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循 環 器 病 の 診 断 と 治 療 に 関 するガイドライン(2010 年 度 合 同 研 究 班 報 告 ) 5. 治 療 の 適 応 はじめに 心 室 内 伝 導 障 害 の 心 電 図 診 断 電 気 生 理 検 査 の 適 応 電 気

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(1)

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010 年度合同研究班報告)

臨床心臓電気生理検査に関するガイドライン

(2011年改訂版)

Guidelines for Clinical Cardiac Electrophysiologic Studies(JCS 2011)

改訂にあたって……… 3 Ⅰ.電気生理検査に必要な設備,技術,知識……… 4 1.はじめに ……… 4 2.機材および設備 ……… 4 3.技術と知識 ……… 5 4.放射線被ばく ……… 7 Ⅱ.洞結節機能……… 8 1.はじめに ……… 8 2.電気生理検査の適応 ……… 8 3.電気生理検査の方法 ……… 9 4.臨床的意義 ………10 5.判断基準 ………10 6.治療の適応 ………10 Ⅲ.房室ブロック………11 1.はじめに ………11 2.電気生理検査の適応 ………11 3.電気生理検査の方法 ………11 4.臨床的意義および判断基準 ………12

目  次

合同研究班参加学会:日本循環器学会,日本小児循環器学会,日本心臓病学会,日本心電学会,日本不整脈学会 班 長 小 川   聡 国際医療福祉大学三田病院 班 員 相 澤 義 房 立川メデイカルセンター 青 沼 和 隆 筑波大学大学院人間科学総合科学研究 科循環器内科学 家 坂 義 人 土浦協同病院循環器内科 石 川 利 之 横浜市立大学附属病院循環器内科 井 上   博 富山大学大学院医学薬学研究部内科学第二 奥 村   謙 弘前大学大学院医学研究科循環呼吸腎 臓内科学 加 藤 貴 雄 日本医科大学内科学 鎌 倉 史 郎 国立循環器病研究センター心臓血管内科 熊 谷 浩一郎 福岡山王病院ハートリズムセンター 栗 田 隆 志 近畿大学医学部循環器内科 小坂井 嘉 夫 千里中央病院心臓血管外科 小 林 洋 一 昭和大学医学部内科学講座循環器内科学部門 庄 田 守 男 東京女子医科大学循環器内科 杉     薫 東邦大学医療センター大橋病院循環器内科 住 友 直 方 日本大学医学部小児科学系小児科学分野 高 月 誠 司 慶應義塾大学医学部循環器内科 高 柳   寛 獨協医科大学越谷病院循環器内科 中 里 祐 二 順天堂大学医学部附属浦安病院循環器内科 平 井 真 理 名古屋大学医学部保健学科 渡 辺 一 郎 日本大学医学部内科学系循環器内科分野 協力員 岩 佐   篤 新東京病院循環器科  大 西   哲 NTT 東日本関東病院循環器内科 久 賀 圭 祐 筑波大学大学院人間総合科学研究科 循環器内科 小 林 義 典 東海大学医学部八王子病院循環器内科 里 見 和 浩 国立循環器病研究センター心臓血管内科 丹 野   郁 昭和大学医学部内科学講座循環器内科 学部門 池 主 雅 臣 新潟大学医学部保健学科 永 瀬   聡 岡山大学大学院医歯学総合研究科循環器内科 藤 木   明 静岡赤十字病院循環器科 安 田 正 之 順天堂大学循環器内科学 (構成員の所属は2011年8月現在)

(2)

5.治療の適応 ………13 Ⅳ.脚枝ブロックおよび心室内伝導障害………13 1.はじめに ………13 2.心室内伝導障害の心電図診断 ………14 3.電気生理検査の適応 ………14 4.電気生理検査の方法 ………14 5.臨床的意義 ………15 6.判断基準 ………15 Ⅴ.早期興奮症候群………15 1.はじめに ………15 2.電気生理検査の適応 ………18 3.電気生理検査の方法 ………19 4.臨床的意義 ………20 Ⅵ.房室回帰性頻拍以外の上室頻拍………20 1.はじめに ………20 2.房室結節リエントリ性頻拍 ………21 3.心房頻拍 ………22 4.洞房結節リエントリ性頻拍 ………23 Ⅶ.心房粗動………23 1.はじめに ………23 2.電気生理検査の臨床的意義 ………23 3.電気生理検査の適応 ………24 4.電気生理検査の方法 ………25 Ⅷ.心房細動………26 1.電気生理検査の臨床的意義と適応 ………26 2.心房細動起源の同定 ………27 3.肺静脈マッピング ………27 4. 心房細動の維持に関与する不整脈基質に関連した 電気生理検査 ………28 Ⅸ.心室期外収縮………28 1.はじめに ………28 2.電気生理検査の適応 ………29 3.電気生理検査の方法 ………29 4.臨床的意義 ………29 Ⅹ.非持続性心室頻拍………30 1.はじめに ………30 2.電気生理検査の適応 ………30 3.電気生理検査の方法 ………31 4.臨床的意義 ………31 5.治療の適応 ………32 ⅩⅠ.持続性心室頻拍 ………32 1.定義と機序 ………32 2.持続性心室頻拍の分類 ………32 3.電気生理検査の目的 ………33 4.電気生理検査の方法 ………33 ⅩⅡ.Brugada症候群………35 1.はじめに ………35 2.心電図分類と診断基準 ………35 3.電気生理検査の適応 ………36 4.電気生理検査の実際とその判断基準 ………37 ⅩⅢ.特発性心室細動………37 1.右室流出路起源VTから誘発される特発性心室細動 …38 2.早期再分極症候群 ………38

3.Short coupled variant of torsade de pointes ………39

4.QT短縮症候群 ………39 5.何ら心電図異常を認めない特発性心室細動 …………40 ⅩⅣ.QT延長症候群 ………40 1.はじめに ………40 2.電気生理検査の適応 ………40 3.臨床的意義 ………40 4.治療の適応 ………41 ⅩⅤ.器質的心疾患に伴う心室細動 ………41 1.はじめに ………41 2.電気生理検査の適応 ………41 3.電気生理検査の方法 ………42 4.臨床的意義 ………42 5.判断基準 ………42 6.治療の適応 ………42 ⅩⅥ.原因不明の失神 ………42 1.はじめに ………42 2.失神の出現頻度 ………43 3.失神の分類 ………43 4.失神の予後 ………43 5.失神の診断 ………43 6.電気生理検査の適応 ………45 7.電気生理検査の方法 ………46 8.電気生理検査の臨床的意義 ………46 9.電気生理検査の判断基準 ………47 10.治療の適応 ………47 ⅩⅦ.心肺蘇生後の患者………47 1.はじめに ………47 2.電気生理検査の役割 ………47 ⅩⅧ.抗不整脈薬の治療効果判定 ………48 1.はじめに ………48 2. 徐脈性不整脈に対する抗不整脈薬効果の判定の ための電気生理検査 ………48 3. 徐脈性不整脈に対する抗不整脈薬効果の評価の ための電気生理検査の適応 ………49 4. 頻脈性不整脈に対する抗不整脈薬効果の判定の ための電気生理検査 ………49 5. 頻脈性不整脈に対する抗不整脈薬効果の評価の ための電気生理検査の適応 ………51 ⅩⅨ.不整脈の外科的治療法 ………51 1.はじめに ………51 2.電気生理検査の適応 ………52 3.疾患別各論 ………52 4.まとめ ………55 ⅩⅩ.小児の不整脈 ………55 1.はじめに ………55 2.電気生理検査の適応 ………56 3.方法 ………56 4.臨床的意義 ………56 5.判断基準 ………56 6.治療の適応 ………57 ⅩⅩⅠ.心臓再同期療法 ………58 1.はじめに ………58 2.電気生理検査の適応 ………58 3.電気生理検査の方法 ………58

(3)

4.臨床的意義 ………58 5.判断基準 ………58 6.治療の適応 ………59 ⅩⅩⅡ.心臓ペースメーカ植込み ………59 1.はじめに ………59 2.電気生理検査の適応 ………60 ⅩⅩⅢ.アブレーション ………60 1.はじめに ………60 2.アブレーションを前提とした電気生理検査の目的 …60 3.WPW症候群 ………61 4.房室結節リエントリ頻拍(AVNRT) ………61 5.心房頻拍 ………62 6.心房細動 ………62 7.心室頻拍 ………63 8.心室細動 ………63 文 献………64 (無断転載を禁ずる)  カテーテルアブレーション,植込み型除細動器(

ICD

), 心臓再同期療法(

CRT

)等,近年の不整脈非薬物療法の 進歩は,これまでの重症不整脈の治療戦略を大きく変え てきた.しかし一方では,これらの治療法が侵襲的であ るがゆえに,適応決定にあたっては短期的,長期的効果 を含めて十分な検証が求められる.また,突然死に対す る一次予防策としての

ICD/CRT

の適応拡大が欧米の大 規模臨床試験成績から推奨される状況にあって,的確な リスク層別化に基づく適応決定が以前にも増して求めら れている.  臨床電気生理検査は,古くは

1969

年の

Scherlag

らの

His

束電位記録法の確立に始まり,洞結節機能や房室伝 導特性の評価で一世を風靡した.その後,

His

束電位記 録に加えて,早期刺激法の導入が不整脈の発生機序の解 明に計り知れない貢献をし,抗不整脈薬の薬効の検証法 としても臨床的意義が確立されて来た.さらには不整脈 発生源の同定等への応用がアブレーション治療の導入へ とつながっていった.  こうした経緯を踏まえ,

2004–2005

年度合同研究班(山 口厳班長)報告として「臨床心臓電気生理検査に関する ガイドライン」が

2006

年に発表され,不整脈の診断, 治療法の決定,予後の判定に心臓電気生理検査をいかに 利用するかの指針となってきた.今回は

5

年ごとに見直 されるガイドラインの「部分改訂」として,新たに研究 班が組織され,

1

年間をかけて改訂作業を行ってきた. 今回の改訂にあたって留意した点は,(

1

)並行して策定 が進んでいる「不整脈の非薬物治療ガイドライン」,「カ テーテルアブレーションの適応と手技」の進捗状況を見 ながら,本ガイドラインに記載する内容との整合性の確 認,重複回避に努める,(

2

)執筆者は旧版に準じるが, 交代した班員の代わりにはその項目に造詣の深い先生に 新たな執筆者になっていただく,(

3

5

年の歳月で疾患 概念の変遷があって,診断,治療への考え方が変わった 領域については大幅な加筆,修正を加えたことである. 特に(

3

)については,「心室細動」の項で,近年,早期 再分極症候群や

QT

短縮症候群等の新しい概念が加わっ た「特発性心室細動」の項目を新設し,「器質的心疾患 にともなう心室細動」と区別させ,また,

Brugada

症候 群のように,多くの新しいデータベースの集積にもかか わらず,依然として治療方針決定のための臨床電気生理 検査の意義に結論が出ないままであるため,著者は変更 となったものの概ね旧版のままの適応基準が残された項 もある.また,慢性心房細動に対するアブレーション適 応が増している状況で,焼灼部位の同定のための電気生 理検査の適応も変遷しており,同じ著者が加筆している.  検査を実施するための適応基準(クラス分類)は旧版 で採用されている方式に準じて改訂を加えた.ただし, エビデンス不足により必ずしも合意の得られていない点 については,班員間で議論を加えた上で現時点での考え 方を載せることにしたが,今後さらに改訂が必要になる こともあり得る.  日進月歩の領域において

5

年ごとに改訂するガイドラ インに,何処までの内容を盛り込むかの選択には難しさ がある.あくまでも現時点で,不整脈・心臓電気生理の 第一線で活躍されている班員の英知を結集した内容であ ることを留意した上でご利用いただければ幸いである.

改訂にあたって

(4)

電気生理検査に必要な

設備,技術,知識

1

はじめに

 心臓電気生理検査を行うにあたって,必要と考えられ る設備,技術および知識についてまとめる1)

2

機材および設備

(表1)2)

1

電極カテーテル

 電極カテーテルには多くの種類があるが,基本的な機 能は心腔内電位の記録と心筋の電気的刺激である.  成人に使用する電極カテーテルの太さは通常

5

7F

であり,電極数は

2

極から

20

極のものを用いる.細い カテーテルは細い血管から挿入可能であるが,トルクが 伝達しにくく,操作性は太いカテーテルに比べて劣る. 電極間距離は

5

10mm

の等間隔のもの,双極電極の間 隔が

2

10mm

,それぞれの双極の電極間が

2

10mm

のもの等,種々ある.電極の間隔が広がれば広範囲の心 筋電位が記録されるが,局在性の診断は難しくなる.間 隔が狭ければ,より限局された部位の電気現象が反映さ れる.カテーテルの素材によりトルク性,柔軟性,屈曲 性が異なる.最近の電極カテーテルは先端のカーブが可 動性(

steerable

)であるものが多く,操作性は向上して いる.また内腔の空いている電極カテーテルもあり,ガ イドワイヤーを通したり,圧測定,造影等に利用したり することが可能である.様々な使用目的に応じて適切な 電極カテーテルを選択する.  その他特殊なものとして,ヘイローカテーテル

Halo

catheter

(三尖弁輪電位マッピング用カテーテル)は, 心房粗動のアブレーションに際して三尖弁輪の興奮旋回 の 方 向 を 明 ら か に で き る. ラ ッ ソ カ テ ー テ ル

Lasso

catheter

(電極がついた先端の部分が投げ縄様になって いる)は肺静脈入口部の電位を記録するために考案され たもので,心房細動の肺静脈起源を明らかにするために 用いられる.バスケットカテーテルは心内に球形のカテ ーテルを展開するタイプで,バスケットはそれぞれ

8

10

極の電極のついた

5

8

本のスプラインを有する.バ スケットカテーテルによる多点同時電位マッピングは異 所性興奮の発生部位決定に有用である.

2

X 線装置

 電極カテーテルの挿入および操作には

X

線透視が必 要で,心臓血管造影室で行われる.術者が電極カテーテ ルを操作するには,透視画面と心腔内電位のモニター画 面を同時に確認できることが必要である.また,電極カ テーテルの操作に詳細な立体的位置の把握が必要な場合 が多いので,

biplane

透視が望ましい.

3

記録装置

 心腔内電位の記録には,フィルターにより周波数帯を 選択し,増幅器により電位の大きさを調整する.

His

束 電位を含め心腔内電位記録には,通常

30Hz

から

500Hz

のバンドパスフィルターを用いる.  電位を直接記録紙に記録する場合には,時間分解能と して

10msec

の精度が必須であり,少なくとも

100mm/s

の紙送り速度が必要である.ハードディスク,磁気記録 装置,データレコーダー等に記録を保存しておけば,後 日再検討が可能である.  徐脈性不整脈に対する電気生理検査に必要な記録装置 のチャネル数は,体表面心電図Ⅰ,

aVF

V

1の

3

誘導, 心内電位記録は心房,

His

束と心室電位の

3

か所の,合 表 1 電気生理検査に必須な設備 設   備 内   容 X 線透視装置 (通常の心臓カテーテルに使用する 一般的設備) 二方向のシネ透視ができるとアームの移動の手間がなくアブレーションに有用 記録装置および電位モニター テープやディスクにデータを記録する.モニター電位は見やすく工夫する 刺激装置 期外刺激,連続刺激が可能なプログラム刺激装置,出力端子は 2か所以上あることが望ましい アブレーション装置 通電時の温度,パワーの設定ができる.通電中の温度とインピーダンスの変化を観察できる 除細動器 心室細動,心房細動の除細動に必要 体外ペーシング装置 一時的ペーシングに必要 緊急蘇生用器材 挿管,アンビュウバッグ,救急薬品等

(5)

6

チャネルで十分である.しかし,頻脈性不整脈が対 象となる場合は,心腔内電位と同時に体表面

12

誘導心 電図の記録が出来るのが望ましい.誘発された頻拍と自 然発作を対比することができて便利かつ有用である.  電気生理検査専用の記録装置の多くは,多チャネル記 録を

A/D

変換しハードディスクおよび光ディスクに保 存するシステムであり,近年の記録装置のハードウェア はパソコンあるいはワークステーションで,記録,表示, 解析はソフトウェアを利用して行うものがほとんどであ る.同時記録のチャネル数は

30

以上から,さらに

120

を超える装置もある.

 最近では,

electroanatomical mapping system

のように カテーテルにより記録される電気現象と解剖学的位置を 同時に解析することにより,三次元的に興奮時相を表示 する

activation map

,電位波高を表示する

voltage map

が利用できる3).この目的には,多電極アレイ・カテー

テルを用い,電極が心内膜面と接触しなくても解析可能 なシステム(

non-contact mapping system

)も利用される.

また上記システムと

CT

画像を用いて三次元マッピング の精度をより高くする工夫もなされている.

4

刺激装置

 電気生理検査では,心房・心室各所に対するプログラ ム刺激が行われる.プログラム刺激では,連続刺激およ び単発~

3

連発までの期外刺激が行われる.刺激の間隔, パルス数,刺激パルスの強さと幅がプログラム可能であ り,刺激出力部位を複数設定できる装置が望ましい.期 外刺激の連結期の調節は手動で変更する以外に,自動で あらかじめプログラムできる装置もある.  洞周期よりわずかに短い周期で一定の幅の刺激パルス (通常は

2msec

)を加えて,心筋が興奮する最小の刺激 強度を閾値という.電圧か電流の強度で表示する.通常 は刺激閾値の

2

倍の出力で刺激を行う.洞調律において 各種の伝導時間の測定を行った後に,目的によって心房 連続刺激,心房期外刺激,心室連続刺激,心室期外刺激 を行う.刺激部位は必要に応じて,心房(右房,左房) および心室(右室心尖部,右室傍

His

束領域,右室流出路, 左室等)から選択する.房室伝導能の評価,不応期の測 定,頻拍性不整脈の誘発および停止,徐脈性不整脈の誘 発等を行う.一般に,刺激のプロトコールを強化(連続 刺激の頻度の増加,期外刺激の連結期の短縮)すれば臨 床的な不整脈も誘発されやすくなるが(感度が増加), 非臨床的な不整脈も誘発されやすくなる(特異度が低 下).したがって,症例および目的とする不整脈によって, どのような刺激プロトコールを行うか考慮する必要があ る.

5

スタッフ

 術者の他,助手,除細動・静注薬の投与・人工呼吸, 等の患者管理(医師),記録装置・刺激装置の操作(医 師あるいは臨床工学士),全身管理の担当(医師,看護 師等),

X

線透視装置等の操作(放射線技師)を行うス タッフが必要である.検査の標的となる不整脈,患者の 状態等によって異なるが,医師は

2

4

名が必要である. スタッフはあらゆる緊急事態,合併症に対応できる技術 と知識を有していることが必要である(表2)2)

3

技術と知識

 電気生理検査を実施するにあたって必要と考えられる 技術と知識をまとめた(表3,4).欧米では習得に必要 な最低限のトレーニングに関して勧告もなされている4) 我が国では,植込み型除細動器および心臓再同期療法に ついては研修制度があるが,電気生理検査については認 表 2 電気生理学的検査に必要なスタッフ スタッフ 内   容 医   師 術者,助手,刺激装置の操作および記録装置の 操作,患者の管理等 看 護 師 カテーテルの準備,介助等 放射線技師 X 線透視装置の操作等 臨床工学士 記録装置の操作,ペーシングの補助等 表 3 電気生理検査に必要な技術 •経皮的に血管を通した右心系,左心系への電極カテーテル の挿入(内圧測定法,冠動脈造影法,心室造影法等も含める) •挿入した電極カテーテルの目標部位への安全な移動操作 (His 束領域,冠静脈洞,流出路,弁輪部等) •心腔内の電位記録とプログラム刺激法による伝導時間と不 応期測定,頻拍の誘発と停止,旋回路のマッピング •合併症の認識と対処 •体外式除細動の使用法 •抗不整脈薬の使用法 •静脈麻酔法 •救急処置 表 4 電気生理検査に必要な知識 •適応と禁忌 •合併症 •心腔内電位の解析 •心臓プログラム刺激 •各種不整脈の特徴と電気生理検査の意義 •頻拍回路・機序の同定方法 •抗不整脈薬の作用機序 •アブレーション •電気的安全性や放射線被ばくに関する認識 •直流除細動

(6)

定制度がない(現在,制度化に向けた作業が進められて いる).

1

カテーテル挿入と操作

 心臓の各部位に電極カテーテルを挿入するためには, 様々な血管経路と穿刺部位等の特徴を理解しておく必要 がある(表5).

2

検査のための心臓電気生理学

①伝導時間  心臓の電気生理検査が

His

束電位の記録から始まった5) ことには,房室伝導時間の測定という目的があった.体 表 面 心 電 図 で も

RR

間 隔,

P

波 幅,

PQ

時 間,

QRS

幅,

QT

時間の測定がなされるが,それらに加えて電気生理 検査では

AH

時間,

HV

時間が測定できる(図1).

AH

時間は

His

束領域の心房興奮から

His

束電位までの時間 で,主に房室結節の伝導時間に依存する.

HV

時間は

His

束から体表面心電図

QRS

波の開始までの時間で,

His

束,脚,

Purkinje

線維,心室に至る経路全体の伝導 時間を反映する. ②不応期  心筋活動電位の特徴は第

2

相のプラトー相が存在する ことである.そのため一度興奮した心筋細胞は再分極相 に至るまで再度興奮できない状態となり,これが不応期 にあたる.この不応期の測定は心房や心室に対する電気 生理検査でしばしば行われる.  不応期は通常基本刺激の間隔(

S

1

S

1)に依存するため, 一定の間隔の基本刺激を

8

発行い,最後に早期刺激(

S

2) を加える方法が用いられる(図

1

上).

S

1,

S

2による心 房興奮は

A

1,

A

2,心室興奮は

V

1,

V

2と表記する.早期 刺激で心房や心室を興奮させることができない最大の刺 激 間 隔(

S

1

S

2) を 刺 激 部 位 の 有 効 不 応 期(

ERP

effective refractory period

)と呼ぶ.

 心房から心室への伝導路(主に房室結節)の有効不応 期の測定も頻繁に行われる.この場合には機能的不応期 (

FRP; functional refractory period

)も測定される.房室 結節の

FRP

は,心室への伝導が生じる最小の

H

1

H

2間隔 (

HV

伝導時間が一定の場合には

V

1

V

2で代用される)で ある.  

ERP

FRP

の測定は房室伝導曲線を描くと理解しや すい(図

1

下).横軸は

A

1

A

2間隔を,縦軸は

H

1

H

2間隔を 表わす.最初は

A

1

A

2の短縮と一致して

H

1

H

2が短縮する が,次第に

H

1

H

2の短縮の程度が減少し,

ERP

の直前の

A

1

A

2では逆にそれまでより延長する.これは

A

2の早期 性が増すにしたがって

A

2

H

2時間がより延長する性質(減 衰伝導)を示すことによる.

3

不整脈の診断と治療

 機序が判明していない頻拍発作に対しては誘発試験を 行う.通常は,期外刺激法を用いて不応期に至るまで刺 激間隔を短縮して行く.頻拍が誘発された場合には,頻 拍周期よりわずかに短い周期で連続刺激を加えエントレ インメントを試みる.リエントリ機序を診断すると同時 に頻拍回路の同定に有用である.

4

合併症と救急処置

 救急用薬剤,補助呼吸装置,除細動器等が必要である. 表 5 カテーテルの到達部位と穿刺経路 部位 到達経路 穿刺部位 右房 上・下大静脈 すべての静脈 His束 右心系 左心系(大動脈弁基部) 大腿静脈大腿動脈 冠静脈洞 上・下大静脈 前腕静脈 鎖骨下静脈 内頸静脈 大腿静脈 左房 経心房中隔 逆行性 大腿静脈(右)大腿動脈 右室 上・下大静脈 すべての静脈 左室 逆行性(経大動脈弁) 経心房中隔 大腿動脈大腿静脈(右) 図1 伝導時間と不応期の測定 Atrium AV node His bundle Ventricle A1 S1 S1 S1 S2 H1 V1 A1 H1 V1 A1 H1 V1 A2 H2 V2

ERP: effective refractory period 有効不応期 FRP: functional refractory period 機能的不応期

H 1 H 2 A1A2 ERP FRP

(7)

電気生理検査とアブレーションにおける合併症の種類と 頻度を表6および表7にまとめた6),7)

4

放射線被ばく

 循環器診療における放射線被ばくに関するガイドライ ン10)が本学会から公表されているので参考にされたい.  電気生理検査では透視に伴い患者,術者ばかりではな く検査室にいるその他のスタッフに放射線被ばくが起こ りうる.検査時間が長くなる場合には,被ばく線量が多 くなる.一般に電気生理検査での総透視時間は

10

分を 超えることはまれで,電気生理検査(心房細動以外のア ブレーションを含む)では冠動脈造影に比べ放射線被ば く線量は低く11),心房細動アブレーションの被ばく線量 は冠動脈インターベンションと同程度である12)

1

患者の被ばく

①皮膚の障害  

X

線が背部から照射されるので,背中の皮膚の紅斑~ 壊死が問題となる10).皮膚の放射線障害発生の閾値は

2Gy

であり,汎用されている透視装置ではおおよそ

60

分間の透視で皮膚の吸収線量が

2Gy

になる13).一般に 電気生理検査のみでは総透視時間は

10

分程度のことが 多く,この閾値に達することはまずない.  皮膚の変化(紅斑等)は早期のものは数時間で発現す るが,

2

3

週間後に発現するものがあるので10),13)

2Gy

以上の照射を受けた場合には

1

ヵ月後に背中の皮膚 の状態について調べる.電気生理検査を繰り返す場合に は,皮膚障害のリスクが高くなるので注意する13) ②内臓の障害  最も被ばく線量の多い臓器は肺である13).晩期の放射 線障害として発癌のリスクがあり,

60

分の透視で生涯 の致死性悪性腫瘍の発生は

0.03

0.06

%増える13).あ るいは

1,000

人あたり

1

人という推測もあるが12),電気 生理検査のみでは総透視時間が少ないのでこのリスクは 小さい.

2

スタッフの被ばく

 

X

線照射野ばかりではなく,患者の体内を通過する際 に

X

線があらゆる方向に散乱する結果,検査室内にいる スタッフが被ばくすることになる.斜位の場合には

X

線 管側にいる術者の被ばくが増える.被ばく量は距離が増 すにつれて指数関数的に減少するので13),患者やX線管 から離れることで被ばく量を減らすことができる.  障害としては白内障,甲状腺機能低下,白血球減少, 生殖器官への影響等が問題となる.プロテクター(背中 も覆うタイプ)を着用し,術者はネックガード,ゴーグ ルも着用する.カテーテル操作中はできるだけ手や腕を 直接照射しないよう注意する.

3

透視時の被ばく線量を減らす対策

 表 8に掲げる対策により患者,スタッフの被ばく線量 を軽減するよう努める. 表 6 電気生理検査の合併症(文献8より改変引用) 合併症 発生頻度(対象 1,000 例) 死     亡 1(0.1 %) 動 脈 損 傷 4(0.4 %) 血 栓 性 静 脈 炎 6(0.6 %) 著 明 な 血 腫 2(0.2 %) 動 脈 塞 栓 1(0.1 %) 肺  塞  栓 3(0.3 %) 心 臓 穿 孔 2(0.2 %) 低  血  圧 20(2.0 %) 表7 副伝導路のカテーテルアブレーション例における合併症 (文献9より改変引用) 合併症 発生頻度(対象 5,247 例) 死     亡 4(0.08 %) 心タンポナーデ 7(0.13 %) 心 嚢 水 貯 留 10(0.19 %) 脳塞栓,一過性脳虚血発作 8(0.15 %) 大 動 脈 弁 穿 孔 4(0.08 %) 僧 帽 弁 損 傷 2(0.04 %) 冠 動 脈 の 損 傷 3(0.06 %) 穿刺部位の大出血や血管損傷 3(0.06 %) 完全房室ブロック 9(0.17 %) 表 8 被ばく放射線を減らす対策(文献12より改変引用) •機器   パルス照射   画像収集レートを下げる(15フレーム/秒)   最終イメージ提示   非透視機器(CARTO,Ensite Navx等)の利用 •術者の対応   透視野を絞る   透視時間を減らす(間欠的透視)   拡大透視を避ける   イメージ増倍管を患者に近づける   X線管は患者から離す •スタッフの防護対策   プロテクター   ネックガード,ゴーグル   直接照射野に身体を入れない   含鉛アクリル板

(8)

洞結節機能

1

はじめに

 洞結節機能は,洞結節固有の自動能,周囲の洞房接合 部の伝導能および洞結節に対する自律神経,の

3

者の影 響を受ける.自動能は,洞結節内のペースメーカ細胞の 自発的な脱分極に起源を有し,通常は他の伝導系より脱 分極頻度が高いことにより,心臓全体の歩調取りとなる. 洞結節に生じた自発的興奮は,洞房接合部を介して周辺 の心房へ興奮が伝導する.  洞結節の自動能や洞房伝導能の障害による徐脈が原因 で,失神,眼前暗黒感等の中枢神経症状を呈するものが 洞不全症候群(洞結節機能不全)であり,ペースメーカ 植込み症例の約半数を占める.  洞結節電位が体表面からは記録できないことにより, 洞結節機能評価は,心電図,ホルター心電図等を用いて 非侵襲的に行われる.  洞結節自動能の亢進による洞頻度の増加は交感神経緊 張,発熱,甲状腺機能亢進症および不適切洞頻脈(

IST;

inappropriate sinus tachycardia

)等で認められる.

1

分類

 洞不全症候群は,(

1

)持続性洞徐脈,(

2

)洞停止ある いは洞房ブロック,(

3

)徐脈頻脈症候群,の

3

つの病型 に分類される14)

2

原因

 これら洞結節機能不全は,洞結節細胞の減少・組織の 線維化,等の病理学的変化を基盤に発生し,慢性的に進 行性に経過する.洞結節あるいは洞房伝導領域自体の機 能障害により生じる内因性機能障害と,洞結節機能に対 する自律神経系の調節障害,あるいは他の疾患に対する 薬物治療によって生じる外因性機能障害とに分類され る.

3

診断

 洞徐脈と症状との関連を証明することが重要である. 心電図で徐脈と症状との関連が証明されるものにおいて は一般に電気生理検査による洞結節機能評価の適応にな らない(表9).洞結節機能不全が疑われるもので心電 図所見と症状との関連が明らかでないときには,ホルタ ー心電図,モニター心電図等の長時間記録による非侵襲 的な検査が行われるが,それでも明らかでない場合には, 電気生理検査による洞結節機能評価(洞結節回復時間, 洞房伝導時間,固有心拍数)を行うことが有効である. 電気生理検査では,洞結節機能評価に加えて上室性頻脈 性不整脈の有無,房室伝導障害の有無,室房逆行伝導の 有無等についても検討し,治療方針,薬物選択あるいは ペースメーカ治療におけるペーシングモード決定の参考 とする必要がある.

2

電気生理検査の適応

 失神,めまい,眼前暗黒感等の原因が洞結節機能不全 にあることが疑われるが,徐脈と症状の関連が心電図, ホルター心電図等の非侵襲的検査では証明できない場 合,電気生理検査の適応となる.徐脈と症状との関連が 心電図,ホルター心電図等の非侵襲的検査によって証明 され,他に房室伝導障害あるいは頻拍症等の合併がない 患者や,無症状の洞性徐脈では,一般に電気生理検査の 必要性は低いと考えられる.  さらに,診断に難渋する原因不明の失神例に対して, 左前胸部に小切開を加え,ループ式心電図記録計を皮下 表 9 洞結節機能に対する電気生理検査の適応 クラスⅠ  1. 失神,めまい,眼前暗黒感等の症状を有する洞結節機 能不全で,症状との関連が心電図,ホルター心電図等 の非侵襲的検査では証明できない患者 クラスⅡ a  1. 失神,めまい,眼前暗黒感等の症状を有する洞結節機 能不全で,症状との関連が心電図,ホルター心電図等 の非侵襲的検査によって証明されており,他に房室伝 導障害あるいは頻拍症等を合併する患者  2. 徐脈頻脈症候群で頻脈に対する必要不可欠な薬剤によ り徐脈の悪化を来たす患者  3. 無症状の洞機能不全で洞機能不全を増悪させるおそれ のある薬剤の投与が必要な場合 クラスⅡ b  1. 失神,めまい,眼前暗黒感等の症状を有する洞結節機 能不全で,症状との関連が心電図,ホルター心電図等 の非侵襲的な検査によって証明されており,その原因 が他の疾患に対する薬物治療の影響であることが疑わ れる患者  2. 洞結節機能不全が疑われる患者で,抗不整脈の投与に より,洞結節機能の低下が顕在化できると考えられる もの クラスⅢ  1. 失神,めまい,眼前暗黒感等の症状を有する洞結節機 能不全で,症状との関連が心電図,ホルター心電図等 の非侵襲的検査によって証明され,他に房室伝導障害 あるいは頻拍症等を合併していない患者  2.無症状の洞性徐脈

(9)

に植え込む極めて侵襲の少ない方法により失神時の心電 図記録を行う方法も導入され,詳細な検討が可能となっ ている.  房室ブロックも含めた「徐脈性不整脈」に対する電気 生理検査の適応については,「不整脈の非薬物治療ガイ ドライン」に記載されている15)

3

電気生理検査の方法

 通常は,高位右房,

His

束部,右室心尖部に

4

極電極 カテーテルを置き,プログラム刺激装置によりペーシン グおよび記録を行う.心血管系,洞結節機能,自律神経 系に影響を与える薬剤は,術前半減期の

5

倍以上前に中 止しておく16)

1

洞結節回復時間

(SNRT; sinus node recovery time)

 洞結節近傍の高位右房に置いた電極カテーテルから洞

調律の頻度よりも速い頻度(約

10

心拍

/

分速い頻度から

開始して,

20

心拍

/

分ずつ

200

心拍

/

分まで増加させる)

で,

30

秒間ペーシングを行うことにより洞結節自動能

の 抑 制(

overdrive suppression test

) を 行 い,

overdrive

の最後の刺激による心房波から最初の洞性心房波出現ま での時間を,洞結節回復時間(

sinus node recovery time;

SNRT

)とする17).種々のレートにおける測定値の最長

の値をその症例の

SNRT

とする.

2

修 正 洞 結 節 回 復 時 間(CSNRT;

corrected sinus node recovery time)

 洞周期(

SCL; sinus cycle length

)による影響を除去す るために修正洞結節回復時間(

CSNRT; corrected sinus

node recovery time

)を測定する.

SNRT

から

SCL

を減じ て(

CSNRT

SNRT

SCL

)求める18)

3

洞房伝導時間

(SACT; sinoatrial conduction time)

①心房連続刺激法(Narula 法)

 基本洞調律より約

10

心拍

/

分速い頻度で連続

8

拍のペ ーシングを行うことにより洞周期は持続的にリセットさ れるため,ペーシング停止後の回復洞周期(ペーシング によって生じた最後の心房波[

A

1]と最初の洞結節興 奮によって生じた心房波[

A

2])の間隔)は,逆行性の 洞房伝導時間(心房→洞結節)と,基本洞周期(

SCL

)と, 順行性の洞房伝導時間(洞結節→心房)の合計になる19) すなわち,

A

1

A

2間隔=[心房→洞結節への伝導時間] +

SCL

+[洞結節→心房への伝導時間].したがって,

A

1

A

2間隔-

SCL

=[心房→洞結節への伝導時間]+[洞 結 節 → 心 房 へ の 伝 導 時 間 ] が 往 復 の 洞 房 伝 導 時 間 (

SACT

)となる.

②心房早期刺激法(Strauss 法)

 洞調律周期のおいて十分に早期の心房期外刺激(

A

2) を加えると,

A

2は洞結節が自発興奮する前に洞結節を 脱分極させるので,洞周期がリセットされる.

A

2とそ の後の最初の洞結節興奮による心房興奮(

A

3)間隔は, [

A

2

A

3間隔]=[心房→洞結節への伝導時間]+

SCL

+ [洞結節→心房への伝導時間]となる.すなわち,

A

2

A

3 間隔-

SCL

=[心房→洞結節への伝導時間]+[洞結 節→心房への伝導時間]  この式から,心房連続刺激法(

Narula

法)と同様に往 復の洞房伝導時間(

SACT

)が求められる20)

4

薬理学的自律神経遮断法

(pharmacologic autonomic blockade)

 硫酸アトロピン

0.04mg/kg

およびプロプラノロール

0.2mg/kg

の静注により薬理学的に自律神経が遮断され て,自律神経の影響を除去した洞結節固有の機能が評価

される21).自律神経遮断後の心拍数を,固有心拍数

intrinsic heart rate; IHR

)とする.

5

(sinus node electrogram; SNE)

洞結節電位直接記録法

 電極カテーテルを上大静脈と右房の接合部後方に置い て,感度を上げてフィルターを直流レベルから

50Hz

に セットする.洞結節電位は,

P

波に先行する緩徐な電位 として記録される22)

6

洞房伝導時間直接測定法

 洞結節電位の

upstroke

の立ち上がりから,

P

波の開始 点までの時間を直接法による

SACT

とする23),24)

7

洞結節不応期

(sinus node refractoriness)

 心房期外刺激の連結期を短縮させることにより,洞結 節の不応期にあたると,

A

1

A

3間隔は洞周期に一致する.

この連結期を洞結節不応期(

sinus node refractoriness

) とする25)

(10)

4

臨床的意義

 洞結節機能検査のなかで最も有効であり,広く行われ ている検査は,(修正)洞結節回復時間である26)-28).し かし,持続性洞徐脈の症例では,洞結節回復時間が高度 の延長は示さないこともあり29),30).(修正)洞結節回復 時間の延長は,洞不全症候群の

35

93

%で認められ る18),30),31)

Overdrive suppression

の機序には不明な点も ある32)が,ペーシング後の洞周期の延長は洞結節自動能 の抑制を反映する.むしろ,長い洞停止の機序は主とし て洞房ブロックであるとの報告もある33),34).徐脈頻脈 症候群において臨床的に認められる心房細動停止後の洞 停止時間と,洞結節回復時間との間には,相関が認めら れるとの報告35),36)と,相関関係を否定する報告がある37)  洞不全症候群の

40

%に,洞房伝導時間の延長が認め られる38)が,持続性洞徐脈の症例では,ほとんど延長を 示さない39),40).したがって,洞房伝導時間測定の感度 は高いとはいえない37),38).洞房ブロックあるいは徐脈 頻脈症候群では,

78

%の症例で洞房伝導時間の延長を 示す30).単に洞房伝導時間が延長しているだけで,臨床 的に明らかな症状を伴う洞房ブロックがない症例におけ る臨床上の意義は不明である.   薬 理 学 的 自 律 神 経 遮 断(

pharmacologic autonomic

blockade

)法は,内因性の洞結節機能障害を明らかにす ることが可能であり,洞結節機能評価の感度を上げるこ とができると考えられている39)  洞結節電位記録の臨床的意義は確定されていないが35) 洞結節電位の記録により

overdrive

による洞結節回復時 間の延長が,自動能の抑制であるのか,洞房伝導の抑制 であるのかの鑑別に有用である40)

 洞結節不応期(

sinus node refractoriness

)の臨床的意 義については確立していない.

5

判断基準

 下記に,洞結節機能の各指標の判断基準を示す.

1

洞結節回復時間(SNRT)

 正常値は,基本洞周期(

sinus cycle length; SCL

)によ って影響されるが,おおよそ

1,500msec

未満である30),41)

2

修正洞結節回復時間(CSNRT)

 

SCL

による影響を除去したものが

CSNRT

であり,正

常値は

550msec

未満である30),37).高頻度ペーシング

overdrive suppression test

)によっても,必ずしも洞機 能不全が明らかにならない例もある.特に徐脈頻脈症候 群における心房細動停止後の長い洞停止時間と,

SNRT

CSNRT

)との間に相関が認められないことがある.

3

洞房伝導時間(SACT)

 心房連続刺激法(

Narula

法)と心房早期刺激法(

Strauss

法)で測定された

SACT

はほぼ一致する19).洞結節電位 直接記録法による

SACT

は,正常洞結節機能例では

46

116msec

,洞不全症候群では

110

126msec

以上であ る24).直接法による

SACT

は,

Strauss

法および

Narula

法による

SACT

と良好な相関を示す.

4

固有心拍数(intrinsic heart rate; IHR)

 正常値は,(

118.1

-年齢)×

0.57

の±

14

%(

45

歳未満) あるいは±

18

%(

45

歳以上)である.固有心拍数が正 常値未満である例は「内因性洞結節機能障害」と判定さ れ,正常値にある例は「自律神経調節障害」と判定され る21)

5

洞結節不応期

(sinus node refractoriness)

 洞結節不応期は正常例では

250

380msec

であり,洞 不全症候群では

500

550msec

で有意差が認められる25)

6

治療の適応

 前記の判断基準の正常値から逸脱する異常値を示した 例のすべてが,ペースメーカ植込み等の治療を必要とす るわけではない.洞結節機能検査はあくまでもその異常 値と症状との関連が証明されることによって初めて,ペ ースメーカ植込みの適応決定の有効な手段となる.治療, 特にペースメーカ植込みの適応における電気生理検査に よる洞結節機能検査値の評価は,施設によって異なって おり,ペースメーカ植込みの適否と予後との関連の追跡 調査研究が困難であるために,現在までエビデンスとし て確立されたものはない.

(11)

房室ブロック

1

はじめに

1

房室ブロックの定義

 房室ブロックとは,心房から心室へ刺激が伝達される 際に,刺激伝導系のいずれかの部位(房室結節,

His

束,

His-Purkinje

系)において,伝導の遅延または途絶が認 められるもの,と定義される.

2

房室ブロックの原因

 先天性と後天性に大別される.先天性では修正大血管 転位や心室中隔欠損を伴う心奇形等に合併することが多 い.後天性では伝導系を含む心筋の虚血,炎症,変性, 外傷等が原因になる.後天性房室ブロックは,一般に加 齢に伴う変性,線維化等の,いわゆる特発性ともいうべ き原因の明らかでないものが多い.その他,二次的なも のとして,虚血性心疾患,心筋症,心筋炎,薬剤性,膠 原病,サルコイドーシスに伴うもの等が挙げられる42)

3

房室ブロックの分類

 房室ブロックは重症度に基づいて以下のように分類さ れる.  第

1

度房室ブロック:

PR

時間が

0.20

秒以上に延長  第

2

度房室ブロック    

a

Wenckebach

型ブロック(

Mobitz

Ⅰ型)     

PR

間隔が漸次延長して房室ブロックが出現し, ブロック回復後の

PR

    間隔がブロック直前の

PR

間隔よりも短縮する 周期を繰り返す    

b

Mobitz

Ⅱ型ブロック     

PR

間隔の延長を伴わずに突然房室ブロックが 出現する    

c

2

1

房室ブロック     房室伝導比が

2

1

のブロック    

d

.高度房室ブロック     房室伝導比が

3

1

以上のブロック  第

3

度(完全)房室ブロック     房室伝導が完全に途絶し,房室解離を示す  

His

束心電図におけるブロック部位に基づいて以下の ように分類される.   

1

AH

His

束上)ブロック    房室結節内の伝導遅延もしくは伝導途絶   

2

BH

His

束内)ブロック    

His

束内の伝導遅延もしくは伝導途絶   

3

HV

His

束下)ブロック    

His

束遠位部以下の伝導遅延もしくは伝導途絶

2

電気生理検査の適応

 失神,めまい等の原因として房室ブロックが疑われる ものの因果関係が不明な場合は電気生理検査の適応とな る.また房室ブロックでペースメーカ植込みがなされた 症例で,その後も失神,めまい等の症状があり,その原 因として他の不整脈が疑われる場合も適応となる(表 10).  洞不全症候群も含めた「徐脈性不整脈」に対する電気 生理検査の適応については,「不整脈の非薬物治療ガイ ドライン」に記載されている15)

3

電気生理検査の方法

 ブロック部位の診断をはじめ,不応期測定,下位中枢 の安定性評価および潜在性ブロックの誘発を行う43)

1

His 束電位図記録

 

His

束電位を記録することにより,刺激伝導系の各部 表 10 房室ブロックに対する電気生理検査の適応 クラスⅠ  1. 失神,めまい,眼前暗黒感等の症状の原因として房室 ブロックが疑われるが因果関係が不明な場合  2. 第2度もしくは3度房室ブロックに対してペースメーカ が植込まれた症例で,ペースメーカ治療後も失神,め まい,眼前暗黒感等の症状が存在し,その原因として 他の不整脈が疑われる場合 クラスⅡ a  1. ペースメーカの適応のある房室ブロック症例で洞結節 機能の評価が必要な場合  2. MobitzⅡ型第2度房室ブロック・3度房室ブロックおよ び 2枝または3枝ブロックの症例でブロック部位の同定 および洞結節機能の評価が必要な場合 クラスⅡ b  1. 無症状の房室ブロックで伝導障害を悪化させるおそれ のある薬剤の投与が必要な場合 クラスⅢ  1. 失神,めまい,眼前暗黒感等の症状と房室ブロックと の関連が心電図で明らかにされている場合  2. 症状のない1度房室ブロック,Wenckebach型第2度房 室ブロック

(12)

位における伝導時間測定と伝導遅延・途絶部位の診断を 行う.これにより房室ブロックは

AH

BH

HV

3

つ の部位に分類できる.

2

漸増性心房ペーシング法

 房室結節

Wenckebach

型ブロックおよび

His-Purkinje

系における第

2

度以上のブロックが出現する心拍数を確 認するために行う.本ペーシング法は房室結節以下の順 行性伝導能の評価に用いられるが,多くの場合,房室結 節

Wenckebach

型ブロックが出現するペーシング拍数は 検査時点での迷走神経緊張状態をみているもので,本質 的な房室結節伝導能を示すものではない.一般的には,

110

心拍

/

分以下の低頻度刺激で

AH

Wenckebach

型ブ ロックが出現する場合は房室結節内の伝導は異常と考え られる.また,

His

束下(

HV

)の伝導においては,ペ ーシング拍数にかかわらず

2

度以上のブロックの出現を 異常とみなす44)

150

心拍

/

分以下の刺激頻度でブロッ クが認められる場合は,不応期の異常延長(>

400msec

) であり,

His

束下の伝導能の障害を意味する45)

3

漸増性心室ペーシング法

 室房伝導の有無を確認する目的で行われる.室房伝導 の存在は血行動態面での悪影響等の問題があり,ペース メーカ治療に際しても評価が必要である.

4

心房期外刺激法

 心房,房室結節,

His-Purkinje

系の有効不応期の測定 を行うが,障害があれば正常に比べ異常な延長が認めら れる.

5

オーバードライブ抑制試験

 心房オーバードライブ抑制試験では,心房を頻回刺激 した後の最大洞機能回復時間を測定することによって洞 機能の評価を行う.これはペースメーカ治療に際してペ ーシングモード決定に必要である.一方,心室オーバー ドライブ抑制試験では,心室頻回刺激後の下位補充中枢 自動能の安定性評価,あるいは潜在性ブロックの誘発 (

overdrive suppression of conduction

)等を評価する.

6

薬物負荷試験

 発作性房室ブロック等でどうしても診断が確定しない 際に行う.薬剤負荷試験法では常に高度房室ブロック誘 発の危険性があるため,ベッドサイドでは行わず,必ず 電気生理検査時に心室ペーシングが可能な状況下で行う べきである.  硫酸アトロピン,クラスⅠ

a

抗不整脈薬負荷等による 房室伝導の変化等の評価を行う.アトロピンで伝導改善 が得られない場合は,房室結節以下の刺激伝導系に器質 的障害が及ぶことが示唆される.一方,クラスⅠ

a

薬は

His-Purkinje

系に直接作用し,潜在性伝導障害を顕在化 する.薬剤投与により

HV

時間が

2

倍以上に延長する場 合,もしくは

HV

時間が

100msec

以上に延長する場合, さらには

2

度以上の房室ブロックが出現した場合は

His-Purkinje

系の器質的伝導障害を示唆する.低用量でブロ ックが誘発されれば診断意義は大きい.現在,使用され る薬剤(使用量)はシベンゾリン(

1.4mg/kg

),ジソピ ラミド(

1.0mg/kg

)46),プロカインアミド(

10mg/kg

47) 等である.

4

臨床的意義および判断基準

 ブロック部位により,その臨床像が異なるため,予後 や治療方針決定という観点からも,部位診断は重要であ る.標準

12

誘導心電図や

Holter

心電図,運動・薬物負 荷心電図等による診断には限界があり,確定診断には電 気生理検査が必要である.  第

1

度房室ブロックでは刺激伝導系のいずれかの部位 で伝導遅延が認められるが,大部分は房室結節内(

AH

) で,自律神経(迷走神経)の緊張に伴う機能的(可逆的) ブロックである45).しかし,

His

束内や

His

束より遠位 でも伝導遅延が認められることがある.これらは,

AH

ブロックとは異なり,その原因として特発性,もしくは 虚血や炎症等の二次的な原因による線維化や変性等,何 らかの器質的障害が存在するものと考えられている.脚 枝等

His

束以下の部位での伝導障害を合併することもま れではない.したがって,たとえ第

1

度房室ブロックで も,

BH

または

HV

ブロックの場合は,さらに高度の房 室ブロックへの進展の可能性が高く,とりわけ失神発作 等の既往例では注意深い経過観察が必要である.また, 抗不整脈薬の投与等に際しても注意が必要である.特に 脚ブロックを伴う第

1

度ブロックを認めた場合は,ブロ ック部位診断のため電気生理検査が不可欠である48)  第

2

Wenckebach

型ブロックの大多数は,自律神経 (迷走神経)の緊張に伴う機能的(可逆的)ブロック で49),50),ブロック部位は

His

束上である.

His

束内,

His

束下でみられることは比較的まれな現象であり51),何ら

かの器質的障害が存在していることを示唆している.そ の場合,運動負荷等心房拍数の増加に伴い,房室伝導の 増悪を認めることが多く52),53),ほとんどの例でさらに

(13)

 第

2

Mobitz

Ⅱ型ブロックは

His

束内あるいは

His

束 下の器質的伝導障害が原因とされる.運動負荷や硫酸ア トロピンに対して,伝導は不変あるいは悪化する.さら に高度の房室ブロックへの進展が高率に認められる.  

2

1

房室ブロックは,

Wenckebach

型の進行か

Mobitz

Ⅱ型の進行かの判断が難しく,

2

1

房室ブロックは特 殊なタイプとして独立して扱われることが多い.伝導比 が安定して

2

1

伝導を示す場合,いずれの部位におい ても発現し得るため,ブロック部位の正確な診断には電 気生理検査による

His

束電位図記録が必要である.  高度房室ブロックでは,ブロック部位が

His

束上で機 能的原因によるものであれば硫酸アトロピンで伝導が改 善するが,

BH

HV

ブロックではこのような改善は望 めず,より高度のブロックまたは完全房室ブロックへ移 行する.高度房室ブロックの臨床像はブロック部位より 下位の補充中枢の安定性,すなわち,補充調律の出現部 位とその頻度に依存している.補充調律拍数はブロック 部位が下位になるほど低下しより不安定であり,

AH

ブ ロックに比して

BH

HV

ブロックでは

Adams-Stokes

症 候群や心不全症状が出現しやすい54),55)  第

3

度ブロックでは,

QRS

波は基本的に下位中枢から の補充調律であることから,ブロック部位が下位である ほど臨床像は悪化する56)  通常,

AH

ブロックでは,補充収縮は房室結節の伝導 途絶部位直下で

His

束近傍から出現するため,

QRS

波は 正常である.まれに心室から補充収縮が出現することも あり,この場合の

QRS

幅は広くなる.また,元来脚ブ ロックが存在していれば補充収縮が

His

束近傍からであ っても

QRS

幅は広くなる.成人の第

3

AH

ブロックの

20

50

%では幅の広い

QRS

を伴うことが報告されてい る57).房室接合部の心拍は毎分

45

55

前後の頻度であ るが自律神経の緊張に左右され,アトロピンやイソプロ テレノール等の投与では増加する等,変動が見られる. 明らかな自覚症状を伴わないことも多いが,中には長時 間心停止による失神発作等が認められることもある.第

3

BH

ブロックでは,正常幅の

QRS

波を示すのが一般 的であるが,約

20

30

%の例で

QRS

幅の延長を認める とされる55)-57)

HV

ブロックの補充収縮はすべて幅の 広い

QRS

波を示す.

HV

ブロックの中でしばしば問題と なるのは

2

枝ブロックから

3

枝ブロックへの移行であり, その際は完全

HV

ブロックとなる.

2

枝ブロックは,右 脚ブロック+右軸偏位もしくは右脚ブロック+左軸偏位 であり,臨床的には後者が多いが,必ずしもすべてが

2

枝ブロックから

3

枝ブロックへ進展する経過をたどるわ けではない.

2

枝ブロックが存在する例で,進行性に第

1

度もしくは第

2

度のブロックを合併した場合は,間欠 的

3

枝ブロックの出現が考えられる.この場合は,電気 生理検査が必須であり,

HV

時間が

100msec

以上に延長 している例,毎分

150

以下の心房刺激で

HV

ブロックが 出現する例,心房期外刺激法による

His-Purkinje

系の有 効不応期が

450msec

以上に延長する例等は,

3

枝ブロッ クへ進展する可能性が高い58)

5

治療の適応

 房室ブロックに対するペースメーカ治療の適応につい ては,日本循環器学会ガイドライン

2010–2011

年度版「不 整脈の非薬物治療ガイドライン」に記載されている15)

脚枝ブロックおよび心室内伝導障害

1

はじめに

 脚枝ブロックおよび心室内伝導障害は,日常の診療で 遭遇することの多い心電図異常であるが,健常者にも多 くみられ,単なる心電図学的異常に過ぎないものから突 然死を生ずるものまで多彩であり,適切な判断が要求さ れる.この病態には,刺激伝導系の

His

束,右脚,左脚 および

Purkinje

線維網が関係する.

1

His 束

 房室結節から連続しており,長さは

10

20mm

,幅 は

2

3mm

である.まず,僧帽弁輪を心房中隔に固定 させている非常に堅固な線維性構造である中心線維体を 貫通する(

His

束穿通部).その後,心室中隔上部を前 方に少し進み(非分岐部),左右の脚に分かれる(分岐部).

His

束分岐部は,心室中隔上部の左室側あるいは膜性中 隔下縁にあり,数

mm

にわたり左脚を分岐した後,前方 に向かい右脚に移行する.

His

束の障害は,心電図上は 房室ブロックとしてみられることが多いが,脚ブロック の形を呈することもある.

2

右脚

 右脚はまず右室の心内膜側を走り,いったん心筋層に 潜行した後に右室前乳頭筋に至り,

Purkinje

線維網へ移 行する.右脚は直径約

1mm

,全長約

5cm

の細長い

1

本 の筋束であり,線維群をなす左脚に比べて障害を受けや

(14)

すい.

3

左脚

 左脚は

His

束から分枝した後,左室中隔面から左室自 由壁に向かう複数の線維群となる.左脚の形態について は左脚前枝と後枝の

2

枝とする説,中隔枝を含めた

3

枝 とする説,明らかな分枝はなく扇状に分布しているとい う説があり,いずれも組織学的に確認されている59)-61) 左脚の形態には個体差が大きいが,心電図学的には左脚 を前枝と後枝の

2

枝に分類するのが一般的である.左脚 前枝は左室の前壁寄りに分布する長く薄い構造の線維群 で,左室流出路から左室前乳頭筋の基部に向かって分布 し,

Purkinje

線維網に移行する.左脚後枝の線維は短く 幅広く厚い構造で,心室中隔から左室後乳頭筋の基部へ 向かい

Purkinje

線維網へと移行する.線維の構造上,左 脚後枝に比べ左脚前肢の障害の出現頻度が高い.

4

Purkinje 線維と心室作業筋

 

Purkinje

線維は心室心内膜下で交錯し,心室作業筋と 接合する.

Purkinje

線維の障害からも心室内伝導障害が 生じるが,障害されやすい部位は

Purkinje

線維と心室作 業筋の接合部位である.

QRS

波は心室作業筋の興奮に より形成されるが,最初に興奮する部位は脚に接してい る心筋でなく,

Purkinje

線維と心室作業筋の接合部位で ある.したがって,右室では前乳頭筋の基部に近い心尖 部から,左室では心室中隔の中央部と左室自由壁の前方, 左室自由壁の後方の傍中隔が最も早く興奮する.

2

心室内伝導障害の心電図診断

 表11に心室内伝導障害の心電図診断基準を示す62) 右脚あるいは左脚が障害されたものを脚ブロックとい う.左脚前枝あるいは後枝の障害を分枝ブロックという.

2

枝(両脚)ブロックは,右脚ブロックに左脚前枝ブロ ックあるいは左脚後枝ブロックを合併した心電図所見を 示す.

3

枝が障害された場合を

3

枝ブロックとよび,心 電図上は

2

枝ブロックの所見に第

1

度あるいは第

2

度房 室ブロックを伴ったものをいう.

3

電気生理検査の適応

(表12)  脚枝ブロックおよび心室内伝導障害例における房室ブ ロックへの進展のリスク評価には,心内電位記録と心臓 電気刺激による電気生理検査が有用である8)

4

電気生理検査の方法

表 11 心室内伝導障害の心電図診断基準 (1)完全右脚ブロック  ① QRS幅が,最も広い誘導で0.12秒以上  ② V1誘導における rsR'型(時にRsr',Rr'型),陰性T波  ③ V5,V6や I誘導におけるQRS波の終末部に幅広いS波お よび aVRのlateR波 (2)不完全右脚ブロック  ① QRS幅が,最も広い誘導で0.12秒未満  ② V1誘導における rsr'型(時にrsR型),陰性T波 (3)完全左脚ブロック  ① QRS幅が,最も広い誘導で0.12秒以上  ② V5,V6や I誘導における幅広いnotchまたはslurのあるR 波  ③Ⅰ,V5,V6誘導における q波の欠如  ④ V1ないし V2における QRS波の終わりの幅広いS波 (4)不完全左脚ブロック  ① QRS幅が,最も広い誘導で0.12秒未満  ② V5,V6や I誘導における幅広いnotchまたはslurのあるR 波  ③Ⅰ,V5,V6誘導における q波の欠如 (5)左脚前枝ブロック  ① QRS幅が,最も広い誘導で0.12秒未満  ② QRS軸は-45度以上左方  ③Ⅰ,aVL誘導でqR(またはR)型  ④Ⅱ,Ⅲ,aVFでrS型 (6)左脚後枝ブロック  ① QRS幅が,最も広い誘導で0.12秒未満  ② 臨床的に右室肥大,肺気腫,広範囲側壁梗塞や垂直心が なく,QRS軸が+110度以上右方  ③Ⅰ,aVL誘導でrS型  ④Ⅲ,aVFでqR型 (7)右脚ブロック+左脚前枝ブロック 完全右脚ブロックの①,②+左脚前枝ブロックの②,③ (8)右脚ブロック+左脚後枝ブロック 完全右脚ブロックの①,②+左脚後枝ブロックの②,④ (9)非特異的心室内伝導障害 QRS波が0.12秒以上を示すが,右脚ブロックあるいは 左脚ブロックの形態を認めない 表 12  脚枝ブロックおよび心室内伝導障害に対する電気生理 検査の適応 クラスⅠ  1. 脚枝ブロックあるいは心室内伝導遅延のある患者で, 失神,痙攣,めまい,ふらつき等の脳虚血症状がある がその原因が不明の患者  2. WideQRStachycardiaで,脚ブロックあるいは心室内伝 導障害を伴う上室頻拍と,心室頻拍との鑑別が必要な 患者 クラスⅡ a  1.なし クラスⅡ b  1. 脚ブロックのある無症候性の患者で,伝導障害を増大 または房室ブロックを誘発するおそれのある薬剤の投 与が考慮されている患者  2. 無症候性の心室内伝導障害を有する患者 クラスⅢ  1. 症候性の患者で,その症候と心室内伝導障害との関連 性が心電図所見等により除外される患者

参照

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