はじめに
教育と福祉の 「つながり」, あるいは学校教育と社会 福祉の 「連携」, さらには教師やスクールカウンセラー, スクールソーシャルワーカーなどの実務者 (業務) レベ ルでの 「協働」 に至るまで, それぞれの次元で課題があ る. それは, 両者の関係にはその価値の吟味や誠実さが 深まりつつも, 無関心や強制, 侵襲の危うさをいくども 経験してきた点である. ゆえに, 多職種連携を推奨する 施策動向に直ちに追随する形で教育プログラムや学修カ リキュラムを展開することは慎重でありたい. 直近では, 文科省によるチーム学校論や学校関係者の 働き方改革に見られる外発的な労働政策, そしていじめ や不登校, 非行問題への対処療法的人材論などが見受け られる. いじめの問題対策への組織的対応にはスクール カウンセラーやスクールソーシャルワーカー関与の明記 がある. ところがその業務や役割は示されず(1), 周囲か学校教育をめぐる多職種連携学習の試行 (その 1)
学校教育と社会福祉の関係を中心に
鈴
木
庸
裕
日本福祉大学 子ども発達学部The Trial for Learning of the Interprofessional in School (1)
−A Focus on the Relation between School Education and Social Welfare−
Nobuhiro SUZUKI
Faculty of Child Development, Nihon Fukushi University
Keywords:学校福祉, 多職種連携学習, 社会の変化, 境界面 要旨 子どもの生活や暮らしにねざした多職種連携とそのための協働についてどのように考えていけばよいのか. さらに学校教 育における多職種の協働が, 子どもたちにどのような力を育てるものになるのか. これらは, 教員養成のみならず学校教育 に関わる福祉, 心理, 医療, 保健, 看護などの大学 (学部) における人材養成や学校に関わる専門職 (現任者) の育成にとっ て, 本質的な問いになると思われる. スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーが導入され, 学校における教育 職と他職種との水平的関係が子どもたちの成長や発達にとってどのような意義をもつのか. この問いは, 学校における教育 職と心理職, および心理職と福祉職というようにトライアングルで考えていく側面もある. 本稿では, まず学校教育と社会福祉の連携をめぐる人材育成の課題と多職種連携学習 (教育) のあり方との接点について 考察する. 学校教育の領域における多職種連携の内発性や学校における社会福祉の営みに対する教員養成系学生の声をもと に, これからの多職種連携学習を試行するうえでの課題について論じる.
研究ノート
らも認知されていない. これらは典型的な実態である. 多職種連携の実際は, 2 種間ではなく 3 種以上の専門 職 を 持 っ て は じ め て 成 立 す る 概 念 で あ る . 多 職 種 (interproffesional) と他職種 (multi-proffesional) の 違いである. 本稿は, まず, 学校教育と社会福祉の協働 をめざす学習 (教育) の大学教育実践 (授業) について その課題を導き出す予備的考察である. なお, 本稿の表 題に 「多職種連携学習」 と表記するのは以下の理由によ る. 今日の社会の変化の中で, 人材育成の教育は学習す る側に主体が移行し, 目的への接近方法や目標も個別性 を高めていること, そして教育と福祉の学部間連携やカ リキュラム開発の枠組み (IPE)(2) をまだ持たない営み だからである. また, 学校教育と社会福祉には多職種連 携教育を構築する実践軸 (子どもの最善の利益をめぐる 承認と共通理解) が曖昧であり, 特に両者のチームや連 携を必然的に呼び込む価値をめぐってはその合意や相互 作用とそこへの信頼, 共通責務が未発であると思われる からである. 協働とは, 「協力して働くこと」 とあるよ うに, ある目的のために心をあわせて努力することであ る. 教師と福祉職が目標の共有を確認したうえで役割を 分担するという点では, 一例として児童虐待に関わる学 校からの児童相談所への通告をめぐる両者の認識に少な からずあらわれているように, それを支える価値観や法 規とその遵守の運用面に脆弱さがある. 通俗的にいえば, 義務教育のようにその年齢になると全員が枠に入るもの と, 行政や親権者からの申請や保護により対象となる枠 をもつものとの違いがある. 以下では, 学校教育と社会福祉の多職種連携学習を試 行するうえで, 学習活動への内発的な局面や学習者であ る学生の姿と今後到達すべき学修モデルづくりに向けた 指針について考察する.
1 多職種連携をめぐる内発性を問う
(1) 「抱え込み」 からの出発 教師がソーシャルワークの価値や方法 (ソーシャルワー ク・マインド) を通じて子どもや家庭との新たな出会い を生み出し, 新たに関係性をつくりかえていく(3). たと えば, 子どもの生育歴や家庭の生活環境や経験の事実を 理解することが, 教師の生活指導や教育相談の先の見え ない焦りや限界感, 教師の 「困り感」 の解消や軽減と結 びつき, ストレスフルな状況からの解放につながる. 「長期にわたり動かなかったケースがジワッとごろりと 動き出す. その向こうに子どもの笑顔が見えた」. これ は重たいケースを抱えた教師の 「気持ちが晴れる」 象徴 的な描写であろう. 「抱え込む」 ことが常態化, 無意識化する現場感覚が ある. そのなかに協働や役割分担, さらにはチームアプ ローチを一般化するには, 組織的支援と情報管理の発展 が求められる. 日本では, 「抱え込み」 は教育職の誠実 さや責任感など, 職業文化として美化される面もある. しかし, 孤立するクライエントに対して一人の孤立した 支援者のありようでは対応困難となる. 複数の人に支え られることによって生じる援助効果の有用性は明らかに ある. 抱え込みとバーンアウトの境が教師自身の主体性 でつくられている場合とそうでない場合には大きな落差 がある. 抱え込みからの解放とは教師個人の責務ではな く, 他者の力を借りて目的を達成するという社会的組織 的な責務ないし啓発である. (2) 救済を求めること ところで, 子どもの援助や支援にあたる専門職には, 1 つのキーストーン (key stone) がある. 筆者の経験 ではあるが, 2000 年代初頭, カナダのトロント市を中 心とした学校でのいじめ問題調査やスクールソーシャル ワーカーの実践, 児童虐待や子ども家庭福祉の仕組みを 学ぶなかで, 数多くの小中高・支援学校の教員, 学校精 神科医, スクールサイコロジスト, スクールソーシャル ワーカー, 言語聴覚士・作業療法士, 保育士 (child care giver・worker), 児童デイや放課後支援職員から 聞き取り調査をおこなう機会があった(4). そのなかで, 日本のいじめ問題やスクールソーシャルワーカーの配置 の必要性と課題 (教師の多忙化, 抱え込み) を説明する と, ほぼ全員の口から 「専門職の抱え込みについて, 理 解ができない」 という言葉が返ってきた. 北米では, 家 庭訪問はガイダンスカウンセラーの役割, 特別支援など の支援計画 (IEP) の作成や支援を必要とする家庭への 支援はスクールソーシャルワーカーといった, 教師と心 理・福祉職との分業が職業風土にある. 「自分の専門を 最大限活かすためには問題を抱え込まない」. 「抱え込み は情報の共有や協業という専門性を弱めるものである」. このように, 救済を求めることは子どもに関わる職種全 員が個々の専門性を習得する以前の基盤 (key stone) となる能力であると考えられている.(3) 気づきと共感―内発性の発見 次のような調査がある. 特別なニーズをもつ子どもに ついて, 小中学校の教師とスクールカウンセラーとスクー ルソーシャルワーカーの 3 者に, 同じ 1 つの問いを出し たものである. いじめ, 発達障害, 子ども虐待, 非行な どへの関わりにおいて, 「1 人では対応できない」 と認 識するケースについて 5 件法で答えてもらったものがあ る(5). その結果, ①発達障害, ②子ども虐待, ③いじめ の順で, 教師, カウンセラー, ソーシャルワーカーが同 程度のポイントを示した. 時として, 困難さの共通項が 連携の内発性になることがある. 一人では困難であると いう感覚がすなわち連携というものではないが, 連携に 目が向くことは 1 つの動機付けになる. また, 教師から福祉職への要望はどこにあるのか. 以 下に教師からの声を綴る(6). ○学校というフィールドで行われるソーシャルワーク である以上, 学校システムそのものについての理解 を深めることが必要. 例えば, 職場内や域内 (教育 委員会や教育事務所単位) の教員人事の仕組みや学 習指導要領についての理解, 学校現場での生徒指導 の方向性などを理解することが大切になる. ○学校の組織文化について理解でき, 教育委員会の行 政内での立ち位置について知る. 学校の外から来た 人材が実際に子どもと関わるまでの方法や作法を実 践の中から具体的に理解する. ○教育活動 (授業やカリキュラム) についても理解す ること. ○ 「環境」 へのアプローチでは, 変化に時間がかかる ことから, 「個人」 への直接的アプローチについて のコミュニケーション力を高める. (4) チーム学校の批判的検討 教師が学校の外部人材 (広く地域関係者や関係機関) を信頼するプロセスには, 外部人材の行為が子どもに対 して支援的要因になるのか, それとも阻害的要因になる のかだけでなく, 教師の実践にとっても支援的かそれと も阻害的かがある. これは近年の学校マネジメント観に 示されている(7). 2008 年当時, 文科省は, 教員の多忙化や若手層が増 える教職員内の同僚性の希薄化が学校や家庭支援の機能 低下となるという問題意識から, その打開策として 「実 践的指導力やコミュニケーション力, チームで対応する 力」(8) を提唱した. スクールソーシャルワーカーやスクー ルカウンセラーには, 「チームをつくること」 よりも 「チームで動く安心感」 「教師の同僚性の円滑化」 を教育 システムのなかに定着させる黒子になることが求められ た. しかし, この黒子の意味は充分に浸透したわけでは ない. 「学校は外からみると壁が高く感じる」. これは, 入職 して間のない専門職に限らずベテランからもよく聞く言 葉である. ところが, いったん学校に入ってみると多様 な地域関係者とつながることができたという声も多い. この言質は学校が福祉と地域の橋渡しになる機関である という評価にあたる. 地域の関係機関にいては見えなかっ たことだという. 福祉職にとって, 学校の協力を得て発 展する子ども福祉の発見や創造への気づきである. ソー シャルワークが, 生徒指導や学級経営の補完的役割や特 別支援教育の総合的推進を補強・代替する支援手法では なく, 社会の変化による多様性と結びつく援助技法とな る. これは, 学校や教師のとらえる 「子どもの問題行動」 への解決に目が向き, 問題解決の成果や費用対効果に目 が向いていては感受できない内発性であろう. (5) IPW からの示唆
Inter-professional education (IPE) は多職種の資格 者を養成する際に, それぞれの受講生 (学生) が同時に 学習し, オムニバス型の講義であったとしても職種間の 専門性をめぐる相互影響に着目するものである. Multi-professional のように, 知らなかった知識を身につける 程度になったり, マスプロ教室で他分野所属の学生が一 緒に座り, 多様な分野・領域のレクチャーを受けるとい うものとは異なるものである. 医療現場では, 多職種が医療機関の時空間を同じくし て場としてのサービス提供になることが多い. WHO が 示すように多職種連携医療 (interprofessional collabo-rative practice) は, 医療従事者が患者や家族, 介護者 とともに最善の医療を提供し, 非専門家とともに成果を 上げるテーマを持つ. さらにこうした包括的な医療が効 果測定やエビデンスの対象となる. 1980 年代末に, イ ギリスなどでは保健医療福祉の専門職養成に IPW が義 務化されている. 医療における利用者のニーズ中心, 業 務における公平性, 相互のリスペクト, 専門性間の相互 理解, 連携上の課題の可視化 (専門用語の相互確認) な どの特徴を持つ. 学校での医療的ケアにおいて, 教師の
医療的行為の緩和や保護者の付添いの軽減のため学校へ の看護師配置が促進された時期もあった. しかし, 日本 の国内事情として, 全国的な医療従事者の不足を補うた めに 「丸ごと連携」 が施策化されているという面もある. 人材不足を容認するものになり兼ねない. チーム医療に 見られる多職種連携の意図は, 専門職よりも利用者の声 から出発する実践であり, クライエントの声が専門職の つながりをつくるという柔軟な枠組みのあり方にある. 十分な考察はできていないが, 学校福祉にとっての示唆 は, その概念自体が本来チームアプローチと先に挙げた 「key stone」 の原理を有することを解明しようとする点 である.
2 学校における多職種連携への関心
(1) 協働を妨げるもの その一方で, 学校と福祉とのつながりを妨げるものが ある(9). 〇新しいものや人が入ることへの拒否感である. かつ て ALT が導入されるときも英語担当の先生から自 分たちの英語力を低く見ているのという反発があっ た. スクールカウンセラーが導入されたときも従来 の子ども理解や対処をめぐる教育的開国のごとく 「黒船がやってきた」 という声もあった. 〇 「何をする人なのか」. 「この人に託していいのか」. 「子どもが取られるのではないか」. これは不信感と いうよりも, ちゃんと教育委員会や学校長から説明 がないこと, 外部人材を迎え入れる校内体制づくり (校長の理解) がなく, 導入だけが先行し現場の教 師がおいてきぼりになっていることが課題である. 〇 「学校では限界がある」 といった福祉的関与の必要 性論に対して 「われわれはこれだけがんばっている のに」 という不満も生まれる. 「われわれも子ども と向き合う時間と余裕があればスクールソーシャル ワーカーやスクールカウンセラーの手を借りること はない」 と. しかし, さまざまな情報はあるがそれ が有効に使えないでいると 「塩漬けされるケース」 が増える. 虐待事例など問題発生のメカニズムが見 えてくると安易に手が出せないことも多い. 〇教師の職業文化において, たとえば, 実践記録は教 室の子どもへの理解, 学級集団・子ども社会の分析, 家庭との連携, 地域とのつながりという構成になる. 地域―家庭―学校―子どもというベクトルで論じる ことは少ない. 関係機関との連携を記録にする時も, 関係者全員から承諾を取るという倫理が必要になり, ゆえにチームの動きを記録に残すことは難しい. こ うした実践記録文化とも関係する. 〇教員養成において児童福祉の科目履修を含む必修化 など, 人材養成の段階での教育と社会福祉との連接 も今後の課題となる. 〇学歴や給与面で教育と福祉には歴然と差異がある. 教職員の社会階層として, 生活保護費を受給するフ ルタイムの教員は皆無であろう. こうした点は, 教育職とソーシャルワーカーとの分断= つながりの未発の中で, 教師の多忙化や専門性・職業文 化・社会的地位などの相違, 及び児童福祉・障害福祉行 政と教育行政との折り合いの悪さなど, 福祉と教育の行 政縦割りの歴史的課題がある. これらはいわば連携の阻 害要因であり, 多職種連携学習の論点であろう. (2) 貧困問題と学校の水平的関係 さらに生活福祉に対する教師の学習論的アプローチや リスクマネジメントの感覚, 家庭への自己責任意識があ る. 昨今の 「子どもの貧困対策の推進に関する法律」 (2013 年・法律第 64 号) によれば, 「教育の支援では, 学校 を子供の貧困対策のプラットフォームと位置付 けて総合的に対策を推進するとともに, 教育費負担の軽 減を図る. 家庭の経済状況にかかわらず, 学ぶ意欲と能 力のある全ての子供が質の高い教育を受け, 能力・可能 性を最大限伸ばしてそれぞれの夢に挑戦できるようにす ることが, 一人一人の豊かな人生の実現に加え, 今後の 我が国の成長・発展にもつながるものである. 教育の支 援においては, 学校を子供の貧困対策のプラットフォー ムと位置付け, ①学校教育による学力保障, ②学校を窓 口とした福祉関連機関との連携, ③経済的支援を通じて 学校から子供を福祉的支援につなげ, 総合的に対策を推 進するとともに, 教育の機会均等を保障するため, 教育 費負担の軽減を図る」 とある. この学校を窓口とした福 祉関連機関等との連携にスクールソーシャルワーカーの 介在が見込まれている. 今日, 関係省庁は医療機関や児童相談所, 要保護児童 対策地域協議会などの児童福祉部門と教育委員会・学校 等との連携強化, そしてそれぞれの家庭に寄り添った伴 走型の支援体制を構築するなど, ソーシャルワーカーを 活用して従来の家庭教育支援チームや訪問型家庭教育支援等の取組を推進している. しかしながら, 対人援助の社会福祉サービスを無媒介 に学校現場へ持ち込むことは危険である. なぜなら子ど もの貧困対策の法律文章にある 「学ぶ意欲と能力のある 全ての子供が質の高い教育を受け, 能力・可能性を最大 限伸ばしてそれぞれの夢に挑戦できるようにすること」 を実現する上で, 子どもの貧困が経済的困難への着目に 矮小化されてはならず, それはスティグマの温床となる ためである. (3) 学校の多様性への対応 社会の変化という点では学校の内部問題もある. いじ めが増える, 不登校が減少しない, 生活困窮と子どもの 貧困, 生きづらさの問題化も社会の変化である. これは 学校と家庭の境界, 教育と福祉の境界, 教師とスクール ソーシャルワーカーとの業務の境界面の変化を指す. か つて 1990 年代半ば, スクールカウンセラーの導入が学 校・教職員と子ども・保護者との関係を流動化させ, 境 界線のない水平的関係を生み出した. その後, スクール ソーシャルワーカーは学校・教職員と地域の他機関・他 職種との間に水平的な関係を生み出した. 水平的関係と は, ネットワーク化であり等位化や対話化である. 一般 に, 社会の変化は, スピード感や説明やエビデンスを求 め, 個人や集団, 組織それぞれの次元に自律性を求める. 今, 何が課題 (ISSUE) なのかを個人や集団, 組織が 学習し, 「多様性のある社会」 をめざす 「環境変化を見 通す力」 や 「組織的な意志決定力」 の獲得が大切にな る(10). 学校は, 「報・連・相」 という情報共有 (知っている・ 聞いたことがある) のレベルから, 相手の提案を理解し 合えるレベル (あなたの考えはわかった), そしてケー スの背景や提案してくる人の価値観をも納得するレベル (では納得したので一緒にやろう) にステージを変えて いかねばならない. しかしながら, その大半が教諭とい う単一職文化であった従来の学校が, 正規・非正規のみ ならず, 教育支援, 学校支援, 事務支援, 部活支援, 特 別支援などをめぐる教育職, 事務職, 福祉職, 心理職, 看護職, スポーツ・文化関係指導者, そして非専門家や 地域住民などによってその構成も多様化・多角化する. こうした社会的な変化が多職種協働を求めているという 点では課題がある.
3 教員研修と多職種連携―連携をめぐる学習
(1) 教員研修について 教職の世界で 「研修」 とは, 研究と修養の合成語であ る. マニュアルやすぐに使える断片的な技法が求められ がちな傾向はいずれの領域・分野でも課題になっている. ただ, 個人が所掌する範囲での力量形成となりがちで, 学級経営をめぐる学年組織のあり方や学校経営の改善や 変革をめざすための学びには届きにくい. 個人研修が本 務校の組織的な課題につながるには, 研修を受ける者の 立場や役割などとセットして考えていく必要もある. そ の意味では学校管理職や指導主事などが参加していくこ との意味は大きい. 教師の研修規程を見る. ここにある多職種協働観はど うであろうか. 「大学の教職課程で取得した基礎的, 理論的内容と実 践的指導力の基礎等を前提として, 採用当初から教科指 導, 生徒指導等を著しい支障が生じることなく実践でき る資質能力が必要であり, さらに, 教科指導, 生徒指導, 学級経営等, 教職一般について一通りの職務遂行能力が 必要である」. これは初任者段階での研修の要点である. 教職課程の 段階で, 教育現場での一通りの職務遂行能力という枠を 示している. 中堅教員の段階では 「学級担任, 教科担任 として相当の経験を積んだ時期であるが, 特に, 学級・ 学年運営, 教科指導, 生徒指導等の在り方に関して広い 視野に立った力量の向上が必要である」 とし, 校務での 主任などの学校運営や若手教員への助言指導, 学校運営 に参加する企画立案力や事務処理の資質能力があげられ る. ようやく幅広い教養に目が向いている. 管理職の段 階で以下の通り地域や関係機関との連携やそのマネジメ ントがあらわれてくる. 「地域や子どもの状況を踏まえた創意工夫を凝らした 教育活動を展開するため, 教育に関する理念や識見を有 し, 地域や学校の状況・課題を的確に把握しながら, 学 校の目標を提示し, その目標達成に向けて教職員の意欲 を引き出すなどのリーダーシップを発揮するとともに, 関係機関等との連携・折衝を適切に行い, 組織的, 機動 的な学校運営を行うことのできる資質を備え, また, 学 校運営全体を視野に入れた総合的な事務処理を推進する マネジメント能力等の資質能力が必要である」(11). 習熟において初任から中堅, 管理職という段階的で役 割的な面もあるが, 後者になるにしたがって社会の変化やネットワーク組織の担い方の変化への力量が求められ る. しかし, 初任であっても欠かせないものであろう. (2) 倫理的配慮として他職種連携 一方, 社会福祉職では多職種との連携が職業としての 責務とされている. 社会福祉士の倫理綱領には以下の各 文がある(12). 専門職としての責務に 「専門性の維持向上」 として, 「ソーシャルワーカーは, 同僚や他の専門職業家との知 識経験の交流を通して, 常に自己の専門的知識や技能の 水準の維持向上につとめることによって, 所属機関, 団 体のサービスの質を向上させ, この専門職業の社会的声 価を高めなければならない」 とある. そのほかに, 「援 助方法の改善向上」 について 「ソーシャルワーカーは, 同僚や他の専門職業家の貢献や業績を尊重し, 自己や同 僚の業績やサービスの効果, 効率について常に検討し, 援助方法の改善, 向上に心がけなければならない」, 「同 僚との相互批判」 において, たとえ他の専門職業家であっ ても 「職務遂行の方法に差異のあることを容認するとと もに, もし相互批判の必要がある場合は, 適切, 妥当な 方法, 手段によらなければならない」 とある. 「同僚や他の専門職業家」 との交流や協議, リスペク トに及ぶ連携が責務とされる. つまり多職種連携には専 門性の維持向上, 自身の職務内容を他者に周知すること, 周囲の専門職からの異議申し立て, 擁護がある. 学びの 文化の視点から見て, 人材育成について教師は同じ職場 の先輩や経験者から密接な指導助言の体制が日常的に存 在する. 「背中を見て学ぶ」 という習慣がある. しかし, スクールソーシャルワーカーはその人材育成や人材開発 の歴史などにおいて十分とは言えない. スーパーバイザー の制度もまだ道半ばである. しかしながら, 学んだ方法技術や知識が 「早く解決す る」 問題解決型のアプローチになり, 周囲からもそれが 要請されがちな教育現場がある. その ジレンマ を背 負いながら, 相談援助技法や関係調整, 代弁・代理など に加え, 関係修復と回復力支援などの専門性をいかに発 揮していくのかが重要な視点となる.
4 家庭―学校―地域をつなぐ多職種連携
(1) 学校福祉論の構想―学校の福祉的機能の再生 「地域の福祉施設としての学校」(13) とは子どもが安心 して生活できるところをさす. 日本の教育と福祉のつな がりには, 工場労働から子どもを守るうえで学校が福祉 の 「肩代わり」 となり義務教育制度が児童福祉の一環と なる. 「学校が福祉施設の一種」(14) ともなった. 学校の 福祉的機能とは, 学校や教師が子どもの生活の質の向上 と幸福追求についていかに責任を負うのかという公的な 子どもの保護機能であり, 次の 3 つの視点で論じられて きた. 学校の福祉的機能とは, 学校が子どもの生存権保障で いう生活福祉の機能をそのまま背負い込むことではない. 学校や教師には子どもに対して直接責任を負うことによっ て, 家庭や社会に対して役割を担っているという考え方 がある. これは子どもの生活要求を育て, 子ども自身が 環境に働きかけていくことを保障する. そして 「行使主 体」 に育てることを考えてきた. しかし, すでに述べた ように社会変化の中で学校教育と子ども福祉との境界面 が変化してきている. 近年でみると, それは学校防災や 減災, 学校事故や子どもの事件をめぐる学校の予測性や 無作為性などへの視点である. 教育と福祉の協働とは, 義務教育制度に内在化する福 祉的機能の復権と再生であり, 学校の 「福祉機能」 の解 明という作業である. 学校が子どもの生活の質 (QOL) の向上に資することにより地域住民全体の学校への信頼 が醸成される. 子どもの生活と学習を下支えする家庭生 活の全体性が把握できる学校とは, 家庭や地域の生活福 祉的側面の変化について明確な気づきを持ち, 子どもを 地域の一住民としてとらえ直し, 「子どもたちが地域を 育てる」 という, 子どもたちを地域の主体者に育てる立 ち位置にある(15). 学校福祉論はこうした教育福祉の再定 義のなかで生まれてきた. 学校教育と社会福祉の多職種連携は, 子どもたちが学 習環境や生活環境の客体ではなく学校内外のさまざまな 「反福祉的状況」 をみずからつくりかえていく主体者形 成に必要な指導や援助の開発行為である. 今日の福祉教 ① 学校教育の基盤として子どもの就学条件や教育環 境の条件を整備すること. ② 学校や教師の教育活動のすべての過程において, 子どものみならず教師や保護者・養育者の権利を保 障すること. ③ 子どもを福祉の対象としてみるのではなく, 福祉 を権利として要求し行使する主体に育てていくこと にあたる.育もこうした視点から再評価する必要がある(16). 高校福 祉科や特別支援教育の教員養成, あるいは地域福祉教育 やボランティア学習の担い手の育成も同様である. なお, 本稿の冒頭で述べた 「子どもにどんな力を育てるのか」 という問いに関与しないものは学校では外部化される. 子どもたちの問題行動への対応が生徒指導・教育相談 系列に偏り, 優位になって久しい. 児童福祉サービスが もつ発達や教育の機能や PTA 活動・保護者の学校参加, 地域の行事, 学童保育や放課後デイサービスなどへの関 心が喚起されねばならない. 学校がもつ境界面の多義性 からみて学校福祉は, 地域福祉と子ども福祉の間に位置 する. ただこれは領域概念ではなく, 多職種連携を最初 から位置づけるものとして, 教育福祉の再定義のプロセ スを示す概念である. (2) 学校福祉のデザイン をテキストにして こうした学校教育と社会福祉の関係やスクールソーシャ ルワーク実践の教育内容を著したものが 学校福祉のデ ザイン である. これは筆者自身がまな板の上に乗って 実践を論じた著書(17)である. スクールソーシャルワーカーの基礎は地域に根ざすこ とであり地域における子ども福祉にも根拠を持つ. 子ど もや保護者への発信は同時に地域や市民への発信と共通 言語を持つべきものである. これは教師に対しても同じ である. その一例として, 不登校やいじめは学校だけで の取り組みとなり, 家庭や地域とつながらずに変わらな い. 専門職としてそのつなぎ目として関わる方法技術の 専門性が中心テーマとなる. 本書は, 1980 年代後半, 筆者がスクールソーシャル ワーカーの研究と実践に傾注する中で, その自分 (研究) 史の中で, 生活指導, 社会教育, 障害児の地域生活支援 (学童づくり・放課後支援), 食農・農業体験, 子ども虐 待, カナダ・トロントでの児童生徒支援実践の研究, 日 本の福祉教育や子ども家庭福祉論などをくぐる中で, 日 本での学校福祉実践論を構築しようとした. 社会事象で 言うと子どもの権利条約の初動期 (1990 年初頭) や大 河内君事件 (1994 年) からはじまり, また, 東日本大 震災下での子ども・家庭・学校支援を経て現在に至る中 で執筆したものである. 本書の目次は以下の通りである. 以下は, 本書を教材とした学生との対話の中で学習を 進めた中での受講生レポートの一部である.
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大学教育実践として, 教員養成系学生の福
祉についての認識
(1) 対象としての福祉 学生の福祉への把握について声を読み取る. これらは 筆者が関わった福島大学人間発達文化学類の講義 (2017 年後期) の受講生のレポートの抜粋である. なお, これ らのレポートの掲載に当たり学生自身の知的財産であり, 本稿執筆にあたり氏名等を表記しないことを条件に許可 を得ていることを断っておく. はじめに― 「つなぐ」 仕事から 「つながりをつくる」 仕事へ 1 ゆれることとつなぐこと―重要な他者の発見と克 服環境の広がり 2 学校と地域をつなぐーつなぐ方法とその担い手の 役割 3 学校におけるソーシャルワークの役割と地域生活 4 教育と福祉の協同―日本における学校福祉の成立 5 学校におけるソーシャルワークからみた特別なニー ズ教育 6 カナダ・トロント市におけるソーシャルワークと 教育機会の保障 7 災害後, スクールソーシャルワーカーの活動から 見た教育と福祉の結合 8 「どこで生きるのか」, 「どう生きるのか」 の狭間 の中で―震災禍から問い出すこと 9 震災復興が問いかける知と学びとソーシャルワー カー 10 震災から問い直す子どもの権利 A: 福祉 という言葉を聞くとどうしても社会全体 を包括するような大きなことに思えて自分がそこに 参加しているようには思えない, そんな印象を抱い てしまう. ずいぶん前の話にはなるが, 私の恩師は 福祉のことを 人々が幸福になるような活動など と語っていた. そういわれれば, 話はシンプルになっ たように感じられるけれど, 今度は幸せというもっ と不定義な単語が出てきてしまう. 幸せというには それこそ人によって異なるものである.福祉的なものに対し, 個人としては手に負えないと感 じ, 教育活動の範疇に入るかどうかの不安がある. しか し, まず 「具体的に担う人がいる」 ことへの可能性に安 心感をもっている. 学校福祉がその安心感を他者と共有 できるものに高めていくことを願っている. 学校に支援チームがあること, 自己責任から意志決定 のプロセスが見える. 子どもと向きあうときに子どもの 学校参加がどうセットされるのか. そのシステムの可視 化されることが教育活動への第 3 者の視点―中立性や公 平性の介在になってあらわれてくることへの関心が見ら れる. 「答えのない問い」 というものには大学に入って 以来, いくつも出会ってきたけれど, これほど糸口 の見えないものもあるのかと少々感銘を受けるくら いわからなかった. 何をするのが児童生徒のために なるのか, それは大人が考えていかなければならな いことなのだろうけど, どう転がしてもうまくいか ないケースはつきまとってしまう. 理想論を語れば 一人一人の要望を聞いてそれに合わせた指導や, 活 動をしていけるのがいいのだろう. しかしそれは現 実問題ほぼ不可能なことはさすがの私でもわかった. 結局のところ一つずつ何かを越えたところで問題は 出てくる, しかしそこから逃げ出すことは教育を放 棄したことのように思える. 福祉的措置だと思った ことが福祉的機能をしっかり果たすことも確約はさ れない. なかなかに厳しい世界が 学校福祉 とい う言葉の裏に感じられた. それと同時に新しい可能 性についても聞けた. 主に SSW のことだ. 実際に 話を聞いてみても不明瞭なことは多かったがこの存 在があるだけでできることは増えていくであろうと 想像するのは容易かった. それを生かす学校側の力 量も必要だがぜひ広がって欲しいとは思うばかりで あった. B:震災後の子どもたちへの働きかけについて, 子ど もの権利擁護の視点から問いかけられていた. 個人 的には本文の途中に記されている 「自分たちの将来 に関わる大切なことを判断したり決定するところに 参加することが子どもたちには保障されていません.」 という一文が印象に残っている. 原発事故による被 害が大きい中, 「未来の担い手」 として称されるの みで具体的な現状を決断する場に子どもがいないこ とはやはりおかしいことであるということを改めて 考えさせられた. しかし子どもに現実を突きつけるのは難しく, ど のように噛み砕いて説明するべきなのか, これから の被災地の課題となるように感じた. しかし, グルー プ内で気になったこととして挙げられていたが, 震 災の現状を伝えることが子どもたちの負担になるこ とも十分に考えられる. 学校とのつながりが強い地 域であればあるほど子どもの笑顔が地域の方々に元 気を与えていることも確かなことであると考えられ るため, どこまで現状を伝えるべきであるのか, 内 容も十分に吟味しなければならないということを感 じた. 「学校の福祉的機能」 については, 福祉的機能を 実際に機能させていくためには, 具体的な教育・福 祉・心理等の専門職による支援チームが重要である, つまりソーシャルワーカーという専門職が学校現場 において必要となるのではないかという考えにグルー プ内で至った. 子どもと教員の間に第三者の視点を 置くことで子どもの権利保障に基づく中立性を保つ ことができるとも考えられる. 自分が教員になった 際にも, スクールソーシャルワーカーと連携を図り, 第三者の視点を大切にしていきたいと考える. C:学校福祉の実現のために, これから教師になろう としている私ができることは何だろうと思った. ま ず, 一番にすることは学校福祉やソーシャルワーク について知識をつけることだろうと思った. 今回の講義で得た情報, 知識に加えて, 自分で調 べる, 考えることが今の自分に必要だと感じた. 自 分が教師になって, 学校福祉やソーシャルワークが 学校に導入される時に, いち早く順応できるように しておかなければならない. 社会全体としては, 教 育機関以外への働きかけが必要だと考えた. 学校福 祉の実現のために, 医療・保健・福祉・心理などの 専門機関との連携は不可欠と思われ, そのことを各 機関に知ってもらう必要がある. この学校福祉につ いて学んでいく中で, 「子どもに起きた問題は学校 の問題」 というような考え方が世の中にあるのでは ないかと感じた. 私自身もいじめや不登校は学校や
医療や保健など, 一般に教員養成のカリキュラムには, たとえば学校保健などを履修するとは言えない. 学生た ちにとってすでに履修してきた授業も多いが, 教壇での 授業の場面以外の学校臨床や学校福祉の場面に接するこ とは少ない. しかし, 「突然現れたものへの耐性と受容」 が求められる. 「ゆらぎ」 は子どもたちとともに社会の変化を共有す る装置である. 同様に, 他の職種や同僚, 学外者との共 有でもある. 「教師の仕事」 をめぐる思いの殻をいかに 剥いていくのか. 何もかも教師の仕事なのか. めざそう とする教師像の転換と深化に結びつく. 教育機関が対応するものだと思っていた. そうではなく, 様々な分野で力を出し合い, 支え 合うことが今後の教育に必要なことであり, この考 え方が学校福祉やスクールソーシャルワークに結び つくと思った. D:教育や教師自身が 「ゆらぐ」 というのはむしろ大 事であるということだ. 多機関や保護者, 地域の方 など学校外部のひとと連携していくことのメリット は, 様々な人々の意見や価値観, 考え方の違い, 現 状や実際の把握などにあるのだ. そのような様々な 外部の刺激を取り込んでいくことは必ずしもいい結 果が待っているわけではない. だが, その前後で, 子どもも教師自身も変化が生 まれやすいことは容易に想像できる. そもそも, 学 校と保護者・地域が完全な相互信頼が出来ていない 状況があるとするならば, その原因はお互いを深く 知らないことにあるのではないか. だとすれば, こ の 「ゆらぎ」, 外部との連携を増やしていくことは, 学校内部を知ってもらい, 理解してもらうことにも つながっていくと考えられる. SSW など, 学校と 社会の境界で両者のつながりの均衡を保てるような 第三者的存在がいることは, なおこの連携が積極的 に進められるだろう. 「ゆらぎ」 に関する学びは, 連携教育の本当のメリットと外部に発信, 連携して いくことの重要性, そしてそのベクトルを生み出す 教師の専門性について非常に大きな学びを得ること ができた. 自分は教師になることを目指している. だが, な りたいのは, 子どもに寄り添うことが出来る, そし て保護者や地域の方への理解と信頼を示すことがで きる教師だった. そのために教師とかけ離れた職種 のアルバイトをしたり, 定期的に子どもと関わるボ ランティアを行ったりと, 知識と経験を増やそうと 励んでいるつもりだ. だが実習を終え, そればっか りが教師の仕事ではないと気付いた. 教師を目指す のはまた違うのかもしれないとさえ思っていたが, 今回の講義はその不安を一蹴してくれたように思う. SSW 的役割を分業するのは必ずしも良いことでは なく, そのような一面を教師が持つことでつながり を維持することが出来る. このように考えたとき, 自分の目指す教師像は自信を持ってもよいのかもし れないと考えた. 震災を経て, 現在の教育では, 常 日頃からさまざまな期間と連携を維持することの重 要性が叫ばれているように思える. 今自分が震災関 連で学べていることを十分に活かし, SSW などに 関連する知識にも注目しながら自分の目指す教師像 に近づけるよう努力したいと改めて感じた. E:まず, 「すべての子どもたちを対象とする学校の 福祉」 というキーワードである. なぜなら, 私の中 で学校を介した福祉とはイメージしにくく, 児童虐 待や養育放棄を児童相談所と協力して対処すること のみが考えられたからである. これは一定の範囲で 困難を抱える子どもたちに対するものである. よっ て, 学校を介する福祉がすべての子どもたちを対象 にするという視点は新しかった. より広い範囲の困 難について学校を介した福祉でケアをする. さらに, 学校を介して地域・環境資源と子どもをつなぎ, 「ゆらぎ」 を生む. これらはすべての子どもたちに よりよい発達環境となる可能性が高いと感じた. 次に 「スクールソーシャルワーカー」 というキー ワードである. まだ正確に理解できてないが, 本書 の 「手を繋ぐ」 例によってイメージを掴めた. ボラ ンティアを通して学校現場に行くと, 先生と保護者 という接点が多い関係であっても上手くいっている と感じることは少ない. ということは, 保護者以上 に接点が少ない社会について関係を持つことは非常 に困難だと感じる. 上記で述べたようなすべての子 どもたちを対象として学校を介した福祉の実現には, 学校と社会が良い関係を構築しなければいけない.
一人で対応できないことへの不安の解消は, 分業と協 業のあり方に呼応する. しかし, 教師個人の努力や裁量 ではなく, 協働および組織的対応がその解消となる. 協 働とは, 問題のメカニズムを複数の眼で探ることであり, それゆえに一人で抱え込むことの課題も見えてくる. (2) わがことに向いている学生の発見 ある学生は, 教員養成課程で学んできたが, 「福祉」 について問われた時, 全然思い浮かばなかったという. 誰もが社会福祉を受けているが福祉について自分の考え を持つことができなかったのは, 福祉が成り立っている 社会構造や担っている役割についての知識が乏しい事も 考えられる. しかし, そもそも教育現場で 「福祉」 とい う考え方が重要視されていないという事なのかもしれな いという. こうした受講学生の声から分析できることについて, まず教職課程においてある分野から他の分野を学ぶ際, たとえば各教科教育それぞれに異なる分野はあるが, 教 授法や方法学としては普遍的な共通性や価値観への接近 がある. たとえば, 個々の学問は何のためにあるのか. それは人類の平和に貢献する人づくりであると一言で見 渡すことができる. しかし, わがこととして受け取ることが求められがち な福祉において, 貧困問題は福祉のものという認識があ る. 教職をめざす学生にとって, 福祉とはなにかについ てどんな学びを経験してきたのかが改めて問われねばな らない. 「福祉との関わりについて経験はあるか」 とい う問いに対して, 教員養成課程の学生も教師もその反応 はあまり変わらず, 「ない」 と答えることが多い. 学習 者の構えの読み取りとして, 世間への感覚と専門性との つながりがある. つまり子どもは教師が抱え込むがゆえ に多職種や他職種という時の 「多」 や 「他」 は教職から 見ると外部となり, その線引きも何らかの自己検証を経 たものではない. (3) 支える能力から支えられる能力へ 次に, 学生たちの文章から, 抱え込み―支える能力か ら支えられる能力への転換を読み取ることができる. 「専門職だからできてあたりまえ」 という外部評価に苦 しまずに抱え込まない力をもつ. つまり人に頼る権利の 復権 (エンパワメント) を目指し, 助けてもらっている ことを味わう力や環境と地域の力を信頼し借りる力をも つ. 教職には揺らぎはつきものであるが, 実践の揺らぎ を止めることに力を払うのではなく, 揺らぐことのでき るーこれは子どもと一緒に揺らぐことができる (寄り添 う) ことが本来の専門性になる. こうした点への関心は 学校の主人公である子どもたち (集団) の存在への関心 となる. スクールソーシャルワーカーという福祉職との つながりは学生にとっては未知である. しかし, 子ども は子ども社会のなかで育つという点に多くの学生たちが 気づいている. 複雑に変化する時代にはしなやかさと多様性が欠かせ ない. 本書をもとに対話した学生たちにとって, 福祉と の出会いは環境変化を見通す力や意思決定の力への素養 をどこで修得すればよいかの問いであったという. 環境 の変化に敏感な領域とつながるという点では, 教育も福 祉もともに共通すると思われる. 学習とは他者との関わ りの中で行われる部分がある. 経験―内省―他者への応 用, 積極的な実験が問われる. このことを意識してくれ たように思われる. 今後, 多職種連携の学習は, 学校が安心できる場であ るというアピールにもある. 教職への志望者の倍率が下 がるなか, 「ブラック教職」, 「保育のネガティブキャン ペーン」, 「福祉職の 3K」 などの揶揄がある. 人材養成 に携わる者が教育職や福祉職への魅力を提唱していくた めにも多職種協働の価値 (内発性) は大切になる. 一方, 福祉職にとっても, 「学校の協力を得て発展する子ども 福祉」 への関心となる. では今後, 学生たちにどういった問いを発するのか. スクールソーシャルワーカーは第三者として双方を 理解し調整役となる. 学校を介した福祉の成立や効 果を最大限発揮するためにも必要だと感じた. 本書に 「分業と協業, ヘルプは教師の専門性」 と いうキーワードがある. 小学校教師を目指す私にとっ て, 学級の子ども達は自らの手でどうにかしたいと いう気持ちが正直あった. しかし, 教職が抱える問 題の複雑さや多さを知るにつれ, 1 人では対応仕切 れないと感じた. 分業と協業を細かく使い分け, ヘ ルプは恥ずべきことではなく, 目の前の子ども達を より良く導くための最善策だと考えるようになった. 様々な専門家の考えやアプローチと自分の現状でで きるベストを尽くして子どもと関われたら良いので はないかと考えた.
この多職種連携学習は, 批判的思考や問題解決, 意思決 定, コミュニケーション, コラボレーション (チームワー ク), 働きかけるツールづくり, 地域やグローバル社会 での市民性 (シチズンシップ), 人生とキャリア発達, 個人の責任と社会的責任 (異文化理解と異文化適応能力 を含む) が浮かび上がってくる. 総じてこれらは, 教育 と福祉の 「相互の課題を突き通す矢になる」 であろう. また青年期の学びという点で, 多職種連携の学習が持つ 意味も別途確認する必要があると感じる.
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教育と福祉の境界面をめぐる実践研究の重
要性
(1) 相互作用との新たな出会い では, 大学で授業をおこなう側の課題について考えて みる (想定してみる). 学校福祉は, 社会福祉と学校教育との相互作用によっ て生じる具体的な成果に着目する用語である. そこには, 学校関係者と学校外の専門機関の職員との用語の違いや 実践価値の違いを他者へ 「翻訳」 する専門性が欠かせな い. 日本の公教育システムのなかにソーシャルワークが 定着するためには今日の学校論や教育学関係の諸論とと もに, 子どもの成長・発達に影響を与える諸科学へさら に関心が向かねばならない. 他者との共通項での新たな 出会いとは, 子どもの実像に迫るために関係性を組みか える諸実践を異なる専門職と連携する中で達成していく ことである. 学習活動としては長期的課題である. ところがソーシャ ルワークを通じた学校支援とは, 支援される学校側を客 体と見なすのではなく, 学校の福祉的機能を学校という 公共の場に埋め戻そうとする主体の形成である. 学校の 内側から人権と社会正義の目的・方法・価値を構想する 契機ともなる. 人的介入の外部性 (第三者性) があるゆ えに, 子どもの学習権保障に役立つ教育活動であるかど うかの見直しや修正指摘という中立性が担保できる. 子 どもの置かれている諸環境 (生育・養育, 健康, 地域性, 家庭経済, 文化など) の要因が子どもの学習や生活に影 響を与える. 多職種連携学習の特徴は, 教師が多角的に 自身の領域のものごとを深く把握する支援に他ならない. (2) 共通項となる能力のカテゴリー 全米ソーシャルワーカー協会 (NASW) によればソー シャルワーク実践には次の 4 つの目的が示されている(18). ・人々について発達能力, 問題解決能力, 処理能力を 強化する. ・人々に資源やサービスを提供する制度の効果的かつ 人道的な運営を促進する. ・人々と資源, サービス, 機会を提供する制度とを結 びつける. ・社会政策の展開と改善に貢献する. これらは学校教育を直接対象に据えたものではないが, 「ソーシャルワーク実践のための知識, 技能, 能力, 価 値観」 は学校教育における 「子どもにどのような力を育 てるのか」 という問いに近づくことができる. ○知識面では, サービスを受けるクライエントに影響 を与える社会および環境要因に関する知識, 心理社 会評価と介入に関する理論と方法並びに種々の診断 に関する理論と方法に関する知識, 組織と社会制度 の理論と行動並びに変革推進の方法に関する知識, 人間の成長発達の理論並びに家族と社会の相互作用 の理論に関する知識などが挙げられている. ○技能面では, 理解と目的をもって他者から聴く技能, 社会経歴,事前評価,報告書を作成するために情報を 引き出し,関連実態を収集する技能専門的援助関係 を築き,維持するとともに,関係の中で自己を用いる 技能, 言語的非言語的行動を観察し解釈するととも にパーソナリティ理論と診断方法の知識を用いる技 能, クライエント自身が自分の問題を解決しようと 努力するように向かわせるとともに,信頼を得る技 能などがある. ○能力面では, 明瞭に話し書く能力, 人に教える能力 などの対人援助能力であったり, 複雑な心理社会的 現象を解釈する能力や自己マネジメントの能力, 危 機対応やなにごとをも想定できる能力や問題解決の ための情報収集や科学的分析能力などが示されてい る. ○価値観の面では, 社会の中での個人の基本的な重要 性に対する約束, クライエントとの関係の守秘性を 尊重, 社会的に認識されたニーズを満たすことにな る社会変化への参画, 専門職関係から離れて個人と しての感情やニーズを維持する意欲, 知識や技能を 他者に伝える意欲, 個人差および集団の差異に対す る認識と尊重, クライエントの自助能力を伸ばすこ とへの参画などがある. 先述したように多職種連携学習の意図は, 専門職よりも利用者の声から出発する教育実践である. そのために はクライエントの声で専門職をつなぐとともに, 実践者 自身が失敗しても誰かに頼ることができる権利が保障さ れる. 教育と福祉の協働は, かつての施設処遇や措置保 護への危惧を乗り越え, 学びや友だち, 居所を断ち切ら ない環境の保障である. 社会 (他者) へ自由に依存でき る権利に裏打ちされた学校生活の創造をめぐり, 教師に とっても福祉職にとっても福祉との結節点が子どもたち との新しい出会いになるという点であろう. (3) 援助技術の協働的開発 相談援助技術という点で, スクールソーシャルワーカー に求められる学習内容と教師のそれとは重なる部分が少 なくない. それを個々に学ぶのではなく, 同時に場を同 じくする学習スタイルが有効となる. 専門用語の語法や 理解の違いのみならず, 日常的な所作や行為のレベルで も差異が生まれる. 受講者の実践経験や知識理解を一定 にそろえて研修をおこなう良さもあるが, それは講師側 の力量にも関わる. 1 つのステージに一緒にいることで, 同じものを見ていても異なって認識される. これは逆に 共通する言語や実践用語の開発にあたる. 教育職と福祉職との援助技術や対人援助技術の境界を 曖昧にするのではなく, 逆にその境界を明確にするため にも, ソーシャルワーク (相談援助技術) のプログラム や教材づくりで協働的作業が大切になる. 専門職の研究 者がまず相互に境界をまたぐことが必要であろう. 日常 的な連携概念, 法的根拠, 文言の相互確認でもある. ク ライエントのニーズや多様性の文化的価値, アセスメン ト研究, 統合的ツールの開発及びアセスメントツールの 方法論的基礎が求められる. 特に, 組織的連携への追求 のなかでアセスメントツールの設計が大きなテーマとな る. こうした技術は教師と福祉職の相互作用から生まれて くる. 教師が福祉制度や法制, サービスを理解する. 福 祉職が学習指導の教授学を学ぶ. 多職種連携学習として 「学校体験実践」 や 「学校理解実習」 において, スクー ルソーシャルワーカー養成課程や公認心理師・臨床心理 士養成と教員養成の学生たちが同じ 1 つの現場にはいり そこでの学びをふり返り, 相互批判的に検討することに ある. そのチーム感が多職種連携の原風景となる. こう した機会は, 専門職をめざす学生の卒業前指導であった り卒業後の支援拠点 (地域の専門職・現任者を含む) な どもある. 前者に多職種連携教育 (学校における多職種), 後者は卒業後の高度人材育成の推進となる.
小括
社会福祉と学校教育の結節点―ダブルラ
イセンス構想
教員養成の初年時にある教職科目 「教職入門」 のなか に 「教育支援人材論」 を採り入れたり, 教職実践演習に 「異種の校種」 や 「障害児の発達と教育」, 「地域の子ど も家庭支援資源論」 などを組み込む. その一方で, 社会 福祉士養成カリキュラムや臨地実習において, 学校教育 の教育課程 (学習指導と生徒指導, コミュニティスクー ル論, 保護者支援) と密接に関わりを持つ 「学校理解」 の充実が挙げられる. また, 社会福祉と学校教育の結節点―ダブルライセン ス構想がある. 文科省と厚労省にわかれた人材育成・養 成課程・カリキュラムが結びつくことはない. 別個の人 材養成制度が 1 つの子どもの生活圏で相まみれ, それが 2 つのライセンス取得に結びつく. これは施策や制度に よって分離されてきたものをつなぐことである. 独自に 学校福祉という実践領域を持つことは, 新規の発想であ る. 人材養成の行政法的分離を融合する. 人の命やくら しを, こうした人材養成原理によって左右されるもので はいけない. 今後, くらしをとらえる人材論の基礎とし て 「デザイン」 論が有効になる. スクールソーシャルワー カーに従事する人の資格を見ると, 教員免許と社会福祉 士・精神保健福祉士のダブルライセンスは 3 割にあた る(19). この数値は何を物語っているのか. いずれ社会福 祉士などのソーシャルワーク専門職に一定の到達がある かもしれない. スクールカウンセラーも, 教員免許制度 のような形態ではなく, 資格条件に 「正」 と 「準」 とい う区分けを持つ. 資格と任用基準は一体化していない. しかし, 資格や経験が渾然一体となっている現在, 個々 人の意欲や関心, 経験としてとらえるのではなく, 個人 の中で 2 つの資格=学びがどのような 「化学変化」 をお こすのか. そこに学校福祉職のベースを模索する. さら に, 教育学の学習方法論と社会福祉の学習方法論とのパ ラレルやクロスオーバーはすでに数多くの蓄積と関心が 高まっていると思われる. 以上, 本稿では, 学校教育と社会福祉を橋渡しする 「協働の担い手」 の育成を志向して多職種連携学習 (教 育) との連接を考察してきた. ただ, こうした多職種連 携の学習主体について, 今回は教育学部の学生に止まっていたため偏面は避けられない. その限界もあるが, 今 後, 学校教育と学校臨床・学校心理, 及び学校臨床と社 会福祉との連接を含む 「トライアングル」 を通じた多職 種協働を検討していく. 学校教育における多職種協働の 目的, 方法技術, 価値は, これからの学校の多様性を探 求する 1 つの視点になると思われる. 引用・参考文献 ( 1 ) 文部科学省 生徒指導提要 , 2010 年, p. 24 ( 2 ) 埼玉大学編 IPW を学ぶ 中央法規, 2009 年, p. 12-p. 17 ( 3 ) 鈴木庸裕 学校福祉とは何か ミネルヴァ書房, 2018 年, p. 20 ( 4 ) 鈴木庸裕 「学校, 家庭, 地域をつなぐ学校ソーシャルワー ク」 福島大学教育学部論集 73 号, 2002 年, p. 31-p. 40 ( 5 ) 鈴木庸裕・横山光子 (福島大学人間発達文化研究科院生) 「特別なニーズを持つ子どもをめぐる教師・スクールソー シャルワーカー・スクールカウンセラーの協働に関する 調査」 2018 年 7 月の中間報告より. ( 6 ) 福島大学総合教育研究センター 教育臨床実践講座報告 2016 年 ( 7 ) 文部科学省 学校組織マネジメント研修 (マネジメント 研究カリキュラム等開発会議) 2005 年 ( 8 ) 文部科学省中央教育審議会 今後の教員養成・免許制度 の在り方について (答申) 2006 年 ( 9 ) 鈴木庸裕 「教育と福祉の協働」 教育 825 号, かもがわ 出版, 2014 年 (10) ピーター・M・センゲ 学習する組織 英治出版, p. 44 (11) 文部科学省教育職員養成審議会 養成と採用・研修との 連携の円滑化について (第 3 次答申) , 1999 年 (12) 日本社会福祉士会 社会福祉士倫理綱領 中央法規, 1988 年 (13) 城丸章夫 「学校とは何か」 教育 国土社, 1973 年, p. 7 (14) 城丸章夫 「現代日本教育論」 城丸章夫著作集第 1 巻 青 木書店, 1992 年 (初出 1959 年) p. 45 (15) 鈴木庸裕編 スクールソーシャルワーカーの学校理解 ミネルヴァ書房, 2015 年, p. 28 (16) 大門俊樹 「福祉教育の変遷と福祉科教育の展開から」 学 校福祉とは何か ミネルヴァ書房, 2018 年, p. 24 (17) 鈴木庸裕 学校福祉のデザイン かもがわ出版, 2017 年 (18) 全米ソーシャルワーカー協会 ソーシャルワーク実務基 準及び業務指針 (日本ソーシャルワーカー協会訳) 相 川書房, 1997 年, p. 30-p. 33 を参照 (19) 文部科学省 平成 28 年度スクールソーシャルワーカー活 用事業実践事例集 2017 年参照