Γ 対称空間の極地と対蹠集合
大久保博希
首都大学東京大学院 理工学研究科 数理情報科学専攻
目 次
1 序文 1
2 Riemann 対称空間 1
3 Riemann 対称空間の極地と対蹠集合 5
4 Grassmann多様体の極地と対蹠集合 12
5 SU(n)/SO(n)の極地と対蹠集合 13
6 Γ 対称空間の極地と対蹠集合 17
7 Z2×Z2 対称空間SU(4)/SO(4)∩S(U(2)×U(2))の極地と対蹠集合 19
8 今後の研究課題 32
1
序文Riemann 対称空間の極地や対蹠集合はChen-Nagano [2]によって導入された概念 で,極地はある点における対称変換の固定点集合の連結成分1つ1つであり,対蹠 集合は任意の点における対称変換が他のすべての点を固定するような有限集合であ る.対蹠集合を求める上で極大対蹠集合の合同類がどれだけ存在するかが問題にな
る.Riemann 対称空間の極地や対蹠集合を求める手法として極大トーラスを用いる
方法や幾何的なモデルを用いて求める方法などがある.本論文において5節でこれら の手法を用いてSU(4)/SO(4)の極地と極大対蹠集合を決定した.
寺内 [6]はRiemann 対称空間の拡張になっているΓ対称空間において極地や対蹠 集合を定義した.また,[6]の6節では実旗多様体のZ2×Z2対称空間としての極地 や対蹠集合について述べられている.本論文ではZ2×Z2対称空間に2つのファイブ レーションの構造が入り,底空間の極地や対蹠集合を用いて,Z2×Z2対称空間の極 地や対蹠集合を調べた.特に,SU(4)/SO(4)∩S(U(2)×U(2))を例にとり,Z2×Z2
対称空間を2つの底空間の直積に軌道として埋め込むことによってZ2×Z2 対称空間 としての極地を求めた.また,1つの極大対蹠集合を求めた.
2 Riemann
対称空間この章ではΓ対称空間の準備としてRiemann対称空間の一般論を述べる.ここで 述べるのは[4]および[5]に基づいている.
定義 2.1. 連結Riemann 多様体M は,各x∈Mに対して,M の対合的等長変換sx で,xがsxの孤立固定点であるようなものが存在するとき,Riemann 対称空間と
呼ばれる.ここで,対合的とは二乗が恒等写像になることである.このようなsxを xにおける対称変換と呼ぶ.
sxのxにおける微分(dsx)xはsxが対合的であることからTxM から自身への対合 的な線形写像である.よって(dsx)xの固有値は+1か−1かのいずれかになる.そこ でTxMを(dsx)xの+1固有空間V+と−1固有空間V− の直和TxM =V++V−に分 解する.xはsxの孤立固定点であるからV+={0}である.よってTxM =V−となり (dsx)x =−idとなる.
定理 2.2. Riemann 対称空間M は完備Riemann 多様体である.
証明. 任意の点p ∈M に対して,γ: [0, l]→ Mをpを始点とする測地線とする.写 像γ˜: [0,2l]→Mを
˜ γ(t) =
{γ(t) (t∈[0, l]) sγ(l)(γ(2l−t)) (t∈[l,2l])
によって定義すると,γの定義からt∈[l,2l]に対してγ(2l−t)はMの測地線である.
sγ(l)はMの等長変換であるから,sγ(l)(γ(2l−t))はM の測地線となる.sγ(l)はγ(l) を固定し,(dsγ(l))γ(l) =−idより測地線の一意性から˜γは測地線でγの拡張になって いる.これを繰り返すと測地線の定義域をR全体に拡張できるので,Mは完備であ ることが分かる.
定理 2.3. Riemann 対称空間M は等質Riemann 多様体である.
証明. 任意のx, y ∈ M に対して定理2.2とHopf-Rinowの定理よりγ: [0, l] → Mで γ(0) =x, γ(l) =yを満たす測地線が存在する.このとき,
sγ(l
2)(x) =y が成り立つ.よってM は等質である.
定理2.4. (cf. [5]定理1.2)MをRiemann多様体,I(M)をMの等長変換群とする.こ のとき次が成り立つ.点p∈Mにおける接空間TpMの正規直交基底の全体をOp(M) で表し,O(M) = ∪
p∈M
Op(M)とする.任意のe∈O(M)を固定して,φ∈I(M)に対 して,写像ι: I(M)→O(M)を
ι(φ) = (dφ)(e)
によって定義すれば,ιは滑らかな埋め込みで,これによりI(M)はO(M)の閉正則 部分多様体になる.
定理 2.5. (cf. [5]定理1.2)MをRiemann対称空間とする.I(M)の単位連結成分は,
M に推移的に作用し,Lie変換群になる.
命題 2.6. (cf. [6]命題3.3) M をRiemann対称空間とする.任意のx, y ∈M に対し て次が成り立つ.
sx(y) = yならばsy(x) = x.
定義 2.7. Gを連結Lie群,σをGの対合的自己同型写像で恒等写像ではないものと する.これに対し,Gの閉部分群Gσを
Gσ ={g ∈G|σ(g) =g}
によって定義し,Gσ0 でGσの単位元の連結成分を表す.KをGの閉部分群でGσ0 ⊂ K ⊂Gσを満たし,かつAdG(K)がコンパクトになるものとする.このとき組(G, K) をRiemann 対称対と呼ぶ.
σの微分写像(dσ)eも対合的で恒等写像ではない.Gσ0 ⊂ K ⊂Gσより,k = LieK は
k={X ∈g|(dσ)e(X) =X} で与えられる.
m={X ∈g|(dσ)e(X) = −X} とおくと,
g=k+m
という直和分解が得られ,この分解を標準分解と呼ぶ.
定理 2.8. (G, K)をRiemann 対称対とし,(G, K)を定める対合的自己同型写像を σ: G→Gとする.π:G→G/Kを自然な射影とすると,G/K上のG不変Riemann 計量が存在する.g ∈GのG/Kへの作用をτgで表す.o=π(e)に対して,so: G/K → G/Kをso(gK) =σ(g)Kによって定めるとsoはoにおけるG/Kの対称変換となる.
また,任意の点p ∈ G/Kに対してp= τg(o)となるg ∈Gをとりsp: G/K → G/K をsp =τg◦so◦τg−1によって定めると,spはpにおける対称変換になる.よってG/K はRiemann 対称空間になる.
証明. g=k+mを標準分解とする.(dπ)eの核はkであるからKer(dπ)e|m ={0}であ る.よって(dπ)e|m: m → To(G/K)は線形同型写像である.この写像によってmと To(G/K)を同一視する.K ⊂Gσより任意のk ∈Kと任意のg ∈Gに対して
σ◦(Lk◦Rk−1)(g) = σ(kgk−1) =σ(k)σ(g)σ(k−1) =kσ(g)k−1
= (Lk◦Rk−1)σ(g) が成り立つので,微分写像を考えればX ∈mに対して
(dσ)e(Ad(k)X) = Ad(k)(dσ)eX=−Ad(k)X
が成り立つ.よってAdG(K)m⊂mが成り立つ.逆も同様に成り立つのでAdG(K)m= mが得られる.AdG(K)のmへの制限をAdm(K)と表す.よって任意のk ∈Kに対 して(dτk)o = Adm(k) という同一視が得られる.AdG(K)がコンパクトであるから,
mにAdG(K)不変な内積〈 , 〉が存在する.To(G/K)上で〈 , 〉に一致するものを 同じ〈 ,〉で表すことにする.任意の点p∈G/Kをp=τg(o)を満たすg ∈Gを用い て表す.X, Y ∈Tp(G/K)に対して
〈X, Y〉p =〈(dτg)−1X,(dτg)−1Y〉o
とおくと g ∈ Gのとり方に依存せずに定まるのでG/K に G不変計量が定まる.
so: G/K →G/Kを
so(gK) = σ(g)K
によって定める.g, g′ ∈Gに対してgK =g′Kとする.g−1g′ ∈Kであり,K ⊂Gσ であるから,
g−1g′ =σ(g−1g′) = σ(g)−1σ(g′)∈K
が成り立つ.よってσ(g)K =σ(g′)Kを得るのでsoは矛盾なく定まる.σが対合的で あることからsoも対合的になる.任意のx∈Tp(G/K)に対してx= (dτg)o(dπ)eXと なるX ∈mが存在する.また,任意のt ∈Rに対して,
so(τgexptX(o)) =so(π(gexptX)) =π(σ(gexptX)) =τσ(g)expt(dσ)eX(o) となるので
(dso)x= (dso)(dτg)(dπ)X = d dt
t=0
so(τg(π(exptX)))
= d dt
t=0
so(τgexptX(o)) = d dt
t=0
τσ(g)expt(dσ)eX(o)
= d dt
t=0
τσ(g)(π(exptdσX))
= (dτσ(g))(dπ)dσX =−(dτσ(g))(dπ)X
が成り立つ.よって〈 ,〉のG不変性よりso ∈I(G/K)となる.特に (dso)o =−id
を得るので,oはso の孤立固定点である.ゆえにsoはoにおける対称変換である.
sp: G/K→G/Kを
sp =τg◦so◦τg−1
で定めるとspはpにおける対称変換になる.ゆえにG/KはRiemann対称空間にな る.
逆に次が成り立つ.
定理 2.9. M をRiemann 対称空間とし,M の等長変換群の単位連結成分をGとす る.o ∈M をとりK ={k ∈K |ko =o}とおき,σ: G→ G;g 7→sogsoと定めると (G, K)はRiemann 対称対になる.
証明. 定理2.5よりGはMに推移的に作用する.また,定理2.4よりKはGのコン パクト部分群になる.よってAdG(K)はコンパクトになる.任意のk ∈Kに対して,
sokso(o) =sok(o) = oが成り立つので,X ∈ToMに対して
d(σ(k))o(X) = (dso)o(dk)o(dso)o(X) =−(dk)o(−X) = (dk)o(X)
が成り立つ.よってσ(k)とkに対してoの像とoにおける微分写像が一致するので σ(k) = kが成り立つ.よってK ⊂Gσが成り立つ.次に,X ∈gが任意のt∈Rに対 してσ(exptX) = exptXとするとき,X ∈kを示せばgσ ⊂kが得られるので,Gσと Gσ0 のLie環は同じものであるから,Gσ0 ⊂Kが分かる.so(o) = oより,
so((exptX)o) = so(exptX)so(o) = (σ(exptX))o= (exptX)o
が成り立つ.oはsoの孤立固定点であるからtが十分小さければ(exptX)o = oが成 り立つ.よってexptX ∈Kとなる.従ってX ∈kを得る.ゆえに(G, K)はRiemann 対称対である.
3 Riemann
対称空間の極地と対蹠集合この節ではRiemann 対称空間の極地と子午空間の一般論を解説する.ここで述べ るのは[2]および[4]に基づいている.
定義 3.1. Riemann 多様体M の部分多様体Nに対して,Nの任意の測地線がMの 測地線になるとき,NをMの全測地的部分多様体と呼ぶ.
補題 3.2. Riemann多様体の等長変換の固定点集合の連結成分は全測地的部分多様体
になる.
一般に,集合Xの変換φ: X →Xに対して,φによる固定点集合を F(φ, X) = {x∈X |φ(x) =x}
と表す.
MをコンパクトRiemann対称空間とする.x ∈M における対称変換sxの固定点 集合F(sx, M)はM の閉集合であるからコンパクトになる.よってF(sx, M)を次の ように有限個の連結成分の合併に分解する.
F(sx, M) =
∪r j=0
Mj+
定義 3.3. F(sx, M)の連結成分一つ一つをMの極地と呼ぶ.極地が一点からなると き,極と呼ぶ.{x}は常にF(sx, M)の連結成分になるので,M0+ ={x}を自明な極と 呼ぶ.
補題3.2よりコンパクトRiemann対称空間の各極地Mj+はMの全測地的部分多様 体になる.
補題 3.4. コンパクトRiemann対称空間Mの点p∈Mに対して,{p}が原点o ∈M に関する極であるときoにおける対称変換soとpにおける対称変換spは一致する.
証明. 対称変換の定義より,sp(p) = pと(dsp)p =−idが成り立つ.{p}はo ∈Mに関 する極であるからso(p) =pが成り立ち,pはF(so, M)の孤立点になっている.よっ て(dso)p =−idが成り立つ.以上より,so =spを得る.
補題 3.5. Riemann 対称空間Mの点xと等長変換g ∈ I(M)に対してsgx =gsxg−1 が成り立つ.
証明. 二つの等長変換sgx, gsxg−1 はともにgxを固定し,TgxM における微分写像 (dsgx)gx,(dgsxg−1)gx: TgxM →TgxMはともに−idになる.従ってsgx=gsxg−1が成 り立つ.
定義 3.6. ある集合Xに群Gが作用しているとする.Xの部分集合A1, A2がある g ∈GによりgA1 =A2となるとき,A1とA2はG合同であるという.
命題 3.7. コンパクトRiemann対称空間Mの等長変換群の単位連結成分をGとする.
M の異なる点における対称変換の固定点集合はG合同になる.より詳しく,y=gx なるg ∈Gに対してF(sy, M) =gF(sx, M)が成り立つ.
証明. x, y ∈ Mとする.GはMに推移的に作用するのでy = gxとなるg ∈ Gが存 在する.補題3.5よりsy =gsxg−1となり,sy(p) = pが成り立つための必要十分条件 はsx(g−1p) =g−1p であるので,F(sy, M) =gF(sx, M)が従う.
命題 3.8. MをコンパクトRiemann対称空間とし,Mj+をMの原点oに関する極地 とする.p∈ Mj+に対してso(p) = pであるからTpMは(dso)pの+1固有空間V+と
−1固有空間V−の直和TpM = V+⊕V−に分解し,V+ = TpMj+である.このとき,
F(sp ◦so, M)のpを含む連結成分をMj−(p)とすると,Mj−(p)はV−をpでの接ベク トル空間とする全測地的部分多様体になる.
証明. sp◦soはMの等長変換であるから,補題3.2よりMj−(p)は全測地的部分多様 体である.対称変換の性質より
(d(sp◦so))p = (dsp)p◦(dso)p =−(dso)p
が成り立つ.V−は(dso)pの−1固有空間であるから,(d(sp ◦so))pの+1固有空間に なる.よって主張が従う.
定義 3.9. Mj−(p)をpにおけるMj+に対する子午空間と呼ぶ.
定義 3.10. Riemann 対称対(G, K)に対してaをmの極大可換部分空間とする.定 理2.8によりmとTo(G/K)を同一視しExpoa = Aとおく.このときAをoを通る G/Kの極大トーラスと呼ぶ.
このとき次が成り立つ.
命題 3.11. F(so, G/K) =KF(so,A)が成り立つ.また,極大トーラスAの格子を Γ(G/K) ={H ∈a|ExpoH =o}
とおくとF(so,A) = Expo12Γ(G/K)が成り立つ.F(so, G/K)の連結成分は有限個で あり,G/Kの各極地はF(so,A)の点を起点とするK軌道になる.
証明. 命題を証明するために,Riemann 対称空間の一般論として成り立つ次の定理 を用意する.
定理 3.12. (G, K)をRiemann対称対とする.Aをo∈G/Kを通るG/Kの極大トー ラスとすると,
m= ∪
k∈K
AdG(k)a , G/K = ∪
k∈K
kA
が成り立つ.
命題3.11の証明を行う.定理3.12より,任意のx ∈G/Kに対してx=kaとなる k ∈Kとa∈ Aが存在する.補題3.5より
so(x) = so(ka) =kk−1so(k)a=ksk−1(o)(a) = kso(a)
が成り立つのでx ∈ F(so, G/K)となるための必要十分条件はa ∈ F(so,A)である ことがわかる.したがってF(so, G/K) = KF(so,A)が成り立つ.次にa ∈ Aをと ると,あるH ∈ aによりa = ExpoHと表せる.soExpoH = Expo(−H)が成り立 つので,soExpoH = ExpoHを仮定するとExpoH = Expo(−H)が成り立つ.従って Expo2H =oとなり,H ∈ 12Γ(G/K)を得る.これは逆も成り立つので,F(so,A) = Expo12Γ(G/K)が成り立つ.よってF(so,A)は有限集合になることがわかる.一方 で,H1, H2 ∈ 12Γ(G/K)に対してKExpoH1 ∩KExpoH2 ̸= ∅ のとき,KExpoH1 = KExpoH2が成り立つ.よって
F(soG/K) = ∪
H∈12Γ(G/K)
KExpoH =K( ∪
H∈12Γ(G/K)
ExpoH)
=K(Expo1
2Γ(G/K)) =KF(so,A)
が得られる.F(so,A)は有限集合であるから,F(so, G/K)は連結成分が有限個であ る.よってG/Kの極地はF(so,A)の点を起点とするK軌道になることがわかる.
命題 3.13. G/KをコンパクトRiemann対称空間とし,G/Kの点oに関する極地の1 つをMj+とする.p, q ∈Mj+に対してpにおける子午空間Mj−(p)とqにおける子午空間 Mj−(q)はK合同である.より詳しく,q =kpなるk ∈Kに対してMj−(q) = kMj−(p) が成り立つ.
証明. 命題3.11よりMj+はK軌道であるからq =kpとなるk ∈Kが存在する.任 意のx∈Mj−(q)に対し,補題3.5より
x=sq◦so(x) =skp◦so(x) =kspk−1so(x) が得られるので
k−1x=spk−1so(x) = spk−1sokk−1(x) = sp◦sk−1o(k−1x) =sp◦so(k−1x) が従う.よってk−1x∈F(sp◦so, G/K)となり,k−1Mj−(q)⊂F(sp◦so, G/K)が成り 立つ.k−1はG/Kの等長変換でk−1(q) = pあるから,F(sq◦so, G/K)のqを含む連結 成分をF(sp◦so, M)のpを含む連結成分の中に写す.よってk−1Mj−(q)⊂Mj−(p)すな わちMj−(q)⊂kMj−(p)が成り立つ.一方で任意のy∈Mj−(p)に対してy=sp◦so(y) であるから
ky =ksp◦so(y) = kspk−1kso(y) =skpkso(y)
=sqksok−1k(y) =sq◦sko(ky) =sq◦so(ky)
が従う.よってky ∈F(sq◦so, G/K)となり,kはF(sp◦so, G/K)のpを含む連結成 分をF(sq◦so, M)のqを含む連結成分に中に写すのでkMj−(p)⊂Mj−(q)を得る.以 上よりMj−(q) = kMj−(p)であるからMj−(p)とMj−(q)はK合同である.
命題3.7より,コンパクトRiemann 対称空間の極地を考える場合,原点に関する 対称変換の固定点集合を考えれば十分である.また,命題3.13より子午空間を考え る場合は,極地の数だけとり方があるが,各極地に対して,その極地の1点における 子午空間を考えれば十分である.
定義 3.14. Riemann対称空間M の部分集合Aが任意のx, y ∈Aに対してsx(y) =y を満たすとき,AをMの対蹠集合と呼ぶ.Mの対蹠集合A を含むMの任意の対蹠集 合A′に対してA=A′が成り立つとき,AをMの極大対蹠集合と呼ぶ.Mの対蹠集 合の濃度の上限を2-numberといい,#2Mで表す.Mの対蹠集合Aが#A= #2M を満たすとき,AをMの大対蹠集合と呼ぶ.
命題 3.15. M をコンパクト Riemann 対称空間とし,極地をM0+, M1+, . . . Mr+とす る.このとき
#2M ≤
∑r k=0
#2Mk+ が成り立つ.
証明. M0+, M1+, . . . Mr+を原点o ∈ M に関する極地とし,Aをoを含むM の対蹠集 合とする.このとき,A⊂F(so, M)が成り立ち,
A =
∪r k=0
(A∩Mk+)
となる.任意の点x∈Mk+に対して,Mのxにおける対称変換sxを各極地Mk+に制 限することにより,各極地Mk+はコンパクト Riemann対称空間になる.各A∩Mk+ の2点はMk+の対称変換によって互いに固定されるので,A∩Mk+はMk+の対蹠集合 になる.よって次を得る.
#A=
∑r k=0
#(A∩Mk+)≤
∑r k=0
#2Mk+.
#Aの上限が#2Mであるから
#2M ≤
∑r k=0
#2Mk+ を得る.
命題 3.16. コンパクトRiemann対称空間Mの対蹠集合は有限集合であり,2-number も有限になる.
証明. AをMの対蹠集合とする.任意のx∈ Aに対してA ⊂F(sx, M)が成り立つ.
xはF(sx, M)の孤立点であるからAの孤立点になる.よってAは離散集合になり,
コンパクトなので有限集合になる.M0+, M1+, . . . Mr+をMの極地とすると,命題3.15 より,
#2M ≤
∑r k=0
#2Mk+
が成り立つ.Mk+が極であるとき#2Mk+ = 1である.このとき,極地をとる操作は 終了する.Mk+が極でないとき,ok ∈Mk+をとり,その極地として
F(sok, Mk+) =
rk
∪
j=0
(Mk+)+j を定める.このとき,命題3.15より
#2Mk+ ≤
rk
∑
j=0
#2(Mk+)+j
が成り立つ.Riemann対称空間に対して極地の次元は対称空間の次元よりも真に小さ いので,このように極地をとる操作を有限回続けると極のみが残る.従って#2M < ∞ が成り立つ.
補題 3.17. (1) M1, M2をコンパクトRiemann対称空間とする.AiをMiの対蹠集 合とすると,A1×A2はM1×M2の対蹠集合となる.
(2) A1 ⊂M1, A2 ⊂M2がそれぞれ極大対蹠集合であるとすると,A1×A2はM1×M2 の極大対蹠集合である.逆に,AをM1×M2の極大対蹠集合であるとすると,
M1, M2 のある極大対蹠集合A1 ⊂ M1, A2 ⊂ M2が存在してA = A1 ×A2と なる.
(3) A1 ⊂M1, A2 ⊂M2がそれぞれ大対蹠集合であるとすると,A1×A2はM1×M2 の大対蹠集合である.逆に,AをM1×M2の大対蹠集合であるとすると,M1, M2 のある大対蹠集合A1 ⊂M1, A2 ⊂M2が存在してA =A1×A2となる.従って
#2(M1×M2) = #2M1·#2M2が成り立つ.
証明. (1) A1 ⊂ M1, A2 ⊂ M2 をそれぞれM1, M2 の対蹠集合とする.任意の点 (x1, x2),(y1, y2)∈A1×A2に対して
s(x1,x2)(y1, y2) = (sx1(y1), sx2(y2)) = (y1, y2) が成り立つので,A1×A2はM1×M2の対蹠集合である.
(2) 次に,A1, A2 をそれぞれ M1, M2 の極大対蹠集合とし,Aを A1 × A2 を含む M1×M2の対蹠集合とする.第1成分への射影をπ1: M1×M2 →M1,第2成 分への射影をπ2: M1×M2 →M2とする.このとき,AはA1×A2を含むので,
π1(A), π2(A)はそれぞれA1, A2を含む.また,任意のx1, y1 ∈π1(A)に対して,
あるx2, y2 ∈M2が存在して(x1, x2),(y1, y2)∈Aが成り立つ.よって (sx1(y1), sx2(y2)) =s(x1,x2)(y1, y2) = (y1, y2)
を得るので,sx1(y1) =y1が成り立つ.ゆえにπ1(A)はA1を含むM1の対蹠集合 である.同様にしてπ2(A)はA2を含むM2の対蹠集合になる.A1, A2はそれぞれ M1, M2の極大対蹠集合であるからA1 =π1(A), A2 =π2(A)が成り立つ.よって A1×A2 =π1(A)×π2(A)が成り立ち,これはAを含む.従ってA=A1×A2を得 るので,A1×A2はM1×M2の極大対蹠集合である.次に逆を示す.AをM1×M2 の極大対蹠集合とする.A ⊂π1(A)×π2(A)であり,π1(A)⊂M1, π2(A)⊂M2は それぞれM1, M2の対蹠集合になり,π1(A)×π2(A)はM1×M2の対蹠集合であ ることが今までに示したことから分かるので,A=π1(A)×π2(A)を得る.従っ てM1×M2の極大対蹠集合AはM1の対蹠集合A1とM2の対蹠集合A2の直積 で得られる.M1×M2の極大対蹠集合A=A1×A2に対して,A′1, A′2をそれぞ れA1, A2を含むM1, M2の極大対蹠集合とする.このとき,A1×A2 ⊂A′1×A′2 であるが,A1×A2の極大性からA1×A2 =A′1×A′2が成り立つ.よって
A1 =π1(A1 ×A2) =π1(A′1×A′2) =A′1 A2 =π2(A1 ×A2) =π2(A′1×A′2) =A′2
が成り立つ.したがってA1, A2はそれぞれM1, M2の極大対蹠集合になる.
(3) A1, A2がぞれぞれM1, M2の大対蹠集合であるとき,A1×A2がM1×M2の大 対蹠集合であることを示す.A1, A2をそれぞれM1, M2の大対蹠集合とする.大 対蹠集合は極大対蹠集合であることに注意すると,
#(A1×A2) = #(A1)·#(A2) = #2M1·#2M2
= sup{#A′1 |A′1はM1の極大対蹠集合} ·sup{#A′2 |A′2はM2の極大対蹠集合}
= sup{#A′1·#A′2 |A′1, A′2はそれぞれM1, M2の極大対蹠集合}
= sup{#(A′1×A′2)|A′1×A′2はM1×M2の極大対蹠集合}
= sup{#A|AはM1×M2の極大対蹠集合}
= #2(M1×M2) となるので,
#(A1×A2) = #2(M1×M2)
が成り立つ.従ってA1×A2はM1×M2の大対蹠集合になる.逆も同様に示さ れる.
次の命題は[2]で与えられている命題2.10よりも強い主張になっており,その証明 を与えた.
命題 3.18. コンパクト Riemann 対称空間M の極地が1つを除いて極になってい るとする.すなわち,F(so, M) = {o} ∪ {p1} ∪ · · · ∪ {pr−1} ∪Mr+と仮定する.こ のとき,A ⊂ M がoを含むM の極大対蹠集合であるための必要十分条件はA = {o} ∪ {p1} ∪ · · · ∪ {pr−1} ∪Arが成り立つことである.ここで,ArはMr+の極大対蹠 集合である.
証明. {o},{p1}, . . . ,{pr−1}は極であるから,補題3.4よりso = sp1 = · · · = spr−1 が 成り立つ.まずは十分性を示す.任意の点x ∈ Arに対して,so(x) = xであるか ら,i = 1, . . . , r−1に対してspi(x) = xが成り立つ.よってArの点と各極の点に おける対称変換は互いの点を固定する.また,Arの任意の2点x, yに対して,x, y はその2点におけるMr+の対称変換によって互いに固定される.M の対称変換を極 地Mr+に制限することによってMr+は対称空間になるので,この2点はM の対称 変換sx, syによっても互いに固定される.よってAはoを含むM の対蹠集合である.
A′をAを含むMの極大対蹠集合とする.A′は固定点集合F(so, M)に含まれるので A′\ {o, p1, . . . , pr−1}はMr+に含まれる.A′\ {o, p1, . . . , pr−1}の任意の2点はMの対 称変換で互いに固定されるので,Mr+に制限したMr+の対称変換でも互いに固定され る.よってA′\ {o, p1, . . . , pr−1}はArを含むMr+の対蹠集合である.ArはMr+の極 大対蹠集合であるから,
A′\ {o, p1, . . . , pr−1}=Ar