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はじめに(pdf)

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Academic year: 2021

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はじめに

本書は,中・高等学校(数学)の教職を目指す学生,学校教育現場で数 学を指導しておられる先生,さらには広く数学教育に関心のある方々を対 象に編纂されたものである. 日々,日本全国の中・高等学校において,膨大な数の数学の授業が実施さ れている.各先生は,生徒の理解が促進されるよう,一人でも多くの生徒 が数学を好きになってくれるよう,様々な工夫を織り交ぜて授業を行って いる.また,生徒の理解が困難とされる指導内容に関しては,生徒への認 識調査や,教育内容の創造,指導法の改善を試みるといった積極的な取り 組みも行われている.本書は,そうした日々の授業の中で課題となってい る事項に対して,生徒の認識の特徴,指導における要点の整理,数学的な 発展などを示すことで,何らかの解決の糸口を提供できるようにした.い わば,これまでの数学教育学研究で培ってきた成果を,数学の授業に還元 するための具体的な道筋を示すようにしたわけである.加えて,より数学 教育研究を深めたいという方のために,最新の研究成果を掲載するととも に,現在の数学教育学研究における検討課題についても取り上げるように した.したがって,読者の方のニーズやレベルに応じて,本書の中から必 要な箇所をピックアップして読んでいただくことができるようにしてある. ところで,数学教育学研究は,単に既存の数学の内容をわかりやすく教 える方法を検討するということだけが中心的な研究対象というわけではな い.数学自体の発展に対して教育内容をどう構築するのか,各教育内容に ついて生徒の認識の特徴は年齢によりどのように変化しているのか,社会

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ii はじめに 的な要請を鑑みるとどのような数学的内容が今後重視されるようになるの か,国際的な数学教育研究の動向はどのように推移しているのか等,様々 な視点から数学教育を捉えることが数学教育の研究である. たとえば,TV会議システムなどの情報コミュニケーション技術の発展 は,日本にいながら世界の学校と数学の授業交流を行うことを可能にした. 外国の生徒との交流授業の実現は,授業で取り上げる教育内容の世界的視 野での検討や,他者との交流を積極的に導入することが,生徒の創造性の 育成にどのような効果をもたらすのかといった新たな研究課題を生み出し ている.加えて,生徒側にも,コンピュータ,携帯電話など,24時間世界 中と交信可能な様々な機器が揃い,以前とは異なる環境で学習をすること が可能となってきている.また,数学教育研究の国際化は,日本の数学教 育史を考えるにあたって,世界の教育の潮流がどのように日本に影響して きたのか,逆に日本は他国にどのような影響を及ぼしてきたのかといった, わが国の数学教育史を相対的に捉える視点を必要とした.さらには,近年 の脳活動計測装置の急速な発展と普及は,これまでの学習時の行動観察か らでは検出不可能であった学習者の特徴について,新たな知見をもたらす ようになってきた.将来的には,生体情報をもとに学習者の学習過程を解 明するといった点にまで研究が波及していくであろう. このように,まさに社会,技術,生徒の変化に応じて,数学教育学の対 象とすべき内容と方法は常に変動してきており,それらを敏感に察知し, 日々の授業実践に活かしていくことが求められているのである.そして, 本書は,これらの問いに十分に応えることのできる内容構成とした.以下, 各章で扱っている内容の概略を紹介する. 第1章では,数学教育の目標と内容について論じている.前述したよう に数学教育学の目標と内容は,時代ごとの社会や生徒の変化とともに形を 変え続けていくものである.今日の日本にあって,目標と内容はどのよう に形作られるべきものであるのか,その背景を踏まえ解説している. 第2章では,数学学習の評価の問題について論じている.これまでの評 価では,既存の数学の問題を正確に素早く解くことの可否に重点が置かれ てきたが,これからは,生徒が数学を創る力や,発表・交流する力がより

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はじめに iii 求められるようになる.そうした新たな評価のあり方について,具体的な 項目を踏まえ解説している.また,近年の脳活動計測装置の急速な発展に より,学習時の脳内の生理学的データ取得が可能となった.そうしたデー タを用いた数学教育での評価の可能性について言及している. 第3章から第7章までは,それぞれ,集合・論理,代数,幾何,解析,確 率・統計といった5つの分野の教育内容ついて論じている.各章とも,生 徒の認識・理解の特徴,理解困難とされる内容,さらにはその解決策など について,実証的なデータをもとに記述している.併せて,各分野で重点 をおく必要のある教育内容について,その今日的意義や数学的背景との関 係を踏まえ,詳しく解説している. 第8章では,数学教育の新たな展開として,情報コミュニケーション技 術を用いた数学教育の可能性について論じている.1970年代後半よりス タートした数学教育におけるコンピュータ利用に関する研究は,生徒の数 学理解を促進させたり,学校間同士で数学の授業を交流するといった協同 学習の授業形式を生み出した.こうした機器を用いた数学教育が,どのよ うな学習効果をもたらすのかについて具体的な事例をもとに解説している. 第9章では,第二次世界大戦以降の日本を中心とした数学教育史につい て論じている.第二次世界大戦以降,日本の数学教育は,海外の数学教育 と相互に影響を受けあいながら発展してきた.また,教育行政の施策だけ でなく,民間の数学教育研究団体も着実に研究を展開してきており,そう した草の根的な研究の蓄積をも視野に入れた数学教育史を描くようにして いる.歴史を事実の羅列として捉えるのではなく,どのような時代背景の もと,どのような課題が生じ,そしてそれらの課題をどのように解決しよ うとしたのかを,明らかにすることで,現在の教育課題を解決する糸口を 提供することができるよう解説している. なお,本書は,テキストのみでの学習も可能となるよう,各項目とも出 来る限り解説に頁を割き,自学自習で学習をすすめていけるよう心掛けた. また,全体を平易な記述表現で統一しながらも,内容については,最新の 実証的な研究成果を踏まえているため,現在の学校教育現場において,理 論的にも実践的にも役立つものとなっている.

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iv はじめに 本書の分量は「数学科教育法」4単位分を想定している.具体的な使用 方法としては,前半期に,数学教育の概要的内容を扱い,後半期に具体的 な分野の内容を扱うといった方法が考えられる.あるいは,数学教育史は 頁を多く取っていることより,この章をベースに半期分の講義を組み立て ることも可能である. 各章の問題を解くためには,紙と鉛筆だけでなく,身のまわりの様々な 事物を総動員しなくてはならないであろう.頭の中だけで,イメージする ことと,実際に作業をして確かめることとの間には,大きな隔たりがある. 数学もまた,実際的な活動を介して,頭と体で学んでいくべきものである. 実際的な活動から数学的要素を抽出し,それを理論化し,さらに実際的な 活動へと生かしていくというサイクルこそが,数学を学ぶ上での最も重要 な事柄である.硬直した数学ではなく,躍動的な数学に読者自らが取り組 んでいただくことで,学校教育現場で指導する数学もまた,魅力あるもの となるに違いない.数学を生き生きとした魅力あるものとして生徒の前に 提供できる教員が一人でも多く輩出できたとするならば,本書の目的は達 せられたといえる. 最後に,本書の執筆に際し,出版の機会を与えていただいた共立出版㈱ 寿日出男氏,佐藤清俊氏,また各執筆者の文言の統一,校正でお世話になっ た共立出版㈱赤城圭氏,大阪大学大学院博士後期課程の岡本尚子氏に,こ の場を借りて感謝の意を表したい.   2007年12月 編   者

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