肢体不自由のある父親への子育て支援に関する研究
― 当事者のインタビューを通して ―
平 野 華 織* ・ 別 府 悦 子*
The Study on Support for Child Care of Physically Disabled Parents
Kaori HIRANO and Etsuko BEPPU
肢体不自由のある父親の子育ての実態と援助に関する検討を行うため、肢体不自由障がい当事者 のインタビュー調査の結果を報告した。調査の目的は、肢体不自由のある父親が子育てをする際、
困難を抱える事項と支援の課題を明らかにすることである。5名の肢体不自由のある父親を対象に インタビュー調査を行い、質的分析を試みた。その結果、「肢体不自由が障がいにならない子育て をしたい」「フォーマルサポートを利用して育児をする」「援助者がもたらす困難がある」「社会環 境の改善を望む」の4つのカテゴリーが見出された。そして、「ヘルパーによる、援助としての育 児の資質向上」「教育機関のバリアフリー化の推進」「育児をしている男性障がい者同士の交流の場 づくり」に課題があることが、明らかになった。この中で環境面や設備などのハード面だけでなく、
ヘルパーがどのような役割を果たすべきか、また親の主体性をどう尊重するのか、といったソフト 面での課題が提示された。
キーワード:肢体不自由、 障がい当時者、父親、子育て支援
Ⅰ.問 題
わが国では1990年の “1.57ショック” 以降、少子 化対策への関心がますます強くなっている。社会全 体での子育て支援をねらいとし、多様な保育サービ ス の 量 的 拡 大 を 図 る た め の「エ ン ゼ ル プ ラ ン」
(1995‑1999年度)、仕事と子育ての両立を支援し、
子育て負担感の軽減を重視した「新エンゼルプラン」
(2000‑2004年度)が推進されてきたが、少子化現象 は解決されなかった。そのような中、「少子化対策 プラスワン」(2002年度策定)では「家庭より仕事 を優先する」父親を含めたすべての人の働き方を見 直す視点が盛り込まれ、「父親の育児参加」は日本 の政策的な課題として促進されるようになった。
「少子化社会対策大綱」(2004年度)に沿って講ずる
具体的な施策内容と目標を提示した「子ども・子育 て応援プラン」では、「男性も家庭でしっかりと子 どもに向き合う時間が持てる(育児期の男性の育児 等の時間が他の先進国並みに)」「育児休業取得率男 性10%を目指す」としている。しかし厚生労働省の 2010年度雇用均等基本調査によると、日本の男性の 育児休業取得率は過去最高の1.72%とあるが、ノル ウェーやスウェーデンの男性の約 8 割を超える育児 休業取得率にははるかに及ばない現状にある。
そうした現状を反映して、子育て支援に関する研 究においても、乳児養育中の母親の育児ストレスや 不安に対する支援の研究が中心であった。では、父 親の子育てに関する研究はどの程度取り組まれてき たのだろうか。柏木(1995)によると、家族社会学 や発達心理学における幼少期の親子関係について多
*教育学部
くの研究がなされたが、1970年代まで「親」とは「母 親」を指し、研究において「父親」は不在であった ことが指摘されている。わが国における「父親の子 育て」に関する研究は1990年代ごろから盛んに行わ れるようになり、父母の家事・育児分担の不平等性 を明らかにするジェンダー論的視点の研究と、父親 が関わることで子どもの発達にどのように促される のかという発達論的視点の研究が行われてきた(冬 木2009)。しかし、これまでの父親研究では、その 多くが大都市圏の高学歴層、高収入層の家族に焦点 を当てており、所得や社会階層という変数は組み込 まれていないという指摘もある(前出:冬木)。今 後の父親研究には地域性や収入や職業、父親自身の 育ち方などの多角的な視点が求められることが指摘 できよう。
一方、自分らしい豊かなライフスタイルを実現す るため、結婚をし、子どもを授かり、子育てをする 障がい者が徐々に増加し、注目されている。これま での障がい者の生き方は、本人より周囲の要望が優 先され、多くの社会的制約を受けてきた。施設サー ビスを中心として展開されてきた障がい者福祉施策 は、1980年の国際障害者年以降、ノーマライゼーショ ンの浸透により、ようやく地域生活支援を中心に転 換しはじめた。
そ し て、2001 年 に「国 際 生 活 機 能 分 類」(ICF)
が WHO で採択され、障がい者の社会参加の重要 性とライフスタイルの充実がいっそう求められるよ うになり、それをどのように支援するのか課題と なっている。そのような中で、これからは障がいの 有無に関わらず、誰もが子どもを育てることのでき る、いわゆる「ノーマルな社会」を実現することが 求められるであろう。
しかし、これまでの子育てに関わる先行研究でと りあげている「父親」には、「障がいのある父親」
という視点が欠落しているものがほとんどである。
母親だけでなく、父親の子育て参加が重要とされて いる現状のもと、父親に障がいがあることは、子育 てにおいて何らかの特別な支援が必要になると思わ れる。したがって、障がいのない父親だけに基づい てなされた研究だけでなく、障がいのある父親の支 援の課題を明らかにする研究が必要であると考える。
こうした問題意識から、本論文では、今まであま り注目されることが少なかった、肢体不自由のある 父親の子育てとその支援に焦点をあてる。結婚し子 どもをもつ肢体不自由のある父親が、どのような育 児参加をしているのか実態を明らかにし、その支援 の在り方を検討する。その際、困難を抱える事項は 何か、それを支援するにはどうしたらいいのかを明 らかにすることを目的にする。それを通して、育児 の困難性や問題点の原因を、個人の障がいに起因す る問題だけではなく、社会の問題として捉えること で、新しい子育て支援のあり方を考察してきたい。
Ⅱ.方 法
1.研究方法と手続き
5 名の肢体不自由のある父親にインタビュー調査 を行った。 5 名の対象者は表 1 のとおりである。イ ンタビューは第一筆者が実施した。具体的な手続き は、面接ガイドを作成し、半構造化面接を行った。
また、個別に約1時間のインタビュー調査を行い、
内容は本人の了解を得て IC レコーダーに録音し、
逐語記録を作成した。
2 .インタビューの期間 2011年 8 月〜 9 月
3 .面接ガイドの内容
インタビューに実施した面接ガイドは以下の①〜
⑤の内容である。
①父親として行ってきた家事/育児の内容
表1 対象者の属性
A B C D E
妻 健常者 パート勤務
健常者
在宅パート就労 肢体不自由障がい 肢体不自由障がい 肢体不自由障がい
子 2 歳 6 歳双子 7 歳 12歳 18歳、7 歳、4 歳
身体
状況 電動車いす利用 車椅子、ヘルパー
の利用なし 電動車いす利用 電動車いす利用 電動車いす利用
②仕事と家事/育児の兼ね合い
③夫妻のコミュニケーション、役割分担
④子育てについての悩み
⑤どのような子育て支援を望むか
4 .対 象
A 県に所在する B 社会福祉法人 C 障害者就労支 援事業所に勤務している、30歳〜40歳代の 5 名の肢 体不自由のある父親である。表 1 にその属性を示し た。そのうち、同じ法人内の居宅介護支援事業所か らヘルパーの派遣を受けているもの 4 名、ヘルパー 派遣なし 1 名であった。配偶者(妻)も同じ肢体不 自由である者は 3 名、健常者が 2 名であった。5 家 族とも、夫婦と子どもの世帯である。
5 .データ分析
インタビューで得られたデータは調査対象者に了 解を得て、すべて IC レコーダーに録音し、逐語記 録を作成した。得られたデータは質的分析法を参考 に分析した。
逐語録を繰り返し読み、十分なデータの理解を 行った上で、逐語録から肢体不自由のある父親の育 児に関連する文脈を抽出(対象者の言葉のまま)し、
内容のまとまりごとにコード化を行い、カテゴリー 化した。
6 .倫理的配慮
研究対象者となる父親に、研究の主旨と自由意志 による参加、途中棄権の権利、匿名性を保持しプラ イバシー保護に配慮することを口頭と文書で説明 し、同意を得た上でインタビューを行った。また、
対象者が所属している社会福祉法人から研究の承諾 を得た。
Ⅲ.結 果
得られたデータを精読し、意味内容の類似性に基 づいて分類した結果、育児に関わる要素(コード)
として抽出された項目は38に上る。項目の類似性に よってカテゴリーに分類した結果、12の中位カテゴ リー、4 の上位カテゴリーを抽出できた。
4 の上位カテゴリーは、【肢体不自由が障がいに ならない子育てをしたい】【フォーマルサポートを
利用して育児をする】【援助者がもたらす困難があ る】【社会環境の改善を望む】であった。上位カテ ゴリーを【 】、中位カテゴリーを〈 〉、コードを
「 」で表し、以下、肢体不自由のある父親の育児 に関わる構成要素について説明する。なお、抽出さ れた上位カテゴリー、中位カテゴリー、コードを表 2 に示す。
(1)【肢体不自由が障がいにならない子育てをしたい】
このカテゴリーは、肢体不自由という障がいに囚 われることなく、自分のできることを通して子ども の関わりをもちたいという状況を示している。〈父 親を支えようとする子どもの気持ちを感じる〉〈子 どもと過ごす時間を工夫して楽しむ〉〈育児役割は あまり担えない〉〈叱るときは父親役割を意識する〉
〈子どもの成長を願う〉の 5 つの中位カテゴリーか ら構成された。
〈父親を支えようとする子どもの気持ちを感じる〉
では、車椅子にのる「父親のできないことの手伝い をしたいと思ってくれる子どもの気持ちに感謝」し、
外出先などで「父親を危険から守ろうとする子ども の行為を嬉しく思う」ことから、子どもの自らに対 する支持的な気持ちへの喜びを抱くものであった。
実際に子どもとどのような関わり方をしているか について、〈子どもと過ごす時間を工夫して楽しむ〉
ことがなされていた。自らはヘルパーの介助を受け て、「子どもとの入浴は大事なスキンシップのひと とき」として風呂に入り、iPad で本を読んであげ るような動きのない遊びでも子どもは喜ぶことから
「子どもとの遊び方は工夫次第でいろいろ楽しめる」
ことを知り、「自分ができる範囲で母親の育児をサ ポートする」として、子どもとのスキンシップが大 切にされていることがわかる。育児を大別すれば、
身体面と精神面に分けることができるが、肢体不自 由のある父親が子どもの食事や排泄、着替えなどに 直接関わることは難しい。川上ら(2007)の調査で は、父親が最もよく行っている育児は「遊び」であ ることから、肢体不自由のなる父親らも電子機器な ど活用しながら「遊び」を通して子どもとの関わり を楽しんでいることがわかる。
表 2 肢体不自由のある父親の育児への考え(カテゴリーによる分類)
上位カテゴリー 中位カテゴリー コード
肢体不自由が障がい にならない子育てを したい
父親を支えようとする子 どもの気持ちを感じる
父親のできないことの手伝いをしたいと思ってくれる子どもの気持ちに感謝する。
父親を危険から守ろうとする子どもの行為を嬉しく思う。
子どもと過ごす時間を工 夫して楽しむ
子どもとの入浴は大事なスキンシップのひとときである。
子どもとの遊び方は工夫次第でいろいろ楽しめる。
自分ができる範囲で母親の育児をサポートする。
育児役割はあまり担えな い
体力の限界もある。
父親として育児ストレスや不安、困ったことはほとんどない。
自分が育児役割を担えないことにもどかしさを感じる時もある。
子育て役割はそれほど担っていないと思っている。
叱るときは父親役割を意 識する
子どもを叱るとき、母親とは違う立場で子どもに言い聞かせる。
父親の役割は自分でもよく分からない。
子どもの成長を願う
自分に障がいがあることで、子どもへの理解が深まった。
子どもの事故防止についてあまり神経質にならず、経験から学ばせたいと思っている。
親の障がいの有無に関わらず子どもはのびのび成長してほしい。
フォーマルサポートを 利用して育児をする
社会資源を活用して外出 を楽しむ
家族で外出時のサポートは、ヘルパー、ボランティア、親族、リフト付きタクシー など社会資源を活用する。
楽しむためには、外出先のバリアフリー状況を事前に情報収集しておくことが必要 である。
休日は頻繁に家族で遊びに出かけて楽しんでいる。
時には母親抜きで子どもと外出することもある。
子どもの成長とともに家族で外出する機会は減ってくる。
自分ができる範囲での遊び、レジャーを子どもと一緒に楽しんでいる。
妻の負担を減らしたい
育児はほとんど妻が担当していると思う。
自分がやれる範囲で育児に参加している。
妻の育児負担を少しでも減らしたいと思っている。
なるべく実家を頼らない
突発的な困難には実家を頼ることができる。
自分と親とでは、父親役割の考え方が違う。
援助者がもたらす困 難がある
男性ヘルパーの家事育児 能力の向上を求める
障がいのある親が生活するには、ヘルパーが育児も含めて支援することが必要である。
ヘルパーの「見守り」時間を家事育児に有効活用して欲しい。
男性ヘルパーは家事育児のスキルをもっと身につけて欲しい。
援助者の行き過ぎた介入 は迷惑
子育て支援を通して支援者自身も成長するプロセスがある。
支援者と子育ての価値観を共有することは難しい。
支援者の行き過ぎた子育て支援は迷惑である。
子どもの世話の主体は、支援者ではなく親である。
親の役割、子の役割は、支援者が決めることではない。
社会環境の改善を望む
社会の理解を広げたい
子どものいる生活は幸せなので、もっと子育てする障がい者が増え、世間の理解も 広がるとよいと思う。
経済的な安定がないと子どもとの生活を成り立たせることは難しい。
障がい者の子育ては一部の人しか経験しないので、同じ立場の人と交流をする機会 もない。
保育園・小学校にはバリ アがある
保育園・小学校はハード面のバリアが多いので行事に参加しづらいが、なるべく参 加する。
保育園・小学校はソフト面のバリアは少ない。
しかし一方で〈育児役割はあまり担えない〉とい う感情も存在し、肢体不自由があると「体力の限界 もある」ので、「子育て役割はそれほど担っていな いと思っている」。それゆえ、「父親として育児スト レスや不安、困ったことはほとんどない」が、配偶 者への負担を考えると「自分が育児役割を担えない ことにもどかしさを感じる時もある」という状況を 示している。
また、母親との役割の違いについて〈叱るときは 父親役割を意識する〉ことがなされており、「子ど もを叱るとき、母親とは違う立場で子どもに言い聞 かせる」ことはあるが、それ以外の場面では「父親 の役割は自分でもよく分からない」とあった。
さらに、〈子どもの成長を願う〉には、電動車いす、
手動車いすを使用していることで、子どもの安全面 への対処が十分できない不安をもつより、「子ども の事故防止についてあまり神経質にならず、経験か ら学ばせたいと思っている」こと、そして「親の障 がいの有無に関わらず子どもはのびのび成長してほ しい」という期待をもち、父子ともに保護の対象に なりやすい側面から「自分に障がいがあることで、
子どもへの理解が深まった」ことが挙げられる。
(2)【フォーマルサポートを利用して育児をする】
このカテゴリーは、インフォーマルサービスでは なく、フォーマルサービスを最大限活用して家族生 活を営んでいることを示す。〈社会資源を活用して 外出を楽しむ〉〈妻の負担を減らしたい〉〈なるべく 実家を頼らない〉の 3 つの中位カテゴリーから構成 された。
社会資源を活用して外出を楽しむ〉では、「家族 で外出時のサポートは、ヘルパー、ボランティア、
親族、リフト付きタクシーなど社会資源を活用する」
こと、家族でレジャーを「楽しむためには、外出先 のバリアフリー状況を事前に情報収集しておくこと が必要である」ことが示されていた。それは、車い す利用者ならではの工夫である。家族に介助を求め ず、外部支援を活用することで、家族で外出を楽し むという本来の目的が果たせるのだと推測される。
それによって、「休日には頻繁に家族で遊びに出か けて楽しむ」ことができ、「時には母親抜きで子ど もと外出する」ことが可能になる。「子どもの成長 とともに家族で外出する機会は減ってくる」ので、
車いすサッカーの試合やプール、映画、デパートな ど「自分ができる範囲での遊び、レジャーを子ども と一緒に楽しんでいる」状況がうかがわれる。
妻の負担を減らしたい〉では、「育児はほとんど 妻が担当している」ため、「自分がやれる範囲で育 児に参加し」、さらに妻が自らの介助を担わないよ う、社会資源を使って育児に参加し、「妻の育児負 担を少しでも減らしたい」と気遣うことを示す。
一方で、子どもの急な発熱など外部支援が手配で きないような「突発的な困難には実家を頼る」こと もあるが、自らの親には障がいはないことから、「自 分と親では、父親役割の考え方が違う」との考えの 下、〈なるべく実家を頼らない〉ことで、できるだ け育児への介入を防ごうとしている。
(3)【援助者がもたらす困難がある】
このカテゴリーは、育児支援を行う援助者側の考 え方とその力量に、肢体不自由のある父親は不安と 困惑をもっている状況を示す。〈男性ヘルパーの家 事育児能力の向上を求める〉〈援助者の行き過ぎた 介入は迷惑〉の 2 つの中位カテゴリーから構成さ れた。
男性ヘルパーの家事育児能力の向上を求める〉
は、男性ヘルパーに対する要望を示す。身体介助は 同性介助の原則から、肢体不自由のある父親へは男 性ヘルパーが派遣されることになる。「障がいのあ る親が生活するには、ヘルパーが育児も含めて支援 することが必要である」が、家事育児の援助技法が 十分ではない傾向にある「男性ヘルパーは家事育児 のスキルをもっと身につけてほしい」ことと、自ら の介助だけをするのではなく、「ヘルパーの『見守り』
時間を家事育児に有効活用してほしい」という要望 がある。
また、〈援助者の行き過ぎた介入は迷惑〉では、
親より援助者が育児のイニシアティブをとることへ の懸念が示されている。子育て経験のないヘルパー やボランティアにとって、肢体不自由のある父親の
「子育て支援を通して、支援者自身も成長するプロ セスがある」が、多くの場合「支援者と子育ての価 値観を共有することは難しい」と感じている。「子 どもの世話の主体は、支援者ではなく親である」こ と、そして「親の役割、子の役割は、支援者が決め ることではない」にも関わらず、親の意向通りに提
供されないサービス、発信しても伝わらない要望が
「支援者の行き過ぎた子育て支援は迷惑である」と いう受け止め方を醸成することになる。
(4)【社会環境の改善を望む】
このカテゴリーは、教育機関のバリアフリー化を すすめ、より多くの障がい者が、子どもを産み育て ることが可能になるような環境づくりが期待される ことを示す。〈社会の理解を広げたい〉〈保育園・小 学校にはバリアがある〉の 2 つの中位カテゴリーか ら構成された。
社会の理解を広げたい〉は、子育てをする障が い者はマイノリティの存在であることと、子育ての 前提としてまず障がい者の生活基盤を整えることの 必要性を示す。「子どものいる生活は幸せなので、
もっと子育てする障がい者が増え、世間の理解も広 がるとよいと思う」が、一方で「経済的な安定がな いと子どもとの生活を成り立たせることは難しい」
ことから、障がい者が結婚し子どもを産み育てるこ とは容易なことではないと受け止められている。ま た、親の障がいの種別や家族、地域状況によって子 育てニーズは異なることと、そもそも「障がい者の 子育ては一部の人しか経験しないので、同じ立場の 人と交流をする機会もない」ことで、育児の工夫や 情報などが共有化できにくい状況を示している。
保育園・小学校にはバリアがある〉では、障が いのある親が学校行事へ参加することへのハード面 の課題が示された。肢体不自由で車いすを利用して いる父親が、保育園や小学校の授業参観、運動会や 発表会の参加、親子遠足、保護者会や PTA の運営、
プール当番や清掃活動などに関わろうとすると、
ハード面でのバリアが多い。しかし、それに躊躇す ることなく「保育園・小学校はハード面のバリアが 多いので行事に参加しづらいが、なるべく参加する」
との前向きな気持ちをもっていた。それを可能とす る要因の一つに、「保育園・小学校はソフト面のバ リアは少ない」ことが挙げられる。保育者、教員、
保護者や地域住民が、障がいのある親を行事から排 除せず、双方でどうしたら参加が可能か検討するこ とが、ハード面での困難さを超えることにつながっ ている。
Ⅳ.考 察
(1) ヘルパーによる「援助としての育児」の資質 向上
2003年 4 月に開始された支援費制度では、育児を する親が十分に子どもの世話ができない障がい者で ある場合は、家事援助を行う従業者が、沐浴や授乳 等を育児支援の観点から行うとされてきた。さら に、2009年 7 月10日付厚生労働省による通知におい て、障がい者の子育てのための支援が従来より「親 へのサービスと一体的に行う子どもの分の掃除、洗 濯、調理」「子どもが通院する場合の付き添い」「保 育所(幼稚園)へ通園する場合の送迎」まで範囲が 拡大された。そして、2012年 6 月に公布された障害 者総合支援法では、重度の肢体不自由者等であって 常時介護を要する障がい者を対象に、居宅介護(家 事援助)、重度訪問介護の一環として育児支援を行 う施策が実施されている。
しかし、本結果により、その実施内容はヘルパー によって差があること、さらに各自治体や事業所に おいて、この事務通知の内容が十分理解され取り組 まれているとは言いがたい現状があることがわかっ た。ヘルパー養成における介護職員初任者研修や重 度訪問介護従業者養成研修においては、障がいのあ る親の育児支援に該当する講義や実技はほとんどな されない。それゆえ、子育てを終えたヘルパーらが 自らの経験と勘を基に育児支援をし、親の主体性を ないがしろにする事態が起こっている。宮坂(2008)
は、「親であること」と「親になること」の違いを 積極的にとらえると、父親が親になるためには、親 になることを学習する親子関係と経験の積み重ねが 必要であるという。そのためにも、肢体不自由のあ る父親が親になるプロセスを援助者が奪ってはなら ない。
さらに、同性介助の原則に沿って男性ヘルパーが 派遣されると、父親の希望する家事育児の支援が十 分なされない課題も明らかになった。居宅介護事業 所は、介護の対象者が男性であれ、家庭生活の維持 に関しては男女関わりなく家事・育児支援が必要で あるとの認識をもつべきであろう。特に、女性に比 べ家事育児の実体験が乏しい男性ヘルパーへの介助 技術に関しては、必要に応じて研修を設けることも 検討しなければならない。
(2) 教育機関のバリアフリー化の推進
2003年に公布された「高齢者、身体障害者等が円 滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法 律」の一部改正において、学校施設が新たにバリア フリー化の努力義務の対象として位置付けられてい る。近年、保育園や幼稚園、小・中学校で障がいの ある児童生徒の在籍が増加していることや、地域住 民の生涯学習の場や防災拠点としての利用も想定さ れていることから、すべての人が安全に円滑に利用 できるような学校づくりが求められている。しか し、建物の構造や財政面での制約等から、実際その 進展は十分なものではないことが本結果からも明ら かであった。
2 階以上の学級へ授業参観に行く際は、エレベー ターのない場合、階段昇降機を利用することになる が、夫婦ともに電動車いす利用者であると相当な時 間を必要とする。また、災害時等の緊急避難すべき 状況を想定すると、できる限り1階教室での参観が 可能となるよう配慮が必要であろう。
(3) 育児をしている男性障がい者同士の交流の場 づくり
2009年、男性も子育てをしやすい社会を実現する ため、育児・介護休業法が改正された。それととも に、厚生労働省では男性の子育て参加や育児休業促 進などを目的とした「イクメンプロジェクト」がス タートした。男性の育児休業取得率に関しては、
2020年までに13%という政府目標が設定されている が、厚生労働省の平成26年度「雇用均等基本調査」
によると、2.03%という低い数値に留まっており、
日本における父親の育児参加は依然と困難な状況に ある。一方、子育て世代をターゲットにした雑誌は イクメン特集が組まれたり、子育て中の父親を対象 とした NPO 法人の設立など、プロジェクトの目標 である「子育てを楽しみ、自分自身も成長する男性」
同士の交流の場が少しずつ増えている実態がある。
しかし、現在の「イクメン応援事業」は男性の育児 休業取得率の向上に重点をおいており、実際の育児 において介助を必要としている障がい者の支援につ いて、全く触れていない。
障がいのある父親の存在はマイノリティであるか らこそ、子どもとの外出先の情報や工夫など情報交 換ができる場が必要である。当事者同士がつながる
ことが、これから障がいのある親が自分らしく子育 てできる環境をより充実させることにつながってい くであろう。そして、個々の親や家族に子育てのす べての責任を負わせるのではなく、親としての力や 家族としての力を育むことができるような、社会の 新たな仕組みづくりをすること、社会による親のエ ンパワーメント、家族のエンパワーメントが求めら れていると考える(牧野・渡辺・舩橋・中野:2010)。
(4) 本研究の位置づけと今後の課題
昨年日本も批准した障害者権利条約の第23 条(家 庭および家族の尊重)において、障がいのある人が 他の人と同様に、結婚、家族、親になること、およ び親戚になることなどにおいて差別されない権利を 保障すると規定されている。その 4 として、「障が いのある人も児童の保護者、後見人、管理者、養子 縁組などの権利と責任を持つことができる。その 際、児童の利益を最大限に考慮すること」とある。
また、平成11年 6 月に制定された「男女共同参画 社会基本法」第 6 条では、「男女共同参画社会の形 成は、家族を構成する男女が、相互の協力と社会の 支援の下に、子の養育、家族の介護その他の家庭生 活における活動について家族の一員としての役割を 円滑に果たし、かつ、当該活動以外の活動を行うこ とができるようにすることを旨として、行われなけ ればならない」とある。
このような条約や法令が定められてきた背景に は、男性、障がい者といった、いわば子育て・養育 の中心的な役割ではなかった人たちにも、権利とし て保障していこうとする社会的情勢からくる要請が あったのではないかと思われる。今回そういう意味 で、肢体不自由のある父親の子育てに注目し、実態 を調査によって把握し、社会福祉学からの考察を 行ったことは重要であろう。その中で環境面や設備 などのハード面だけでなく、ヘルパーがどのような 役割を果たすべきか、また主体性を尊重して役割を 果たすことを考慮した方がいいか、といったソフト 面での課題が提示されている。真に成熟した社会に なっていくために、性別や障がいの有無を問わず、
だれもが子育ての喜びと苦労を経験できうるような 支援施策と人的資源の充実が求められるであろう。
本研究の限界は、対象者数が 5 名と少なく、一般 化という点では限界がある。また、子育てに必要な
社会資源は地域差があるため、同じ肢体不自由のあ る親の育児支援であっても、利用できるサービスに 偏りが出る可能性がある。今後は、対象者数を増や し、調査地域も検討していくことが必要である。
(付記)今回の調査に多大なご協力をいただいた、
5 名の方をはじめ、B社会福祉法人C障害者就労支 援事業所に心より感謝いたします。なお、本論文は、
研究の問題設定とインタビュー、分析を第一筆者の 平野華織が行い、全体を通しての校閲と加筆修正、
Ⅳ(4)を第二筆者の別府悦子が担当した。
引 用 文 献
柏木恵子(1995)『親の発達心理学−今,よい親と はなにか』岩波書店,95
冬木春子(2009)「父親の育児ストレスと子育て支 援−地方小都市の実態調査から見えてくるもの」
季刊家計経済研究 No.81 24‑33
川上あずさ,牛尾禮子(2007) 父親の育児への参 加状況と育児に対する意識に関する研究 日本看 護福祉学会誌 12(2) 103‑114
牧野カツコ・渡辺秀樹・舩橋惠子・中野洋恵(2010)
『国際比較にみる世界の家族と子育て』ミネルヴァ 書房 7
宮坂靖子(2008)「育児の歴史 父親・母親をめぐ る育児戦略」大和礼子・斧出節子・木脇奈智子編
『男の育児 女の育児』昭和堂 41