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日本人学生の和製英語に関する認識調査とその報告
五十嵐 優 子
1.はじめに
日本語には、多くのカタカナで表記された借用語が存在している(国立国語 研究所,1964; Igarashi, 2008)。借用語とは、外国語の単語を日本語に借用し、 日本語の単語として用いているもののことで、日本語では外来語とも言われて いる。本稿では、借用語の中でも、特にカタカナで表記されている英語からの 借用語について言及していくが、英語からの借用語は大きく二種類に分けられ る。一つは、英語から直接借用し、その意味が英語と同一の単語で、これを本 稿ではカタカナ英語と呼ぶ(例:コンピュータ)。もう一つは和製英語と言わ れるもので、これには日本人が英単語を使って作り出した日本独自の単語 (例:ドクターストップ)及び英語本来の意味とは異なって使用している単語 (例:マンション)を含む。 和製英語は、英語母語話者には通じないことが様々な先行研究(例:柴崎・ 玉岡・高取,2007; Inoue, Kess, & Miyamoto, 2001)により明らかになっている。 ところが「和製英語は外国語として通用しない」という事実を日本人学生が認 識しているのかどうかを明らかにするような調査はまだ行なわれていない。筆 者はこの問題を明らかにするために和製英語の認識調査を2007年と2010年に実 施した。本稿ではこれらの調査結果を報告し、この結果を社会言語学や応用言 語学でデータを分析する時によく用いられる「英語学習歴」「英語圏居住期 間」「英語力」という要因を用いて分析することで、日本人学生の和製英語に 関する認識力を高めるためにはこれらのどの要因が必要なのかを考察していく。- 22 -
2.調査方法
2007年と2010年の調査では、アンケートと筆記テストを被験者に対して実施 した。2007年の調査は、筆者がカナダで実施した小規模なパイロット・スタ ディのことである。このスタディの被験者は、英語圏に 7 年以上滞在し英語圏 の大学院に在籍した経験のある高度な英語力を保持している 5 名と、英語圏に 滞在して 3 ヵ月以内のビクトリア大学附属の English as Second Language(ESL) スクールに通っている日本の大学で経済学・経営学を学んでいる大学 2 年生 5 名である。高度な英語力を持つ被験者の構成は、英語圏大学院での博士号取得 者 2 名・英語圏大学院での修士号取得者 1 名・英語圏大学院の修士課程在籍者 2 名である。2010年の調査では、日本の大学の英文科に所属している 1 年生64 名と 3 年生27名の計91名を被験者とした。これらの被験者の中には、英語圏に 3 年程度の居住歴のある帰国子女が各学年に一人ずつ含まれている。 二つの調査で実施したアンケートの内容についてであるが、被験者の「英 語」に関する情報を得るため、(1)英語を何年間学習しているのか、(2)英語 圏での居住経験はあるのか、ある場合はどれくらいの期間住んでいたのか、 (3)英語の資格試験の点数や級について回答してもらった。また、被験者が和 製英語をどの程度認識しているのかを確認するため、(1)カタカナで表記され ている英語からの借用語は和製英語とカタカナ英語に分けられることを知って いるか、(2)英語母語話者との会話で、カタカナ英語だと思って使った単語が、 実は和製英語だったという経験をしたことがあるか、(3)和製英語を英語母語 話者との会話で使用した時、それを和製英語と知っていて使ったのか、(4)和 製英語とカタカナ英語を見分けられるかの質問に「はい」と「いいえ」で回答 してもらった。 次に筆記テストであるが、上記の二つの調査では「和製英語を英語圏で使用 している英単語に書き換えるテスト」を行なった。このテストでは、カタカナ で表記した和製英語20語をテスト用紙に出題し、英語圏で使用している単語に、 英語の綴りかカタカナで、被験者に実際に書き換えてもらった。例えば「オー ダーメイド」という和製英語は、英語圏で使用している単語の「カスタムメイ ド」をカタカナや「custom made」と英語の綴りで、「テイラーメイド」をカタ カナや「tailor made」と英語の綴りで回答した場合は正解となり、「オーダー- 23 - メイド」とカタカナや「order made」と英語の綴りで回答した場合は不正解と なる。このテストでは、Inagawa(2006)の調査で用いられた和製英語を参考 に20語を使用した。 この和製英語テストで得たデータを「英語学習歴」「英語圏居住期間」「英語 力」で分析していくが、本稿での「英語学習歴」とは、被験者が英語を学んで いた期間のことを表し、学校の授業で学んだ期間に加えて、塾や英会話スクー ルで英語を学んだ期間も含めた。更に、英語圏の大学院の修士や博士課程に在 籍している被験者や修了した被験者は、そこで英語を学んでいたわけではない が、英語で研究をしているため、この期間も英語学習歴に含めた。「英語圏居 住期間」とは、英語圏に旅行ではなく、単純に、一ヵ所に長く滞在していた期 間のことを指す。また、本稿では「英語力」として、被験者の多くが TOEIC のスコアを保持していたため、そのスコアを使用することにした。
3.調査結果
3.1.アンケートの結果 まず2007年と2010年の調査では、アンケート形式で、(1)英語を何年間学習 しているのか、(2)英語圏での居住経験はあるのか、ある場合はどれくらいの 期間住んでいたのか、(3)英語の資格試験の点数や級について尋ねた。本稿で は、2007年の調査の ESL グループの被験者を ESL、もう一つのグループを大 学院と表示し、2010年の調査の被験者グループを大学 1 年生と大学 3 年生と表 示して調査結果を示す。 下記の表は、各グループの被験者の英語学習年数の分布を示したものである。 表 1 .各グループの被験者の英語学習歴 英語学習歴 ESL 大学院 大学 1 年生 大学 3 年生 7 年 1 名 39名 8 年 2 名 9名 9 年 1 名 9名 11名 10年 1 名 1名 5名 11年 5名- 24 - 12年 5名 2名 13年 1名 3名 15年 5 名 1名 合計 5 名 5 名 64名 27名 表 1 から分かる通り、全被験者は英語学習歴が 7 年から15年の間に分布して いるが、学習歴が14年の被験者はいなかった。また大学 1 年生では、英語学習 歴が 7 年の被験者が約半数を占めていた。 次に、各グループの被験者の英語学習期間平均を下記の表に示す。 表 2 .各グループの被験者の英語学習歴の平均年数 英語学習歴 ESL 大学院 大学 1 年生 大学 3 年生 平均学習年数 8 年 4 カ月 15年 7 年 5 カ月 10年 5 カ月 表 2 から、大学院グループの英語学習期間平均が一番長く、大学 1 年生グ ループの学習期間平均が一番短いことが分かる。 次に、各グループの被験者の英語圏での居住期間の分布を表 3 に示す。 表 3 .各グループの被験者の英語圏居住期間 英語圏居住期間 ESL 大学院 大学 1 年生 大学 3 年生 0 61名 2 ヶ月 4 名 3 ヶ月 1 名 4 ヶ月 23名 6 ヶ月 1名 8 ヶ月 1名 1 年 2名 1名 3 年 1名 1名 7 年 1 名 9 年 2 名 14年 1 名 15年 1 名 合計 5 名 5 名 64名 27名
- 25 - 表 3 から、全被験者は英語圏に0から15年の間に分布しており、大学 1 年生 は海外での居住経験の全くない学生が大多数で、大学 3 年生は 4 ヶ月間滞在し た学生が大多数なことが分かる。 次に、各グループの被験者の英語圏での居住期間の平均を表 4 に示す。 表 4 .各グループの被験者の英語圏居住期間の平均 英語圏居住期間 ESL 大学院 大学 1 年生 大学 3 年生 平均 2 ヶ月 10年 6 カ月 1 ヶ月 6 ヶ月 表 4 から、大学院グループの英語圏居住年数平均が一番長く、他のグループ は半年未満の居住年数平均で、特に大学 1 年生では一か月の居住期間平均であ ることが分かる。 次に、本稿では各グループの被験者の英語力を表すものとして TOEIC のス コアを採用することにしたが、TOEIC スコア別の被験者の分布を表 5 に示す。 なお、大学 1 年生と大学 3 年生の中には、TOEIC スコアが未記入の学生がい たため、下記の表にその人数も記載した。 表 5 .各グループの被験者の TOEIC スコア TOEIC スコア ESL 大学院1 大学 1 年生 大学 3 年生 300点台 4 名 400点台 1 名 6名 500点台 8名 11名 600点台 2名 9名 700点台 2名 5名 800点台以上 5 名 1名 スコア未記入者 45名 2名 合計 5 名 5 名 64名 27名 上記の表から、全被験者は TOEIC300点台から800点台以上の間に分布して おり、TOEIC500点台の英語力を持っている被験者が一番多いことが分かる。 次に、各グループの TOEIC の平均点数を表 6 に示す。なお、大学院生グ ループの被験者の正確な TOEIC スコアを把握していないため、平均点数を800
- 26 - 点以上と表に記載している。 表 6 .各グループの被験者の TOEIC スコア TOEIC スコア ESL 大学院 大学 1 年生 大学 3 年生 平均 371.6点 800点以上 560.4点 617.4点 表 6 から、ESL グループの平均点数が一番低く、次に低いのが大学 1 年生 グループであることが分かる。 ここまでは被験者の「英語」に関するバックグラウンドをまとめてきた。次 にアンケートで尋ねた和製英語の認識に関する四つの質問の結果を報告する。 各問いに対する下記の表に示されている数字は、各グループ中でのパーセン テージを表している。例えば、表 7 の ESL グループで「はい」と回答した被 験者は、ESL グループ被験者全 5 名中の60% で、大学院グループで「はい」 と回答した被験者は、大学院グループ被験者全 5 名中の80% であったことを 示している。表 7 は「英語からの借用語は和製英語とカタカナ英語に分けられ ることを知っているか」という問いに対しての結果である。 表 7 .英語からの借用語は和製英語とカタカナ英語に分けられることを知って いるか 被験者 はい ESL グループ 60% 大学院グループ 80% 大学 1 年生グループ 20.31% 大学 3 年生グループ 40.74% この表から、大学 1 年生と 3 年生の被験者は和製英語がカタカナ英語とは違 うということを認識している被験者が、ESL グループと大学院グループの被 験者より少ないことが分かる。また、大学院の被験者の中にも和製英語とカタ カナ英語の違いを知らない人が僅かではあるがいることも示された。 次に「英語母語話者との会話で、カタカナ英語だと思って使った単語が、実 は和製英語だったという経験をしたことがあるか」という問いに対して、表 8 の結果を得た。
- 27 - 表 8 .カタカナ英語だと思って使った単語が和製英語だったということがあるか 被験者 はい ESL グループ 80% 大学院グループ 80% 大学 1 年生グループ 32.81% 大学 3 年生グループ 66.67% この表から、英語母語話者と英語で話す時にカタカナ英語だと思って使った 単語が、実は和製英語であったという経験をしたのが一番少ないのは大学 1 年 生で、次いで大学 3 年生となっており、ESL グループと大学院グループの被 験者よりも比率が低くなっていることが分かる。 三つ目の問いとして「和製英語を英語母語話者との会話で使用した時、それ を和製英語と知っていて使ったのか」を尋ねたが、これに対する結果は表 9 の 通りである。 表 9 .英語母語話者との会話で和製英語と知っていて使ったのか 被験者 はい ESL グループ 0% 大学院グループ 0% 大学 1 年生グループ 1.56% 大学 3 年生グループ 3.7% 表 9 から、ESL と大学院の被験者と大学生では非常に僅かではあるが異なっ た結果を示しているのが分かる。ESL と大学院グループの被験者中で、和製 英語を英語母語話者との会話で使用したことのある被験者は、それが英語圏で は通用しない単語であることを知らなかったと回答しているのに対し、大学生 は和製英語だと知っていてそれを使ったと回答している学生が僅かながらでは あるが存在していた。 次に「和製英語とカタカナ英語を見分けられるか」との問いに対しては下記 のような結果を得た。
- 28 - 表10.和製英語とカタカナ英語の見分け 被験者 はい ESL グループ 0% 大学院グループ 80% 大学 1 年生グループ 0% 大学 3 年生グループ 0% 上記の表の通り、大学院グループの被験者のみが、和製英語とカタカナ英語 を見分けられると回答した。 3.2.和製英語を英語圏で使用している英単語に書き換えるテストの結果 ここでは、和製英語を英語圏で使用している単語に書き換えるテストの結果 を示す。このテストで用いた和製英語20語とその各単語に対する各グループの 正答率は下記の表の通りである。 表11.和製英語を英単語に書き換えるテストでの各グループの正答率 和製英語 答率(%)ESL の正 正答率(%)大学院の 大学 1 年生の正答 率(%) 大学 3 年 生の正答 率(%) 1 オーダーメイド 20 80 6.3 3.7 2 カンニング 40 100 31.3 48.1 3 ガソリンスタンド 20 100 20.3 40.7 4 ガードマン 0 60 9.4 18.5 5 キーホルダー 60 100 7.8 18.5 6 クーラー(冷房用) 40 100 53.1 51.9 7 ゲームセンター 0 20 1.6 0 8 シール(貼るもの) 60 100 29.7 51.9 9 ジーパン(洋服の) 80 100 45.3 66.7 10 ナイター 20 100 12.5 37 11 ナンバープレート(車の) 0 60 0 0 12 ハイソックス 0 20 10.9 14.8 13 ハンドル(車の) 0 100 0 0 14 フライドポテト 40 100 37.5 66.7 15 フロント(ホテルの) 20 100 7.8 22.2
- 29 - 16 プリント(学校で配る) 40 100 9.4 22.2 17 ペーパーテスト 0 80 0 3.7 18 マークシート(テストに使う) 0 40 1.6 3.7 19 モーニングコール 20 80 4.7 37 20(電子)レンジ 60 100 40.6 48.1 平均 26 82 16.49 27.77 全20単語の各グループの正答率の平均は、ESL で26%、大学院で82%、大学 1 年生で16.49%、大学 3 年生で27.77% となっており、大学 3 年生の正答率平 均が ESL のものとほぼ同じで、大学 1 年生の結果もこれらの正答率平均に近 いことが分かる。このことから、大学院グループ以外の被験者にとって和製英 語を英語圏で使用している英単語に書き換えるテストは難しく、大学院グルー プとは非常に異なる結果を示すことが分かった。 正答率の低い単語は各グループとも「ゲームセンター」「ナンバープレー ト」「ハイソックス」「ハンドル」「ペーパーテスト」「マークシート」で、正答 率の高い単語は「クーラー」「ジーパン」「フライドポテト」「(電子)レンジ」 であった。 次に、全被験者を英語学習期間別に分類して和製英語書き換えテストにおけ る正答数の平均値がどのようになっているのかを図 1 に示した。 図 1 .英語学習歴と和製英語書き換えテストの正答数平均 16 14 12 10 8 6 4 2 0 英語学習歴 7 年 8 年 9 年 10 年 11 年 12 年 13 年 15 年 和製英語テスト正答数平均
- 30 - 図 1 が示している通り、年数によって多少上下はあるが、全体として英語学 習歴が長くなるにしたがって被験者の正答数が上昇していっているのが分かる。 よって、英語学習歴が長ければ長いほど和製英語に対する書き換えテストの正 答数が増える傾向があり、英語学習歴と和製英語テストの正答数には関係があ ると推察する。 次に、英語圏に住んだ期間別による全被験者の和製英語書き換えテスト結果 の平均を見てみよう。 図 2 が示す通り、英語圏に住んだ経験がある程度長ければ和製英語テストで は良い成績がだせるが、滞在期間が長ければ長いほど正答数が多くなっている とは言えない結果となっている。このことから、英語圏での居住歴だけではな く、何か他の要因もこのテストで良い結果をだすのに必要だということを示し ているのではないかと推察する。 最後に、全被験者の TOEIC スコア別の和製英語書き換えテストの正答数平 均の分布を見てみる。 図 2 .英語圏居住期間と和製英語テストの正答数平均 20 18 16 14 12 10 8 6 4 2 0 英語圏居住期間 0 2 ヶ月 3 ヶ月 4 ヶ月 6 ヶ月 8 ヶ月 1 年 3 年 7 年 9 年 14年 15年 和製英語テスト正答数平均
- 31 - 上記の図が示す通り、概ね右肩上がりのグラフになっているのが分かる。こ のことから、英語力が高い被験者ほどテストの正答数が多いと言うことができ、 英語力と和製英語テストの結果には関連性があると言える。
4.考察
4.1.アンケートの結果について アンケートの一つ目の質問である「英語からの借用語は和製英語とカタカナ 英語に分けられることを知っているか」については、表 7 に記載されているよ うに2010年の調査の被験者は和製英語がカタカナ英語とは違うということを認 識している学生が大学 1 年生グループで20.31%、大学 3 年生グループで 40.74%と少なく、2007年の調査の被験者の認識率(ESL グループで60%、大 学院グループで80%)よりも割合が少ないことが分かった。また、二つ目の質 問「英語母語話者との会話で、カタカナ英語だと思って使った単語が、実は和 製英語だったという経験をしたことがあるか」については、表8に示されてい るようにこの経験をしたのが一番少ないのは大学 1 年生で、次いで大学 3 年生 図 3 .TOEIC スコアと和製英語テストの正答数平均 14 12 10 8 6 4 2 0 TOEIC スコア 300 点台 400 点台 500 点台 600 点台 700 点台 800 点台 和製英語テスト正答数平均- 32 - となっており、ESL と大学院の被験者よりも比率が低くなっていた。 この結果から、二つのことが推測できる。まず一つ目は、大学 1 年生と 3 年 生グループの被験者は ESL と大学院グループの被験者よりも英語母語話者と 接する機会が少なかったため、質問事項のような経験をすることがほとんどな かったということ、そして二つ目は、和製英語がカタカナ英語とは違うという 認識が低いため、自分が和製英語を使ったかどうかが分からず、この質問に答 えられなかったというものである。この二つの理由のため、大学 1 年生と 3 年 生の被験者のこの質問に関する比率が低くなったと推測する。 三つ目の「和製英語を英語母語話者との会話で使用した時、それを和製英語 と知っていて使ったのか」の問いに対しては、大学生の中には僅かではあるが それが和製英語だと知っていて使ったと回答した被験者もいたが、多くの被験 者が和製英語とは知らずに使っていたということが分かった。 これは、日本人学生はカタカナで表記された英語からの借用語はカタカナ英 語で、英語圏で使用している単語だと考えており、英語母語話者との会話で通 じない時に初めてそれが和製英語だと認識するということを示していると考え る。また大学 1 年生と 3 年生グループは和製英語だと知っていて使ったと回答 した被験者が僅かながらいるが、これについては、和製英語に対応する英語圏 で使用している英単語を知らなかったために、会話をする上で使わざるを得な かったと推測する。 4.2.和製英語を英語圏で使用している単語に書き換えるテストの結果につい て 「和製英語の英語圏で使用している英単語への書き換えテスト」で得られた 結果については、まず全体として ESL・大学 1 年生・大学 3 年生グループが テストで同じような正答率平均を示し、大学院グループのテストの正答率平均 とは異なることが分かった。大学院グループ以外の被験者の和製英語テストの 正答率が低い理由は、被験者の多くがこのテストを受けるまで出題された単語 が和製英語だとは認識しておらず、そのためこの単語に対応する英単語を知ら なかったため、テストで良い結果を出せなかったと推察する。 次に、上記のテスト結果を、「英語学習歴」「英語圏での居住期間」「TOEIC スコアを使っての英語力」の三つの要因をもとに分析した。まずテストの正答
- 33 - 数と英語学習歴との関連性は、全体として英語学習歴が長くなるにつれて被験 者の正答数が上昇していた。従って、英語学習歴が長ければ長いほど和製英語 に対する書き換えテストの正答数が多くなる傾向があり、英語学習歴は和製英 語テストの正答数と関連性が高いと考える。 次に、テストの正答数と英語圏での滞在期間との関連性であるが、英語圏に 住んだ経験がある程度長ければ和製英語テストで良い成績が出せるが、滞在期 間が長ければ長いほど正答数が多くなっているとは言えない結果となっていた。 このことから、このテストで良い結果をだすためには、英語圏への居住歴だけ ではなく、英語学習に対するモチベーションや、英語母語話者とコミュニケー ションの機会が関連しているのではないかと考える。つまり、英語学習に高い モチベーションを持った被験者や、英語母語話者と会話をする機会が多い被験 者は、このテストで良い結果を出せると推察する。 三つ目の要因の英語力とテスト結果との関連性については、テスト結果は概 ね右肩上がりのグラフになっていることが分かった。このことから、英語力が 高い被験者ほどこのテストでの正答数が多いということができ、英語力は和製 英語テストの結果に対して関連性が高いと考える。
5.結論
二つの調査のアンケート結果から、日本人学生はカタカナで表記された単語 を、英語から直接借用したカタカナ英語と認識する傾向があり、和製英語の存 在をあまり認識していないことが分かった。よって、日本人学生が和製英語を 認識するには、それは日本人が作り出した単語で、英語圏で使用している単語 ではないことを示さなければならないと考える。 また筆記テストの結果から、「英語学習歴」と「英語力」という要因とテス トの正答数との関連性は高く、「英語圏居住期間」とテストの正答数との関連 性は低かった。このことから、日本人学生の和製英語に関する認識力を高める ためには、「英語学習歴」と「英語力」が必要な要因で、英語学習に対し高い モチベーションを持った被験者や、英語母語話者と会話をする機会が多い被験 者はこのテストで良い結果を出せると推察するため、英語母語話者との会話の- 34 - 機会を多くすることも、日本人学生の和製英語に関する認識を高めるための必 要な要因であると考える。 今回の二つの調査では、ESL・大学 1 年生・大学 3 年生グループの被験者が 同じようなテスト結果を示し、大学院グループは異なるテスト結果を示した。 今後の課題としては、大学院グループのデータ傾向が正しいのかどうかを考察 するため、英語力が高く、英語圏での居住期間が長く、英語の学習歴の長い多 くの被験者に調査に参加してもらう必要があると考える。また次回の調査への 課題として、今回は被験者数が少なかったためデータを統計学的に処理してい ないが、多くの被験者に参加してもらいデータを統計学的に分析していくこと と、「和製英語を日本人学生の英語習得に活かしていくにはどうしたらよいの か」について考察し、日本人学生の英語力向上のために貢献していきたいと考 えている。
注
1 大学院生グループの被験者には TOEIC のスコアの記入を求めなかったた め正確な TOEIC のスコアは把握していないが、全員が北米の大学院に在 籍しているか修了しており、各被験者が大学院に入るために必要であった 最低限の英語力が TOEFL570点(PBT)だったことから、TOEIC のスコア を TOEFL から換算し、全員が TOEIC 800点以上のスコアを保持している とした。TOEFL のスコアから TOEIC のスコアへの換算には、ベネッセ (2006)の換算表を用いた。【参考文献】
Igarashi, Yuko (2008). The changing role of katakana in the Japanese writing system:
Processing and pedagogical dimensions for native speakers and foreign learners.
Saarbrücken, Germany: VDM Verlag Dr. Müller.
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on learners’ English usage. Master Thesis, School of Language and Comparative
Cultural Studies, University of Queensland, Brisbane St Lucia, Queensland, Australia.
Inoue, Tomoyoshi, Kess, Joseph F., & Miyamoto, Tadao. (2001). Second language learners’ acquisition of katakana borrowings in Japanese: Help or hindrance? In the Committee for Publishing the Festschrift for Dr. Takashi Yoshida (Ed.),
Festschrift for Takashi Yoshida Professor Emeritus, Fukushima University. Aspects of psycholinguistics, second language acquisition, and language education (pp.49-70). Japan: Fukushima University, Department of Education.
ベネッセ「2006年版 TOEIC TOEFL との換算テーブル」 http://www.benesse.co.jp/gtec/contact/answer/answer118.html(2012年 4 月15日 アクセス) 国立国語研究所『現代雑誌90種の用語用字 , 第三分冊』国立国語研究所(1964) 柴崎秀子 , 玉岡賀津雄 , 高取由紀「アメリカ人は和製英語をどのぐらい理解で きるか―英語母語話者の和製英語の知識と意味推測に関する調査」『日本 語科学』21巻(2007)pp.89-110.