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Academic year: 2021

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技術教育のための教材開発

一(第1報)鋼の焼入れとその教材モデルの提案一

堤  一 郎*・淺 井 昭 一**・熊谷 悟***

(1996年10月14日受理)

Development of Teaching Materials for Education of Technology

一(1st. Report)AProposal of Teaching Material on the Quenching of Steel一

Ichirou TsuTsuMi*・Shoichi AsAI**・Satoru KuMAGAI***

(Received October 14,1996)

1.はじめに

鉄鋼材料である鋼は大型構造物,機械類から日用品に至るまで幅広く利用されている工業材料で

あり,その生産量や品質が国家の技術力を評価する一つの尺度にもなっている。そして明治以降,鋼 を国産化し今日見られる高い技術ポテンシャルにまで到達させた先人技術者たちの努力の足跡は,鉄 鋼技術史として一つの分野を構成している1)。鋼は機械的性質が優れているばかりでなく,熱処理を 施すことによりその性質を改善させることができるという大きな特徴がある。

鋼の果たす社会的な役割とともにその優れた諸性質を製造過程とあわせて学ばせることは,21世紀

の技術活動を担う学生や生徒たちにとっても不可欠な内容であるといえる。こうした鋼の持つさま ざまな性質を学ばせるための教材には図や写真などを使った二次元的なものが多く,立体で構成さ れる三次元的な教材は少なかった。またこれらの教材では図示した部分と近接した他の部分との相 互関係がはっきりせず,傾斜した組織の変化を明示していないなど,初心者にとって理解しがたい

欠点があった。

そこで筆者らは鋼の性質を改良する技術の一つである焼入れを通して実験的に得られたデータを 使い,マクロ・ミクロの両面から総合的に,かつ部材位置による鋼の性質を立体的にとらえるため の教材モデルを試作してみることにした。これは鋼に焼入れを施したとき,試験片の縦方向と横方 向の機械的性質(マクロ)と結晶組織(ミクロ)を関連付けてわからせることを目標にしたもので

ある。次に1年間の成果をもとに2),実施過程とその内容,さらに試作中の教材モデルを提案する。

*茨城職業能力開発短期大学校・機械システム系(〒310茨城県水戸市水府町864番地).

**茨城大学教育学部(〒310茨城県水戸市文京2丁目1番地1号).

***茨城県茎崎町立茎崎中学校(〒300−12茨城県稲敷郡茎崎町小茎450番地).

(2)

2.教材試作の目的と実験方法

2.1 試作の目的

この教材を試作する技術教育上の目的は,次の四つである。

1)技術・家庭科の選択領域である金属加工,機械分野と密接な関連性があり,これら両分野の授業

での使用が可能であること。

2)中学校で使用される技術・家庭科の教科書に3),金属材料の特徴,鉄鋼材料の炭素含有量,鉄鋼 材料の熱処理が触れられていること。

3)中学校指導書(技術・家庭科編)に4),「鉄鋼材料については,炭素含有量の違いによる性質や 用途の違い,熱処理による硬度の調整ができることを知らせる」と書かれていること。

4)鋼の熱処理や金属加工を学習する際教科書と教材の両方を使うことにより,印象度や理解度を

高めることができること。

これら四つの項目を考慮しつつ,鋼の焼入れについての教材を試作するための実験を,次の過程

で実施した。

2.2 実験の方法

教材の試作は次の順序に従って行った。

2.2.1鋼の選択とその機械的性質

焼入れ実験に使用する鋼はJISG4051−1979に記載の機械構造用炭素鋼S45C(炭素含有量0.42

〜0.48%,他にMn:0.60〜0.90%, Si:0.15〜0.35%, P:0。030%未満, S:0.035%未満,また不純 物は,cu:0.30%, Ni:0.20%, cr:0,20%, Ni+cr:0.35%を越えない)とした。機械的性質の一 例は,引張強さ:569MPa以上(焼ならし状態),降伏点:343 MPa以上(焼ならし状態)シャルピー 衝撃値:78J/cm2となっている5)。この鋼は機械要素にも多用され,使用頻度が多い代表的なもので

ある。

2.2。2試験片の加工と寸法計測

実験を行うための試験片は第1図に示す形状と寸法になるよう,旋盤で切削加工した。その条件は

切削工具に高速度鋼を使用することから,切削速度75〜105m/min,送り0.13〜0.38 mm/rev,切

り込み0.38〜2.4mmの範囲から選択した6)。始めに素材の右端面を加工し,そこを寸法基準にして

フランジ部までの長さを決め,図示される直径になるまで旋削した。仕上り寸法も表面あらさもと もに,規定された範囲内におさめることができた。なお製作した試験片は予備実験用も含めて10本

である。

2.2.3熱処理実験

熱処理は,JISGO561−1983鋼の焼入性試験方法(一端焼入方法)に従って実施したη。試験片の 加熱温度はこの規格に記載の845℃とし,炉内で30±5分間その温度で保持し試験片の各部分が均 一な温度になるよう配慮した。その後,第2図に示す焼入装置により12.5±0.5mmの高さになるよ

(3)

う焼入剤を噴出させ,そこに試験片を5秒以内に落下させて試験片の一端を焼入れし,30分間そのま

まの状態で保持した。焼入剤は水を使いその温度を3,22,30,55℃の4種類とし,焼入性(焼きが どの程度入ったかという性質)を比較検討した。なお実験は始めに予備実験を行い,その成果をふ まえて焼入剤の温度を上述の通り4種類選び,再現性の確認もあわせて2回ずつ4通り,計8回の実

験を行った。

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第1図 試験片の形状と寸法       第2図 焼入装置 2.2.4焼入性の評価

焼入性の評価は機械的性質を知ること(マクロ)と,結晶組織を顕微鏡観察すること(ミクロ)の

両面から行った。前者では試験片の長さ方向と直径・円周方向について硬さ試験(ロックウエル硬 さ試験)を行い,断面の硬さ分布も調べた。焼入れした試験片の長さ方向に90°隔てた相対応する 位置を,その全長にわたり幅が5mm程度になるよう鉄やすりで削り,さらに固定と粒(カーボラン

ダム:320,500,700,1000番)と水で,さらに遊離と粒(アルミナ:2000番)と水で表面が鏡面になる まで湿式研磨した。その後,焼入れした先端から1.5,3,5,7,9,11,13,15mmおよびそれ以降は

5mm間隔でロックウエル硬さ試験(Cスケール)を行った。試験は1本の試験片に対し4面実施で

きる。硬さ試験を一通り終えてから,試験片を精密切断機により,幅0.5mmの薄形と石(カーボラ

ンダム)を用いて切断した。この時の切断位置は予備実験の結果を考慮して,先端から1.5,9,20,

40,55,70mmとした。切断面は固定と粒(カーボランダム:1000番)と水で,さらに遊離と粒(アル ミナ:2000番)と水で表面が鏡面になるまで湿式研磨した。その後表面を脱脂してから腐食液(ナイ

タール:硝酸3cc,エチルアルコール100ccの混合液)でエッチングを行い,顕微鏡で観察した。結

晶組織の観察は低倍率でよいことから電子顕微鏡(SEM)を使わず金属顕微鏡による観察だけとし,

写真撮影装置を使って金属組織を記録した。これらの結果を用いて,焼入剤の温度と硬さ(マクロ),

結晶組織(ミクロ)の相互関連性を考察した。

(4)

3.実験結果と教材モデルの提案

3.1 硬さ(ロックウエル硬さ)測定結果

硬さ(ロックウエル硬さ:Cスケール)の測定は常温で行った。

3.1.1一端焼入れ時の長さ方向の硬さ

長さ方向の測定結果の一例を第3図,第4図に示す。第3図は焼入剤温度が3℃,第4図は50℃の 場合であるが,これらは定性的には比較的良く一致しており,焼入剤の温度差による影響はそれほ ど顕著ではない。これらの図から硬さには四つの領域があることを見てとれる。それは先端部から 5mm,5〜9mm,9〜70 mm,70〜90mmまでの領域である。これらは硬さ測定結果に引いた接線の 傾きが異なることからもうかがえる。一方,定量的には4面の硬さ測定値にはそれほど大きな差は見

られないが,焼入剤温度50℃の場合では先端から11mmまでの間に硬さのばらつきが見られる。この

他,22℃と30℃の実験結果でも,硬さの値にはそれほど顕著なばらつきは見られなかった。

50℃の場合だけ先端から11mmまでの硬さがばらついた理由としては,焼入剤の温度が比較的高か

ったため試験片先端部で急激に発生した高温の水蒸気が試験片の周辺部をランダムに被ってしまい,

空気中での冷却(空冷)が均一に行われなかったことが考えられる。これに対し焼入剤温度が3℃

の場合では,試験片先端部で発生した水蒸気が高温になり試験片周辺を被うのに少し時間がかかり,

空冷が先行し試験片が均一に冷却されたためと思われる。なお本実験に使用した機械構造用炭素鋼

S45C は焼きの入る領域が短く,焼入性が良好とはいえないことがわかった。

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第3図焼入剤温度3℃の時の硬さ       第4図焼入剤温度50℃の時の硬さ

3.1.2空冷による試験片の硬さ

第5図に845℃から空冷したときの硬さを示す。この結果から空冷時の硬さは,HRC 30であるこ とがわかった。第5図を,第3図,第4図とあわせて第6図に示す。この図から一端に焼入れを行っ ても,試験片の長さの55〜85mmまでは空冷されたときの硬さと同じであり,焼入れの影響をほとん ど受けていないことがわかる。なおこの図で80〜90mmまでの領域は,焼入れ時に試験片のフランジ

部が支持板に接触し冷却されるため,硬さが少し増えている。

(5)

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第5図 空冷時の硬さ         第6図焼入れ時と空冷時の硬さの比較 3.1.3直径・円周方向の硬さ

試験片を切断,研磨してから測定した直径・円周方向の硬さの一例を,第7図,第8図に示す。な お切断した位置は先端から1.5,9,20,40,55,70mm,また硬さを測定した位置は外側から3mm

(a),6mm(b),9mm(c)そして中心(d)の4箇所で,それぞれの位置で試験片を45°ずつ回転 させ,同一円周上で8点の測定を行った。第7図は焼入剤温度が3℃,第8図は50℃の場合であるが,

円周方向においては第7図の先端から9mmの間で硬さの値にばらつきが見られた他はほとんど顕著 な差はなく,この方向では円周上で均一に冷却されていることがわかる。これらは定性的,定量的 に比較しても硬さの値が良く一致しており,焼入剤の温度差による影響はそれほど顕著ではないこ

とがわかる。

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第7図 焼入剤温度3℃での内部の硬さ     第8図 焼入剤温度50℃での内部の硬さ

(6)

3.2顕微鏡による結晶組織観察結果

ここでは試験片横断面の金属顕微鏡による観察結果の一例を示す。第9図は試験片先端部の結晶組

織であるが,焼入剤温度3,50℃いずれの場合も焼入れ時に見られるマルテンサイトに近いものが観 察できた。また先端から1.5mmの断面では,焼入剤の温度によらず針状組織とは少し異なるトルー

スタイトに近い組織が見えた。さらに先端から55mmの断面では,ソルバイトや多くのパーライトが

観察できた(第10図)。マルテンサイトは水などで急激に冷却された時に,またトルースタイトやソ

ルバイトは空冷された時に良く表れる組織である。一方パーライトは,常温の鋼で観察される標準

組織であり,その構成はフエライトとセメンタイトが交互に析出した組織である。

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第9図 先端部の結晶組織(10x20)   第10図 先端から55㎜断面の結晶組織(10×20)

3.3硬さと結晶組織の関連性

前述の結果(硬さ測定結果と結晶組織の観察結果)から,先端部では急激な焼入れが生じそこか ら離れるにつれ徐々に焼入れ効果がうすれ,空冷,徐冷へと移行することがわかった。さらにこれ

らの変化が硬さおよび結晶組織ともに顕著に表れ,相互に関連していることを実験的に確認できた。

試験片の長さ方向では次に示す四つの領域で,硬さと結晶組織の関連性をまとめることができる。

3.3.1先端部から7mmの領域

この領域での硬さ(HRC)は56〜64,結晶組織はソルバイト,部分的にはトルースタイトに近いも のが見られた。ここでは冷却速度が最大で試験片が急冷(水冷)され,冷却効果は最も大きい。

3.3.27〜20mmの領域

この領域での硬さ(HRC)は40〜60,結晶組織はソルバイト,一部にパーライトも見られた。ここ

では試験片は空冷され,冷却速度は前項に比べ小さい。場所により硬さも組織も不安定な,いわば

遷移領域を示している。

3.3.320〜55mmの領域

この領域での硬さ(HRC)は30〜40,結晶組織はソルバイトと多くのパーライトが混在する。ここ

(7)

では試験片は水冷・空冷の範囲で冷却される。前項と同様に遷移領域を構成する。

3.3.455〜90mmの領域

この領域での硬さ(HRC)は30程度。結晶組織の多くはパーライトであり,試験片は徐冷される。

4.教材モデルの提案

教材モデルは,実験結果で述べたように試験片の長さ方向と直径・円周方向について硬さと結晶組織 を同時に表現することを目標に,色立体標本からのヒントを得て考案した。設計のコンセプトは,視覚 と感覚の両面から鋼の焼入性を理解させようとすることである。このコンセプトを具体化するものとし て,中心に置かれた軸の周りに扇形の部品を積み重ねる方式を採用した。この部品には硬さの異なる発 泡スチロール樹脂を使い,触った時の感触の違いで硬さの差を解らせるように工夫する。さらにその上 下面は硬さの測定値やその硬さに該当するものの名称,結晶組織の名称と特徴,結晶組織の顕微鏡写真 にあて,側面は硬さのグレードにあわせて色分けし,視覚的な効果を期待した。教材の大きさは教卓上

で使用することを考えて直径400mm,高さ600 mm程度とし,さらに持ち運びの際の軽量化について

も考慮した。ここに教材モデルの概念図(第11図)を示し提案する。

硬さの測定値

硬さに該当するものの名称 結晶組織の名称    結晶組織の顕微鏡写真

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第11図 提案する教材モデルの概念図

5.今後への課題

鋼(機械構造用炭素鋼:S45C)の一端に焼入れを施した際の硬さと結晶組織の関連性から,次の

(8)

ことが明らかになった。

1)鋼に一端焼入れを施すことにより,その硬さは素材の3〜6倍に増える。

2)JISG4051−1979に記載の焼入剤の温度範囲(5〜30℃)は,硬さ,結晶組織ともに安定してい

ることを確認した。

3)一端焼入れにより,先端から55mmのところまでは焼入剤の影響が表れることがわかった。

4)試験片断面の直径・円周方向の硬さから,断面には均一に焼きが入っていることがわかった。

5)この実験から,試験片の長さ方向に,硬さと結晶組織の間に四つの領域が存在することを知った。

6)これらの成果を基に技術教育の場で使用するための教材モデルを提案した。

ここで提案するモデルは第1次モデルであり,まだ十分とはいえない。例えば,焼入れ時に試験片

が真っ直ぐ落下せず,その端面が焼入剤に垂直に当たらないことから生ずる結晶組織の不均一性,写

真撮影時に被写界深度が深くとれなかったことによる結晶組織の不鮮明さなどは改良すべき点であ

る。今後は前述のコンセプトを満たすべく実験を重ね,より良い教材の開発を進めて行きたい。

おわりにあたり,試験片の製作に多大なるご協力をいただいた,茨城職業能力開発短期大学校・機

械システム系の卒業研究生根本大輔君(現:大化工業(株)技術部)に対し心よりのお礼を申し上

げる。

引用文献

1)飯田賢一『人物・鉄鋼技術史』(日刊工業新聞社,1987).

2)熊谷悟「鉄鋼材料の一端焼入れと結晶組織」r平成7年度茨城大学教育学部卒業論文』(1995).

3)文部省r新しい技術・家庭(下)』(東京書籍,1992),p。4,10,31 4)文部省r中学校指導書(技術・家庭科編)』,p.7

5)門間改三『大学基礎。機械材料改訂版』(実教出版,1991),p.58 6)臼井太一郎『機械工作法』(パワー社,1989),p.155

7)『鋼の焼入性試験方法(一端焼入方法)JISGO561−1983』(日本規格協会,1983)

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