《書 評》
高寄昇三著r外郭団体の経営』1991年
坂 本 忠 次
1 今El,地方自治体をめぐる外郭団体の数は,1990(平成2)年1月現在で 5,500にも達し,1984(昭和59)年と比較して3割以上増加しているとも言わ れている。岡山市では,近年デンマーク・チボリ公園誘致をめぐる「第3セ クター」への市議会百条委員会の調査権が大きく論議された。いわゆる地方 公社等と呼ばれ,また地方公社・第3セクターとも言われる地方自治体の外 郭団体は,新全総計画の始まる1960年代末期から第1次石油危機(1973年) をへる70年忌にかけて著しい増大を見せるに至った。とりわけ,リゾート法 (総合保養地域整備法,1987年)が成立する前後には,観光・リゾート地開 発,ゴルフ場開発などをめぐって第3セクター型開発主体が乱設される動き が見られるに至っている。 このような時節に当たり,このたび,かつて神戸市の職員としての経験を ふまえられ地方自治体の財政・都市経営論に精通され,これまで,多数の自 治体経営論に関連する書物を執筆してこられた高寄昇三残(現甲南大学教 授)が,『外郭団体の経営』と題する書物を学陽書房から出版された。本文 306ページ,巻末の参考文献索引を含めると318ページにもなるこの本は,3 編6章から成り、「外郭団体」研究の専門書の1つである。その編章(節は省 略)をかかげると次の通りである。 第1編 外郭団体の基礎理論 第1章 外郭団体原論394 第2章 外郭団体の現況と類型 第2編 第三セクターの経営 第1章 第三セクタ・一一の新展開 第2章第三セクターの経営課題 第3編 外郭団体の経営戦略 第1章経営戦略の基本的課題 第2章 経営戦略の実践的課題 参考文献 索 引 著者は:本書の視点について,はしがきで,「外郭団体については,圧倒的に 否定・批判論が多い」と述べた上で,「しかし,非難に終始していては外郭団 体の健全な成長,有効な活用は不可能である。研究者の誰かカミ蔑視を覚悟で 外郭団体認知論,外郭団体活用論を比々(索)し,そとから期待されるべき 外郭団体論を創造していかなければならない」と述べている。また,「外郭団 体は地方公営企業と同じようにシステムである。メリットもあればデメリッ トもある。したがって,抽象的に外郭団体の是非を論じても不毛の論議であ る。したがって欠点を抑制し,長所を伸ばす外郭団体の経営戦略とはどのよ うなものかを追究」したこと,また「…公共性としての特質と,効率追求の ための民間セクターの特質とをどう融合させていくかを課題として経営戦略 を模索」していったことなどを述べている。著老は,「一般会計を中核とした 行政集団として,複合企業化にもとつく政策的経営戦略を展開していかなけ ればならない。そのための経営原則とは何.かを構築していったつもりであ る」とも記しており,ここに著者の本書執筆の意図が感じられる。 はしがきに記された,このような視点(著老O: Sつの視点を挙げている) から論究を行うことが著者の趣旨であり,多様化し複雑化していく自治体行 政の遂行に向けて,外郭団体の単なる「否定」「批判」「非難」に終始するの ではなく,その「認知」「活用論の模索」を行うことを課題とされている。そ
こには,財政学者・自治体行財政研究者としては,きわめて現実的な視点 で,また,批判と「蔑視を覚悟」の“悲壮な”決意の上で本書を執筆したこ とが述べられており,注目される。著老も指摘される通り,近年各地方自治 体の行政サービス分野できわめて重要な役割を占めているにもかかわらず外 郭団体論を体系的に扱った研究書は1∼2を除いて皆無に近い。その意味で も本書執筆に際しての著者の意気込みと熱意が伝わってくる書物なのであ る。 皿 本書の編,章については,先に見た通りであるが,著者は,まず第1墨書 1章で“外郭団体原論”なるものを展開している。この言葉は,財政学のい わば各論として,より具体的なテーマを扱う書物としては若干奇異な響きも しないわけではないが,著者の意図する外郭団体原論とは,外郭団体認知 論,外郭団体肯定論,外郭団体活用論の3つから成っているようである。 著者は,現代の地方自治体を複合経営体(conglomerate)として押さえ,こ れは,一般会計を中核に特別会計,企業会計があり,その周辺に無数の惑星 の如き外郭団体(an affiliated association, an extra−departmental body)が存 在することを述べている(3ページ)。著者は,現代における外郭団体発達の 理由を,地方公営企業の形骸化一独立採算性の崩壊,経済の独立性の欠如, サービス供給形態にふさわしい弾力的な組織体系の欠如などに求めている。 またもう1つの理由としては,硬直的な行政体のkめ,行政サービスの高次 化,選別化への対応が必要となったことに求められている。これと共に,地 方自治体の財政悪化が,このような行政サービスの高次化への対応を困難に したことも指摘されている。 著者は,外郭団体に拒否反応を示す古典的自治論や伝統的行政管理論を批 判し,外郭団体を都市・地域経営の全体の中に位置づけなおすことを目ざし
396 ていると占えるのである。 匿 第2章では,外郭団体の現況と類型,行政体系にふれている。外郭団体に は,自治省などの述べる形式的定義と実質的定義には違いがあるとされてい る。自治省大臣官房地域政策室・地域政策研究会編集の『地方公社総覧』で は,いわゆる地方公社等を土地・住宅・道路の3公社(特別法入)と25パー セント以上の出資法人を含むと定義しているが,実質的には,(財)神戸都市 問題研究所・都市経営研究会が述べるように「出資比率という資金関係だけ でなく,人的・業務的関連性の深い団体も含むことがある。また,出資率が 高くても,人的・業務的関連性などにおいて関連がない場合は外郭団体とい えない」とし,外郭団体を表1のようなものとしているSつまり,出資関係 が少なくても,人的・業務的な関係において当該自治体と事実上の支配関係 がある場合外郭団体とすべきだということであり,自治省などで言う「地方 公社等」よりさらに広い概念になるわけである。 表1 外郭団体の範囲 地方公社 25%以上の出資法人 民 法 法 人 商 法 法 人 土地開発公社,地方住宅供給公社,地方道路公社
非出資団体等(事実上の支配関係)
外郭団体の類型化では,1)形態・性格別分類,2)業務・機能別分類, 3)政策要因別分類,の3つを挙げている。1)では,公共主導型,公共民 間型,民間主導型などを区別している。2)では,開発型,管理型,補完 型,共益型を挙げている。著者は行政サービスの処理方式として第3セク ターのほかに第4セクター,第5セクター,連合処理:方式(Joint sector)があ るとしている。3)では,地域開発型と地域振興型などがあるとされている体 配 自 コ 三遍 茸ク セ 四タ 舳弟ク 日 中 域 セクター 第五ノ 企 業 連合処理方式 (Joint sector) 図1 行政サービスの処理方式 注)r神戸市都市制度調査会報告書』1977年度,17頁による, (図1参照)。 3.の外郭団体と行政体系では,5000をこえる外郭団体を,行政集団,行 政組織との関係で系列化して把握していく必要を述べている。これは,民間 企業の分社・集団化(グループ化)の関係に類似するものである。 第2編は第3セクターの経営について論じている。まず第1章の第3セク ターの新展開では,第3セクターを従来の「官民共同出資の株式会社」とい う認識のみでなく「非営利型第三セクター」の分野が存在すること,自治体 のサービス供給形態として共益的な中間法人の役割を積極的に認識・評価し ていくべきことを提起していることが注目される。また,財団・基金制度を 再評価していくことも提案している。 そうして,営利型第3セクターの類型を機能別・目的別類型(地域開発 型・企業経営型・施設運営型など)としてとらえ,その中身を検討してい る。そうして,第3セクター型開発のメリットを民活の公共化,公営の民活 化として,一面評価し,第3セクターに対する公共団体の支援措置のあり方 が重要としている。
398 第2章は第3セクターの経営課題にふれている。著者は,「第3セクター 原論」と自ら名づけて,まずその経営形態一公私混合セクターの系譜を戦前 の混合セクターをめぐる論争にまでさかのぼって検討している。著者は,戦 前の都市経営論者の中に池田宏らが提唱した「企業営団」「公私協同株式会 社」「住宅建設会社」などの構想がすでにあったこと,しかし,これに対して 宇賀田順三,神戸正雄,関一らが批判なり意見を述べていることを紹介し, 戦前の都市経営では第3セクター方式の採用が挫折したことを紹介してい る。 著者は第3セクターの功罪について検討された。開発型第3セクターは戦 後高度成長期に設立されてくるが,これへの批判論としては,①混合体とし ての欠陥体質(費用負担,責任区分,経営主導権等の曖昧さ),②公共性・経 済性での官民対立,③経営破綻の危険性(経営体質の脆弱性)などがその根 拠として指摘されている。ここで第3セクターの経営体質の脆弱性に関連し ては,著者は自治体の企画能力の問題,未成熟な経営体制,第3セクターの 構造的問題などを指摘しており,その事例として,岡山市の市制100周年事 業の一環としてデンマーク・チボリ公園を誘致するに際し同市で設立された 第3セクター「センチュリーパークチボリ」に関連する問題を取り上げて述 べていることが注目される。 著者はまた,第3セクターの混合体質の特異性として天下り人事の弊害な ども挙げているが,一方その擁護論としては①自治体の危険負担リスクの民 間との分担関係,②市場メカニズムの適用のメリット,例えば収益ベースに のる産業基盤的社会資本(有料道路,空港,港湾)建設に際しては特別受益 者負担金を徴収すべきこと,③市場メカニズムの有効活用(例えば公的資金 の呼び水効果で民間資金を導入),なども挙げている。著者は「これからの自 治体は市場メカニズムの渦中にも身を投じ,その汚れた空気にも耐えられる 抗体性を養っていかなければならない」(145ページ)と述べている。 第3セクターの財政原則については,経営危機の克服のためにも,設立
(出資),運営(支援),破綻(再建)の3つについて処方箋を事前に用意し ておくべきと,経営責任の明確化,設立のみでなく経営活動における公私の 費用負担の明確化,財政支援システムのあり方や経営危機に際しての財政支 援の方法などに留意しておくべきこと,要するに経営責任を確立し経営方針 を明確にしておくこと,が必要としている。 そうして,第3セクターの経営戦略としては,地域経営力との連動,地域 複合経営力の発揮,などを挙げていることが注意されよう。 さいこの第3編は,外郭団体の経営戦略であるが,第1章が経営戦略の基 本的課題,第2章が経営戦略の実践的課題について述べている。まず第1章 の外郭団体の基本的課題では,外郭団体の選択の条件,経営形態の選択基 準,その評価などにふれている。外郭団体の業績評価では,外郭団体の公会 計基準(内部経営,外部経営)を設定すべきこと,社会貢献度(自治体貢献 度,財政貢献度,組織活性化貢献度,公共性貢献度)分析を行うべきことな どを述べている。その1つ1つを紹介できないが,いずれも参考とさるべき 基準であろう。 第2章経営戦略の実践的課題では,外郭団体経営のチェックポイント,自 治体・外郭団体の関係,供給形態と支配原則,民主統制の浸透(議会の民主 的統制力,特別委員会と百条調査権ほか)のあり方,行政統制のあり方など にふれ,個々の外郭団体に対する管理体制から職員人事の活性化,人事交 流,経営安定吾等を含む経営戦略的管理論,外郭団体の活動を含む自治体経 営の複合化等を提案している。 本書を読みつつ,筆者は,著者の高寄氏がかつて神戸市の宮崎市長のもと で都市経営論の行政現場を経験された時代のことを想起していた。周知の通 り,神戸市はわが国6大都市の1つとして,また国際港湾都市,アメニティ
400 ある市民に住みよい都市として知られてきた。都市財政の1つとしては,戦 前から健全な財政収支の維持,戦後の西ドイツのマルク債をはじめとする外 債発行の成功例,宮崎市政時代の都市経営論も注目を集めてきたところであ る。いま,宮崎市政時代の神戸市の「都市経営論」の総合的な評価を行うこ とはできないが,高寄氏が今回出版された著書が,神戸市の外郭団体運営の 経験を前提して記されていることは言うまでもないところであろう。 筆老が,本書を一読して先ず抱いた率直な感想なり印象を述べるとすれ ば,今日のわが国の高度化し,複合経営(コングロマリット)化していく自 治体行政・都市行政の現場では,いかに多くの「外郭団体」なるものが存在 し,それらがそれぞれの役割をになってきているかについて,改めて認識さ せられ思い知らされたことであった。その現実をできるだけ忠実に把握して いこうと試みた本書の叙述は,その意味で,やや読みづらくまた難解なもの となっていることは否定できないが,いずれにしてもわが国の地方財政研究 において,このような自治体行政・財政の現場の生々しい事態の進行への科 学的な検討が殆どなされてこなかったことは,財政学研究者の1人としても 十分反省しておかねばならないだろう。そうして,筆者が本書で勇気をもっ て解明されようとした外郭団体論一その中核の1つをなす「第3セク ター」論 を,理論的にも実証的にも検討していく必要性が益々増大して いることを改めて認識させられたことであった。 本書で高寄氏は,各自治体が多様化し増大していく住民=一ズに対応し, 行政サービスの向上を図っていくために,また,その政策を実現していくた めに,外郭団体が必要であり,またこれを積極的かつ戦略的に活用していく ことを提案されているかに見える。では,このような著者の外郭団体論を前 提にしつつ,われわれ地方財政研究者は,今後この分野の研究においてどの ような課題を設定していくことが可能となり必要とされるのか。最:後に著者 の見解に対する筆者の若干の感想なりまた疑問点,地方財政研究者としての 今後の課題などを述べて結びにかえたいと思う。
すでに見てきた通り,外郭団体論特にその中核をなす「第3セクター」論 として本書を位置づけた場合,新たな論点なりメリットと見られるものとし ては,まず第1に,著者がこれまでの自治体の外郭団体のうち今日各地の開 発行政において焦点となりつつある「第3セクター」について,営利的な分 野のみに止まらず,非営利型第3セクター(さらには住民団体の参加を含む 第4セクターや第5セクター)の分野とその戦略的なあり方を大きくクP一 ズアヅプさせたことであろう。この非営利分野の第3セクターの研究が今後 の外郭団体の研究分野に新たな地平を開くものとなっていることである。 第2に,上記の点とも関連するが,非営利型第3セクターの戦略的あり方 を検討していく場合,これを財政学における社会資本=公共財の性格として 見てゆくならば,そこに純粋公共財と純粋民間財との問に存在する「準公共 財」ないしは「混合財」の分野の検討が大きくクローズアップされてくると 見られるのであり,このような「準公共財」ないしは「混合財」の素材的性 格ないしはその供給形態について,今後検討していく課題が重要となってく ることであろう。 しかし,本書の持つメリットについてこのように述べたとしても,なお, 著者の見解にいくつか疑問点がないわけではない。その1つを述べておくと すれば,まず,外郭団体への規範的分析の必要とも言えるものであろう。つ まり,著者が,自治体行政の住民へのサービス向上を前提に,外郭団体の増 大を現実的に認め,またその活動を積極的に認知されようとしていることに 関連してである。確かに今日,わが国ゐ自治体行政サービスの高度化・複雑 化と住民ニーズの多様化に対応し,一般会計・公営企業会計のみでは対応し 切れない行政分野が益々増えつつあることは事実であろう。では,このよう な現実にともない,自治体行政の現場では,今日の外郭団体の増大を無条件 で認めてゆくことがわが国地方自治の将来にとって望ましい方向なのか,あ るいはどこかで一定の「歯止め」が必要とされてくるのか,この点に関連し た著者の見解への素朴な疑問である。つまり,地方行政においては新しい住
402 民のニーズへの対応と古いニーズとの間では,そこに一定の選択権と外郭団 体についてもスクラップ・アンド・ビルドが可能となるものが見られるので はないか。外郭団体(「第3セクター」)の活用戦略が,多様化し高度化して いく住民ニーズへの対応としてある局面で望まれるとしても,住民ニーズの 変化を前に外郭団体を無限に認知・肯定して行ってよいか,自治体における 一般行政の役割と責任一国と地方の行政責任分担を明確化して行く上での 一のあり方や,公営企業会計における会計責任のあり方を,改めて確認し ていく努力の方向もさらに必要とされてくるのではなかろうか,ということ であった。事実,今日,経済界をはじめ,自治省サイドからも「第3セク ター」について一種の反省の意見と検討への方向が見られ出しているところ でもあるω。 そうして,最後にいま1つ,本書を通じて改めて気づかされたことは,今 日,地方議会及び住民サイドからの外郭団体への民主的統制のあり方,地方 自治の徹底化がいかに大切かということである。この点では,岡山市二百周 年事業に関連した岡山市のチボリ公園誘致をめぐる先の苦い経験は,著者の 本書での鋭い問題点の指摘を待つまでもなく,外郭団体一「第3セク ター」一の無原則な設立,運営のあり方への大きな警鐘となったのであっ た。以上の事実からも,筆者は,本書の一読を通じて,今後の外郭団 体・「第3セクター」のあり方への財政学的検討(自治分析,会計責任制の 分析を含む)の必要性が益々高まっていることを改めて認識させられたので ヘ へあり,その意味からも地方自治・財政運営と外郭団体の役割の分野での規範 へ ヘ ヘ ヘ ヘ へ 的かつ実証的分析がさらに要請されてくることであろう(学陽書房,A5 判,318ページ)。 (1)例えば㈹関西経済連合会「第三セクターに関する意見」1991年3月,地方公営企業の 新展開等に関する研究会「地方公営企業に準ずる第三セクターについて」(事務局・自 治省財政局公営企業第一課)1992年3月,などを参照。後者では,「第3セクター」の現 状と主な問題点が指摘され,地方公営企業に準ずる「第3セクター」の適切な運営を確 保するための方策が論じられている。