本稿は「が」・「の」主語分裂(Subject Split)が現代日本語の獲得過程で現れることがあることを明らかに する。「が」・「の」の発達過程はおおよそ次のようにまとめられる。まず「の」が現れ当初動作主役割との強 い結びつきを示す内在格的な性格を持ち、加えて対比を表すとりたて詞の性質を併せ持つ。少し遅れて「が」
が現れ動作主以外の主語、特に主題をマークするようになる。以降「が」が勢力範囲を拡大する一方、「の」
はやがて姿を消す。「が」は動作主を含めたより一般的な場合のマーカーとなり、構造格としての「主格」に つながっていく。ゼロ格(既存の単純な形式)では表しきれない意味を表す必要性から有形格(新形式)が生 じると仮定し、「が」・「の」がまずとりたて詞として獲得される可能性を示唆する。主語分裂を導く2種類の 独立した主語性の存在と主語分裂と関連した能格性についても触れる。
日本語の獲得過程で現れる主語標識の分裂
Subject Split in the Acquisition of Japanese
鈴 木 猛
Takeru SUZUKI
英語学・英米文学・文化研究* 要旨
*Department of English Linguistics and English-American Literature
鈴木:日本語の獲得過程で現れる主語標識の分裂
―59―