国 際 通 貨 体 制 に つ い て の 一 考 察
阪
口伸 六 郎
国 際 通 貨 体 制 に つ い て の 一 考 察
はしがき
今日世界経済における最大の問題は︑一つはアメリカのドル防衛問題であり︑他は後進国援助問題であろうが︑二
つの大戦を経験した人類は︑国際通貨体制に関しては世界経済の安定と進歩を促進し︑世界の交易を拡大する体制を
うちたてるべく︑国際連盟や国際連合を中心に懸命の努力を払って現在に至っているのである︒
ドル防衛問題というのは︑一九五七年までは安泰であったアメリカの国際収支が︑五八年を境として急激な悪化を
みせ始め︑これと平行してアメリカからの金の流出も増加して世界の話題となったものであるが︑六〇年に入ってか
らは収支も流出もともに一段と深刻な問題となり︑同年十一月十六日アイゼソハワー大統領はドル防衛緊急対策を発
表し︑アンダーソン財務長官︑ジロソ国務次官らが十一月に西独︑フランス︑英国を往訪してドル防衛の協力を懇請
し︑十二月バーター国務長官は︑緊急対策の強化策として︑国際協力局(ICA)援助資金に国産品優先購入方針を
適用するように指令したことをさすのである︒これらのドル防衛策の効果については︑各方面で種々論議されている
が︑アメリヵがこのような対策を打出さざるをえない情勢に追込まれたことに対して︑ドル中心の現下の国際通貨体
制の崩壊という犠牲を避け︑否︑むしろ国際通貨としてのドル防衛を講じて世界通貨の観点から︑国際決済手段を前
進せしめる体制をうち出さねばならなくなったと観測されている︒
後進国援助問題というのは︑後進国のドル不足を改善し︑国際流動性を確実にせんとするものである︒世界のドル
不足は一九五八年に至って一応解消したが︑後進国には逆にドル不足が進行して︑先進国︑後進国間のドル保有の格
差は著るしく拡大したのである︒このことは世界経済の拡大の上に重大な墜路となっている︒後進国ドル不足の原因
としては︑先進国向原材料輸出の減退と人口の圧力とがあり︑東西冷戦の激化につれて援助競争はますます熾烈化を
極めているが︑アメリカの援助能力の低下が援助内容の悪化を結果してはならないのである︒五九年十二月︑六〇年
十一月と相次いでアメリカと西ヨーロッパ主要国との間で援助肩代りのための交渉が行なわれたが︑現状においては
みるべき成果はあがっていない︒後進国援助国際機関としては第二世界銀行(国際開発協会︑IDA)が一九六〇年九
月に発足したのを始め︑後進国援助グループ会議(DAG)の具体化︑アメリカの開発借款基金(DLF)の六一年度予
算額急増等であるが︑実際問題として今のところ援助額は少なく︑後進国の要望金額に対して著るしく不足している︒
このドル防衛問題と後進国の問題に対しては︑トリファン教授のいうように︑今日の国際通貨基金(IMF)の体
制を改組しない限り問題は根本的に解決されないであろう︒小論において将来アメリカがドル防衛を達成した時には
国際通貨体制の再検討が必至となるであろうから︑その場合に対するわたくし自身の参考となる理論面と政策面との
ささやかな交渉の探究を試みる次第である︒
二金問題
金本位制度の機構は︑理論的には国際間における金の自由なる移動と︑国内通貨量の金による規制とを通じて︑国
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際的金分配均衡による国内均衡が︑国際経済均衡を媒介として実現されることを予定するものである︒しかし︑実際
に現実としては国際的金分配均衡化は実現せられたことはなかった︒国際貨幣としての金は︑或る国には必要以上に
集中し他の国ではその欠乏に悩み︑その結果金生産の国際的分布の不均等や金偏在の激化をきたし︑国際通貨体制の
根本問題として解決を要する不安を生ずるに至ったのであった︒
そもそも︑金本位制度の運営には金の国際的自由移動と通貨の金準備発行とを必要条件とするから︑金生産に恵ま
れない国は常に圧迫を感ぜざるをえなかったのである︒その上為替の固定や通貨の金党換︑金現送の自由の確保に苦
慮することが︑後進国にとっては堪ええない負担となり︑そのため自由貿易の下において先進国に対して原料提供国
として甘んじ︑その工業的発展は押えられ︑先進国からの投資を待つ以外に金保有を期待しえなかった︒これと同様
に︑今日に在っては自由世界はドル本位制度に支えられているが︑ドル不足やドル過剰問題については充分なる検討
を迫られているものと考えねばならない︒後進国援助の問題を解決しない間は︑国際通貨体制の改革も目的を達しそ
の成果を期しえない所以である︒
昔から人類は黄金の魔力にとらわれてきた︒現在では黄金は通貨と関連しているので︑金の将来の行方が問題とな
るのである︒現今では黄金に基礎をおいた通貨をもっている国は一つもないといえるし︑通貨の価値を決定するため
に︑現在なお黄金が用いられているのであるということもできる︒もちろん︑このことは金の機能の重要性を充分に
示していると考えられるが︑金の買上げ価格や固定された為替相場が︑その国の価格体系の維持や通貨価値安定とは
殆んど関連がないのである︒理論的には︑ある]国の通貨を世界各国の通貨準備の基礎として採用することは可能で
あるが︑今後どのような協定が結ばれても︑金と結びつけることによる以外に信頼はえられないであろう︒このこと
が︑金が今日なお通貨準備の本質的構成要素であるとみなされているのである︒今後世界がどのようなものになるに
せよ︑各国が各々国内均衡と国際均衡とを同時に達成しようと懸命に努力することが︑すべての国にとって義務づけ
られているといわねばならない︒金本位制度のルールとか︑黄金の紀律とか︑金融の掟とかに従うべきである︒ゲ!
ムのルール︑金本位の原理︑"ネタリー・ディスシップリソを守るべきである︒
世界の多くの国々︑特にアメリカやイギリスは通貨制度に関して根本的な再検討の必要に迫られているが︑今日ま
で長い間金は財貨を代表し財貨の交換の媒介および国際間の決済手段として尊重されてきたが︑金が通貨の基準であ
り価値の尺度であるという機能は︑貿易・為替の自由化の円滑な促進の障害となり︑この機能自体が幾多の弱点をも
っているところから︑すでに十数年前から改革を要するものと考えられてきた︒
トリファソは国際的協力による管理通貨制度を主張し︑ω世界経済の発展に順応するための通貨準備として︑金の
供給は不足であり配分は当をえていない︒②ドルとかポソドのような特殊の通貨を国際的通貨準備とすることは︑一
九三一年の経験が証するとおり世界的な通貨危機をもたらすおそれがある︒㈹デフレ防止のために国が通貨準備率を
引下げたり︑過度の外国借入れを行なったり︑あるいは貿易および為替に制限を加えることは︑個人投機者による為
替取引きよりも実害が大きいものであると説いている︒要するに︑彼は従来のIMF機構の個々の国の通貨準備制度
を改めて︑国際的な中央銀行による準備基金を設ける制度に発展させようとするもので︑この国際中央準備制度は急
速に実現することを避け︑慎重漸進的な方法で実現を期すべきであると述べている︒
金が世界的に流通通貨となったのは十九世紀中頃からである︒金を通貨基準とする制度自体は世界経済の発展に適
合しなくなっているに拘わらず︑人類の金偏重の因習観のために︑相変らず各国において通貨の混乱と矛盾とを繰返
しているのである︒現在のままでは︑世界通貨的硬貨から金への大量の移動が投機者によって行なわれて︑国際通貨
体制上の禍根となっている︒これを改めるためには︑人類の金に対する因習的偏見を是正する必要がある︒
国 際 通 貨 体 制 に つ い て の 一 考 察
昨年十月ロソドン自由市場における金相場の急騰によって金価格異変が生じたが︑これこそ金問題の現在の集約さ
れた表現といってよいであろう︒これに対して︑アメリカは昨年から種々のドル防衛策を講じているが︑アメリカ自
体としてのドル問題としては︑昨年十二月のトリファソ証言(日本経済新聞昭和三+六年二月+四日世界経済の焦点)によ
れば︑アメリカの対外収支の赤字は貿易出超の増大とアメリカ・ヨーロッパ間の金利調整によって解決ができ︑一九
五九年末以後のアメリカの輸出増大は予想以上であり︑十分に時をかせばアメリカの対外収支は均衡を回復するとい
うのである︒
アメリカの金流出の基本的な原因が継続的な国際収支の赤字であるとすれば︑その赤字が構造的なものであるかど
うかが問題であるが︑国際通貨基金総会におけるヤコブソン専務理事の演説(一九六〇年九月二+八日)︹日本銀行﹁調
査月報﹂昭和三+五年+一月参照︺によれば︑一九五八︑五九年におけるアメリカ国際収支の赤字は西ヨーロッパ諸国に
おける巨額の黒字と対応するものであり︑アメリカの収支均衡化傾向はヨーロッパにおける黒字の減少と見合ったも
のということができようというのである︒ハソセソもヤコブソンも金ドルバラソスに関して︑二五パーセントを金で
準備しなければならないと定めているところの連邦準備法(]リゴO国OαO↓曽一閑ΦωO肺くO︾6け)の条項を廃止すべきであり︑
ドル・バランスのすべての外国保有者に対して固定した金との交換保証を与えることによって︑将来起るであろう金
流出をストップすべきであるというのである︒しかし︑廃止しなくても支払準備率の引き下げによる対外金準備の増
大を図ってもよいとわたくしは思うのであるQ
トリファソ証言の結論は︑アメリカが全く不必要なドル切り下げをやらねばならぬ羽目に陥ることを未然に防止す
るには︑外国の手持ちしているドル資金を国際通貨基金に引き渡し︑基金はそれに対し交換性と金塊交付の保証を与