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丁医大誌 48(4):492〜494,1990
一過性に複数の突発性異常脳波を呈した Anorexia Nervosaの一例
A Case of Anorexia Nervosa that Showed Transiently Paroxysmal Discharges on the EEG
東京医科大学霞ケ浦病院神経科
河北英詮 池内憲夫 富里
彌内田
訓Anorexia nervosa(A.N.)は,近年,社会文化的
影響を背景に,学童期から青年後期,さらには男性 層にまで及んでいる.その原因については心身両病
態から多くの報告がなされている.今回,私達は典型的なA.N.の症例について,脳
萎縮像が回復,過食多食に移行した時期に一過性に,興味ある特発異常脳波を示した症例を経験したので
報告する.1.症 例
■「女15歳.
主訴=うつ状態るい痩.
家族歴:父母,姉,母方祖母の5人家族.痙攣性
疾患や精神障害の遺伝二三はない.生活歴および既往歴 幼児学童期を通じ,祖母の 影響を受け,また父親に厳しく躾けられた.初潮は 11歳6カ月,性格は真面目,神経質,我儘,頑固,完
全癖,強迫傾向.現病歴:昭和62年秋,周りの人に「]■匿ちゃん は,水泳を止めてから肥ったわね」と言われてから 極端なダイエットを始め,隠れて食べるようになっ た.翌63年1月より抑うつ,不登校,リストカット などがあった.この頃,ダイエットのため23kgま で痩せて入院した拒食症患者の記事を読み,ダイエ ットを1時中止した.当時30kgであった.体重は 増加したが,なお抑うつはつづいた.昭和63年3月,
当神経科を受診,抑うつ状態(HRS,42点)で体重 は42kg,脳波所見は正常であった.抗うつ剤の投 与により1時軽快したが通院を中断,再びダイエッ
トを始めた.週2〜3回下剤を使用,るい痩も目立ち,同年10月,転倒,顔面等打撲,頸部に皮下気腫発生,
ド コ
翌日,昭和63年10月■Ll当神経科に入院した.身 長156.5cm,体重29 kg,標準体重の約45%の体 重減少であった.四肢,背面にうぶ毛が密生,両下 肢に浮腫があり,月経も停止していた.抑うつ,身 体像の障害,肥満嫌悪とやせ願望,父親嫌悪,活動 性の充進を認めた.スルピリド等の投与により次第 に体重も増加し快方に向かった.しかし同年12月頃 より不安焦燥感抑うつ状態となり,2回のリストカ ット,頻回にわたる性急な外出外泊などを繰り返し
た.翌平成元年!月頃より,1時気分の高揚,抑うつ,過食多食を認めたが,これが治まりかけた1月■Ei!
の脳波所見は後述のように顕著な異常波であった.
しかし臨床症状も全体に改善され元年1月 1,入 院3カ月目,体重48kgで退院,通院となったが,間 もなく正常に回復した.なお入院時より約1カ月間 にわたり低蛋白血漿,肝機能障害像,低カリウム血 漿,貧血を認めた.またCT所見(図5)は入院初
期に脳室拡大などはなく,軽度脳萎縮像を認めたが,後期の所見は全く正常であった.
脳波所見二昭和63年3月1」の初診当時(42
kg)の脳波は全く正常であった.10月■日の入院
(1990年3月3日受付,1990年3月14日受理)
Key words:神経性食欲不振症(anorexia nervosa),突発異常脳波(paroxysmal discharge on EEG)
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1990年7月 河北他3名:一過性に複数の突発性異常脳波を呈したAnorexia Nervosaの一例 一493一
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図1炉座先行3〜5Hz徐波群発
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図2前頭・後頭部の棋歴波を伴った4〜5Hz蛙掛群発
図3後頭部の小棘波(光刺激)
当時29kgあった体重も次第に増加.翌平成元年1 月 の脳波所見は,当時体重45kg,過食,躁か
らうつ状態へ,また既にCT上脳萎縮像(図4)は 正常に復した時期であった.図1は棘波が先行する 3〜5Hzの御暦群発波である.図2は前頭後部に小 棘波を伴った4〜5Hzの徐波群発波であるが過呼 吸および安静時に頻回に出現した.図3は光刺激後 の後頭部の小面波である.2週間後の2月 の検 査では軽眠時に3・4Hz智略群が1回出現.更に38 日後の3月 の検査では全く正常に回復してい た.抗てんかん剤は全く使用しなかった.
考 察
本症の脳波異常出現頻度は約半数以上に認め,こ れら異常脳波のうち突発異常波の出現頻度は17%1)
図4S63.11.24(左) H1.1.13(右)
OMライン 90 mm(上),80 mm(下)
21%2)75%3)90%4)100%5)と報告者により可成の差
異がある.突発異常波型1)〜7)は14&6Hz二三,棘 波,棘磁波複合,徐波群発,6Hz棘徐々,鋭波の順
に認められた.また著者の報告を含め,同一の症例
で複数の突発異常波を示す症例5)・7)も報告されている.14&6Hz陽性棘波,特に6Hz棘徐波(phan−
tom)が注目されている5).下田8)は14&6Hz陽 性棘波を波型により4型に分類し,第III型をこれ に当てている.一般に,この縦波型が自律神経系の 機能異常に関連して出現することから,間脳・脳幹 およびその近接領域からの異常放電とする考えが多 い.北川ら6)は6・7Hz棘愁心複合4例,うち1例
にphantom総勢波複合,14&6Hz陽性棘波を1例に,喜多村ら5)の症例4,5は自然睡眠により6
Hz踏青波が誘発され,うち1例は他に5・6Hz棘(2)
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東京医科大学雑誌
第48巻第4号徐波群発波を伴っている.また児玉ら3)や野沢ら4)
の症例においても14&6Hz棘波および6Hz棘徐
波をはじめ,不規則な棘徐波複合,徐波群発波,小 棘波,鋭波が,主として誘発により出現している.野 沢ら4)は特に後頭優位のsmall spikeが高頻度に 出現することに注目し,positive spikeが深部の異 常を表しているとすれば,negative spikeはより浅 い部位の障害,特に自律神経系や情動に関与する大 脳辺縁系の異常を表現していると推定している.本 症の突発異常波は賦活,特に睡眠によって出現する
症例が多く,その必要性が強調されている3)4)5).著者らの症例では後頭部位の小棘波をはじめ頻回にわ たる小棘波を伴った4・5Hzおよび3〜5 Hzの徐波 群発および3〜7Hzの徐波群発など多彩な異常波 を認めた.これら所見はCT上脳萎縮像が回復した 後で,体重も45kgと増加途上にあった.しかしこ の1時期が躁からうつに移行,かっ過食多食の時期 であったことは,野沢ら4)によるanorexia typeよ
りbulimia typeに遙かに異常脳波出現が多いとす る報告と併せ考えると興味深い.いずれにしろ本症
の神経生理的病因を14&6Hz棘波および6Hz棘徐波などの出現から間脳・脳幹に求める事も重要で あるが,むしろ大脳皮質,および辺縁系を含めた脳 全体の機能障害から把握すべきであると考える.
文 献
1) Nell, J.F., Merlkangas, J.R., Foster, F.G. et al:
Warking and all night EEG s in anorexia nervosa,
clin Electroencephal 11: 9 v15, 1980
2)Crisp, A且, Fenton, G.W.&Scotton, L.:A controlled study of the EEG in anorexia nervosa.
Brit J Psychiat 114: 1149r−1160, 1968
3)児玉 久,石津 宏,中原俊夫他:神経性無食欲症で
認められた異常脳波について.臨床脳波22:7!9
・m−748, 1980
4)野沢胤美,赤間立枝,柴芝良昌他:神経性食欲不振症
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r−757, 1984
5)喜多村雄至,宮内利郎,岩井浩一他:神経性食欲不振 症の脳波学的検討(第三報).横浜医学31:431〜437,
1980
6)北川達也,松村 孝,芦田 泰他:中枢性障害に基づ くるい痩の6例一臨床的,脳波学的検討を中心にし て一.自律神経8:232〜239,1970
7)一ノ渡尚道,武田敏伸,羽部 仁他:高度るい痩時期 に一過性に複数の突発性異常波が現れたA.N.の一
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8)下田叉季雄:脳幹一脳幹性疾患とはなにか,その広
義心身症における意義について一.心身医9=210
r−223, 1969
(別刷請求先:〒300−03稲敷郡阿見町中央3−20−1 東京医科大学霞ケ浦病院神経科 河北英詮)
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