中国の子どもの体力,メンタルヘルスおよび学業成績の実態とその相互関連性に関する研究 [ PDF
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(2) 慣との関連性に着目しアンケート調査を行った. 本研究の仮説を図 1 に示す.本研究では点線の箇所に ついて検討する.. 4)統計処理 親の運動習慣と児童の生活習慣との間の関連性につ いて重回帰分析を行った.児童を男女別にそれぞれの体 力の中央値で高体力群と低体力群に区分した.性別にみ た学業成績の比較及び生活習慣の比較にはt検定を用 い,メンタルヘルス特性の有意差検定にはχ 2乗検定を 行った.. 図1. 研究仮説. 5)倫理的配慮 本調査は,九州大学健康科学センター倫理委員会の承. 3.目的 児童の体力,メンタルヘルス,学業成績と生活習慣と の相互関連性を検討する.. 認を得て実施された.また,調査実施にあたり,事前に中 国大連市開発区教育局と董家溝小学校の校長先生の許 可を得た上で,保護者への調査内容の説明を行い,同意 を得た.調査データは ID により管理され,個人が特定で. 4.方法. きないよう配慮した.. 1)対象者 中国の東北に位置する大連市を調査地としました.. 5.結果. 対象者は大連市董家溝小学校の全児童でした.全対象. 1)親の運動習慣と児童の生活習慣. 者は 1001 人で,参加率は 98.9%でした.男児は 551 人,. 表 1 に親の運動習慣が児童の生活習慣への影響につ. 女児は 439 人でした.. いての検討した結果を示している. 男児において,父親の運動習慣の得点は男児の睡眠時. 2)調査時期. 間との間に有意な負の相関があって,児童の食欲との間. 2011 年 9 月. に有意な正相関が認められた(p<0.05).しかし,母親 の運動習慣の得点と児童の運動への興味得点,テレビの. 3)調査内容. 視聴時間および自宅での勉強時間との間に有意な正相. ①体力測定. 関が認められた(p<0.05).. 日本に毎年 11 月に実施される文部科学省の新体力テ. 女児において,父親の運動習慣得点と児童の食欲と運. ストの種目を行った.握力,上体起こし,長座体前屈,20. 動への興味の得点の間に,それぞれ有意な正相関が認め. mシャトルラン,50m走,立ち幅跳びの 6 種目を実施し. られた(p<0.05).一方,母親の運動習慣との相関は認. た.上体起こし,20mシャトルランは 4,5,6 年生のみ実. められなかった.. 施された. ②メンタルヘルス調査 児童の現在のこころの健康状態を客観的かつ簡便 な方法で調べることができる PSI(パブリックヘルスリ サーチセンター版ストレスインベントリー)を用い調 査した. 本質問紙では,33 項目があって,子どものスト レス反応,ストレッサ―およびソーシャルサポート,3 つの側面が評価されます. ③生活習慣に関する質問紙 父親と母親の生活習慣と養育意識について,それぞ れ調査を行いました. 16 項目から構成されています. 子どもの生活習慣についてアンケートで調査を行い ました. 全部で 12 因子,22 項目から構成されています. ④学業成績 小学校より提供された,4~6 年生の調査前年度の中 国語,数学および英語の成績(100 点法)を用いた.. 2)児童の生活習慣と体力 性別にみた児童の体力と生活習慣の関連性を表 2 に 示した. 男女の体力をそれぞれの中央値で高体力群と低体力 群に分け,生活習慣の得点の平均値を比較した. 男児において,高体力群の運動への興味の得点( 1.6.
(3) ±1.5)は低体力群(2.1±2.0)より有意に低かった(p. 群に分け,メンタルヘルス下位尺度に問題ありと判断さ. <0.05).高体力群のパソコンの操作時間(0.3±0.5). れる児童の割合を表 3 に示した.. は低体力群(0.7±0.7)より有意に低かった(p< 0.05).. 男児の低体力群において,友人との関係について問題 あり男児の割合が 15.5%を占めていたのに対し,高体. 一方,女児においては,体力テストスコアと生活習慣 の間に有意な関連性が認められなかった.. 力群における割合はその 6.8%と有意に低かった(p< 0.05).それ以外の項目に有意差は認められなかった. 女児の低体力群において,強い無力感を示す児童の割 合が 21.4%であり,高体力群における割合 10.8%に比べ 有意に多かった(p<0.05). それ以外の項目に有意差 は認められなかった.. 3)児童の体力と学業成績 図 2 に,体力別・性別にみた学業成績(中国語・数学・ 英語)の点数を比較した.男女の体力をそれぞれの中央 値で高体力群と低体力群に分け,学業成績の平均値を 比較した.. 6.考察 これまでの研究では,親と児童の睡眠時間,朝食摂取. 男児においては,高体力群の中国語の得点は(87.2±. などの同一ライフスタイル変数間に有意な相関関係が 10). 15.9)は低力群(91.8±11.1)より有意に低かった. 認められている. (p<0.05).. 生活習慣の関連性について検討した.父親の運動習慣に. 一方,女児においては,体力水準と学業成績との間に 有意な差は認められなかった.. .本研究では,親の運動習慣と児童の. ついて,父親は運動習慣があるほど男児の睡眠時間が長 く,児童の食欲が良くなり,女児の運動への興味が強く なっていた.母親は運動習慣があるほど,男児の運動へ 興味は強くなり,テレビ視聴時間と勉強時間が短かかっ たが,そのような傾向は女児には影響をしていなかった. 男児は女児より,親の運動習慣に強く影響を受けており, それは母親より,父親の影響の方が強かった.児童の健 やかな生活習慣を育成するには,家庭での取り組みが重 要であり,基本的な生活習慣を身につけるためには,大 人が問題意識を持ち児童の手本となっていかなければ ならない.本研究は,親は児童の生活習慣と体力に注目 する同時に,児童と自分の健康のために,生活と運動習 慣の改善の重要性が明らかとなった. 本研究の男児においては,高体力群の運動への興味が. 図 2 児童の体力と学業成績の関連性. 低体力群より有意に強く,パソコンの操作時間は低体力 群より有意に長かった.一方,女児において体力と生活. 4)児童の体力とメンタルヘルス 男女の体力をそれぞれの中央値で高体力群と低体力. 習慣との関連性が認められなかった.男児は運動への興 味が強いほど,運動あるいは遊び時間が長くなる傾向が.
(4) あり,運動あるいは遊び途中に体力が上がる可能性が. 8.今後の課題. 推測された.そして,余暇時に運動あるいは外遊びをし. 今回の研究デザインは横断研究であるため,生活習慣,. ていると,パソコンなどの操作時間は短くなるのかも. 体力,成績およびメンタルヘルスの因果関係は不明のま. しれない.女児の運動への興味は男児より非常に少な. まである.今後,我々はこの因果関係を証明するために,. いため,女児の興味を育成することは教育上重要なこ. 長期的視点に立った縦断研究を行っていく必要がある.. とである. 本研究の結果により,児童の体力と生活習. 児童の良好な体力を維持する要因として, 例えば,運. 慣との間の強い関連性は認められなかった.. 動習慣,運動強度など,児童の普段の生活習慣に限らず,. 体力テストの総合得点により,児童を高体力群と低. さまざまな側面について分析していくことがこれらの. 力群に分けた場合,男児の高体力群における,中国語の. 問題解決にとっては重要であると考えられる.そして,. 点数は有意に低かったが,女児において有意な差は認. 体力テストや学力テスト以外の運動や勉強を評価する. められなかった. 小学校の中国語の授業は日本の国語. ことも必要である.さらに,児童の身体活動量を客観的. の授業と同様に,最も基礎的重要な科目である.高体力. に測定し,児童の体力,身体活動,メンタルヘルスと学業. 群の男児は遊ぶ時間が長いので,中国語の授業内容を. 成績との関連性をより詳細に検討していくことが課題. 勉強する時間が少ない.一方,低体力群の男児は,運動. である.. をする時間と遊ぶ時間より勉強をする時間が長いので, 中国語の成績は高体力群より高いと考えられる. 本研究では,児童のメンタルヘルスと学業成績の関. 8.引用文献 1). 村 田 光 範 : 子 ど も の 生 活 習 慣 病 青 少 年 問. 連性を,明らかになった.男女児とも,無力感,学業に関. 題,51(10):16-24,10,2004.. する悩みがある児童の全科目の成績は低かった.そし. 2). て,女児においては,身体的反応,抑うつ,および友人関. study on relationship of body mass index and blood. 係に問題あり群の成績も問題なし群より低かった.児. pressure in children and adolescents of Beijing. Chin J. 童の学業成績が良くないことは,学業に関する悩みを. Epidemiol,25(2):109-111,2004.. 強くさせる.そして,学業成績が低い児童の人間関係は. 3). 良くないので,助けてくれる友人が少なく,無力感を感. 審議会,2002.. じやすい.抑うつや友人関係についても問題が発生し. 4). やすいのではと推測された. 7.結論 児童の生活習慣と体力の間には,ほとんど関連性が 認められなかった.本調査における児童の生活習慣に 対する質問紙では,児童の運動習慣と身体活動量に関 する質問はなかった.普段の生活習慣より,児童自身の 運動習慣および運動強度は体力への影響が強いと考え られる.今後,このモデルを基に縦断研究をする必要が ある. 現在,中国では家庭でも学校でも児童の成績だけに 注目しすぎでいる現状がある.小学校の学校教育では, 児童の体力を向上させるために,体育教育の内容を改 善し,運動クラブを創設することが重要だと考えてら れる.親の運動習慣は児童の生活習慣に強い影響を与 える因子である.しかし,本研究の結果から,父親にも 母親にも運動習慣がある家庭の割合は 20%未満であっ た.親は児童の発育,発展と自分自身の健康のため,生 活習慣特に運動習慣には十分に注意しなければならな い.. Wang WJ,Wang KA,Chen CM,Cao RX,Bai YM,Gao Q:The. こどもの体力向上のための総合的な方策について,中央教育. 中国政府教育部:学生体力・健康状況.2003.. 5). 「子どもを元気にするための運動・スポーツ推進体制の整備」. 日本学術会議,健康・生活科学委員, 健康・スポーツ科学分科 会 6). 平成 20 年 8 月 28 日. 豊かな心と健やかな体をはぐくむ,平成 19 年度,文武科学. 白書,第1部,第 2 章,第 2 節. 7). 宮下和,本山貢,木場田昌宣部:小学生の生活習慣が体力に. 及ぼす影響について.和歌山大学教育学部教育実践総合セン ター紀要,20,2010. 8). 長野真弓,足立稔,熊谷秋三ほか:地方都市郊外の公立小学. 校子どもにおける体力とメンタルヘルスに関する調査報告, 心理社会的支援研究. 2,67-79,2012-03-31.. McCarthy.WJ, Roberts.CK :Low aerobic fitness and. 9). obesity are associated with lower standardized test scores in children, The Journal of Pediatrics ,156(5):711-718, May 2010. 10). 平山素子:子どもの生活リズムと親の生活リズム,子どもと. 発育発達,9(1):24-29,2011..
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