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生理検査の適応

(表32)

ⅩⅨ 不整脈の外科的治療法

1 はじめに

 近年,カテーテルアブレーションが広く行なわれるよ うになって,不整脈の外科的治療の症例数は減ってきて いる.しかし,日本胸部外科学会の2008年の調査では,

不整脈外科症例は1年間で3,512例あり,内訳は心房細

動が3,277例,

WPW

が3例,心室頻拍(ドール手術が主)

が97例,その他135例であった.毎年,同程度の不整 脈手術が行なわれているが,心房細動以外の手術件数は かなり少なくなっている.最近,多くの内科医は,薬物 抵抗性の心室頻拍に対して

ICD

植込みを行っている.し かし,

ICD

は心室頻拍の停止治療であり,患者は死の恐 怖はなくなるが,

ICD

のショックの恐怖は存在し,自殺 者も出たことがある.また,薬剤抵抗性の心室頻拍症に 対するカテーテルアブレーション不成功例で,頻拍が多 発する場合は

ICD

の適応でもない.このような症例が 外科手術に送られることはほとんどないのが現状である

(日本胸部外科学会の2008年の全国調査).外科治療で は,虚血性や特発性の心室頻拍の手術成功率は90%以 上であり,手術が成功した場合は,術後に無投薬で,通 院する必要もなく,頻拍発作は全くなくなる治療法であ る.他方,

WPW

症候群において,カテーテルアブレー 図11 ホルター心電図と電気生理検査による薬効評価法の比較

ホルター心電図ガイド治療群 電気生理検査ガイド治療群

ホルター心電図ガイド治療群 電気生理検査ガイド治療群 100

80

60

40

20

0 1 2 3 4年

p=0.69

100

80

60

40

20

0 1 2 3 4年

p=0.23 不整脈再発率︵%︶ 死亡率︵%︶

表 32  頻脈性不整脈に対する抗不整脈薬効果の評価のための 電気生理検査の適応

クラスⅠ 1.なし クラスⅡa

 1.持続性単形性心室頻拍における薬効および催不整脈作 用の評価

クラスⅡb

 WPW症候群,房室結節リエントリ性頻拍,洞結節リエン トリ性頻拍,心房頻拍,心房粗動症例の薬効判定

ションの成功率は95~99%と報告されている.正確な 全国統計はないが,日本の累積症例数は10万例を超え ると考えられ,不成功例は少なく見積もっても1,000例 が存在することになる.しかし,2008年のデータでも カテーテルアブレーション不成功例を外科に紹介された 症例は皆無で,2008年の全国統計を見ても,

WPW

症候 群の手術は合併手術の3例のみであった.外科症例が少 なく,不整脈外科医が育たない場合に,結果として外科 に患者が送られない.そのような悪循環が既に起ってい る.

2 電気生理検査の適応

 本ガイドラインにおける適応には2つの意味がある.

その1つは不整脈に対する外科手術を行うかどうかの適 応であり,対象疾患は

WPW

症候群,房室結節リエント リ性頻拍,心室期外収縮,心室頻拍,心室細動,心房期 外収縮,心房頻拍,心房粗動,心房細動等である.もう 1つは術中における電気生理検査の適応である.術中の マッピング装置には,体表面マッピング装置を改良して 作製された装置(

HPM6500

,中日電子社製)(図12)

および各施設で開発,作製した装置がある.これらにお いては,同時に多チャンネルの局所電位を記録,表示す ることが可能である.

3 疾患別各論

1 WPW 症候群

 

Sealy

423は, 術 中 に 心 表 面 マ ッ ピ ン グ を 行 い,

WPW

症候群に対する副伝導路の外科的切断術を世界で 初めて心外膜側から行った.岩ら424は同様に,心内膜 側から副伝導路切断術を行った.

WPW

症候群の非薬物 治療の適応は,

high-risk

群(副伝導路の有効不応期が

250msec以下)で,カテーテルアブレーションが不成功

であった例が手術適応となる.近年は,カテーテルアブ レーションの成功率が高くなり,手術を必要とする症例 はほとんどない.術中における副伝導路部位のマッピン グは,副伝導路の部位を正確に同定するために必須の検 査である.副伝導路の順行伝導のマッピングは,複数副 伝導路の可能性もあるので,2か所以上の心房からペー シングを行い,心室のマッピングを行うことが推奨され る(図12,13,14).逆行性伝導のマッピングは,心 尖部からの心室ペーシングで弁輪付近の心房のマッピン グを行う.

A

WPW

症候群の逆行性伝導の心外膜マッ

ピングは技術的に困難であるので,体外循環下に心内膜 マッピングの併用を行った方がより正確に副伝導路の部 位を決定することが可能となる.中隔側に副伝導路が存 在する

WPW

症候群では,心内膜マッピングは必須であ る.左側副伝導路

WPW

症候群の心内膜マッピングは,

空気栓塞を起こさないように慎重な操作が必要である.

 マッピング装置がない等マッピングが不可能である場 合は,術前のΔ波形から,

Gallagher

らの分類99等に基 づいて存在部位を推定することにより,副伝導路の推定 部位および近傍の弁輪を大きく切離する必要がある.

 手術によるΔ波の消失により,順行性副伝導路伝導の 切断が確認される.しかし,逆行性副伝導路伝導の残存 もあり得るので,心室の頻回ペーシングによる逆行室房 伝導の

Wenckebach

ブロック,あるいは

ATP

急速静注に よる室房ブロックが確認されれば,副伝導路切断に成功 したと判断する.

図12 マッピング装置(HPM6500)

2 房室結節リエントリ性頻拍

 カテーテルアブレーションが不成功である場合や,他 の心臓手術に附随して行う時に手術適応となる.

Koch

の三角の中にある遅伝導路を凍結する.術中の電気生理 検査では洞調律時に心内膜マッピングを行い,二重電位

double potential

)を認める部位を同定して凍結を行う.

しかし,実際は二重電位(

double potential

)の同定は困 難であり,頻脈発作を誘発して頻拍中に

Koch

の三角内 の三尖弁輪に沿って凍結を行い,頻脈が停止すれば成功 とする.まれではあるが,房室結節の上方に遅延伝導が ある場合もある.

3 心室期外収縮

 カテーテルアブレーションが不成功か,他の心臓手術 に附随して行う時に手術適応となる.術中に心室期外収 縮が発生しなければ手術はできない.術中の電気生理検 査としては,心室の心外膜マッピングを行い,心室期外

収縮の起源,すなわち最早期興奮部位を同定し凍結する.

心室期外収縮の多くは右室流出路起源である.

4 心室頻拍

 

Fontaine

425

Spurrell

426は,初めてマッピング 法を用いて心室頻拍に対する外科的治療を行った.その 後,

Hartzler

427により直流通電によるカテーテルアブレ ーションが開始され,さらに,

Huang

428により高周 波通電によるカテーテルアブレーションが開発されたた めに,手術適応はカテーテルアブレーション不成功例の みに限定されるようになった.また,カテーテルアブレ ーションの不成功例も含めて植込み型除細動器の適応が 拡大したために,外科的治療の適応となる症例は減少し た.しかし,不整脈の基質(心室瘤,瘢痕等)に対する 外科的切除術は根治的治療であり,薬物治療が不要で生 命予後も極めて良好なので,有用な治療法である.

 電気生理検査としては心室頻拍を誘発して,図12等 のマッピング装置を用いて,心外膜マッピングを行う.

誘発された心室頻拍により血行動態が不安定になって も,開胸時には体外循環を用いればマッピングが可能で,

心室頻拍の起源の同定が可能である.また,心室頻拍の 起源は一般的に心内膜側に多いが,特発性心室頻拍の起 源は心外膜側にある場合がある.心内膜マッピングは手 技的に困難であり,手製のバルーン電極があるが入手困 難である.

 マクロリエントリとマイクロリエントリではマッピン グ方法が異なる.図15の中央と左の2個のマッピング は全く同じような図になるが,機序は全く異なる.中央 はマクロリエントリであり,狭部の伝導を遮断すれば治 療できる(図右).左はマイクロリエントリであり,マ イクロリエントリの起源部位を破壊しなければならな い.

5 心室細動

 三崎らは心室細動に対する外科治療をマッピングを用 いて行ったが,植込み型除細動器が開発されてからは,

心室細動に対する外科的治療の報告はない.

6 心房期外収縮

 理論的には心房期外収縮のマッピングを行い,凍結に よる外科治療は可能であるが,心房期外収縮は生命予後 に関わる不整脈ではないので,実際の報告例はない.

7 心房頻拍

 手術適応はカテーテルアブレーションが不成功である

(心室を後中隔で切開した展開図)

ペーシング RV. ANT RV.DIAPH

APEX

PA LAD LV. ANT

OM LV.POST 図14  右房下壁でペーシングした時の心室表面マッピング 図13  WPW 症候群における洞調律時の心室表面マッピング

(心室を後中隔で切開した展開図)

洞調律

RV. ANT RV.DIAPH

APEX

PA LAD LV. ANT

OM LV.POST

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