出現物主語の「是…的」構文の叙述の焦点
著者 陸 芸娜
雑誌名 応用言語学研究論集
巻 3
ページ 87‑132
発行年 2009‑03‑01
URL http://hdl.handle.net/2297/17340
1
出現物主語の「是……的」
1構文の叙述の焦点
金沢大学大学院 D1 陸芸娜
はじめに
ある事象(複数の「現象素
2」によって構成される)が生起する 時点で存在しなかった物が、その事象の進展に伴い、「事象構造
3」 のなかに出現した場合、その物を本稿では「出現物」と名づけるこ とにする。中国語の出現物を主語に立て、事象を述べる場合、受動 文(被字句)の使用が制限される代わりに、通常「是……的」構文 が用いられる。陳(2002)「論成事及其相関動詞」には本稿で扱う 出現物に相当する意味での「成事」が取り上げられ、その分類作業 が行われた。この分類基準は出現物の特徴を判別するのに大いに役 立つ。本稿で扱う「是……的」構文における出現物の分類は陳(2002)
の分類基準を参考にする。
本稿では、出現物の現象素のどの部分をその特徴として認定する かによって、出現物を主語とする「是……的」構文の叙述の焦点が
1
現代中国語には述語が「是……的」というパターンから成る文が二種類あり、
劉(1991)ではそれぞれ「是……的構文(1)」と「是……的構文(2)」と呼 ばれる。本論文は主に是……的構文(1)を検討することにする。以下「是…
…的」は全部「是……的構文(1) 」を指す。
2
国広哲弥(p23):同一の現象に基づく認知的多義が認められるならば、意義 素はふたつ以上になり得る。この同一の現象のことを「現象素」
(phenomeneme)と呼ぶことにしよう。これは単なる外界の一部というものではなく、人間の認 知作用を通して、ひとまとまりをなすものとして把握された現象を指す。これ は実質的には従来用いられてきた「指示物」
(referent)に相当するものであるが、
同じではない。指示物は言語とは関係のない外界の存在物と考えられていたの に対して、現象素は言語の用法から帰納された、言語と関連を持った外界の一 部と捉えられるものである。
3
西村(2002) :事象構造(event structure)というよう語は理論が違えば、
その概念内容も異なるのであるが、事象(あるいは事態)と呼んでよいような 対象を表現するのに用いられる言語形式の担う意味構造を指す点は共通して いる。 (p1)
中右(1994) : 「事象」 (event)という用語は、より包括的な「状況」(situation) という用語で置き換えたいところだが、ここではライヘンバッハの用語に従う。
ここにはライヘンバッハ批判の意味合いもあるからである。 (p298)
変わると考える。すなわち、その構文において、どんな成分が叙述 の焦点にされるかは出現物の特徴によって決定づけられるものと する。次に、現象素の取り上げ方が「是……的」構文の叙述の焦点 位置判断にどれほど影響を与えるかを解明するために、本稿では、
「非必須格
4」からの干渉を取り除く必要があると考える。よって、
本稿は非必須格を介さない「是……的」構文のみを考察対象とする。
以上の分析方針に基づき、本稿はつぎの課題を解明することを目 的とする。
(1) 出現物を主語とする「是……的」構文を構成する場合に、
出現物の特徴によって構文成立の可否に関する制限がど のように現れるか。
(2) それぞれの制限のもと、 「是……的」構文がどの現象素を 叙述の焦点とするのか。
第一章 先行研究
第1節 「是……的」構文の叙述の焦点をめぐって
1.劉月華(1991)
是……的構文(1)…(中略)…このタイプの文では、文全体の伝えようと する意味の重点は「是……的」内の状語が担っている。…事柄を為したのは誰 であるかを特に述べようとする場合、…(中略)…音声的にはストレスは「是
……的」内の主述フレーズの主語に置かれる。…(中略)…「是……的」で動 作.行為を強調する。この動作.行為はある結果をもたらした原因である。こ のタイプの構文では、普通「是……的」の中が動詞一つだけで、文のストレス
4
必須格は以下の「補足語」に相当するものであり、非必須格は「付加語」に 相当するものである。
「益岡(1987) : 「述語句」とは述語を中心として
1つのまとまりを成す構成体 であり、…(中略)…このまとまりの核になるのは「述語」である。主要素で ある述語と、述語に様々な形で従属する要素(従要素)により、述語句が形成 されるわけである。…(中略)…従要素における「補足語」と「付加語」の区 別、…(略) (p81)述語によって、その存在が要求される従要素、すなわち、
述語句中の必須成分となる従要素を…(中略)…「補足語」と呼ぶことにしよ
う。…(中略)…述語句中の随意成分である従要素を「付加語」と呼ぶことに
しよう。 (p82)
3
はこの動詞の上に置かれる。 (p651)
劉(1991)は、 「是……的」構文の重点は「是……的」内の部分が担 うと主張しているが、「是……的」構文内は動詞フレーズ、主述フ レーズである場合、「是……的」内の内容のどの部分に重点を置く かその判断方法が明確にされないままである。重点を判断する際音 声的ストレスに頼るという記述もあるが、これだけの説明では、 「是
……的」構文の叙述の焦点を読み取るのはネイティブ以外の人にと っては難関だと予想される。
2.王亜新(2004)
王(2004)は「的」字構造が含まれる文型を主格説明句、賓格説 明句、賓格指定句に整理した。内、本論文と関わるのは「賓格説明 句」の種類である。賓格説明句の例について
の分析を引用する。
a.是我请小王来的。 (=小王是我请来的(S1))
b.是昨天请小王来的。 (=小王是昨天请来的)
c.我是昨天请小王来的。 (=小王是我昨天请来的)
b 由 a 对主体的确认转为对时间的确认,它同 a 一样也可以变换为 S1。B 的 说明焦点是“昨天”,“我”由于不是说明焦点而缺省,但由于“我”是动词
“请”的一个“向” ,因此按照汉语的句法特点,这个“向”是可以补入的。
按照汉语语序, “我”应当放到“昨天”之前,但由于提示焦点的需要, “是”
应当放在“我”之后。这样,在句式规则和语用意图的双重作用下形成了c 这种句式。 (p32)
例文 c の叙述の焦点は「昨日」にある。叙述の焦点ではない要素
「我」を構文に入れようとするとき、「是……的」構造の「是」の
直後ではなく、「是」の前に入れなければならない。これは「
提示焦 点的需要」との記述がある。筆者の解釈によれば、これは焦点化され
る「時間」を表す「昨日」を「是……的」構文の中の「是」の直後
に置くためである。すなわち、 「是……的」構文において、 「是」の
直後に来るのが叙述の焦点と理解されるからである。しかし、例文
c と同じ意味を持つ賓格説明句、括弧内の文(=小王是我昨天请来
的)に注目すると、「是……的」の中には「我」「昨日」「請来」と
の仕手、時間、行為などの要素が含まれている。王(2004)の記述 では焦点化される時間を表す「昨日」は「是」の直後に置かれてい ない。したがって、筆者はここに矛盾が存在すると考えた。王(2004)
ではどの現象素が叙述の焦点とされるかについて、形式化上の判断 基準は明確にされないままである。
「是……的」構文のどの部分が叙述の焦点になるかが、文脈への 依存度が高いのは周知の事実である。しかし、叙述の焦点の判断を 語用的な文脈に託したり、統語的な位置によって判断したりするの はやはり限界があると思われる。
3.袁毓林(2003)
袁(2003)において、下記のような記述がある。
我们称动词性成分充当谓语核心的句子为事件句(event sentences),称 带句尾“的”的句子为事态句(state-of-affairs sentences) 。 (p3)…
(「S+Ad+V+O」の如く、動詞フレーズを述語とする文は出来事文(event sentences) 、文末に「的」が付く文は状態文(state-of-affairs sentences)
と呼ばれる。 )
上記の定義により出来事文として認められた文には、様々な種類 が列挙されている。本稿では、S
20「S+Ad+V+O+的」と S
21「是 +S+Ad+V+O+的」、S
41「O+是+S+Ad+V+的」という三つの出来事文の 構文のみを取り上げることにする。
また、袁(2003)は「(是)……的」構文は「狭焦点」と「広 焦点」を表すことができるとする。以下、抜粋する。
3.1“ (是)……的”结构标记窄焦点
在事件句中,常规的(regular)焦点是宾语O或状语性成分Ad;当把S
105转换为S
20以后,在事态句S
20中,焦点可以是主语S,也可以是状语Ad。… (中 略)…S20 是隐式的(implicit)有标记的焦点结构,在焦点成分上必须有重 音,即以焦点重读(focal stress)作为焦点标记;而S
21…(中略)…则是显 式的(explicit)有标记的焦点结构,由于用了“是”这种词汇手段作为焦点
5
袁(2003) : 事件句以及物动词作为与核心的句子为典型,记作 S
10:“S+Ad+V+O”
(出来事文は他動詞を文の核とした文が典型とされ、S
10:“S+Ad+V+O” と標記す
る。 )
5
标记,因而焦点成分可以不重读。…(中略)…从事件句派生出事态句的语 义动因是改变事件句的焦点结构;其中,比较明显的效应是去除了事件句中 宾语的焦点地位。这种事件句的事态化的语义后果,可以叫作宾语的去焦点 化(defocusation)。
3.2“ (是)……的”结构标记广焦点
上面讨论的…(中略)…这种焦点总是句法结构的某个成分,因而可以称 为窄焦点(narrow focus)。事实上, “ (是)……的”结构有时还可以用来标 记广焦点(broad focus),即以整个处于“ (是)……的”结构中的事件句为 焦点。…(中略)… 用以解释和申辩;…(中略)… 更正(correct)先 前的陈述。由于“ (是)……的”结构中整个陈述全是新信息,因而它们是 一种“句子焦点”(sentence focus) …(中略)… 在这里,“ (是)……
的”结构改变事件句的焦点结构的功能体现为:它把相应的谓语焦点(窄焦 点)结构改变为全句焦点(广焦点)结构。
(狭焦点:事件文のレギュラー的な焦点は目的語または連用修飾語であ るが、出来事文を状態文「S+Ad+V+O+的」に置き換えた後、焦点は主語また は連用修飾語である。
「S+Ad+V+O+的」構文は隠式(implicit)の焦点文型であり、談話において、
プロミネンスで焦点を表す。 「是+S+Ad+V+O+的」構文は顕式(explicit)の焦 点文型である。 「是+S+Ad+V+O+的」構文は「是」という語彙を以って焦点を 標識するため、音声上、プロミネンスを必要としない。出来事文から状態 文が派生される意味的な動機付けは出来事文の焦点位置を変更するためで ある。その焦点変更によって明らかに現れる効果は、目的語が焦点から外 されることであり、目的語の非焦点化(defocusation)と呼ばれる。
広焦点:上述の狭焦点は特定した文の一成分を焦点化するものである。
一方、「(是)……的」構文は広焦点を表すこともできる。「(是)……的」
構文の中の内容全体を焦点とするのである。解釈や言い訳をする時や、先 述の話の内容を訂正する場合に使われる。「(是)……的」構文に埋め込み された内容全体が新情報であり、これは「文焦点」だと考えられる。広焦 点を表す「 (是)……的」構文によって、出来事文のなかの述部(その一部)
を焦点とした構造を全体が焦点とした構造に換える。 )
袁(2003)は「是……的」構文が使われる意味的な動機付けを
説明できた。また、「是……的」構文が持っている「狭焦点」と
「広焦点」を示す機能をまとめた。しかし、「是……的」構文は どのような場合に「狭焦点」を表し、どのような場合に「広焦点」
を表すかについてのさらなる分析がなかった。本稿はその原因を 解明することに重点を置くことにする。
第 2 節 出現物の分類
筆者は修士論文の段階において、生産物が主語になる受動文を 論じる際、「是……的」構文に触れたことがあり、その今後課題 の展開として、本稿は数多い「是……的」構文の中から「生産物」
の延長線にある「出現物」が主語になる「是……的」構文を取り 上げ、その叙述の焦点がどこにあるかを解明することを目的とす る。まず、出現物に相当する「成事」に関する先行研究を下記に 要約する。
1.陳昌来(2002)
陳(2002)において、結果補語と紛れないように、本稿でいう ところの出現物を「成事」と名付けている。成事については、下 記のような定義が記述されている。
成事主要是句子语义结构中因施事者的动作行为所产生或所引发出的新的 事物或新的现象,是因施事的动作行为而形成或达成的新的客体。 (p7)
(成事とは、動作主の動作行為によって現れた新しい事物または新しい現 象、動作主の動作行為によって出来上がった新しい受け手
を指す。 )
陳(2002)の提議に基づけば、成事は「動作主の動作行為」が前 提となって存在する。しかし、陳(2002)の後文において、成事分 類には「自成成事」という種類が挙げられている。この「自成成事」
についての説明は―― “自然或自发生成的事物或产生的现象” ――
「自然発生によって現れる事物や現象」を指すというようになって いる。自然発生による出現物は動作主や動作主の動作行為が存在し ない。これは冒頭の「成事」の概念と矛盾が生じてしまう。
また、陳(2002)の成事分類は下記のようにまとめられている。
成 事 类
动 词 类
动词语义特征 动词价类
成事价语所属
标志是否 动词价 必有
语
结构体 价语 制成
成事 Va,
Vb 动作、自主、制作 二价 + - ±成类 认选
成事 Vc 动作、自主、认选 二价 + - ±出类 获取
成事
Vd1 动作、自主、获取 一价 - - ±到类 Vd2 同上 二价 - - ±到类
变成 成事
Ve1 动作/性状、±自
主、使变 二价 + - +成 Ve2 同上 二价
或一价 - + +成 Ve3 动作、自主、使变 二价 - + +成 形成
成事 Vf 动作、自主、致变 一价
或二价 - + +出类 自成
成事 Vh 性状、自主、破损 一价 - - ±出类 この分類は出現物全体を概括するためには、大変有用だと考える。
2.中右(1994)
中右(1994)でも、本稿の出現物に相当する「結果者」について の記述がある。
「結果者とは①動作主の行為の結果として、しかも②その行為から独立した存 在者として、新たに生み出されてくる実体のことをいう」 ( P318 )
中右(1994)の結果者に関する定義も動作主の行為を前提としてい る。本稿での出現物は自然発生に因るものも扱うため、中右(1994)
の定義の範囲を逸脱している。そこで、出現物の定義を決めなおす 必要がでてくる。本稿では、出現物を下記の如く定義する:
7
事象(複数の現象素によって構成される)が生起する時点で存在 しなかった物が、その事象構造のなかに出現した場合、その物を出 現物と名付ける。
本稿は陳(2003)の分類を大いに活用し、その再分類作業を通じ て、さらに分析を進める。また、事象構造の観点を導入することに より、出現物主語の「是……的」構文が焦点化する内容をより詳し く解明していく。
第二章 出現物が主語になる「是……的」構文の叙述 の焦点
第1節 製造物
1.陳(2002)の動詞分類に対する考察
動作主が出現物の出現を直接目的にし、生産に関わるある動作行 為を自主的に行った結果である。陳(2002)はこの類の出現物に関 わる動詞の例として、下記のようなものを挙げた。一部引用する。
括弧の中は筆者が付けた日本語訳及び説明である。
Va: 砌 (建てる) ,制作 (製作する) ,制造 (製造する) ,印刷 (印刷する) , 研制(研究、開発する) ,兴建(建てる) ,塑造(~像を立てる) ,试制(試作 する) ,生产(生産する)
(これらの動詞は多義語である場合もあるが、製造の意義特徴が 含まれたもののみが挙げられる)
これらの動詞に後続する目的語が表すものが「製造物」である。
2.事象構造の観点からの再考察
製造出現物の例は下記のようなもの(アンダーラインで示す)が 挙げられる。
砌墙(壁を立てる)
印刷传单(ビラを印刷する)
動詞のほかの格を補足すると、動作主(例えば、A 建築会社)と 材料(例えば、レンガ)を言語形式化することができる。
1―1
A建筑公司(動作主)用砖(受け手) 砌墙(出現物)
A 建築会社 レンガを用いて 壁を立てる
1―2 A 公司(動作主)用纸、墨(受け手)印刷传单(出現物)
A 会社 紙、墨を用いて ビラを印刷する
出現物を★印で表し、その事象構造(出来事全体)を下記のよう に表すことができる。もっとも長い矢印は時間軸を表し、そして、
点線は「変化なし」、時間軸以外の直線矢印は「時間軸に沿って変 化する」意味を表す。
平相 流相 異相 動作主の行為 時間軸
受け手の変化過程 始点 終点 出現物の出現 ★
動作主の行為と受け手の変化過程が同時に進行し、行為が終了す る時点で、受け手が出現物に変化する。注目すべきなのは出現物が 現れる起点(到着点)は受け手側にある。例えば、レンガで壁を立 てる作業において、立てる動作が終了する際、壁になった複数のレ ンガはもはや「レンガの固まり」として認識されず、全体で「壁」
というふうに認識されるようになる。
3. 「是……的」構文の叙述の焦点
この類の出現物を主語に取り上げ、必須格以外になるべくほかの 二次格要素(動作の時間や場所、やり方、条件、目的等)を付け加 えずに、文を「是……的」構文に言い換えてみる。多くの場合、日 本語の「のだ」構文が表す事象に対応させることができる。
1―3 墙是
A建筑公司砌(成)的。
壁は A 建築会社によって立てられた(のだ) 。 1―4 传单是
A公司印刷的。
ビラは A 会社によって印刷された(のだ) 。
形態上、過程を示すマーク「成」は必須ではない。むしろない方 が簡潔に見られる。「成」というマークによって、出来事の展開を 暗示することができるが、マークが非必須であることから、出来事 の展開過程は叙述の焦点ではないということが伺える。
9
「是……的」は動作主を焦点化していることを予想し、下記のよ うなリトマス形式で検証する。
是…動作主
A…的,不是…動作主 B…的1-5墙是
A建筑公司砌的,不是 B 公司砌的。
壁は A 建築会社によって立てられたのだ。B 会社によって 立てられたのではない。
1-6传单是
A公司印刷的,不是 B 公司印刷的。
ビラは A 会社によって印刷されたのだ。 B 会社によって印刷されたの ではない。
“不是” によって否定されたのは動作主の部分のみであることか ら、ここの「是……的」構文は動作主を焦点化していることが伺え る。
もう一つの証拠として、疑問文をリトマス形式として使用する。
疑問箇所を動作主において質問を発する場合、以下の構文を使 用することができる。
出現物 是谁(哪一方)+動詞……的?
1-7Q:墙是哪家建筑公司砌的?
A:墙是
A建筑公司砌的
Q:壁はどの建築会社が立てたの?
A:壁は A 建築会社が立てたのだ。
1-8Q:传单是谁(哪儿)印刷的?
A:传单是
A公司印刷的 Q:ビラは誰が印刷したの?
A:ビラは A 会社が印刷したのだ。
「是……的」構文において、疑問詞の「哪」「谁」という質疑に 答える内容こそ叙述の焦点化されているものである。これは袁 (2003)が指摘した狭焦点であると考えられる。狭焦点について、 「主 語または連用修飾語」(袁(2003))であるとの論述がある。この種 類の出現物を主語とする「是……的」構文は「主語」を叙述の狭焦 点としている。
上記の検証から「動作主」が焦点化されていることが裏付けら
11
れた。仮に「是……的」構文は「動作主」ではなく、「出来事のい きさつ」を焦点化しているならば、「是……的」構文に埋め込まれ たのは「事象叙述命題」
6である。益岡(1987)によると、事象叙 述命題は述語.補足語構造の形式をとるので、述語がその命題の中 心になる。その述語は「砌」や「印刷」のような生産義を持つ動詞 である。その焦点化の中身を平たく言えば、[「壁」は「立てる」
ことによってできた; 「ビラ」は「印刷する」ことによってできた」]
のようになってしまう。結局既知情報の繰り返しになるので、その 出現物の「製造」に直接関わる動詞を焦点化するのは意味がない。
これは動詞が出現物に対する直接支配関係(「成」、「出来」などの マークを必要としない)からも述語が焦点化されないことが分る。
無論、出来事のいきさつを焦点化することもできるが、情報の繰り 返しを回避するため、下記のような文脈の支えが必要になる。
1-9墙是最近(A建筑公司)砌(出来)的,不是原本有的。
1-10传单是(
A公司)印刷(出来)的,不是手画的。
上記のように、動作.行為を焦点化する場合、非焦点の動作主は なるべく背景化された方が自然である。しかも、違った動作行為を 両方表面化して、比較しない限り、動作.行為は叙述の焦点にされ にくい。
よって1-3、1-4の製造物出現物を主語に立て、必須格のみ で、「是……的」構文に書き換える場合、文の叙述の焦点は動作主 にある。
第 2 節 選抜や認定による出現物
1.陳(2002)の定義を引用する
动作行为的发出者主观认定或选定的直接结果,成事所指称得对象在动 作行为发生之前可能已存在,但经过认定或选定后有了新的含义或新的性 质,从而成为新事物。 (p9)
(動作主の主観的な認定と選抜の直接結果を指す。出現物の指示対象は
動作行為の前にすでに存在している可能性があるが、認定や選抜されるこ
6
事象叙述命題について詳しくは益岡(1987)を参照。
とによって、新しい性質を帯びるようになるため、新しい事物として見ら れる
)上記の定義の内「出現物の指示対象は動作行為の前にすでに存在 している可能性がある」との記述があるが、この「存在している可 能性がある」という言い方に問題がある。この類の出現物は「肩書 き」や「身分」のようなものが主である。肩書きを付けられる予定 の対象が事前に存在していなければ、認定や選抜のしようがないの で、対象は事前に存在しなければならない。よって「存在している 可能性がある」ではなく、「事前に存在している」とはっきり断定 すべきだと考えられる。
選抜や認定を意味する動詞は「推选(推薦する) ,认(義理の関 係を作る) ,评选(選抜) ,交(友達を作る) ,选(選ぶ) , 」などが 挙げられる。
選抜や認定による出現物の例は下記のようなもの(アンダーライ ンで示す)が挙げられる。
2-1 工人们推选了一个负责人。
労働者たちは責任者を選んだ。
2-2 职工们评选出了劳模。
職員たちは労働模範を選んだ。
2-3 他认了干妈。
彼は(ある人と義理の親子関係を結び)義理の母を持つようになった。
2-4 他交了个朋友。
彼は友達を作った。
2.事象構造の観点からの再考察
2-2~2-4の文が表す事象構造を下記のように図式化する。
平相 流相 異相
動作主の行為 始点 終点 時間軸 受け手の変化過程 ………→
出現物の出現
★
13
動作主の行為が進行している間に、受け手(選抜、認定の対象者)
は変化せずにいる。行為が終了する時点で、受け手の身に新たな「出 現物」――新しい性質や属性が現れる。第 1 節の製造物出現物と同 じく、出現物が現れる起点(到着点でもある)は受け手にある。例 えば、2-1の「責任者」を選抜する最中において、候補者はただ 単に結果待ちの状態であり、なんらの変化も見られない。選抜作業 終了後、責任者が発表される際、選ばれた者に新たに「責任者」と いう肩書きが身に付くようになる。
この類の出現物を主語に取り上げ、「是……的」構文に言い換え てみる。
2-4 负责人是工人们推选的。
責任者は労働者によって選ばれた。
2-5 劳模是职工们评选的。
労働模範は職員らによって選ばれた。
2-6 ?干妈是他认的。
2-7 干妈是他一厢情愿认的。
義理の母というのは彼が一方的にその関係を持たせた のだ。
2-8 ?这些朋友是他交的。
2-9 这些朋友是他上大学时交的。
これらの友達は彼が大学時代で知り合ったのだ。
2-6、2-8はそのままでは容認度が低いが、2-7、2-9の ように補足条件が付くと成立する。まず2-4、2-5は動作主を 焦点化していると予想し、第1節で使用したリトマス形式「是……
的,不是……的」構文でこの仮定を検証する。
2-10 负责人是工人们推选的,不是干部们推选的。
責任者は労働者によって選ばれたのだ。幹部らによって選ばれた
のではない。
2-11 劳模是职工们评选的,不是上级评选的。
労働模範は職員らによって選ばれたのだ。リーダーたちによって
選ばれたのではない。
2-12 *干妈是他认的,不是别人认的。
2-13 这干妈是他一厢情愿认的,不是人家愿意当的。
「義理の親子関係」という話は彼が一方的に持ち込んだのだ。 「義 理の母」の彼女が好きでなったのではない。
2-14 *这些朋友是他交的,不是别人交的。
2-15 这些朋友是他上大学时交的,不是工作后交的。
これらの友達は彼が大学時代で知り合ったのだ。社会人になって から知り合ったのではない。
2-10、2-11において、 “不是”によって否定されたのは 動作主の部分のみであることから、ここの「是……的」構文は動作 主を焦点化していることが伺える。
ところが、「认」(義理関係を結びつける)、「交」(友達を作る)
という動詞が表す行為は実行する者が出現物の指示対象と義理関 係、友情関係を持つようになるという特殊な意味特徴がある。 「认」
を例に分析する。「干妈」と言及する以上、誰の「干妈」であるか と言う情報が既知でなければならない、文脈で特に誰かの「干妈」
という情報がなければ、暗黙の瞭然で、一人称の「私」の「干妈」
になる。要するに、「干妈」という概念はその相互関係を持つ相手 が既定でなければならない、すなわち、旧情報である。「友達」に ついても同じことが言える。しかし2-6、2-8、2-12、2
-14の例文を見る限り、文を述べる前に、「干妈」と「朋友」を 指す人物と義理関係や友人関係を持つ者は新情報として扱われて いると伺える。これは「认干妈」「交朋友」という事象の現象素と 矛盾が生じてしまうため、2-6、2-8、2-12、2-14は 不成立と判定される。このような矛盾を解消するために、2-13、
2-15のように、付加語「一厢情愿」「他上大学时」をつけるこ とによって、叙述の焦点をほかの要素(付加語)に移すわけである。
袁(2003)が指摘した狭焦点であると考えられる。2-13、2-1 5の「是……的」構文は連用修飾語が表す内容を叙述の焦点(狭焦 点)にしていると考えられる。
次は疑問箇所を動作主において、質問を発することができるかど
15
うかを検証する。即ち、叙述焦点を動作主に置くことができるかど うかを検証するのである。以下のリトマス形式を使用する。
出現物 是谁(哪一方)+動詞……的?
2-16 Q:负责人是谁推选的?
A:负责人是工人们推选的。
Q:
責任者は誰が選んだの?
A: 責任者は労働者によって選ばれたのだ。
2-17 Q:劳模是谁评选的?
A: 劳模是职工们评选的 Q:労働模範は誰が選んだの?
A: 労働模範は職員らによって選ばれたのだ 2-18 *干妈是谁认的?
2-19 *这些朋友是谁交的?
2-16、2-17は問答式が成立するのに対し、2-18、2
-19の質問形式が容認されない。この検証結果から、「认」「交」
以外の認定、選抜動詞が関わる「出現物」主語文(「是……的」構 文) は動作主を焦点化していることが分かった。2-13、2-1 5の例文と照合し、 「认」 「交」が関わる「出現物」主語文は動作主 ではなく、付加語を焦点化していると予測される。下記の検証はそ の予測を裏付ける。
2-20 干妈是什么时候/在哪儿认的?
2-21 这些朋友是什么时候/哪儿交的?
「什么时候/在哪儿」 (いつ/どこ)などは動作行為の非必須格―
―付加語(時間、場所)の要素である。これらの要素なら、叙述の 焦点(狭焦点)にすることができる。
第3節行為の成果や評価獲得による出現物
1.陳(2002)の概説およびそれに対する考察
動作主の動作行為の出来ばえに応じて、付けられた順位や成績、
得られた収益などが挙げられる。
3-1他滑了第一名。
彼はスキーで第一位を獲得した。
3-2他考了100 分。
彼は試験で 100 点を取った。
3-3他卖了些零花钱。
彼は(古本を)売って小遣いを稼いだ。
成果獲得を表す出現物を後続させる動詞の例として、下記のよう なもの
7が挙げられた:
滑 (スキーをする) ,爬 (山を上る) ,考 (受験する) ,抢 (優勝を争う),赢 (勝 つ) ,跑(走る) ,卖(売る) ,挣(稼ぐ) ,争(優勝を争う) ,
2.事象構造の観点からの再考察
2.1 動作主と経験者について
3-1,3-2,3-3の出来事の要素を補足すると、下記のよ うなものが挙げられる。
3-4 他(滑雪)滑了第一名。
彼はスキーで第一位を獲得した。
3-5 他(考试)考了 100 分。
彼は受験して 100 点を取った。
3-6 他(卖旧书)卖了些零花钱。
彼は古本を売って小遣いを稼いだ。
その事象構造を下記のように表すことができる。
7
陳(2002)は、この種類の出現物に関わる動詞をさらに一価の Vd1 と二価 の Vd2 に分けた。Vd1 動詞はその出現物を支配することができない。例えば、
「滑了第一名」の「滑」は「第一名」を支配する動詞ではない。Vd2 動詞は他
動詞である、例えば「获得第一名」。Vd2 は元々存在するものの所有権を獲得
したという意味を持つ動詞で、出現物の出現と関わらない。本稿は Vd2 を考察
対象外とする。
平相 流相 異相 出現物の出現 ★
動作主の変化過程 ………経験者……→
動作主の行為 始点 終点 時間軸 受け手の変化過程 ( )
行為を表す動詞が支配する受け手が存在していようと、いないよ うと、存在するなら、変化しようと、しないようと、出現物主語文 の分析には影響がないと考えられる。なぜなら、出現物の宿る箇所 は動作主側にある。動作主の行為が終了した後、動作主の身に生じ た(宿る)出現物の出現によって、動作主の身分は経験者へと変換 してしまう。ここで中右(1994)の動作主と経験者の定義を引用す る:
動作主とは,自分とかかわる状況をみずから進んで変容させ,新しい事 態を作り出す実体のことをいう。
経験者とは,ある状況のなかに否応なく巻き込まれ,その状況を一身に 引き受ける実体のことをいう。 (p322)
中右(1994)の定義のもとで、「他」の成分分析を行う。例3-
1で説明すると、「他」(彼)は「滑雪」(スキーをする)の最中に おいては、自主的にスキーの自分の最高なる演技を行うことができ るが、演技終了後、得られる順位は彼の意志では決められず、試合 の全員のランク付けの結果で決まるわけである。無論、「彼」はよ い順位を獲得するため、最善な努力をすることができるが、試合終 了までには、必ずしも 1 位を獲得できるとは分からないのである。
よって、演技終了後の順位発表段階から、「彼」は動作者から経験 者へと身分が変わってしまう。後文でまた詳しく扱う。
2.2 「是……的」構文の叙述の焦点
行為の命題&経験の命題を表す中国語の事象を「是……的」構文 に言い換え、以下のごとくになる。
17
3-7这第一名是他滑雪滑来的。
この第一位は彼がスキー大会に参加して獲得したのだ。
3-8这 100 分是他(脚踏实地)考出来的
この 100 点は彼が(地道な努力を通じて)受験して取ったのだ。
3-9这些零花钱是他卖旧书卖来的。
これらの小遣いは彼が古本を売って稼いだのだ。
3-4、3-5、3-6で省略可能の括弧内の内容は3-7、3
-8、3-9の「是……的」構文に書き換える場合では、言語形式 化が義務付けられるようになった。上記の「是……的」構文におい て出来事のいきさつや原因が叙述の焦点とされるとの予想を立て る。これらの言語形式化された内容はまさに、獲得物を獲得する前 の段階の動作.行為の内容である。この仮定の上に立って、さらに
「是……的,不是……的」をリトマス形式として、焦点化された内 容が何であるかを再び検証する。
3-10?第一名是他滑的,不是我滑的。
3-11这第一名是他日积月累流血流汗滑雪滑来的,不是一朝一日说拿 就拿得来的。
この優勝は彼が(日々重ねてきた努力で)スキー大会で獲得し たのだ。そう簡単に手に入るようなものではない。
3-12?100 分是他考的,不是我考的。
3-13 这 100 分是他(下狠功夫脚踏实地)考出来的,不是作弊得来 的。
この百点は彼が(猛勉強を通して)しっかりと受験して得たの だ。カンニングして取ったのではない。
3-14?这些零钱是他卖的,不是我卖的。
3-15 这些零花钱是他卖旧书卖来的,不是爸爸给他的。
小遣いは彼が古本を売って稼いだのだ。父親からもらったの ではない。
上記の文を検証した結果から、いずれの「是……的」構文も焦点
化しているのは動作主ではなく、出来事の由来であるという予想が
19
正しいと考えられる。袁(2003)が指摘した「広焦点」であると考 えられる。 「 (是)……的」構文の中の内容全体を焦点とするのであ る。広焦点について、袁(2003)では、解釈や言い訳をする時や、
先述の話の内容を訂正する場合に使われるとの論述がある。ここの 獲得による出現物を主語とする「是……的」構文はその構造の中の どれかの成分を焦点化するのではなく、出現物の由来を解釈してい ると考えられ、広焦点を表していると見られる。
「是……的」構文も焦点化しているのは動作主ではないことを下 記のような反証法で証明することもできる。
反証法:仮に「这些零钱是他卖的」という文において、「他」が 焦点化されるという仮説を立てる。この仮説の下、3-14は成立 すると予想される。
3-14?这些零钱是他卖的,不是我卖的。
だが、事実、3-14は容認されない文である。次は3-14の不 成立の原因を詳しく検討することにする。
中右(1994)の空間の文法の観点を用いて、この文の不成立の 原因を探ることにする。
「这些零钱」は動詞フレーズのレベルでの統語特徴としての「獲得 による出現物」である。「卖」は直接に「这些零钱」を支配するこ とができないが、「这些零钱」と結合することによって、一時的に
「獲得」という意味特徴を付加される。「这些零钱」が「卖」とい う動詞とともに動詞フレーズをなしてからこそ、「卖」は獲得性動 詞として捉えられるようになる。「統語的獲得性動詞」と名づける ことにする。出現物と結合するという必須条件の元、生産性や獲得 性動詞の意味特徴を一時的に付加されるということである
8。この 場合、「獲得」という過程の強い意味特徴によって、出現物「这些 零钱」と結合した「卖」は過程述語である。出現物「这些零钱」の 出現段階において、「他」は「这些零钱」の内在的な場所(着点)
として捉えることができ経験者として扱われる。「这些零钱」の獲 得を経験するものになる。しかし、3-14のように、一定の動詞
8
一時付加義について、後文でまた詳しく取り上げる。
フレーズ(卖+这些零钱)が分解すると、 「这些零钱」の出現物と しての意味合いも、 「卖」の過程述語としての性質も失われてしま う。一方出現物 「这些零钱」 は獲得義を持った過程述語を要求する。
動詞フレーズ(卖+这些零钱) の分解によって、この要求に応じる ことができなくなる。この矛盾点があるため、3-14が不成立と 判断される。ゆえに、 「这些零钱是他卖的」という文において、 「他」
が焦点化されるという仮説は不成立と判断する。
事実、「这些零钱」の出現物としての意味特徴と「卖」の獲得と しての意味特徴を維持するために、下記のように表現しなければな らない。
3-9这些零花钱是他卖旧书卖来的。
3-9のような表現において、叙述の焦点はどの部分にあるかを判 断する際、下記の先行研究の論述は有用である。
動詞にとって、必須の成分と、そうでない成分が存在するときには、必 須でない成分のほうがフォーカスになるのが普通である(田窪行則
〈1987〉 )
ある部分をフォーカスにする場合、ほかの成分はなるべく付加し ないのが自然であろう。そこで、「他」という動作主兼経験者をフ ォーカスにしたい場合、 「是……的」の中に、 「卖旧书」のような付 加成分を付加するのは不自然である。
ここで、述語と補足語との意味的な結びつきを分析することにす る。 「卖」という述語に対して、 「動作主」の「他」は必須成分であ り、「卖旧书」という方式は非必須成分である。よって、3-9の 例文において、フォーカスされるのは「卖旧书」という方式を表す 付加成分である。即ち、出来事の成り行きをフォーカスすることだ と考えられる。
ゆえに、最初に「他」が焦点化されるという仮説は不成立である。
さらに、疑問文をリトマス形式として起用し、叙述焦点が出来事
の成り行きにあることを裏付けることにする。疑問箇所を評価の獲
得主において質問を発する場合、以下の構文を使用することができ
ない。
21
出現物 是……谁(哪一方)+動詞……的 (獲得主)
3-16?第一名是谁滑的?
3-17?100 分是谁考的?
3-18?这些零花钱是谁卖的?
「獲得したのは誰だ」ということを焦点化しようとするなら、文 の仕組みは下記のように変えなければならない:
3-19 Q:滑第一名的是谁?
A:滑第一名的是他。
Q:第一位を獲得したのは誰ですか?
A:獲得したのは彼です。
3-20 Q:考一百分的是谁?
A:考 100 分的是他。
Q:満点を取ったのは誰ですか?
A:満点を取ったのは彼です。
3-21 Q:卖这些零花钱的是谁?
A:卖这些零花钱的是他。
Q:(~を売って)小遣いを稼いだのは誰ですか。
A: (~を売って)小遣いを稼いだのは彼です。
上記の検証例から分かるように、「獲得主」を焦点化するには文 構造を変えて、「是」構文で表現しなければならない。その原因に ついて、後文で取り扱う。3-8、3-9、3-10に対応する質 問文は出来事の由来を尋ねる「……怎么……」の文型が適切である。
3-22A:这第一名是怎么得来的?
1位は(何の試合に参加し)どうやって獲得したの?
B: 这第一名是他滑雪滑来的
この第一位は彼がスキー大会に参加して獲得したのだ。
3-23A:这 100 分是怎么得来的?
満点はどうやって取ったの?
B: 这 100 分是他(脚踏实地)考出来的
この 100 点は彼が(地道な努力を通じて)受験して取ったのだ。
3-24A:这些零花钱是怎么来的?
これらのお小遣いはどうやって手に入ったの?
B: 这些零花钱是他卖旧书卖来的。
これらの小遣いは彼が古本を売って稼いだのだ。
上記のように、出来事の由来を焦点化する「……怎么……」とい う質問文こそ3-8、3-9、3-10に対応している。3-8、
3-9、3-10は出来事の由来を焦点化していることの裏づけに なる。
*一時的に付加された「獲得義」について
反証法のところで、一時的付加された「獲得義」についてすで に触れた。3-16~18が不成立で、3-19~3-20が成立 するのを分析するにも、この「一時的に付加された獲得義」がキー になる。疑問の箇所を「獲得主」において、質疑をする際、文の仕 組みが変わった。「是……的」構文から「是」構文に変わったので ある。なぜ文の仕組みを変えなければならないのかについてさらに 考察を行う。これらの動詞「滑」 (スキーをする)、 「考」 (試験を受 ける)、「卖」(売る)などはいずれも出現物を表す名詞を後続させ るときには、「生産」としての意味特徴の中の「獲得」義が一時的 に付加される。周知のように、「滑」 , 「卖」 , 「考」は後続する成分
「第一名」「100 分」「零花钱」を直接に支配することができない。
3-16~3~18はいずれも出現物を動詞から引き離したこと によって、獲得義が失われたと考えられる。3-16~3~18は あたかも、「第一名」「100 分」「零花钱」は事前に存在し、動作行 為の受け手であるように読み取れてしまう。これらが出現物である という事象の現象素と矛盾してしまう。出現物であるという内容を 維持するためには、出現物を表す名詞が動詞と単純に分離すること は許されない。
では、3-7~3-15の例文はどうして出現物と動詞が引き離
されているにもかかわらず成立するのだろう。これもまた一時的に
付加された「獲得義」と関わる問題である。3-7~3-15の文
は出来事の由来を説明するものなので、出来事のいきさつが言語化
23
されている: 「滑雪滑来的」 、 「脚踏实地考出来的」、 「卖旧书卖来的」
とある。すなわち、獲得の方式と獲得物との結びつきが明らかにさ れている。「滑雪」 , 「脚踏实地」 , 「卖旧书」は動作主段階の行為を 表すので、「滑」 , 「考」 , 「卖」の元々の語義がこれらの言語化され た内容によって表現され、もっぱら付加された「獲得義」を表すよ うになる。特に「滑雪滑来的」 , 「卖旧书卖来的」は同じ動詞の重複 現象が起きている。同じ動詞が意味分担することによって、付加義 の「獲得義」を維持することができたと考えられる。
上記の考察によって、この種の出現物の「是……的」構文におい て出来事のいきさつや原因が叙述の焦点にされるという仮定が裏 付けられることになる。
3.「命題」の観点から獲得を表すマークについての考察
陳(2002)がまとめた表には「标志是否必有」という欄(マー クは必須か)があり、成果獲得の出現物は「±到类」と非必須にな っているが、これは平述文の場合である。本稿では成果獲得出現物 主語の「是……的」構文を考察した結果、動詞の後ろには「出来」 、
「来」のようなマークが常につくことが分かった。以下3-7~3
-9を再掲することにする 3-7这第一名是他滑雪滑来的。
3-8这 100 分是他脚踏实地考出来的 3-9这些零花钱是他卖旧书卖来的。
方向性のあるこのマークが必須であることは基本命題の過程の 命題と、派生状況の経験の命題の特徴と一致する。中右(1994)は 下記のように、過程の命題についての記述がある。
過程の命題型:GO(THING,PLACE)
ただし(ⅰ)
THINGは
[+
change in existential mode]
(ⅱ)PLACE は[+directional]=
SOURCE,GOAL,PATH,DIRECTION,その組み合わせ(
P313)
3-7~3-9を命題で解釈すると、THING は出現物で、
PLACE
は動作主兼経験者である。出現物は動作主の身に現れ、そ
してその身に宿るものであるため、
PLACEは
SOURCEと
GOALの組み合わせである。PLACE は方向性を持つという性質を反映す るのに「来」 、 「出来」が付くようになると考えられる。ここで取り 上げる GO レベルの動詞は一時的に付加された「獲得義」の意義部 分を表すものである。過程命題型によって定式化してみると、
GO(THING,PLACE) 滑(第一名,他)
考(100 分,他)
卖(零花钱,他)
になる。だが、この一時的な付加義のみでは文を成立させることが できない。このレベルの命題において、「他」の資格は
PLACEで ある。下記のように、
他滑了第一名 他考了
100分 他卖了一些零花钱
PLACE
が主語の位置に現れうるのはもう一つの資格が必要にな
る。その資格とは「経験者」である。この獲得義を取り巻く派生的 なレベルの経験命題の枠が必要になる。
以上は述語に内在的な性質の反映である。次は構文を取り巻く要 因の相互作用の帰結となる派生状況について考察する。また中右
(1994)P321、P323 の命題型を起用することにする。
経験の命題型:HAVE(EXPERIENCER,BE/GO/DO)
BE/GO/DO(...Xi...)→HAVE(Xi,BE/GO/DO(...ei...))ただし次の三つの条件をともに満たしていなければならない。
(ⅰ)
Xの項は表層主語の項か表層間接目的語の項であること(統 語論的条件)
(ⅱ)
Xの項は内在的意味役割が〈場所〉とりわけ〈位置〉 〈着点〉
のいずれかであること(意味論的条件)
(ⅲ)
Xの項は語用論的知識によって経験者として解釈されるに
ふさわしい実体であること(語用論的条件)
25
HAVE(他
i,GO(第一名,e
i))
HAVE(他
i,GO(100 分, e
i)) HAVE(他
i,GO(零花钱, e
i))
X 項に当たる「他」は表層構造「他滑了第一名」 「他考了 100 分」
「他卖了一些零花钱」において、主語の項であるということは確か である。内在的な意味役割が抽象的な「場所」となり、獲得したも のの出現「場所」として見られる。着点としての性質を「出来」 ,
「来」などのマークによって現す。
着点としての役割は動作主兼経験者として実現している。経験者 の身分を持つことによって、3-7~9の「是……的」構文は出来 事の由来を叙述の焦点にしていることが分かる。
第4節 「変身」による出現物
1. 陳(2002)の定義に対する考察
この類の出現物をさらに「主体自变」 「客体被变」に分けた。
本稿はもっぱら「主体自変」のものを扱うことにする
9。
「主体自变」の定義と用例は下記のようになる。
主体自变:主体自变而成的成事有的是由施事变成的,动词是动作动词;
有的是由系事变成的,动词是非动作动词。 (p9)
(変化主体自らまたは自発的な変化し、出現物の指示対象に変わる。
関わる動詞は動作動詞と非動作動詞がある。 ) 4-1、4-2は「主体自变」の用例である。
4-1 清白色的烟气旋转成了一个圆筒。
9
「客体被変」は1の製造出現物と相似していると思われるが、陳(2002)の 論述は、マーク「成」が必須である点で、1の製造出現物と異なると主張する。
1の出現物の製造過程は「成功」の意味合いがあるのに対し、 「客体被変」の 過程は「結果的にそうなる」という意味合いがあるとのことである。事象の観 点で図式化してみると分かるように、「客体被変」に関する出来事の事象構造 は1の製造出現物と同じである。
よって、本稿は「客体被変」の部分を1の製造出現物の枠に収め、 「変身によ
る出現物」はもっぱら「主体自変」のものを扱うことにする。
白い煙が回転し筒になった。
4-2 那条鱼已在原地干缩成一个鱼干。
あの魚はその場で乾燥して縮み、魚干しになった。
2.事象構造の観点からの再考察
変化主体自らまたは自発的な変化し、出現物の指示対象に変わる。
下記のような用例が挙げられる。
4-1 清白色的烟气旋转成了一个圆筒 4-2 那条鱼已在原地干缩成一个鱼干
その出来事を下記のように図式化することができる。
平相 流相 異相 出現物の出現 ★
変化主体の変化過程 始点 終点 時間軸
変化主体の変化過程が終了する時点で、変化主体が消失し、新た な出現物が出現することが図から分かる。出現物は変化主体に取り 代わり、その存在場所を占領すると考えられる。
3.「是……的」構文の叙述の焦点
この種類の出現物を下記のように「是……的」構文に言い換える。
4-3 圆筒是那股清白色的烟气旋转而成的。
筒はさっきの白い煙が回転してなったのだ。
4-4 鱼干是那条鱼在原地干缩成的。
魚干しはさっきの魚がその場で乾燥し縮んだのだ。
いずれも「成」というマークが必須である。これらの 「是……的」
構文は「事情の由来、原因」を焦点化すると予想し、さらに下記の ようなリトマス形式で検証することができる。
是……的,不是……的
4-5 ?圆筒是那股清白色的烟气旋转的,不是别的烟气旋转的。
27
4-6 圆筒是那股清白色的烟气旋转成的,不是原本存在的。
筒はさっきの白い煙が回転してなったのだ。もともと存在して いたのではない。
4-7 ?鱼干是那条鱼干缩的,不是别的鱼干缩的。
4-8 鱼干是那条鱼干在原地干缩成的,不是机器加工成的。
魚干しはさっきの魚がその場で乾燥し縮んだのだ。機械で加工 したのではない。
否定された部分は肯定文の部分的な成分(例えば変化主体)では なく、出来事全体の由来やいきさつである。上記の文を検証した結 果、いずれの「是……的」構文も出来事の由来を焦点化しているこ とが分かった。そして、出現物を意味する「成」というマークが必 須であることも伺える。「成」というマークは後文でまた取り上げ ることにする。
仮に、この種類の「是……的」構文は変化主体を叙述の焦点にす るならば、この「是……的」構文は下記の質問に対応できるはずで ある。出現物の源は何物かということについて質疑する際、下記の リトマス形式を起用する。
出現物 是……什么+動詞……的 4-9 ?Q:圆筒是什么旋转成的?
A:圆筒是那股清白色的烟气旋转的 4-10 ?Q:鱼干是什么东西干缩成的?
A:鱼干是那条鱼干在原地干缩成的。
検証の結果、上記のような質問と回答の組み合わせは容認度が低 いことが分かった。しかし、次のように質問の形式を換えると、違 和感が解消される。
4-11 Q:圆筒是什么变来的?(筒は何ものから変化してきたの?)
A:圆筒是那股清白色的烟气旋转的
4-12Q:鱼干是什么东西变来的? (干し魚は何から変化してきたの?)
A:鱼干是那条鱼干在原地干缩成的。
注目すべきなのは動詞の部分である。何者からの変身だという大
まかな情報は既知であるが、変身による出現物の源が未知情報であ るならば、変化過程も未知情報になる。なぜなら、変化過程が終了 するまでに、源となる事物が確認できるからである。4-9、4-
10は源について質疑するのに、変化過程を表す動詞が出現し、矛 盾点が生じるため、不自然な文となる
10。変化過程も未知情報であ ることを記すために、変化過程の動詞を「变」という普遍な意味を 持つもので代用するなら、容認度が高くなる。事実、4-3、4-
4のような文を答えとする質問文は下記のようになる 4-13 圆筒是怎么变来的/圆筒是哪儿来的?
4-14 鱼干是怎么变来的/鱼干是哪儿来的?
以上の質問文と対応する4-3、4-4を照合すると、4-3、
4-4において、源となるものも、変化過程も含めての情報が叙述 の焦点にされることが裏づけられたと考えられる。この種類の出現 物を主語とする「是……的」構文は広焦点を現していると考えられ る。
また、「成」というマークも、この種の「是……的」構文が出来 事の由来を焦点化している現れの一つと考えられる。以下は過程の 命題の観点から、「成」というマークについて考察する。
第3節の行為の成果や評価獲得による出現物に関わる動詞は一時 的に「獲得」の意味特徴を付加されることができるが、第4節の変 身による出現物に関わる動詞は出現としての意味特徴を付加され ることができない。変身の過程を表す動詞に「出現」という意味特 徴を補うがため、「成」というマークなどが必須となる。
「主体自変」の命題はまさにこの過程の命題に当てはまる。THING が変化主体で、変化過程の GOAL は新たに現れる出現物である。過 程命題型によって定式化してみると、
GO(THING,PLACE)
GO(烟气,成(圆筒))
10
聞き返しの場合は成立する。A:圆筒是那股清白色的烟气旋转成的。 B:
什么?圆筒是什么旋转成的?
29
GO(鱼,成(鱼干
11))
のようになる。
ここで[+directional]の条件を表すのは「成」というマークであ る。方向性のマークが必須であることも過程の命題であることを裏 づけている。過程命題の観点で分析してみると、「成」は「变成」
という意味として捕らえ、 「GO」に相当する。 「旋转」 , 「干缩」は「GO」
を修飾、説明するというような見方もできると筆者は考えている。
この修飾.説明関係が成立を認めた上で、 4-13,4-14のよ うな質問文において、主動詞として「变」の出現や「状語」成分の
「怎么」の起用を解釈することができる。GO――「变」の過程はど のようになっているのか、「怎么」によって質疑するというわけで ある。よって、4-3、4-4の出現物主語の「是……的」構文は 出来事の由来を焦点化していると考えられる。
第 5 節 随伴出現物
1.陳(2002)定義に対する考察
陳(2002)はこの種の出現物を「形成的成事」と名づけ、下記の ように定義している:
动作行为过程中会形成或出现某种不是动词所直接支配的预期的或意外的 结果。
(動詞が直接支配できない予想とおりにまたは予想外に、動作行為の中に 出現した結果。)
第 3 節の成果や評価獲得による出現物と区別するためには、「動 作主がその出現物の獲得を目的としない」というポイントを定義で 明記する必要があると考えられる。
「動作主がその出現物の獲得を目的としない動作行為の後に出現 し、動詞が直接支配できない結果としての物事」を随伴出現物とい
11