牛に子宮内感染するウイルス病に関する研究
永山 矩美子
2016
2
目次
第 1 章 緒論 ... 5
第 2 章 牛胎子血清からの ウイルス分離とその同定 ... 11
2.1
序論 ... 12
2.2
材料および方法 ... 12
2.2.1
検査血清 ... 12
2.2.2
細胞培養 ... 13
2.2.3 BVDV-nCP
の検出 ... 13
2.2.4 CPE
陽性ウイルスの分離 ... 14
2.2.5 CPE
陽性分離ウイルスの理化学的性状試験 ... 14
2.2.6 CPE
陽性分離ウイルス感染細胞のギムザ染色 ... 15
2.2.7 CPE
陽性分離ウイルスの次世代シーケンサーによる遺伝子解析 ... 15
2.2.8 Reverse transcriptase-polymerase chain reaction(RT-PCR) ... 16
2.2.9 CPE
陽性分離ウイルスの中和試験による同定 ... 16
2.2.10 CPE
陽性分離ウイルスの赤血球凝集活性(HA 活性)試験 ... 16
2.3
結果 ... 17
2.3.1 BVDV-nCP
の検出 ... 17
2.3.2 CPE
陽性ウイルスの分離 ... 17
2.3.3 CPE
陽性分離ウイルスの理化学的性状試験 ... 17
2.3.4 CPE
陽性分離ウイルスのギムザ染色像 ... 17
2.3.5 CPE
陽性分離ウイルスの遺伝子解析 ... 17
2.3.6 CPE
陽性分離ウイルスの中和試験による同定 ... 18
2.3.7 CPE
陽性分離ウイルスの
HA活性 ... 18
3
2.4
考察 ... 18
第 3 章 牛胎子血清を使用した牛ウイルス性下痢ウイルス 子宮内感染の調査 ... 26
3.1
序論 ... 27
3.2
材料および方法 ... 28
3.2.1
検査血清 ... 28
3.2.2
細胞培養 ... 28
3.2.3
中和試験 ... 28
3.2.4 BVDV
のダイレクトシークエンスと系統樹解析 ... 29
3.3 結果 ... 29
3.3.1 BVDV
に対する中和抗体の陽性率 ... 29
3.3.2 BVDV-nCP
の遺伝子解析 ... 30
3.4 考察 ... 30
第 4 章 牛パラインフルエンザウイルス
3型の垂直感染および免疫寛容牛の調査 ... 35
4.1
序論 ... 36
4.2
材料および方法 ... 37
4.2.1
検査血清 ... 37
4.2.2
細胞培養 ... 37
4.2.3 BPIV-3
に対する中和抗体の検出 ... 37
4.2.4
ウイルス分離試験 ... 38
4.2.5 BPIV-3
追加免疫試験 ... 38
4.2.6
免疫異常の否定試験 ... 39
4.3
結果 ... 39
4.3.1 NZL
産および
AUS産
FBSにおける
BPIV-3中和抗体... 39
4.3.2
国内の各農場で飼養されている牛の
BPIV-3中和抗体 ... 39
4.3.3 BPIV-3
中和抗体価の低い個体からのウイルス分離 ... 40
4
4.3.4 BPIV-3
追加免疫試験 ... 40
4.3.5
免疫機能の確認 ... 40
4.4
考察 ... 40
第 5 章 総括 ... 48
謝辞 ... 54
引用文献 ... 55
5
第 1 章
緒論
6
牛の繁殖障害は生産性の阻害要因として重要であり、その原因は生殖器の異常以外に も直接的な感染性要因と間接的な非感染要因があり、非常に多岐にわたる(3, 10, 48, 50)。
非感染性の要因として、遺伝子異常、栄養不良、環境不良や管理技術の不備等がある。
感染性の要因としては、細菌性、ウイルス性、寄生虫性等の病原体が挙げられる(3)。
中でも牛の流産、胎子死、奇形等の原因としてウイルス性によるものが大きな割合を占 め、これによる感染性異常産は特に重要である(33)。牛の飼育は大規模化しており、省 力化や合理化が図られていることに伴い、農場では子牛や育成牛の移動が頻繁に行われ、
流通が広域化することにより様々な病原体が持ち込まれる結果を招いている。主要な病 原体に対してはワクチンの開発が進められ、それらによる疾病の大きな流行は収束しつ つあるが、今なお感染症が疑われる原因不明な流産が多発しており、未知なる異常産の 原因が存在する可能性が考えられる(33)。
牛に異常産を起こすウイルスの中で、アカバネウイルスやチュウザンウイルスをはじ めとする節足動物媒介性のウイルスは季節性を伴って大規模に発生する(16, 38, 50, 52,
83)。アカバネウイルスやアイノウイルスは胎子に内水頭症や関節湾曲を伴う体形の異常等を起こす(38, 83)。チュウザンウイルスは胎子に体型異常は示さないが、水無脳症 や小脳形成不全を伴う先天異常を起こす(15, 51)。これらは日本で初めて分離され、病 原性が解明されたウイルスで(15, 52, 81)、特定の胎齢時に子宮内感染した新生子牛は、
起立不能、歩行困難、哺乳力欠如となり発育できない。これらウイルスに対してはワク
チンが開発されており、その適切な投与により発生を制御することができる。しかし近
年、オーストラリアにおいて牛および吸血昆虫のヌカカから分離されたピートンウイル
ス、ヨーロッパ北部で発生が報告されている胎子にアカバネウイルスのような体形異常
を示すシュマレンベルクウイルス、アフリカやアジアで確認されたサシュペリウイルス
やシャモンダウイルスといった異常産を起こすことが疑われている新たな節足動物媒
介性ウイルスの発見が続いており、それらの多くは国内でも分離されている(13, 41, 87,
88)。7
一方、感染牛から直接接触、間接接触あるいは空気伝播により感染するウイルスで子 宮内感染をするウイルスとして、牛ウイルス性下痢ウイルス(Bovine viral diarrhea virus;
BVDV)、牛ヘルペスウイルス1(Bovine herpes virus-1; BHV1)、牛パラインフルエン
ザウイルス3型(Bovine parainfluenza virus-3; BPIV-3)、牛RSウイルス(Bovine respiratory
syncytial virus; BRSV)、牛パルボウイルス(Bovine parvovirus; BPV)、牛アデノウイルス(Bovine adenovirus; BAdV)、牛エンテロウイルス(Bovine enterovirus; BEV)等のウ イルスが知られている(4, 11, 12, 17, 29, 37, 53, 75)。これらウイルスは病原性が弱く不顕 性感染することが多く、主症状は呼吸器症状や下痢などで異常産ではないが、成牛と比 較して感受性の高い胎子に対しては何らかの障害を起こす可能性がある。
これらの中で現在異常産の原因として最も問題となっているのはBVDVである。
BVDVは鼻汁や糞便を介して伝播され、ほとんどの牛生産国において蔓延しており、成
牛が感染すると一過性の発熱、下痢を発症して終生免疫を獲得する(1)。しかし、妊娠 牛に感染すると、胚死滅、流産、先天的な奇形、死産、免疫寛容による持続感染牛の出 産といった生産性損失と関連する疾病を招く(11, 53)。特に免疫寛容による持続感染牛 は他の個体への感染源となるとともに、将来粘膜病を発症するという危険性がある(2,
7)。BVDVは5’UTR領域に基づきBVDV 1型とBVDV 2型の2つの遺伝子型やその亜型に分類される(57, 58, 63, 67)。カナダや北米で高病原性のBVDV 2型が分離され(60)、さら に近年になって遺伝子型の異なるBVDV 3型が新たに加わり、未だ世界的にその流行が 後を絶たず、その経済的損失は多大である(9, 19, 43, 58, 60)。
BHV-1は牛伝染性鼻気管炎の病原ウイルスで、1955年に牛流産の原因病原体として初
めて報告され(47)、その後各地で分離された(6, 44)。日本での初発は1970年に北米から 牛を導入した農場における呼吸器病と流産の集団発生で、その後全国に蔓延した(55)。
主症状は粘液性、化膿性の鼻漏を伴う上部呼吸器症状で、元気消失、食欲減退、発熱、
発咳、呼吸数増を示し搾乳牛では泌乳量の減少がみられる(56)。しばしば結膜炎を伴う
流涙がみられ、重症例では化膿することがある。また、稀に脳炎を起こすことが報告さ
8
れている。主な感染源は感染牛の鼻汁、流涙、生殖器の分泌物で、これらに汚染された 埃、飛沫、エアロゾルを吸引することで経気道感染が成立する。また、交尾や汚染精液 により生殖器感染も起こる。潜伏感染するウイルスのため、免疫機能が低下した際に再 度ウイルスが活性化し、再発することもある(59)。そのため妊娠牛では臨床症状を呈す ることなく突然流産を起こすことがある(45)。病原性が強いため感染胎子は速やかに死 流産を起こすと考えられているが(29)、死流産を免れる場合もある様で、牛胎子血清
(fetal bovine serum; FBS)からは抗体が検出されている(49, 74, 84)。
BPIV-3は、輸送熱の一因として知られ、1959年に輸送熱を呈した子牛の鼻汁から最初
に分離された(62)。世界各地で年間を通じてみられ、接触感染や飛沫感染によって伝播 し、年齢、地域、季節等に関係なく発生する(22)。不顕性感染が多いが、環境や宿主側 の様々な要因により発症することもあり、主な症状は元気消失、食欲減退、一過性の白 血球減少、発熱、鼻漏、発咳、上部気道炎による呼吸器症状である(66)。他のウイルス や細菌との混合感染によって症状は悪化する。乳房感染も知られており、乳房の腫脹、
発熱、疼痛を生じ、乳汁は凝固する(31, 32)。流産胎子からBPIV-3を分離した報告や(78)、
そのウイルスを胎齢128~154日の牛胎子に接種すると抗体が上昇し流産が起きたとい う報告があるが(77)、その流産胎子からBPIV-3は分離されなかったことや(70, 77)、
BPIV抗体陰性牛にBPIV-3を接種しても子宮内感染が成立しなかったという実験報告もあり
(28)、妊娠牛に感染すると流産を起こすという証明は不十分である。FBSや流産胎子からは抗体が検出されている(12, 49, 76, 84)。
BRSVは発熱と呼吸器症状を主徴とする急性伝染病で、1967年にスイスで報告され、
日本では1968年に発生が認められている(26)。主に呼吸器症状を呈し、
5~6日の稽留熱、湿性の咳、呼吸促迫、鼻漏、泡沫性流涎、元気消失、食欲減退を呈し、重症例では皮下
気腫がみられる(26, 86)。伝播は咳やくしゃみによる飛沫感染である。妊娠牛では流産
が報告されているが、胎子感染は起こらないと考えられている。しかし、FBSからは抗
体が検出されている(17)。
9
BPVは健康な牛の腸管から分離され、その後腸炎や呼吸器症状を起こした牛の下痢便
や気管拭い液から分離されているが、不顕性感染が多いと考えられている(86)。実験感 染では下痢、呼吸器症状、結膜炎等が報告されている。ウイルスは感染牛の鼻汁や糞便 等に排泄され、これら汚染物による経鼻、経口感染が主な伝播様式である。一方、豚の パルボウイルスは子宮内感染を起こし、日本脳炎と同様な死流産や異常産を起こす(8,
21)。パルボウイルスは活発に分裂している細胞をターゲットとするため、その条件を満たす胎子組織は最適な的となる。妊娠初期の牛でBPV感染による流産が報告されてお り(75)、流産胎子や胎盤には水腫性の病変が観察されている(18, 42)。FBSからも比較的 高率に抗体が検出されている(18, 68, 84)。
BAdVは子牛の多発性関節炎や虚弱症の一因と考えられているが、国内の放牧牛の間
に蔓延している。ウイルス株により病原性の強さに差がみられる。通常、発熱とともに 発咳、食欲減退、鼻炎、気管支炎、肺炎等の呼吸器症状、カタル性腸炎による様々な程 度の下痢、角結膜炎等が単独または複合して認められる(61, 64, 82)。国内では7型に属 するFukuroi株が出血性腸炎を起こす強毒株として知られている(25)。ウイルスは感染牛 の鼻汁、尿、糞便等に排泄され、これら汚染物による経鼻、経口感染が主な伝播様式で ある。BAdVはリンパ節や腸管粘膜で増殖し、一部は血流を介して全身の臓器に分布す る。従って生殖器官への伝播も起きていると考えられる。そして症状が治まっても長期 間、糞便中や尿中に排泄される。異常産との関連は明確ではないが、
FBSから抗体が検出されている(68)。
BEVは下痢、呼吸器病、乳房炎等を示す牛から分離されているが、健康牛の糞便や口
腔内からも分離されている(5)。繁殖障害を示す牛の精液や子宮分泌物、胎盤や流産胎 子の臓器からも分離されており、異常産との関連性が疑われているが確証はない(12)。
FBSからは抗体が検出されている(37)。
この様に牛異常産の原因は感染性、非感染性を問わず非常に多岐にわたるが、感染症
が疑われる原因不明な異常産も数多く報告されており、これらの原因をいち早く究明し、
10
予防対策を講じることは重要な課題である。本研究は、牛に子宮内感染するウイルスの 感染状況やその動向を把握し、防御対策を講じるための知見を得ることを目的としてい る。第2章では3種の細胞を使用して2,500個体を超えるFBSからウイルス分離を行い、子 宮内感染を起こすウイルスを調べた。第3章では、第2章で分離したウイルスの中で異常 産の原因として問題となっているBVDVについて子宮内感染の現状について調査をし た。続いて第4章では、第2章で分離したBPIV-3について、子宮内感染によって異常産が 起こる可能性や、子宮内感染した胎子に生ずる可能性のある病態について考察を行った。
本研究が牛ウイルス性異常産を制御していく上で新たな知見として寄与できることを
期待する。
11
第 2 章
牛胎子血清からの
ウイルス分離とその同定
12 2.1
序論
ウイルス感染による異常産には、母牛の胎盤が機能障害を受ける場合と、子宮内感染 を受けた胎子が発病する場合がある(3, 48)。胎盤機能障害を受けた母牛が異常産を呈す る場合は、比較的診断が容易である。しかし、母牛が特に臨床症状を呈していないにも 関わらず胎子感染が成立する場合は、異常産が起こるまでその感染に気付かないことが 多く、原因不明の異常産として扱われる可能性が高い。胎盤に病変を起こすことなく胎 子に子宮内感染をして異常産を起こす代表的なウイルスとして
BVDVが知られている。
また、既報の牛胎子や初乳未摂取の子牛血清の抗体調査において、
BAdV、BEV、BHV1、BPIV-3
等の
BVDV以外のウイルス抗体も検出されている(33, 49, 68)。初乳未接種の子
牛においては経産道感染や生後すぐの感染も考えられるが、牛では移行抗体は初乳を介 して母牛から授与されるため、
FBSからこれらウイルスの抗体が検出されたことは、子 宮内感染をしたことを示している(71, 80, 89)。これらウイルスの持続感染牛が出生する という報告はないが、病原性の弱いウイルスの一時的なウイルス血症でも、免疫機能が 未完成で感受性の高い胎子では、それが異常産の原因となる可能性が考えられる。
本章では、生物学的製剤の製造を目的として
2009年度から
2014年度にかけてニュー ジーランド(NZL)、オーストラリア(AUS) 、ドミニカ共和国(DOM)の諸外国から 日本に輸入された
FBSを使用して、 干渉法を利用した非細胞病原性
BVDV(BVDV-nCP)
の検出を行い、さらに細胞変性効果(CPE)を指標として
3種の細胞を用いてウイルス 分離を試み、子宮内感染をするウイルスを検索するとともに、それらが繁殖障害の原因 となる可能性を検討した。
2.2
材料および方法
2.2.1検査血清
生物学的製剤の製造を目的として、2009 年度から
2014年度にかけて
NZL、AUS、DOM
の諸外国から日本に輸入された
FBSを使用してウイルス分離を行った。分離試験
13
の際に培養液が混濁し、雑菌が混入していると判明した検体に対しては
450 nmのフィ ルター(Millex Millipore)を通過させたものを使用して再試験を行った。試験に用いた
FBSの採取年度、国名および個体数を表に示す(表
2-1)。2014
年度
DOM産
FBSは
7あるいは
8個体を混合した状態で輸入されたので、混合 血清を
1検体として試験を行った。陽性率を表示する場合は、分母にその個体数を分子 に陽性数を使用した。それらの検査個体数は合計
2,758となる。
NZL産の血清は各年度
1農場のもので、
AUS産および
DOM産の
FBSはそれぞれの国において複数の農場から
1箇所の屠場に集められたものである。
2.2.2
細胞培養
牛胎子筋肉由来初代細胞である
Bovine fetal muscle細胞(BFM 細胞)、牛腎臓由来株 化細胞である
Madin-Darby bovine kidney細胞(MDBK 細胞)およびハムスター肺由来株 化細胞である
Humster lung細胞(HL 細胞)の異なる
3種の細胞を使用した。BFM 細胞 は屠場から入手した胎齢約
6か月の牛胎子の臀部の筋肉を細切し、通常のトリプシン消 化法で作製し、継代数は
10代以内で使用した。 BFM 細胞は
10 % FBSを含む
Eagle’s MEMで、
MDBK細胞および
HL細胞は
5 % FBSおよび
0.3 % tryptose phosphate broth(TPB)
を含む
Eagle’s MEMを用いて
37℃で培養した。BFM細胞と
MDBK細胞は本試験が牛
を宿主とするウイルス分離試験であること、HL 細胞は節足動物媒介性ウイルスに高感 受性であることを理由に選択した。
2.2.3 BVDV-nCP
の検出
96 well
プレートに
Eagle’s MEMで
2倍階段希釈した検査血清を
50 μl入れ、1.0×10
5cells/ml
に調製した
50 μlの
BFM細胞浮遊液を加えた。各検査血清につき
4 wellを使用
した。37℃で
4日間培養後、2 well に
1,000 TCID50に調整した
BVDV-CP Nose株
50 μlを混合し、さらに
37℃で 4~5日間培養した。Nose 株の
CPEが生じなかった
wellを
14
BVDV-nCP
が増殖していると判断した。BVDV Nose 株の接種をしなかった
2 wellの培
養液を採取し、BFM 細胞で継代したものを分離ウイルスとして各試験に使用した。
2.2.4 CPE
陽性ウイルスの分離
Eagle’s MEM
で
2倍希釈した検査血清と
Eagle’s MEMで
1.0×105 cells/mlの細胞濃度に 調整した等量の
BFM細胞、MDBK 細胞、HL 細胞の各細胞浮遊液を混合し、37℃で最 低
1週間培養した。CPE が確認されなかった場合は
Blind passageを
2回繰り返した。
Blind passage
は検査血清を接種した培養細胞の培養液と
Eagle’s MEMを等量混合し、
FBS
として検査血清を
1/5量加え、Eagle’s MEM で
1.0×105 cells/mlの細胞数に調整した 各種細胞浮遊液を
2倍量加えて同様に培養した。
Blind passageを
2回繰り返しても
CPEが確認できなかった
FBSはウイルス分離陰性と判断した。
2.2.5 CPE
陽性分離ウイルスの理化学的性状試験
各種細胞から分離したCPEを示すウイルスの理化学的性状を調査した。分離ウイルス はいずれもMDBK 細胞でCPEを伴って増殖したので、本試験では96 wellプレートに
1.0×104 cells/wellの細胞濃度に調整し24時間培養したMDBK細胞を使用した。培養細胞
の培養液を吸引除去し、維持培養液として0.3 % TPBを含むEagle’s MEMを100 μl/wellず つ加えた。それらに0.3 % TPBを含むEagle’s MEMで10倍階段希釈した検査材料を1希釈 につき4 wellを使用し、
1 wellにつき100 μlを接種した。5日間培養後CPEの出現を指標に感染価を測定した。
分離ウイルスの核酸型の判定は5-iodo-2'-deoxyuridine(IUDR)を含む培養液中での増 殖試験により行った。10倍階段希釈をしたウイルス液をMDBK細胞に接種し、Eagle’s
MEMに溶解したIUDRを最終濃度が10-4 Mとなるように添加し、ウイルス感染価を測定
した。対照としてIUDR非添加の培養液でのウイルス感染価を測定した。
エンベロープの有無を調べる試験はエーテル抵抗性試験により行った。分離ウイルス
15
液と等量のジエチルエーテルを氷冷下で時折撹拌、混合しながら1時間放置したものを
1,000 rpmで5分間遠心し、液層を採取し10倍階段希釈を行い、培養細胞に接種してウイルス感染価を測定した。対照としてジエチルエーテル非添加のウイルス液の感染価を測 定した。
ビリオンの大きさの測定はフィルターの濾過試験で行った。分離ウイルス液を200 nm、
100 nm、50 nmの各フィルター(Millex: Millipore)を通過させ、その通過液を10倍階段
希釈して培養細胞に接種し、
37℃で培養して感染価を測定した。対照としてフィルターを通す前のウイルス液を使用した。
2.2.6 CPE
陽性分離ウイルス感染細胞のギムザ染色
CPE
を示した細胞はギムザ染色を行ってその形態変化を観察した。21 検体の分離ウ イルスをそれぞれ 1.5×10
5 cells/mlの細胞濃度で
24時間培養した
MDBK細胞に接種し、
37℃、1
時間放置後
0.3 % TPBおよび
1 %牛血清アルブミンを含むEagle’s MEMを維持
液として添加し
37℃で培養した。CPEの出現を確認後、細胞培養液を除去し、メタノ ールで
1分間固定後
PBSで洗浄し、
10倍希釈したギムザ液(Giemsa Solution: 和光純薬)
で
30分染色し、蒸留水で洗浄後に顕微鏡で観察した。
2.2.7 CPE
陽性分離ウイルスの次世代シーケンサーによる遺伝子解析
分離ウイルス同定のため、次世代シーケンサー
(Illumina MiSeq)を用いた遺伝子解
析を行った。
CPEの認められた分離ウイルスの中から
3種の細胞に対する感染性に差が
認められた
3検体を選出して
MDBK細胞に接種し、約
80 %の細胞にCPEが発現した
時点で培養液から総
RNAを
ISOGEN-LS(Nippon Gene)を使用して抽出し、総
RNA 5 μgから
NEBNext Ultra RNA Library Prep kit for Illuminaを用いて添付の説明書に従い
cDNAを合成した。解析ソフト
CLC Genomics Workbench 5.5を用いて分離ウイルスの同定を行
った。
16
2.2.8 Reverse transcriptase-polymerase chain reaction(RT-PCR)
BVDV-nCP
に感染した細胞の培養上清液、 および
CPEの認められた
BFM細胞、
MDBK細胞および
HL細胞の各種ウイルス感染細胞の培養上清液から
ISOGEN-LS(Nippon Gene)を用いて総RNAを抽出した。抽出した総
RNA 5 μgから
Prime Script first strand cDNA Synthesize Kit(Takara Bio) を用いて添付の説明書に従い
RT-PCRを行った。
BVDVの
RT-PCR反応は
Letellier et al. (40)の方法で行った。CPEが認められた分離ウイルスは
理化学的性状およびギムザ染色像から
BPIV-3が推測されたので
Wen et al. (85)の方法で行った。
BVDVは
Nose株および
KS86-1CP株を(36, 72)、
BPIV-3は
BN-1株を陽性対照 として使用した(24)。
2.2.9 CPE
陽性分離ウイルスの中和試験による同定
中和試験により分離検体番号の早い順から数えて6検体の分離ウイルスの同定を行っ た。中和試験は96 wellプレートを使用し、抗原希釈法により行った。
10倍階段希釈した分離ウイルスを等量のBPIV-3 BN-1株抗体陽性血清または抗体陰性血清を10 %含む
Eagle’s MEMと混合し、37℃で1時間放置後MDBK細胞浮遊液を加えた。5日後に両者の感染価の差を比較した。陽性対照にはBPIV-3 BN-1株を使用した。
2.2.10 CPE
陽性分離ウイルスの赤血球凝集活性(HA 活性)試験
96 wellプレートを使用してFBSの分離ウイルスのHA活性を調査した。分離したCPE
陽性ウイルスが一定濃度以上に増殖している必要があるので、ウイルス液の感染価が
108 TCID50/100 μl以上であることを確認してHA試験に使用した。ウイルス液をPBSで50
μlの2倍階段希釈を行い、等量の0.5 %牛赤血球浮遊液と混合し、4℃で2時間放置後判定
を行った。陽性対照にはBPIV-3 BN-1株を使用した。
17 2.3
結果
2.3.1 BVDV-nCP
の検出
2009年から2014年にかけて採取したFBS 2,758検体において、BVDVは25検体から分離
された(表2-2) 。BVDV-nCPの検出率は、0.91 %となる。
2.3.2 CPE
陽性ウイルスの分離
2010年度NZL産血清では、250検体のうち1検体から、BFM細胞においてCPEを認める
ウイルスが分離された。また、
2011年度AUS産血清では、724検体のうち合計20検体で、いずれかの細胞でCPEを起こすウイルスが分離された。それらはBFM細胞において16 検体、MDBK細胞において16検体、HL細胞において8検体で、複数の細胞でCPEが認め られた検体もあった。
2.3.3 CPE
陽性分離ウイルスの理化学的性状試験
CPE
陽性の分離ウイルス
21検体すべての理化学的性状を調べたところ、これらウイ ルスは
IUDRによる増殖抑制は認められず、エーテル処理により完全に不活化され、
100 nmのフィルターを通過できなかった。従ってエンベロープのある
100 nmから
200 nmの
RNAウイルスであることが確認された。
2.3.4 CPE
陽性分離ウイルスのギムザ染色像
分離ウイルス感染細胞をギムザ染色して観察すると、21 検体すべてで細胞が円形化 して脱落するとともに、多数の多核巨細胞の形成が認められた(図
2-1)。2.3.5 CPE
陽性分離ウイルスの遺伝子解析
分離ウイルスのうち、3 種の細胞に対する感染性が異なった
3検体について次世代シ
ーケンサーを使用してその同定を行った。
CLC Genomics Workbench 5.5を用いて解析し
18
た結果、3 検体いずれも
BPIV-3 BN-1株と近縁であることが判明した。
また、分離したウイルス
21検体から抽出した
RNAを使用し、BPIV-3 の保存性が高 い領域を増幅する既報のプライマーを用いて
RT-PCRを行った。すべての分離ウイルス で陽性対照として用いた
BPIV-3 BN-1株と同様に、約
1,000 bpの位置に遺伝子の増幅が 認められた(図
2-2)。ダイレクトシークエンスの解析からも、BFM細胞、MDBK 細 胞および
HL細胞から分離された
21検体は
BPIV-3 BN-1株と
97~100 %の塩基配列が一致していることが判明した。
2.3.6 CPE
陽性分離ウイルスの中和試験による同定
分離したウイルスは、試験に供した
6検体すべてが
BPIV-3 BN-1株抗体陽性血清と混 合することにより感染価が
105以上低下し、
BPIV-3株抗体陽性血清で中和されることが 確認された。また、分離ウイルス
AUS48や同
AUS82では
107以上の感染価の低下がみ られた(表
2-3)。2.3.7 CPE
陽性分離ウイルスの
HA活性
分離ウイルス21検体はいずれも牛赤血球に対してHA活性を保有していた。しかし各 分離ウイルスのHA活性はBN-1株と比較して低く、分離ウイルス間で差が認められた。
HA活性に違いが認められた分離ウイルス5検体を図2-3に示す。
2.4
考察
BVDV-nCPの胎子への子宮内感染は、NZL、AUS、DOMのどの国においても確認され
た。従って、現在でもBVDVの子宮内感染は一定の確率で生じており、BVDVの流行が
続いていると思われる。2014年度DOM産FBSは、7あるいは8個体を混合した血清を1検
体としてBVDV-nCPの検出を行った。
1検体中に複数のBVDV-nCP感染個体が存在した可能性は否定できないが、この血清群のBVDV-nCP感染率は0.64 %(9/1400)であり、そ
19
の可能性は非常に低いと考えられる。
NZLおよびAUSから輸入されたFBSから分離したCPE陽性ウイルスは、それらの理化
学的性状、培養細胞で認められたCPEの特徴および遺伝子解析の結果、
BPIV-3であることが確認された。すべてのCPE陽性分離ウイルスはHA活性を有していたが、BN-1株と 比較してその活性は低く、分離ウイルス間で差があることが示された。今回分離された
BPIV-3の病原性、抗原性および生物学的性状の調査は不十分であるが、分離ウイルス間において、抗原希釈法による中和試験および生物学的性状であるHA活性に差が認めら れたことから、子宮内感染はBPIV-3の特定の株に限られたものでなく、一般的なBPIV-3 でみられるものと思われる。
FBSからBPIV-3の抗体が検出されたことや、牛の流産胎子からがBPIV-3が分離された
ことは、これまでもいくつか報告されている(33, 54, 76)。しかし、感染性のあるBPIV-3 がFBSから分離された報告は、今回が初めてである。この結果だけでは、今回のウイル ス分離が一時的なウイルス血症であった可能性を否定できないが、妊娠後期のBPIV-3 抗体陰性母牛にBPIV-3を静脈内接種しても胎子が感染しなかった報告があるので(28)、
ウイルス血症を起こしていた牛胎子は妊娠前期に感染を受けており、胎齢が250日を超
えた時点で抗体が産生されてない可能性が考えられる。この現象はBPIV-3もBVDVと同
様に、胚が死滅すると考えられる妊娠初期や抗体産生能を獲得する妊娠後期以外の時期
に子宮内感染を起こした場合、胎子が免疫寛容の状態になり持続感染が成立し、
BPIV-3の持続感染牛が出生する可能性を示唆している。
20
表
2-1.試験に使用した
FBSの採取年度、生産国名および個体数.
1) 7~8
個体の
FBSを
poolして輸入したもので、検体数は
212.採取年度 生産国名 個体数
2009 NZL 139
2010 NZL 250
2011 NZL 124
2011 AUS 724
2012 NZL 121
2014 DOM 1,4001)
合計
2,75821
表
2-2. FBSからの年度別、国別ウイルス分離.
1) 7~8
個体の
FBSを
poolして輸入したもので、検体数は
212.2)
合計個体数に対する割合.
採取年度 生産国名 個体数 BVDV-nCP
分離数 BPIV-3分離数
2009 NZL 139 0 0
2010 NZL 250 4 1
2011 NZL 124 3 0
2011 AUS 724 8 20
2012 NZL 121 1 0
2014 DOM 1,4001) 9 0
合計 2,758 25 21
0.91% 0.76%
( )2) ( )2)
22
図2-1. CPE陽性分離ウイルスが感染したMDBK細胞ギムザ染色像.
100
倍拡大画.
矢印:巨細胞
矢頭:封入体
23
図2-2. CPE陽性分離ウイルスのBPIV-3特異的プライマーによるPCR産物の泳動像.
分離ウイルスのコード名においてAはオーストラリア産FBSからの分離されたウイ ルスを、NZLはニュージーランド産FBSから分離されたウイルスを表す.
M:100bp
マーカー
DW:蒸留水(陰性対照)
BN-1:BPIV-3 BN-1株(陽性対照)
24
表
2-3. CPE陽性分離ウイルスの中和試験(抗原希釈法)による同定結果.
1) BN-1
株免疫牛血清
2) log10TCID50/100 μlAUS:オーストラリア産FBS
から分離されたウイルスを表す.
BN-1:BPIV-3 BN-1株(陽性対照)
分離 ウイルス
感染価 感染価
陽性血清
1)陰性血清 の差
AUS48
≦0.50
2) 8.50≧8.00
AUS72 2.50 8.50 6.00
AUS82
≦0.50
8.00≧7.50
AUS83 2.00 7.50 5.00
AUS85 3.50 8.50 5.00
AUS90 3.50 8.50 6.00
BN-1 1.50 7.50 6.00
25
図
2-3.FBSから分離した
BPIV-3の
HA活性.
HA
活性に違い認められた
5検体の分離ウイルス.
AUS:オーストラリア産FBS
からの分離ウイルスを表す.
BN-1:BPIV-3 BN-1株(陽性対照)
希釈倍数
1 2 4 8 16 32 64 128 AUS83
AUS90
AUS155
AUS157
AUS165
BN-1 分離 ウイルス
26
第 3 章
牛胎子血清を使用した 牛ウイルス性下痢ウイルス
子宮内感染の調査
27 3.1
序論
牛には子宮内感染を起こす様々なウイルス性病原体が知られている。その中でも
BVDVは伝播力が強く世界各地で牛に蔓延しているウイルスで、このウイルスに感染し た動物に無症状から死に至るまで様々な臨床症状を示すことが報告されている(1, 34,
46)。成牛がBVDV
に感染すると一過性の発熱を伴う下痢や呼吸器症状を発症し、増体
重の低下、泌乳量の減少等を引き起こし、妊娠牛が感染すると、胎子の胎齢により流産、
胎子死、免疫寛容による持続感染牛の出産、奇形等の先天性異常牛の出産等の様々な症 状を発症する(11, 60)。このウイルスは生物型、血清型および遺伝子型によって細分類さ れている(1, 43, 60, 63, 67)。
BVDV
の生物型には
in vitroにおいて接種した細胞に
CPEを起こす
BVDV-CPと、
CPEを起こさない
BVDV-nCPの
2種類が存在する(14, 39, 90)。前者は全身粘膜の糜爛を起こ す致死的な粘膜病発症牛からのみ分離されるのに対し、後者は自然界に常在する。つま り
BVDVの
CP株と
nCP株の存在様式は大きく異なっている。粘膜病の発病機序は
1980年代に解明されている。BVDV-nCP 持続感染牛の体内で
BVDV-nCPの遺伝子に変異が
起こり
BVDV-CPが出現することや、BVDV-nCP 感染牛に同一血清型の
BVDV-CPが重
複感染することにより粘膜病を発症する(7)。粘膜病を発症した動物は大半が死に至る ため、BVDV の感染や蔓延を防除する対策の構築は極めて重大である。
BVDV
持続感染牛が存在する原因も不明であったが、1970 年代に解明された。妊娠
牛が
BVDVに初感染した場合、容易に胎子の子宮内感染が生じ、感染胎子は胎齢によ
って様々な経過をとることが明らかになった。つまり胎子は胎齢
50日以内では死流産
を起こし、50 日~125 日齢では
BVDVに対して免疫寛容となり持続感染牛として産出
されることがある。さらに牛胎子の感染時の胎齢が進むと、110 日~150 日齢では先天
異常牛となり、
150日齢以上では感染耐過牛となり
BVDV抗体を保有した正常牛とし出
生する(1)。持続感染牛は多量のウイルスを生涯にわたり排泄し続け、慢性的な下痢を
伴う成長不良牛となることが多いが、明瞭な症状を示さない症例もあり、
BVDVの感染
28
を広げる主な要因となる(19, 27)。従って持続感染牛をなくすことが
BVDVを制御して いく上で重要である。
本章では、第
2章で使用した約
2,800個体の
FBSを用いて
BVDVの抗体検査を行う とともに、同章で
FBSから分離した
BVDV-nCPの遺伝子解析を行った。
3.2
材料および方法
3.2.1検査血清
2.2.1
で使用した計
2,758個体の
FBSを使用して、ウイルス中和試験による
BVDV抗
体保有状況の調査および第
2章で分離した
BVDVの遺伝子解析を行った。検出した
BVDV-nCP
は
25検体であったが、
FBSの保管が-20℃と不十分であったため、本解析を
行うことが可能であった
BVDV-nCPは
21検体であった。2009 年度
NZL産
FBS 139検 体は、母牛血清とのペア血清として入手した。また、受精のために放牧していた雄牛血 清
13検体も同時に入手した。なお、母牛の血清は妊娠前に採取したものである。抗体 検査は検査血清を
56℃、30分の非動化処理をして行った。また、検査時に培養液が混 濁し、雑菌が混入していると判明した検体に対しては
450 nmのフィルター(Millex
Millipore)を通過させたものを使用して再試験を行った。試験に用いた血清の採取年度、生産国名および個体数を表に示す(表
3-1)。
3.2.2
細胞培養
BVDV
の培養および抗体検査には
BFM細胞を使用した。BFM 細胞の培養は
2.2.2に 従った。
3.2.3
中和試験
BVDV
の子宮内感染の状況を調べるため、 ウイルス抗原に
BVDV 1型である
Nose株、
同
KS86-1株および
BVDV 2型である
KZ-91株を用いて中和試験を行った(36, 57, 72)。
29
96 well
プレートの各
wellに
Eagle’s MEM 50 μlを入れ、左端の
wellにはその上から等量
の検査血清
50 μlを混合し、その列の右
wellに
2倍から
128倍までの
2倍階段希釈を行 った。次に
100 TCID50/50 μlに調製した
BVDV Nose株、KS86-1 株あるいは
KZ-91株を 混合し、37℃で
1時間インキュベート後、1.0×10
5 cells/mlに調製した
BFM細胞浮遊液
100 μl
を各
wellに加えた。 血清希釈およびウイルス抗原作製には
BVDV抗体陰性の
FBSを
20 %含むEagle’s MEMを使用した。
BFM細胞浮遊液は無血清の
Eagle’s MEMで作製
した。結果の判定は
CPEの発現を指標にして
4~5日後に行い、
CPEを完全に抑制した 血清希釈倍数を抗体価とした。抗体価が
4以上を抗体陽性と判定した。
3.2.4 BVDV
のダイレクトシークエンスと系統樹解析
第
2章の実験で増幅させた
PCR産物(21 検体)を
2 %アガロースゲルで電気泳動し、Wizard SV Gel and PCR Clean-Up System(Promega)を用いてゲルからの精製を行った。
精製した
PCR産物および
PCRに用いたプライマーは、それぞれダイレクトシークエン スの鋳型およびプライマーとして用いた。ダイレクトシークエンスは
ABI PRISM BigDye Terminator v3.1 Cycle Sequence Kits(Life Technologies)および
ABI PRISM Genetic Analyzer 3130(Life Technologies)をマニュアルに従って使用した。NZL、AUSおよびDOMで流行しているBVDVの遺伝子型を確認するため、得られた塩
基配列を用いてNeighbor-joining法により系統樹を作成した。ブートストラップは1,000 回に設定した。また、PubMedに登録されている代表的なBVDVの株も含めて遺伝子解 析を行った。
3.3 結果
3.3.1 BVDV
に対する中和抗体の陽性率
抗
BVDV中和抗体は
FBS 2,758個体中
44検体(1.60 %)から検出された。検出され
た抗体はすべて
BVDV 2型よりも
BVDV 1型と強く反応した。
30
親牛とのペア血清としてFBSを入手することができたNZLの1農場では、受精のため に農場に放牧していた雄牛13頭および母牛139頭中138頭は妊娠前にBVDV抗体陽性だ った。これらの胎子から得た血清はすべてBVDV抗体陰性であった。(表3-2)。
3.3.2 BVDV-nCP
の遺伝子解析
第2章で分離したBVDV-nCP株をNeighbor-joining法により、DDBJに登録されている
BVDVの株も含めて解析を行った結果、2011年NZL産の1分離株(2011NZL111)は1a、AUS産の2分離株(2011AUS647、2011AUS680)は1cのクラスターに含まれ、これら以
外の18株は1dに近縁であった(図3-1) 。
3.4 考察
第2章で分離したBVDV-nCPの遺伝子解析をすると、今回分離したウイルスには1a、
1cも含まれていたが大部分は1dに分類され、1970年代から1980年代にかけて日本や米国
で主に分離されたウイルス株と異なり、現代のオセアニアや中米では異なる遺伝子型の
BVDV 1dが流行していることが示唆された。NZL
の
1農場では、親牛とのペア血清として
FBSを入手した。今回の調査において
BVDVの抗体陽性の妊娠牛から生まれたすべての牛胎子は、BVDV 抗体および
BVDVの分離は陰性だったことから、抗体陽性の母牛から生まれる牛胎子は
BVDVの子宮内 感染を免れていることが再確認され、適切な予防接種が
BVDVの子宮内感染を根絶す ると考えられる。
BVDV
が分離された牛胎子
25頭は、一時的なウイルス血症を起こしていたのか免疫
寛容により持続感染が成立していたのかは、本調査では解明できない。しかしこれらの
牛胎子がすべて免疫寛容になっており持続感染牛として出生すると仮定すれば、
BVDVに持続感染した牛が野外で約
1 %の割合で生まれてくることになり、自然界において BVDVを牛群に存続させる感染源として十分である。BVDV の垂直感染を制御するこ
31
とは家畜衛生上重要である。
市販されている
FBSは
200~500頭の
FBSを
Poolにして製品にしている。今回の調 査結果によると、FBS の
BVDV抗体陽性率は
1.60 %で、BVDVの分離率は
0.91 %であった。
7あるいは
8個体を混合してある混合血清を
1検体として中和試験やウイルス分 離を行った
2014年度
DOM産
FBSにおいては
1検体中に複数の抗体陽性個体や
BVDV-nCP
の感染牛が存在した可能性は否定できないが、この血清群の
BVDV抗体陽
性率およびその分離率を合計しても約
2.51 %なので、その可能性は非常に低いと思われる。妊娠牛が約
280日の妊娠期間中に
BVDVに感染する頻度に差がなく、死流産は胎 齢
1日~40 日、持続感染牛は胎齢
40日~125 日、抗体陽性耐化牛は胎齢
100日~280 日の感染で起こるという仮定をたてると、
BVDV-nCPの感染牛が
0.91 %、抗体陽性牛が1.6 %の割合で生じていたので、胎齢1~40
日の母牛における流産は
0.5~0.8 %程度起きていたと考えられる。これらを合計すると、BVDV の子宮内感染は自然界で約
3.0 %の妊娠牛に起きていることが示唆される。
数多くの細胞に
BVDVの汚染が報告されている。細胞の培養には、屠場で採取した 牛血清が使用されることが多く、ウイルス血症を起こしている牛血清を使用したことで、
気が付かないうちにウイルスの汚染が起きていたと考えられる。特殊な研究機関や製薬 会社では
FBSが使用されていたと思われるが、それらの機関で継代されていた細胞で も
BVDVの汚染が報告されている。
BVDVは
56℃、30分の加熱処理では完全に不活化 しないことが報告されている(65)。 約
1 %のFBSから
BVDVが分離された今回の報告は、
培養細胞における
BVDV汚染の現状を裏付けていると考える(35)。BVDV 抗体陰性や
BVDV-nCP
の汚染が無い血清を入手することは非常に困難である現状が裏付けられた。
32
表
3-1. BVDV抗体検査および
BVDV-nCP感染牛の検出に使用した血清.
1)
母牛
139頭に受精するために放牧されている雄牛.
2)
検査血清は妊娠前に採取した.
採取年度 生産国名 個体数 親牛
父牛
1)2009 NZL
13
母牛
2) 139牛胎子
2009 NZL 139
2010 NZL 250
2011 NZL 124
2011 AUS 724
2012 NZL 121
2014 DOM 1,400
合計
2,75833
表
3-2.国、年度別
BVDV抗体検査および
BVDV-nCP検出結果.
1)
母牛
139頭に受精するために放牧されている雄牛.
2)
妊娠前に採取した.
3) ND :
未検査.
4)
合計個体数に対する割合.
( ) ( ) ( ) ( ) 採取年度 生産国名 個体数
抗体陽性検体数 BVDV-nCP Nose KS86-1 KZ-91 分離数
親牛
父牛1)
2009 NZL 13 13 ND3) ND 0
母牛2) 139 138 ND ND 0
牛胎子
2009 NZL 139 0 0 0 0
2010 NZL 250 2 0 0 4
2011 NZL 124 5 3 0 3
2011 AUS 724 21 15 12 8
2012 NZL 121 1 1 0 1
2014 DOM 1,400 15 12 4 9
合計 2,758 44 31 16 25
1.60% 4) 1.12% 0.53% 0.91%
34
図3-1. BVDV-nCP系統樹解析.
2009年度から2014年度にかけて採取されたFBSから分離されたBVDV-nCP.
Neighbor-joining法による解析結果を示す.
2011年度ニュージーランド産の1分離株(2011NZL111)が1aに、2011年度オーストラリ
ア産の2分離株(2011AU647、2011AU680)が1cに、それ以外の18株が1dに分類された.
1d
1c
1a
1b
3
2
35
第 4 章
牛パラインフルエンザウイルス 3 型の垂直感染
および免疫寛容牛の調査
36 4.1
序論
BPIV-3
感染牛は発咳、発熱、鼻汁漏出といった軽い風邪の症状で特徴付けられ、ウ
イルスを含む飛沫等を体内に取り込むことで感染し、日本国内でもその流行が認められ ている(22, 23)。
BPIV-3は年間を通じて発生するが、特に輸送後に輸送熱の原因として、
あるいは放牧や集団飼育の際に多発する病原体として知られている。また、BVDV、
BHV1、BRSV
等とともに牛呼吸器病症候群の一因としても知られる。牛において
BPIV-3感染によって引き起こされるほとんどの呼吸器症状は、軽度の症状を示すが、パスツレ ラやマイコプラズマといった細菌感染や他のウイルスが二次的に感染する混合感染に よって重い症状を呈する(30, 73)。BPIV-3 単独による感染だけでは、成牛において致死 率は極めて低い。
さらにこれら直接的、間接的感染による呼吸器症状以外に、BPIV-3 は妊娠牛に流産 を引き起こすことが疑われている(12, 69)。BPIV-3 も
BVDVと同様、子宮内感染をする ウイルスとしてその存在が確認されている(20, 33)。しかし、FBS からの分離は報告さ れていない。
本章では、
BPIV-3における子宮内感染の現状を把握するため、
FBSを使用して
BPIV-3抗体保有状況の調査を行うとともに、育成牛以上の牛群に
BPIV-3の混合ワクチン(キ ャトルウィン-6 :微生物化学研究所)を毎年接種している
2農場および農場内に
BPIV-3の蔓延がすでに認められる
1農場の牛群を対象に
BPIV-3抗体の調査を行った。そして
BPIV-3
抗体価の低い牛は
BVDVと同様に免疫寛容による持続感染牛である可能性を考
え、その存在を確認するため
BPIV-3の分離を試みた。キャトルウィン-6 は、牛伝染性
鼻気管炎、牛ウイルス性下痢病、牛パラインフルエンザ、牛
RSウイルス感染症、牛ア
デノウイルス感染症を予防する混合ワクチンである。
37 4.2
材料および方法
4.2.1
検査血清
BPIV-3の子宮内感染を調べるために、2.2.1で使用した2010年度NZL産 FBS 250検体お
よび2011年度AUS産 FBS 724検体を用いて、中和試験によるBPIV-3の抗体検査を行った。
また、BPIV-3持続感染牛の存在を調べるために、日本国内の3農場(K、M、N農場)で 飼養されている牛(50、
42、60頭)の血清を使用し、BPIV-3の抗体価を測定するとともに、抗体価が32倍以下の牛からBPIV-3の分離を試みた。K農場およびM農場では育成牛 が預託できる月齢に達した時点(約10か月齢)でBPIV-3のワクチン接種を行っている。
N農場ではワクチン接種を行ってはいないが、成牛の約半数は128倍以上のBPIV-3抗体
を保有しているので、農場内にBPIV-3が常在していると判断できる。
4.2.2
細胞培養
ウイルス分離には、鶏胚初代細胞(CE 細胞) 、
BFM細胞および
MDBK細胞を、ウイ ルス中和試験には
MDBK細胞を使用した。CE 細胞は
2 % FBS添加
Eagle’s MEMを用 いて培養し、
BFM細胞、MDBK 細胞の培養は
2.2.2に従った。CE 細胞は国内の
BPIV-3ワクチン製造時に使用されており、ワクチン株分離の可能性を考慮して選択した。
4.2.3 BPIV-3
に対する中和抗体の検出
3.2.3に従い、2010年度NZL産FBS 250検体、2011年度AUS産FBS 724検体および日本国
内の農場(K、
M、N農場)で飼養されている牛(50、42、60頭)の血清を用いて、BPIV-3の中和抗体価の測定を行った。NZL産およびAUS産のFBSを使用した検査は、BPIV-3の 子宮内感染を把握するために、日本国内の3農場の牛血清を使用した検査は、BPIV-3 持続感染牛の存在を調べるために行った。抗原にはBPIV-3 BN-1株を使用した。試験に はすべてMDBK細胞を使用し、検査血清はあらかじめ56℃、
30分の非動化処理を行った。中和抗体価が4以上を抗体陽性と判定した。
38 4.2.4
ウイルス分離試験
BPIV-3持続感染牛の存在を確認するため、BPIV-3のウイルス分離を行った。ウイルス
分離には4.2.3においてBPIV-3抗体価が32倍以下の個体(K農場1頭、M農場2頭、N農場5 頭)の唾液、鼻汁、末梢血白血球、血清を使用した。唾液と鼻汁は綿棒を口腔内あるい は鼻穴に挿入して検査材料を採材した。綿棒を50 ml遠心管に入れて遠心し、遠心管の 底に回収された唾液および鼻汁を450 nmのフィルター(Millex Millipore)でろ過したも のを接種材料とした。血液は尾静脈からEDTA加真空採血管およびplainの真空採血管を 用いて採取し、
EDTA加血液を2,500 rpmで20分遠心して形成されたbuffy coatから白血球を採取するとともに、凝固した血液を同様に遠心して血清を分離し、これらをウイルス 分離材料とした。
ウイルス分離には、6 wellプレートに24時間培養した細胞を使用した。各wellから培 養液を吸引除去し、検査材料を0.2 ml接種し、1時間インキュベートした。唾液、鼻汁、
血清を接種したwellは接種材料を吸引除去し、接種細胞をPBSで2回洗浄し、各wellに2 % 牛血清アルブミンを含むEagle’s MEMを維持液として添加した。白血球を接種したwell は48時間後に接種細胞をPBSで2回洗浄して白血球を除去し、
2 %牛血清アルブミンを含むEagle’s MEMを添加した。
各細胞は最低5日間培養を行い、CPEの発現を観察した。CPEが認められなかった場 合はBlind passageを3回繰り返した。
Blind passageは検査材料を接種した細胞の培養液0.2 mlを、24時間培養した新しい細胞に接種する方法で行った。いずれの分離工程も37℃、静置培養で行った。
4.2.5 BPIV-3
追加免疫試験
N牧場で飼育されている成牛の中からBPIV-3抗体価が32倍以下の牛を7頭選び、これ
らの牛にBPIV-3のワクチンを1回または2回接種して抗体価の上昇が生じるかを調べた。
接種ワクチンはキャトルウィン-5K(微生物化学研究所)を使用した。本ワクチンは、
39
牛伝染性鼻気管炎、牛ウイルス性下痢病、牛パラインフルエンザおよび牛RSウイルス 感染症を予防するアジュバント加不活化ワクチンで、牛に年1回接種することになって いるので、2回目接種は1回目接種の450日後に行った。採血は、1回目接種の7日前、60 日後および365日後、2回目接種の20日後および140日後に行った。
4.2.6
免疫異常の否定試験
BPIV-3抗体価が32倍より低くBPIV3分離試験の対象となったK農場1頭、M農場2頭、N
農場7頭の牛が、免疫機能の異常によりBPIV-3抗体が低いことを否定するため、これら 計10頭の牛血清を用いて、
3.2.3に従い中和試験によりBVDV抗体価を測定した。ウイルス抗原としてBVDV 1型 Nose 株を使用した。なお、本試験に使用した牛血清は、ワク チン接種時に採血したものを使用した。
4.3
結果
4.3.1 NZL
産および
AUS産
FBSにおける
BPIV-3中和抗体
既報の調査では、FBS から
BPIV-3抗体検出の報告があるが、2.2.4 において
BPIV-3が分離された
2010年度
NZL産および
2011年度
AUS産計
974検体の
FBSを対象とし た本調査では、4 倍以上の抗体を持つ血清は
1検体も検出されなかった(表
4-1)。4.3.2
国内の各農場で飼養されている牛の
BPIV-3中和抗体
育成牛以上の牛群に
BPIV-3のワクチン接種を毎年行っている
K農場および
M農場の
2農場では、ワクチンを接種しているにも関わらず、BPIV-3 に対する抗体価が
32倍以 下の成牛が
K農場
1頭、
M農場
6頭検出された(表
4-2、表4-3)。ワクチン未接種農場で
BPIV-3がすでに常在していると思われる
N農場では、フリーストール内の
60頭の
牛の中で
26頭は
64倍以上の
BPIV-3抗体を保有していたが、抗体価が
8倍以下の牛が
16
頭存在した(表
4-4)。
40
4.3.3 BPIV-3
中和抗体価の低い個体からのウイルス分離
BPIV-3
抗体価が
32倍以下の牛
10頭(K 農場
1頭、M 農場
2頭、N 農場
7頭)から
ウイルス分離を試みた。しかし、各牛の唾液、鼻汁および血清を接種した細胞において
CPEは認められず、ウイルスは分離されなかった。
4.3.4 BPIV-3
追加免疫試験
N
農場において、BPIV-3 ワクチンを
1回あるいは
2回接種した牛から継時的に血液
を採取し
BPIV-3抗体価の推移を調べた結果を表
4-5に示す。7 頭のワクチン接種牛の
中で
3頭(No.11、24、55)は抗体価の上昇が認められたが、残りの
4頭は抗体価の上 昇が認められず、特に
No.26、29の
2頭は抗体価
2倍以下であった。通常は感染牛やワ クチン接種牛では抗体価が
64倍以上に上昇するのに比較し、ここでワクチン接種を行 った牛群のうち
4頭では
BPIV-3抗体価の上昇は認められなかった。
4.3.5
免疫機能の確認
ワクチン接種を行っても
BPIV-3抗体価の上昇しない牛における免疫機能の確認を、
他のウイルスの抗体価を測定することで行った。BVDV の抗体産生能は正常で、4.2.4 の対象となった個体すべてがワクチン接種時点で
BVDVの抗体価
256以上を示した。
4.4
考察
BPIV-3
の抗体は
FBSや初乳未摂取子牛血清から検出されており、
BPIV-3が子宮内感
染をする可能性が疑われている(49, 76, 84)。これまで妊娠牛や牛胎子を用いたいくつか
の
BPIV-3感染実験が報告されているが、一般の飼育牛から
BPIV-3抗体陰性の妊娠牛を
得ることが困難で、抗体陽性妊娠牛の妊娠中期に
PBIV-3を接種した実験では子宮内感
染が成立しないため(79)、胎子に直接ウイルスを接種する方法で行われている(70, 77,
41
78)。それらの実験結果は、虚弱な新生子牛が出産された例、胎子が死亡した例、や胎
子に異常が認められなかった例等様々であるが、BPIV-3 の子宮内感染に起因する免疫 寛容牛の出産を証明する結果は得られていない。BPIV-3 を直接接種した牛胎子では
BPIV-3
の抗体が検出されている。しかし
BPIV-3抗体陰性の胎齢
130日および
149日の
妊娠牛に
BPIV-3を静脈接種した実験では、子宮内感染は成立していない(28)。
本章では約
1,000個体の
FBSで
BPIV-3に対する中和抗体検査を行ったが、抗体は検 出されなかった。BPIV-3 は
BVDVと同様に通常の飼育形態では成牛はほとんどが抗体 陽性となる。従って
FBSを採材した牛群では、既に妊娠前に大部分の母牛は
BPIV-3抗 体陽性となっており、妊娠期間中に
BPIV-3の感染を受けなかったことが考えられる。
一方、本章の実験で使用した
NZL産および
AUS産
FBSからの
BVDV分離数は、
NZL産からは
4、AUS産からは
8であった。BVDV 抗体陽性の
FBSは、NZL 産で
2、AUS産で
21であった。粘膜上皮細胞をターゲットとしてビリオンの形で血液中に存在する
BPIV-3
に比べ白血球に感染して存在する
BVDVは、胎盤が形成された後でも子宮内感
染が成立しやすいことが推察される。従って、BPIV-3 は胎子の免疫系が機能する胎齢
150日以降では子宮内感染が生じにくい可能性が考えられる。しかし
BPIV-3も
BVDV同様に胎齢中期に感染を受けた場合に持続感染牛が生まれる可能性は否定できない。
BVDV
と同様に妊娠初期の
FBSからは
BPIV-3に対する抗体が検出されないことも興味 あることである(84)。
K
農場と
M農場では育成牛として預託する際に
BPIV-3のワクチン接種を行っており、
N
農場では飼育牛の抗体保有状況から
BPIV-3は農場内で流行を繰り返していると思わ
れる。これらの農場には成牛であるにも関わらず
BPIV-3の抗体価の低い個体がいるこ
と、ワクチン接種をしているにも関わらずその抗体価が上昇していない個体が存在する
こと等から、BPIV-3 の免疫寛容牛や持続感染牛が存在する可能性は否定できない。し
かし、今回の検査では、これらの
BPIV-3抗体の低い個体からウイルスは分離できなか
った。BPIV-3 の分離は回転培養や
34℃の低温培養が要求されるが、本試験で行ったウ42
イルス分離試験では、これらのことは考慮していなかった。従ってウイルス分離ができ
なかった要因として、持続感染が成立してなかった可能性もあるが、分離方法が不適切
であったこと、ウイルスが唾液や鼻水といった浸出液で希釈され、そこに含まれる酵素
で変性されることで感染性が低下していたこと、持続感染している
BPIV-3が変異株で
あればその至適増殖温度が異なっていたことが考えられる。抗体の上昇が認められなか
った原因としては、持続感染による免疫寛容以外にも、自己と非自己を識別する
MHCに異常のある牛群であったこと等も考えられる。自然界における
BPIV-3の感染様式に
ついては更なる調査が必要である。
43
表
4-1. AUS産および
NZL産
FBSにおける
BPIV-3の中和試験結果.
生産国名 検査 血清数
中和抗体価
<4 4 8 16 32 64 128≦
NZL 250 250 0 0 0 0 0 0
AUS 724 724 0 0 0 0 0 0
合計 974 974 0 0 0 0 0 0
44
表
4-2. K農場の牛群における
BPIV-3中和試験結果.
各牛の月齢、BPIV-3 抗体価を示す.
赤枠は
BPIV-3抗体価が
32倍以下の個体.
黄塗は
BPIV-3分離試験を行った
1個体.
No.
月齢
BPIV-3抗体価
No.月齢
BPIV-3抗体価
1 61.2
≧256
26 28.9≧256
2 51.3
≧256
27 40.2≧256
3 104.6
≧256
28 41.2≧256
4 82.4
≧256
29 56.7≧256
5 55.2
≧256
30 57≧256
6 91
≧256
31 91≧256
7 30.5
≧256
32 23≧256
8 29.2
≧256
33 72.2≧256
9 44.5
≧256
34 58.5≧256
10 56.4
≧256
35 51.2≧256
11 91.9
≧256
36 53.5≧256
12 70.7
≧256
37 36.5≧256
13 66.6
≧256
38 80.4≧256
14 33.4
≧256
39 6.9 6415 43.8
≧256
40 5.5≧256
16 70.9 128 41 5.1 16
17 80.2
≧256
42 6.9 818 106.8
≧256
43 43.6≧256
19 35.6 32 44 78.4
≧256
20 36.4 128 45 20.7
≧256
21 24.9
≧256
46 43≧256
22 41.4
≧256
47 21≧256
23 44.7
≧256
48 20.6≧256
24 37.3
≧256
49 71.6≧256
25 33.7