財政社会学とは何か?
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(2) ヨ百. 社会学の基本的な課題について考えたい.この 立論はふたつの問いを呼び覚ます.ひとつは国. した動きは顕著になる.その中心となったのが Gold●chei〔fやS己humpeterの提唱する財政社会. 家それ自体の捉え方の問題であり,いまひとつ. 学である.. は国家に租税という限定を添えることの意味で. 以上の問題意識は,多くの研究者によってわ. ある.まずは,わが国における伝統的な財政学. が国にも紹介されてきたが(大内[1927 =1974]2). の国家観との対比を行いながら前者の問題を検. 永田[1937]大畑[1939]など),一部の重i要な. 討しておこう.. 例外を除き,今日にいたるまでその方法化ほと. わが国の財政学が,学説史的にドイツ財政学. んど等閑に付されてきたといってよい3).こう. の影響を強く受けできた点は,広く知られてい. した状況にあって,一方では,新古典派財政論. る.ドイッ財政学はいわゆる官房学の流れを. 批判としてのドイッ財政学の意義を再評価し,. 汲み,王室の家計をいかに充実させるかという. 他方では,SchumpeterやD. BcHによって提示. 観点から収入調達のための技術論,原則論とし. ・されたマクロ社会学的な観点を取り入れなが. て発展してきた経緯がある.三巨星と称され. ら,総合社会科学としての財政学の確立を目指. るStein, Sch註ffie, Wagnerによってその学問. す動きが出てくる.神野直彦の財政社会学アプ. としての体系が完成された一方,このような体. ローチがそれである(神野[1998]’[2007]).. 系性を極端に重んじる・ドイツ財政学の伝統に対. 神野は,財政が市場社会を前提として成立し. して,社会的な諸現象とのかかわりから財政を. た経緯を踏まえ,公共経済ないし国家経済の有. 理解するだけではなく,財政現象を規定する権. する市場経済に対する独自性に関する規定(「公. 力組織と政治理念,これらと社会の動態との. 共部門の経済」)と,統治行為は貨幣を媒介とせ. かかわりをより重視すべきだとの批判が出てく. ざるを得ないという財政の歴史性に関する規定. る(永田[1937]).とりわけ,歴史学派の流れ. (「貨幣による統治」)とによって財政の性格づけ. を汲むドイッ財政学の政策的な無力さが問題と. を行う.いわば,市場経済の成立と対をなすか. された第一次世界大戦後の荒廃のさなか,そう. たちで近代財政の発生過程を定式化したわけで. 1)もちろんGeldSCheidの議論を拠り所として財 政分析をおこなうことも可能である.しかしなが ら,1980年代以降,国家の自律性とその能力を規 定する制度の役割を強調したNew桓s目加廿ona眼sm が社会科学の諸領域で定着した現状を踏まえ,階 級国家観を批判し,諸集団の利害関係をより強調 したSchumpeterの問題提起をここでは議論の素. 政治と社会をそれぞれ媒介する財政の役割に着. あるがt神野は,さらに進めて,政治と経済,. 材とする.SchumpeterとGoldscheidの財政社会. 目しながら,政治,経済,社会のサプシステム からなるトータルとしての社会4}の動態を把握. する必要性を指摘する.このように,市場経済 との対比で財政の本質をあぶりだし,同時に財. 政を起点として社会のマクロ的な変容を解き明. 学の比較については大島・井手[2006]’MUSgrave. [1992]が簡便である坑近刊の大島[MIMEO] で詳細な学説史的整理が行われている.また, 石[2008]を参照されたい、なおマルクス主義財. 3)加藤芳太郎による財政社会学への問題提起, 大島通義による制度論的な意思決定過程分析など は貴重な例外というべきである(加藤[1960]大. New lnstitut至onali smにういては本論2,2および赤 政学については後述.. 島 [1972]).. 2)大内兵衛は,Goldscheidの財政社会学をマ ルクス経済学の観点から強く批判した一方で,財 孜学を単なる官房学や収入徴発学かち社会学の一 つへと高め,社会学の中でも帰結的地位を与え ようとしている点,人類の歴史に対する解釈の うえに現代を置き,さらに現代を将来のモニュ メントとして見ている点を評価している(大内. 4)社会という言葉は二重性を持っている.狭義 には家族や共同体などの意味で使用され,それは 市場からなる経済,権力配分のための闘争からな る政治と同列に扱われる.これに対して,こうし. [1927=・1974])、. の社会という用語を区別して使用している.. た社会r経済,政治を包括Lて構成されるトータ ルとしての社会が想定できる.本稿では,以上の 定義に基づいて社会という用語とトータルとして.
(3) s7. かす手法として財政社会学アプローチを採用し ている点に神野財政学の特色がある.. 、ここで確認しておきたいのは,財政社会学が. 関連において財政現象が把握されたという意味 で,前者の分析が中心だったといえる.一方;. 後者の観点に関しては,社会統合の問題を論ず. 成立した背景として神野が指摘する「第1次世界. る際にも古典的な階級国家観の呪縛を少なから. 大戦を契機に膨張した財政を『国家」との関連で. ず引きずっていた点を認めざるを得ない;すな. 分析しなければならないという主張」である(神. わち,財政学が公共部門の経済活動に焦点を当. 野[2007:53])1.この指摘からは,市場だけではな. てる学問であるにもかかわらず,マルクス主義. く国家を原動力として財政分析を行う点に財政. 財政学では,経済法則の比較優位を前提としな. 社会学の独自性があることが示唆されている.. がら国家の経済活動が問題とされてきたのであ. だが,興味深いことに、宮本憲一は,財政社会学. る.. の立論に懐疑的な姿勢を示しつつ,神野の財政. むろん,こうした国家軽視の傾向は内在的に. 社会学アプローチの問題点として国家論の欠如 を批判しているS).固有の学問領域として財政. も批判がなされ,1960年代後半以降,国家の 主体性を「相対的自律性」というかたちで再評. 学を位置づけようとする神野の試みにおいて.. 価する動きが広まっていった.いわゆるネオ・. ドイッ財政学批判のもうひとつの重要なコンテ. マルキストによる国家論ルネサンスである(加. クストを1なし,戦後の日本財政学会の指導的地. 藤[1986]).財政学と関連する議論としては,. 位を占め,それゆえ財政社会学が相対化される. 「蓄積」と「正当化」という2つめ国家機能の. うえで決定的な理由であったところのマルクス. 矛盾から財政危機を説明したJ.0℃onnor.労. 主義財政学への言及はほとんど行われていない. 働者の利益獲得行動と資本の蓄積との整合性が. 帥.その一方で,マルクス主義財政学の代表的論. 低成長経済の下では租税闘争へと転化すること. 者である宮本が,国家を重視するはずの(神野). を指摘した1.Gough.国家の危機管理戦略が自. 財政社会学において国家論が欠如Uている点を. 問題としたわけである.このような議論のズ. きた7},神野にしたがって「公共部門の経済」. 7)「国家経済(財政)と国民経済どの経済的な 相互関係は,さまざまの矛盾と対立をふくんでい るものである.両者は直接的には経済法則によっ て調整されるものではない.そう考えるのは経済 主義的なあやまりであって,両者の調整は政治的 になされるのである… 財政学は経済学の方法 によらねばならない.しかし財務行政そのものは 国家権力,上部構造の一部であるかち,結局財政 学をとり入れた経済学は,上部構造と生産関係と の相互関係を統一的に認識しうる理論,あるいは 社会科学をその根底にもたなければならない」(島. と「貨幣による統治」との二側面から財政の性. [1963=1983:16f.])あるいは「わ1れわれは,今. レの生じる所以を検討しておくことは,財政社. 会学の限界や課題をあぶり出すうえで意味があ る.そこで、まずは,マルクス主義財政学におけ る国家観について整理してみることとしよう.. ごく大雑把にいえば,宇野派正統派の別を 問うことなく,わが国のマルクス主義財政学は. 基本的に経済学の一部として財政現象を捉えて. 格を規定すれば,資本主義ないし経済法則との. 5)富本は,共同体の崩壊と国家の登場,そして 国家による社会の統合という神野の整理が平面的 だと批判し,国家の特質が租税国家にのみ還元さ れえない点を指摘している(宮本[2003:115]).. 6)宮本はこの点について,神野の財政学史を「欧. 米の財政学形成史としてはよくできているが,日 本の財政学については全く紹介がない」と批判し ている(lbid.[2003:114]).. 日の財政を,そういう一定の資本主義の今日の構 造と必然的かかわりをもつものとして具体的に解 明していかなければならないが,その場合すで にみたような,いわば資本主義一般に対応するよ うな,抽象的な財政の理解の仕方や,あるいはまた,. 資本対労働の関係をぬきにしたいわば社会一般に 対応するような,より抽象的な財政の理解の仕方 では,そうした解明をすることはできないであろ う.この解明は,財政の段階論的な理解,特に帝 国主義段階とその財政との必然的な関係について の理解を前提として,はじめて可能になるといり てよい,」(武田[1985:17f.])といった記述を見よ・.
(4) 3s. 身の財政力を根本的に切り崩す「危機管理の 危機」を強調したC.Offeなどをあげることが. 通るわけにはいかない一H. できよう(Offe[1987 ,=1988]GoUgh[1979]O’. 1−2.『租税国家の危機』における国家の位置づけ. Co皿or[1973=1981]).. しかしながら,’ここで述べられる「相対的自. ・そζでまず、『租税国家の危機』に’おけ るSchumpeterの国家観を検討しておこう... 律性」という用語は国家論の見地からは不徹底. Schumpeterは人びとの共通の困難を乗り越え. な概念であった.というのも,、ここで語られる. るための財政需要を国家形成の原動力として掲. 国家の自律性とは,資本主義の再生産との関連. げ,経済の諸条件の変革,個々の家族の中世的. においてその重要性が指摘されたものに過ぎな. 生活形態の崩壊という歴史的条件のもとで,需. かったからであるs].たとえば,O℃onnorら. 要充足の手段として租税が選ばれた事実を指摘. の議論が資本主義の発展と国家の諸機能とを本 来的に矛盾するものと理解し,財政危機をほど. した.彼に言わせれば,.共同体の欲求を租税と. は異なる形式で充足することになれば,それは. んど自動的で決定論的なものと見なしているの. 新たな財政組織を生み出すだけではなく,わた. はその象徴である(Carnoy[1984 一= −1992:359]).. 相対的な自律性という概念化が問題なのは,、客. したちが近代国家と呼ぶところのものを変質さ せ,経済や社会のあり方までをも揺るがすこと. 観的な構造からなる,rさらに「大きな構造」内. になる.,このような意味において,租税国家. の一関係としてしか国家の自律性を定義しえな. とは歴史的な社会形態のひとつであり,その本. い点である.国家論のユニークな批判を行って. 質,その形態..その運命を財政的側面から把握. vるJ. Bartelsonは,ここでいう大きな構造を. することが重要だという.端的にいえぱ財. 資本主義的生産様式と社会の階級構造だと整理. 政分析を通じた租税国家の動態把握の方法,財. し,こうしたものから派生するものとして捉え. 政分析を通じたマクロの社会理論として財政. たり,あるいは勢力間の均衡の凝縮として捉え. 社会学は位置づけられるのである(Sch㎎mpeter. たりするのではなく,近代社会における統一性. [1918≒1983:7f.]).. の究極の源泉を国家自身のうちに求める必要性. このように近代社会における統一性の源泉と. を強調した(Bartelson[2001=2006:219ff,]).財. して,Schumpeterは租税を媒介とした公共需 要の充足という租税国家の歴史的役割を強調す. 政社会学が国家を財政分析の中心に据えるのだ という以上,この国家自身のうちに求められる 「近代社会における統一一性の究極の源泉」とは ,どのような内容を持…つのかという問いを避けて. る.ここで注目すべきは,国家が,行為の主体 としてではなく,即物的な階級国家と超越的な. 国家理念の中間に位置づけられており,社会的 権力の反映物でありながら,絶えざる国家理念 の生成を通じてこれに国民を包摂するものと定. 8)ネオ・マルクス経済学の成果を踏まえて執筆 された宮本憲一の著作においても次のような記述 がなされている点は象徴的である.「どのような国. 家の役割が中心になるかはt民主主義制度が確立 した現代では,国民の世論や運動に規定され,支 配政党が決定権を持つが,長期的には資本主義の 生産関係とそれにもとつく財政に制約されている」 「現代アメリカ資本主義の矛盾の深刻化は,ケイン ズ主義の導入に一因あるが,主要な要因Vま,体制 の矛盾がすすむなかで生産や生活の社会化に対し て独占資本主義が対応できず,国家に矛盾の解決 を求めているためである」(宮本[1981:80および 186]).. 義されている点である(lbid.[1918=1983:ユ02])、. こうした観点から,Schumpeterは、国家現象 の現実主義的把握の重要性を指摘し,国家が社 会的に具体化されるところの人的集団の意義を 認識し.国家に対する支配力が,どのような要. 因によって獲得ざれるかを認識することが必要 だと述べる(lbid.[1918=1983:35]).いわば,実. 証的な観点から国家を「機構」として位置づけ,. この機構を動かし,そこに自らの利益を代弁さ. せようとするのは誰かという問題,すなわち民.
(5) 3Y. 主的な意思決定過程に分析の焦点を合わせたの. 財政社会学が財政分析を通じた国家メカニズム. である(lbid.[1918・・1983:101]).. の解明の学として自立するためには,徴税権を. このように国家を行為主体としてではなく,. 含む強制力を唯一付与された「政府1喝が,貨. 機構=メカニズムと七て捉える視点は、租税を. 幣による統治という最終的な課題のために,ど. 媒介に共同需要を充足する「社会形態」として租. のように国家メカニズムを利用し,国民を社会. 税国家を捉えている以上,当然の帰結だといえ、. に包摂してきたのか,その過程において,いか. る.また,「国家が社会的に具体化されるとこ. なる社会の変化がもたらされ,そのことがどの. ろの社会集団」がそのメカニズムの支配権をめ. ように政府の財政活動を再規定したのかについ. ぐって争う過程を分析の対象とすることは,観. て考えることが求められるはずであ’6 !1).「. 念論に陥ることなく国家の現実のあり様に迫る. もう少し丁寧に説明しよう.国家のうちにあ. ことを可能にする.さらにいえば,こうした見. る「近代社会における究極の統一性の源泉」と. 方は資本家を申心としたグループがヘゲモニー. いう論点からは,租税による共同需要の充足に. を握る可能性を否定するものではなく,少なく. よって社会を統一するというメカニズムと,政. とも現象面からは,マルクス主義財政学の国家. 府という行為主体が徴税権を含む強制力を有し. 観を包摂しうる道具立てともなっている9〕.以. ている事実とに注目する必要がある.徴税権が. 上の意味において,メカニズムとしての国家と. 政府に委ねられたのは,市民革命とともに特定. いう視点を共有する意義は大きいと考えられ. の個人が権力の独占から切り離され,民主的な. る.. 意思決定のもとに財政統制をめぐる権限配分が. しかし,財政学では,市場経済を前提としつ. 行われた結果哩),国家の本質ともいうべき最高. つも,それとは異なる論理をもつ公共部門の経. 強制権力が政府に委ねられたことを背景として. 済活動として財政を分析しようと試みてきた.. いる・s].むろん,民主主義が浸透し,定着してい. もし,国家をメカニズムとして捉え,民間の政. く過程では,政府に強制力の行使権限が配置さ. 治的,経済的主体による覇権争いの結果として. れたといっても,その行使は社会的な是認を必. 財政現象を捉えるのであれば,財政学は,政治. 要要件とするようになっており,社会の構成員. 過程における各アクター一一一の相互作用に着目した. の共通利益ないしt般意思を標ぼうすることで. 「財政現象の政治学的分析」へと著しく接近す. しか正当化されえないGessop[1990=1994:508ユ).. るだろう.それは,資本主義的生産様式と社会. しかしながら,「秩序は無秩序と対立し,あるい. の階級構造に国家を解消した分析が「財政現象 の経済学的分析」に接近するのと同様である.. 9)注5に示されたように,国家を租税国家に 解消する見方の問題点は宮本の指摘するとおりで ある.ただし,租税国家がこのような租税を媒介 とする公共需要の充足に本質を持つものであれば 政府による需要充足のあり方との関連において,. 支配階級の意思さらにいえぱ被支配階級の意思 がどのように経済的に実現されるのかを論じるこ とは可能である.むしろ問題は,宮本が「横力的 総括」(宮本[1981:38])と呼ぶところの国家の強. 制性をどのように把握するかという点であろう・ この点は重要な指摘であるからTWeberの官僚制 とSchumpeterの経済社会学の方法的な融合という 観点から後述する.. 10)政府の定義を行う作業そのものは行政学の 領域に属するが,一般に政府という場合,狭くは 行政組織を意昧し,広くは司法や立法を含むもの として定義することが可能である.どちらの定義 を採用するのかは分析の局面に応じて決定するの が望ましいとわたしは考えている.この点は本項 の最後で論じる.. 11)このことは資本主義や社会階層についての 分析が不要だと主張することを意味しない・それ らの要因は,政府の統治活動をめぐる意思決定過 程,すなわち予算過程において強く影響を及ほす はずである.ただし,それらは政府の統治活動を 分析対象とする財政社会学においてひとつの説明 変数だという点を確認しておきたい.. 12)財政史の観点からこの問題を取り扱ったも のとしてKicks[1954■1961][1953=1962]がある・.
(6) 40. は,よく言われているように,無政府状態と対立. 一方,社会の構成員の共通利益の実現という. している」(d’ Entreves[1967=2002:185])とす. 観点から積極的に政府を位置づけたとき,真っ. るならば,政府は,民主主義の制約のもとで,徴. 先に想起されるのは,「共同社会行為」を合理. 税を挺子として人びとの共通利益を具体的に実. 的に秩序づけられた「利益社会行為」へと転換. 現する能力,あるいは人びとを社会のうちに包 すぐあとに述べるように,こうした政府の能力. する官僚制の役割に注目したM.Weberの議論 である.Weberは』「官僚制化は,官僚制的装 置を統括する者にとって,支配諸関係の『合理. (State Capacity)を民主的意思決定過程における. 的社会関係化」の手段として,過去においても. 経済的,政治的アクターの利用対象として{是え. 現在においても,第一級の権力手段なのである」. るのではなく,財政活動を通じた秩序形成のた. という(Webedユ956=1960:115]).だが,こ. 摂しうる能力を有しているはずである.問題は. めの原動力として捉えた場合,どのように社会. こで留意されるべきは,こうした官僚制のメカ. の動態を描けるのかという点にある.. ニズムを当の官僚自身が活用可能だという点で. Schu皿pe士erにとって民主主義的方法とは、. ある.「官僚制みずからの勢力関心」という論. のちに彼自身が定義したように,「政治決定. 点を取り入れたWeberにとって,究極の行動. に到達するために,個々人が人民の投票を獲 得するための競争闘争を行う’ことにより決定. 指針である「国家理性」を神聖視する行政は,. 力を得るような制度的装置」を意味している. 得ない(lbid.[1956 r 1960:97ff.]).このような. (Schiimpeter[195e :1995:430]).エ「国家に対す. 議論が示唆的なのは,1)財政民主主義に基づ. る支配力が,どのような要因によって獲得され. るかを認識すること」に着目した彼にしてみれ. いて租税による共同需要の充足を行う政府の予 定された機能と.自らの勢力拡大を企図する行. ば、政府の能力をある種の与件としながら,政. 政の権力志向との整合性ないしズレの問題,2). 治主体が自らの利害に即して権限を行使するた. 政府の権力を利用しようとする経済主体と政府. 支配の極小化を求める民主主義と衝突せざるを. めの機会獲得競争の過程として民主主義が描か. の対抗ないし協力関係,3)以上の結果生じる. れるのは当然のことである.また,こうした定. 租税国家の変容なピ伝統的な財政学が+分に. 義が「民主主義とは政治家の支配である」(lbid.. 省みてこなかった新しい論点をわれわれに突き. [195⑪=1gg5:454])といういわゆるエリート主. 付ける点にある.. 義的なSchumpeterの民主主義観に基づいてい. たとえば,Weberの方法論を根底に据えた. ることも看過されてはならない.しかし,こう. J. Hobso皿が着目するのは,さまざまな階級や. した見方が問題なのはtSwedbergが指摘した. 利益団体かち暴力によることなく合意を取り. ように「政府はただ他者を他者をだます」存在. つけるための国家能力=埋め込まれた自律性 である15).Hobsonは第一次世界大戦期の租税. にすぎない点である(Swedberg[1ggi:93])14}.. 13)たとえば以下の記述を見よ.「あらゆる制. 度は人を通じて活動する.制度が行使する権力 は.他のいかなる方法によっても機能しないので ある.従・って国家は,自らが自由にしうる最高強 制権力を国家の名において運用する一団の人々を. 必要とする.しかしてこの一団の人々こそ,わ れわれが国家の政府と称するものである」(Laski. 制度の国際比較をおこないt戦争に勝利した 国々は国民の同意をいち早く取りっけr所得 税を中心とした現代的な租税制度を確立してい. 14)Musgraveが強調したように,このような Schumpeterの理解は,のちにADownsらに強い 影響を与え,公共選択論へと継承されでいった事. [193fS=1958:7]}「独立の行政スタッフと,その支配. 実を念頭に置く必要がある(Musgrave[1992]).. の行使の対象とされる人々(公衆ないし人民)と の区分が存在していない場合,国家は存在してい. 15)その他,政策ネットワークという視点から 国家概念の豊實化を図ったものとして大島[2002]. な輪工」 9es.$ep [二五999}= ;994:512]).. をあげることができる..
(7) 41. た事実を明らかにし,その合意形成を可能とし. ズムとしての国家という視点をいっそう推し進. た国家の能力や制度要因について明らかにして. めることによって,政治と経済の統合,すなわ. いる(Hobson[1997]).ここで行われているの. ち国家メカニズムを挺子に経済的利害を統合す. は,まさに,服従が人間にではなく,規範にな. る政府の権力行為に焦点を合わせた,財政分析. されることを強調したWeberの「支配の合法性」. の果実を手にすることができる.ただし,この. の財政分析への応用である.. ように財政社会学における国家の問題を押さえ. 政府の主体性という観点からはtSchumpeter の議論に触発されながらも,政府の役割をより 積極的に打ち出し,’個人の欲求に対して,公. たうえで,改めて確認されるべきは,Weberの 視点と,SchumpeterないしBellの視点の間に 存在している懸隔である.学問の系譜に即して. 共的な必要と欲求を充足するための機関として. この問題を取り上げれば,前者はStatismない. 「公共家族」を定式化したBellの議論も加える. しWeberianというかたちでアクターとしての. ことができる.(Bell[ユ976=1977]). Bellは,. 国家を強調する歴史社会学や比較政治学へと継. 経済的な力以上に政治的な力が資源配分に影響. 承された.この点は,2−2に詳述するが,一 方で,後者の問題意識を財政社会学へと展開し. を及ぼす状況の下で,あらゆる経済問題が投 票を通じて決定されつつある点に注意を喚起す. たのが神野の財政社会学アプローチにほかなら. る.投票過程の重視という点ではSchumpeter. ない.この両者の視点は果たして統一可能なの. の議論と近いのであるが,Bellはwantsと. であろうか.. needsを区別し,前者』に対応する企業の理論に. 対して,後者に対応する公共家族の理論が欠如 している点を問題とする点が特徴的である.. 神野が強調して止まないのは,「被統治者に よる統治」としての財政民主主義の役割である (神野[2007:77ff.ユ).この民主主義理解のもとで. また、政治的な資源配分=民主主義と公共家. ぱ、政府は広く定義されざるを得ない.そして,. 族をめぐる理論構築というBellの分析視座か らは,0℃onnerのいう現代資本主義の危機論 にも異なった分析のまなざしが向けられる.す なわち,資本蓄積のための国家の支出と,国家. 政策を受け入れる際の国民の意思,あるいはそ れを代弁する議会等の意思決定システムが特に 重視されることとなる.それは神野が地方分権 の推進を強く求める経験的事実とも整合的であ. に対する忠誠心や支持を確保するための支出が. る.しかしながら,そのことは政策を方向づけ,. 競合し,財政危機が招来されるのは,「資本主. 人々の共通利益を実現する狭い意味での政府の. 義国家」に原因があるのではなく,「民主政治」. 能力,より端的にいえば行政府の主体的な選択. という政体が採用されていることに拠るという. の分析的意義を将外に置いてしまうかもしれな. のである(lbid.[1976=1977:105]).財政民主. い.また,マルクス主義財政学が鋭く批判して. 主義が成熟し.定着した状況のもとでは.公共. きたように,ブルジョワ・イデオロギーによる. 的な利益についての統一的な思想に基づいて経. 国民の意図の歪曲という,確かに存在する現実. 済を方向づけ,相反する利害を調整する必要が 生じる.そあような過程に着目し,政府の果た. の一側面を必要以上に軽視することとなるかも. す役割と現代における財政赤字の連関を論じる. は言いすぎだとしても,被統治者の正当性をス. 視角をBe皿は提示したのである軌’ 以上,Schumpeterの租税による共同需要の 充足という視点は,国家論を中心に据えた財政 分析,より積極的には,租税国家という社会形 態の変容についての分析枠組みへの地平を切り 開いたことを見てきた.また,私たちはメカニ. しれない.「国家論がない」という宮本の批判. 16)OIConnerの議論を財政社会学として論じる 研究は多いが,わたしは国家の相対的自律性概念 に基づく現代資本主義論として位置づけたうえで,. 財政社会学につながる問題意識を有する研究とし て押さえる見方が適切だと考えている..
(8) 口. トレートに打ち出した神野理論に対して,以上. 1−3.「租税」国家か?. の批判が生じるのは理由のないことではない.. 次に第二の論点,租税国家に「租税」とい. しかしながら,財政社会学が国家をまず分析. う限定を設ける意味について考えてみたい.共. の出発点とするのであれば,私たちは国家概念. 同体目的のために成立した社会形態という理. の同一性を,国家自身の外部にある勢力への依. 解からは,租税国家の論理と,利己的動機を. 存によって説明する見方に同意するわけにはい. 有する経済主体から構成される私経済の論理. かない.この点,本論の回答はきわめてシンプ. とが対立することは,いわば当然のことであ. ルである.それは「意図的に依存する場合もあ. る(S・hu皿P・t・・[1918−1983・33]):、ただ・レ・.こ. るし,そうでない場合もある」ということであ. こで租税国家は,個人や私経済を前提にしな. る.というのも,政府の政策実行能力がいわゆ. ければ成立しない歴史概念として位置づけられ. る経済的支配階級の利害の実現を阻んだり,後. る.むろん.国民の意思がより大きい共同経 済支出に向かって進み,私有財産と生活様式に. 押ししたりする可能性があること,同時に,被 統治者による統治という財政民主主義の理想の. かんする考え方に変化が生じれば租税国家は. 姿を推し進めたり,これまた歪曲したりする可 能性もあることのいずれをも否定する必要はな. 超克されるかもしれない.実際こうした可 能性をSchumpeterは積極的に肯定ずるが歴. いからである.. 史局面がそこまで進展しない限りは,租税国家. ただ.ここで確認しておきたいのは,統合のた. が獲得できるものは,資本主義的な生産利潤の. めの国家メカニズムを財政分析によって解明す. 経済法則によって限定されざるをえない価id.. るうえで,どのよう一な政府の定義が望ましいかに. [191&・一ユ983:475]).一なぜならば「国家は,どの. ついてはその国の歴史や経験に規定されるとい. ような具体的,社会心理的状態のもとでも,こ. う事実である.っまり,行政と立法,司法の対抗. の個人的利害の継続的作用と調和できる程度の. 関係や協調関係がどのように財政現象に影響を. ものしか,私経済から取り上げることはできな. 与えるのかに加えて.それらの関係がどの様に形. い」からである(lbid.[1918=1983:38]).. 成されたか自体が重要な分析対象なのである.. 以上の租税国家という定義さらに市場経済. 、のちにこうした関係を規定する要因として,. による財源調達面での制約を前提とすれば,財. また,平板な国家理解にとどまらず,社会変容. 政活動を支える財源,すなわち租税の負担配分. を描くための概念として「制度」と「文脈」の. をめぐる闘争の過程に一こそ,社会の動揺ないし. 果たす役割について論じる.だが,神野の問題. 変化の兆候が端的にあらわれるであろうIS}.こ. 提起をより発展させていくうえで,公共利益に. うした問題提起は,租税分析が半ば自動的に社. ついての統一的な思想に基づいて経済を方向づ. 会分析を意味するという理解につながる,だと. ける政府の能力をいかに位置づけるか,という. すれば,財政学以外の社会科学が財政現象を分. 点は避けて通ることのできない理論的な課題だ. 析する際税制改革や租税負担をめぐる政策過 程に関心を集中させてきたこと,そして,それ. ということ,そして,このことはSchumpeter のマクロ理論とWeberのアクター論の方法的 な融合とかかわる問題である点をここでは確認 しておきたいと思う・7).. らのほとんどすべてが財政社会学の方法を発展 させるのではなく,自らの研究の背景として財 政社会学ないし『租税国家の危機jb:一:一・一様に言. 及してきたことには相応の理由があったと見る. 17)大島はSchunlpeterとWeberの関係を蜘蛛 と蜘蛛の巣の例えで表現したが(大島[MIMEO])t 言い換一えれぱ、蜘蛛と蜘蛛の巣を一体的に把握す る方法をどのように構築するのかという点が問わ. 18)BellはK Marxの言葉を引用しながら,「階 級闘争の新たな分野は,租税に閲する闘争である」. 九ているわけである.. と述ぺている(Be皿[1976=1977:96])..
(9) 4s. べきであろう19〕.. る財政の意思決定過程へと再度フィードバック. しかしながら,財政学の一般的な理解,ある. されざるを得ないであろう(Schm61ders[1970. いは人びとの共同需要の実現という租税国家の. =1981]).このように、財政社会学の目的は,・. 本質に即して考えれば財政をめぐる意思決定 の問題を税制改革や租税負担をめぐる対立に限. 財政分析を通じて租税国家という歴史的な社会. 定するのはいささか行き過ぎた単純化である.. というのも,財政民主主義の観点からは,共 同需要の大きさこそが課税水準を決定する基底. 形態の変容を解き明かす点にあるが,その際 個別の財政現象を政府と政策の受け手の政策循 環のなかで捉え,その循環の変化が社会の態様 に与える影響を具体的に考察することが求めら. 的な要因だと考えられてきたからであり2°)Tま. れる.このようにSchumpeterの問題意識を拡. た,近年の社会科学諸領域においても,福祉 国家の安定的な財源を確保するためには、充実. 張することで、Fiscal Sociologyというよりも,. Fisca1 ScienceのSocial Theo苛として財政社会. したサービス給付がその前提となることが示さ. 学は位置づけることが可能となる21).. れつつあるか1らである(次節参照).財政支出. ただ,’これだけでは不十分である.という. の行政府による執行は,経済主体の行動や公共. のは,SchmOldersが指摘するように,財政権. サー一.ビスの水準に対する人びとの選好,家族や. 力は財政高権と通貨高権よ,り構成されており. 人口構成などの社会経済的要因全体に影響を与. (Sehm61ders[19団=1981]),歳入面に限定し. える.だとすれば,その影響は租税負担をめぐ. ても,財政高権と通貨高権とのせめぎ合いのな かで、社会は歴史的に変化を遂げてきたからで あるee).政治,経済,社会が何らかの危機的. 19)財政社会学の方法にもっとも強い関心を寄. 状況に陥ったとき,租税高権を基礎とする公共. せているのはJ.L. Campbellである. Campbellは,. 部門の経済活動は一定の限界に直面する.その. 過去において税制に影響を与えてきた要因を抽出 しながら,それらを有機的に体系づける方法とし て財政社会学を定式化しようと試みる.具体的に は,地政学的対立,マクロ経済的条件,財政危機 階級と利益集団,代議制システムt国家構造 イ デオロギーといった要因に着目し,税制や財政が これらの要因にいかに影響をおよぼし,反対にい かなる影響を受けているかを論じている(Campben [1993]).. 20)「経費の変化は財政規模や財政収入のあら ゆる領域を規定する要因」とする島恭彦の指摘 ([1963=19S3:26]),さらに進めて,「予算の議定. は,納税者の国家経費の支弁に関する同意の総合 を社会的方法によって保証せんとする政治的手段 であり,数の補償を生命とする現代の政治的実力 の結び目」と評価した大内兵衛の指摘を見よ(大 内[1930=1974:80ユ).以上はいわゆる量出制‘入. (出るを量って入るを制す)原則であるが.鈴木 武雄のように,財源が国民経済力によって制約さ れる側面を強調する論者もいる(鈴木[1957:5]).. Schumpeterにとって租税国家は資本主義的な生 産利潤の経済法則に服するものであり,これとの. 関連から「国家経済では私経済と異なって,収 入は単純に支出によって規定されるという命題 が,どのように根拠のないものであるかが判る」 (Schumpeter[1918=1983 : 48])と述べているが. 鈴木の見解はこれに近い,. 典型的な事例は,租税負担の限界を借入で克服 し,最終的にはインフレさらには超インフレへ と帰結する戦時財政である.人類の歴史は戦争. 21)E.R A Seligrnanはあらゆる税が戦時期に課. されたこと,国家が無産国家化したことを過度に 強調するGoldscheidのFiscal Sociologyを厳しく 批判しSocial Theory o正Fiscal Scienceという表現. を用いた.そして,個入に出発点をおきつつ.共 通欲求や協力などの社会的関係がそこから生じる 点を論理的に説明し,公的集団や公共財,さらに は政府の財政活動の理論づけを行った(Seligman [1926]),すなわち,Seligmanは社会理論を用い て財政現象の解明を進めようとしたわけであるが, それは財政現象を用いて社会の変化を描こうとす る本論の問題意識と表Pt−一体の関係にある.. 22)Schm61dersは,徴税権力を意味する「財 政高権」と国家の貨幣鋳造や貨幣制度の規律に関 するr通貨高権」1とに「財政権力」を分類し,財 政政策と通貨政策の間にみられる変転著しい関係 のなかに財政権力の本質、政治と経済の関係全 般が見いだせると論じた(Schm61derS[1955= 1957:19fL〕),.
(10) 有. の歴史であるとしばしばいわれるが,その歴史 は通貨高権の濫用とインフレによっても同様に. にしておくことに政治的な合理性が存在Lない ということを意味している、事態がそのようだ. 彩られてきた.それゆえ、現代国家では,通 貨高権を政府から切り離して中央銀行に委ねつ. 少なかれ,将来の租税高権の行使へと結びつか. つ,民主主義の統制のもとにこれを配置するこ. ざるを得ないことはもちろん,債務の増大が共. とで,経済の基礎となる通貨価値の安定を実現. 同需要の充足よりも債務圧縮への要求を強め,. しようとしてきたのである(大島・井手[2006]. 債務管理(Debt Management)という新たな課. Stasavage[2003コBerman=]McNamafa[1999]).. 題を浮上させることによって,租税国家の性格. とすれば,通貨高権の積極的な活用は,多かれ. 周知のように,オイルショック以降,’経済の. を大きく歪めることも起こりうるas).さらに,. 低成長化を契機に多くの先進国は財政危機に直. そうした選択は金融市場を媒介して企業の経済. 面し,福祉の見直し,企業や富裕層を中心とす. 行動や起債の額,将来の税収にも影響を与える. る租税負担の軽減が主要な政治課題となった.. こととなるだろう.このように徴税を通じた共. 同時に,経済のグローバル化によって金融市場. 同需要の充足に本質を持つ租税国家は,通貨高 権との相互作用を重視することでよリハッキリ. の膨張がうながされ,資本移動の活発化,基軸 通貨ドルの不安定化,統一通貨ユーロの登場,. とその動態を分析することが可能となるのであ. 中央銀行の独立性強化の動きなど一国の通. る26).. 貨高権の再編ともいうべき事態も生起しつつあ る.このように,国際金融市場の新たな展開と. 小括. 連動しながら,財政運営への制約は強められて. 国家の統一性を国家自身のうちに求める本論. おり,法人課税のコーディネーションや資本所 得軽課の下レンドに見られるように,ヒト・モ. の問題意識からは,国家はもはや社会における 支配階級や政体の全構成員の利害関心と必ず等. ノ・カネの流動化は租税国家の根幹をなす徴税. しいわけでもなく,それらと必ずしも融合きせ. 能力にも大きな制約を課しつつある23).. られるわけでもない(Skocpol[1979:27]).と. ただし事態はそう単線的でなければ単純でも. りわけ,租税国家が民主主義の発展と歩調を合. ない.なぜなら,ひとたび経済危機が招来され. わせて形成された事実を念頭に置くと,国家は. ると,通貨高権をますます財政高権に取り込む. 対極にいる他者たちとの関係のなかで共有する. かたちで,より端的には,中央銀行をますます. 状況に応じて人間を集団に帰属させ,そうして. 財政のメカニズムに組み込むかたちで,経済政 策は実施されるからであるm).それは,最高強 制権力を付与された政府の究極の目的が社会統. 人間を社会化する機能そのものである・(Theret. 合であるとするならば危機的な状況において. 「階層的な政治的関係」(lbid.[1992=2001:96]). [1992・2001:54]).その意味では,社会の構成員. それぞれが相互に影響を与えあっ’て成立する. 通貨高権を財政高権から完全に切り離したまま. 23)ただしtこれらは一般的な言説レベルの指 摘であり , Campbell[2005]‘Sw加k=Ste血mo[2002]. のように1税制に対するグローバル化のインパクト よりも国内の制度構造を重視する研究は多数存在 する.. 24)量的緩和政策とともに採用された緊急避難 的な中央銀行政策や近年のアメリカ金融危機にお けるFRBの救済などを想起せよ.前者については 大島・井手[2006],後者については金子’デウィ ット珍008]を参照.. 25)イギリスの債務管理庁の施策について論じ たものとして井手=水上[2006ユ,債務管理への政 策シフトが財政政策に与えた影響を論じたものと してIde[forthcoming]を参照. 26)大島は,Bonney∴[1999]を引用しつつ,近 年では,租税制度の形成にとどまらず,これにと もなう徴税機構の確立、税収とその使用に関する. 検査・統制機関の設置,税収を担保とした公債発 行と市場整備など,「租税」一国家の概念が「財政」 国家という’かたちで拡張きれつつある事実を指摘ト している(大島[MrMEO])..
(11) 4s. として国家は捉えられる.のであり,Sehumpeter. C「).次節ではより方法面に立ち入りながらこの. のメカニズムとしての国家という理解はこの点. 論点を掘り下げていくこととしよう.. において本論の主張と整合的である.. ただし,そのようなメカニズムは,多元主. 2t財政社会学の方法をめぐる諸論点. 義的なアクターの権力闘争の結果として漠然と. 2−1.社会の転換か?社会の変化か? −. 成立するわけではない.租税国家が租税による. Schumpeterは西欧の近代化が,資本主義の. 共同需要の充足という原理によって編成された. 生成や合理的官僚制の出現によってではなく,. 「階層的な政治関係」だとすれば,その政治関. 戦争を契機とした領主団体から租税国家への移. 係がどのようなものであるかがまず問われるだ. 行によってもたらされたと考えた.・こうした視. ろう.その際,公共的な利益についての統r的 な思想に基づいて経済を方向づけ,共同社会行. 点は,唯物史観の終焉を唱え,戦争をめぐる国 家や民間の諸活動こそが資本主義の生成と発展. 為を利益社会行為へと転換する政府独自の役割. をうながしたとするW.Sombartの議論とも接. をどのように評価するかが同時に問われること. 続する(Sombart 1913=1996)2s).前節において. となる.このような国家アクターとしての政府. 述べたように,わたしも共同需要の延長上に国. と他の経済主体と一の対抗ないし協力の関係を具. 家をつかまえ,歴史の起動力としての国家の役. 体的に追跡することで,階層的な政治関係の変. 割,機能を分析することが出発点だと考えてい. 化のあり様を具体的に叙述することが可能とな. る.しかしtここでいう国家は実体としてでは. るのである.. なく階層的な政治的関係として理解している.. それともう一点、租税国家という概念はより. ゆえに,社会変動の原動力は,政府の経済活動. 広くとらえられる必要がある.すなわち,政府. と経済,政治,社会それぞれの領域における価. の経済活動は歳入面と同時に歳出面を勘案する. 値・論理に規定された主体tより端的にいえば. 必要があり,また,前者に関しても,租税と同. 家族の一員,’労働者/資本家,投票者へと分裂. 時に中央銀行の対政府信用や金融市場からの資. した「わたし」ないしそれらから構成される集. 金調達を分析の射程に収める必要がある.以上 の指摘においてたびたび強調されたのは,財政. 団との相互作用に見出されることとなる四 ただし,その相互作用がいかなる要因に規定. 支出を通じた政府の意思決定および予算執行が. されるのかという点は,次で述べるメゾ・レベ. 人々の選好や社会構造に働きかけ,そこで生じ. ルの意思決定過程分析にゆだねられる.ここで. た変化が財政の意思決定過程へと再度インプッ. 検討するのは,これらの相互作用を与件として,. トされ,財政のあり方を変化させていくという. 政策のアウトプット,すなわち財政支出が,政. 動態的かつ循環的な過程である.むろん,こ の過程において政府の資金調達は金融市場に影. 治的、経済的,社会的諸要因にどのような影響. 響を与え,そのことがさらに経済主体の選択や. り方にどのように反作用しているのかというマ. 税収の多寡へと反映されることは言うまでもな. クロ的な「循環」の問題である.すなわち,社. い.こうした政策のフィードバックプロセス. 会の共同需要を表現する財政支出の内容課税 水準や負担配分のあり方が,経済主体の活軌. と租税国家の変容はマクロの社会変動の観点か. を与え,それが政府の経済活動および統治のあ. ら,財政社会学のもっとも重視すべき点である. 28)Schumpeterはのちに述べる経済社会学 の建設者として,歴史学派の第三世代、AAC. Spiethoff, W. Sombart, M. Weberをあげている(塩 野谷[1988:720]).. 27)個人の効用閲数をベースにしながらフィー ドバックプロセスが社会の変動をもたらす点を論. 29)近代における個の分裂を論じたものとして. じたものとして,菊地[2008a][2008b]を参照.. は金子[1999]を参照..
(12) 4断. 政治家ないし投票者の行動様式,公共サービス. 済的要因と被経済的要因の結合めあり方,Lす. や課税に対する人びとの心理,一社会構造などの. なわち社会科学相互の関連のあり方を理解する. マクロ変数に与える影響を問い,それらの変化 が現実の財政現象をどう再規定し;i社会の変容. かならない(Schumpeter[1954=2005]).その. のに歴史は格好の素材を与えてくれるからにほ. をもたらすのかという点を探るための方法であ. 際,共同の困難の克服に租税国家の起源を求め. る.. るSchu血peterの発想からは,人びとの共同性. このように課題を設定すると,以上で言及さ. の変化と租税国家との関係がひとつのキー概念. れた「変化」を,どの範囲でごどのように捉え. となるだろう.そこで注目したいのが,社会の. るかについてまず定義しておく必要が生じる.J. ゲマインシャフト的な要素とゲゼルシャフト的. はじめに前者を見ておこう. r. な要素の相互連関,これと財政の関係である.. Schumpeterは後の著作において, Marxの 裏面,すなわち資本主義の成功が資本主義それ. かつてE T/d皿ies』はゲマインシャフトからゲゼ. 自身の安楽死をもたらす可能性について論じた. 展と重ね合わせて論じる試みを行った(Tdnnies. (Schumpeter[1950=1995]).確かに,超長期の. [1887−1957])32).周知のように,Tdr皿iesは. 社会変動,より強くいえぱ社会の「大転換1 を解き明かす試みは魅力的である.しかしなが. Marxの強い影響のもと,社会の発展方式を考 察の対象としで「ゲマインシャフトの時代に. ルシャフトへという集団類型の変化を歴史の発. ら;近年の社会科学諸領域では将来の大転換に. ゲゼルシャフトの時代が続いている」(TOnnieSi. 対する”predictabMty”への懐疑を強めている.. [1887=1957:207])点を強調した.こうした着. というのは,現実にはt偶発性や,時間の経過. 想そのものへの疑問は先に触れたとおりだが,. とともに生じる独立変数間の複雑な相互作用が. ここで強調しておきたいのは,TOnniesが以上. 存在しており,さらにはi歴史において制度や. の転換の一方でt「ゲマインシャフトの力は.. 人間は変化し.適応し.また歴史それ自身に影. 消滅しつつあるとはいえ,なおゲゼルジヤフト. 響されるため,一社会の「転換」を前提に歴史を. 時代にも保たれておりt依然として社会生活. 読み込むことには慎重を期す必要があるからで. の実体を成している」(lbid.[1887 =1957:210]). ある(Ste㎞o[2008ユ)3°).このような合意を. と慎重に指摘している点である.. 踏まえれば社会の転換を解明する学問,方法. 社会発展という観点から考えれば,ここで指. も大事だが,租税国家という社会形態の複雑な. 摘される人びとの有機的なつながりの後退は,. 揺れのあり様その「絶えざる変化」の原因を 説明する方法も強く求められることとなるSl].. 30)ただし.体系的な規則正しさやパターン, メカニズム,原因に対する研究を拒絶しさえする :ポストモダニズムとは異なり,近年の社会科学も 因果閲係を重視し続けている点は留意する必要が. 32)ゲマインシャフトとは,実在的・自然的な 意志である本質意志によウて結合された有機的な 生命体であり,ゲゼルシャフトとは,観念的’作 為的な意志である選択意志によって結合された機 械的な形成物である.前者}こおいては,交換や売 買,、契約の介する余地はきわめて少なく,人びと は本質的に結合し続けるが,後者においては,入 ぴとは反対給付や返礼なくして他人のために何か をなすことはない.T6nniesは両者について植物 的・動物的・人間的という発展類型を示し.「身 分から契約へ」という命題のもとで社会の発展方. ある(Katznelson=Weingast[2005:14]). 式を示そうとLた.なおWeberはこの転換をめ. では,具体的にどのようにその変化をつかま えることが可能なのか.私たちが時間の経過す. なわち歴史に最大の関心を寄せる理由は,経. 31)むろんその変化には困難ながらも大小の区 別が求められるだろう、この点については,後述 のStteeck==ノコ[helen [2⑪⑪5] カ1細カコし、概念整理を. 行っている.. ぐる理論のあり方を批判しつつも.社会学の基礎. 概念として双方を位置付けている.それが先に 見た共同社会行為と利益社会行為である.Weber [工922i1972t66iif.1を参照,.
(13) 47. Schumpeterのいうと’ころの共同需要を飛躍的. 変化への関心は,社会科学の各領域においてと. に増大させ,財政の果たすべき役割が格段に大. みに高まりつつある.たとえば,「人間の経済は,. きくなる新たな歴史段階の訪れを予想させる.. 経済的な制度と非経済的な制度に埋め込まれ,. 実際に財政規模が急激に拡大するのは第一次世. 編み込まれている」(Pelanyi[ユ957=1975: 268]). 界大戦や第二次世界大戦を画期としており,こ. の時期の社会の変容が財政規模の非連続的な変. とする「埋め込み」概念を強調したKPolanyi rの議論を再評価し,非経済的要素を市場社会の. 化とどのように関連したのかを問うことは興味. 分析に応用したM.Granovetter,社会規範の解. 深い課題である. 一 しかし,転換よりも変化を重視する立場から. 釈の仕方こそが制度の意味づけを規定する点を 指摘したWPowe皿, P.DiMaggioらの社会学的制. は,より重要な問題がある.それは,林健久が. 度論をあげることができる(Granovetter[1985ユ. 転位効果(displacement ’effeCt)について論じた. Pbwell=DiMaggio[1991])en).そして,このよ. 際,注意深く指摘したように,財政規模の非連. うなゲマインシャフト的な要因の果たす役割に. 続的な拡大は,先進各国にコ様に観察されたわ. 人びとの関心を決定的に向けさせたのが,近年. けではなく,第一次世界大戦と第二次世界大戦 によってもそのインパクトな異なっているとい. 活発な論争を繰り広げているSocial Capital 9e. う事実である.(林[1992:6−113]).確かに,1租. 社会的結社の数やそれに参加する市民の割合が. 税国家の概念をもとに,ゲマインシャフトが. 「信頼」や「規範」などのSocial Capita1に影響. 担ってきた領域を財政が代替することで,ゲゼ ルシャフト時代への移行が実現したと主張する. し,民主主義や経済成長,個人の福祉などにも. ことは論理的には可能である.しかし,現実に. (Putnam[1993=2001][2000=2006] ).ここで指. 論である.先駆的な論者であるR. Putnamは,. 影響を与えうる可能性を実証的に明らかにした. は.近代社会の成立以降もゲマインシャフト的. 摘されているのは,ゲゼルシャフトが機能する. な要素は決して消失したわけではなく,七きに. 前提としてのゲマインシャフトの役割であり、. はそれが残存し,とぎには財政がそれを支える. 個人の認識や合理的選択の根底にある非経済的. ことでそれぞれの社会は断絶を伴うことなく変. 要因を重視する視点である.. 化し続ける側面があるSS).財政支出によって人. しかしながら,以上の立論の仕方には大きな. びとの生活の連続性が維持される側面と,財政 支出によってときには意図的に,ときには結果. 限界が指摘されている.というのは,ゲマイ ンシャフト的な要因がゲゼルシャフト的な要因. 的に引き起こされる社会変容の関係,すなわち. を円滑に作用させるための前提となっていると. 「社会的再生産と社会的変容との間で結果的に. いう興味深い指摘の一方で,後者が前者にどの. 生ずる均衡」(Giddens[1997=1998:29])を財. ように働きかけるのかが判然としないからであ. 政現象との関連から明らかにし,その推移を解. る.TOnniesの整理ではtl国家こそが完全なゲ. き明かすことは,転換に力点を置く方法論との. ゼルシャフトであり,その本質として人びとの. 重大な相違だといえる.. 共同需要を充足するメカニズムが存在するので あれば,ゲゼルシヤフトとしての租税国家がど. ここ最近,こうしたゲマインシャフト的な要 因が経済活動や民主主義のあり方などに与える. のように財政支出を通じてゲマインシャフト的 な要因にかかわっていくのか,という点は,財 政学を学ぷものにとってもっとも関心のある問. 33)富永はゲマインシヤフトとゲゼルシャフト が分離し、後者が優位となることを近代化の特徴 としてあげているがその際,核家族を近代産業 社会における最後のゲマインシャフトの拠り所と して位置づけている(富永[1996:123f,]). 題のはずである.. 34)社会学的制度端こついaま.赤石[2eOS] を参照..
(14) 48. こうした観点から注目されるのはtt近年r. で財政をめぐる意思決定過程におけるインプッ. 北欧の研究者を中心に,普遍主義サービス. トにも影響を及ぽすこととなる.同時に,そう. の水準がSocial Capital.の生成ないし強化を. した政府への信頼は意思決定過程における経済. 促すとの見方が提示されつつある点である. 主体の交渉態度や妥結の容易さtすなわち政府. (Varheirn=Steinmo■lde[2008ユRothstein=Uslaner. の政策形成能力と関連し,財政のアウトプット. [2005]Rotihstein[2003]Rothstein=Stolle[2003]).. を規定するだろう.ここでの合意は1自らの. 彼らの論理は以下の二点に集約できる.第一は,. 勢力拡大を意図する政府の思惑によって必ずし. 生活保護やフー一ドスタンプのような選別主義的. も望ましいものとなるとは限らないが,ともか. なサービスと異なり,普遍主義的なサービスは. くここでの決定は,最終的にマグロ・レベルで’. 人びとに社会的スティグマを与えない.このこ. の財政政策や財政赤字の水準に重要な影響を与. とは人びとが社会から疎外されたという感覚を. え,そのことが人びとの政府への信頼に再度異. 抑える役割を果たすし,あらゆる人間が一定の. なる影響を与えるだろう.. ルールのもとで平等に扱われるため,その執行. このように,財政のアウトプットは,直接,. 主体たる政府ひいては社会そのものに対する信. 家族構成や性別ごとの就業構造などに与えるだ. 頼や人びとの規範が強化される.第二に,普遍. けではなく,人間関係の基礎にある信頼や規範. 主義的サービスは,所得や資産などの給付条件. の形成・破壊要因として作用することで,人び. を設けないため,中高所得者層を受益者とする. との選好,すなわち,労働者ないしは資本家. ことが可能になる.政治的多数である中所得者. 投票者,家族の一員としての「わたし」の行. 層が受益者となることは,彼らの納税へのイン. 動に決定的な影響を与える側面がある.マスグ. センティヴを高める.もちろん,普遍主義的な. レイブの三機能に代表されるような経済的な効. サービスが中間層を巻き込んだ増税のコンセン. 果のみならず,社会的に埋め込まれた人びとの. サスを整えることは,福祉制度が安定的で持続. 認識のパターンやゲマインシャフト的な要因を. 可能だという意味で社会の安定化に寄与するこ. 媒介とした政府と他の主体の相互作用,そして. ととなる.. そのマクロ循環という観点から租税国家の動態. これらの新しい議論が示唆するのは,公共. をつかまえること,この点が経済と社会の相克. サービスがゲマインシャフトの機能を代替する. を強調したSch、umpeterの視点を発展的に継承. 経路だけではなく(いわゆるセーフティネット. する財政社会学の目指す方向のひとつだといえ. 論),そのサ・…一ビスが社会に埋め込まれている. る.. ゲマインシャフト的要因へと働きかけ,それが. 経済成長や民主主義福祉などの政治,経済t. 2−2.変化を引き起こす原動力としての意思. 社会的なマク回変数に反作用をおよほす経路が. 決定過程分析. 存在する可能性である.むろん,こうした反作 用は財政へと影響を与えずにおかないし,その. SchumpeterとB’eilの方法に影響を受けた神 野の財政社会学アプローチが問題とするのは,. ことはさらに埋め込まれたゲマインシ”t’フト的. 社会的,経済的,政治的諸領域と財政の関係. 要因へと再度働きかけるだろう.. こうした経路の分析は,財政のアウトプット が財政過程に実質的,観念的に参加するすべて の人びとの心理や思考トレンドに与える影響を. 指摘したSchm51dersの問題意識へとつながっ ていく.たとえば,政府や社会に対する信頼の. 強化は,納税への合意を容易にするという意味. 35)神野によれば1社会システム,政治システ ムに対する経済システムの突出がこれらのシステ ムからなるトータルとしての社会に危機をもた らす.それらは政治・経済システム間および政 治・社会システム間に存在する財政システムにお いて財政赤字として表現されることとなる(神野 [1998])..
(15) 4Y. である.その際,政治と経済,政治と社会を媒. いう当たり前の事実を説明するうえで有効であ. 介するものとして財政は位置づけられる、特に トータルとしての社会の危機が,各システムの. る.あるいは,ある大規模な国際経済の変化が 各国においてまったく異なるインパクトを与え. インバランスによってもたらされる財政危機と. ることも説明可能となるだろう.このような観. して表出するという論理・・}は,ミクロの資源. 点からは,政府が具体的に人びとの利益をどの. 配分を強調する新古典派の財政論との決定的な. ように包摂しようとしたのかという意思決定過. 相違をなしているといってよい.しかしながら,. 程の分析は,以上の制度の作用を明らかにする. こうした主張は,ただちにそのようなインバラ. うえで格好の分析対象となる.. ンスがなぜ生じたのかという問いを生じさせず. 政治過程と制度分析という視点からは,1970. にはおかない.本論が国家アクターとしての政 府の役割を強調した理由はまさにこの点とかか わっている.マクロ的な社会の動態が一種の「循. 38)新しい制度論と経済社会学の学説史的関連 は今後いっそう深められるべき論点である.わ. 環」によって耐えざる変化を繰り返している点. たしは,Schumpeterのエリート民主主義理論 と経済社会学を区別し,後者との関連からNew. を前節では強調したが,こうした循環と変化の. Institutionalismを評価する必要があると考えてい. 原動力のひとつが,メゾ・レベルにおける政策 のインプット過程,すなわち財政をめぐる意思 決定過程である36).財政学が理論的にはほとん. ど扱ってこなかったこの論点について論じるこ とが本節の課題である.. それともう一点∫ここで意思決定過程の問題 を重視する理由がある.それは『租税国家の危. る.前者については注14に述べたように,Downs らのハードな公共選択論へと強い影響を与えたこ とが知られている.一方,これとは異なり,エリ ート対大衆というSchumpeterの二元論を克服す べく提唱されたのが,R, Dah1らの多元主義理論 である.TSkocpolやc. Tillyらの歴史社会学者 は1970年代以降,以上のSchumpeter批判とは別 に,マルクス主義への反省,多元主義批判という 異なるコンテクストで国家中心主義Weberianア プローチを打ち出し(Tilly[1975]Ske cpol[1979]. 機』を超えたSchumpeterの理、論構想として提. Evans et.al.[1985]),後述のThelenやSteinmo. 示されている経済社会学との関連である、塩野. らが国家と多様な集団の相互作用,それを規定す る歴史的文脈をより強調する歴史的新制度論を打 ち立てていった.ここでWeberの視点が注目され た背景として多元主義批判,グランドセオリー批 判という70年代の知的状況が強く作用したとい う事実は記憶にとどめておく必要がある、これに 対し,経済社会学と新しい制度論との関係はあま り自明ではなく,旧制度論への言及もほとんどな されていない..Schumpeterは周知のように歴史学. 谷の整理に従えば,人びとがいかに行動し,そ のことがどのような経済的帰結を導くかという. のは経済理論の課題である.一方,人びとの. 行為t動機性向を規定するのは非経済的要 因も含めた社会制度であり,人びとの相互作用. を通じた制度の歴史的変化をあつかうのが経済 社会学だということになる(塩野谷[1988:715] [1998:127]).その当時の歴史文脈や制度の役割. を重視する見方は,1・2において指摘したよう に,ある時には支配階級の意思が受け入れられ,. ある時には異なる人びとの意思が反映されると. 36)あえて断っておけば,経済構造の分析なり 経済変動の分析なりはこうした意思決定過程のあ り方を説明する重要な要因のひとつであることは 重要である.. 37)New lnstitutionalismの包括的な説明に関し ては,赤石[2008],加藤[1997],Hall and Tayler [1996]を参看されたい.. 派の方法論に強い影響を受けていたが.T. Veblen, R. Commons, W、C. Mitchellなどの旧制度学派の. 研究者たちも同様にドイッ歴史学派の強い影響を 受けていたことが知られている(Hodgson[2001: chapter11,12]).また、 Schu皿peter自身,旧制度 学派をG. Schmollerの系譜に位置づけてもいた(塩 野谷[1988:716]).これらの事実から分かるように,. 経済社会学と1日制度学派の間には強い理論的関係 があるのだが,こうした側面への厳密な検討が行 われないなか,あえていえば,何が新しいのか判 然としないまま「新しい」制度論が定着し,さらに,. 近年では経済社会学や旧制度学派がもっとも注目 したところの進化的な視点,非経済的要因の制度 分析への適用が進みつつある(Lewis and Steinmo [MIMEO]Thelen[2004]Blyth[2002]Steinmo [2008])..
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