新規細胞増殖因子Gas6の生理機能の解明とその阻害
剤の開発と応用
著者
水野 健作
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新規細胞増殖田子Gas6の生理機能の解明と
その阻害剤の開発と応用
(課題番号12558079) 平成1 2年度∼平成1 3年度科学研究費補助金 基盤研究(B)(2)研究成果報告書平成14年3月
研究代表者 水野健作
(東北大学大学院生命科学研究科教授)
はしがき 平成1 2年度∼平成1 3年度の2年間、 r新規細胞増殖因子Gas6の生理機 能の解明とその阻害剤の開発と応用」という研究課題で、基盤研究(B)(2)展開 研究として科学研究費補助金を受け、研究を行った。本研究課題を遂行してい くうえで、本補助金は極めて有効であり、成果報告にあたり、まず謝意を表し たい。また、共同研究を行っていただいた京都大学大学院医学研究科荒井秀典 博士及び塩野義製薬創薬研究所中野亨博士の研究グループの方々、ならびに研 究協力していただいた東北大学大学院生命科学研究科情報伝達分子解析分野の 方々にも深く感謝したい。 細胞増殖因子は細胞の増殖、分化、生存維持、運動能などを調節する国子と して、正常個体における発生や創傷治癒、再生など個体の恒常性の維持に不可 欠の役割を果たしているが、一方で、その発現の異常な元進や減少は、癌や動 脈硬化など多様な疾患の原因となることはよく知られている。新規な細胞増殖 因子の発見とその生理機能の解明は、発生や再生の分子機構解明の基礎を与え るばかりではなく、種々の疾患の病因を明らかにし、疾病の診断や治療にも広 く応用されるようになってきた。私達は、 1994年、新規な受容体型チロシン キナーゼskyをクローニングし、さらに、そのリガンドがGas6 (growth arrest-specific gene 6の産物)とよばれる新規な細胞増殖因子であることを同 定した。 Skyは細胞接着因子に類似した細胞外ドメインを持ち、 Axt, Merとと
もに受容体型チロシンキナーゼの中で一つのサブファミリーを形成しているが、 Gas6はこれら3種の受容体の共通のリガンドとして機能している。 Gas6は、 抗血液凝固因子として知られるプロテインSに類似した構造をもち、 N末端か らGlaドメイン、 4個のEGF-likeドメイン、性ホルモン結合蛋白質様(sex hormone-binding globulin-like: SHBG)ドメインからなるユニークな構造の新 しいタイプの細胞増殖因子である。 Gas6は、当初、血清飢餓時の線維芽細胞 に発現誘導される遺伝子産物として同定されたが、その後、血管平滑筋細胞の 増殖や遊走の促進活性や腎メサンジウム細胞、シュワン細胞、線維芽細胞など の増殖促進活性をもつことが明らかにされた。また、最近、 Gas6の3種の受
容体Axl, Sky, Merのトリプルノックアウトマウスが作成され、脳、肝臓、精 巣、血管壁、網膜の変性、退絹や牌臓の肥大が見られることが報告されており、 これらの組織の正常機能の発現にGas6が重要な役割を果たしていることが示 唆されている。 本研究では、 Gas6の生理機能を細胞レベル、個体レベルで解明するととも に、種々の疾患におけるGas6の関与を明らかにし、 Gas6の特異的な阻害剤 の開発により、これら疾患の診断と治療法を開発することを目的として、研究 を進めた。特に、 Gas6が腎メサンジウム細胞の増殖を促進することが明らか にされ、腎メサンジウム細胞の過増殖による糸球体腎炎の発症におけるGas6 の役割と、 Gas6阻害剤による治療効果についてもモデル動物を用いて検討し た。さらに、私達は、ビタミンK依存的Gla化の括抗阻害剤であるワルフア リンがGas6のGla化を阻害し、 Gas6の生理作用を抑制することを兄い出し ているので、これまで抗凝固剤として用いられてきたワルフアリンの効果を再 検討するとともに、糸球体腎炎に対するワルフアリンの効果についてもモデル 動物で検討した。 Gas6は、新規な細胞増殖因子であり、その生理機能、作用機序については 不明の点が多く残されており、その病態との関連についての研究は緒についた ばかりである。本研究で得られたGas6の生理機能と腎疾患との関連について の知見が、今後、診断薬、治療薬の開発など臨床医学への応用につながること を期待したい。 研究組織 研究代表者:水野 健作(東北大学・大学院生命科学研究科・教授) 研究分担者:大橋 一正(東北大学・大学院生命科学研究科・助教授) 研究分担者:荒井 秀典(京都大学・大学院医学研究科・助手) 研究分担者:中野 亨(塩野義製薬・創薬研究所・主管研究員)
研究経費 平成1 2年度 平成1 3年度 7, 800千円 5, 800千円 総 計 13, 600千円 研究発表 (* :本研究に先立って発表された論文であるが、本報告書の参考のために渇 載した論文) (1)学会誌等
*1・ Nagata, K・, Ohashi」こ, NakanoJ, Arita, H・, Zong, C・, Hanafusa, H・, and Mizuno.
基エIdentification of the product of growtharrest-specific gene 6 as a common
ligand fわr Axl, Sky and Mer receptor tyrosine kinases・ J・ Biol・ Chem・, 271,
30022-30027 (1996).
*2・ Tanabe, K・, Nagata, K・, Ohashi・私, NakanoJ, Arita, H・,and Mizumo・ 臥 Roles of
g-Carboxylationand a sex hormone-binding globulin-like domain in receptor-binding and in biological activities of Gas6. FEBS Lett., 408, 306-310 (1997)・
*3. Yanaglta, M., Ishii, K., Ozaki, H., Ar血H., Nakano. T, Ohashi.臥, Mizuno∴臥, Kita, T.,and Doi, T. Mechanism of inhibitory effect of warfarin on mesangialcell
proliferation. J. Am. Soc. Nephro1., 10, 2503-2509 (1999)・
4. Ishimoto, Y., OhashiX, Mizun0. 臥,and Nakano∴L Promotion of the uptake of
phosphatidylserine liposomesand apoptotic cells by a product of
growtharrest-speci丘c gene, gas6. ∫. Biochem., 127, 41 1-417 (2000)・
5. Yanaglta, M., Ar血H., Ishi, K., Ozaki, H., Nakano. T, Ohashi∴臥, Mizuno∴臥, Vamum, B., Fukatsu, A., Doi, T.,Kita, T. Gas6 regulates mesangialcell
proliferation through All in experlmentalglomerulonephritis. Am・ J・ Pathol・, 158,
6・ Yanagita M・, Arai H・, Nakano T・, Ohashi∴臥, Mizuno・に, Fukatsu, A・, Doi, T・, andKita, T. Gas6 induces mesangial cell proliferation via latent transcrlptlOn
factor STAT3. J. Biol. Chem., 276, 42364142369 (2001).
(2)出版物(和文総説、著書)
*1.大橋恭子、水野健作: Gas6:カルポキシグルタミン酸をもつ細胞増殖因
子,化学と生物, 37 (10), 637-639 (1999)
2.水野健作:血管平滑筋細胞増殖促進因子Gas6, rVascular Biologyナ
ビゲーター」 ,丸山征郎他編,メディカルレビュー社, pp. 112-113(2001)
研究成果
本研究では、 Glaドメインを有する新規な細胞増殖因子Gas6およびその受
容体であるAxl, Sky, Merの生理機能を細胞、個体レベルで解明するとともに、
種々の疾患におけるGas6の関与を明らかにし、 Gas6の特異的な阻害剤の開 発により、これら疾患の診断と治療法を開発することを目的として研究を行い、 以下の結果を得た。 1 )私達は、 Gas6がin vitroにおいて腎メサンギウム細胞の増殖を促進し、ワ ルフアリンがGas6のビタミンK依存的ガンマ・カルポキシル化を阻害するこ とによって、その増殖活性を阻害することをすでに報告した。本研究では、 Thyl 腎炎モデルラットを用いて糸球体腎炎におけるGas6およびその受容体である
Axlのin vivoにおける役割を検討した。その結果、Thyl腎炎においてGas6, Axl
の発現は糸球体におけるメサンギウム細胞の増殖に一致して増加した。さらに、 ワルフアリンおよびAxトFc (受容体Axlの細胞外ドメインとイムノグロブリ ンFcドメインの融合蛋白質でGas6の阻害剤として機能する)の投与は、腎 炎に伴うメサンギウム細胞の増殖、糸球体硬化、尿中蛋白質の増加を著しく抑 制した。これらの結果は、 Gas6がin vivoにおいてもメサンギウム細胞の増殖 の主要なメディエーターであり、ワルフアリンやAx卜Fcによりその活性化を
阻害することによって糸球体腎炎の予後が改善される可能性が示唆された。 2) Gas6刺激により腎メサンジウム細胞のSTAT3のチロシンリン酸化レベル の上昇と核内への移行が観察され、また、 STAT3のドミナントネガティブ体 はGas6によるメサンジウム細胞の増殖を阻害することから、 Gas6による腎 メサンジウム細胞の増殖のシグナル経路においてSTAT3が重要な役割を果た していることが明らかとなった。 3) Gas6のもつGlaドメインは、生体膜を構成するリン脂質の中でホスフア チジルセリンと特異的に結合することを以前報告したが、本研究では、 Gas6 がマクロファージによるホスフアチジルセリン含有リボソームやアポトーシス 細胞の取り込みを著しく増加させることを見出した。アポトーシス細胞や老化 細胞ではホスフアチジルセリンが細胞外表面に配向することが知られており、 Gas6は、 N末端Glaドメインでホスフアチジルセリンを認識し、 C末端SHBG ドメインで受容体Axlを認識する二価性の細胞間接着因子として、これらの細 胞の認識と会食というアポトーシスの実行過程に関与することが示唆された。 Gas6は特徴的な構造を持つ新規な細胞増殖因子であり、既知の増殖因子と は異なった生理機能や作用メカニズムがあると考えられ、今後Gas6の多様な 生理機能がさらに解明されることが期待される。 以下に、主な発表論文を掲載する。
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