BPIV-3の抗体はFBSや初乳未摂取子牛血清から検出されており、BPIV-3が子宮内感
染をする可能性が疑われている(49, 76, 84)。これまで妊娠牛や牛胎子を用いたいくつか
のBPIV-3感染実験が報告されているが、一般の飼育牛からBPIV-3抗体陰性の妊娠牛を
得ることが困難で、抗体陽性妊娠牛の妊娠中期にPBIV-3を接種した実験では子宮内感 染が成立しないため(79)、胎子に直接ウイルスを接種する方法で行われている(70, 77,
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78)。それらの実験結果は、虚弱な新生子牛が出産された例、胎子が死亡した例、や胎 子に異常が認められなかった例等様々であるが、BPIV-3 の子宮内感染に起因する免疫 寛容牛の出産を証明する結果は得られていない。BPIV-3 を直接接種した牛胎子では
BPIV-3の抗体が検出されている。しかしBPIV-3抗体陰性の胎齢130日および149日の
妊娠牛にBPIV-3を静脈接種した実験では、子宮内感染は成立していない(28)。
本章では約1,000個体のFBSでBPIV-3に対する中和抗体検査を行ったが、抗体は検 出されなかった。BPIV-3はBVDVと同様に通常の飼育形態では成牛はほとんどが抗体 陽性となる。従ってFBSを採材した牛群では、既に妊娠前に大部分の母牛はBPIV-3抗 体陽性となっており、妊娠期間中にBPIV-3の感染を受けなかったことが考えられる。
一方、本章の実験で使用したNZL産およびAUS産FBSからのBVDV分離数は、NZL
産からは4、AUS産からは8であった。BVDV抗体陽性のFBSは、NZL産で2、AUS
産で21であった。粘膜上皮細胞をターゲットとしてビリオンの形で血液中に存在する
BPIV-3に比べ白血球に感染して存在するBVDVは、胎盤が形成された後でも子宮内感
染が成立しやすいことが推察される。従って、BPIV-3 は胎子の免疫系が機能する胎齢 150日以降では子宮内感染が生じにくい可能性が考えられる。しかし BPIV-3もBVDV 同様に胎齢中期に感染を受けた場合に持続感染牛が生まれる可能性は否定できない。
BVDVと同様に妊娠初期のFBSからはBPIV-3に対する抗体が検出されないことも興味 あることである(84)。
K農場とM農場では育成牛として預託する際にBPIV-3のワクチン接種を行っており、
N農場では飼育牛の抗体保有状況からBPIV-3は農場内で流行を繰り返していると思わ れる。これらの農場には成牛であるにも関わらずBPIV-3の抗体価の低い個体がいるこ と、ワクチン接種をしているにも関わらずその抗体価が上昇していない個体が存在する こと等から、BPIV-3 の免疫寛容牛や持続感染牛が存在する可能性は否定できない。し かし、今回の検査では、これらのBPIV-3抗体の低い個体からウイルスは分離できなか った。BPIV-3の分離は回転培養や34℃の低温培養が要求されるが、本試験で行ったウ
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イルス分離試験では、これらのことは考慮していなかった。従ってウイルス分離ができ なかった要因として、持続感染が成立してなかった可能性もあるが、分離方法が不適切 であったこと、ウイルスが唾液や鼻水といった浸出液で希釈され、そこに含まれる酵素 で変性されることで感染性が低下していたこと、持続感染しているBPIV-3が変異株で あればその至適増殖温度が異なっていたことが考えられる。抗体の上昇が認められなか った原因としては、持続感染による免疫寛容以外にも、自己と非自己を識別する MHC に異常のある牛群であったこと等も考えられる。自然界におけるBPIV-3の感染様式に ついては更なる調査が必要である。
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表4-1. AUS産およびNZL産FBSにおけるBPIV-3の中和試験結果.
生産国名 検査 血清数
中和抗体価
<4 4 8 16 32 64 128≦
NZL 250 250 0 0 0 0 0 0
AUS 724 724 0 0 0 0 0 0
合計 974 974 0 0 0 0 0 0
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表4-2. K農場の牛群におけるBPIV-3中和試験結果.
各牛の月齢、BPIV-3抗体価を示す.
赤枠はBPIV-3抗体価が32倍以下の個体.
黄塗はBPIV-3分離試験を行った1個体.
No. 月齢 BPIV-3
抗体価 No. 月齢 BPIV-3
抗体価
1 61.2 ≧256 26 28.9 ≧256
2 51.3 ≧256 27 40.2 ≧256
3 104.6 ≧256 28 41.2 ≧256
4 82.4 ≧256 29 56.7 ≧256
5 55.2 ≧256 30 57 ≧256
6 91 ≧256 31 91 ≧256
7 30.5 ≧256 32 23 ≧256
8 29.2 ≧256 33 72.2 ≧256
9 44.5 ≧256 34 58.5 ≧256
10 56.4 ≧256 35 51.2 ≧256
11 91.9 ≧256 36 53.5 ≧256
12 70.7 ≧256 37 36.5 ≧256
13 66.6 ≧256 38 80.4 ≧256
14 33.4 ≧256 39 6.9 64
15 43.8 ≧256 40 5.5 ≧256
16 70.9 128 41 5.1 16
17 80.2 ≧256 42 6.9 8
18 106.8 ≧256 43 43.6 ≧256
19 35.6 32 44 78.4 ≧256
20 36.4 128 45 20.7 ≧256
21 24.9 ≧256 46 43 ≧256
22 41.4 ≧256 47 21 ≧256
23 44.7 ≧256 48 20.6 ≧256
24 37.3 ≧256 49 71.6 ≧256
25 33.7 ≧256 50 23.2 ≧256
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表4-3. M農場の牛群におけるBPIV-3中和試験結果.
各牛の月齢、BPIV-3抗体価を示す.
赤枠はBPIV-3抗体価が32倍以下の個体.
黄塗はBPIV-3分離試験を行った2個体.
No. 月齢 BPIV-3
抗体価 No. 月齢 BPIV-3
抗体価
1 54.3 ≧256 22 44.4 ≧256
2 64.3 ≧256 23 29.8 ≧256
3 33.1 ≧256 24 63.5 ≧256
4 71.3 ≧256 25 59.0 ≧256
5 57.3 ≧256 26 51.8 32
6 26.4 ≧256 27 28.9 ≧256
7 43.6 ≧256 28 49.6 128
8 59.9 128 29 127.3 ≧256
9 32.0 16 30 78.0 ≧256
10 66.8 128 31 88.0 ≧256
11 45.6 64 32 83.3 ≧256
12 33.6 64 33 56.3 64
13 33.0 ≧256 34 11.7 <2
14 36.0 ≧256 35 9.5 4
15 41.4 ≧256 36 14.3 <2
16 77.4 ≧256 37 1.4 ≧256
17 46.5 ≧256 38 1.4 ≧256
18 59.1 ≧256 39 4.6 128
19 60.1 ≧256 40 8.3 4
20 117.4 ≧256 41 4.4 32
21 90.1 ≧256 42 3.5 64
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表4-4. N農場の牛群におけるBPIV-3中和試験結果.
各牛の月齢、BPIV-3抗体価を示す.
赤枠はBPIV-3抗体価が32倍以下の個体.
黄塗はBPIV-3分離試験を行った7個体.
No. 月齢 BPIV-3
抗体価 No. 月齢 BPIV-3
抗体価
1 145.5 32 31 22.2 <2
2 100.5 ≧256 32 22.3 <2
3 77.3 128 33 21.6 <2
4 74.9 128 34 29.7 32
5 74.4 16 35 27 <2
6 74.9 ≧256 36 11.9 <2
7 76.7 128 37 11.8 <2
8 62.3 ≧256 38 11.5 32
9 79.2 ≧256 39 11 <2
10 55.7 64 40 10.2 <2
11 52.5 16 41 9 8
12 125 ≧256 42 7.6 <2
13 51.7 64 43 7.5 16
14 52.5 128 44 7.5 16
15 48 64 45 12.4 <2
16 45.8 64 46 9.9 16
17 45.6 16 47 9.3 8
18 40.9 64 48 109 ≧256
19 38.8 ≧256 49 62.6 64
20 39.1 64 50 186.9 16
21 43.9 ≧256 51 125 ≧256
22 59.3 64 52 123.3 32
23 36.3 8 53 83.6 128
24 33.4 16 54 69.8 32
25 36.1 64 55 121.3 ≧256
26 33.8 <2 56 84.8 128
27 23.4 32 57 70.3 32
28 24.2 16 58 85.0 8
29 22.1 32 59 94.6 32
30 22 <2 60 123.7 64
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表4-5. N農場におけるBPIV-3追加免疫試験結果.
個々の牛の第1回目ワクチン接種日の月齢、およびワクチン1回目( 1 )および2回目( 2 ) 接種前後のBPIV-3中和抗体価を示す.すべて20か月齢以上の牛を使用した.
V:ワクチン接種.
-:ワクチン接種せず.
ND:抗体検査せず.
No. 月齢 1接種
7日前 1 1接種
60日後
1接種
365日後 2 2接種
20日後
2接種 140日後
11 52.5 ND - ND 16 64 128
24 33.4 8 4 16 16 128
26 33.8 16 16 <2 2 2
27 23.4 32 16 ND - ND ND
28 23.4 32 8 16 16 32
29 22.1 32 - ND <2 <2 <2
58 85.0 8 64 8 - ND ND
V V V V
V
V V V
V V
ND
48
第 5 章
総括
49
牛の繁殖障害は、子牛の下痢、肺炎とともに、酪農家に甚大な経済的被害を与えてい る。胎子は母体内に存在することで外界からの病原体の感染から守られているが、成獣 と比べ病原体に対する感受性が高く、成獣では病原性を示さない微生物の感染によって も影響を受ける。成牛が感染した場合は軽度の症状を呈して終息する病原体でも、妊娠 牛に感染すると容易に胎盤感染が成立し、異常産の原因となる病原体が多数報告されて いる。最近は特に節足動物媒介性ウイルスでこの研究が行われ、シュマレンベルクウイ ルス、シャモンダウイルス、サシュペリウイルス、ピートンウイルス等の異常産となる 病原体が報告されている。しかし、感染牛から直接接触、間接接触あるいは空気伝播に より感染するウイルスでも、垂直感染を起こすものがある。畜産現場では感染症が疑わ れる原因不明な流産が多数報告されている。そこで、2009年度から2014年度にかけて 生物学的製剤製造のため諸外国から日本に輸入され、当研究室が病原体の混入や抗体保 有状況の調査を依頼された胎子血清およびその親のペア血清を使用し、BVDV抗体保有 状況および持続感染牛の検出を試みるとともに、それ以外の混入ウイルスの分離を試み、
子宮内感染により繁殖障害の原因となる可能性のあるウイルスの調査を行った。
1. FBSからのウイルス分離とその同定
BVDVは繁殖障害を起こすウイルスとして日本をはじめ世界各地で問題となってい るウイルスである。また、既報のFBSの抗体調査ではFBSからはBVDV以外のウイル ス抗体も検出されている。BVDV以外のこれらウイルスの持続感染牛が出産するという 報告はないが、一時的なウイルス血症を伴って繁殖障害の原因となっている可能性は高 い。そこで、NZL、AUSおよびDOMの各国で採取され、細胞培養に使用するFBS製 造のため日本へ輸送された2,758個体のFBSを使用してBVDV感染牛の検出を試み、
BFM細胞、MDBK細胞およびHL細胞の3種の細胞を用いてCPEを指標としてウイル ス分離を試みた。CPEが確認できなかった検体ではBlind passageを2回繰り返した。
BVDV-nCPの検出には、検査血清を20 %含む培養液とBFM細胞を混合培養し、5日後
50
に細胞病原性Nose株を重感染させる干渉法を使用した。その結果、BVDVは25検体の
FBS(0.91 %)から分離され、NZL産1個体、AUS産20個体のFBSからCPEを起こ
すウイルスが分離された。感染細胞をギムザ染色して観察すると、細胞が円形化して脱 落するとともに多数の巨細胞の形成が認められた。理化学的性状を探索すると、エンベ ロープのある100から200 nmのRNAウイルスであることが確認された。分離ウイルス 同定のため、cDNAを使用して次世代シーケンサーを用いた遺伝子解析を行った結果、
分離した21検体のウイルスはすべてBPIV-3であることが判明した。
2. FBSを使用したBVDV子宮内感染の調査
研究1でFBSから分離したBVDVの遺伝子解析を行うともに、同FBSを用いてBVDV 抗体検査を行い、野外におけるBVDVの牛胎子への垂直感染の実態を調査した。BVDV 抗体検査は、2倍階段希釈をした検査血清と100 TCID50のウイルス抗原を混合し、37℃
で1 時間放置後BFM細胞浮遊液を加える同時接種法による中和試験を行い、5日後に CPEの出現を指標に抗体価を測定した。ウイルス抗原にはBVDV 1型 Nose株、KS86-1
株およびBVDV 2型 KZ-91株を用いた。分離したBVDVの遺伝子解析を行ったところ、
2011年NZL産から分離したひとつは1a、AUS産血清から分離したふたつは1cのクラ スターに含まれ、これら以外は1dに近縁であった。また、BVDV抗体は44検体(1.60 %)
から検出された。7あるいは8個体を混合してある混合血清を1検体として中和試験や ウイルス分離を行った2014年度DOM産FBSにおいては、1検体中に複数の陽性個体
や BVDV-nCP の感染牛が存在した可能性があることは否定できないが、この血清群の
BVDV 分離率と抗体陽性率を合計しても約 2.51 %なのでその可能性は非常に低いと考 えられる。牛胎子は発生初期に BVDV に感染すると胚死滅や流死産が生じるが、血清 採取の胎齢となるまで発育した胎子を使用した今回の調査では、発生初期の胎子感染の 頻度は解明できない。妊娠牛が約280日の妊娠期間中にBVDV に感染する頻度に差が なく、死流産は胎齢 1~40 日、持続感染牛は胎齢 40~125 日、抗体陽性耐過牛は胎齢