群馬大学整形外科学教室が行ってきた運動器検診
片品村における検診から得たエビデンス
高岸 憲二
1 群馬県高崎市上佐野町786-7 医療法人社団山崎会サンピエール病院名誉院長 2 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学名誉教授 要 旨 日本は超高齢社会に突入し,世界でも一,二の長寿国となっている.それに伴い,整形外科医が扱う運動器の障害も変性疾 患が増加し, 整形外科受診患者も高齢者の割合が非常に多くなっている. しかし, これら変性疾患の疫学, 自然経過, 発症の 危険因子などは十 にわかっていない. 群馬大学整形外科学教室は 2006年より運動器疾患に関する住民検診を群馬県片品 村で毎年継続して行ってきた. 本稿では, 運動器検診から得られた腱板断裂, ロコモティブシンドロームや変形性膝関節症 などの運動器疾患に対する新しい知見について紹介する. 多くの整形外科医がこれまで日常診療で感じていた疑問に対す る答えや治療法について再 する材料となった研究などが含まれ, 学会から高い評価を得ているフィールドワークである. 現在の研究の多くは横断的研究であるが, 今後縦断的研究により危険因子など に詳しく 析して臨床に還元できる成果 が多く出ることを期待する. はじめに 現在, 日本は超高齢社会に突入しており, 平成 27年の平 寿命は男女ともに 80歳を越え, 世界でも一, 二の長寿国 となっている. それに伴い, 整形外科医が扱う運動器の障 害も変形性関節症, 骨粗しょう症およびサルコペニアなど 変性疾患が増加し, 整形外科を受診する患者も高齢者の割 合が非常に多くなっている. 厚生労働省の発表によると日本人が訴える愁訴のうち, 整形外科が治療の対象とする腰痛および肩こりは有訴率で は男性・女性ともに 1,2位を占める.しかし,整形外科の受 診者数を えるとこれらの患者の多くは愁訴を持ちながら も整形外科には受診していない. 他の変形性膝関節症や腱 板断裂などの運動器疾患も同様なことだと推察される. 受 診していない患者についてのデータが少ないことから, 各 運動器疾患の真の発生頻度, 自然経過などに関する知識の 蓄積が必要と えた. すなわち, 各運動器疾患に対する予 防法および治療法を再 する上で愁訴が軽度のために病院 を受診していない住民を含めて調査する必要性がある. ま た, 研究開始当時は, 大学病院で研修する医師数が大きく 減少している時代であり, 住民検診は人的余裕がなくても 短期間に集中して研究データを収集することができ, グ ループごとに臨床に直結したテーマを見つけることができ る利点があると えた. 2006年より群馬大学整形外科学教室は運動器疾患に関 する住民検診を片品村の協力を得て群馬県片品村で毎年継 文献情報 キーワード: 運動器, 検診, 疫学, ロコモティブシンドローム, 変性疾患 投稿履歴: 受付 平成29年3月3日 採択 平成29年3月9日 論文別刷請求先: 高岸憲二 〒370-0857 群馬県高崎市上佐野町786-7 医療法人社団山崎会サンピエール病院 電話:186-027-347-1177 E-mail:ktakagishi@gunma-u.ac.jp説
続して行ってきた. (図 1) 本稿では, 群馬大学整形外科学教室が運動器検診から得 た知見について欧文論文を中心に述べる. 肩こり 肩こり は厚生労働省が 表している国民基礎調査に よると自覚症状として女性の 1位および男性の 2位と有訴 率は非常に高い.しかし, 肩こり は疾患名でなく,自覚症 状であることから本邦において多くの医学論文があるにも かかわらず, その定義や解剖学的局在について一定の見解 が得られていなかった. 日本整形外科学会では平成 16年 に肩こりプロジェクトを立ち上げ, 肩こりについて系統的 に検討を行うための礎を作成した. 私はこのプロジェクト の主任研究者として携わることになり, 当時の准教授篠崎 哲也先生をはじめ群馬大学整形外科学教室の多くのメン バーが他大学整形外科医師と協力して本邦ならびに欧米の 「肩こり」に類似すると えられる論文すべてに目を通し て内容をまとめて報告した. 論文調査により, 海外にも同様の症状をもつ人々は多く 存在することや肩こりという症状の背景には臨床各科にお ける疾患が存在している可能性があることがわかった. 肩 こり研究にあたって難しい点は医学的見地から定義された 症状でないために, 患者と医師間で肩こりを意味する症状 が大きく異なる可能性があった. 肩こりの定義をはっきり させることが第一の課題と え, 当時の全国の大学整形外 科学教室教授, 日本整形外科学会評議員および日本肩関節 学会幹事を対象にアンケート調査を行い, 肩こりを 頚よ り肩甲部にかけての筋緊張感 (こり感), 重圧感, および鈍 痛などの 称 と定義した.また,海外の論文の調査を行う と chronic non-specific neck painもしくは neck and shoul-der pain などと呼ばれているものに近い意味であった. こ の定義を用いて 肩こり の疫学調査を行った. 肩こりの 有症率は 48.3%で, 女性に多かった. 生産年齢である 20 ∼50歳代の青壮年期に頻度が高く, 加齢に伴い減少した. 肩こりは, 上肢痛や腰背部痛の合併が多く, 康関連 QOL が低下し, 特に日常生活動作や社会心理面の障害と関連し ていた. 肩こりの関連因子は, 女性, 肩関節痛・肘関節痛・ 手関節痛, 背部痛および腰痛であった. 群馬大学医学部付 属病院の看護師へのアンケート調査では 68.1%が肩こりを 訴えており, 女性, 心理的ストレス, 肘および手の痛み, 腰 痛が肩こりと関連していた. 肩こりに対する治療法を え る上で, 肩こりだけを治療するのではなく, 他の運動器の 症状も 慮に入れる必要があり, 病態や自然経過の解明が 重要と える. 腰痛や背部痛と強い関連性があることから脊柱の形状を 脊柱矢状面アライメントとして SpinalMouse を用いて, 立位中間位での胸椎後弯角, 腰椎前弯角および脊柱前傾角 を算出した. 単変量解析では,腰椎前弯角,脊柱前傾角では 有意差を認め, ロジスティク回帰 析を行ったところ, 腰 椎前弯のみが関連因子であった. 肩こりでは主に姿勢が重 要であることが かった. また, 体組成計を用いて検討す ると肩こりを有した例では, 体水 率が有意に低値であ り , 筋肉量, 水 量, 四肢筋肉量および四肢の muscle mass indexが肩こりの程度と負の相関関係にあることが判明し た. このことから, 肩こりの病態には体組成が関連する可 能性が示唆された. 肩関節疾患 腱板断裂は肩痛および機能障害をきたす代表的疾患の一 つであるが, その疫学についてはいまだに十 にはわかっ ていない. 1980年代より腱板断裂の診断に超音波検査が次 第に行われるようになり, われわれは腱板の菲薄化もしく は消失の所見がある症例はすべて腱板断裂があることを報 告した. 片品村の運動器検診により,腱板断裂の頻度,リス クファクター, 症候性断裂と無症候性断裂の割合, さらに どのような断裂が症候性となるのかなどが明らかになっ た. 群馬大学整形外科学教室が行ってきた運動器検診 図1 片品村体育館における問診(a)・検診(b)風景
a
b
2007年に検診を受診した一般住民を対象として, 疼痛 や外傷歴を問診し, 診察を行い, 腱板断裂の頻度を調査し た. 腱板断裂の診断は超音波検査にて行った. (図 2) 結果 は,50歳以上の住民のおよそ 4人に 1人 (26.6%)は腱板断 裂を有しており, 加齢とともに有病率は上昇した. 我々は 前述の一般住民における腱板断裂についての背景因子を検 討したところ, 外傷の既往, 利き腕側, 年齢が有意な因子で あった. 50歳未満の対象では, 50歳以上の対象と比べ, 利 き腕側の罹患である例, 外傷の既往がある例がそれぞれ有 意に多かった. 若年における腱板断裂は外因性の要因に よって生じており, 高齢者の腱板断裂とは異なった病態を 有していた. ②無症候性断裂と症候性断裂について 過去の報告から症状のない肩においても一定の割合で 腱板断裂が存在することは明らかであるが, 腱板断裂例の うちのどれくらいが症状を有しているかについて調査を 行った報告は少ない. 腱板断裂が存在した 283肩のうち, 検診時に肩に関する症状があった症候性断裂の割合は 34.6% (98/283肩) であった. 平 年齢, 年代毎の両群の割 合に差はなく, 性別, 自覚的な労働の程度, 外傷の既往の有 無に関しても両群に差はみられなかった. 年代に関わらず 腱板断裂例のおよそ 3 の 2には症状がないとの結果だっ た. Minagawaらの報告では腱板断裂例のなかで無症候性 断裂の占める割合は, 全体としては 65.3%であり我々とほ ぼ同じ結果であった. 産業構成や人種の違いなどによって 無症候性断裂と症候性断裂の割合に変化があるかは不明で ある. 我々は前述の腱板断裂を有する 283肩を対象として, 症候性断裂と無症候性断裂の違いについて検討を行った. 結果として症候性断裂と関連のある因子としては, インピ ンジメント徴候, 外旋筋力の低下, 利き腕側の罹患が有意 であった. つまり断端に引っかかりを生じるような断裂や, 断裂が棘下筋腱にまで達し骨頭の求心性が得られなくなっ た断裂, さらに良く手を 用する活動性の高い例では腱板 断裂は症候性となる可能性が高いと えられた. ③無症候性腱板断裂の日常生活動作上の問題点 無症候性腱板断裂肩は腱板断裂があるにもかかわらず 肩痛がなく, 自覚症状で日常生活動作を行う上で困ってい ない肩と定義される. しかし, 無症候性腱板断裂の住民は 自覚していないが, 実際には日常生活で困っているのでは と え, 肩の機能障害についてアンケート調査を行った. 462名の住民に対して日常生活を送る上で基本的な 12項 目の肩の機能を調べる質問表 Simple Shoulder Test (SST) を ってアンケート調査を行い, 腱板断裂の有無を超音波 検査にて調べた. 調査した全員を腱板断裂群と非断裂群に けると腱板断裂群の方が SST 合点が低く,肩の機能項 目では夜間痛と 3.6 kg のものを肩の高さまで持ち上げる ことの項目が低かった. 肩に疼痛のない住民の中で腱板断 裂を持っている住民と腱板断裂を持っていない住民を比較 すると腱板断裂を持っている住民の方が 合点は低く, 機 能項目では 3.6㎏のものを肩の高さまで持ち上げることで あった. すなわち, 無症候性腱板断裂住民は重量物を持ち 上げる力が低下して日常生活が制限されていることが かった. 腱板断裂の保存的治療により除痛されても肩の筋 力低下が遺残することを整形外科医は理解する必要があ る. ④腱板断裂を持っている住民の姿勢 肩関節疾患における姿勢異常の関与について, 五十肩 に不良姿勢を生じている例が多いことや姿勢異常から肩甲 骨の機能障害を生じることについては, 経験的には理解さ れていたが, これまで実際に検証されることはなかった. 我々は姿勢異常を生じている住民は症状の有無に関わらず 腱板断裂の有病率が高いとの仮説をたて, 片品村での運動 器検診で検証した. 住民を立位として側面からデジタル カメラで撮影を行い, 姿勢を Kendallの姿勢 類に従って ideal alignment, kyphotic-lordotic posture, flat-back pos-ture,sway-back postureの 4型に 類した.また腱板断裂の 有無については超音波検査で診断した. 379 名の解析を行 い, 姿勢 類ごとの腱板断裂の有病率は ideal alignment 2. 9%, kyphotic-lordotic posture 34.2%, flat-back posture 45. 7%,sway-back posture 51.1%と明らかに姿勢異常群で腱板 断裂の有病率が高かった. 今回の研究で明らかになった腱 板断裂と姿勢異常の関係は, 今後, 腱板断裂例に対するリ ハビリテーションや, 腱板断裂の予防を含めた新たな治療 戦略を える上で重要なエビデンスとなると えている. b)変形肩関節症 変形性肩関節症は肩腱板断裂とともに高齢者の有痛性肩 関節疾患の一つであるが, その発症率などについては十 に知られていない. われわれは 40歳以上の 541人を対象 に両肩関節単純 X 線写真を撮影して変形性肩関節症 (肩関 図2 超音波検査風景
節 OA) に関する疫学的調査を行った. 変形性肩関節症は 40歳以上の一般住民の 17.4% (94名/541名) に存在し, 両 側罹患は 3.1% (34名/541名)であった.年代が上がるにつ れて有病率が高くなっていた. 単変量解析では, 肩関節痛 と変形性肩関節症の重症度には関わりがなく, 高血圧症の 罹患は変形性肩関節症の進行とともに多くなり, 肩関節自 動屈曲, 自他動外旋可動域は変形性肩関節症の進行ととも に制限されていた. 多変量ロジスティック回帰 析の結果, 年齢がその発症に関連していた. 変形性肩関節症の進行度 は疼痛や筋力との関わりに乏しく, 症状がないまま進行す る可能性があり, 注意を要すると える. ロコモティブシンドローム 超高齢社会を迎えた現在, 75歳以上の高齢者での寝たき り・介護の主な原因は転倒・骨折や関節疾患の頻度が高く, 運動器疾患が重要であることが認知されている. ロコモ ティブシンドローム (以下ロコモ)は,日本整形外科学会に より 2007年に提唱された概念であり, 運動器の障害によ り要介護の状態や要介護になる危険性の高い状態をさし, 運動器の障害による移動機能の低下した状態を表す新しい 言葉である. a)ロコモの住民は日常生活動作に支障があるか? ロコモの住民は運動器の障害により要介護の状態や要介 護になる危険性の高い状態であるが, 実際に日常生活動作 に支障があるかについては明らかではなかった. 康関 連 QOL の包括的尺度である EuroQolを用いてロコチェッ クとの関連を調べた. ロコチェックにより 442人中 175人 39.6%がロコモとスクリーニングされた. 単変量解析では, ロコモ群はロコモでない群と比較し, 有意に年齢が高く, 女性が多く, EQ-5D 効用値および EQ-VASが低くかった. また, 多変量解析においても, ロコモ群は EQ-5D 効用値お よび EQ-VASスコアに有意に関連していた. さらに, ロコ チェック で の 該 当 項 目 数 と 5D 効 用 値 お よ び EQ-VAS との相関が認められた. 本研究から, ロコチェックを 用いてスクリーニングされた集団の 康関連 QOL は低い ことが明らかとなり, ロコチェックにより 康関連 QOL の程度の評価も可能であることが示唆された. b)変形性膝関節症とロコモの関連 2015年に日本整形外科学会より新たにロコモのロコモ 度を判定する「臨床判断値」が提案された.3つのテストの 結果によりロコモ陰性, ロコモ度 1およびロコモ度 2に判 定される. 変形性膝関節症 (以下膝 OA) はロコモの重要な 因子であるとの報告から, ロコモ度テストと変形性膝関節 症 (膝 OA 有り 45名, 膝 OA 無し 180名) の関係について 横断的に調査した. 立ち上がりテストにおいてロコモ度 1 は年齢, 身長, 体重, 性別, 疼痛に関係なく変形性膝関節症 である人が変形性膝関節症でない人と比較して 5.892倍存 在した. この結果から新臨床研究基準を用いても変形性膝 関節症はロコモの早期から疼痛や年齢などに関係なくロコ モと関係があるということを示し, 変形性膝関節症の治療 がロコモ予防に重要であることが示唆された. c)ロコモとサルコペニア, 骨粗鬆症の関連 ロコモでは活動性が衰える原因として筋肉量が減少する サルコペニアや骨粗鬆症などが報告されているが, ロコモ との関連性の報告は少ない. 住民 診に参加した 185名 (平 年齢 63.7歳) を対象として調査した. 年齢, 身長, 体 重, 性別で補正した多変量解析の結果では歩行速度が 1 m/s上がるとロコモである可能性が 0.073倍, 骨密度が 1%上昇するとロコモである可能性が 0.960倍であった. こ のことは, ロコモとサルコペニア, 骨粗鬆症が密接に関係 していることが示唆され, ロコモ予防が要介護予防に重要 であることが示唆された. d)ロコモと骨粗鬆症および運動器慢性疼痛 ロコモのスクリーニングであるロコモ 25と運動器慢性 疼痛あるいは骨粗鬆症の関連はまだ十 な検討がなされて いない. 一般住民 287人を対象にロコモ 25によりロコモ のスクリーニングを行い, ロコモと定量的超音波法による 踵骨超音波伝導速度との関連を検討した. さらに, 運動器 慢性疼痛 (頚部痛,背部痛,腰痛,肩関節痛,肘あるいは手関 節痛, 股関節痛, 膝関節痛) に関する調査を行い, ロコモと 運動器慢性疼痛との関連を検討した. 踵骨超音波伝導速度 の%YAM (young adult mean) 値は, ロコモと有意な関連 が認められた. また, 踵骨超音波伝導速度の%YAM 値は, ロコモ 25のスコアとの有意な相関が認められた. さらに, 腰痛, 肩関節痛, および膝関節痛は, ロコモとの有意な関連 が認められた. 膝関節疾患 膝関節痛 を訴える患者は整形外科外来に多いが, 膝単 純 X 線所見と膝関節痛の有無に乖離を経験することがあ る. 近年半月板変位量と疼痛との関連が報告されている. 地域検診において膝関節超音波検査を行い,401人 (平 年 齢 63.5歳) を対象として半月板変位量, 骨棘の有無を評価 し, 膝関節痛との関連について調査した. 歩行時, 階段昇 降時, 安静時のいずれの時期に膝痛を有する群においても 半月板変位量が有意に増加していた. ロジスティック回帰 析では, 歩行時疼痛と年齢, 膝伸展角度, 半月板変位量が 関係し, 階段昇降時痛では性別, 膝伸展角度, 半月板変位量 が関連した. 荷重位内側半月板変位量が歩行時や階段昇降 時の疼痛に関与する可能性が示唆された. 変形性膝関節症を診断するには立位単純 X 線検査が必 須であるが, 群馬大学医学部附属病院受診患者では変形性 群馬大学整形外科学教室が行ってきた運動器検診
側半月板変位量, 膝内側関節裂 距離および骨棘の有無を 評価し超音波検査による膝関節の形態評価を行った. 年 代別検討では 60歳台以上で高年齢になるに従い有意に非 荷重位ならびに荷重位の関節裂 距離が減少し, 非荷重位 での内側半月板変位量が増加した. 骨棘の有無による比較 では骨棘がある群において体重をかけてもかけなくても関 節裂 距離が減少し, 内側半月板変位が増加した. 以上よ り, 一般住民 診において変形性膝関節症に特徴的な形態 と変化が超音波検査で確認された. レントゲン撮影装置が なくても変形性膝関節症の診断ができることになり, 今後, 単純 X 線検査ができない住民検診時においても変形性膝 関節症の超音波診断が可能となった. 肘・手の運動器疾患 a)上腕骨外上顆炎 上腕骨外上顆炎は主に短橈側手根伸筋の起始部が障害さ れて生じると えられている. ものをつかんで持ち上げる 動作やタオルをしぼる動作で, 肘の外側から前腕にかけて 痛みを生じる. 上腕骨外上顆炎の有病率および危険因子に ついて検討した. 診断は, 日整会上腕骨外上顆炎のガイド ラインの診断基準に従った. 上腕骨外上顆炎の有病率は 3.8% (16/422人) であった.年齢別有訴率に関しては 50歳 代の割合が 9.0%と最も高かった. また有訴者の労働強度 別頻度に関しては中労働群が 56%と最も高かった. 労働強 度を含めて各調査項目と上腕骨外上顆炎とは有意な関連は 認められなかった. b)Dupuytren拘縮 Dupuytren 拘縮は手掌から指にかけて 結ができ, 皮膚 がひきつれて徐々に指が伸ばしにくくなり, 進行すると指 の変形をおこして日常生活に大きな支障をきたす疾患であ る. 本邦における一般住民の有病率についての報告はない. Dupuytren 拘縮の有病率, 危険因子および有病者の QOL を調査した. Dupuytren拘縮の診断は視診 と 触 診 に て 行った. 401人中 28人に本症を認め, 有病率は 7.0%であっ た.性別では,男性の 11%に,女性の 3.8%に認め,男性に多 かった.両側発症例は 7例で,複数指罹患例は 4例 (14.3%) であった. 罹患指では環指が 31指 (79.7%) であった. ロジ スティック回帰 析を行った結果, 年齢, 男性, 大工, 林業 等の振動工具を用いる職業, 飲酒歴が Dupuytren拘縮の有 意な危険因子であった. EuroQOL で評価した QOL は低下 していなかった. 日本人における Dupuytren拘縮の有病率 が初めて明らかにされ, 危険因子も明らかになった. これ らの知見が日本人における Dupuytren拘縮の病態解明お よび予防に役立つと える. 母指外転筋が手首の背側にある手背第一コンパートメント を通る部位に生じる腱 炎で, 手関節の母指側に疼痛を生 じ, 腫脹を起こす. ドケルバン病の有病率およびその危険 因子について 402名 (平 年齢 64.1歳) を対象として検討 した. 3.7% (15/402名) がドケルバン病を有し, その危険 因子は女性であった. 腰椎疾患 人口の高齢化が進む近年, 腰椎変性側弯を含む成人脊柱 変形を呈する症例に遭遇する頻度は以前よりも増している ことから, 腰椎変性側弯および症候性腰椎変性側弯の疫学 について一般住民を対象として腰椎単純 X 線検査を行い, 慢性腰痛および腰部脊柱管狭窄症との関連について検討し た. X 線上, 腰椎変性側弯は 19.2%に認められたが, 症候 性の腰椎変性側弯は 7.8%であった. 腰椎変性側弯を認め る例のうち慢性腰痛を有していた例では, 女性が多く, sa-cral slopeが低値であった.また,腰椎変性側弯例のうち,腰 部脊柱管狭窄症と診断された例では, 年齢が有意に高かっ た. 日整会腰痛評価質問票については, 腰椎変性側弯例で は,腰椎前弯と腰椎機能障害および BMI と下肢痛がそれぞ れ相関した. 以上, 群馬大学整形外科が利根郡片品村の住民検診時に 行った運動器検診結果を英文論文として発表されたテーマ を中心に述べたが, 単に有病率を出すだけでなく, 多くの 整形外科医が臨床上疑問に思っていたことへの回答や治療 法の基本を再 する材料となった研究などが含まれ, 学会 から高い評価を受けた論文もある. 現在の研究の多くは横 断的研究であるが, 今後縦断的研究により危険因子などを に詳しく 析して臨床に還元できる成果が多く出ること を期待する. 謝辞 これらの多くの研究ができたことは, 私どもの研究を理 解していただき, 長年にわたって検診の場を提供してくだ さった星野市子氏をはじめとした片品村保 センター職員 の皆様および検診に協力していただいた片品村住民の方々 のおかげです. 皆様に深く御礼を申し上げます. また, 長年 4月のまだ寒い早朝に集合して片品村で検診に参加し, 多 くの論文を執筆してくれた群馬大学整形外科学教室の教室 員に心から感謝します. 文献 1. 高岸憲二, 星野雄一, 井手淳二ら. 学術プロジェクト研究報
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Evidence from Katashina Study
Kenji Takagishi
1 Honorary Director, St-Pierre Hospital, 786-7 Kamisano-machi, Takasaki, Gunma 370-0857, Japan 2 Professor Emeritus, Gunma University, 3-39-22 Showa-machi, Maebashi, Gunma 371-8511, Japan
Abstract
Aging of the Japanese population is at an unprecedented level. The increasing number of disabled elderly needing support or long term care places enormous social and economic burdens on our society. The epidemiology, natural history,and symptoms of age related locomotive organ disorders was not well known. Medical checkups, originally intended for early detection of cancer and as a preventive measure against lifestyle-related disease,were conducted in Katashina Village, Gunma Prefecture. The Department of Orthopedic Surgery, Gunma University, randomly selected several hundred subjects from participants of these medical checkups to receive orthopedic examinations. This has been done every year since 2006. In this article, we introduce several articles from our Katashina Study,which published new findings on locomotive organ disorders. Some of these studies showed new ideas for treatment or prevention of aging-related diseases. Our group hopes to publish additional cohort studies.
Key words: locomotive organ, medical check-up, locomotive syndrome, epidemiology, legenerative disease