企業年金を巡る近年の動向とその課題の 諸相
江 淵 剛
■アブストラクト
現在,わが国企業年金制度は大きな変容の過程にある。これまでにも退職 給付会計基準の導入やその制度の多様化など企業年金を取り巻く環境変化の 胎動は見られたものの,2012年2月に発覚した投資顧問会社による年金資産 消失事件を受けて一気に世間の耳目を集めることとなった。
高齢化の進展は先進国共通の事象であり,細りつつある公的年金にあって,
個人の老後の所得保障として拠出建て制度を中心に職域を通じた企業年金へ のアクセス拡充,参加率向上を巡る環境整備が諸外国における現下の潮流と なっている。
公的年金の機能低下が不可避となっている中で,わが国においても公的年 金の補完としての企業年金に期待が寄せられる。公的年金の補完を企図する 企業年金の機能発揮にあたっては,そのガバナンス及び持続可能性の向上が 図られるとともに制度への参加率底上げを巡る政策支援が欠かせない。職域 を通じた老後所得保障の充実に向けた議論が強く望まれる。
■キーワード
企業年金,拠出建て制度(DC),老後所得保障
関東部会報告による。
/
*平成25年3月15日の日本保険学会 5年8月15日原稿受領
平成2 。
Ⅰ.はじめに
わが国企業年金が大きな転機を迎えている。これまでにも退職給付会計基 準の導入(2000年度),2001年,2002年にかけての企業年金二法(確定拠出 年金法,確定給付企業年金法)の施行に伴う制度の多様化や適格退職年金制 度の廃止(2012年3月末)など企業年金制度を取り巻く環境は変化を続けて きた。他方で高齢化が着実に進展するなかで,社会保障財政は脆弱化し,当 該制度の持続可能性が懸念されている。公的年金機能が細りつつあるなか,
職域保障分野にある企業年金が注視されるところである。
本稿は,わが国企業年金制度を巡る近年の動向を捉えた上で拠出建て年金 制度を中心として企業年金へのアクセス拡充を図る米・英・オーストラリア の事例を取り上げ, 老後所得保障の充実 という要請に際して,職域保障 分野における企業年金制度を取り巻く課題とその機能強化について考察する。
諸外国の事例では,職域保障において政策支援による退職後に向けた資産 形成準備の促進が現下の潮流となっている。わが国においても政策によるイ ニシアチブの下,公的保障と職域保障分野にある企業年金制度が相互連関し たなかでの老後所得保障の充実,資産形成準備の促進が望まれる。
Ⅱ.変容過程にあるわが国企業年金
1.退職給付会計基準の導入
2000年度に導入された退職給付会計基準では,年金負債の時価評価を通じ て企業年金の資産運用リスクを鮮明化させた。
退職給付会計においては,まず将来に給付が見込まれる退職に係る支給額 のうち当期までに発生した部分を一定の割引率(市場金利に連動)にて割引
1) 現在,わが国企業年金において,給付建て制度として厚生年金基金,確定給 付企業年金があり,拠出建て制度として確定拠出企業年金がある。本稿中,給 付建て制度(年 金)を DB(Defined Benefit) ,拠 出 建 て 制 度(年 金)を
DC(Defined Contribution) という。
評価した退職給付債務の認識が求められる。この退職給付債務と足元の年金 資産とを比較し,債務が資産を上回る場合には一部が退職給付引当金として,
母体企業の貸借対照表に負債計上されることとなった 。
2.企業年金二法の施行
退職給付会計基準の導入の後,企業年金の多様化を可能とする法整備がな され,2001年に確定拠出年金法(以下 DC法 ),2002年に確定給付企業 年金法(以下 DB法 )が相次いで施行される。とりわけ,折からの軟調 な資産運用環境にあって,負担の大きい厚生年金基金制度において国からの 代行部分を返上し,新たに確定給付企業年金 として再スタートを可能とし たDB法により,財務余力のある有力企業の厚生年金基金を中心として代行 返上が進み,DB年金の加入者数,年金資産残高の積み上がりが進展した。
現在では,DB年金がわが国企業年金制度の主軸となっている。
DB年金では,運用環境の悪化等に起因する積立不足が生じた際,企業に よる(特別)掛金の拠出を通じて不足の解消が求められ,制度の持続可能性 を担保する 積立義務 が明示された。それまで主要な制度であった適格退 職年金(以下 適格年金 )と比べ,DB年金では老後の所得保障である企 業年金として加入者の受給権保護の強化が図られた。
2) 退職給付会計の目的として,①従業員のこれまでの勤務により発生した退職 給付制度に関する企業の債務である 退職給付債務 の認識,②損益計算書に 計上すべき退職給付制度にかかる費用である 退職給付費用 の認識,③退職 給付債務のうち貸借対照表の負債に計上する 退職給付引当金 の認識が挙げ られる。大山義広(2011) 財政運営と退職給付会計 企業年金 2011年2月 号,企業年金連合会,pp.42‑43。なお,2012年5月に公表された新たな退職 給付会計基準については,Ⅳにて後述する。
3) なお,わが国のDC制度では企業型年金と個人型年金に大別される。
4) 以下,わが国DB法に基づく確定給付企業年金を DB年金 という。なお,
DB年金には基金型と規約型がある。
(加入者数:万人資産残高:億円) 48.6%
49.0%
49.9%
49.5%
49.5%
49.9%
65.4% 3,451
3,441
3,425
3,445
3,457
3,379
3,219 787,752
783,957
793,039
705,396
847,377
944,840
755,955
資産残高 1,677
1,688
1,709
1,707
1,710
1,688
2,105
加入者数 0
30,988
64,031
81,319
117,433
156,253
223,584
資産残高 0
126
250
349
443
507
966
加入者数 65,400
54,700
48,600
39,800
36,500
31,100
―
資産残高 436
384
352
321
280
―
加入者数 453,407
419,721
390,377
328,753
366,504
368,879
―
資産残高 801
727
647
570
506
430
―
加入者数 268,945
278,538
290,031
255,524
326,940
388,608
532,371
資産残高 440
451
460
466
480
524
1,140
加入者数 11年度
10年度
09年度
08年度
07年度
06年度
2000年度
企業年金 カバー率 (対厚生 年金被保 険者数)
厚生年金 被保険者 数
企業年金合計適格退職年金確定拠出年金(※)確定給付企業年金厚生年金基金
図表1わが国制度別企業年金加入者推移 ※確定拠出年金は企業型年金,個人型年金の合計 (出所)厚生労働省年金局平成23年度厚生年金保険・国民年金事業の概況,厚生労働省ホームページ(http://www. mhlw.go.jp/),企業年金連合会企業年金に関する基礎資料,企業年金連合会新しい企業年金基礎資料,生命保 険協会・信託協会・全国共済農業協同組合連合会企業年金の受託概況(速報値)より筆者作成。
Ⅲ.諸外国に見る企業年金
程度の差こそあれ,先進各国共通の趨勢として高齢化 が進展している。
高齢化は社会保障制度からの支出増をもたらし,財政を脆弱化させる。世界 的な景気低迷も相まって,社会保障制度への拠出(キャッシュ・イン)の減 少,高齢化に伴う支出増(キャッシュ・アウト)と当該制度の財政が厳しく なるなかで,公的年金制度についても持続可能性の向上を企図した施策が諸 外国において採られている。OECD(2012)によれば,加盟各国で公的年金 制度改革を通じて平均20〜25%に上る給付水準の引き下げ,支給開始年齢の 引き上げが図られているという 。公的年金の機能低下の蓋然性が高まるな かでは,個人の老後の所得保障における企業年金の役割,位置付けが重要と なってくる。
政策により企業年金をはじめとして,個人の将来に向けた資産形成に資す る環境が整えられてきた国として米国があげられる。また,政策によって職 域を通じた年金制度への 自動・強制加入 を進め,自国民の老後の所得保 障準備の充実を図るケースも見られる。英国及びオーストラリアである。
ここでは,まず米国を中心としてその企業年金制度の実態を俯瞰するとと もに政策によるイニシアチブの下,制度への自動・強制加入を通じた参加率 の向上,老後の所得保障の充実を図る英国,オーストラリアのケースを見て いく。
5) 2012年におけるわが国の65歳以上人口は過去最高の3,079万人となり,総人 口に占める割合(高齢化率)は24.1%となった。なお,2010年時点での主要国 における高齢化率について,日本23%,ドイツ・イタリア20.4%,英国16.6%,
米国13.1%であり,わが国が最も高くなっている。内閣府 平成25年版 高齢社 会 白 書 (http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2013/gaiyou/s1 1. html)
6) 加盟国における年金支給開始年齢の現在の主流は65歳であるが,今後67歳が 多数を占 め る も の と 報 告 さ れ て い る。OECD(2012),“PENSIONS OUT- LOOK 2012,”MEDIA BRIEF, p.1.(http://www.oecd.org)
1.米国の企業年金制度
⑴ 米国の年金制度体系
米国の公的年金制度はわが国と異なり,1階建て,すなわち OASDI
(連邦社会保障制度) 中心の構成となっている。1階建ての公的年金の上に 企業年金,個人年金が乗る公私併せた3層構造となっている 。大多数の個 人の老後所得保障において公的年金に期待される機能は低く,個人は職域や 自助により保障を準備していく必要がある。加えて,公的年金制度の持続を 図る施策として,既に満額受給年齢の引き上げ(65歳から67歳に)が予定さ れているが ,今後は給付水準の引き下げ等も検討に入ってこよう 。
他方で米国においては,企業年金が早くから法整備の下,高度な発展を遂 げてきた。 機能が薄い公的年金制度を補完する企業年金 としての実用性 を高め,老後の所得保障としてそ の 役 割 を 発 揮 せ し め る 施 策 と し て の ERISA(Employee Retirement Income Security Act.以下 エリサ法 ) の施行が端緒となっている。エリサ法は1974年に職域における退職給付全般 を包括するものとして施行され ,企業年金については加入者に対する将来 の確実な年金給付履行を担保するため 受給権 を明確化させ,私的年金制 度たる企業年金において労働者保護の概念を反映し,企業年金の機能向上に 寄与してきた 。
7) OASDIは公的年金の大半の加入者を抱え,その加入者は2011年推計で1億
6千万人に上る。その他,鉄道職員退職制度,旧連邦職員退職制度,州地方職 員退職制度により1階部分は構成されている。企業年金連合会(2012) 新し い企業年金基礎資料 ,pp.386‑387。
8) OECD(2012),op. cit.(注6),p.1.
9) 2011年の給付水準は労働者平均賃金の約50%とされる。企業年金連合会
(2012),前掲書,p.387。
10) エリサ法では,年金給付制度と福祉給付制度の2種類の従業員給付を規制す る。上野雄史(2008) 退職給付制度再編における企業行動―会計基準が与え た影響の総合的分析 中央経済社,p.81。
11) ジェイムズ・A・ウーテン・みずほ年金研究所訳(2009) エリサ法の政治 史 中央経済社。
⑵ 米国の企業年金制度 ―DBとDCの概況―
米国の企業年金においては,引退後の生活の柱となる役割が期待されてい るが,こうしたコンセンサスはエリサ法の施行を契機として,1980年代の公 的年金改革を通じて,国民の自助努力による老後に向けた資産形成の必要性 が認識されていったことを嚆矢とする 。また,エリサ法により職域のみな らず個人の貯蓄形成促進として個人退職勘定(IRA:Individual Retire- ment Accounts)も導入され ,生活保障システムに見る 職域 と 自 助 の2つの領域において,個人の資産形成が促されたことも老後所得保障 準備に対する認識の醸成に大きく寄与したものと考えられる。
さて,米国における直近の情勢として,EBRI(2012)の調査によれば,
被用者全体における退職給付制度への加入割合は44.6%(フルタイム労働者 53.7%)となっている 。
米国企業年金制度の趨勢を俯瞰してみるとDBからDC への遷移が明確 に確認できる。こうした米国におけるDC化の要因として,老後の所得保障 として機能しえる企業年金制度を前提とした厳格なエリサ法の規定 が挙 げられる。将来の年金支給額が確定しているDBにあっては,エリサ法が規
12) 野村亜紀子(2012) 諸外国の確定拠出型年金の動向〜年金カバー率の拡大 と加入者の運用支援の観点から〜 企業年金 2012年3月号,企業年金連合 会,pp.5‑6。
13) IRAの2011年末時点における推定資産残高は4.9兆ドルに上る。ICI(2012),
“Retirement Asset Total $17.9Trillion in Fourth Quarter2011,”April 2012.(http://www.ici.org)
14) Copeland, C.(2012), “Employment‑Based Retirement Plan Participa- tion:Geographic Differences and Trend,2011,”EBRI Issue Brief No.378, November2012, p.1, pp.8‑9.
15) 米国の代表的なDC制度として,マネー・パーチェス・プラン,利益分配制 度,株式賞与制度,地方共済組合制度などがある。このうち,内国歳入法401 条⒦項に規定される要件を満たす税制適格年金制度が 401⒦ とされる。企 業年金連合会(2012),前掲注7),pp.388‑392,p.403。
16) 森戸英幸(2012) 企業年金二法成立から今日まで―法的観点から― みず ほ年金レポート 2012・1/2,みずほ年金研究所,pp.37‑39。
定する運用低迷時における掛金の追加拠出による積立不足の解消,積立不足 の 程 度 に 応 じ たPBGC(Pension Benefit Guarantee Corporation:制 度 終了保険制度)への保険料納付義務など,DB運営に付随する不確定なコス トがどうしても重荷となる。とりわけ,頻発する金融危機下での運用低迷や
(年金負債を評価する)割引率低下による年金負債の増大もDB制度維持に 際する障壁となっている。
他方で制度実施企業が年金負債を認識せず,掛金拠出のみで加入者たる従 業員が運用リスクを負うDCへの志向が高まってくる。ウーテン(2009)で は,エリサ法における従業員保護という目的を達成する手段として,受給権 付与,年金積立の最低基準の設定(積立規制),制度終了保険制度(PBGC) を挙げるが,このうち 積立規制 と 保険制度 はDB制度のみに関係す る。 エリサ法での保護政策の改訂(例えば保険料引き上げや積立水準の強 化)は,給付建て制度と拠出建て制度との費用の差を一層拡大させた と指 摘する 。1990年代初頭には,DC加入者がDBのそれを上回り,近年では 企業年金制度において,DCの加入者がおよそ7割に上る。資産規模を見て も退職準備資産残高に占めるDCの存在感が確認できる 。
⑶ 米国企業年金の課題と対応
2008年に生起したリーマンショックや2010年以降の欧州信用不安など,近 年の頻発する金融危機やそれに伴う米国長期金利の歴史的低迷はDB制度の 年金財政における 資産 , 負債 双方から年金運営に際する必要利回りの 達成を困難にさせ,資産運用リスクを顕在化させている。
17) ウーテン(2009),前掲注11),p.307,p.313。
18) 2011年末時点において,企業が提供するDC(401⒦プラン)の資産残高は 3.1兆ドル,DBの資産 残 高 は2.4兆 ド ル と な っ て い る。ICI(2012),op. cit.
(注13)。
U.S.Department of Labor(2012)“Private Pension Plan Bulletin His- torical Tables and Graphs,”November2012.
(http://www.dol.gov/ebsa/pdf/historicaltables.pdf)
ミリマン社(2012)によれば,2012年4月末における米国主要100社の企 業年金積立率は82.9%まで低下したと報告されている 。また,主要1,500 社における積立不足額は5,430億ドルに上るという 。加えて,米国のDB 制度において一定の資産規模を示す公務員年金セクターについても積立比率 の悪化が確認され,2010会計年度では公務員を対象としたDB制度における 積立不足額は7,570億ドルに達している 。
このような積立比率の悪化は年金資産運用の低迷に加え,年金負債を評価 する際に用いられる 割引率 の低下が著しいことに起因する。
近年において具現化した数次にわたる金融危機は,世界中の投資家心理を 悪化させ,株式から債券への資金シフトが進んだ。各国金融政策の共通項と なっている金融緩和によって,あふれたマネーが 質への逃避 として米・
独・日といった国債に流れ込み,当該国における長期金利低下が著しい。
2012年7月には,米10年国債利回りは1.4%を割り込むなど史上最低水準に あった 。こうした運用不振(年金資産減少)と割引率の低下(退職給付債 務増大)という双方からの要因に起因する近年の積立比率の悪化に対する米 国企業年金側の対応として,予定利率や資産運用リスクの引き下げ措置が採 られ始めている 。また,企業年金制度設計面からの対応として,新規職員
19) Ehrhardt, J., and Zorast Wadia(2012)“Milliman analysis:Corporate pension funded status declines in April for first time this year,”Mil-
liman 100 Pension Funding Index, May2012. 20) 日本経済新聞 2012年7月13日。
21) THE PEW CENTER ON THE STATES(2012), “The Widening Gap Update,”June2012.(http://www.pewstates.org)
22) 米国20年債利回りも初めて2.5%を割り込んでいる。 日本経済新聞 2012年 7月25日。
23) 米国最大の公務員年金カルパースの事例では,市場価格の変動率が大きい不 動産分野における投資の縮減や2004年以来7.75%に置かれていた予定利率を 7.5%に引き下げるなどの対応が見られる。なお,予定利率の引き下げは当該 事例のみならず,米公務員年金の予定利率の平均が従来の8%台から足元7%
台に切り下がっている。遠山 勳(2012) 低金利環境下における米国年金基金 の運用姿勢と取組み みずほ年金レポート 2012・3/4,みずほ年金研究所,
の給付抑制や一層のDCプラン化も進展している 。
他方で負債側としての退職給付債務増大要因となる 割引率の低下 につ いては政策による対応が検討されている。すなわち,近年の長期金利低下が もたらす割引率の低下に伴う年金債務評価の増大(積立比率の悪化)を緩和 させることを主眼として,このほど米国では 年金基金の安定化条項 を設 け,割引率の参照指標となるAA格の社債利回りにつき,参照期間を過去 2年から25年までに延長させることによって,近年の急激な金利低下が及ぼ す割引率への影響を緩和させることとしている 。
さて,現在ではDCを主軸として発展を見せている米国においても就業形 態や年齢・勤務先の違いによっても制度への加入率に差異が見られ ,掛金 拠出率の不十分さから資産形成における脆弱さも指摘されている 。
これを受けて,職域における年金制度加入率底上げを企図した政策として 年金保護法が2006年に施行された。同法では, 制度への自動加入制度 ,
自動加入制度におけるデフォルトファンドの設定 などが新たに規定され,
DCを中心とした企業年金制度への加入率向上が図られた 。
pp.76‑77。遠山 勳(2012) リスク回避姿勢を強める米企業DB(確定給付 型)年金基金 みずほ年金レポート 2012・1/2,みずほ年金研究所,pp.157‑
159。 日本経済新聞 2011年12月23日。
24) 遠山 勳(2011) 金融危機以降の米公務員年金 みずほ年金レポート 2011・7/8,みずほ年金研究所,pp.74‑76。
25) Wall Street Journal, June25,2012.
26) EBRIの調査によれば,フルタイム従業員,公的部門に勤務する者,高齢層
(55‑64歳)における企業年金への加入率の高さが確認できる一方でパートタイ ム従業員,民間セクター勤務者,若年層における企業年金の加入率の低さが目 立つ。Copeland,(2012),op. cit.(注14), p.9, p.29.
27) 遠山 勳(2011) 金融危機以降の米401⒦プラン みずほ年金レポート 2011・9/10,みずほ年金研究所,pp.37‑39。
28) 年金保護法が対象とするDC制度は401⒦プランである。小川貴史(2007)
2006年年金保護法施行1年後の米国の401⒦制度の状況 みずほ年金レポー ト 2007.11/12,みずほ年金研究所,p.54。臼杵政治(2010) 老後の所得保 障の観点から見た確定拠出年金 老後保障の観点から見た企業評価に関する 研究 年金シニアプラン総合研究機構編,p.20。
米国企業年金における近年の潮流からは企業年金,政策双方からの施策に より公的年金の補完機能を果たしえる企業年金としての持続可能性向上や近 年のDBからDCへの遷移が確認できる米国にあって,主としてDCへの加 入率向上を通じた国民の老後の所得保障充実に向けての環境整備が図られて いる。
2.英国・オーストラリアにおける職域を通じた年金制度への自動・強制加 入
⑴ 英国における自動加入制度の導入
英国の公的年金制度体系はわが国と類似しており,全国民をカバーする基 礎年金の上に被用者を対象とする所得比例の付加年金が位置する2階建てと なっている 。公的年金の上に企業年金が位置するが,同国においては1995 年の年金法の制定以降,数次にわたる同法の改正を経て,企業年金の健全性 確保が図られてきた 。
英国においても米国と同様に老後所得保障として公的年金が果たす機能は 低く,最低保障との位置付けから公的年金制度の所得代替率は低い 。
しかしながら,現状では同国における国民の老後に向けた所得保障の準備 状況は芳しくない。同国では,700万人もの国民が十分な退職準備資本を持 ち得ず,民間に属する被用者(約1,900万人)のうち,企業年金制度に加入 している者はおよそ300万人に留まるものとされ,当該加入者も減少傾向に
29) 企業年金連合会(2012),前掲注7),pp.404‑405。
30) 2004年の改正では,主として①支払不能となった企業年金基金に一定レベル まで保証する年金保護基金の創設,②企業年金基金を監督し基金に対して強制 的な改善通知を行なうなどの権限が付与された年金監督官の設置などが追加さ れた。髙﨑 亨(2009) 英国企業年金政策の展開―企業年金基金の健全性確保 のための公的規制の概要― 保険学雑誌 604号,pp.139‑140。企業年金連 合会(2012),前掲注7),pp.406‑409。
31) OECD(2012)によれば英国公的年金の所得代替率は31.9%である。OECD
(2012),op. cit.(注6), p.3.
→脚注が入らないため、アキを作成しています。注意
ある 。なお,DB制度については米国と同様に近年,積立比率の悪化に直 面している 。
国民の老後所得保障準備の遅滞や低い企業年金制度のカバー率及びDB制 度を取り巻く環境の悪化を受けて,政府は2008年の法改正にて2012年より新 たな老後所得保障準備の制度導入を図ることとした。当該制度は,NEST
(National Employment Savings Trust)と呼ばれるが,企業年金に未加 入の低中所得の被用者を対象としてDCを主軸とする適格な年金スキームに 自動加入 させ,被用者,雇用主による掛金のマッチング拠出により資産 形成を図っていく。なお,当該制度の特徴として,制度に自動的に加入する が,その後,制度に残りたくない者だけが自ら脱退を選択する(opt‑out)
方式が採られている 。今般の制度導入により同国では新たに1,000万人も の国民が職域を通じた年金制度に浴することが期待されるという 。
OECD(2012)では,自動加入制度を通じた加入率向上に伴って職域部分 の年金制度が公的年金を補完し,所得代替率が70%近くまで上昇するものと している 。
32) 英国コンサルティングアクチュアリー協会(ACA)によれば,1967年の企業 年金加入者は約800万人であったが,現下では300万人にまで減少している。
ACA(2012), “Workplace pensions:challengings times,”January2012, p.7.(http://www.aca.org.uk)
33) 英国のDB制度における積立比率について,2009年時点では積立比率が 86
%〜95% の区分に最も多くのDB制度(全体の39%)が位置していたが,
2011年にはそれが積立比率 75%〜85% の区分へと遷移(全体の47%の制度 が該当)している。また,制度全体の積立比率の平均についても2009年の79%
か ら2011に は77% へ と 低 減 す る な ど 積 立 比 率 の 悪 化 が 確 認 さ れ る。Ibid., pp.21‑22.
34) 杉田浩治(2010) 自動加入方式 を採用する英国の新個人年金制度―行動 経済学を取り入れた改革― 証券レビュー 50巻第1号,日本証券経済研究 所,pp.105‑109。
35) ACA(2012),op. cit.(注32), p.36. 36) OECD(2012),op. cit.(注6), p.3.
⑵ オーストラリアでの強制加入制度
早くより職域を通じた企業年金制度への強制加入により私的年金カバー率 を向上させ,国民の老後所得保障準備の充実を図ってきたのがオーストラリ アである。同国は,税を財源とした公的年金制度を備えるが,その上乗せと して勤務先事業主が掛金を強制的に拠出する企業年金としてスーパーアニュ エーションが位置付けられている 。スーパーアニュエーションは主として DC制度として運営されるが,被用者は企業や業界単位ごとに設置された基 金に加入,基金が準備する運用ファンドを通じて資産形成に務める。
事業主による標準的な掛金拠出率は給与の9‑12%とされ,当該部分に加 えて従業員も同4‑5%の任意のマッチング拠出を行うことが一般的である という 。そうしたなか,事業主による強制的掛金拠出は,制度の資産規模 増大に大きく寄与しており,同国における私的年金残高の対GDP比は100
%を超えるまでに伸張している 。
事業主によるスーパーアニュエーションへの掛金拠出義務付けは1992年よ りなされているが,国民の退職後の所得保障充実を企図して近年においても 政府は掛金拠出率を一律12%に引き上げることを発表している 。
37) 遠藤忠彦(2011) オーストラリアとニュージーランドの企業年金の動向 企業年金 2011年9月号,企業年金連合会,pp.35‑36。西村 淳(2012) オ ーストラリアの年金制度 年金と経済 Vol.31,年金シニアプラン総合研究 機構,pp.82‑83。
38) 遠藤(2011),前掲注37),p.35。
39) な お,日 本 は お よ そ20% で あ る。OECD(2009)“Private Pensions Out- look 2008Executive Summary,”p.8.(http://www.oecd.org/dataoecd/ 44/60/42153142.pdf)
40) OECD(2012),op. cit.(注6), pp.3‑4.
→脚注及びタイトルが入らないため、アキを作成しています。注意
Ⅳ.わが国企業年金を取り巻く課題
1.高度化が促される企業年金運営
⑴ 新たな退職給付会計基準と企業年金資産運用
わが国会計基準の国際会計基準 へのコンバージェンス(収斂)が進め られるなかにあって,2012年5月に企業会計基準委員会(ASBJ)は退職給 付に関する新たな会計基準を公表した。新基準では,企業年金の積立不足額 について,母体企業の貸借対照表の負債部分への即時認識を要請する。すな わち,退職給付債務が年金資産を上回る場合,その差額が貸借対照表の負債 部分に即時認識されるとともに,これまでは簿外債務であった企業年金にお ける未認識債務について,税効果対応後,純資産に反映される取り扱いとな る 。また,併せて年金資産の内訳,企業年金が設定する期待収益率の設定 方法とその根拠など年金資産運用に関する事項についての追加開示が求めら れることとなった 。
頻発する金融危機の下,資産運用収益率が低位に留まるなかでの今回の新 基準発表により,企業年金資産運用が与える母体企業財務への影響の緩和,
限定化という要請が高まるだろう。企業年金運営において資産,負債両面に わたる総合管理(年金ALM:Asset Liability Management)の高度化や 安定的な資産運用への志向が高まるものと考える。また,年金資産運用に係
41) 国際会計基準の原理として 資産負債アプローチ が通底している。そこで は,資産と負債が優先的に定義された後,それらに依拠して収益と費用が定義 される。すなわち, 収益は資産の増加や負債の減少を伴って生じる利益の増 加項目,費用は資産の減少や負債の増加を伴って生じる利益の減少項目と定義 される 。これに対してわが国では,資産負債アプローチと対比的な収益費用 アプローチが企業会計原則の基礎をなしてきた。桜井久勝(2011) 利益情報 と純資産情報の最適バランスの探求 国民経済雑誌 204巻第1号,pp.1‑5。
42) 日本経済新聞 2012年5月18日。なお,対象は連結決算である。
43) 稲葉雅博(2012) 退職給付に関する会計基準 および 退職給付に関する 会計基準の適用指針 の解説 企業年金 2012年8月号,企業年金連合会,
pp.8‑14。
る一層の情報開示が求められるに際し,加入者はもとより広く一般投資家に も企業年金の資産運用に関心が向けられるようになり,企業年金にはこれま で以上に母体企業との緊密な情報連携が必要になってこよう 。
⑵ 年金基金 のガバナンス強化 ―受託者責任を中心として―
母体企業,加入者からみれば年金基金は,年金掛金を拠出し,将来の年金 給付に向けた資産運用,管理を委託する委託先である。多額の資産を中長期 にわたって運用していく年金基金にあって,受託者責任に基づく善管注意義 務の遵守が求められる。
他方で年金基金は,その資産運用においては多くを信託銀行,投資顧問会 社,生命保険会社といった運用の専門機関に委託する 委託者 でもある。
前述の年金財政,資産運用に関する母体企業の財務諸表上での公開情報の詳 細化,財務への影響の増大は年金基金に更なる受託者責任に対する意識の醸 成を促している。加入者の受給権保護の点において,受託者責任に対する意 識が強い欧米では,企業年金に対する公認会計士などによる会計監査が活用 されている。すなわち,米国では公認会計士による監査証明に加え年金数理 関連の報告にはアクチュアリー(年金数理人)の承認が求められる。英国に おいては,全てのDB制度について会計監査が義務付けられているという 。
44) 母体企業と年金基金間での強い紐帯が確認され,高い年金ガバナンス構造が 機能している海外の事例に米国ボーイング社の取り組みが挙げられる。同社で は,取締役会の下で,投資に精通した委員より構成され年金基金の資産運用に 係る意思決定を行なう 従業員福利投資委員会 と福利厚生制度全般を管理し,
制 度 改 善 を 行 な う 従 業 員 福 利 制 度 委 員 会 が 設 け ら れ て い る。山 口 登
(2011) 高まる年金ガバナンスの重用性 企業年金連絡協議会資産運用研究会 編 チャレンジする年金運用―企業年金の未来に向けて― 日本経済新聞出版 社,pp.210‑215。
45) 本節中,年金基金とは,母体企業とは別法人として創設された厚生年金基金 やDB年金(基金型)を想定している。
46) 日本公認会計士協会(2012) 年金資産の運用に関連する会計監査業務等の 状況に係る研究報告 ,pp.10‑11。
このほど,日本公認会計士協会より年金基金の受託者責任の観点から,年 金財務における監査法人の活用などについて提言がなされた。同提言では,
年金基金による,委託先運用機関の監査報告書や当該運用会社における資産 運用,管理に係る業務(受託業務)についての内部統制検証報告書 の受 領,確認などが盛り込まれるなど,年金基金の運用機関に対するモニタリン グの強化を促す内容となっている 。
2.老後所得保障機能を向上させた企業年金のあり方
⑴ 公的年金との連関の深化
企業年金が 公的年金の補完 としてコンセンサスが形成されている欧米 においては,その受給権保護が強く意識され,法令などによって,企業年金 解散時の支払保証制度の設置や国民の老後所得保障の充実を企図した職域に おける年金制度への自動・強制加入の実例を見た。
他方でわが国においては,企業年金の出自が退職一時金を原資とした移行 というケースが大勢であり,その制度も企業ごとに多様性が見られることか ら 公的年金の補完 としての位置付けに対する意識は薄い 。
しかし,毎年1兆円もの自然増が具現化する現在の社会保障財政 や2013
47) 内部統制の検証報告書には,米国公認会計士策定基準のSSAE16,日本公 認会計士協会策定基準の第86号などがある。
48) 日本公認会計士協会(2012) 年金資産の消失事案を受けての監査及び会計 の専門家としての提言 。
49) 企業が実施するDB年金の年金給付設計において,多くが10年有期型の給付 設計となっており,終身年金としての設計は少数派である。格付投資情報セン ター(2010) 年金情報 No.536。なお,受給者から見て年金給付よりも一時 金給付のニーズが高い。
50) 年金,医療,介護といった社会保障給付費について,1980年度では24.7兆円
(対GDP比10%)であったのが,2009年度では99.9兆円(対GDP比21.1%)
に増大している。なお,このうち高齢者関係の支出は80年度の10.8兆円から09 年度には68.6兆円に増長し,社会保障給付費に占める割合も70%に迫る。西沢 和彦(2012) 社会保障・税一体改革の課題と政府・与党案の評価 証券アナ リストジャーナル 50巻6号,日本証券アナリスト協会,pp.71‑73。
年4月からの厚生年金保険の報酬比例部分相当の支給開始年齢引き上げなど,
公的年金の機能低下は不可避の様相を呈している。こうしたなかで,わが国 においても企業年金の機能や普及率向上を企図した施策が求められている。
まず,わが国最大の企業年金制度に伸張したDB年金においては,その 受給権の保護 が求められる。毎年の年金財政検証の実施をはじめとして,
従前の適格年金より受給権が保護されたDB年金ではあるものの,長期的な 運用低迷や会計基準の厳格化,企業業績低迷などの要因により制度の終了や 給付減額を検討するDB年金が増えているという 。企業年金が公的年金の 補完機能を果たしえるには,まずその受給権の保護が前提となる。母体企業 と年金基金とのコミュニケーションが図られた上での持続可能な企業年金運 営,安定的な資産運用が求められる。
職域を通じた企業年金制度として諸外国では主流となっているDCについ て,2011年に成立した年金確保支援法により企業型年金においては2012年1 月より加入者たる従業員からも掛金拠出(マッチング拠出)が可能となった。
掛金拠出による節税効果も手伝ってマッチング拠出導入企業も増えているよ うである 。しかしながら,わが国で今後DCが一層の普及を見せ,老後所 得保障として機能しえるには,現在,DC制度加入の対象外となっている第 3号被保険者や公務員への加入対象の拡大 や制度への一層の掛金拠出率 の向上が必要である。また,マッチング拠出を認めた先の年金確保支援法で は,企業型年金において導入企業による加入者への継続投資教育の義務化が 盛り込まれている。運用の巧拙が将来の年金受給額に直接影響が及ぶDCに
51) 松村正明(2012) 確定給付企業年金法施行から10年 HOT LINE Pen- sion & Asset Management Vol.149,みずほ信託銀行,pp.2‑4。
52) マッチング拠出が可能となった2012年1月時点では当該拠出制度導入企業数 は75であったが,5月末では782,9月末では1,525までに増加している。 日 本経済新聞 2012年7月18日。厚生労働省(http://www.mhlw.go.jp) 53) 政府の成長ファイナンス推進会議において,成長マネーの供給源としてDC
制度に着目し,DCへの拠出限度額の拡大,公務員や専業主婦への加入対象者 拡大が検討されている。 日本経済新聞 2012年5月8日。
あって,企業の継続的な投資教育に対する取り組みに注目したい 。
⑵ 企業年金の機能向上に向けた諸施策
OECD(2012)では,加盟各国の事例にならって,税制優遇,制度への自 動・強制加入,国からの補助金など職域における企業年金を通じた老後所得 保障充実を図る種々のメニューを挙げている 。DBからDCへの遷移とい う企業年金制度の変更や受給権の希薄化,労働市場における流動性など,退 職給付を取り巻くファクターの多様化とその変容が見られるが,退職給付の 増減は個人の生涯収支に大きく影響する 。公的年金の機能が細るなか,諸 外国の潮流に鑑みたとき,わが国においても職域を通じた老後所得保障の一 層の充実を希求していく必要にある。
Ⅴ.おわりに
このほど厚生労働省より2010年の平均世帯所得が発表された。折からの景 気低迷や非正規雇用の増加などを背景として,1世帯あたりの平均所得が23 年ぶりの低さとなったことはもとより,世帯収入の多くを年金が占める高齢 者世帯の所得の減少率が前年比0.2%に留まるに対し,現役の子育て世帯の 所得減少率が前年比5.6%にも達したという 。また,同時期に公表された公 的年金加入者の所得状況について,国民年金加入者の平均年収が159万円に 留まり,公的年金受給者の平均年収(189万円)を下回っていることが明ら
54) なお,企業年金連合会による調査(2010)によればDCを導入する企業の4 割超において継続投資教育が未実施である。企業年金連合会(2010) 第3回 確定拠出年金制度に関する実態調査 調査結果 ,p28。
(http://www.pfa.or.jp/jigyo/tokei/files/DC chosa‑3.pdf)
55) ドイツやニュージーランドでは,税制優遇から受ける恩恵が少ない非課税,
低所得者層に対する制度への加入促進策として個人の退職給付口座へ州から直 接的な補助金の支給がなされている。OECD(2012),op. cit.(注6), pp.2‑3. 56) 河本淳孝(2011) 生活設計の変化と生命保険 田畑康人・岡村国和編 人
口減少時代の保険業 慶応義塾大学出版会,pp.30‑31。
57) 日本経済新聞 2012年7月6日。
かになった 。年金制度の 支え手 と 受給者 の収入が逆転したなかで の現下の賦課方式の年金財政は脆弱で現役世代の負担も限界を迎えつつある。
公的年金機能の縮小は,個人の年金格差に繫がりかねないが,ここで職域 を通じた企業年金及び自助による個人年金が重要になってくる。
しかしながら,わが国では年金消失事件を受けて以降,厚生年金基金制度 について近年の運用環境にそぐわない高い予定利率 や脆弱化する年金財 政状況などが取り取り沙汰され,有力な後継・代替制度創設が見出されない なかで厚生年金基金制度の大幅な制度縮小方針が打ち出されるなど,企業年 金カバー率低下に繫がりかねない議論が先行している 。また,2012年3月 には,適格年金が制度廃止となっているが,その後継制度としてDB年金,
DCへの移行状況も決して芳しいものではなかった 。
厚生年金基金については,これまでに大企業を中心とした厚生年金基金の 代行返上が進んでいることから,現在も存続する厚生年金基金の太宗は中小
58) 日本経済新聞 2012年7月10日。
59) 一般に厚生年金基金の高い予定利率(5.5%)の設定が注目されがちである が,5.5%の予定利率が設定されているのは,代行部分(最低責任準備金)の 上乗せ給付部分(数理債務)に対してであり,代行部分の目標収益率は厚生年 金本体の利回り水準である(過去10年平均で約1.6%)。従って,厚生年金基金 のポートフォリオ全体で追求すべき必要利回りは5.5%から低くなる。霧生 淳
(2012) 総合型はハイリスク運用が必要か 年金情報 No.586,格付投資情 報センター。木口愛友(2012) 年金関係者に突きつけられた3つの問題点
年金情報 No.588,格付投資情報センター。
60) 厚生年金基金制度の構造問題を踏まえて厚生労働省は 厚生年金基金等の資 産運用・財政運営に関する有識者会議 を2012年4月に設置,その後,社会保 障審議会年金部会の下に設置された 厚生年金基金制度に関する専門委員会 において10年以内での厚生年金基金制度の段階的縮小,廃止方針が確認された。
これを受けて2013年6月に 公的年金制度の健全性及び信頼性の確保のための 厚生年金保険法等の一部を改正する法律案 が可決,成立となった。 週刊社 会保障 No.2732,法研,2013年,pp.6‑13。
61) 適格年金のおよそ4割が 解約 など,後継の企業年金制度への移行なく制 度終了となっている。厚生労働省 適格退職年金制度の動向 。(http://www.
mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/nenkin/tekikaku e.html)
の企業を母体とする総合型厚生年基金である 。当該制度の解散や他制度へ の移行に際しては,個々の厚生年金基金の状況に応じた政策支援,配慮が欠 かせない 。また,今後は中小の企業が志向しやすい新たな企業年金制度の 創設など企業年金のカバー率向上に資する方策も必要となろう 。
わが国企業年金は,退職金を出自としていることもあり,企業ごとに多様 性が認められ,また,リタイア前であっても勤め先企業の退職を契機に一時 金としての受給も可能となっていることを受けて公的年金の補完としての機 能,認識は薄い。公的年金の機能が細り,その補完として企業年金の機能を 高めていくのであれば,制度設計の標準化や持続可能で柔軟性に富んだ新た な企業年金制度創設への志向及び一層の制度への加入率引き上げなどを包含 する政策支援が重要となる。
公的,私的を問わず,年金制度の持続可能性について注目が高まっている なかにあって,公的年金と私的年金との連関を深め,公的年金の補完として の企業年金たる機能強化に向けた議論が望まれる。
(筆者は日生協企業年金基金勤務)
62) 2011年度末で厚生年金基金は577基金を数えるが,そのうち約8割が総合型 基金である。 週刊社会保障 No.2690,法研,2012年,p.92。
63) 公的年金制度の健全性及び信頼性の確保のための厚生年金保険法等の一部 を改正する法律案に対する附帯決議 では,政府には,関係省令の整備,説 明・相談などの適切な対応,手続き面での改善などを含めた移行支援策や厚生 年金基金の解散,移行にあたって母体企業が退職給付規定などに基づく退職給 付義務を履行するよう指導することに加えて厚生年金基金が今後代行割れを起 こすことのないよう,厚生年金基金の資産状況等に対する従来以上のモニタリ ング実施といった措置が講じられるよう求められている。法研(2013),前掲 注60),p.7。
64) 中林宏信(2012) 企業年金の理解のために 企業年金 2012年8月号,企 業年金連合会,pp.18‑21。