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「気になる」子どもへの保育者の対応と周囲の子どもたちへの影響に関する保育者の意識調査

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気になる」子どもへの保育者の対応と

周囲の子どもたちへの影響に関する保育者の意識調査

永 あけみ

群馬大学大学院教育学研究科教職リーダー講座 (2012年 9 月 26日受理)

Survey on responses to children with special educational needs

and awareness of influences it on other children

by child-care providers and preschool teachers

Akemi MATSUNAGA

Program for Leadership in Education, Graduate School of Education, Gunma University (Accepted on September 26th, 2012)

筆者は、M 市幼児教育センターで保育カウンセ ラーとして、2005年から保育所や幼稚園に出向く機 会を得ている。その中で、「自 の気持ちをコント ロールできない」「落ち着きがなく、集団活動に参加 できない」「他児とのトラブルが多い」などの特徴を 持つ子どもに対して、どのように保育を進めていけ ばよいかという相談を度々受ける。そして、保育者 からは、このような子どもたちについて、「診断はさ れていませんが、発達が気になる子なんです」とい う発言を耳にする。 平澤・藤原・山根(2005)は、診断を受けている 障害群よりも診断を受けていないが保育者にとって 気になる行動を示す診断なし群の方が、保育者に とって対応が困難であることを明らかにし、支援体 制の必要性を指摘している。また、郷間・圓尾・宮 地・池田・郷間(2008)の研究においても、保育に おける指導上の問題を有した経験は、障害児よりも 「気になる」子どもの方が有意に多いことが報告さ れている。さらに、池田・郷間・川崎・山崎・武藤・ 尾川・永井・牛尾(2007)の研究では、「気になる」 子どもが増加していると感じている保育者が数多く いることを報告している。このように、現在の保育 現場において、「気になる」子どもへの対応が大きな 課題となっていると えられる。 では、「気になる」子どもとはどのような子どもで あろうか。「気になる」とは、保育者の主観であり、 明確な定義はない。それゆえ、保育者にとって「気 になる」子どもとは、どのような特徴を持つ子ども であるかを明らかにしようとした研究が多数ある。 研究は、質問紙による調査がほとんどであるが、大 きく二つの方法がとられている。一つは、保育者に 「気になる」子どもの行動についての自由記述を求 めるものである(肥後,2001:吉村,2003:尾﨑・ 吉 川,2009:岡 村,2011:井 口,2000:池 田 ら, 2007:小谷・山下,2008:久保山・齊藤・西牧・當 島・藤井・滝川,2009)。もう一つは行動リストを提 示して評定を求める調査である(玉井・堀江・寺脇・ 村,2011:本郷・澤江・鈴木・小泉・飯島,2003: 本郷,2006:木村・ 本,2011:藤崎・木原,2010)。 肥後(2001)は、保育者の捉える「気になる」子 どもの行動特徴の自由記述を詳細に 析し、攻撃性、 多動性、疎通感のなさ、自己表出の問題、集団参加

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の困難、情緒の問題、その他(活動性・親子関係な ど)に 類している。 本郷(2006)は、保育者に設定した行動リストの 評定をもとめ、その評定の因子 析から、「気になる」 子どもの行動特徴として、対人トラブル、落ち着き のなさ、状況への順応性の低さ、ルール違反、衝動 性の 5因子を見いだしている。 これらの研究をはじめとして、保育者にとって「気 になる」子どもに関する研究であげられている行動 の特徴を詳細に見ていくと、 類方法や 類名の違 いはあるが、概ね ADHD やアスペルガー障害など の発達障害の子どもたちの行動特徴に類似している と えられる。 このような行動特徴を持つ「気になる」子どもに 対して、どのような対応がなされているのだろうか。 「気になる」子どもに関する研究に比べ、「気になる」 子どもへの対応に関する保育者の意識調査は少な い。 小谷ら(2008)の保育者の意識調査では、「気にな る」子どもへの対応において保育者が重視している こととして、保育者間の連携と保護者との連携が最 も多くあげられている。また、具体的な対応として は、子どもと 1体 1での対応、ほめる、遊びの工夫、 他児との中継役などがあげられている。 本郷ら(2003)は、保育者に対応行動のリストを 提示しその評定をもとめ、その評定の因子 析から、 「気になる」子どもへの対応として、「注意・指導」、 「環境への配慮」、「遊びの機会づくり」、「気 の安 定」の 4因子を見いだしている。 実際の「気になる」子どもへの対応は、1人 1人子 どもの特徴が異なるように、その対応も一様ではな い。それゆえ、様々な対応行動が えられるが、そ の中でも、本郷ら(2003)は「気になる」子どもの 保育を進めるに当たっては、その子自身(個体能力) と子どもと子どもを取り巻く人々との関係性の両側 面から子どもを捉える視点が重要であるしている。 さらに、本郷・飯島・平川・杉村(2007)では、集 団への対応が、「気になる」子どもの適応にとっての 支援の重要な柱になるとしている。また、「気になる」 子どもの適応過程の事例研究では、その子を取り巻 く集団の変化の重要性が指摘されている(刑部, 1998:金田・岡村・山岡,2000)。 以上のように、「気になる」子どもの適応において は、対象児自身の変容を促す対応だけでなく、周囲 の子どもたちの変容も重要であると えられる。こ の視点から保育者の対応を えていくと、周囲の子 どもたちへの直接的な対応だけでなく、保育者の「気 になる」子どもへの対応は、間接的に、周囲の子ど もたちへの対応になっているのではないかと えら れる。 永・大久保(2012)では、同じ逸脱行動を とる子に対しても、保育者の言葉がけの内容によっ て、当該幼児に対する好意度や認知が異なることを 実験的に明らかにしている。 つまり、保育者の「気になる」子どもへの対応は、 周囲の子どもたちに大きな影響を与えており、それ が同時に「気になる」子どもの適応につながってい くと えられる。そして、この点を保育者が意識す ることも「気になる」子どもへの対応にとって重要 ではないだろうか。しかし、これまでの研究では、 「気になる」子どもへの保育者の対応の周囲の子ど もたちへの影響に関する保育者自身の意識に関して は、ほとんど研究されていない。そこで、本研究で は、この点を中心に、「気になる」子どもの理解と対 応について、保育者の意識を明らかにしていく。 本研究の目的は、以下の 4点である。 1. 保育者の捉える「気になる」子どもの行動特徴 を自由記述から明らかにする。 2. 「気になる」子どもへの具体的な対応について、 自由記述から明らかにする。 3. 保育者の対応の周囲の子どもたちの行動への影 響についての意識を明らかにする。 4. 保育者の対応の周囲の子どもたちの「気になる」 子どもに対する認知への影響についての意識を明 らかにする。

対象:群馬県 M 市の保育所保育士および幼稚園教 諭(以下、両者をあわせて保育者と表記する)。 M 市内の保育研修に参加した保育者に無記名式

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の質問紙を配布し、後日、郵送で返送してもらった。 63名に配布し、32名から 回 答 が あ り、回 収 率 は 50.8%であった。 調査項目:調査項目は、以下の通りである。 ・フェイスシート 記入者の年齢、性別、保育所及び幼稚園での 勤 務年数 ・質問内容 ①「気になる」子どもの行動特徴、及び、その子へ の対応や言葉がけについて 「保育現場で、あなたにとって、発達の気になる子 はどのような行動をとる子ですか。現在かかわって いる子どもたちだけでなく、これまでにかかわった 子どもたちも思い出して、気になる行動を具体的に 教えてください。また、そのような行動を目にした 時に、どのような対応や言葉がけをしますか。対応 や言葉がけもあわせて教えてください(回答数は自 由です)」と記述し、【気になる行動】【その子への対 応や言葉がけ】という欄を 1セットして、3セット設 けた。 なお、本研究では、親子関係などの子どもの発達 に影響を与える環境要因による気になる点を排除す るために、発達の気になる子と表記した。 ②「気になる」子どもへの保育者の対応の周囲の子 どもたちの行動への影響について ③「気になる」子どもへの保育者の対応の周囲の子 どもたちの当該幼児に対する認知や評価への影響に ついて 上記質問項目②および③では、影響の程度を 「ほとんど影響しない」、「少し影響する」、「ある程 度影響する」、「かなり影響する」の 4段階評定をも とめた。さらに、その上で、具体的に、どのような 影響があると思うかを自由記述での回答を依頼し た。

1.保育者が捉えた「気になる」子どもの行動特徴 「気になる」子どもの行動特徴の自由記述を肥後 (2001)および本郷(2006)を参 に 類した。そ の結果を表 1に示す。 「状況への順応性の低さ、こだわり」や「他者へ の乱暴、暴言、妨害」に関する行動を、6割以上の保 育者が「気になる」行動と捉えている。また、保育 者の半数近くが、「落ち着きのなさ、集中力の低さ」 が「気になる」としている。これらの保育者にとっ て「気になる」行動は、対人行動や集団活動に関す る行動であり、「気になる」子どもと周囲の子どもた ちとの関係に関連する行動であると えられる。 2. 気になる」子どもへの保育者の対応 「気になる」子どもへの対応に関する自由記述を 本郷ら(2003)を参 に 類した結果を表 2に示す。 「注意、指導、約束」および「受容、気 の安定」 という対応が 7割以上の保育者からあげられてい る。対応についての記述では、一つの「気になる」 行動に対して複数の対応を記述しているケースが 16(18.2%)ケースある。中でも、「注意、指導、約 束」では、43.5%(10ケース)で他の対応が併記さ れている。つまり、単に注意や指導をするのではな 表1 保育者が捉える「気になる」子どもの行動特徴 行動特徴 人数・割合 ・状況への順応性の低さ、こだわり 例:場面をかえたり、次の行動に移ることが難しい こだわりが強く、ルールなどが守れない 22(30.1) 68.8 ・他者への乱暴、暴言、妨害 例:思い通りにならないと、友だちを叩いたり、乱 暴な言葉で怒る 友だちが遊んでいる積み木を壊してしまう 20(27.4) 62.5 ・落ち着きのなさ、集中力の低さ 例:読み聞かせの時など、落ち着いていられず、立 ち上がったり後ろ向きに座ったり、前の子の椅 子を蹴ったりする 身支度や制作など集中できず、周りに気をとら れてしまう 15(20.5) 46.9 ・意思疎通感のなさ、行動理解の難しさ 例:話しかけても、視線があわない ぼうとしていたり、一人でニヤッとしている 7(9.6) 21.9 ・情動コントロールの苦手さ(対人場面以外) 例:制作など自 でできなくなると、ぐちゃぐちゃ にしてしまう 思い通りにならないとパニックをおこし、思い 通りになるまで泣き続ける 6(8.2) 18.8 ・その他 例:わざと間違ったことをして、注意をひく 自己主張できず、言いたいことを口にできない しゃべるのが極端に遅い 3(4.1) 9.4 記述合計 73 回答者数 32 *人数・割合欄の二段目の数字は、回答者数に対する割合を示す

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く、気 の安定を図ったり誉めたりなど、他の対応 も同時にとりながら行っていることが記述されてい る。 3.保育者の対応の周囲の子どもたちの行動への影 響 4段階評定の結果を勤務年数ごとにまとめた結果 を表 3― 1に、保育者の年齢ごとにまとめた結果を 表 3― 2に示す。勤務年数や保育者の年齢による有 意な違いは見いだせなかった。 全体で 59.4%の保育者が、「気になる」子どもへの 対応が、周囲の子どもたちの行動にかなり影響する と えている。しかし、ほとんど影響しないと え ている保育者が 6.3%、影響は少ないと えている保 育者が 9.4%いる。 周囲の子どもたちへの具体的な影響についての自 由記述を 類した結果が、表 4である。「気になる」 子どもに対して、保育者自身の対応と同様の行動を 周囲の子どもたちも行うようになると えている保 育者が半数以上である。また、「気になる」子どもに 指導しているが、それをみて、周囲の子どもたちも 自 の行動を見直すと えている保育者もいる。し かし、保育者が「気になる」子どもに注意したりす ることで、周囲の子どもたちの行動を阻害したり、 萎縮させたりなど、マイナスの影響をあげている保 育者も 15%程度いる。 表2 気になる」子どもへの対応 対 応 人数・割合 ・注意、指導、約束 例:いけないことをした際に、その都度、話で伝え る 約束事をする 23(26.1) 71.9 ・受容、気 の安定 例:嫌だった気持ちを受け止める 気持ちを落ち着かせ、気 転換をさせる 23(26.1) 71.9 ・称賛 例:自 でできたときに十 にほめる できたときには、大げさにほめる 12(13.6) 37.5 ・環境への配慮 例:目立った行動に反応せず、注意を取り去るよう にする クールダウンさせる環境を与える 5(5.7) 15.6 ・共行動 例:一緒に楽しむ 一緒に片づける 5(5.7) 15.6 ・見通しや期待への誘導 例:次の行動への期待をもたせる 時間を意識させ、見通しを保たせる 4(4.5) 12.5 ・遊びの機会づくり 例:他児のところに誘導する 他の子に注意が向いたときに、遊びに誘う 3(3.4) 9.4 記述合計 88 回答者数 32 *人数・割合欄の二段目の数字は、回答者数に対する割合を示す 表3―1 勤務年数ごとの周囲の子どもたちの 行動への影響に対する評定(人数) 勤務年数 ほ と ん ど影響しない影響するし ある程度影響する か な り影響する 合計 1年以内 1 0 2 0 3 1― 2年 0 1 0 1 2 3― 5年 0 1 1 3 5 6―10年 1 0 1 4 6 11―20年 0 0 3 4 7 21年以上 0 1 1 7 9 合計 2 3 8 19 32 表3―2 年齢ごとの周囲の子どもたちの行動 への影響に対する評定(人数) 勤務年数 ほ と ん ど影響しない影響するし ある程度影響する か な り影響する 合計 25歳以下 1 0 2 2 5 26―29歳 0 1 1 3 5 30代 0 0 2 7 9 40代 1 1 1 3 6 50代以上 0 1 2 4 7 合計 2 3 8 19 32 表4 周囲の子どもたちの行動への影響 影響内容 人数・割合 保育者の行動の模倣をする 17(53.1) 保育者の意を汲んだ行動をする 1(3.1) 対象児の世話をやく 2(6.3) 園内のルールや善悪などの判断基準を見直すように なる 5(15.6) 思いやりや優しさが育つ 2(6.3) 自 も見てもらえるという安心感をもつ 1(3.1) 周りの子どもの行動が阻害される(−) 2(6.3) 周りの子どもを萎縮させる(−) 1(3.1) 何かあると「その子が悪い」と決めて行動する(−) 1(3.1) クラス全体が落ち着かなくなる(−) 1(3.1) クラス全体の対象児への態度に影響する 1(3.1) 合 計 32 *(−)は、ネガティヴな影響を示す

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4.保育者の対応の周囲の子どもたちの 気にな る」子どもに対する認知へ の影響 4段階評定の結果を勤務年数ごとにまとめ た結果を表 5― 1に、保育者の年齢ごとに 類した 結果を表 5― 2に示す。勤務年数や保育者の年齢に よる有意な違いは見いだせなかった。 全体で 62.5%の保育者が、「気になる」子どもへの 対応が、周囲の子どもたちの当該幼児に対する認知 や評価にかなり影響すると えている。しかし、ほ とんど影響しない、あるいは、影響は少ないと え ている保育者がともに 6.3%いる。 周囲の子どもたちへの当該幼児に対する認知や評 価への具体的な影響についての自由記述を 類した 結果が表 6である。保育者の対応と同方向の評価を すると えている保育者が 6割以上である。また、 「気になる」子に対して、ネガティヴな認知や評価 をすると えている保育者が 25%いる。なお、未記 入者が 5名いる。

本研究では、保育者の捉える「気になる」子ども の行動特徴は何か、さらに、「気になる」子どもに具 体的にはどのような対応をしているのか、また、保 育者は、自 自身の「気になる」子どもへの対応の 周囲の子どもたちの行動への影響や「気になる」子 どもに対する認知や評価への影響についてどのよう に えているのかを明らかにすることを目的とし て、自由記述形式の質問紙による意識調査を行った。 保育者から「気になる」子どもの行動特徴として、 状況への順応性の低さや他者への乱暴や暴言、落ち 着きのなさなどの行動が多くあげられている。これ らは、他児との対人行動や集団での行動など対人的 活動の側面であり、保育者が個別の活動よりも対人 的活動の中で、「気になる」と捉える傾向があると えられる。また、本研究であげられた行動特徴は、 ほぼ先行研究で見いだされている行動と同様で、発 達障害の子どもたちにみられる行動と類似の行動で ある。これは、保育者の発達障害への意識の強さの 表れではないかと えられる。 「気になる」子どもへの対応については、本郷ら (2003)とほぼ同様の内容であった。本研究で最も 多い対応が、「注意、指導、約束」と「受容・気 の 安定」であった。また、「気になる」子どもへの注意 や指導をする際には、受容や称賛など他の対応を含 めながら行っていることが明らかとなった。これら のことから、「気になる」子どもに対して、当該幼児 の様子を見ながら、その子の特性やその時の状態に あわせて対応している保育者多いと えられる。 「気になる」子どもに対する保育者の対応の周囲 表5―1 勤務年数ごとの周囲の子どもたちの 当該幼児に対する認知への影響(人数) 勤務年数 ほ と ん ど影響しない影響するし ある程度影響する か な り影響する 合計 1年以内 1 0 2 0 3 1― 2年 0 0 1 1 2 3― 5年 0 0 2 3 5 6―10年 0 0 2 4 6 11―20年 1 0 1 5 7 21年以上 0 2 0 7 9 合計 2 2 8 20 32 表5―2 年齢ごとの周囲の子どもたちの当該 幼児に対する認知への影響(人数) 勤務年数 ほ と ん ど影響しない影響するし ある程度影響する か な り影響する 合計 25歳以下 1 0 2 2 5 26―29歳 0 0 2 3 5 30代 0 0 1 8 9 40代 1 1 1 3 6 50代以上 0 1 2 4 7 合計 2 2 8 20 32 表6 周囲の子どもたちの当該幼児に対する認知へ の影響 影響内容 人数・割合 保育者の対応と同方向の評価をする 18(66.7) いけない子」とみる(−) 3(11.1) レッテルをはる(−) 2(7.4) できない子などと見下す(−) 2(7.4) 周りと違う子とみる(−) 1(3.7) ○○すると、……できる子」とみる 1(3.7) 合 計 27 *(−)は、マイナスの評価を示す

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の子どもたちの行動への影響については、8割以上 の保育者が影響の強さを意識している。そして、影 響の内容としては、「気になる」子どもへの保育者の 対応を子どもたちがまねをするなど、保育者と類似 の行動をとるようになると えている。また、周囲 の子どもたち自身が自 の行動を見直すなど、「気に なる」子どもに対する行動ではなく、周囲の子ども たち自身の行動へのプラスの影響を意識している保 育者もいる。しかし、一方で、マイナスの影響をあ げている保育者もいる。 これらのことより、多くの保育者は、「気になる」 子どもへの対応が間接的に当該幼児に対する周囲の 子どもたちの行動や周囲の子どもたち自身の行動に 影響を与えるという意識を持ちながら保育にのぞん でいると えられる。 保育者の対応の周囲の子どもたちの当該幼児に対 する認知や評価への影響についても、8割以上の保 育者が影響の強さを意識している。そして、影響の 内容としては、保育者の対応と同方向の評価をする と えている者が 7割近くいる。また、マイナスの 評価をすると えている保育者も 2割ほどいる。こ れらのことから、周囲の子どもたちの「気になる」 子どもに対する認知や評価への影響を強く意識して 保育をしてる保育者が多いと えられる。しかし、 その一方、認知や評価についての自由記述では、5名 の保育者が未記入であり、対人認知的な影響につい ては具体的にイメージできない保育者もいるのでは ないかと えられる。 「気になる」子どもへの保育者の対応の周囲の子 どもたちの行動や当該幼児に対する認知の影響を、 ほとんど意識していない保育者も少数ではあるが存 在する。「気になる」子どもたちの行動は、周囲の子 どもたちとの関係の中で大きく変化していく。周囲 の子どもたちから受け入れられることにより、保育 者にとって「気になる」子どもは、集団の一員とな り、その子らしさを発揮しながら適応していくので はないかと えられる。それゆえ、「気になる」子ど もへの保育者の対応が、周囲の子どもたちの行動や 当該幼児に対する認知に影響するのだということ を、保育者自身が十 意識しながら、「気になる子」 に対応していくことが重要であると える。 今後、このような意識を強めたり広めたりするた めには、単に研修会等で力説するだけでなく、その 裏付けとなるような、保育者の対応の周囲の子ども たちの行動や他児認知への影響についての実証的研 究が必要であろう。 引用文献 藤崎春代・木原久美子 2010 『「気になる」子どもの保育』 ミネルヴァ書房 郷間英世 ・圓尾奈津美 ・宮地知美 ・池田友美 ・郷間安美子 2008 幼稚園・保育園における「気になる子」に対する 保育士の困難さについての調査研究 京都教育大学紀要 113,81-89. 刑部育子 1998 「ちょっと気になる子ども」の集団への参 加過程に関する関係論的 析 発達心理学研究 9,1-11. 肥後功一 2001 気になる子の心理臨床医的理解(第一報) ―保育者による気になる子の記述から― 島根大学教育 学部附属教育臨床 合研究センター紀要 1,61-77. 平澤紀子・藤原義博・山根正夫 2005 保育所・園における 「気になる・困っている行動」を示す子どもに関する調 査研究:障害群からみた当該児の実態と保育者の対応お よび受けている支援から 発達障害研究 26,256-267. 本郷一夫 編著 2006 『保育の場における「気になる」子ど もの理解と対応―特別支援教育への接続―』ブレーン出 版 本郷一夫・澤江幸則・鈴木智子・小泉嘉子・飯島典子 2003 保育所における「気になる」子どもの行動特徴と保育者 の対応に関する調査研究 発達障害研究 25,1,50-61. 本郷一夫・飯島典子・平川久美子・杉村僚子 2007 保育場 面における「気になる」子どもの理解と対応に関するコ ンサルテーションの効果 LD 研究 16,3,254-264. 井口 2000 保育者が問題にする「気になる子」につい ての傾向 析 長崎大学教育学部紀要 教育科学 59,1-16. 池田友美・郷間英世・川崎友絵・山崎千裕・武藤葉子・尾川 瑞季・永井利三郎・牛尾禮子 2007 保育所における気 になる子どもの特徴と保育上の問題点に関する調査研究 小児保 研究 66,6,815-820. 金田利子・岡村由紀子・山岡三佐子 2000 保育のなかでの 発達の危機をどうのりこえるか―自己コントロールがで きない自 をみつめる「4歳児」の 析をとおして― 保 育学研究 38,153-161. 木村明子・ 本秀彦 2011 保育者が「気になる子の発達と

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行動特性 作大論集(1),209-225. 小谷隆 ・山下 勲 2008 『気になる子ども』の実態とそ の対応に関する研究 安田女子大学 心理教育相談研究 7,1-14. 久保山茂樹・斉藤由美子・西牧謙吾・當島茂登・藤井茂樹・ 滝川国芳 2009 「気になる子ども」「気になる保護者」 についての保育者の意識と対応に関する研究 ―幼稚 園・保育所への機関支援での踏まえるべき視点の提言― 国立特別支援教育 合研究所研究紀要 36,55-76. 永あけみ・大久保沙織 2012 幼児の他児認知に及ぼす保 育者の言葉がけの影響(1) 群馬大学教育学部 紀要 人 文・社会科学編 61,189-199. 岡村裕子 2011 保育者からみた「気になる子ども」につい ての調査研究 滋賀大学大学院教育学研究科論文集 14, 37-48. 尾崎啓子・吉川はる奈 2009 私立幼稚園における「気にな る子ども」の保育の困難さに関する調査研究―自由記述 の 析を中心として― 埼玉大学紀要 教育学部 58,2, 197-204. 玉井ふみ・堀江真由美・寺脇 希・村 文美 2011 就学前 における「気になる子ども」の行動特性に関する検討 県 立広島大学保 福祉学部誌 人間と科学 11,1,103-112. 吉村智恵子 2003 幼稚園で「気になる子」の傾向―保育者 の記述 類― 名古屋女子大学紀要 49.(人・社) 55-65. 謝辞:本研究の調査にご協力頂きました保育所および幼稚園 の先生方に心より感謝致します。 なお、本研究をまとめるに際し、平成 23年度文部科学 省 科 学 研 究 費 補 助 事 業(基 盤 研 究(C) 課 題 番 号 23530846 「幼児の他児認知形成に及ぼす保育者の言 葉がけの影響」)の助成を受けた。

参照

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