小学校のコンピューティング教育の教科化と AI リテラシーの育成
A Study on Introduction of Computing as an Independent Subject and Development of Pupils’ AI Literacy
in Elementary School
松田 孝 MATSUDA Takashi 合同会社MAZDA Incredible Lab
LLC MAZDA Incredible Lab
[要約]「人間中心のAI 社会原則」が,統合イノベーション戦略推進会議で決定(H31.3.29)された.AI 技術で Society5.0 の実現を目指し,地球規模の SDGs への貢献も果たしていくために「AI-Ready な社会」への変革を推 進する必要があると述べ,AI 技術自体の研究開発と「あらゆる面で社会をリデザインし,AI を有効かつ安全に 利用できる社会を構築すること」の必要性を訴えている.初等中等教育においては「幅広くリテラシー等の教育 の機会が提供」され,「AI,数理,データサイエンスの素養を身につけられる教育システム」の確立と従来の一 律・一斉授業からの変革を訴える.この4月より小学校ではプログラミング教育が必修となったが,「AI-Ready な社会」の実現には教科再編による「コンピューティング」の創設とそのスコープにおいてAI リテラシーを内 包するカリキュラムの作成が必要であり,その実践可能性を報告する. [キーワード]AI,AI リテラシー,コンピューティング,教科再編,STEM,STEAM,Society5.0,SDGs Ⅰ.問題の所在 小学校では,新学習指導要領が全面実施となって, 全国で今まさにプログラミング教育が始まろうとし ている.移行期間に公表された多くのプログラミン グのカリキュラム案を見ると,教科書に例示された 小学校5年生の算数と6年生の理科での実施を核に, 全学年にわたって教科における活動としてプログラ ミングが位置付けられている. しかし,プログラミングを教科の活動に位置付け ることには,三つの困難さ(①扱う言語への習熟の 問題,②教科のねらいとプログラミング活動のねら いを同時に二つを達成することの難しさ,③教科で 実施するがゆえのプログラミング活動の必然性のな さ)がある.さらに「プログラミング的思考」を正 しく働かせることによって,知識と技能をしっかり と定着させるという授業設計(思想)では,子供た ちにとってプログラミングは教科等の内容理解のた めのツールとして矮小化されてしまう. Society5.0 の形成者である子供たちは,その象徴的 技術であるIoTど真ん中,AI 共生社会を生きていく. 本来,プログラミング教育はこのような社会を生き 抜く資質・能力を育むために必修化されたが,学校 現場においてそのほとんどは教科での実施が目的化 されていることに大きな問題を孕んでいる. Ⅱ.小学校段階の「コンピューティング」教育の教 科化をめぐって プログラミングは,子供たちがコンピュータサイエ ンスを学んでいく絶好のきっかけとなる.コンピュー タを積極的に活用して,より良い社会の形成に向けて 自然や社会の事象を情報の動きとしてとらえ,その特 徴,特色を見出したり,また逆に,実現したいことを 情報の動きとして表現してそれを創り出したりする技 能(技術)や意欲,態度,思考等を育むことができる. しかしながらこのことの実現は,現状の教科でのプロ グラミング体験では望むべくもない. 文科省は,「小学校プログラミング教育の手引き (第二版)」でいわゆるC 分類での事例を前面に押 し出した.筆者が校長を務めた東京都小金井市立前 原小学校では,このC 分類の考え方をもとに,「総 合的な学習の時間」にまとまった時間を確保してプ ログラミングを実施してきた.このことで子供たち はプログラミング言語に習熟し,フィジカルコンピ ューティング(センサーでロボット制御)を体験す ることできた.さらにプログラミング活動の中に教 科の学びを見出し,STEAM の知識や技能を獲得す ることもできるようになった. 小学校段階においては,「総合的な学習の時間」を はじめとして家庭科や音楽,図工の既存教科等の時 間を拠出し,コンピューティングという教科を創設 すれば,子供たちはプログラミングを介してコンピ ュータサイエンスを学び,Society5.0 を生きるに相応 しい資質・能力を育むことができる.
日本科学教育学会第44回年会論文集(2020)
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発達段階を考えれば,低学年ではコンピューティン グ教育の目標と内容を取り入れた活動,中・高学年では コンピューティングを教科として実施する.そして高学 年は専科教員がそれを担当することに異論はない. Ⅲ.「AI リテラシー」の定義と小学校段階での AI リ テラシー育成 「人間中心の AI 社会原則」の第3章には,「『何 のためにAI を用いるのか』という目的設定は,人 間が行う必要がある」と述べ,「人」においては,以 下三つの能力と役割が期待されるとしている. 一つは「AI の長所と短所の理解」,一つは「多様 な人々が多様な夢やアイディアを AI の支援によっ て実現する能力の獲得」,一つは「AI の基礎教養か ら実装及び設計等の応用力を身につけた人材育成」. ここから子供たちの発達段階等を考慮すれば,初等 教育においてはAI リテラシーとして,①「AI 実装 とIoT 社会の仕組み理解」,②「AI 技術への興味」, ③「AI 活用センス」の三つの大きなカテゴリーを提 案できると考える. Ⅳ.「AI リテラシー」教育におけるロボホンの価値 ロボホン(RoBoHoN)は 2016 年にシャープが開 発・発売したスマートフォンとロボットが一体とな ったモバイル型ロボット電話である. ロボホンには,カメラ,マイクのセンサーが内蔵さ れ,かつ通信によってインターネットに接続できる IoT デバイスでもある.今回使用したロボホンは3つ のAI エンジン(①音声認識,②対話生成,③画像認 識)を搭載しており,各センサーが計測した情報をAI エンジンが解析することによって,ロボホンと自然対 話を試みたり,ロボホンに物を見分けさせたりするAI プログラムを子供たちが作成できることに最大の特徴 がある.さらにコンピュータとIP 接続できるため,一 台のロボホンと複数台のパソコンが繋がる.このこと は現場においては極めて重要で,授業場面でグループ 活動を容易に組織でき,アクティブラーニングによる 授業変革をも期待できる. 筆者とシャープのロボホン開発グループは,これら 3つのAI エンジンを活用した体験的で探究的な授業 計画(以下参照)を立案し,「AI リテラシー」授業を 実施した.(対象:小金井市立前原小学校5年生) 授業は,全8時間で構成し,①Society5.0 の社会認 識,②ロボホンのデフォルトプログラム体験,③ロ ブリックによるプログラミング体験,④3つの AI エンジンの活用,⑤AI 共生社会を考える,という内 容を子供たちの興味関心を喚起させながら,連続性 をもった展開を試みた(表1).毎回,授業支援シス テムを活用して子供たちに振り返りを行わせ,その 記述内容と変容からロボホン活用によるAI リテラ シー育成の可能性を探った. 表1 ROBOHON で AI を探究!!(AI リテラシー教育)指導計画(全8時間) 1 時 Society5.0 とロボホン(自分たちの生きる時代を認識する) 5 時 対話生成と様々なAI(対話生成処理の難しさを知る) 導 入:日本史の時代区分をSociety1.0~5.0 で再構成してみよう 展 開:Society5.0 の社会を考えよう ・動画視聴(IIoT ど真ん中&AI 共生社会の理解) ロボホンと友達になろう-IP接続とデフォルトプログラムの体験 まとめ:学習活動を振り返ろう(schoolTakt:個人) 導 入:前時の振り返りを共有しよう(schoolTakt:一般共有) 音声認識と対話生成の技術を知ろう 展 開:対話生成が難しい理由を考えよう AI の学習について考えよう(ビッグデータ) まとめ:学習活動を振り返ろう(schoolTakt:個人) 2 時 ロブリック(プログラミング言語でプログラム体験をする) 6 時 画像認識(AI プログラムを作成する) 導 入:前時の振り返りを共有しよう(schoolTakt:一般共有) ロボホンがプログラミングできることを知ろう 展 開:ロボホンをロブリックでプログラミングしよう 各種ブロックを使ったプログラミングを紹介しよう まとめ:学習活動を振り返ろう(schoolTakt:個人) 導 入:前時の振り返りを共有しよう(schoolTakt:一般共有) ロボホンの画像処理の技術に触れよう 展 開:画像認識プログラムを創ってみよう プログラムを実行して気づいたことを記録しよう まとめ:学習活動を振り返ろう(schoolTakt:個人) 3 時 ロブリック(発展) (少し高度なプログラミングを体験する) 7 時 画像認識(その2)(AI エンジンと学習データについて考える) 導 入:前時の振り返りを共有しよう(schoolTakt:一般共有) 友達のプログラミングを参考にしよう 展 開:プログラムを実行するきっかけのイベントを考えよう 変数やリストを使って,プログラミングしよう まとめ:学習活動を振り返ろう(schoolTakt:個人) 導 入:前時の振り返りを共有しよう(schoolTakt:一般共有) 画像認識の仕組みを知ろう 展 開:3つのAI が日常生活に及ぼす影響を考えよう IoT 社会における AI 技術の役割について考えよう まとめ:学習活動を振り返ろう(schoolTakt:個人) 4 時 音声認識(音声認識の AI「A3RT」を体験する) 8 時 Society5.0 を生きる(まとめ)(AI との共生社会を考える) 導 入:前時の振り返りを共有しよう(schoolTakt:一般共有) チャットボットを使った音声認識を知ろう 展 開:「A3RT」を使ってみよう(対話を記録しよう) 音声認識の仕組みを理解しよう まとめ:学習活動を振り返ろう(schoolTakt:個人) 導 入:前時の振り返りを共有しよう(schoolTakt:一般共有) AI が日常化している動画を視聴しよう 展 開:AI の事例を紹介しよう AI のMAP を作ろう(すでに始まっているAI 共生時代) まとめ:単元全体の学習を振り返って自分なりにAIについて考えよう