〔原著〕松本歯学21:27∼33,1995 key wordS :分光特性一陶材・レジンー歯科審美
陶 材 と 硬 質 レ ジ ン の 色 調 に お け る 分 光 特 性 に つ い て
坂 口 賢 司 宮 川 崇 谷 内 秀 寿 松本歯科大学衛生学院 歯科技工士科(学院長 甘利光治教授) 甘 利 光 治 松本歯科大学 歯科補綴学第2講座(主任 甘利光治教授) 永 沢 栄 高 橋 重 雄 松本歯科大学 歯科理工学講座(主任 高橋重雄教授)Spectrophotometric Analysis of Dental Porcelain and Hard-resin for Crown and Bridge
KENJI SAKAGUCHI TAKASHI MIYAGAWA and HIDETOSHI TANIUCHI
Regular Course of Dental Technician, > School 6ゾ・Oen彦α1、Hygienist and Techniciai¢, MatSumoto Dental College (Pve’nciPal:Profルt.∠L〃zari) MITSUHARU AMARI D〔?Part〃zent(ヅProsthodontics互〃砿sμ〃zoto Dental Co1彪9ε (c)hief二PrOf M.ノ1〃2α夕り
SAKAE NAGASAWA and SHIGEO TAKAHASHI Z)ePart〃zent()f Dental Technol()9γ,ルfatszamoto 1)en tal CO1花9¢ (Chief:Prof s. Taleahashi)
Summary
Dental hard−resin have been used actively for facing metal crown restorations in recent years. However, dental hard−resin is not as good as dental porcelain in color re− productability. We measured spectral absorption and scattering coefficients of Kuraray− Cesead−hard−resin by the microspectrophotometric・method. Spectral absorption and scat一 (1995年2月28日受理)坂口他:陶材と硬質レジンの色調における分光特性について tering coefficients were compared using Kuraray−Cesead・hard−resin to Noritake−Super・ Porcelain−AAA. The results were as follows; 1)The color of hard−resin depended on its thickness more than color of porcelain. 2)Transmittance of light on hard・resin was very high and depended on wavelength of light. Especially, nondiffused transmittance of Transparent−Hard−resin was high、 Therefore, color of the under layers changed according to thickness of upper layers and color of surface depended directly on the color of under layers. 3)The color reproductability of dental hard−resin was not to the same level as dental porcelain. 緒 言 最近の硬質レジンの普及には目覚ましいものが ある.特に,前装冠が社会保険に導入されてから というもの,金属焼付陶材をはるかにしのぐ勢い である.ところが,これまでの硬質レジンは審美 的要求の高い材料でありながらも,どちらかと言 うと色調の再現性よりも,機械的性質の方に重点 がおかれていたように思われる.そのため,今日 のレベルの高い審美的要求に対しては,むしろ陶 材以上に熟練を要する材料になっている.その証 拠に,レジンの築盛テクニックがこれまでの簡単 な3層築盛法から,内部ステインや特殊色を混合 した多色築盛法へと移行しつつある.そして,こ れらに関するテクニックの多くは雑誌等でも広く 紹介されている1”“3).しかし,これには相当の熟練 を要するため,誰もが簡単に出来るというもので もない.そこで,硬質レジンの色調再現性におい て,なにがここまで困難にさせているのかを探る ため,分光光度計を用いて,硬質レジンと陶材の 散乱反射率と散乱透過率を測定し,吸収係数と散 乱係数を求め,比較検討を行った.
材料と方法
硬質レジンは,レジンの中でも比較的色調再現 性がよい,クラレ・セシード(以下セシード)を 使用した.図1は,測定に用いたセシードのカラー テーブルのオペーク,デンチン,エナメル,トラ ンスペアレント,ステインなどの単体色62種類を 示す. 陶材は,これも比較的色調再現性が良好といわ れている,ノリタケ・スーパーポーセレンAAA (以下トリプルA)を使用した.図2は,トリプ ルAのカラーテーブルのオペーク,ボディ,エナ メル,トランスルーセント,ステインなどの単体 色60種類を示す.なお,カラーテーブルは,両者 とも,メーカーにて製作されたものである. 図3に散乱反射率の測定装置を示す.散乱反射 率は,オリンパス社製金属顕微鏡と浜松ホトニク ス社製PMA10分光光度計を用い,45度上方から タングステン光を照射し,標準白色板と黒色板を 基準として,単体色を1色ずつ,測定した.図4 に散乱透過率の測定装置を示す.散乱透過率は, 散乱板上に置いた試料を,板の下方からタングス テン光を照射し,測定した. ⑱ ’s \ L_ vノ 題} ○ ● ③ ㊧ o ⑳ ● ● 聯 愉 〔●() ◎●●●●●●●
図1’クラレ・セシード(セシード)のカラーテーブル松本歯学 21(1)1995 29 図2:ノリタケ・スーパーポーセレンAAA(トリプル 図4:分光透過率の測定は,オリンパス社製金属顕微 A)のカラーテーブル 鏡において,試料の下方から光を照射した. 図3:分光反射率の測定は,オリンパス社製金属顕微 鏡において,試料の斜め45度上方から光を照射 した. 結果および考察 セシードとトリプルAの色調は,ビタルーミン のシェードガイドナンバーのA1, A2, B1, B2 などの系統的な色調を作り出すオペーク,ボディ, エナメル色などの単体色において,その違いはそ れぞれに,似たような傾向を示した.そのため, 誌面の都合上,A1色調に関連する単体色について のみ,比較検討を行う. 1.A1オペーク 図5に,トリプルAの散乱反射率(以下反射率) を示す.トリプルAでは,試料が約2mmと厚す ぎるため,散乱透過率(以下透過率)の測定は不 可能であった.図6に,セシードの反射率と透過 率を示す.セシードでは,試料の厚さが0.2mmと 薄いため,反射率と透過率のどちらも測定可能で あった. 反射率から,トリプルAとセシードの色調を比 較すると,同じA1オペークの黄色みでありなが ら,セシードの方が赤みがかっており,やや暗い 色調を呈している.また,セシードの試料の厚さ 0.2mmでは透過性があり,金属色を遮断するこ とはできない.さらに,短波長側において透過率 が極端に低いことから,380∼500nm付近の可視 光線を利用して重合する硬質レジンにおいては, 一度に多量のレジンを築盛すると,硬化しないこ とが解る. 透過性材料の反射色ならびに透過色は,その厚 みによって変化するため,比較対照を行う場合は, 厚みに影響されない吸収係数と散乱係数を用いる 必要がある.そのため,測定された分光反射率と 透過率からクベルカームンクの理論4)を用いて, 吸収係数と散乱係数を求めた5). 図7に,セシードの散乱係数と吸収係数を示す. 試料の厚さが,薄くなると散乱係数の影響を受け, 厚くなると吸収係数の影響を受ける.従って,セ シードのA1オペークでは,厚さが薄くなると,散 乱係数が大きい短波長側の影響を受け,色調は青
坂口他 陶材と硬質レシンの色調における分光特性について 最大スケール【10】 こ1. 一 …. UIT:tl,tl:tllti=:llt=t=trt
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最大スケール【反射率一10 透過率一10)_一
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1 . 1一 400 500 波 長 600 (nm) 700 図5 トリプルA・A1オペークの分光散乱反射率 最大スケール【反射率一10 透過率_1UJ l−=一
一 1;!ll:L!;17{ 1 400 500 600 700 波 長 (n囮) 図6 セシード・A1オペークの分光散乱反射率と散乱 透過率 400 図8 500 600 700 波 長 (nm) トリプルA・A1ボディの分光散乱反射率と散乱 透過率 最大スケール【吸収係数一20散乱係数一 201(/㎜) 最大スケール【吸収係数一一200散乱係数一400】(/mm) 斗_ 400 図9 500 600 700 波 長 (nm) トリプルA・A1ボディの吸収係数と散乱係数 最大スケール【反射率一10 透過率一10】 1一 400 500 600 700 波 長 (nm) 図7 セシード・A1オペークの吸収係数と散乱係数 1 400 500 600 700 波 長 (nm) 図10 セシート・A1デンチンの分光散乱反射率と散乱 透過率 みが強くなってくる.一方,試料が厚くなると, 吸収係数の影響を受け,短波長・青系統の色調は 吸収されるため,より赤みを増した黄色となるこ とが予測される.これらのことから,セシードで は,厚さによる色調の変化が大きいことが解る. 2.A1ボディ(セシードではデンチンに相当) 図8に,トリプルAの反射率と透過率を,図9 に,トリプルAの散乱,吸収係数を示す.トリプ ルAにおいては,吸収係数は短波長側が急激に高 く,散乱係数でもわずかではあるが短波長側が高 い.このことから,反射率としての見え方は,厚 さが厚くなると青みが吸収されるため,赤みが強 くなる.また,薄くなるとわずかではあるが,青 みが強くなり,白っぼくなる.透過光では,厚く なると赤みがさらに強くなり,薄くなると赤みが 弱くなる. 図10に,セシードの反射率と透過率を,図11に, セシードの散乱,吸収係数を示す.セシードにお いては,トリプルAと比較し,反射率,透過率と も明度の差こそあれ,ほぼ同様な曲線を描いてい る.つまり,やや暗いがトリプルAに近い色調を 呈している.しかし,吸収係数や散乱係数におい ては,その曲線は類似しているが,短波長側と長 波長側との差に大きな開きがある.これは,厚み によって色調の見え方が,トリプルAよりも大き く変化することを,意味している.松本歯学 21(1)1995 最大スケール【吸収係数一20散乱係数一20】(/mm) 一 ▲ 最大スケー一ル【吸収係数一 tt aぷけ o)くノmm)
1一 三
]三 一三 三,三m l _ 31 ↓. ㍉400 500 600 700 波 長 〔n皿} 図11セシード・A1デソチンの吸収係数と散乱係数 最大スケール【反射率一10 透過率一10】 400 500 波 長 600 (nm} 700 図14 トリプルA・エナメルE2の吸収係数と散乱係数 最大スケール 1 【吸収係数一20散乱係数一一 20】(ノ皿) L _ .− i. 一 一.一 _ 、1 − } 工 一一 一一+
1 一 400 500 600 700 波 長 (nm} 図12 トリプルA・エナメルE2の分光散乱反射率と散 乱透過率 最大スケール【反射率一10 透過率一10】 1 1− __ i− 1 400 500 600 700 波 長 (nm) 図15 セシード・エナメルE1の吸収係数と散乱係数 最大スケール【反射率一10 透過率一10】 一 i .一 . _ .一 .. 三 一一 一 「皿】↑ 二灘照←’
糖 一 …− m T m エ
400 500 600 700 波 長 (ロm} 図13.セシード・エナメルE1の分光散乱反射率と散乱 透過率 3.エナメルE2(セシードではE1に相当) 図12に,トリプルAの反射率と透過率を,図13 に,セシードの反射率と透過率を示す.トリプル Aにおいて反射率は,明度の低い白色であり,透 過率では,ほんのわずかにオレンジがかった白色 を呈している.一方,セシードの反射率では,明 度はやや低くなるが,A1テンチンの反射率とよく 似ており,透過率では,A1デンチンとほとんど同 じ曲線を描いている. 図14に,トリプルAの吸収,散乱係数を,図15 に,セシードの吸収,散乱係数を示す.この吸収, 散乱係数から,厚みの違いによる色調の見え方は, トリプルAでは,明度は変化するが,色調の変化 400 500 600 700 波 長 (nm) 図16 トリプルA・トランスルーセントT1の分光散乱 反射率と散乱透過率 はほとんどない.しかし,セシードでは,厚さが 薄くなると,色調の変化はあまりないが,厚くな ると,著しく変化する.エナメル色においても, セシードの色調の変化は,トリプルAよりも大き い. 4.トランスルーセントT1(セシードではトラン スペアレントTに相当) 図16に,トリプルAの反射率と透過率を,図17 に,セシードの反射率と透過率を示す.トリプル Aは,エナメル色と比較し,透過は大きくなるが, 色調はよく似ている.セシードでは,エナメル色 とまったく違う曲線を描いている.反射率は青み がかった白色,つまり,透明感のある暗い色調を坂口他 陶材と硬質レジンの色調における分光特性について 最大スヶ一ル【反射率一10 透過串一10】 最大スケール【吸収係数一 −r − T一 20敢乱係数一20】(/田皿) 1 .1 1 400 500 600 700 被 長 《n匝) 図17 セシード・トランスペアレントTの分光散乱反 射率と散乱透過率 400 500 600 700 波 長 (n皿} 図19 セシード・トランスペアレントTの吸収係数と 散乱係数 最大スケール【吸収係数一20散乱係数一 20】(/m堕) i− i1一 10 1三 三一 1三
則5
ノリタケAAA−TI愈透過光Φ空固分布 光の鴻長ao2n皿 一 1 400 図18 500 浪 長 600 (n皿) 700 トリプルA・トランスルーセントT1の吸収係数 と散乱係数 呈しており,透過率では,オレンジ色を呈してい る. 図18に,トリプルAの吸収,散乱係数を,図19 に,セシードの吸収,散乱係数を示す.トリプル Aでは,エナメル色同様,厚みによる色調の変化 はほとんど見られない.セシードでは,短波長側 が高いため,厚みが増すと,青みが吸収されて白 色となり,逆に薄くなると,ますます青みが強く なる.また,透過光では,厚くなると赤みがさら に強くなり,薄くなると赤みが弱くなる.トラン スルーセントT1においても,トリプルAの方が, セシードよりも色調の変化が小さい. また,セシードの透過率を観察したところ,短 波長側と比較して,長波長側に高い透過率が表れ ていた.これを吸収,散乱係数で見ると,長波長 側では共に低くなっていることから,下層の色調 によって,内部の色のでかたの違うことが予測さ れる.つまり,赤系統の色は透過させるが青系統 の色はあまり透過させない.従って,トランスペ アレントTの場合,内部の色調においては,浮き でる色とでない色があるということが解った.こ のことは,透過光の空間分布の違いとしても表す 0空間分布
図20 トリプルA・トランスルーセントT1の透過光の 空間分布 tO頬5
0 透追光Φ空固分布 光㊤鴻U裏802nm空間分布
図21セシード・トランスペアレントTの透過光の空 間分布 ことができる. 図20に,トリプルAの透過光の空間分布を,図 21に,セシードの透過光の空間分布を示す.光を 真直に透過させる量は,トリプルA・トランスルー セントT1では,ほとんどないのに対し,セシー ド・トランスペアレントTでは,トリプルAの10 倍以上の透過量がある.松本歯学 21(1)1995 33 ま と め 以上のことから,セシードはトリプルAと比較 して,厚みによる,色調の見え方の変化の大きい ことが解った.これは同一色調の再現において, 各々の単体色の築盛量によって,セシードの色調 はトリプルAよりも,大きく異なってくることを 意味している.また,セシード・トランスペアレ ントTの透過性に関しては,トリプルA・トラン スルーセントT1よりも強く,特に赤系統をよく透 過させる.このことから,セシードトランスペア レントTは,下地になる色調によって,浮きでや すい色と,でづらい色のあることが解った.以上 のことが,硬質レジンの色調の再現性において, 陶材よりも難しい,という問題を残した要因であ ると考えられる. 本論文の要旨は,第38回松本歯科大学学会総会 (1994年6月11日)において発表された. 文 献 1)山本尚吾(1993)光重合硬質レジン前装冠におけ る審美の追求.QDT,18(6):35−43. 2)小野寺保夫,楠 智恵(1993)デンタカラーを用 いた審美的硬質レジン前装冠の製作.QDT,18 (8):36−43. 3)坂井浩(1993)サーモレジンLC−IIを使用した 色調表現.歯科技工別冊/歯科用レジンと歯科技 工, 82−87. 4)Kubelka. V. P. K. and Munk. F(1931)Ein Beitrag zur Optik der Farbanstriche. Zeitschr. f.techn. Physik,11(a):593−601. 5)永沢 栄,綿谷 晃高橋重雄i(1993)ポーセレ ンの色彩に関する研究歯科審美,5:38−51.