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2 分類空間 Γ \ D とそのコンパクト化 Γ \ D

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Academic year: 2021

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(1)

ある型の混合 Hodge 構造の分類空間のコンパクト化について

黒田 匡迪

(Kuroda Masamichi)

 北海道大学大学院 理学研究院 数学部門

概要

加藤和也氏,中山能力氏,臼井三平氏により,混合Hodge 構造の分類空間Dのその自己同型群Aut(D) の離散部分群Γによる商空間Γ\Dのトロイダル部分コンパクト化が構成された. それはΓに対して,適切 な弱ファンΣを与え,冪零軌道の空間DΣΓによる商空間Γ\DΣとして与えられた. 本講演では,ある

型の混合 Hodge構造の分類空間について,そのコンパクト化の構造を具体的に紹介する. また,このコン

パクト化と,平面三次曲線と直線からなる半安定な組のGITモジュライP1,3あるいは, Alexeev氏による 完備なモジュライAP1,3との関係についての結果も紹介する.

1 はじめに

講演者は平面三次曲線Cと直線Lからなる半安定な組(C, L)GITモジュライP1,3について研究を行っ てきた. [Ku]では主に次の三つの結果が得られた. 一つ目は,(C, L)の安定性の完全な分類を与え, GITモ ジュライP1,3にあらわれる組の幾何学的な条件を決定した. 二つ目は,このモジュライP1,3Alexeev氏に より構成された完備なモジュライAP1,3との間にある双有理写像f :P1,3AP1,3を与え, その性質を調べ た. ここで,AP1,3は高々,結節点を持つ三次曲線CCの特異点を通らない直線Lからなる組(C, L)のモ ジュライである. 三つ目は,これら二つのモジュライの粗い構造を見るために,P1×P2のあるブローアップかAP1,3,P1,3への自然な写像を構成した. さらにこれら二つの写像と上の双有理写像f の関係を与えた.

最近では, このモジュライP1,3とある型の混合Hodge構造の分類空間のコンパクト化との比較の研究 を行ってきた. 非特異三次曲線E, E と横断的に交わる直線Lからなる組(E, L)全体のなす開部分集 合P1,3 P1,3の各組に対して, 一次コホモロジーH1(E\(EL),Z)の混合Hodge構造を考えることで P1,3 から, ある型の混合Hodge構造の分類空間D をモノドロミー群Γで割った空間Γ\D への周期写像 P1,3 Γ\Dが定まる. P1,3のコンパクト化としてP1,3があり, Γ\Dのコンパクト化として加藤和也氏,中 山能力氏, 臼井三平氏により構成されたトロイダル部分コンパクト化Γ\DΣが知られているので, 周期写像の これらのコンパクト化の境界への拡張を具体的に構成することで, P1,3Γ\DΣとの比較を与えるというの が研究の手法である. 残念ながら,この周期写像の境界への拡張は煩雑なので, 上と同様にしてAP1,3の開部 分集合AP1,3からΓ\Dへの写像ϕ:AP1,3Γ\Dを構成して,この写像の境界への拡張を考える. 実際,双 有理写像ϕ¯:AP1,3Γ\DΣに拡張することができる(定理3.1). この双有理写像と[Ku]で構成した双有理 写像f :P1,3AP1,3を合わせることで,P1,3Γ\DΣの比較を与えることができる(定理4.1).

第二章では, 分類空間Γ\Dとそのコンパクト化Γ\DΣを具体的に与える. 第三章では, 写像ϕ:AP1,3 Γ\Dを具体的に与え, ϕを双有理写像ϕ¯:AP1,3Γ\DΣに拡張する. 第四章では, [Ku]の結果と合わせて, P1,3AP1,3Γ\DΣの関係を与える.

E-mail: [email protected]

(2)

2 分類空間 Γ \ D とそのコンパクト化 Γ \ D

Σ

複素数体C上で考える. 混合Hodge構造の型Λ = (

H0, W,(,w)w∈Z,(hp,q)p,q∈Z )

を次で固定する:

H0=Ze1+Ze2+Ze3+Ze4.

WH0,R:=RZH0上の増大フィルトレーションで次で定まるもの:

W0= 0W1=Re1+Re2W2=H0,R.

• ⟨,wは非退化R値双線形形式grWw ×grWw R,wZに対して, wが偶数なら対称となり, w が奇数なら歪対称となるもので,次を満たすものとする:

e2, e11= 1, e3, e32=e4, e42= 1, e3, e42=1 2.

h1,1= 2, h0,1=h1,0= 1であり,これら以外の組(p, q)に対して, hp,q = 0とする.

但し,w Zに対して, grWw =Ww/Ww1とし, e1, e2 (resp. e3, e4)e1, e2 (resp. e3, e4)grW1 (resp. grW2 )における像とする. ここで,Λの混合Hodge構造の分類空間Dとは以下の三つの条件を満た すH0,C:=CZH0上の減少フィルトレーションF全体のなす集合である:

(1) 任意のp,qZに対して, dim( Fp(

grWp+q)

/Fp+1( grWp+q))

=hp,q. (2) 任意のp,q,wZp+q > wを満たすものに対して,,wFp(

grWw)

×Fq( grWw)

に制限すると零 写像になる.

(3) 任意のp, q, wZp+q=wを満たすものと任意の0でないxFp( grWw)

Fq(grWw)に対して, ipqx,x¯w>0.

但し,F( grWw)

Fによって誘導されたgrWw,C:=CRgrWw 上の減少フィルトレーションである. 上の条件 (1)(2)満たすH0,C上の減少フィルトレーションF全体のなす集合をDˇ とかく.

以下, H を上半平面と す る.τ ∈ H z1, z2 C に対し, H0,C 上の減 少フ ィル トレーション F =F(τ, z1, z2)を次で定める:

0 =F2F1=C(τ e1+e2) +C(z1e1+e3) +C(z2e1+e4)F0=H0,C.

このとき, 簡単な計算により,D ={F(τ, z1, z2)|τ∈ H, z1, z1C}が得られ,複素解析多様体としての同型 D≃ H ×C2が得られる. 以下, この同型で同一視する.

次にモノドロミー群ΓW と整合するH0Z上の自己同型g, すべてのwZに対してgrWw(g) : grWw grWw,wと整合するもの全体のなす群GZとする. GZ,u:={

gGZ|grWw = 1 (

wZ)}

とし,wZに対して,GZ(

grWw)

を組((H0Ww)/(H0Ww1), ,w)に関するGZとする. このとき

GZ,u=

1 0 0 1

a1 a3

a2 a4

O 1 0

0 1

a1, a2, a3, a4Z

Z4, (1)

Γ =GZ=

A1

a1 a3

a2 a4

O A2

a1, a2, a3, a4Z, A1SL2(Z), A2GZ(

grW2 )

(3)

が得られる. (1)の同型は群同型である. また, GZ(

grW2 )

=

⟨[ 0 1 1 1

] ,

[ 0 1

1 0 ]

,

[ 1 0 0 1

]⟩

S3×Z/2Z となることもわかる. GZ,uを含むΓの部分群Γ1, Γ2を次で定める:

GZ,uΓ1=

1 a 0 1

a1 a3 a2 a4

O 1 0

0 1

a, a1, a2, a3, a4Z

Γ2=

A1

a1 a3

a2 a4

O 1 0

0 1

A1SL2(Z), a1, a2, a3, a4Z

Γ.

ここで, Γ =GZDに自然に作用するが, それは次で与えられる:

Γ×D−→D, (g, F(τ, z1, z2))7−→g·F(τ, z1, z2) =F, z1, z2), τ=A1·τ= +b

+d, [ z1 z2 ]

=[ z1

cτ+d+a1a2τ cτ+dz2 +a3a4τ ] A21,

但し,g=

A1 a1 a3 a2 a4

O A2

Γとし,A1= [ a b

c d ]

SL2(Z)とする. この作用による商空間を考える

,次の可換図式を得る:

GZ,u\D −−−−→ Γ1\D −−−−→ Γ2\D −−−−→ Γ\D

y y y y

D( grW1 )

−−−−→ Γ1\D( grW1 )

−−−−→ Γ2\D( grW1 )

−−−−→ Γ\D(

grW1 ) (2)

ここで,D( grW1 )

は型(

(H0W1)/(H0W0),,1,(hp,q)p+q=1

)Hodge構造の分類空間であり,縦の写 像は標準的全射である. また, Γ1 (resp. Γ2, Γ)Aut(H0)Aut(grW1 )によるΓ1(resp. Γ2, Γ) の像であ る. このとき,簡単な計算により, 次が得られる:

D( grW1 )

=H, Γ1=

[ 1 Z 0 1

]

Z, Γ2= Γ = SL2(Z).

さらに,上の作用により,

Γ1\D( grW1 )

=Z\H−→ × ={qC| |q|<1}, τ modZ7−→exp(2πiτ),

Γ2\D( grW1 )

= Γ\D( grW1 )

= SL2(Z)\H−→ C, τ mod SL2(Z)7−→j(τ) が従う. 但し,j(τ)j-不変量である. さらに,次が得られる:

GZ,u\D=Z4\(

H ×C2)

=

τ∈H

(Eτ×Eτ), Eτ:=C/(Z+τZ), Γ1\D= Γ1\(

H ×C2)

=

q×

(C/qZ×C/qZ) ,

(4)

Γ2\D= Γ2\(

H ×C2)

=

j∈C

(C/qZ×C/qZ)

, j=j ( 1

2πilogq )

,

Γ\D= Γ\(

H ×C2)

=

j∈C

G2\(

C/qZ×C/qZ)

, j=j ( 1

2πilogq )

, G2:=GZ( grW2 )

.

ここで,

τ∈H

(Eτ×Eτ)→ HのファイバーEτ×Eτ

q×

(C/qZ×C/qZ)

×のファイバーC/qZ× C/qZは同型

Eτ×Eτ −→ C/qZ×C/qZ, (z1modZ+τZ, z2 modZ+τZ)7−→(

exp(2πiz1) modqZ,exp(2πiz2) modqZ) で同一視される. この同一視の下で,G2C/qZ×C/qZへの作用が誘導される:

[ 0 1 1 1

]

·([w1],[w2]) =(

[w11w21],[w2])

, (3)

[ 0 1

1 0 ]

·([w1],[w2]) =(

[w21],[w11])

, (4)

[ 1 0 0 1

]

·([w1],[w2]) =(

[w11],[w21])

. (5)

以上より, (2)は次の可換図式になる:

τ∈H

(Eτ×Eτ) −−−−→

q×

(C/qZ×C/qZ)

−−−−→

j∈C

(C/qZ×C/qZ)

−−−−→

j∈C

G2\(

C/qZ×C/qZ)

y y y y

H −−−−→ × −−−−→ C C

以下,商空間Γ\D=

j∈C

G2\(

C/qZ×C/qZ)

のコンパクト化を構成する.

加藤和也氏, 中山能力氏, 臼井三平氏により, 分類空間Γ\Dのトロイダル部分コンパクト化が構成された ([KNU09], [KNU11], [KNU13]). それはΓに対して, 適切な弱ファンΣを与え,冪零軌道の空間DΣΓに よる商空間Γ\DΣとして与えられた. DΣDΣから簡単な計算で求められるので, 適切なΣを構成する ことが本質的な問題である. ここでは,次の手順で構成していく:

手順1 Γ1に対して,適切なΣ1を構成する. 手順2 Σ :={

Ad(γ)σ:=γσγ1|γΓ1, σΣ1

}として, Γ\DΣを計算する.

いくつかの用語の定義から始める. A=Q,R, Cに対して, gA:= Lie(GA)とする. これは {

X EndA(H0,A)

全てのwに対して, X(Ww)Wwであり,

全てのw, x, yに対して,grWw(X)(x), yw+x,grWw(X)(y)w= 0 }

と同一視される. gRの部分集合σが冪零錐であるとは,次の二つの条件を満たすことをいう:

(1) σの全ての元は冪零であり,任意のN,N σに対し,H0,Rの線形変換としてN N=NNとなる. (2) σは有限生成である. すなわち,有限個のσの元N1, . . ., Nnが存在して,σ=n

j=1R0Njとなる. 上の条件(2)NjgQの元でとれるとき,σを有理冪零錐という. 冪零錐σH0,Rへの作用がW に関し てadmissibleであるとき,σadmissibleであるという(詳細は[KNU11], 1.1.2を見よ).

(5)

N1, . . ., Nn gR を互いに可換な冪零元とし, FDˇ の元とする. 次の三つの条件を満たすとき, (N1, . . . , Nn, F)は冪零軌道を生成するという:

1.n

j=1R0NjH0,Rへの作用がW に関してadmissibleである. 2.jと任意のpZに対して, NjFpFp1を満たす.

3. yjR0が十分大きいとき, exp

n

j=1

iyjNj

FDを満たす.

これらの条件は錐σ:=n

j=1R0NjとフィルトレーションFにのみ依存するので,これらの条件を満たすと き,(σ, F)は冪零軌道を生成するともいう.

σを冪零錐とする. ˇDの部分集合Z, あるF Z に対して次の条件4.5. が成り立つとき,σ-冪零軌 道であるという:

4. Z = exp (σC)Fである. 但し,σCgCにおけるσC-線形な延長である. 5. (σ, F)は冪零軌道を生成する.

このような組(σ, Z)を冪零軌道と呼ぶ. 条件4.5. は一つのF Zで成り立てば,全てのF Zで成り立 つことに注意せよ.

弱ファンΣとは,以下の条件(1)(2)を満たすシャープな有理冪零錐からなる空でない集合である. ここ で,冪零錐σがシャープであるとはσ(σ) = 0を満たすことをいう:

(1) σΣならば,σのフェイスもΣに含まれる.

(2) σ,σΣは共通の内点を持つと仮定する. あるF Dˇ が存在して, (σ, F), F)は冪零軌道を生成 するならばσ=σである.

弱ファンΣに対して,

DΣ:={(σ, Z) : 冪零軌道|σΣ} とする. このとき, 自然な埋め込みDDΣ, F7→({0}, F)が存在する.

弱ファンΣGZの部分群Γが整合するとは,次の条件1. を満たすことをいう:

1. 任意のγΓと任意のσΣに対して, Ad(γ)σ:=γσγ1Σを満たす. ΣΓが整合するならば, ΓDΣに次で作用する:

Γ×DΣDΣ, (γ,(σ, Z))7→γ·(σ, Z) := (Ad(γ)σ, γZ).

上の条件1. に加えて, 次の条件2. を満たすとき, ΣΓは強く整合するという:

2. σΣならば,任意のσの元はaN の和でかける. 但し,aR0であり, Nexp(N)Γを満たす σの元である.

このとき,次が成り立つ.

定理 2.1 (Thm. 2.5.5, [KNU11]). Σを弱ファンとし, ΓΣと強く整合するGZの部分群とする. このと き,位相空間Γ\DΣHausdorffである.

(6)

2.1

手順

1

Σ1

の構成

Γ1と強く整合する弱ファンΣ1を次で定める:

Σ1:={

{0}, σjn,m(n, mZ, j= 1,2,3,4)} ,

σn,m1 :=R0Nn,m, σn,m2 :=R0Nn,m+R0Nn+1,m, σn,m3 :=R0Nn,m+R0Nn,m+1, σn,m4 :=R0Nn,m+R0Nn+1,m+R0Nn,m+1+R0Nn+1,m+1,

Nn,m:=

0 1 n m

0 0 0 0

0 0 0 0

0 0 0 0

.

このとき,次の可換図式が得られる:

Γ1\D=

q×

(C/qZ×C/qZ)

, Γ1\DΣ1 = Γ1\D(

P1C/(0)×P1C/(0))

× ,

ここで, 右側の縦の写像の 0 のファイバーは 0 を同一視して得られるP1C の商P1C/(0 ) のファイバー積である. また, 0 のファイバーP1C/(0 )×P1C/(0 )の元(w1, w2) C×× C×(resp. (0 = , w2) (0 = )×C×, (w1,0 =) C××(0 = ), (0 =,0 = ))は冪零軌道 0,01 , F(C, z1, z2)) (resp. (σ0,02 , F(C,C, z2)), (σ0,03 , F(C, z1,C)), (σ40,0, F(C,C,C))) の類に対応している. 但し, exp(2πizj) =wj (j= 1, 2)である.

2.2

手順

2

Σ

の定義と

Γ\DΣ

の計算

Σ ={

Ad(γ)σ=γσγ1|γΓ1, σΣ1}

とすると, ΣΓと強く整合する弱ファンであり,次の可換図式 が得られる:

Γ\D=

j∈C

G2\(

C/qZ×C/qZ)

, Γ\DΣ= Γ\D(

P1C/(0)×P1C/(0)) /

C , P1C

ここで,右側の縦の写像のj=∞ ∈P1Cにおけるファイバー(

P1C/(0)×P1C/(0)) /, (P1C/(0)×P1C/(0))

/=G2\(

C××C×)

(

(0 =)×C×C××(0 =)) /

(0 =)×(0 =)

と分解できる. このとき G2C××C× (3), (4), (5)と同様に作用し, (0 = )×C× C××(0 =

) に お け る 同 値 関 係 は (w2,0 = ) (0 = , w2) (

0 =, w21)

で 定 め る. こ こ で W :=

((0 =)×C×C××(0 =))/(0 =)×(0 =)とし,W を同型 W =C×/(

zz1)

(0 =) P1C, [z]7→z+z1P1Cと同一視する.

参照

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