JAIST Repository
https://dspace.jaist.ac.jp/ Title ライフスタイル変革のテクノロジーとその設計プロセ ス Author(s) 星川, 晃城; 古川, 柳蔵; 須藤, 祐子; 石田, 秀輝 Citation 年次学術大会講演要旨集, 28: 71-74 Issue Date 2013-11-02 Type Conference Paper Text version publisherURL http://hdl.handle.net/10119/11669
Rights
本著作物は研究・技術計画学会の許可のもとに掲載す るものです。This material is posted here with permission of the Japan Society for Science Policy and Research Management.
1B09
ライフスタイル変革のテクノロジーとその設計プロセス
○星川晃城,古川柳蔵,須藤祐子,石田秀輝(東北大学大学院) 1.緒言 現在、地球温暖化をはじめとして、多種多様な 環境問題が存在している。エネルギー分野に目を 向けると、石油は 2006 年にピークオイルを迎え、 将来的にエネルギー価格の上昇、世界のエネルギ ーの分配問題の発生などが考えられる[1]。食料の 分野では、穀物の食糧価格は今後上昇すると予想 されており、日本で自給率の低い品目は入手困難 になることも考えられる[2][3]。このように日常を とり巻く資源・エネルギーの枯渇や、食料需給の 問題の他にも、生物多様性の劣化、人口の増加、 気候変動など様々な環境問題が地球上に存在し ている。この環境問題の原因となっているのが物 質消費を原因とした人間活動の拡大であり、その 拡大を我慢という方向ではなく人間の持つ豊か さを保持しながらいかに停止・縮小するかが重要 となる[4]。 このような環境問題に対し日本の生活者は、9 割を超える消費者が環境問題に関心を持ち、約 7 割の消費者が環境問題に対する行動が必要と感 じているという結果が報告されている[5]。また、 日本では 1999 年にトップランナー基準を導入し、 家庭における様々な電気機器のエネルギーロス 削減技術が開発されてきている [6]。しかし実際の 家庭における環境負荷の推移をみると、家庭部門 における CO2排出量は近年上昇傾向にある[7][8]。 持続可能な社会を構築するためには現在の消費 活動を続けていくことは困難であり、人間活動の 原点であるライフスタイルを環境配慮型に変革 する技術が必要になる。 環境負荷低減を目的とした取組みも過去に報 告されている。環境省では、HEMS などの活用によ り家庭全体や各エネルギー消費機器のエネルギ ー消費量を生活者が把握し、生活を見直すことに よる省 CO2効果の検証や[9]、世帯のエネルギー消 費量や光熱費をもとに家族の暮らし方に合わせ た低環境負荷な生活を提案する「うちエコ診断」 も行われている[10]。既往の研究においては、節 約・節制などを被験者に実行させることで、家庭 のエネルギー消費を低減させ環境負荷削減を試 みているものもある[11][12][13]。実際にこれらの取 組みによって生活者のエネルギー消費は低減し、 一定の効果が見られたものの、しかしながら、そ のような低負荷型の暮らし方は根付くことは難 しく、実施前後での明確な環境負荷の変化は認め られない。一時的な効果ではなく、持続可能な環 境負荷低減を目指すのであれば、ライフスタイル を根本から変化させる必要がある。 持続可能かつ、低環境負荷なライフスタイルの 構築のため、瀧戸ら[14]はライフスタイルデザイン という手法を創出した。2030 年の環境制約、社会 状況から、節約や我慢の方向ではないライフスタ イルを作成し、その社会受容性とその評価構造を 明らかにしたものであるが、ライフスタイルの生 活者への提示方法、すなわち、テクノロジーに環 境配慮型ライフスタイルを付随させた技術設計 の手法は確立されていない。 そこで、本研究ではライフスタイル変革技術の 設計において、現在実現しつつある事例のデザイ ンアプローチを記述、分析することで、ライフス タイル変革技術設計の手法構築の検討を目的と する。 2.ライフスタイル変革技術について 本研究では、ライフスタイル変革技術として 「インハウスファーム」を取り上げる。インハウ スファームは、前述の瀧戸らによって作り出され たライフスタイルデザインの手法を用いて創出 されたライフスタイルの 1 つである。家の中やリ ビングの壁などで野菜を育て、食事にも利用し、 楽しむライフスタイルである。 現在の日本の食糧自給率はカロリーベースで 39%であり、1 年の食料輸入にかかる CO2排出量は フードマイレージも世界の中では 7000t・km/人と 他国に比べ非常に高く[15]、将来の輸送に使用され る原油価格の高騰を見込めば、食糧輸入が困難に なることが予測される。そこで、家の中で食を育 てるライフスタイルを実現するために、自然界の 土壌の中で、栄養素の植物への持続的な供給や病 原微生物の増殖を制御している微生物群集に着 目 し 、 そ の微 生 物 群 集を 抽 出 し 軽量 の 人 工 土 (Fig.1 , Fig.2)で栽培することを考える。Fig.1 シリカ人工土 Fig.2 ウレタン人工土 少量の水と光があれば育てられる、すなわちエネ ルギーを大量に注ぐことなく食を自給できるよ うにすることで将来の環境制約下においても持 続可能なライフスタイルとなりうる。そしてこの 微生物という技術を人間の生活に組み込むこと で様々な形のライフスタイルが考えられる。 3.分析方法 ライフスタイル変革技術の設計において、本研 究では生活者にいかに技術とそれに伴うライフ スタイルを効果的に提示するかという、商品設計 の視点に立ち分析を行う。すなわち「インハウス ファーム」のコンセプトに分解し、生活者がイン ハウスファームに求める要素を抽出する。過去に 瀧戸らが行ったライフスタイルのアンケート調 査では、1 つのライフスタイルにつき 200~300 字 程度の文章で被験者に提示し、社会受容性の調査 を行った。今回の調査では、まず 200 字~300 字 の文章を 50~60 字程度のコンセプトに分解する。 その上で個々のコンセプトの社会受容性を測定 する。その結果から重回帰分析によって各コンセ プトの総合受容性に対する寄与率を分析するほ か、単純な寄与率の上位コンセプトの融合だけで なく、上位と下位の組み合わせによる社会受容性 の向上の可能性を検討するため、分散分析により コンセプト間の交互作用の検討をし、最適な組み 合わせを検討する。また、瀧戸ら[14]が用いたライ フスタイル評価項目(40 項目)を用いて因子レベ ルでのコンセプトの区別、コンセプトとコンセプ トを組み合わせた場合の印象変化、受容性変化の 影響を検討するため、ライフスタイル評価項目を 用いてコンセプトの持つ因子を特定する。 4.分析結果 まず、インハウスファームのライフスタイルか ら考えられるコンセプトをブレインストーミン グにより、様々なターゲットやシーンを考慮し 6 つに集約した。そのコンセプトと文章を Table 1 に示す。 Table 1 インハウスファームの 6 つのコンセプト 1 日々香りや形が変化し、色つきの透明な土や器のライトアップなど、 土で汚れる心配のない光のインテリアとしても楽しむことができる。 2 軽い土のおかげで、壁など場所を選ばず栽培ができ、キッチンまわりを 汚すことなく育てたハーブや野菜を新鮮なまま料理に使うことができる。 3 土が透明で、根を張る姿や微生物で土が色づく姿から、 野菜や植物の生長をより身近に感じることができる。 4 家を汚さず栽培できるので、子供にインハウスファームの世話をする という役割を与え、植物や野菜の育成を通し、いつでもどこでも環境教育ができる。 5 サラダ用野菜、スパイス、ハーブなどを多彩に栽培できるため、食事に サラダやスパイスを添え、食後にハーブの香りで一息つくといった一連の食を インハウスファームで演出する。 6 植物の手入れをすることで五感を刺激し、植物という「静かな命」と 関わることで室内を汚すことなくインハウスファームで家じゅうどこでも 疲れた心を癒す場に変える。 その後、総合的受容性とその 6 つのコンセプトの 受容性および構成因子について Web アンケートを 実施した。サンプル構成は 20~60 代の 5 世代× 男女の 10 割付に対し各 400 サンプル、合計 4000 サンプルである。コンセプト別受容性と総合的受 容性の重回帰分析を実施するにあたりコンセプ ト間の相関係数を算出した。その結果、コンセプ ト 2 と 5 の相関が高く、評価因子の比較において も類似性が高くなっていたため、総合的受容性へ の相関が低いコンセプト 5 を消去し、残った 5 つ のコンセプトで重回帰分析を行った。5 つのコン セプトそれぞれの社会受容性と総合的受容性を 比較すると、総合的受容性よりも高い受容性を示 すコンセプトがいくつか見られ、コンセプトに分 割し、生活者に具体的な形で提示することで社会 受容性が高まった。この結果から、ライフスタイ ルを生活者に提示する上で、ライフスタイルをコ ンセプトに分割することの有用性が示唆された。
さらに、コ 「新鮮な野 「家庭での リングし、 プトの総合 (Fig.3)。 Fig.3 総合的受容 たところ R 神的癒し」 上位のコン トという寄 与えている 位 2 コンセ ンセプトの 性向上が期 次に、分 従属変数と おいて交互 テ リ ア 」 (F[1,1599 × 「 家 庭 で p<.10)の交 トを検討す の観点から いく。各コ 「まったく の 3 つの回 「非常に望 互作用を検 Fig.4 に示す に関わらず くなるほど とも高群に っている。 コンセプト 乗効果が示
17%
15%
13
ンセプト 1 野菜」、3 を の環境教育」、 重回帰分析 合的受容性に 3 総合的受 容性を従属変 2=0.411 とな 「新鮮な野菜 ンセプト、そ 寄与構造をと と考えられ セプトの個別 の生活者への 期待できる。 分散分析の結 し、コンセ 互作用の検討 」 × 「 い 96]=5.927, で の 環 境 教 交互作用が有 するにあたり ら後者の組み コンセプトの 望まない」「 回答者群を「 望む」の 3 つ 検討する。交 す。「家庭で ず、「新鮮な野 ど総合的受容 に位置するほ すなわち総 トが相互に受 示唆される。28
27%
%
%
3%
を「光のイン 「いきものを 6 を「精神 によって得 に対する寄与 受容性に対す 変数とし重回 なった。分析 菜」の 2 つの の他 3 つが下 とり総合的受 れる。よって、 別の提示、また の提示により 果を示す。総 プトの組み合 討をしたとこ い き も の p<.05)と 教 育 」 (F[1, 有意となった。 、文章化・可 み合わせを詳 の社会受容性 「望まない」 低群」、「やや の回答群を 互作用の下位 での環境教育 野菜」におい 容性は高まり ほど総合的受 合的受容性に 受容性を高め8%
%
ンテリア」、 を身近に」、4 的癒し」とラ られた各コン 与率を分析す する寄与率 回帰分析を行 析結果より、 のコンセプ 下位のコンセ 受容性に影響 、この寄与率 たは融合した りさらなる受 総合的受容性 合わせすべて ころ、「光のイ を 身 近 に 「新鮮な野菜 ,15996]=3.7 。融合コンセ 可視化の容易 詳細に分析し 性調査におい 「やや望まな や望む」「望 「高群」とし 位検定の結果 育」の高群、低 いて受容性が 、両コンセプ 受容性が高く に対する 2 つ め合うような 2 を 4 を ラベ ンセ する 行っ 「精 トが セプ 響を 率上 たコ 受容 性を てに イン に 」 菜」 714, セプ 易さ して いて、 ない」 望む」 し交 果を 低群 が高 プト くな つの な相 3 スタ フ ス Tab た。 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 Fig.4 3 つ目の策定 タイル評価因 ス タ イ ル 評 ble3 に示す Table2 Table3 無駄なものがな 2 手間がかからな 3 お金がかからな 4 時間がかからな 5 働き場がある 6 便利である 7 自由度がある 8 精神的な負担が 9 環境問題に貢献 0 ものを大切にし 自然環境が守ら 2 自然を感じられ 3 文化的である 4 達成感が得られ 5 トラブルが起きな 6 人任せになって 7 自分を成長させ 8 自分で手入れで 9 ものに愛着がわ 0 清潔である コンセプト 定方法として 因子を検討す 価 項 目 40 す各コンセプ 2 ライフスタ 3 コンセプト ない 2 ない 2 ない 2 ない 2 2 2 2 が少ない 2 献できる 2 している 3 られている 3 れる 3 3 れる 3 ない 3 ていない 3 せられる 3 できる 3 わく 3 4 トの交互作用 て各コンセプ する。Table2 項 目 の 印 象 プトの因子構 タイル評価項 ト因子分析結 21 健康的である 22 人からの評価 23 主流になる 24 自分の性格に 25 情報があふれ 26 家族とのつな 27 社会とのつな 28 子供の教育に 29 人のためにな 30 人に自分の想 31 楽しみを人と共 32 自分の個性を 33 楽しい 34 食べ物を大切 35 気持ちがよい 36 生活が守られ 37 新規性がある 38 贅沢感がある 39 現実的である 40 価値観に共感 用 プトのライフ に示すライ 象 調 査 か ら 構造を分析し 項目 結果 る 価がよくなる に合う れている がりがある がりがある によい なる 想いが伝わる 共有する を出せる 切にする い れている る る る 感できる し因子分析の結果から社会受容性が最上位と最下 位である「新鮮な野菜」×「いきものを身近に」 のコンセプトを検証する。この 2 つのコンセプト は、社会受容性が最上位と最下位のコンセプトで あり、第 1 因子が愛着という同じ因子で構成され ている。第 2 因子以下について同じ因子が並ぶが、 第 3 因子と第 4 因子の正負は異なる。正負を分け る基準値である 3.5 という値(6 段階評価に対し 評価の低い方から 1 点~6 点を割り当てた場合の 平均値)を考慮すれば「いきものを身近に」コン セプトは第 3 因子である利便が負に効き、「新鮮 な野菜」コンセプトは自然も物も大切因子が正に 効いているといえる。しかし、瀧戸ら[14]によれば、 ライフスタイル評価項目における「利便」因子に 関しては、過去の報告から受容性には大きく影響 しないことが明らかにされており、因子として大 きく異なっているのは「自然も物も大切」因子の みとなっている。このように受容性、因子の正負、 因子得点の大きく異なるコンセプトを融合させ た場合、それぞれの値がどのような挙動を示すの か検討する必要がある。 5.結言 本研究では、将来の環境制約におけるライフス タイル変革技術としてインハウスファームを取 り上げ、コンセプトの作成とその融合効果の分析 を行った。今回取り上げたようなコンセプトペア の策定に用いた 3 つの分析方法以外にも提示コン セプトの策定方法は考えられる。しかし、それら を分析する上では構成因子などの、一定の指標を 軸として分析していくことが重要である。また、 将来的にライフスタイルを生活者に提示してい く際には、文章だけでなくコンセプトを可視化し 提示することでの効果も検討していく必要があ り、コンセプトレベルでの評価や分析、可視化に よる効果の検証により最適な提示方法を考える 必要がある。本研究の結果はどのライフスタイル にも当てはまるようなものではないが、ライフス タイルの最適な提示方法への一助として、意義の ある分析結果になりうると考えられる。また同時 に今後異なるライフスタイルにおける分析や、分 析方法の検討、さらにはライフスタイル変革効果 の検証なども含め、さらなる研究をしていくこと が必要となる。 参考文献
[1] International Energy Agency .『World Energy Outlook 2008』,197-217,249-276(2008). [2] Oxfam . 『Oxfam Research Report, June 2011』,
12-15(2011). [3]古川柳蔵. 『環境制約下におけるイノベーション』 東北大学出版会,29-44 (2010). [4]石田秀輝,古川柳蔵,電通グランドデザイン・ラボ ラトリー.『キミが大人になる頃に。』日刊工業新 聞社,12-19(2010). [5]増田拓也,石田秀輝,古川柳蔵.「ライフスタイ ル・ハザードマップ作成手法の高度化に関する研 究-家計調査を用いて-」『研究・技術計画学会 第 25 回年次学術大会 講演要旨集』, 440-443 (2010). [6]経済産業省資源エネルギー庁. 『日本のエネルギ ー2010』,37-40(2011). [7]独立法人国立環境研究所. 日本の温室効果ガス 排出量データ,(2011). [8]日本エネルギー経済研究所(2013), 『EDMC エネ ルギー・経済統計要覧』 [9]環境省(2012),「第三回 家庭エコ診断推進基盤 整備事業検討会」配布資料 [10]環境省(2011),「日常生活から排出される温室効 果ガス排出量の『見える化』の効果実証事業につ いて」 [11]井上,水谷,田中(2006),「全国規模アンケートに よる住宅内エネルギー消費の実態に関する研究」 [12]湯淺,劉,吉野,長谷川(2009),「低負荷型ライフ スタイルによる住宅のエネルギー消費量削減の 可能性」
[13]Luis Lopes(2005), 「 Energy efficiency and energy saving in Japanese residential buildings」 [14]瀧戸ら(2011), 「環境制約を考慮したライフス タイルの評価構造抽出と社会受容性に関する分 析」 [15]中田哲也(2001), 「フードマイレージの試算に ついて」 農林水産政策研究所レビューNo.2