第 1 章 研究の背景及び目的 平 成 29 年 3 月新しい小学校学習指導要領が公示され,平成 32 年 4 月(令和 2 年 4 月)より新 学習指導要領が全面実施されることになった。この改訂に伴い,それまで高学年において実施され てきた外国語活動が中学年において実施されることになり,さらに,高学年においては新たな教科 として外国語科が設けられ,年間 70 時間の授業を実施することが義務づけられる。 公示された外国語科の目標は,外国語による言語活動を通してコミュニケーションを図る基礎と なる資質・能力を育成することである。当然のことながら,教科としての外国語科であることから, それを指導する教員には外国語活動を指導するよりも高い専門的知識と技能が要求されることにな る。また,授業の運営に際しては,教師が使用する言葉はおもに英語を用いることが求められるこ ととなった。 「小学校英語教科化に関する広島市立学校教員の意識調査」(大牛他,2017)の調査結果からは, 多くの小学校教員は,外国語科導入後の授業実施にあたり,授業中に必要とされる教師自身の英語 力について研修の必要性を感じるものの,できれば外国語科を担当することになる高学年の担任か らは外れたいという思いに加え,日々の業務の多忙さから英語力向上のための研修の機会を持つこ とができないという現状等が明らかになった。 前述の背景と現職小学校教員の現状・ニーズを踏まえると次の 2 点が課題として整理される。 1)新小学校学習指導要領に示された児童の英語能力の定着を目的とした,小学校教員の授業力 の向上が求められている。 2)授業運営に必要となる教室内英語運用能力(英語で指示・フィードバック・児童や ALT との コミュニケーション等)の向上が求められる。 以上のことから,上記課題解決のために必要な講習を開発・実施し,その効果を検証することを もって小学校教員の教室内英語運用能力を向上させ,英語授業力を高めることを本研究の目的とす る。なお,本研究は平成 30 年度比治山大学研究助成費を利用したものである。
現職小学校教員の英語運用能力向上をはかる
効果的なトレーニング方法
─ 外国語科授業運営に焦点を当てて ─
The Effective Training to Improve the English Speaking Abilities
of Elementary School Teachers
― Focusing on Teacher Talk and Instructions in Their English Classes ― 大 牛 英 則
OGYU Hidenori
キーワード:初等英語・教室内英語使用頻度・英語正確性
第 2 章 研究構想 本調査研究を進めるにあたり,海田町教育委員会および海田町内 4 小学校の全面的な協力を得る ことができ,研究組織を次のようにした。 表 1 研究組織(平成 30 年度) 氏 名 所属・役職 役 割 大牛英則 田坂裕一 小林伸二 藤井雅子 比治山大学現代文化学部・教授 海田町教育委員会・教育長 海田町教育委員会学校教育課・課長 海田町教育委員会学校教育課・主幹 本研究における運営統括・講習開発 海田町内 4 小学校の統括・指示 講習案内等による受講者募集と コーディネイト 同上 また,前述の「小学校英語教科化に関する広島市立学校教員の意識調査」から明らかになった小 学校教員の英語授業に関する課題とニーズが,同町内 4 小学校教員の課題・ニーズと照らし合わせ, 本調査研究の研究課題を「外国語科授業運営にかかる小学校教員の英語運用能力向上を目的とした 講習等の開発・実施」とした。 さらに,教育長指示のもと,同町内 4 小学校長に協力を得て,受講生(所管する小学校の教員) の募集をする。受講上限を 30 人とする。募集案内周知およびコーディネイトは学校教育課長およ び主幹があたる,とした。 講習実施にあたっては筆者が担当し,受講生は自身が所属する小学校で,講習内容を活用した授 業を実施しその効果を報告する。報告は授業を記録した動画(USB メモリに記録)とした。 講習の内容および提出された報告の分析については第 3 章および第 4 章に記載することとする。 第 3 章 講習実施 上記の研究構想にもとづき,表 2 に示す講習計画を立て講習を実施した。 表 2 講習計画および内容 日 講 習 内 容 備 考 DAY 1 7 月 4 日 1 講習の目的・計画2 教室英語の種類と自動化練習方法 練習スタートテキスト使用 DAY 2 9 月 19 日 1 練習成果の確認と自己課題の把握 2 授業内での英語活用と音読練習 授業録画(学期はじめ・終わり) 自己練習の継続 DAY 3 1 月 9 日 1 成果の分析2 今後の課題設定 録画提出振り返り 以下に,講習の内容を記すこととする。 3 . 1 DAY1 講習 1 日目では次の 2 点に特化し講習を実施した。
受 講 者 5 ∼ 6 名 で 1 つ の グ ル ー プ を 作 り, 図 2 に 示 す 図 の 中 の 人 物 等 を 指 さ し な が ら, グ ル ー プ 内 の 他 の メ ン バ ー に 図 中 の 人 物 に つ い て 説 明 し た り, 問 い を し た り し ながら対話を繰り返した。 英語で表現する際にはできる限り①反応速度を上げる, ② 肯 定 的 な 表 現 を 選 択 す る よ う に し た。 ま た, ③ 英 語 で 言 い た く て も 何 と 言 え ば 良 い の か 分 か ら な か っ た 表 現 を グループ内対話直後にリストアップし,何と言えば良かっ たのかをグループ内で協議した。 本講習では①∼③に示す 3 点を特に意識して自己トレーニングをすることを強調した。 3 . 2 DAY2 講 習 2 日 目 で は, 授 業 内 で 使 用 す る で あ ろ う 表 現 を 獲 得 す る た め の「15 の 基 本 フ レ ー ズ 」 を 覚 え, 実 際 の 場 面 で ど の よ う に 使 え ば 良 い の か を 体 験 し た。(図 4) こ れ ら の フ レ ー ズ を 使 用 す る に あ た っ て 重 要 な こ と は, 下 例 の よ う に 場 面 や 状 況 に 応 じ て 必 要 な 語 彙 を 入 れ 替 え た り, 付 け 加 え た り し て 使 用 す る と いうことである。
例:図 4 中「4 Draw a red line.」 Draw a blue underline here.
図 1 教室英語の種類
図 3 意識すべきこと
図 4 15 の基本フレーズ
講習 2 日目の最後には,受講者全員に USB メモリを配 付し,2 学期当初と 2 学期末の 2 回の授業を録画し,第 3 回講習にて提出していただくように課題を提示した。 3 . 3 DAY3 本 講 習 3 日 目 は 前 回 ま で の 講 習 内 容 を 振 り 返 り, 教 室 内 英 語 を 使 用 す る 際 の 注 意 点( 図 6) や Teacher Talk(授業中の教師の発話)(図 7)の要点を受講者全員で共有した。 また,本講習を通して獲得した教室内英語を活用する場面として想定される児童の活動を取り上 げ(図 8),どのような指示・発問が必要となるかを協議した。 図 5 活動の指示 図 6 教室内英語の注意点 図 8 児童の活動例 図 7 教師発話の要点
第 4 章 講習の成果および分析 前述の通り,第 2 回講習で提示した課題(授業 2 回分の録画)の中から,さらに本講習を 3 回と も受講した教員 8 人の動画を分析すると以下の結果を得ることができた(表 3)。なお,本調査の 対象項目は担任教員 T1の指示・発問とし,その他の発話については対象としないこととした。 表 3 授 業 中 の 指 示 ・ 発 問 数 担 当 学 年 教 員 授 業 指 示 ・ 発 問 発 話 回 数 英 語 m is ta ke 全 発 話 中 英 語 使 用 率 英 語 正 確 性 授 業 形 態 目 標 ・ 単 元 等 所 感 6 年 A 1 回 目 英 2 0 1 2 8 9% 6 3% 単 独 モ デ ル の こ と を 聞 い た り 言 っ た り し よ う 単 語 の 指 示 が 多 い 。 日 本 語 的 発 音 日 4 英 語 を 少 し で も 使 お う と す る 姿 勢 2 回 目 英 2 4 4 8 8% 8 6% T T 提 示 な し 日 4 6 年 B 1 回 目 英 2 2 6 4 7% 7 9% 単 独 夢 宣 言 を し よ う 日 3 2 2 回 目 英 1 3 2 6 3% 8 7% T T M y B e s t M e m o ry 日 9 5 年 C 1 回 目 英 1 7 3 4 8% 8 5% T T 私 の 1 日 を 紹 介 し よ う 児 童 の 理 解 を 確 か め る の に 日 本 語 を 使 用 日 2 2 2 回 目 英 1 9 2 5 3% 9 0% T T ほ し い 物 を た ず ね た り 答 え ら り す る と き の 言 い 方 を 知 ろ う 児 童 の 理 解 を 確 か め る の に 日 本 語 を 使 用 日 1 9 5 年 D 1 回 目 英 1 3 1 3 6% 9 3% T T 理 想 の M y ro o m を 伝 え 合 お う 日 2 5 2 回 目 英 9 0 4 3% 1 0 0% T T 道 案 内 を し よ う 日 1 2 4 年 E 1 回 目 英 8 2 3 8% 80 % T T 英 語 で 曜 日 の 聞 き 方 を 知 ろ う T 2主 導 で 活 動 を 進 め 、 T 1日 本 語 で 指 示 の 確 認 日 1 6 2 回 目 英 1 4 1 7 9% 9 3% T T い ろ い ろ な 果 物 や 野 菜 を 英 語 で 言 お う T 2主 導 で 活 動 を 進 め 、 T 1日 本 語 で 指 示 の 確 認 日 4 単 語 の 指 示 が 多 い 4 年 F 1 回 目 英 1 4 1 5 4% 9 3% T T ペ ア で テ ー マ に 合 わ せ た オ リ ジ ナ ル ピ ザ を 作 ろ う 単 語 の 指 示 が 多 い 日 1 3 2 回 目 英 1 3 1 4 2% 9 3% T T 私 の 一 日 を 紹 介 し よ う E + J指 示 が セ ッ ト 日 1 9 3 年 G 1 回 目 英 1 2 4 3 2% 7 5% T T 好 き な 〇 〇 ア ン ケ ー ト を し よ う 英 語 を 少 し で も 使 お う と す る 姿 勢 日 3 4 次 第 に 日 本 語 が 多 く な る 2 回 目 英 2 0 4 7 5% 8 3% T T ク イ ズ を し よ う T 2主 導 で 活 動 を 進 め 、 T 1日 本 語 で 指 示 の 確 認 日 8 単 語 の 指 示 が 多 い 3 年 H 1 回 目 英 1 1 3 7 4% 7 9% T T ク イ ズ を し て た く さ ん の 言 葉 を 話 そ う T 2と の や り 取 り 多 い 日 5 2 回 目 英 1 1 0 5 2% 1 0 0% T T い ろ い ろ な 形 や 色 を 言 っ て み よ う 日 1 0
調査結果(表 3)から,さらに英語使用率(表 4)に着目してみると,8 名中 5 名が指示・発問 の英語使用率が増加していることが分かる。使用率が減少した原因として,単元・授業内容が異なっ ていること,または授業形態が Team Teaching ということで T2であるアシスタントティーチャー の発話回数が増えた可能性も否定することができない。 また英語の正確性に着目すると,8 名中 7 名に英語の正確性向上が見られる。唯一工場が見られ なかった教員 F についても,第 1 回目ですでに 93%の正確性があった。授業動画からその正確性 をカウントする際は,「文法的に間違いがない英語」ではなく,いわゆる「許容できる英語」をカ ウントするようにした。結果として 8 名全員が 86%以上の「許容できる英語」を発話したという ことが分かった。 さらに教員 D,H の 2 名は発話したすべてが「許容できる英語」であった。この 2 名に本調査後 にインタビューしたところ,両名とも 1 回目の授業録画以降,2 回目の動画撮影まで,毎回の授業 において「言いたくて言えなかった英語表現」を授業後にメモを残し,英語に堪能なアシスタント ティーチャーやネイティブの ALT に正しい英語を確認して覚え,翌回の授業で使うように心がけ たそうである。 第 5 章 まとめ 本講習を通して受講者に強調したのは次の 3 点である。 1)基本となるフレーズを覚え,場面や状況に合わせて単語や表現を入れ替え,結果的に使用で きる表現を増やす。 2)反応速度を上げる(自動化を図る)ために,獲得した単語や表現はくり返し授業で使用する。 3)授業中に英語で言いたくても言えなかった表現を記録しておき,後にその英語表現を確認し, 翌回から使うように心がける。 本講習で用いた手法は,“Focus-on-form”(Michael H Long,1988)の考えを参考にして教 室英語の獲得に特化したものである。調査結果からは受講者全員に明確な成果を得ることができな かったが,少なくとも「授業改善に向けて教室内英語を獲得する」ことを意識しつつ継続して学習 する教員に対して一定の成果があったと見ることができる。 課題として指摘すべきは,調査の対象となった教員の授業形態がすべて Team Teaching であっ 表 4 英語使用率 1回目(%)2 回目(%) 増減 A 89 88 ▲ 1 B 47 63 16 C 48 53 5 D 36 43 7 E 38 79 41 F 54 42 ▲ 12 G 32 75 43 H 74 52 ▲ 22 表 5 英語正確性 1回目(%)2 回目(%) 増減 A 63 86 23 B 79 87 8 C 85 90 5 D 93 100 7 E 80 93 13 F 93 93 0 G 75 83 8 H 79 100 21
参考・引用文献 藤田保著(2011)『小学校教室英語 先生のための英語練習ブック』アルク ベネッセ教育総合研究所(2010)「第 2 回小学校英語に関する基本調査(教員調査)」 広島県教育委員会(2014)「広島県版「学びの変革」アクション・プラン」 大牛他(2017)「小学校英語教科化に関する広島市立学校教員の意識調査」『比治山大学紀要 第 24 号』 東洋経済 ONLINE,「「小学校の英語教科化」が直面する 4 つの課題」, https://toyokeizai.net/articles/-/201962?page=3,2018 年 1 月 4 日閲覧 文部科学省 a,「広島県英語教育改善プラン」, h t t p s : / / w w w. m e x t . g o . j p / c o m p o n e n t / a _ m e n u / e d u c a t i o n / d e t a i l / _ _ i c s F i l e s / a f i e l d f i le/2018/07/30/1407569_034.pdf,2020 年 3 月 3 日閲覧 文部科学省 b,「小学校における英語教育の現状と課題」, https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/004/siryo/attach/1379938. htm,2020 年 10 月 3 日閲覧