿから後(3回目)に114.1±8.32 ⅿとなり、有意に増加していた(P<0.01)。③最大バッ ク時の膝関節角度は、前の123.9±25.30度から後に 133.6±21.42度となり、有意に大きくなっていた(P< 0.05)。⑩離地時の股関節角度は、前の162.5±11.68度 から後に153.2±11.95度となり、有意に狭くなってい た(P<0.01)。 着地時の膝関節角度は、前の119.2± 16.93度から後に105.1±24.68度となり、有意に狭くな っていた(P<0.05)。また、⑥最大沈み込み時の股関節 角度は狭くなり、 着地時の肩関節角度は広くなり、 着地時の地面からの大転子の高さは低くなる傾向が みられた。その他の項目については、有意な変化がみ られなかった。 写真1 スクリーンに映像投影 写真3 跳び箱の上から跳ぶ練習 図3 立ち幅跳びの記録の比較 5回 写真2 川跳び越え練習 写真4 腕を振り上げる練習
男子の測定値を前後比較した。その結果、記録は前 の112.7±6.67ⅿから後に116.6±8.32ⅿとなり、有意 に増加していた(P<0.05)。③最大バック時の膝関節 角度は、前の120.6±27.39度から後に133.1±26.29度 となり、有意に増加していた(P<0.05)。また、⑨離地 時の肩関節角度は広くなり、 着地時の膝関節角度は 狭くなる傾向がみられた。その他の項目については、 有意な変化がみられなかった。 女子の測定値を前後比較した。その結果、記録は前 の108.1±4.70ⅿから後に110.8±7.29ⅿとなり、増加 傾向を示した(P=0.074)。⑩離地時の股関節角度は、 前の162.5±11.68度から後に153.2±11.95度となり、 有意に狭くなっていた(P<0.01)。 着地時の地面か ら の 大 転 子 の 高 さ は、前 の0.47±0.070ⅿ か ら 後 に 0.40±0.066ⅿとなり、有意 に 低 く な っ て い た(P< 0.05)。また、 離地時の膝関節角度は狭くなり、 着 地時の大転子の水平角は狭くなる傾向がみられた。そ の他の項目については有意な変化がみられなかった。 立ち幅跳びの記録2回(前と後)、前後の変化量と動 作 析18項目について、学年と性別の影響を取り除い た偏相関関係をみてみた(表2)。その結果、立ち幅跳 び前の記録と①最大バック時の肩関節角度、⑩離地時 の股関節角度、 跳躍角度の3項目との間で有意な相 関関係がみられた(いずれもP<0.05)。立ち幅跳び後 の記録と 着地時の肩関節角度の1項目との間で有意 な相関関係がみられた(P<0.05)。前後の変化量と動 作 析については、相関関係がみられなかった。 3)重回帰 析および偏相関関係による記録と動作の 関連(授業前後の比較) 立ち幅跳びの記録2回と動作 析19項目(後では18 項目)の関係について、重回帰 析(ステップワイズ法) を行った(表2)。その結果、前の記録と動作 析につ いては、①最大バック時の肩関節角度と 跳躍角度の 2項目が抽出された。前の記録=152.954(定数)+0. 119×①最大バック時の肩関節角度−0.604× 跳躍角 度の式となった。後の記録と動作 析については、① 最大バック時の肩関節角度の1項目(要因)が抽出され た。後の記録=128.586(定数)+0.190×①最大バック 時の肩関節角度の式となった。 . 察 立ち幅跳びについては、6カ月間の追跡であった。 記録の変化率は全体で9.8%となり、男子で16.5%、女 子で3.7%と、男子の変化率が大きかった。スポーツ庁 が示す2016年度体力・運動能力調査の1・2年生の立 ち幅跳び年間変化量を計算してみると、全体で9.1%、 男子で9.2%、女子で9.0%となっている。すなわち立 ち幅跳びでも1年間の変化量を男子では6カ月間で大 きく上回る改善が認められていた。 立ち幅跳び授業前後の2回の記録と動作 析19項目 との間でどのような関係があるのかについて、記録と 重回帰 析、偏相関関係で検討してみた。その結果、 重回帰 析では、記録と①最大バック時の肩関節角度 と 跳躍角度の2要因、偏相関関係では、その2要因 に加えて⑩離地時の股関節角度、 着地時の肩関節角 度との関係性が高いことがわかった。また、2回の前 後比較で立ち幅跳びの記録に有意な向上がみられた。 その動作の変化をみてみると、③最大バック時の膝関 節角度、⑩離地時の股関節角度、 着地時の膝関節角 度が記録の向上に強く影響していた。さらに⑥最大沈 み込み時の股関節角度、 着地時の肩関節角度、 着 地時の地面からの大転子の高さの要因が影響していた。 これらのことから立ち幅跳びの記録を高める動作とし て、立ち幅跳びの運動初期の動作としては、腕をでき るだけバックスイングさせて肩関節角度を大きくし、 肩関節の屈筋群を引き伸ばし、その反動を付けて筋力 を増加させ、それと同時に最大沈み込み時には、股関 節角度を小さくして重心を低くするようにしゃがみ込 む動作をしながら踏切動作を行うことが記録に大きく 影響していくようである。また離地時には股関節角度 を最初は小さくして大きく斜め前方に伸びあがる動作 を行うことが重要になっていることがわかった。跳躍 角度については、50度∼60度を目安として前方に飛び 出し、着地時には肩関節角度を大きく保ちながらしっ かりと抱え込み動作を行い、地面から腰の位置(大転 子)の高さを低くして着地する動作を連続して行うこ とが重要になっていくことがわかった。陳 は小学生 全学年を対象にして跳躍距離と動作 析を行った結果、 最大バック時の肩関節角度が最も強く影響していたと 報告し、本研究はその報告と一致する結果であった。 また、宮崎ら の報告では、小学生は学年が上がるにつ れて腕のバックスイングが大きくなり、この動作の変 化が跳躍距離を段階的に高めていると指摘している。 また下肢の い方について、素早くそして深くしゃが み込み、下肢の筋力と反動を利用して踏み切り、空中 動作でバランスを維持しながら、着地時には膝関節、 股関節を屈曲させることが重要であるとしている。本 表2 立ち幅跳び 1、2年生 動作 析 まとめ
研究では、先行研究の動作 析と同様な観察的 析結 果となった。また、 析結果から、本研究で児童に運 動指導する際に強調していた、腕を大きく振り上げる こと、膝をしっかりと曲げて作った反動を って跳ぶ こと、着地時には膝を抱え込むことの3つの目的に当 てはまる結果となった。記録の向上と動作の改善から も、低学年の児童に1回の授業でも、目的を持って運 動指導することで、運動能力を十 に向上させる可能 があると えられた。 本研究では男女差による動作の変化についてみてみ た。その結果、男子では、③最大バック時の膝関節角 度が最も大きく変化していた。その他、⑨離地時の肩 関節角度、 着地時の膝関節角度が改善する傾向にあ った。また女子では⑩離地時の股関節角度と 着地時 の地面からの大転子の高さが有意に変化し、 離地時 の膝関節角度と 着地時の大転子の水平角が改善する 傾向にあった。このように跳躍距離が向上する場合の 効果には、男性では腕を大きくバックスイングして振 り上げる動作で肩関節角度を大きくしながら上体を上 にして、高い位置から大きくしゃがみ込みこんでいく 動作の変容が記録に影響しているという特徴がみられ た。女子では離地時の股関節と膝関節を小さくして飛 び出し、着地時には抱え込むように上体を低くするよ うな下肢の動作をさせることで記録を高めているとい う性差による動作の特徴的な違いがみられた。高本 ら 、陳 らは、小学 期全般を通じて体力とともに運 動能力を規定する動作因子が変化しながら成熟してい くと報告し、男女の性差による違いがあることを指摘 している。本研究の結果からも、立ち幅跳びの動作の 指導を行う場合には、体力差や性差に対応した指導が 必要になる可能性が えられた。 スキャモンの発育発達曲線によれば、運動を制御す るために必要な神経系の発達は、6歳頃までに成人の 90%程度に達すると言われている。加齢に伴う基礎的 な跳能力や動作の発達に関する研究報告 では、幼児 期や児童期前半は動作が急激に発達する時期であり、 その時期は跳動作で7∼8歳頃であると報告している。 そのため幼児期や児童期の前半で運動技能を習得する ための運動学習の機会が必要になってくる。また性差 による運動能力と動作の習熟度に違いがみられるよう である。 文部科学省が毎年実施している 全国体力、運動能 力・運動習慣調査報告書(2018) によると、全国の児 童の体力は緩やかな向上を示す体力項目が多くみられ るようになっている。しかしながら50ⅿ走などの走能 力に比べて、立ち幅跳びの跳能力については明らかに 低迷状況が続き、体力的バランスが重要な課題として 指摘されている。跳能力と動作は、上肢と下肢の筋力、 筋パワー、瞬発力、調整力、コンビネーション能力、 柔軟性、巧緻性、バランス能力などの体力関連要因が すべてが重要な体力である。そのためすべての関連要 因について年齢や性別に合った発達段階での跳能力と 動作・技能の習熟が必要になってくると える。伊藤 ら は、立ち幅跳びの記録は、柔軟性の評価である長座 体前屈と高い正の相関関係にあることを報告している。 跳能力と動作を高めるためには、柔軟性を高めること も必要になってくると える。 金ら によると跳能力の動作習熟については、体育 の授業や運動遊びの 合的な運動学習による経験量に 強く影響されることを指摘し、幼児期や児童期前半に 高く跳ぶ・遠くに跳ぶなどの運動経験不足が根本的な 問題だと報告している。そのため、できるだけ幼児期 や児童期前半の早い時期の運動指導が必要不可欠にな ると える。 児童期前半の運動指導は、体育の授業が効率的であ り、その時間の中で跳動作の指導の充実が必要である。 本研究では跳動作の 跳ぶこと をテーマにした45 間の体育の授業を7月2日に行った。事前にタブレッ ト端末で動作撮影を行った児童の映像を一人抽出し、 授業の始めにスクリーンに投影し、どのような動きを すれば遠くに跳べるのか、どのようなことに意識すれ ばよいのかなどについて問いかけの授業を行った。ま た映像をスローモーションで流しながら、腕をしっか り後ろに振り上げること、膝を曲げ、抱え込み動作に 移行して腕を大きく前に振り上げる動作をして跳ぶこ と、跳んだ後に膝を抱え込むことを強調し、児童達に 集団指導と個別指導を行った。その効果、1回の指導 で、3%の記録の有意な向上がみられた。動作の変化 では、③最大バック時の膝関節角度、⑩離地時の股関 節角度、 着地時の膝関節角度が有意に改善していた。 さらに⑥最大沈み込み時の股関節角度、 着地時の肩 関節角度、 着地時の地面からの大転子の高さの要因 が改善の傾向を示した。1回の体育の授業でも、腕を できるだけバックスイングさせて肩関節角度を大きく し、肩関節の屈筋群を引き伸ばし、その反動を付けて 筋力を増加させ、それと同時に、最大沈み込み時には 股関節角度を小さくして重心を低くするようにしゃが み込む動作をしながら踏切動作に移行できるようにな っていた。これにより、1回の指導でも即効的な動作 の変容が期待できることがわかった。井出 は、立ち幅 跳びではなく、ボール投げの授業を1回、45 間行っ た結果、投動作全体の動きが有意に改善したことを報 告している。このように1回の運動指導でも明らかに 跳・投動作の変容が期待できることがわかった。 跳能力と跳動作を同時に習得するためには、体育の 授業を中心とした単元での学習と児童達が自ら積極的 に運動遊びを行うという複合的で活動的な取り組みが 効率的であると える。特に運動経験の少ない女子児 童は、体育の授業で動作の習熟を図ることが重要であ り、効果を上げていくことにつながると える。しか
しその時間だけでは運動量を多くすることには限界が ある。そのための運動時間を増やす工夫として、授業 の業前・業間・昼休みの時間を積極的に活用して運動 遊びの時間を多くする工夫が重要になってくる。学 生活の中で最も運動量を増やすことのできる時間は、 屋外での集団で実施する運動遊びが効果的である。そ のためには運動できる環境を整備することや楽しいと 感じる遊びの種目を 案して実施することが不可欠と なる。また児童達が積極的に遊び参加するためには、 教員が中心となり学 全体で外遊びに誘導していく姿 勢が重要になると える。 最後に効率的で効果的な指導方法や運動遊びの実践 方法などを繰り返し検討し、学 全体で取り組む対策 につなげていくことが求められると える。さらに、 幼少期の跳能力や動作の発達段階を見据えた学習プラ ンを検討していく必要があると える。 . 結論 本研究では、体育の授業や運動遊びを通じて体力向 上を目指して取り組んでいる大阪府岬町立F小学 の 1年生と2年生を対象に、6カ月間にわたって立ち幅 跳びの記録の測定と動作を撮影し、低学年の運動能力 と技術的変化を経時的に比較 析を行い、記録や動作 がどのように変化していくのかについて検討した。ま た、1回の集中的な授業前後での変化についても検討 を加えた。その結果以下のことが明らかとなった。 1)立ち幅跳びの動作は、腕をできるだけバックス イングさせて肩関節角度を大きくし、肩関節の屈筋群 を引き伸ばし、その反動を付けて筋力を増加させ、そ れと同時に最大沈み込み時には、股関節角度を小さく して重心を低くするようにしゃがみ込む動作をしなが ら踏切動作を行うことが記録の向上に大きく影響して いくと推察された。また離地時には股関節角度を最初 は小さくして大きく斜め前方に伸びあがる動作を行う ことが重要になっていくことがわかった。跳躍角度に ついては50度∼60度を目安として前方に飛び出し、着 地時には肩関節角度を大きく保ちながらしっかりと抱 え込み動作を行い、地面から腰の位置(大転子)の高さ を低くして着地する動作を連続して行うことが重要に なってくると えられる。 2)1回の集中的な授業でも、目的を明確にし、運 動指導することで記録と動作の向上につながることが 示唆された。 最後に本研究は、小学 教師が低学年の児童に対し て跳能力を高めるための動作の指導について、大変有 益となる情報を得ることができた。今後、幼少期・学 童期における効率的で効果的な指導方法や運動遊びの 実践方法などについて検討していきたい。 引用参 文献 1) 全国体力, 運動能力・運動習慣等調査委員会, 平成28年度 全国体力, 運動能力・運動習慣等調査報告書. 2) 高橋 夫(2000):新学習指導要領に即した授業の課題, 体 育科教育, 48(4), 61-62.
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