取締役報酬に関する「債務の確定」 : 定期同額給与
の未払費用計上の可否を中心として
著者
田中 将
雑誌名
法と政治
巻
63
号
1
ページ
127(218)-161(184)
発行年
2012-04-20
URL
http://hdl.handle.net/10236/9572
一, 取締役の報酬等に対する規制とその変遷 平成18年5月1日から施行されている会社法 (平成17年法律86号) に おいては, 会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律 (平成17 年法律87号) による改正前の商法 (明治32年法律48号) (以下 「旧商法」 という。) 下と比較し, 株式会社における機関設計の自由度は飛躍的に高 まった。 しかしながら, 会社法は, 株式会社には, 一人又は二人以上の取締役を 置かなければならないと規定しているから (会社法326条1項), 旧商法 下におけると同様, 依然として取締役は株式会社の必要的機関である。 ま た, 取締役会設置会社 (会社法2条七号) 以外の株式会社の取締役は, 定 款に別段の定めがある場合を除き, 原則として業務執行の権限を (1) 有するも のとされている (会社法348条1項)。 この取締役と株式会社との関係につき法は, 委任に関する規定に従うも のとする (会社法330条)。 ここで民法は, 委任契約において受任者は, 論 説
取締役報酬に関する「債務の確定」
定期同額給与の未払費用計上の可否を中心として
田
中
将
(1) 業務執行の権限とは,「会社の経営その他の事務処理を意味し, 内容 的には, 経営その他の事務処理の決定とその実行に区分できる」(落合誠 一編『会社法コンメンタール8―機関(2)』(商事法務, 2009年) 14頁 落 合誠一 。特約のない限り, 委任者に対して報酬を請求することができないものとし ていることから (民法648条1項), 通説・判例は, 取締役の任用契約は 原則として無償であると解しつつ, そこには通常, 報酬付与に関する明示 または黙示の特約が含まれるものと解しており, (2) 取締役は職務執行の対価 として会社から報酬を受けることが, 実務上はむしろ原則となっている。 (3) ところで, 取締役が受ける報酬につき, 商法等の一部を改正する法律 (平成14年法律44号) (以下 「平成14年改正法」 という。) (4) による改正前の 商法269条は, 「取締役ガ受クベキ報酬ハ定款ニ其ノ額ヲ定メザリシトキ ハ株主総会ノ決議ヲ以テ之ヲ定ム」 と規定するにすぎず, また, 定款に 「其ノ額」 が定められることもほとんど無かったため, (5) わが国企業におい ても増加傾向にあった 「業績連動型報酬などのように報酬が不確定な金額 で与えられる場合や, 報酬が金銭以外のもので与えられる場合に, どのよ うな株主総会決議をすべきかが明確でなかった」。 (6) そこで平成14年改正法による改正後の商法269条は, 取締役が受ける報 取 締 役 報 酬 に 関 す る ﹁ 債 務 の 確 定 ﹂ (2) 大隅健一郎=今井 宏 新版 会社法論 中巻Ⅰ (有斐閣, 1983年) 148 頁, 上柳克郎ほか編 新版 注釈会社法(6) 株式会社の機関(2) (有斐閣, 昭和62年) 388頁 浜田道代 , 大阪高判昭和43年3月14日金判102号12頁。 (3) 山口幸五郎 (加藤 徹補訂) 会社法概論 補訂版 (法律文化社, 2000年) 207頁, 加藤 徹 会社法 (中央経済社, 平成16年) 140頁, 奥島 孝康ほか編 新基本法コンメンタール 会社法2 別冊法学セミナー no. 205 (日本評論社, 2010年) 161頁 福原紀彦 , 江頭憲治郎 株式会社法 (有斐閣, 第2版, 2008年) 410頁, 落合編・前掲注(1)書・147頁 田中 亘 。 (4) 平成14年改正法は, 平成15年4月1日から施行された (同法附則1条, 平成14年政令216号)。 (5) 吉本健一 レクチャー会社法 (中央経済社, 2008年) 182頁, 田辺総 合法律事務所ほか編 役員報酬をめぐる法務・会計・税務 (清文社, 2008年) 57頁。 (6) 始関正光「平成14年改正商法の解説 Ⅳ 」商事法務1640号10頁。
酬で, ①金額が確定したものについてはその額, ②金額が確定しないもの についてはその具体的な算定方法, ③金銭でないものについてはその具体 的内容を, それぞれ定款に定めないときは株主総会決議をもって定めるこ とを要求し (同条1項), 上記②または③の報酬の新設または改定に関す る議案を提出する取締役に対して, それら報酬を相当とする理由を株主総 会において開示することを要求することとしたのである (同条2項)。 さらに, 会社法361条は, 委員会設置会社以外の株式会社について, こ の平成14年改正後の商法269条の規定を基本的に引き継ぎつつ, 従来 「報 酬」 とのみ規定していた規制対象を, 取締役が 「報酬, 賞与その他の職務 執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益」 として賞与が職務執 行の対価に含まれることを明示した上で, これら 「報酬等」 について一括 的な規制を行うものとしている。 (7) そして, 以上のような法改正に伴い, 取締役が受ける賞与 (いわゆる役 員賞与) に係る企業会計上の取扱いも変更されている。 すなわち, 平成14年改正前の商法下における通説的見解は, 商法269条 の 「報酬」 には賞与は含まれないと解していた。 (8) また, 企業会計上も, 役 論 説 (7) 木俣由美 「役員の報酬請求権―少数派取締役に対する報酬不支給・減 額事例の分析と試論―」 産大法学42巻1号1頁は, 平成14年の商法改正及 び会社法によっても 「報酬規制について基本的な仕組みは変わらず, 現代 の判例・実務が抱える問題に対処するための抜本的な変更を行ったわけで はな」 いとする。 (8) 大隅=今井・前掲注(2)・152頁, 田中誠二 再全訂 会社法詳論 上 巻 (勁草書房, 昭和57年) 530頁, 石井照久 会社法 上巻 (商法Ⅱ) (勁草書房, 昭和42年) 315頁, 江頭憲治郎 株式会社・有限会社法 (有 斐閣, 第2版, 2002年) 346頁, 大森忠夫ほか編 注釈会社法(4) 株式会 社の機関 (有斐閣, 昭和43年) 531頁 星川長七 。 しかし, 会社に利益 をもたらした結果として支給される賞与も, 役員の職務執行の労に報いる ために支給されるものであって, 役員報酬の一部と解すべきであるとする
員報酬が発生時の費用として処理されるのとは異なり, 役員賞与について は利益処分により未処分利益の減少として会計処理されるのが一般であっ た。 しかし, 平成14年改正法による改正後の商法下では, 新たに創設さ れた委員会等設置会社においては利益処分として取締役または執行役に金 銭の分配をすることができないこととされた。 そのため, 取締役または執 行役に対する賞与の支給はすべて発生時の費用として会計処理せざるを得 ないなど, 機関設計や役員報酬額の定め方の相違によって, 内容的に同様 の性格のものと考えられる役員の職務に関連する支給の会計処理が異なる おそれなどがあった。 (9) そこで, 平成14年改正法による改正後の商法下における役員賞与の会 計処理について企業会計基準委員会で検討が行われ, 役員賞与は発生時に 費用処理することを原則としつつ, 従来の慣行に配慮し, 当面の間, 利益 処分により株主総会決議時または支給時に未処分利益の減少として処理す ることもできることとされた。 (10) さらに, 会社法においては, 役員報酬と役 員賞与とが同一の手続によって支給されることとなったこと等から, 再び 役員賞与の会計処理についての見直しが行われた結果, 企業会計基準委員 会は 役員賞与に関する会計基準 (企業会計基準4号, 平成17年11月29 日) (以下 「役員賞与会計基準」 という。) を公表し, 会社法の施行日 (平 成18年5月1日) 以後終了する事業年度の中間会計期間から, 役員賞与 はすべて発生した会計期間の費用として処理されることとなり, 現在に至っ ている。 取 締 役 報 酬 に 関 す る ﹁ 債 務 の 確 定 ﹂ 説 (味村 治=品川芳宣 役員報酬の法律と実務 (商事法務, 新訂第二版, 平成13年) 113−115頁 味村 治 , 上柳ほか編・前掲注(2)・394頁 浜 田 ) も有力に主張されていた。 (9) 企業会計基準委員会 役員賞与の会計処理に関する当面の取扱い (実務対応報告13号, 平成16年3月9日) 「Ⅱ.1」。 (10) 企業会計基準委員会・前掲注(9)・「Ⅰ」。
以上のような商法・会社法上, あるいは企業会計上の役員の職務執行の 対価に対する規制の大幅な変動の機会を捉え, 平成18年度税制改正にお いて法人がその役員に対して支給する給与に係る課税上の取扱いも大幅に 改正された。 (11) すなわち, 所得税法等の一部を改正する等の法律 (平成18年法律10号) による改正前の法人税法 (昭和40年法律34号) においては, 役員に対し て支給する給与については 「報酬」, 「賞与」 及び 「退職給与」 (平成18年 度税制改正前の法人税法34∼36条) に区分され, 報酬及び退職給与につ いては原則として損金算入とされる一方, 賞与については原則として損金 不算入とされていたが, 平成18年度税制改正後においては, 役員に対す る 「報酬」, 「賞与」 及び 「退職給与」 は 「役員に対して支給する給与」 (以下, 「役員給与」 という。) として一括され (法人税法34条), 役員給 与のうち 「退職給与等」 (12) 以外のものについては, 「定期同額給与」 (同条1 項一号), いわゆる 「事前確定届出給与」 (同項二号) 及び一定の 「利益連 動給与」 を除き, 損金不算入とされた (同条1項柱書き)。 また, 退職給 与等のうち不相当に高額な部分については, 損金不算入とされた (同条2 項)。 このような役員給与にかかる改正の趣旨について立法当局者は, 「従来 論 説 (11) なお, 会社法上, 株式会社の役員とは, 取締役, 会計参与及び監査役 をいうが (会社法329条1項), 法人税法上の役員の範囲はこれよりも広く, 取締役, 執行役, 会計参与, 監査役, 理事, 監事及び清算人並びにこれら 以外の者で法人の経営に従事している者のうち政令 (法人税法施行令7条) で定めるものをいうものとされている (法人税法2条十五号)。 (12) ここでは, 退職給与及び法人税法54条1項に規定する新株予約権によ るもの並びにこれら以外のもので使用人としての職務を有する役員に対し て支給するその職務に対するもの並びに法人税法34条3項の規定の適用が あるものをいう。
の役員報酬に相当するものだけでなく, 事前の定めにより役員給与の支給 時期・支給額に対する恣意性が排除されているものについて損金算入を認 めることとするとともに, 従来課税上の弊害が最も大きいと考えられた法 人の利益と連動する役員給与についてもその適正性や透明性が担保されて いることを条件に損金算入を認める」 (13) こととしたと解説しているが, 「か かる解説では, 役員給与は原則として損金不算入であり, 役員に対する退 職給与及びストック・オプションの行使益等の給与のほか, 上記の三つの 役員給与に限定して限定して損金の額に算入することとし, それ以外の役 員給与については損金不算入とした根拠, 趣旨目的は何ら説明されてはい ない」 (14) とされる。 なお, 以上のような役員に対して支給する給与のうち 「定期同額給与」 とは, その支給時期が一月以下の一定の期間ごとである給与 (定期給与) でその事業年度の各支給時期における支給額が同額であるものその他これ に準ずるものとされており (法人税法34条1項一号, 法人税法施行令69 条1項), 平成18年度税制改正前の 「報酬」 に相当する (以下では, 特に 断りのない限り, 「取締役報酬」 とは取締役に対して支給される定期同額 給与をいうものとする。)。 二, 取締役報酬の未払費用計上の可否と債務確定主義 さて, 企業会計上, 適正な期間損益を算定するために, 「すべての費用 及び収益は, その支出及び収入に基づいて計上し, その発生した期間に正 しく割当てられるように処理しなければなら」 ず, 「前払費用及び前受収 取 締 役 報 酬 に 関 す る ﹁ 債 務 の 確 定 ﹂ (13) 青木孝徳ほか 平成18年版 改正税法のすべて (大蔵財務協会, 平成 18年) 323頁 佐々木浩=長井伸仁=一松 旬 。 (14) 大淵博義 法人税法解釈の検証と実践的展開 (税務経理協会, 平成 21年) 347頁。
益は, これを当期の損益計算から除去し, 未払費用及び未収収益は, 当期 の損益計算に計上しなければならない」。 (15) このうち 「未払費用」 とは, 「一 定の契約に従い, 継続して役務の提供を受ける場合, 既に提供された役務 に対していまだその対価の支払が終わらないもの」 をいい, 「このような 役務に対する対価は, 時間の経過に伴い既に当期の費用として発生してい るものであるから, これを当期の損益計算に計上するとともに貸借対照表 の負債の部に計上しなければならない」。 (16) この 「未払費用の例としては未払地代・家賃, 未払賃金・給料, 未払利 息などがある。」 (17) のであるが, ここではその計上の考え方を, 従業員に対 して毎月21日から翌月20日までを計算期間とし, 翌月25日に給与を支給 している毎年3月31日を決算日とする株式会社における従業員給与とい う費用項目を例としてみると, 次のとおりである。 すなわち, 当該会社は, 従業員との間の雇用契約に基づき, 従業員から 労務の提供を継続的に受けているのであるが, 3月21日から3月31日 (すなわち決算日) までの期間に対応する給与については, 翌事業年度の 論 説 (15) 経済安定本部・企業会計制度対策調査会 企業会計原則 損益計算書 原則一のA。 なお, 前払費用, 前受収益, 未払費用及び未収収益を総称し て 「経過勘定」 というが, この経過勘定は, 発生主義会計の下で適正な損 益計算を行うために, 収入・支出に関係なく, その期間に属する収益・費 用を認識する必要から, 決算に際して生じる (森田哲彌ほか編 会計学大 辞典 (中央経済社, 第四版, 平成9年) 272頁 倉田三郎 )。 そして, こ の経過勘定 「項目の会計処理の問題から発生主義と呼ばれる会計基準が生 まれてきた」 とされている (黒澤 清ほか 新企業会計原則訳解 (中央経 済社, 昭和50年) 208頁 黒澤 清 )。 (16) 企業会計審議会 企業会計原則注解 注5の(3)。 (17) 神戸大学会計学研究室編 会計学辞典 (同文舘, 第六版, 平成19年) 1127頁 若杉 明 。 佐藤孝一 新会計学 (中央経済社, 22版, 昭和42年) 322頁によれば, 未払費用は, 「地代・家賃・給料・利息等, 一般に後払の 習慣になっている費用項目について多く発生する。」。
4月1日から4月20日までの労務に対応する部分を含めて, 4月25日に 支給されることとなるから, 給与の支給日においてその全額を費用計上す ると, 適正な期間損益計算を歪めることとなる。 そこで, 基本給部分を日 割計算することによって3月21日から3月31日 (すなわち決算日) まで の期間に対応する部分を算定し, その決算日の属する事業年度の損益計算 に未払費用として計上しなければならないこととなるのである。 (18) しかし, 取締役報酬については, たとえ個別具体的な月額報酬額が定款 に定められており, あるいは株主総会で決議されており, かつ, 取締役に 対して従業員給与と同様の計算期間及び支払日に報酬を支給するものとし ている場合であっても, 従業員給与のように日割計算によって未払費用を 計上してその金額を損金算入することは, 少なくとも法人税の課税実務上 は原則として認められないとするのが支配的な見解である。 すなわち, この見解によれば, まず従業員給与については, 雇用契約を 前提に労働基準法上もその労働の対価として, たとえば1日だけの労働の 従事であるとしても当然に賃金を払うべきものとされているから, その事 業年度の損金に算入するその給料の額を日割計算によって算定することは, 当然に認められるとする。 その一方で, 取締役報酬は, 「株主から委任を 受けて包括的に会社の業務を執行することの対価であり, したがって, 勤 務時間, 勤務場所等についても制約がないことからその勤務期間に応じて 支払われる使用人の労働の対価とは基本的に異なるもの」 といえるから, 「特に日割計算の特約がない限り」, 「日割計算による未払給与の計上は認 められない」 とされるのである。 (19) 取 締 役 報 酬 に 関 す る ﹁ 債 務 の 確 定 ﹂ (18) 例えば, 国際会計基準19号 従業員給付 10項参照。 (19) 若林孝三ほか編 実例問答式 役員と使用人の給与・賞与・退職金の 税務 (大蔵財務協会, 平成19年) 120頁。 また, 田口和夫監修・横尾貞昭 編 回答事例による法人税質疑応答集 (大蔵財務協会, 平成10年) 457−
しかしながら, このような見解には疑問を感じざるを得ない。 けだし, 従業員と会社との関係が雇用契約であり, 他方, 取締役と会社 との関係が委任 (または準委任) 契約であることには疑問の余地はない。 しかし, 雇用と委任はいずれも, 請負とともに (あるいは寄託をも含めて) 他人の労務の利用を目的とする労務供給契約であり, 両者を概念的には, 労働行程において労務供給者側が労務受領者側に従属的であるか (雇用の 場合), それとも独立的であるか (委任の場合) という基準で区別するこ とができるとしても, 「実はそれは, ほんらい相対的で程度の差の問題に すぎない, といいうる」 のであって, (20) このような差異が何故に日割計算に よる未払費用計上額の損金性の否定という結論に帰結するのか, 定かでは ない。 委任契約は, 請負契約のように 「当事者の一方がある仕事を完成す ることを約し, 相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを 約することによって, その効力を生ずる。」 (民法632条) ものではなく, かえって 「委任が受任者の責めに帰することができない事由によって履行 の中途で終了したときは, 受任者は, 既にした履行の割合に応じて報酬を 請求することができる。」 (民法648条3項) ものなのである。 また, 上記の見解は一方で, 日割計算特約が存在する場合には未払費用 計上した金額の損金性が認められると解しているようであるが, 取締役報 論 説 458頁, 戸島利夫ほか 税法・商法からみた役員の報酬・賞与・退職金 (税務研究会, 二訂新版, 平成12年) 107頁, 日本公認会計士協会近畿会・ 税務委員会編著 平成3年10月現在 最新税務事例研究 (清文社, 平成3 年) 100頁, 日本税理士会連合会編 役員給与 法人税実務問題シリーズ (中央経済社, 2007年) 61頁はいずれも, 包括的な委任の対価としての取 締役報酬はそもそも日割計算になじまないとして, 日割計算の特約の有無 に言及することなく同様の結論を導いている。 (20) 幾代 通=広中俊雄編 新版 注釈民法(16) 債権(7) (有斐閣, 平成 元年) 1−5 頁 幾代 通 。
酬が包括的かつ独立的な職務執行の対価であることを日割計算による未払 給与計上を否定する根拠にするのであれば, それは, 日割計算によって未 払費用計上した取締役報酬の損金性以前に, 取締役の職務執行の対価とし ての取締役報酬の損金性自体を問題とするのと同義である。 いうまでもな く, 取締役報酬の計算を日割で行ったからといって, その職務執行の対価 たる性格が変化するわけではない。 そうすると, たとえ日割計算特約があっ たとしても, その特約に基づいて算定される金額の損金性が直ちに認めら れることとはならないように思われるが, 今日においても取締役報酬 (す なわち定期同額給与) の損金性は原則として承認されているところである。 これに対し別の見解は, 民法上, 委任契約の受任者は, 原則として委任 事務の履行後でなければの報酬を請求できず, たとえ期間によって報酬を 定めたときであってもその期間経過後にしか報酬を請求できないため (民 法648条2項, 624条2項), 先の設例のように毎月21日から翌月20日まで を取締役報酬の計算期間としている場合であっても, 決算日 (3月31日) 現在では3月21日から決算日までの取締役報酬の請求権 (会社の立場か らすれば, 取締役報酬の支払債務) は確定しておらず, 日割計算による未 払取締役報酬の計上は認められないとする。 一方で, 雇用契約に係る報酬 も委任契約に係る報酬と同様, 原則として約した労働の終了後でなければ 報酬を請求できず, たとえ期間によって報酬を定めたときであってもその 期間経過後にしか報酬を請求できないが (民法624条1, 2 項), 使用人に 対する賃金は就業規則にその決定, 計算及び支払の方法, 締切り及び支払 の時期を定めるべきこととされ (労働基準法89条), 「期間経過分につい て雇用者である法人の債務が成立」 するから, 従業員給与については日割 計算による未払計上が認められるとする (このような見解を, 以下 「債務 未確定説」 という。)。 (21) しかしながら, 雇用契約における使用者側の賃金支払債務は, 有効な雇 取 締 役 報 酬 に 関 す る ﹁ 債 務 の 確 定 ﹂
用契約の締結時に成立すると考えられるから, 債務未確定説のいう債務の 「成立」 とは債務の 「確定」 を意味するものと解されるが, 就業規則に使 用人 (従業員) に対する賃金の決定方法等が定められていると, なぜ使用 者たる会社 (法人) に期間経過分の賃金支払債務が確定しているといえる のか, 不明である。 おそらくこの見解は, 雇用契約に基づく使用人の賃金 が, その支払いについて労働基準法等によって保護されており, (22) したがっ て委任の対価である取締役報酬のそれと比較して確実性があることを課税 上の取扱いに差異が生じる根拠としているものと推察される。 (23) しかし, あ る債務が確定しているかどうかということと, その債務の履行が確実にな されるかどうかということとは, 本来的に関係がないのである。 (24) もっとも, 債務未確定説は, 法人税法が販売費, 一般管理費その他の費 用について採用していると一般に考えられている 「債務確定主義」 (「債務 確定基準」 とも呼称される。) に従い, 日割計算によって未払費用計上さ れる取締役報酬の損金性を債務確定の有無から判断しようとするものであ 論 説 (21) 森田政夫 平成21年10月改訂 問答式法人税事例選集 (清文社, 2009 年) 511頁。 (22) 労働基準法は, 労働者の賃金の全額が確実に労働者の手に渡るように するため, その支払いについて①通貨払の原則, ②直接払の原則, ③全額 払の原則, ④毎月一回以上一定期日払の原則といった種々の原則を定める とともに, それらを監督行政と罰則によって強制していることに加え, 賃 金債権については先取特権 (民法306, 308条) や倒産手続における特別の 地位が与えられており, その保護が図られている (菅野和夫 労働法 (弘文堂, 第9版, 平成22年) 245−252, 263−270頁。 (23) 山口孝浩 「役員賞与・役員報酬を巡る問題―改正商法等の取扱いを問 題提起として―」 税務大学校論叢48号210頁は, 従業員が労働法規や就業 規則で保護されていること等が, 役員給与についての課税上の取扱いを 「考える上での一つの指標といえる」 とする。 (24) 人的役務提供に係る報酬債権の発生と確定の関係について, 菊池 衛 「人的役務所得をめぐる若干の考察」 税務大学校論叢4号297頁を参照。
ると考えられるから, その意味において妥当なものである。 そこで, 以下において, わが国法人税法における債務確定主義の内容を 検討することとする。 三, 債務確定主義の検討 法人税法は, 「内国法人に対して課する各事業年度の所得に対する法人 税の課税標準は, 各事業年度の所得の金額とする。」 (21条) と規定する。 わが国の法人税法における課税標準としては, この 「各事業年度の所得」 のほか, 「各連結事業年度の連結所得」 及び 「各事業年度の退職年金等積 立金」 があるが, 「各事業年度の所得」 は法人税の課税標準として最も重 要かつ基本的なものである。 (25) そこで, 以下において 「法人税の課税標準」 という場合, 特に断りのない限り, 「各事業年度の所得」 を意味するもの とする。 さて, 「各事業年度の所得」 は, 昭和40年における現行法人税法制定に 伴う全文改正前の法人税法 (昭和22年法律28号) (以下 「旧法人税法」 と いう。) においても法人税の課税標準とされていたのであるが, 旧法人税 法9条1項はその算定方法につき, 単に 「内国法人の各事業年度の所得は, 各事業年度の総益金から総損金を控除した金額による。」 と定めるにすぎ ず, 「総益金」 「総損金」 の内容についても法律上明らかにしていなかっ た。 (26) そのため, 旧法人税基本通達 (昭和25年直法 1−100) の51及び52に おいてそれぞれ定義規定が設けられ, 「企業会計における複式簿記による 会計処理を前提としつつ, その他にも数多くの取扱通達を設けることによっ て, 税務計算における益金又は損金の計算を処理することとされてきた」 (27) 取 締 役 報 酬 に 関 す る ﹁ 債 務 の 確 定 ﹂ (25) 金子 宏 租税法 (弘文堂, 第15版, 平成22年) 250頁, 泉美之松 「所得金額計算の通則について」 税経通信20巻11号9頁。 (26) 泉・前掲注(25)・80頁。
のであるが, このことは租税法律主義の観点からも問題の存するところで あって, 「とかく立法論的にも批判の対象になっていた」。 (28) そこで, 現行法 人税法は旧法人税法9条1項を廃して新たに22条をおき, 同条において 次のような通則的な定めを行い, あるいは23条以下において益金の額及 び損金の額についての別段の定めをおくことによって, 「従来に比して, 税法の事業年度の所得の計算に関する態度を法律上明らかにするとともに, 規定の一層の明確化・体系化を図っている」。 (29) すなわち, まず 「内国法人の各事業年度の所得の金額は, 当該事業年度 の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする。」 (22条 1項) と規定し, 内国法人に対する法人税の課税標準たる 「各事業年度の 所得の金額」 は, 「各事業年度の益金の額」 から 「各事業年度の損金の額」 を控除することによって算定されるとしている。 (30) そして, その 「各事業年度の益金の額」 に算入すべき金額は, 「別段の 定めがあるものを除き, 資産の販売, 有償又は無償による資産の譲渡又は 役務の提供, 無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のも のに係る当該事業年度の収益の額とする。」 (同条2項) と規定する。 一方で, 同条3項は, 内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上, 「当該事業年度の損金の額」 に算入すべき金額は, 別段の定めがあるもの を除き, 次に掲げる額であると規定している。 論 説 (27) 泉・前掲注(25)・80頁。 (28) 中川一郎 「新法人税法の研究(2)」 シュトイエル38号18頁。 (29) 泉・前掲注(25)・81頁。 (30) 金子・前掲注(25)・264頁によれば, 同項は, いわゆる損益法によっ て算定される企業会計上の利益と法人税の課税標準たる法人の所得とが基 本的に同義であることを前提としているとする。 また, 忠 佐市 「権利確 定主義からの脱皮」 税経通信20巻11号65頁は, 現行法人税法22条1項の規 定と旧法人税法9条1項の規定とは同一の構想のものであるとする。
「一 当該事業年度の収益に係る売上原価, 完成工事原価その他これらに 準ずる原価の額 二 前号に掲げるもののほか, 当該事業年度の販売費, 一般管理費その 他の費用 (償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務の確 定しないものを除く。) の額 三 当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るもの」 このうち, 22条3項二号に掲げられている 「販売費, 一般管理費その 他の費用」 は, 一号の 「原価の額」 とは異なり, 「当該事業年度の収益に 係る」 という限定が付されていないことからも明らかなように, 企業会計 上, 売上高に対する売上原価のように個別の収益に対応させること (個別 的対応) が困難であるため, その費用が発生した期間の収益に対応させる こと (期間的対応) によって計上される, いわゆる 「期間費用」 である。 (31) さらに, 同条4項は, 同条2項の当該事業年度の収益の額及び3項各号 に掲げる額 (すなわち, 当該事業年度の原価, 費用及び損失の額) は, 「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものと する。」 と規定し, これらの計算についての企業会計への原則的準拠を定 めている (この4項の規定は, 「公正処理基準」 とも呼ばれるが, 現行法 人税法の制定当初は設けられておらず, 税制簡素化の一環として昭和42 年法律21号による税制改正において新たに設けられたものである。 (32) )。 取 締 役 報 酬 に 関 す る ﹁ 債 務 の 確 定 ﹂ (31) 販売費, 一般管理費に属する具体的な費目については, 例えば 財務 諸表等の用語, 様式及び作成方法に関する規則 (昭和38年大蔵省令59号) 84条及び金融庁総務企画局 「 財務諸表等の用語, 様式及び作成方法に関 する規則 の取扱いに関する留意事項について」 (財務諸表等規則ガイド ライン) 84項を参照。 また, 「その他の費用」 には, いわゆる営業外費用 が含まれるとされる (吉牟田勲 「所得計算関係の改正」 税務弘報13巻6号 141頁)。 (32) 同項創設の経緯等については, 税制調査会 「税制簡素化についての第
なお, 上記にいう 「資本等取引」 とは, 法人の資本金等の額の増加また は減少を生ずる取引並びに法人が行う利益または剰余金の分配及び残余財 産の分配または引渡しをいうものとされる (22条5項)。 ところで, 今日における企業会計が継続企業を前提とする帰結として, その要諦は期間損益計算にあると考えられるのと同様, 法人税の課税所得 計算もまた人的に区分された期間 (事業年度) を対象として計算されるも のであるため, ある益金あるいは損金が具体的にはどの事業年度に帰属す るかを決定することが必要不可欠である。 この点, 所得税法 (昭和40年法律33号) 36条1項が 「その年分の各種 所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金 額は, 別段の定めがあるものを除き, その年において収入すべき金額 (金・・・・・・・ 銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもって収入する場合には, その 金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額) とする。」 (傍点筆者) と規定しているのとは異なり, 法人税法上は, 益金の計上時期の判断基準 について一般的な定めを欠いているのであるが, 所得税法と同様, いわゆ る 「権利確定主義」 が採用されていると一般に解されてきた。 (33) この権利確 論 説 一次答申」 (昭和41年12月), 河井信雄 「法人税法上の会計処理基準の創設」 経済論叢103巻2号187頁, 金子・前掲注(25)・272頁以下, 同 「公正妥当 な会計処理の基準 (法人税法22条4項) について」 租税研究707号5頁な どを参照。 (33) 渡辺伸平 税法上の所得をめぐる諸問題 司法研究報告書19輯1号59− 60頁, 金子・前掲注(25)・241, 276−277頁。 最判昭和40年9月8日刑集 19巻6号630頁が, 所得税法にいう 「収入すべき金額とは, 収入すべき権 利の確定した金額をいい, その確定の時期は, いわゆる事業所得にかかる 売買代金債権については, 法律上これを行使することができるようになっ たときと解するのが相当である。」 と判示するにおよび, 「権利確定主義は 判例上確立した原則となった。」 (中里 実 「判批」 法学協会雑誌96巻11号 1487頁)。 これに対し, 法人税法上の益金の計上時期に関する一般的な見
定主義とは, 「収入 (収益) の計上時期 (帰属時期) を, 現金等で現実に 収入 (収受) したときだけでなく, その収入する権利が確定したときをもっ て判定しようとする主義, つまり収入する権利の確定した時期を基準とし て, 具体的な収入の計上時期を判断して, 収入の年度帰属を決定していこ うとする主義であって, それはいわゆる現金主義に対応する発生主義の一 態様であるというふうに一応理解されている」 (34) が, 「権利確定主義が, 従 来, 判例・学説の支持を受けてきたのは, 権利の確定 という法的な基 準が具体的な問題の解決のための明確な指針を与えることができ, また租 税法律関係における法的安定性の要請に合致すると考えられたためであろ う」 (35) とされる。 (36) 取 締 役 報 酬 に 関 す る ﹁ 債 務 の 確 定 ﹂ 解については, 経済安定本部・企業会計審議会中間報告 「税法と企業会計 原則との調整に関する意見書」 (昭和27年6月16日) 「総論」 「第一」 の 「一」, 税制調査会 「所得税法及び法人税法の整備に関する答申」 (昭和38 年12月) 「第2」 の 「4 所得の発生時期」, 東京高判昭和48年8月31日行裁 例集24巻 8=9 号846頁などを参照。 権利確定主義について盛んに論議されるようになり出したのは, 上記の 企業会計審議会中間報告が税法上の権利確定という基準を企業会計の立場 から批評して以来のこととされるが (清永敬次 「権利確定主義の内容」 税 経通信20巻11号91頁), 租税法上, 権利確定主義が採用されているという 一般的理解にもかかわらず, その法人税法上の妥当性について学説は, 大 別して肯定説と否定説とに見解が分かれる上, それらを詳細までみた場合 には複雑多岐をきわめている (川端康之 「法人税法における収益の計上時 期」 総合税制研究5号74頁)。 なお, 権利確定主義をめぐる学説の分類に ついては, 植松守雄 「収入金額 (収益) の計上時期に関する問題」 租税法 研究8号30頁を参照。 (34) 吉良 実 「詐欺等の犯罪による被害損失の損金算入」 シュトイエル186 号13頁。 神戸大学会計学研究室編・前掲注(17)・983頁 古賀智敏 は, 「発生主義は, 歴史的には現金主義から半発生主義 (権利確定主義) を経 て進化し, 発展してきたものと考えられる。」 とする。 (35) 金子 宏 「総論―権利確定主義は破綻したか―」 日税研論集22号5頁 (金子 宏 所得概念の研究 所得課税の基礎理論上巻 (有斐閣, 1995年)
これに対し, 益金からの控除項目である損金の計上時期については, 益 金の場合とは異なり, 少なくとも 「販売費, 一般管理費その他の費用のう ち償却費以外の費用」 に対しては 「債務の確定」 を明文で要求している (22条3項二号)。 (37) そして, この債務の確定を損金算入時期の判断基準と する考え方を一般に 「債務確定主義」 と呼んでいる。 債務確定主義は, 「費用の面における権利確定主義の別名である」 (38) とさ 論 説 282頁以下所収)。 (36) もっとも, 権利確定主義の 「具体的適用は, かなり弾力性をもち, 経 済の実態及び企業会計の進展に伴った期間的損益決定についての一つの体 系が形成されている。」 (田中二郎 租税法 法律学全集11 (有斐閣, 昭和 43年) 416頁。 (37) 法文上は販売費, 一般管理費その他の費用についてのみ 「債務の確定」 が要求されているが, 東京地判昭和52年3月9日税資91号354頁は, 債務 確定主義を規定する法人税法22条3項二号の 「規定は必ずしも同号のみに おける特別の要件と解すべき根拠はなく, むしろ右規定は費用面における 権利確定主義を表明したものとみるべきであって, したがって同条項三号 における損失についても, その確定の概念と要件について他の損金と区別 すべき理由は認められないというべきである」 とし, 損失についても債務 確定主義に基づいて損金の帰属事業年度が判断されるとする。 また, 武田 昌輔 新版税務会計通論 (森山書店, 昭和47年) 52頁は, 「売上原価, 完 成工事原価がもともと費用の集計によって行われるものであるから, これ らの費用も債務が確定することが必要である。」 とする。 しかしながら, 最判平成16年10月29日刑集58巻7号697頁は, 近い将来に上記費用を支出 することが相当程度の確実性をもって見込まれており, かつ,同日の現況 によりその金額を適正に見積もることが可能であったとみることができる ような事情がある場合には,当該事業年度終了の日までに当該費用に係る 債務が確定していないときであっても,その見積金額を法人税法22条3項 一号にいう 「当該事業年度の収益に係る売上原価」 の額として当該事業年 度の損金の額に算入することができると解するのが相当であると判示した。 (38) 吉良 実 「所得の期間帰属の判定」 北野弘久編 判例研究日本税法体 系1 税法の基本原理 (学陽書房, 昭和53年) 307頁。 同旨, 田中・前掲 注(36)・417頁。
れるが, 法人税法22条3項二号が, いわゆる期間費用のうち 「当該事業 年度終了の日までに債務の確定しないもの」 を当該事業年度の損金の額か ら除外しているのは, 立案当局者の説明によれば, 「法人が未だ確定して いない費用を任意に見積った場合に, その金額が所得計算上損金の額とさ れないことを明らかにしたものであって, 法人税法上定める引当金のほか は, 引当金, 見越費用は一切損金算入を認めず, 外部取引により確定した と認められる費用のみを損金の額と認める趣旨」 であり, 「減価償却費は, 外部取引でなく債務の確定という問題が生じないから除外している」 とさ れる。 (39) これに対して学説上は, 「債務として確定していない費用は, その発生 の見込みとその金額が明確でないため, これを費用に算入することを認め ると, 所得金額の計算が不正確になり, また所得の金額が不当に減少する おそれがあるという理由からである。」 (40) とし, あるいは 「その収益に関し て将来生ずることが見越される費用, いわゆる見越し費用のごときものは, 特別の規定がない限り損金の額に算入しないことを明らかにしているとと もに, すでに用役の提供は受けたが, いまだその支払債務の確定しない未 払費用のごときものも, 販売費, 一般管理費等に属するものである限りは, むしろその債務の確定の日をもつて損金計上を行うべしとしているものと 考えられる。」 (41) と論じられている。 取 締 役 報 酬 に 関 す る ﹁ 債 務 の 確 定 ﹂ (39) 吉牟田・前掲注(31)・141頁。 同旨, 松橋行雄 「税法における債務確 定基準と引当金制度」 産業経理31巻11号75頁。 武田昌輔編著 DHC コン メンタール法人税法 第2巻 (第一法規, 加除式, 昭和54年) 1123頁で は, 償却費以外の費用について 「債務の確定」 しているものに限って費用 として損金の額に算入するという制限を設けた趣旨は, 「結局, 主として 引当金を認めない趣旨であると考えられる。」 とする。 (40) 金子・前掲注(25)・269頁。 (41) 吉国二郎 法人税法 (財経詳報社, 第2版, 昭和40年) 229頁。
このように, 同号の立法趣旨をめぐる論者の理解には微妙な差異が生じ ており, (42) その原因はつまるところ 「債務の確定」 の意義をいかに解するか にあると考えられるが, 「債務の確定の意味は必ずしも明らかではない」。 (43) この点につき立案当局者は, 「 債務の確定 というのは, 原則としては・・・・・・ 債務の金額まで確定していると解すべきである」 (傍点筆者) (44) として原則 的な考え方であると述べつつ, 「実際問題としては, 既に用役の提供を受 け, その対価として債務があることはハッキリしているが, その金額が固 まらない, しかし, その金額は適確に推定することができるといった場合 に, 費用として認めるかどうか, 実務上考慮すべき問題があろう。」 (45) とし て, その解釈に含みを持たせている。 また, このような立案当局者の見解を反映して, (46) 法人税基本通達 2−2− 12は, 償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務が確定して いるものとは, 別に定めるものを除き, ①当該事業年度終了の日までに当 該費用に係る債務が成立していること (以下 「債務成立要件」), ②当該事 業年度終了の日までに当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因とな 論 説 (42) 債務確定主義に関する学説の分類については, 深澤邦光 「法人税法第 22条3項をめぐる一考察―債務確定基準を中心として―」 税大研究資料 147号54−62頁を参照。 (43) 清永敬次 税法 (ミネルヴァ書房, 第5版, 1998年) 106頁。 (44) 泉・前掲注(25)・86頁。 同旨, 吉牟田・前掲注(31)・141頁。 (45) 泉・前掲注(25)・86頁。 (46) 国税庁法人税課長濱田明正監修・渡辺淑夫=田中 豊 コンメンター ル法人税基本通達 (税務研究会, 改訂第八版, 平成4年) 95頁では, 法 人税法22条3項二号が 「償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに 債務の確定しないものを除く」 と規定しているのは, 「税法では, 課税の 公平を図るという見地から, 所得計算は可能な限り客観的に覚知し得る事 実関係に基づいて行われるべきであるという考え方が強く, このために, とかく企業の恣意性が入り込みやすい費用の見越計上や引当金の設定は, 原則としてこれを認めないという立場」 に基づくものであるとする。
る事実が発生していること (以下 「具体的給付原因事実発生要件」), ③当 該事業年度終了の日までにその金額を合理的に算定することができるもの であること (以下 「金額の合理的算定可能性要件」), という三つの要件の すべてに該当するものとしている。 さらに判例にも, 債務の確定の意義について, 「債務が確定していると いえるためには, 当該事業年度終了の日までに当該費用に係る債務が成立 し, かつ, 当該債務に基づいて具体的な給付をなすべき原因となる事実が 発生し, しかも, その金額を合理的に算定することができるものでなけれ ばならないと解するのが相当である」 (47) として, 上記のような立案当局者及 び法人税基本通達と同様の見解をとるものも存在する。 しかしながら, 「租税法は, 国民の納税義務を定める法であり, その意 味で国民の財産権への侵害を根拠づける, いわゆる侵害規範 (Eingriffs-norm)」(48) であり, 「法的安定性の要請が強くはたらくから, その解釈にあ たっては原則として文理解釈によるべきであり, みだりに拡張解釈や類推 解釈を行うことは許されない。」 (49) と解されているところ, 上記のような 「原則としては債務の金額まで確定していると解すべきである」 とする立 案当局者の解釈を 「債務の確定」 という文言の文理解釈から導くことは困 難である。 その上, このような解釈では 「債務の確定・不確定の限界が不 明確になる」 ことにより, 損金の帰属事業年度が不明確となり, ひいては 「所得の金額の計算に, 直接影響を及ぼす」 結果となってしまうのであっ て, その意義を 「解釈論上明確にしておかなければならない。」 のであ 取 締 役 報 酬 に 関 す る ﹁ 債 務 の 確 定 ﹂ (47) 千葉地判平成3年7月31日税資186号392頁。 (48) 金子・前掲注(25)・29頁。 (49) 金子・前掲注(25)・106頁。 同旨, 中川一郎編 税法学体系 (ぎょう せい, 全訂増補版, 1977年) 61−62頁 中川一郎 , 清永・前掲注(43)・ 36頁, 北野弘久 税法学の基本問題 (成文堂, 昭和47年) 32頁。
る。 (50) もっとも, 「債務の確定」 の意義について租税法上に明文の規定はない ばかりか, 民法上もこのような用語は存在しない。 また 「債務」 について も租税法上, 特段の規定がないから, 結局のところ, 民法上の 「債務」 の 借用概念であると考えざるを得ないのであるが, 法人税法22条3項二号 では 「費用の額が問題なのであるから, ここにいう 債務 とは, 金銭債 務に限定されていることは明白である。 金銭債務の確定というがためには, まず金銭債務が発生していなければならない。 金銭債務が発生するために は, かかる法律効果の発生原因たる法律要件が存在しなければならない。 すなわち, 契約, 単独行為, 合同行為, 不法行為, 債務不履行, 不当利得, 事務管理等が存在しなければならない。」 (51) と考えられる。 したがって, 債 務が確定しているというためには, まず, これらの法律要件に基づいて当 該事業年度終了の日までに債務が有効に成立している必要があることとな るが, これは法人税基本通達 2−2−12が三要件の一つとして 「債務成立 要件」 を掲げているのと同様である。 そうすると問題は, 成立している債務が 「確定」 した状態とは果たして どのような状態をいうかにある。 「権利確定主義 (ここでは債務確定主義 を含む。 筆者) なるものの機能的意義は単に法律上の債権・債務に限られ ず, 広く税法上の損益発生原由のすべてに亘って存すべきものともみられ, かつその本来の特質はその 確定 概念の法学的意義にこそある」 (52) と論じ られるところである。 しかし, それにもかかわらず, 権利確定主義における 「確定」 時点には いろいろな段階がありえ, その意味において権利確定主義が唯一つの時点 論 説 (50) 中川一郎 「新法人税法の研究(3)」 シュトイエル39号29頁。 (51) 中川・前掲注(50)・29頁。 (52) 渡辺・前掲注(33)・60−61頁。
を提供するものではないのと同様, (53) 債務確定主義における 「確定」 時点を 一義的に決定することは困難であり, 個別的な事案ごとに判断する必要が あると思われる。 すなわち, 「会計学上の収益計上時期に関する原則を, 租税法 (ないし租税会計法) の見地から見なおして (review), 所得類型 あるいは取引類型ごとの具体的な事情に応じた適切な解決をはかる租税法 独自のリーガル・テストが 権利確定主義 」 であり, このことは 「費用 等の控除項目の計上時期 (及び, その基準である債務確定主義) について も同様」 であると考えられるから, (54) 取引類型ごとの個別具体的な検討が必 要となるのである。 ただし, 少なくとも 「確定」 とは立案当局者が原則であるとするような 「金額の確定」 を意味するのではなく, 債務の金額については合理的に算 定可能な状態であれば足りると解するべきである。 けだし, 法人税の課税所得計算は, 一般に公正妥当と認められる会計処 理の基準に従って計算された収益及び費用等を基礎として行われるのであ るが (法人税法22条4項), (55) この企業会計においては見積もりの要素が不 可避的に生じ, 恣意性を完全に排除することは困難である。 とりわけ引当 取 締 役 報 酬 に 関 す る ﹁ 債 務 の 確 定 ﹂ (53) 清永・前掲注(33)・95頁。 田中 治 「税法における所得の年度帰属」 大阪府立大學經濟研究32巻2号162頁は, 「権利確定主義といっても, 権利 の確定時期がいつかということについての明確な基準はなく, また権利確 定主義の妥当する範囲についても明らかではない。」 とする。 (54) 中里・前掲注(33)・1490頁。 判例が説く 「権利確定主義」 は必ずしも 統一的なものではないが, それは裁判所が 「権利確定主義という包括的名 称を用いて, 個々の事案の具体的な事情に応じた妥当な解決をはかってい る」 からであるとされる (中里・前掲注(33)・1489−1490頁)。 (55) 中里 実 「企業課税における課税所得算定の法的構造 (5・完)」 法学 協会雑誌100巻9号1551頁は, 法人税法 「22条4項は租税法上別段の規定 がない限り企業会計の方法を尊重しようという趣旨の規定であると考えら れる」 と論ずる。
金については, 「将来の特定の費用又は損失であって, その発生が当期以 前の事業に起因し, 発生の可能性が高く, かつ, その金額を合理的に見積 ることができる場合」 (56) に計上されるものである上, 多くの場合, 比較的長 期間の見積りを行う必要があるため, ある事業年度における計上額の 「正 確性」 (適正性ではない。) を確証することができない。 (57) しかし, 租税にお いては, 課税の公平性が重視されねばならないから, 不確実な見積もりの 要素の介入を極力排除する必要があるため, 権利確定主義あるいは債務確 定主義を採用し, あるいは別段の定めをおいているものと考えられる。 (58) そ うすると, 確実性に乏しい引当金への繰入額のような費用については格別, 例えば事業年度終了後ではあっても, 申告期限の到来までの間に現実の支 出が生じ, したがって恣意性を介入させる余地が無く事業年度の帰属額を 算定しうるような経過勘定項目について, その支払期限の到来時まで損金 計上を認めない理由はないのである。 論 説 (56) 企業会計原則注解 注(18), 会社計算規則 (平成18年法務省令13号) 6条2項一号参照。 (57) 例えば, 退職給付引当金について, 江頭憲治郎=弥永真生 会社法コ ンメンタール10 計算等(1) (商事法務, 2011年) 102頁 尾崎安央 では, 「 見積り 割引率 予想される退職時 など合理的であるとはいえ 不 確実性 が前提となった会計処理」 であるとされている。 (58) 税制調査会・法人課税小委員会 「法人課税小委員会報告」 (平成8年 11月) 40頁では, 「近年の国際的な会計基準の動向をみると, 費用収益対 応の考え方に立って企業の財政状態や経営成績を測定・開示する方法から 決算期末の資産・負債の金額を確定することによってこれらを測定・開示 する方法に比重が移ってきている。」 とし, 「この方法によれば, 従来以上 に資産・負債を確定するために見積りの要素が増え, また, 長期の潜在的 な債務についてもできる限り財務諸表に計上することが求められることに なる」 が, 「こうした情報開示のための企業会計上の要請と, 公平性, 明 確性という課税上の要請には違いがあるので, 税制が企業会計上の処理に 合わせることには限界がある」 と論じていた。
したがって, 法人税基本通達 2−2−12においては, 第三要件として 「当該事業年度終了の日までにその金額を合理的に算定することができる ものであること (金額の合理的算定可能性要件)」 があげられているので あるが, 以上の検討からは 「当該事業年度終了の日まで」 ではなく, 「申 告期限までにその事業年度の帰属額を合理的に算定可能」 であれば良く, ただ, 恣意的な計上を排除する必要があるから, その債務についての支出 (弁済) の確実性は問題となろう。 しかし, 支出 (弁済) 自体は基本的に将来事象であって, 特段の事情が ない限り, 確実であることを一応の前提とするべきであるから, 結局のと ころ, 単なる計算技術上の問題ではなく, 「まさにその事業年度に発生し ている」 といい得るかどうかこそが, 取引類型ごとに 「債務の確定」 を判 断する場合において重要な基準になると考えられる。 そして, 法人税基本 通達 2−2−12における三要件のうちで残された具体的給付原因事実発生 要件は, この意味において捉えられるべきなのである。 (59) そこで次項では, 以上を下に, 本稿が主題とする 「取締役報酬」 につい ての未払費用計上額の損金性を検討することとする。 取 締 役 報 酬 に 関 す る ﹁ 債 務 の 確 定 ﹂ (59) 中川・前掲注(50)・30頁は, 契約あるいは民法その他の法律の補充規 定によって定められた給付の確定標準によって給付を確定することが 「給 付の確定」 であり, これが 「債務の確定」 であると説く。 また, 金子・前 掲注(25)・285頁は, 「債務の確定」 については 「債務の発生が確実であり, かつその金額が確認できることを意味するものと解し, このような要件が みたされる限り, 費用の見越は許される, と解しておきたい。」 とし, 中 里・前掲注(55)・1586頁はこの主張に賛意を表している。 その射程は必ず しも明らかではないが, 昨今の引当金の設定における不確実性の存在をみ るに (前掲注(57)参照), 容易には賛同し得ない。
四, 有償委任契約たる取締役任用契約における 「債務の確定」 前述のように, 取締役と会社との関係は委任であり, しかも実際上は有 償であることがほとんどであるが, 「有償たると無償たるとを問わず, そ の法律効果に差異がないところに委任の特色がある」。 (60) このような有償委 任契約において会社が取締役に対して有する報酬支払債務は, いったいど のようにして確定するのであろうか。 さて, 取締役報酬については, 旧商法下から今日まで, 特別の規制に服 してきた。 すなわち, 旧商法269条は, 取締役報酬を定款に定めないときは株主総 会の決議をもって定めなければならないものとし, 会社法361条も同様の 規制を行ってきた。 そして, その趣旨は一般に, 取締役報酬の決定につい ては, 本来は業務執行行為であるが, 会社と取締役との利害が対立しがち な事項であり, 取締役会や代表取締役がこれを自由に決定しうるとすると, いわゆる 「お手盛り」 の弊害が生じるおそれがあるので, 何らかの法的規 制が必要であるところ, わが国の会社法は主として手続的規制によりその 弊害防止を図ってきたものであると説かれてきた。 (61) したがって, 報酬額の 論 説 (60) 幾代=広中編・前掲注(20)・208頁 明石三郎 。 最判平成17年2月15 日判タ1174号135頁は, 「取締役ないし取締役会によるいわゆるお手盛りの 弊害を防止し, (中略), 役員報酬の額の決定を株主の自主的な判断にゆだ ねるところにあると解される。」 とする。 (61) 上柳ほか編・前掲注(2)・386頁 浜田 , 大隅=今井・前掲注(2)・ 149頁, 龍田 節 会社法大要 (有斐閣, 2007年) 86−87頁。 このような 通説的見解に対し, 山口幸五郎 会社取締役制度の法的構造 (成文堂, 昭和48年) 77−78頁は, 本来は取締役の職務は無償であり, 会社は取締役 に報酬を付与しえないのが建前であり, 報酬付与は会社の代表機関の権限 外なのが本則であるが, 定款規定または総会決議によって会社の代表機関 に報酬付与の授権をなすと同時に, 取締役に対しては忠実義務の免除また
妥当性の判断は株主の自治に委ねられている。 (62) そして, 通説・判例は, 前述のように取締役の任用契約は実質的には有 償であるのが原則であると解してきたのであるが, この立場においても, 定款規定または株主総会決議がない限り, 取締役には具体的な報酬請求権 は生じないものと解しているから, (63) 無償を原則と解する立場と結論におい てはほとんど異ならないこととなる。 (64) また, このように解する反面, 判例は, 「定款又は株主総会の決議 (株 主総会において取締役報酬の総額を定め, 取締役会において各取締役に対 する配分を決議した場合を含む。) によって取締役の報酬額が具体的に定 められた場合には, その報酬額は, 会社と取締役間の契約内容となり, 契 約当事者である会社と取締役の双方を拘束するから, その後株主総会が当 該取締役の報酬につきこれを無報酬とする旨の決議をしたとしても, 当該 取締役は, これに同意しない限り, 右報酬の請求権を失うものではないと 解するのが相当である。 この理は, 取締役の職務内容に著しい変更があり, それを前提に右株主総会決議がされた場合であっても異ならない。」 (65) とし 取 締 役 報 酬 に 関 す る ﹁ 債 務 の 確 定 ﹂ は忠実義務違反の責任解除の意味をもつものと解されると論じている。 (62) 龍田・前掲注(61)・87頁。 もっともその反面, 「総会は単に報酬を与 える旨を定めるだけでは足りず, またその額を取締役会に一任することも 許されないが, その総額または最高額を定めて具体的決定と配分をのみ取 締役会に一任することは妨げない」 (加藤・前掲注(3)・141頁)。 (63) 上柳ほか編・前掲注(2)・386−387頁 浜田 , 味村=品川・前掲注 (8)・32−33頁。 最判平成15年2月21日金判1180号29頁は, 「株式会社の 取締役については, 定款又は株主総会の決議によって報酬の金額が定めら れなければ, 具体的な報酬請求権は発生せず, 取締役が会社に対して報酬 を請求することはできないというべきである。」 と判示する。 (64) 上柳ほか編・前掲注(2)・388頁。 (65) 最判平成4年12月18日民集46巻9号3006頁。 この判旨に賛意を示すも のとして, 小塚荘一郎 「判批」 法学協会雑誌111巻1号131頁。 木俣・前掲 注(7)・7頁は, 本判決により会社法361条が取締役報酬の額をも決定す
ている。 しかしながら, このような取締役の報酬請求権につき定款規定または株 主総会決議を優先させる理解を一因として, 「小規模会社や同族会社にお ける多数派株主でもあるワンマン社長, 取締役らが, 気に入らない他の役 員や少数派の役員を抑圧・冷遇する意図で, その報酬・退職慰労金の支給 につき, 株主総会決議がないことを理由に支給を中止したり, 株主総会決 議を行ったにしても, その地位を利用して不支給・減額の決議を行う」 と いう実務が急増し, もって 「当然受け取れると役員が期待していた報酬を 受け取れないという自体が深刻化してきている。」 のである。 (66) 思うに, 取締役の職務の専門性, 高度性及びその責任の重大性に鑑みれ ば, 取締役の任用契約は原則として (取締役の同意がない限り) 有償であ るとともに, 取締役は会社との任用契約締結によって抽象的な報酬請求権 を取得し, 定款の規定または株主総会決議がない場合であっても, この抽 象的な報酬請求権に基づいて, 会社に対して報酬を定めるべき株主総会決 議を求めることができると解すべきである。 (67) そして, このように取締役任 論 説 る強行規定として会社と取締役との合意の拘束力を制限する効果を持つと いうこととなったと論じる。 (66) 木俣・前掲注(7)・2−3 頁。 (67) 川島いづみ 「取締役報酬の減額, 無償化, 不支給をめぐる問題」 判タ 772号78頁。 同旨, 押木由之 「取締役報酬の減額, 不支給について」 東北 学院大学論集 (法律学) 45号10頁, 藤原俊雄 「取締役報酬・退職慰労金不 支給をめぐる問題」 判タ1325号24頁。 これに対し, 弥永真生 「取締役の報 酬の減額・不支給に関する一考察」 筑波法政16号53−54頁は, 「具体的な 報酬請求権は報酬額を定款または株主総会で定めないかぎり発生しない」 が, 「会社の経済状態および取締役の職務内容からみて不当に低額な報酬 が任用契約成立後に定められた場合または無報酬とされた場合には, 取締 役は不当利得 (民法703条) の規程により, 適正な報酬額と実際に受け取っ た報酬額との差額を請求できる」 と論じる。
用契約が有償委任契約であると解すると, それは双務契約となるから, 「委任事務の処理と報酬の支払とは同時履行関係に立つ」 こととなる。 (68) ただし, 期間によって報酬を定めたときは, その期間を経過した後に, 請求することができるとされており (民法648条2項, 624条2項), 取締 役の報酬についても多くの場合, 月額で定められているから, 双務契約一 般に適用される同時履行の抗弁 (民法533条) は, 雇用契約の場合と同様 に排除されていることが問題となる。 しかし, 雇用契約における報酬の支払時期について規定する民法624条 は, 「そもそも, 事の性質上, 労務の供給と報酬支払とを同時履行で処理 するということは事実上きわめて困難であり, 当事者いずれかの債務を先 履行とせざるをえない」 ところ, 民法の立案者が外国の立法例やわが国の 従来の慣習等を考えた場合, 「別段の取りきめがなければ労務の先履行つ まり報酬の後払と推定することが妥当だと考えた」 ために設けられた規定 にすぎない。 (69) すなわち, 雇用契約において, 本来的に労務の提供と報酬の 支払いとは同時履行の関係にあるが, 実際上の必要から抗弁権が排除され ているにすぎないのであり, 当事者双方の責めに帰すべからざる事由によっ て労務供給が中途で止んだ場合であっても, 双務契約の一方当事者が契約 に従った労務提供という債務を履行した以上, すでに履行した割合に応じ て報酬を請求しうると解されるのである。 (70) このことは, 民法624条2項を準用し, かつ, 受任者の割合的報酬請求 権 (民法648条3項) を定める委任契約についても同様に解すべきであっ て, (71) そうすると, 期間によって取締役の報酬が定められている場合であっ 取 締 役 報 酬 に 関 す る ﹁ 債 務 の 確 定 ﹂ (68) 幾代=広中編・前掲注(20)・208, 258頁 明石三郎 。 (69) 幾代=広中編・前掲注(20)・56−57頁 幾代 。 (70) 我妻 榮 債権各論 中巻二 (岩波書店, 昭和37年) 580頁, 幾代=広 中編・前掲注(20)・58頁 幾代 。
ても, 「たとえば, 役員報酬を毎月末日にその月分を支払うとする定めで あれば, 役員の職務執行期間中, 毎日, 具体的な一日分の役員報酬請求権 が発生し, その支払は一月分をとりまとめて月末に行うものと観念され る。」 (72) 。 換言すれば, 取締役の日々の職務執行によって, その範囲において 会社の取締役に対する報酬支払債務が確定していくと解されるのである。 「発生主義的会計処理を建前とする場合」 の損益発生時期について, 売買・ 交換・賃貸借・有償寄託・有償委任・請負・雇用等といった双務有償契約 の場合, 「損益発生時期つまり権利確定時期は, 原則として契約当事者の 一方が相手方の同時履行の抗弁権を喪失せしめる程度に, その債務の履行 または履行の提供をなしたとき, と解すべきである。」 とする見解は, (73) こ れまで述べたところと基本的には同様の趣旨のものと考えられる。 (74) 論 説 (71) この点につき, 幾代=広中編・前掲注(20)・260頁 明石 は, 「割合 報酬は委任の性質に適合する。」 としながらも 「ただし, 委任にも雇傭型 委任 (たとえば私立学校長や会社の重役) や請負型の委任 (たとえば不動 産仲介業者) があり, 前者は期間報酬, 後者は仕事完成を条件とする一時 的報酬を生ずるもので, 割合報酬には適しないといえよう。」 と論じてお り, このような見解が課税実務上の支配的見解 (前掲注(19)参照) の基礎 となっている可能性もあるが, 賛同し得ない。 (72) 味村=品川・前掲注(8)・36頁。 なお, 取締役の労働者 (従業員) 性 について, 下田敦史 「 労働者 性の判断基準―取締役の 労働者 性に ついて―」 判タ1212号34頁。 (73) 渡辺・前掲注(33)・68−70頁。 なお, 「発生主義的会計処理を建前と する場合」 とは, 法人税法上の普通法人の所得などを算定する場合のよう に, 「おおむね所得源泉が会計上のいわゆる継続企業に該当する場合を指 すものと理解してよ」 いとする (渡辺・前掲注(33)・68頁)。 (74) 渡辺・前掲注(33)・75−76頁では, 「債務の確定」 という場合の 「確 定の意味は, 権利確定主義 (ここでは, 債務確定主義も含まれている。 筆 者) における 確定 概念の一環として, 特にその機能的意義に着目し, 実質的に理解することが重要」 であり, 「損費としての債務の発生原由に したがって, ある程度多様な解釈が試みられなければならない。」 とする。
以上のとおり, 取締役は会社との任用契約締結によって抽象的な報酬請 求権を取得し, 定款の規定または株主総会決議がない場合でさえ, 抽象的 な報酬請求権に基づいて, 会社に対して報酬を定めるべき株主総会決議を 求めることができると解すべきであるから, 本稿が考察する, 取締役報酬 額について個別具体的な定款規定があり, または株主総会決議が行われて いるような場合には, 取締役の報酬請求権はすでに具体的に成立している ため, より強固な権利であると考えねばならない。 取締役の任期のうちす でに経過した期間の報酬に関しては, 大判昭和7年6月10日民集11巻13 号1365頁以来, 「裁判所は一貫して会社がそれを遡って一方的に減額する ことを否定しており, その結論に異論があるとは思われない。」 が, その 「理由は, 報酬額に関する会社と取締役との間の合意の拘束力だけに求め られるべきではなく, その報酬を対価とする職務がすでに遂行されており, 取締役は所定の額の報酬に対する請求権をまさに既得権として有している ことに求められるべき」 とされているところである。 (75) したがって, 少なくとも, 取締役報酬額について個別具体的な定款規定 があり, あるいは株主総会で決議されており, かつ, 従業員給与と同様の 計算期間及び支払日としている場合, 取締役による職務執行が行われてい る限り, 会社の報酬支払債務は時間の経過に応じて確定していくと解され るのである。 そして, このように解すると, 取締役報酬について未払費用 として計上した額は 「まさにその事業年度に発生している」 費用であるこ とを意味すると同時に, 法人税法上, 債務が確定した費用であるといい得 取 締 役 報 酬 に 関 す る ﹁ 債 務 の 確 定 ﹂ また, 収入の帰属時期に関する 「無条件請求権説」 (双務契約の一方当事 者の義務の履行による他方当事者の同時履行の抗弁権の喪失時に, 所得が 実現するという考え方) も, 同様の考え方に基づくものと思われるが, 「年度帰属について一般的に妥当する理論といえるかどうかは問題」 であ るとされる (金子・前掲注(35)・18頁)。 (75) 鳥山恭一 「判批」 早稲田法学72巻2号489頁。