• 検索結果がありません。

電子書籍表紙_漢方エキス製剤を使いこなす

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "電子書籍表紙_漢方エキス製剤を使いこなす"

Copied!
62
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

漢方エキス製剤を

使いこなす

目 次

2

7

13

20

27

33

38

44

50

57

桂枝湯類

麻黄湯類

小柴胡湯類

承気湯類(大黄類)

苓桂朮甘湯(祛湿利水剤)

二陳湯(祛痰剤)

人参湯(祛寒温裏剤)

黄連解毒湯(清熱剤)

四君子湯(補気剤)

四物湯(補血剤)

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

風間 洋一

先生

風間 洋一

先生(風間医院)

(風間医院)

漢方エキス製剤を

使いこなす

(2)

 病気の治療には,その原因(病因)と病態(証)を 把握し,病理機序(病機)を審らかにすることによって, 最適な治療方法(治法)を導く必要があります。それ は,西洋医学的治療にせよ漢方治療にせよ,大事な作 業といえるでしょう。また同時に治療の手段である方 剤の基本的な効能を理解し応用する技術も必要とされ ます。  現在,漢方エキス製剤の種類は 150 種類余りで, 1つの方剤で治療可能な病気も多くありますが,数種 のエキス製剤を併用する必要のある場合もみられ,エ キス剤の合方という新たな治療法についての知識と経 験が求められます。  古くは,張仲景が『傷寒論』のなかで,弁証論治の 体系を確立し,「理・法・方・薬」について述べ,1 つの方剤を用いるとき,主方と主証が相対するという 治療原則以外に,兼症に従って臨機応変に加減応用す る方法を提示しました。  われわれも,現代医療のなかで,漢方エキス製剤とい う治療手段をより有効に生かす知恵を蓄積し発展させる ことは,現実的課題といえるでしょう。このシリーズで は,その具体的な方法を追求していきたいと思います。  エキス剤の配合によって以下の状況を得られること があります。 ❶効能が相似しているエキス剤同士の合方は,効能が 増強する。例えば,同じ辛温解表剤を合方すれば,散 寒解表の効果が強まる。瀉下剤同士であれば,瀉下の 効果が強まる。 ❷効能は異なるが,互いに相反しないエキス剤の合方 は,兼治できる。例えば解表剤に補気剤を配合すると, 解表と同時に益気し,2剤配合した方剤の効能は,益 気解表あるいは補虚解表となる。 ❸効能が互いに相反するエキス剤の合方,例えば寒熱・ 気血・内外・昇降・動静・斂散・補瀉などの組み合わ せは,互いに牽制調節,あるいは調和の効果を期待で きる。 ❹エキス剤の合方により,新しい効能が生まれ,治療 範囲の広がりが期待される。 ❺甘草・附子・大黄などの用量過多による副作用が顕 在化する場合がある。

桂枝湯を理解する

 桂枝湯は,『傷寒論』の中で第一番目に現れる処方で す。その用薬の組み合わせの意味を理解することで,しっ かりと薬物配合の原理原則を学ぶことができます。また 桂麻各半湯(桂枝湯合麻黄湯)や柴胡桂枝湯(桂枝湯 合小柴胡湯)など仲景の合方治療の方法を学ぶうえで の基本処方です。    122

桂枝湯類

漢方エキス製剤を使いこなす①

風間 洋一

風間医院

新 連 載

風間医院(茨城県取手市)

連載を始めるにあたって

20● −伝統医学 Vol.10 No.3(2007.10)

(3)

  ◆構成生薬の働き  桂枝・生姜は共に辛温解表薬です。しかし桂枝には降 気(平衝降逆)作用,生姜には止嘔(嘔逆)作用があり, この2薬とも下方に向かう性質を有し,昇発の力はあま り強いものではなく,一緒に用いても大汗しません。特 に桂枝の役割は,血を巡らせる温経通陽が主で,発汗は 一緒に使う別の薬の働き方に依存しています。しかも2 薬とも健胃作用があり,大棗と甘草の甘い生薬を一緒に 使うと,益胃気と滋津液の効能が現れます。   薬は微寒で収斂の作用があり,桂枝と生姜の辛散 を制御するうえに,さらに大棗・甘草の滋津液を助け ます。 ◆桂枝湯の薬効  桂枝湯は『傷寒論』太陽病上 12 条に「服し已りて 須臾に,熱希粥一升余を啜り,以て薬力を助く」とあ り,発汗解表の作用は弱く,むしろ安中・養津液・調 和営衛の方剤といわれ,病態によって発汗剤にも止汗 剤にもなりえます。そのことから,後世の漢方家は桂 枝湯を「甘温除熱」の良方と呼び,現代方剤学では,「解 肌発表・調和営衛」の方剤と説明しています。  ちなみに金元時代の李東垣は,脾胃気虚によって生 じた内傷発熱を「陰火」と呼んで,補中益気湯を考案 しました。その治療法も「甘温除熱」と呼ばれ,当を 得た表現です。

桂枝湯の臨床応用

◆作用機序の考察  桂枝湯は,現代方剤学の中で,解表剤の内の「辛温 解表剤」に分類されています。解表剤は,本来汗を出 させる方法で外邪を除くことから,「汗剤」と呼ばれ ていたのが,清代に入り,温病学が発達し,「温病忌汗」 といって,発汗による津液の損傷を恐れ,なるべく汗 をかかせない祛邪法が提唱されるようになりました。 しかし辛温解表にせよ,辛涼解表にせよ,解表とは発 汗法のことです。ただその発汗法の強弱の違いで,辛 温と辛涼が区別されました。したがって,辛涼解表剤 にも若干の発汗作用があります。  発汗させるためには皮膚の䊝理の緊張を緩める必要 がありますが,辛温解表は温めて緩める程度が辛涼解 表より強いという違いです。しかも辛温解表剤のなか で比較すると,麻黄湯が最も䊝理の緊張を解放して発 汗させ,それに較べ,桂枝湯の䊝理を緩め発汗させる 力が弱いために,解肌という表現を使っているにすぎ ません。   発汗と解肌の違いは,発汗の程度の差によるもので す。実際,桂枝湯エキス剤に麻黄湯や 根湯などのエ キス剤を合方して発汗の程度を調節する場合がしばし ばみられます。 ◆適応症の分析  張仲景は『傷寒論』太陽病上 12 条に桂枝湯を登場さ せ,その適応する脈と証や服用方法などについて,懇切 丁寧に述べています。条文には,「太陽中風」とあるた めに,風寒の邪による表虚証という人と風邪による表虚 証という人と 2 通りの表現がみられますが,どちらも寒 邪を伴っています。そして「表虚」とは,いったいどう いう状態でしょうか? 「表虚」というのは,皮膚の䊝 理が緩んで汗が出てしまう「開閉不調」の状態を指して います。この状態は,「営衛不和」とも表現されます。  しかし,「営衛不和」の意味も拡大し2通りの状態 を説明するようになりました。1つは外感病のときの 「衛強営弱」と,内傷雑病のときの「衛弱営強」です。 どちらも営衛不和状態ですが,「衛強営弱」の衛強と は,外で衛気が邪と戦っている(「強」は頑強に抵抗 するの意)けれども,営弱のために邪と戦う力が弱く なっている状態であり,「衛弱営強」は,体の内の営 気が強いわけではなく,外の衛気が弱くて相対的に見 かけ上,衛気よりも営気が強く見えるという状態を指 します。営衛不和を太陽病上 53 条で,「衛気は営気 とともに諧和せず」と述べ,54 条では,「臓に他病な 組 成 桂皮4g, 薬4g,大棗4g,甘草2g,     生姜1∼ 1.5g 効 能 解肌発表・滋陰和陽・調和営衛 適応証 発熱・汗出悪風・頭痛・気の上衝・動悸・         脈浮緩あるいは浮弱・舌質淡・舌苔薄白

(4)

解肌舒筋 項背強ばること几几,反って汗出で 悪風する者。 表1 桂枝湯の加減方と類方 処方名 主治 桂枝加 根湯 桂枝加黄耆湯 桂枝加 薬湯 桂枝加 薬大黄湯 黄耆建中湯 当帰建中湯3) 『傷寒論』太陽病上14条 桂枝加竜骨牡蛎湯 桂枝湯+ 根(解肌)6g 桂枝加朮附湯 1)虚労裏急=小建中湯証(中焦虚寒・肝乗脾虚) 2)諸不足=気虚顕著 3)『千金翼方』の当帰建中湯は,小建中湯+当帰 出典 組成 効能 桂枝加厚朴杏仁湯 『傷寒論』太陽病上18条 桂枝湯+厚朴(行気)4g・ 杏仁(平喘)4g 解肌発表・下気平喘 宿病に喘(呼吸困難)があり,風寒にかかり桂枝湯証の者,あるいは風寒 表証を誤って誤下し,表証が未解で 微喘の者。 『金匱要略』 桂枝湯+ 黄耆(益気利水)2g 調和営衛・逐湿走表 調和営衛の桂枝湯に,益気・通陽逐 湿の黄耆を加え, 腰より上に汗をか き,腰より下は無汗を治す。 黄汗初 期と黄疸初期を治す。 『傷寒論』太陰病279条 桂枝湯+加 薬 (鎮痙止痛)(合6g) 調和営衛・理脾和中・緩急止痛 発熱悪寒・自汗,腹満時痛し喜按下痢 の者。 『傷寒論』太陰病279条 桂枝湯+加 薬(合6 g)・大黄(瀉下)2g 解肌祛邪・瀉実通利・ 表裏双解 発熱悪寒・自汗,腹満実痛し拒按便 秘の者。 小建中湯 『傷寒論』太陽病中100・ 102条 桂枝加 薬湯+膠 (補 中)10∼20g 温中補虚・緩急止痛 動悸して煩(イライラする),腹痛, 易疲労。 『金匱要略』 小建中湯+黄耆(益気 昇陽)4g 温中補気・和裏緩急 虚労裏急1)・諸不足2) 『金匱要略』 桂枝加 薬湯+当帰 (補血和血)4g 温中補血・和裏緩急 血虚による衰弱・疲労・腹痛。 『金匱要略』 桂枝湯+竜骨(安神・固 渋)3g・牡蛎(安神・潜 陽)3g 調和陰陽・潜陽固渋 気血倶に虚し(虚寒証),精神不安 の者。 『吉益東洞経験方』 桂枝湯+蒼朮(燥湿)4g・ 附子(温陽)0.5∼1g 調和営衛・散寒祛湿 桂枝湯証に寒湿による四肢・関節の 痛みを伴う者。 表 2 桂枝湯の加減方と類方の組成比較 桂枝湯 桂枝加 根湯 桂枝加厚朴杏仁湯 桂枝加黄耆湯 桂枝加 薬湯 桂枝加 薬大黄湯 小建中湯 黄耆建中湯 当帰建中湯 桂枝加竜骨牡蛎湯 桂枝加朮附湯 桂枝  薬  大棗  甘草  生姜  根  厚朴  杏仁  黄耆  大黄  膠   当帰  竜骨  牡蛎  蒼朮  附子 生薬 方剤 ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 124 漢方エキス製剤を使いこなす① / 桂枝湯類 22● −伝統医学 Vol.10 No.3(2007.10)

(5)

く,ときには発熱し,ときどき汗が出る」と述べ,主 要な責任は衛気の虚弱による䊝理(汗腺)の開闔機能 の障害にあると指摘しています。  清代の柯琴は,『傷寒附翼』のなかで,桂枝湯を「仲 景群方の魁,滋陰和陽,調和営衛,解肌発汗の総方也」 と述べ,現代方剤学が,桂枝湯の効能を「解肌発表・ 調和営衛」と表現している意味は以上のような『傷寒 論』の解釈から生まれたものです。 ◆桂枝湯の用量について  桂枝湯の組成は,『傷寒論』では,桂枝3両, 薬 3両,炙甘草2両,生姜3両,大棗 12 枚ですが,現 在実際に使用され妥当といわれている容量は,せいぜ い大棗を基準にしても,多くて5,6枚(個)程度です。 また1両をおよそ3gに換算して使っています。さら に日本のエキス剤は容量がその約2分の1ほどで作ら れています。したがって,体格や症状の強弱,兼証に よって,他のエキス剤を合方する新たな治療概念が生 まれてきました。 ◆桂枝湯の加減と類方  桂枝湯の加減あるいは類方と呼ばれる方剤が,エキ ス剤に多く収載されています。例えば桂枝加 根湯・ 桂枝加厚朴杏仁湯・桂枝加黄耆湯・桂枝加 薬湯・ 桂枝加 薬大黄湯・小建中湯・黄耆建中湯・当帰建中 湯・桂枝加竜骨牡蛎湯・桂枝加朮附湯(吉益東洞)な どがありますが,いずれも桂枝湯の方意をふまえた方 剤です。原典での加減方と類方を,参考のために表1 に,またその組成の比較を表2に示しました。

桂枝湯類のエキス剤が有効だった症例

症例をいくつか提示しましょう。          黄耆建中湯が有効だったカゼと発汗異常の例  30 代,女性。前の晩に少し熱が出て寒気がしたので, 早めに就寝した。翌朝,左半身のみ過度に汗ばみベタ ベタするが,右半身はまったく汗が出ず乾燥している。 妙な気分で来院。色白でやや痩せ型,よく鼻カゼを引 く,食欲はあまりない,疲れやすい。脈浮軟・舌質淡・ 苔薄白。 営衛不和による「偏沮」(半身の発汗異常)と診断 して,補気固表・益気生津・調和営衛の黄耆建中湯エ キス剤(18 g / 日)を投与。翌日にはカゼ症状は改 善し,左半身のみの過度な発汗と右半身の乾燥感も消 失しました。  黄耆建中湯は,小建中湯に黄耆を加えた処方です。 黄耆は『薬徴』(吉益東洞著)では「肌表の水を主り, 黄汗,盗汗,皮水を治す」とあり,中医方剤学では, 補気固表止汗・利尿消腫とありますが,虚弱者が外感 病に罹って発熱しても,発汗できないときには,発汗 薬と併用すると発汗させて祛邪することができます。 また建中湯の 薬はエキス剤では6g使われていて, 桂枝湯の4gの 1.5 倍です。ところで桂枝湯の 薬の 性味は,酸寒ですが,斂汗(止汗)に使われているわ けではありません。 薬を使う目的は,益陰和営つま り汗源の補給にあります。『傷寒論』は,処方のなかで, 2つの点に絶えず留意しています。それは「存津液・ 保胃気」という点で,お粥を食べる行為も,陽気の助 けで発汗を手伝うだけでなく,津液補充の意味合いも 含まれています。この患者さんの場合,補気解表・調 和営衛の働きが有効に作用したといえるでしょう。     桂枝二麻黄一湯が有効だったカゼの例  20 代前半,男性。昨日昼より,39 度の発熱,悪寒, 項背部痛出現。汗をかなりかいたが,翌日になっても, 体が熱かったり寒かったりして咽も痛い。ほっそりと して普段から体力に自信がない。顔が赤い。脈浮軟・ 舌淡・苔薄白。 『傷寒論』の太陽病上 25 条に,「大いに汗出で, 形虐に似て,一日再発する者は,桂枝二麻黄一湯に宜 し」とあります。桂枝湯と麻黄湯を2対1の割合で合 方した方剤です。同じように桂枝湯エキス剤5g / 日 と麻黄湯 2.5 g / 日を合方し分3で処方しました。服 用後うっすらと汗をかいて治癒しました。調和営衛し, わずかに発汗させ祛邪する方剤です。 症例2 症例1

(6)

    桂枝加黄耆湯と黄連解毒湯の合方が有効だっ     たアトピー性皮膚炎の例  6歳,男子。生後間もなくアトピー性皮膚炎と診断 され,抗アレルギー剤の内服とステロイド軟膏を常用 していた。最近皮膚の痒みが強くて,夜間に引っ掻き 傷ができる。汗をかきやすく,汗をかいた後,特に痒 みがひどくなる。皮膚の赤みが強く,掻いた部分が湿 潤している。 調和営衛・逐湿走表の桂枝加黄耆湯エキス剤3g / 日 と黄連解毒湯エキス剤3g / 日を合方し,寝る前に抗 ヒスタミン剤を服用するように処方しました。湿潤し ていた皮膚が乾き,痒みも軽くなり症状の軽減が見ら れ,その後,黄連解毒湯を柴胡清肝湯3gに変更し経 過良好となりました。     当帰建中湯が有効だった疲労腹痛の例  80 歳,女性。某年7月,サークル活動で頑張りす ぎて疲労困憊し,下腹部がシクシク痛む。やや痩せて いて,色白,二便正常。舌淡・苔薄白・脈細やや弦。 腹軟喜按。 温中補血・和裏緩急の当帰建中湯を1週間分処方し ました。翌年7月上旬に来院され,昨年と同じサーク ル活動で疲労し,同じ処方を希望されました。服用後 すぐに腹痛は軽減しました。昨年の薬を今まで大事に 使い,1年間で使い切ったと言います。今回も1週間 分を処方しました。     桂枝湯と五積散の合方が有効だったカゼの例  50 代後半,男性。数日前から鼻水が出て,悪寒と 微熱があり,総合感冒薬を服用していた。服用すると 汗が出るが症状は改善しない。今朝から,軽い腹痛と 下痢も始まり,腰痛・頭痛も伴い,体がだるい。脈や や滑軟・舌淡・苔白潤・腹軟。 桂枝湯エキス剤 7.5 g / 日と五積散エキス剤 7.5 g / 日 を合方処方し,症状はすべて改善しました。五積散は表 証と裏寒が同時にみられるときに用いられる解表温裏剤 ですが,エキス剤に含まれる各生薬の分量が少なく,他 のエキス剤と合方する場合がしばしばです。そのため, 解表散寒・調和営衛の桂枝湯と合方しました。        *  そのほか,桂枝湯証に項背痛があり,加えてさらな る解表が必要なら 根湯を合方したり,喘息・咳嗽に 熱痰を伴えば麻杏甘石湯を合方,胃中冷痛を兼ねれば 安中散を,腹部冷痛を兼ねれば人参湯を,関節痛(湿痹) を伴えば,二朮湯を合方したりします。また奔豚(発 作性の気の上衝や動悸)の場合には,桂枝末を加え桂 枝加桂湯の配伍処方にしたり,あるいは営血不足を伴 う凍傷(しもやけ)や末梢循環障害には四物湯を合方 するなど,病態に合わせての応用が考えられます。 * 傷寒論 条文 , 現代語訳 ・ 宋本傷寒論 ( 東洋学術出版社 ) 。 症例5 症例4 症例3 126 風間洋一先生プロフィール 1948 年 東京都生まれ 1976 年 東邦大学医学部卒業        東邦大学附属大森病院第二内科 1977 年 東京女子医科大学脳神経外科 1978 年 東邦大学附属大森病院第二外科 1980 年 風間医院開業        茨城県取手市戸頭 4-3-6 漢方エキス製剤を使いこなす① / 桂枝湯類 24● −伝統医学 Vol.10 No.3(2007.10)

(7)

◆構成生薬の働き   麻ま お う黄の性味は,辛・微苦・温,帰経は肺・膀胱経で, ①発汗,②平喘,③利水の働きがあります。麻黄湯中, 麻黄は気分に作用し,腠理を開きます。麻黄の発汗作 用は解表薬の中で比較的強く,血分に作用する桂け い し枝と 一緒に使うと,気血の流れが強まり発汗力が増します (相須)。また麻黄の宣肺(向上・向外)と杏きょうにん仁の止咳(降 肺)の組み合わせにより,利肺(宣と降・相使)して 胸満・喘を治療します。甘かんぞう草は,諸薬の性質を調和さ せるとともに,胃気も調和(保胃気)させ,喘や疼痛 を和らげます。 ◆麻黄湯の薬効  麻ま お う と う黄湯は,『傷しょうかんろん寒論』太陽病中 35 条に「覆取微似汗, 不須啜粥」(覆おおいて微かに汗するに似たるを取り,粥 を啜るを須もちいず)とあります。桂枝湯の場合の「温覆 し,粥を啜り微似有汗」と異なる点は,麻黄湯には毛 穴を開いて,直接発汗させ寒熱を除く作用があること です。しかし「微似汗」とあるように大汗させないで, しっとりと全身が汗ばむ程度にするように指示してい ます。伝統上,麻黄湯を発汗峻剤と呼ぶのは,服用後 温覆する必要がない(ただ布団を掛けるだけでよい) ことと,発汗過多を戒めるためと思われます。麻黄湯 は太陽風寒表実証(発熱・悪寒・無汗・脈浮緊)に用 いられるだけでなく,麻黄が肺の引経薬となり,風寒 襲肺の喘息・咳嗽など肺病の治療にも用いられます。 ◆作用機序の考察  麻黄湯証は,風寒邪気によって腠理(汗腺)が閉じ, 汗が出ない状態です。桂枝湯証と同じ「営衛不和」の 状態ですが,桂枝湯の「衛強営弱」に対し,無汗であ ることから「衛強営鬱」と表現します。無汗により体 表に水分が多く存在し,その水分と鬱熱が神経を圧迫 刺激することで,身体のあらゆる処に疼痛が起こりう ると考えられます。脈緊も脈中に水分が充満している 状態です。桂枝湯のように有汗であれば,水分による 圧迫が軽微で疼痛も軽度で,脈も緩の状態です。  麻黄湯の強い発汗力が,体表に蓄積された不用な物 (水湿・毒など)を排泄し,疼痛や喘(呼吸困難)の

麻黄湯類

風間 洋一

風間医院 風間医院(茨城県取手市)

麻黄湯を理解する

組 成 麻黄5g,桂皮4g,杏仁5g,甘草 1.5 g 効 能 発汗解表・宣肺平喘 適応症 悪寒・発熱・無汗・頭痛・身体疼痛・骨節疼     痛・腰痛・胸満・喘咳・苔薄白・脈浮緊

麻黄湯の臨床応用

(8)

治療に有効に働きます。 ◆適応症の分析  『傷寒論』には,「忌汗法(発汗法をきらう)の証」が, 「太陽病篇」や「弁不可発汗病脈証并治篇」に多く記 載されています。主に,①陽虚畏寒(陽気不足により 寒をいやがる),②汗家(表虚証:汗をかきやすい人), ③瘡家(瘡瘍のできる人),④亡血家(出血),⑤衄家 (鼻血),⑥淋家,⑦陰虚(血虚)などに麻黄湯を用い るべきではないことを示しています。つまり麻黄湯は, 陰陽不足の状態(気血津液が虚している)には用いな いことが原則です。  麻黄湯類方のエキス剤には,葛かっこんとう根湯・葛かっこんとうかせんきゅう根湯加川芎 辛し ん い夷(本朝経験方)・麻まきょうかんせきとう杏甘石湯・五ご こ と う虎湯(『万まんびょうかいしゅん病回春』)・ 小 しょうせいりゅうとう 青竜湯・越え っ ぴ か じ ゅ つ と う婢加朮湯・麻まきょうよくかんとう杏薏甘湯・麻ま お う ぶ し さ い し ん と う黄附子細辛湯 などがあります(表1)。いずれも麻黄が配合され, 発汗・平喘・利尿のいずれかの働きを目的として処方 に組み立てられていますが,麻黄の用量および一緒に 配合される生薬(薬対)により麻黄の働きが異なりま す。エキス剤処方の麻黄配伍薬対をまとめると,表2 のようになります。 本朝経験方 根湯+川芎2g,辛夷2g 鼻炎・蓄膿症・鼻閉・ 嗅覚障害 根湯効能+活血・通竅 『方機』(吉益東洞) 根湯+蒼朮3g,加工附子 0.5 g 根湯効能+利水・止痛 るいは疼痛者激しい悪寒・全身腫脹あ 『傷寒論』太陽病中 63 条 外感風邪。身熱不解・ 咳逆・気急・鼻痛,口渇, 有汗あるいは無汗・舌苔 薄白或黄・脈滑数 辛涼宣泄・清肺平喘 『万病回春』 麻杏甘石湯+桑白皮3g 麻杏甘石湯効能+清熱利 肺熱の喘咳 水 『傷寒論』太陽病中 40・ 41 条 麻黄3g,桂皮3g, 薬3g,甘草3g,乾姜3g,細辛3g, 五味子3g,半夏6g 風寒客表・水飲内停・痰 飲咳喘・風水(風邪によ る水腫) 解表滌飲・止咳平喘 『金匱要略』中風歴節病 麻黄6g,石膏8g,生姜1g, 甘草2g,大棗3g,蒼朮4g 肉極(脾病・極度の虚労)身重く力が乏しい・大汗・ 出・悪風(裏水挟熱) 清熱散風・調和営衛(宣 肺利水・健脾) 『金匱要略』痙湿 病 麻黄4g,杏仁3g,甘草2g, 薏苡仁 10g 軽清宣泄・解表滌湿 風湿証「一身尽く痛み,発熱し日晡所劇しき者」 麻黄4g,細辛3g,修治附子 末1g 悪寒・発熱・無汗・四肢不温・横になりたがる(寝 んと欲す)・苔白・脈沈弱 温陽解表・扶正祛邪 『傷寒論』少陰病 301 条 石膏 10g,麻黄4g,杏仁4g, 甘草2g 根4g,麻黄3g,桂皮2g, 薬2g,大棗3g,生姜2g, 甘草2g ◆この処方の解釈は2通りある。 解釈1:桂枝湯加減方(桂枝湯 +麻黄・ 根) 解釈2:麻黄湯合桂枝湯加減法 (麻黄:桂枝の比率=3:2を根拠) 発汗解表・昇津舒筋 『傷寒論』太陽病中 31 条・ 『金匱要略』痙湿 病 発熱・悪風・無汗・身痛・項背強几几・ 苔薄白・脈浮緊 表1 麻黄湯類方 処方名 出典 組成 効能 適応症 根湯 根加朮附湯 麻杏甘石湯 五虎湯 小青竜湯 越婢加朮湯 麻杏薏甘湯 麻黄附子細辛湯 根湯加川芎辛夷

麻黄湯の類方

漢方エキス製剤を使いこなす② / 麻黄湯類 ●7 伝統医学 Vol.10 No.4(2007.12) −79

(9)

 麻黄・桂枝の薬対は,強い発汗作用があり,葛根湯・ 葛根湯加川芎辛夷・小青竜湯に配伍されており,「無汗」 が原則です。  麻黄・石膏の薬対は,石膏が腠理(汗腺)を閉じる 方向に働き,石膏の量が麻黄の倍以上のとき,麻黄は 発汗(解表)よりむしろ,宣肺平喘・利水に働きます。  麻杏甘石湯エキス剤では,石膏 10 g,麻黄4gで, 2.5 倍です。麻杏甘石湯は,『傷寒論』太陽病中 63 条 に「発汗後,不可更行桂枝湯,汗出而喘,無大熱者, 可与麻黄杏仁甘草石膏湯」(発汗して後,更に桂枝湯 を行おこなうべからず。汗出でて喘し,大熱なきものは,麻 黄杏仁甘草石膏湯を与うべし),また太陽病下 162 条 に「下後不可更行桂枝湯,若汗出而喘,無大熱者,可 与麻黄杏子甘草石膏湯」(下して後は更に桂枝湯を行や るべからず。若し汗出でて喘し,大熱なきものは,麻 黄杏子甘草石膏湯を与うべし)とあるように「汗法」「下 法」の後に「喘」(呼吸困難)が出現し,有汗・無汗 にかかわらず「無大熱」(体表に熱がなく,肺熱がある) のとき,清泄肺熱・止咳平喘に働きます。「不可更行 桂枝湯」とあるように,さらに桂枝湯を使ってはいけ ない理由は,すでに表証がないか,わずかであること を示し,裏熱(邪熱壅肺)を清泄し喘息を治す(平喘) 働きが主であることを示しています。  越婢加朮湯は,『金きんきようりゃく匱要略』水気病に「裏水,越婢 加朮湯主之」とあるように,小便不利によって引き起 こされる水気病に対して,主に利小便させる目的で用 いられています。『金匱要略』では,麻黄6両,石膏 半斤(8両)とあり,エキス剤の比率も麻黄6g,石 膏8gの配合です。蒼そうじゅつ朮は麻黄と一緒に用いると,表 裏の湿を行めぐらし健脾と麻黄の過汗防止に働きます。 しかし石膏の量が麻黄の倍以下では,麻黄の「発汗作 用」を制約して,「利小便」に集中させることができ ず,発汗と尿量増加の両方を認めます。現在,急性腎 炎による水腫の治療には,石膏:麻黄=2:1あるい は3:1の比率で用い,発汗より宣肺行水に効能を集 約させる方法が用いられています。この臨床実践から, エキス剤を用いて利小便の効果を高め浮腫を治療する には,さらに五ご れ い さ ん苓散や防ぼ う い お う ぎ と う已黄耆湯,防ぼうふうつうしょうさん風通聖散エキス 剤などを合方する必要があります(表3)。  また湿疹・蕁麻疹などの皮膚疾患で肌膚湿熱タイプ には,越婢加朮湯エキス剤に消しょうふうさん風散エキス剤を合方し て,散風清熱利水(微発汗・利尿)します。このとき, 石膏:麻黄は 11 g:6gと約2:1に近づきます。  麻杏薏甘湯は,『金匱要略』痙湿暍病に「病者一身 効能 処方 麻黄と合わせる生薬 桂枝 麻桂相須・発表散寒 麻黄湯・小青竜湯 根 発汗解表・昇津舒筋 根湯 杏仁 解表散寒・止咳定喘 麻黄湯(風寒犯肺) 宣降肺気・清熱平喘 麻杏甘石湯 石膏 清泄肺熱・止咳定喘 麻杏甘石湯(邪熱壅肺) 散風清熱・宣肺行水 越婢加朮湯 蒼朮 行湿表裏・防止過汗 越婢加朮湯 薏苡仁 発汗解表・祛風利湿 麻杏薏甘湯 五味子 止咳平喘而不耗気 小青竜湯 附子 温経助陽・解表散寒 麻黄附子細辛湯 防風 発汗・利尿・抗アレルギー 防風通聖散(発汗・利尿・通便) 表2 麻黄を含む2味薬対の働き

(10)

尽疼,発熱,日晡所劇者,名風湿。此病傷於汗出当風, 或久傷取冷所致也。可与麻黄杏仁薏苡甘草湯。……温 服,有微汗,避風」(病者一身 尽ことごとく疼み,発熱し,日 晡所劇しき者は風湿と名づく。この病は汗出でて風に 当るに傷られ,或は久しく冷を取るに傷られて致す所 なり。麻黄杏仁薏苡甘草湯を与うべし。……温服す, 微汗あらしむ,風を避く)とあるように,風湿が表に あり全身(関節・筋肉)に疼痛のあるとき,温服し微 汗させて風湿の邪を除く処方です。少量の麻黄(4g) は,寒性利尿の薏よ く い に ん苡仁(10 g)と一緒に使うことで, 微発汗・利尿に働きます。  麻黄附子細辛湯は,『傷寒論』少陰病 301 条に「少 陰病,始得之,反発熱,脈沈者,麻黄細辛附子湯主之」 (少陰病,始めて之を得,反って発熱し,脈沈なるも のは,麻黄細辛附子湯之を主る)とあるように,体質 虚弱者や老人が,太陽傷寒に外感して発熱したけれど, 陽気不足のために,直すぐ裏(少陰)に伝入し太陽少陰 の両感証になったときに用います。「反発熱」は邪が 表にあることを,「脈沈」は裏に寒飲のあることを示し, 麻黄は解表散寒,附子は内除裏寒,細辛は表裏を貫き 少陰寒邪と太陽表寒ともに祛邪し,3味が協力して, 解表兼温裏逐飲します。臨床ではしばしば,悪寒・微 熱・無汗・倦怠感・手足冷などの症状があり,薄い鼻 汁や咽喉痛を訴える身体虚弱者の感冒に用います。特 に咽喉痛・疲労感を主訴とする場合には,甘草湯を合 方し,そのほか急性腎炎を起こし尿不利の場合,五苓 散を合方,腰背痛に葛根湯を合方,アレルギー性鼻炎 やアレルギー性結膜炎,気管支喘息などに桂枝湯や小 青竜湯を合方して用いることがあります。        9歳,女児。昨晩,急に悪寒・発熱が出現。今朝も 38.5 度の発熱が続き,悪寒・体の痛み・軽度咽痛が あり来院。舌淡紅・脈浮緊・無汗。普通感冒と考え, 葛根湯エキス剤5g/日分3処方。しかし翌日になっ ても 39 度の高熱・身痛・関節痛・無汗が続き再来院。 迅速診断キットを実施したところ,インフルエンザB 型陽性。葛根湯を服用しても発汗しないため,発汗峻 剤の麻黄湯エキス剤5g/日分3に転方,服用後発汗 し解熱,身体痛も消失した。しかしその後,微熱がと きどきあり,食欲も回復しないため,柴さ い こ け い し と う胡桂枝湯エキ ス剤3日分処方服用し治癒。完治まで約7日を要した。 ❖インフルエンザをはじめ,外感病で太陽傷寒表実証 を治療するポイントは,発汗解表することです。葛根 湯や麻黄湯エキス剤を用いて発汗させる場合,ときに は,エキス剤を通常の倍量用いたり,発汗するまで断 続的に服用させるなど,発汗させるための工夫を必要 とする場合もありますが,過剰投与に注意が必要です。  最初から高熱煩躁(イライラしてじっとしていられ ない)などの傷寒表実の重症に裏熱証があれば,太陽 病中 38 条「太陽中風,脈浮緊,発熱悪寒,身疼痛, 不汗出而煩躁者,大青竜湯主之」(太陽風に中り,脈 浮緊に,発熱悪寒し,身疼痛し,汗出でずして煩躁す るものは,大青竜湯之を主る)とあるように,大青竜 湯で発汗解表・清熱除煩する必要があります。エキス 剤を用いる場合には,桂枝湯合麻杏甘石湯エキス剤か, 麻黄湯合越婢加朮湯エキス剤で類似処方を作ります。 しかし両者には麻黄の合方使用量に約2倍の差(1日 量4g:11 g)と蒼朮の有無の違いがあり,どちら を選ぶべきか病態を勘案して処方します。  また『勿ふ つ ご や く し つ ほ う か ん く け つ誤薬室方函口訣』の柴さ い か つ げ き と う葛解肌湯(浅田家 方)に「太陽,少陽の合病,頭痛,鼻乾,口渇,不眠, 四肢煩疼,脈洪数なる者を治す」とあるように高熱が 4,5日続いて下がらず,頭痛・身痛などの症状が重 症化して,麻黄湯や葛根湯などの麻黄剤では効果が現 れない場合に用いられます。類似処方として葛根湯と 小 し ょ う さ い こ と う か き き ょ う せ っ こ う 柴胡湯加桔梗石膏エキス剤を合方します。        60 歳,男性。痛風症で数年前からアロプリノール を服用している。最近ビールを飲む量が増えていたと ころ,急に右足の親指の付け根に激痛が生じて来院。 症例2 症例1 葛根湯から麻黄湯に転じ,発汗治癒した インフルエンザ 痛風発作に対する越婢加朮湯の効果 漢方エキス製剤を使いこなす② / 麻黄湯類 ●9 伝統医学 Vol.10 No.4(2007.12) −8

(11)

表3 エキス剤の併用方法例 麻黄湯類方 症状 併用エキス剤 麻黄湯 「小しく汗を発する」ため 桂枝湯→桂麻各半湯・桂枝二麻黄一湯 傷寒表実の重症(高熱・煩躁・口渇) 越婢加朮湯(大青竜湯の方意) 多痰 二陳湯 胃もたれ 平胃散 咽喉部閉塞感 半夏厚朴湯 気鬱 香蘇散 頭痛 川芎茶調散 胃腸虚弱・咳嗽・咽痛 参蘇飲 水様鼻汁・水様痰 小青竜湯 嘔吐・下痢 五苓散  熱痰 竹筎温胆湯 血虚血瘀(皮膚疾患) 四物湯 根湯 血瘀(うっ血・末梢循環不良) 桂枝茯苓丸(あるいは桂枝茯苓丸加薏苡仁) 肩・上肢の痛み 二朮湯 全身のだるさ・下痢・腹痛 真武湯 熱勢増強・頭痛・身体痛 小柴胡湯加桔梗石膏→柴 解肌湯 根湯加川芎辛夷 膿性鼻漏・扁桃腺炎・中耳炎併発 辛夷清肺湯(あるいは荊芥連翹湯) 副鼻腔炎遷延 十味敗毒湯(あるいは排膿散及湯) 水様鼻汁 小青竜湯 小青竜湯 鼻閉 根湯加川芎辛夷 炎症(鼻炎・気管支炎) 桔梗石膏あるいは麻杏甘石湯 鼻汁 麻杏甘石湯 小青竜湯 粘稠痰 麦門冬湯 発熱・胸脇苦満 小柴胡湯 胃腸虚弱・食欲不振 六君子湯 虚弱体質 補中益気湯 越婢加朮湯 浮腫・尿不利 五苓散 関節腫脹 防已黄耆湯 麻黄附子細辛湯 咽痛 甘草湯 水様鼻汁 小青竜湯 後背痛・腰痛 根湯 腰痛・神経痛 桂枝湯→桂姜棗草黄辛附湯去 薬

(12)

局所が赤く腫脹,痛風発作の状態。越婢加朮湯エキス 剤 7.5 g/日分3処方,同時に疼痛が軽減するまで鎮 痛剤ジクロフェナクナトリウムを併用するように指示 した。発赤腫脹は2週間の内服で軽減したが,疼痛が 消失するまで約3週間必要だった。 ❖痛風発作の場合,エキス剤単独では激しい疼痛にな かなか対処できません。そこで鎮痛剤を併用処方する 機会が多くなります。また越婢加朮湯エキス剤は,発 赤腫脹の消失を早める効果がありますが,関節の腫脹 が顕著であれば,越婢加朮湯合防已黄耆湯,あるいは 合五苓散,合柴さいれいとう苓湯エキス剤のように合方して用いる 場合があります。          10 歳,男児。幼い頃から気管支喘息があり,風邪 を引くと発作のため点滴入院などを繰り返していた。 来院時,喘鳴・発熱・黄色痰あり,熱哮喘と診断し, 五虎湯加減(麻黄・杏仁・石膏・甘草・茶ちゃよう葉・柴さ い こ胡・ 黄 おうごん 芩・貝ば い も母・十じゅうやく薬・生しょうきょう姜・紫し そ し蘇子など)の煎じ薬の2 週間服用で発作期から脱した。その後,発作回数の軽 減や重症化を防ぐために,漢方エキス剤治療を開始し た。当初,麻杏甘石湯や五虎湯エキス剤を単独投与し たが,テオフィリン製剤の併用が必要で,中止できな い。  痩せた体格で,食事量も少なく,迫力感が乏しく虚 弱体質である。脾気虚が顕著と判断し,健脾化痰の六りっ 君く ん し と う子湯エキス剤を合方することにした。標治に麻杏甘 石湯エキス剤5g/日分3(朝・夕・寝る前),本治 に六君子湯エキス剤5g/日分2(朝・夕)の標本同 治の方法である。次第にテオフィリン製剤の併用を必 要とする機会が減り,やがてその必要がなくなった。 漢方薬2剤でコントロール可能となり,3年間服用が 続いたが強い発作は出現せず,体格も充実し継続服用 の必要がなくなり終了した。現在は,風邪をたまに引 く程度で,葛根湯などで対応できる。 ❖そのほかに,気管支喘息から脱却する方法として, 麻杏甘石湯に補ほ ち ゅ う え っ き と う中益気湯や小しょうけんちゅうとう建中湯を併用する場合も あります。  65 歳,女性。寒くなって身体が冷えると,背中に 盛り上がりのある紅色の発疹が出現して痒くなる。温 かい布団にくるまったり,風呂に入ったりすると治ま る。舌淡紅,苔白膩。麻黄附子細辛湯エキス剤 3.75 g/日と消風散エキス剤 7.5 g/日を処方した。いく らか症状が軽くなったが,まだ大豆大の膨疹が出たり 消えたりする。麻黄附子細辛湯の1日量を 7.5 gに増 量し消風散と併用して服用したところ,膨疹が出なく なった。  しかし,すぐ続いて,くしゃみ・鼻水(いわゆる水っ ぱな)・鼻閉・咳嗽が出現した。「以前より体温が 35 度前後の低体温です」との情報をこの段階で知り,麻 黄附子細辛湯エキス剤 7.5 g/日と苓甘姜味辛夏仁湯 7.5 g/日を合わせ処方した。約1カ月半の服用で体 温が 36.5 度に上昇し,症状が消え服薬を中止したと ころ,再び,くしゃみ・鼻水が出現した。そこで麻黄 附子細辛湯エキス剤 7.5 g/日に小青竜湯9g/日を 合わせて処方した。「今度の薬は,すごく効いて良い」 とは本人の言葉である。寒い季節の間,この2剤服用 が続いた。 ❖麻黄附子細辛湯は,温陽解表・扶正祛邪の効能があ り,祛邪しても正気を傷つけず,陽気を補って(助陽 扶正)も祛邪の妨げにならない方剤です。病態によっ ては,服用期間が長期になる場合があります。 *『傷寒論』『金匱要略』条文は,『傷寒雑病論(三訂版)』『現  代語訳・宋本傷寒論』『金匱要略解説』(いずれも東洋学術出  版社)による。 症例3 症例4 麻杏甘石湯合六君子湯の長期服用により 気管支喘息から脱却 麻黄附子細辛湯が有効な皮膚膨疹 (蕁麻疹)と鼻炎 漢方エキス製剤を使いこなす② / 麻黄湯類 ● 伝統医学 Vol.10 No.4(2007.12) −83

(13)

 「教典」は書かれた直後から創始者の手を離れ,ひ とり歩み始めます。『傷寒論』も例外ではありません。 時代と人の変化は,条文・薬の性味・処方に対する解 釈に変遷を与えてきました。遠く仏陀が語った原始仏 教が,多様な解釈と流派を生み,その時代の人々を救 済したように,『傷寒論』も人々を救うために,永遠 に変化し生き続けるでしょう。小柴胡湯類は応用範囲 のきわめて広い方剤です。今の時代,どう解釈し生か すべきなのか考えてみましょう。   ◆構成生薬の働き  柴胡の性味は,苦・辛・微寒,帰経は肝・胆・三焦・ 心包で,小柴胡湯の主薬です。上昇発散(辛)と下降(苦) の両方向に作用し,主に①解熱(和解退熱),②解鬱(疏 肝解鬱),③上昇陽気(昇陽挙陥)の効能があります。 佐薬の黄䊫は苦・寒で清熱解煩の効能があり,柴胡(解 表透熱)と,黄䊫(清裏熱)の薬対(清透併用)で, 半表半裏の邪を透散します。半夏・生姜は,小半夏湯 (『金匱要略』)の方意で下気祛水止嘔します。人参・ 大棗・甘草は健胃生津して正気を補い邪の侵入を防ぎ, 駆邪を助けます。  柴胡は春に種を播く植物で,昇発(春の季候のよう に氷が溶け川の水が流れ,気分も軽やかに浮き浮きす る)作用により心を愉快にしますが,この作用は他の 解表薬にはみられないものです。またその解表作用は, 少陽証の半表半裏にある熱邪(肌熱)を透表する特徴 があります。さらに柴胡は陽気を上昇させ,気虚下陥 による内臓下垂や短気(息切れ), 怠の治療をする ことができます。補中益気湯(『脾胃論』)の柴胡も, この目的で使われています。 ◆小柴胡湯の薬効   小 柴 胡 湯 は,『 傷 寒 論 』 太 陽 病 中 96 条 に「 傷 寒 五六日中風,往来寒熱,胸脇苦満,嘿嘿不欲飲食,心 煩喜嘔,或胸中煩而不嘔,或渇,或腹中痛,或脇下痞 䌤,或心下悸,小便不利,或不渇,身有微熱,或咳者,

小柴胡湯類

風間 洋一

風間医院 風間医院(茨城県取手市)

はじめに

組 成 柴胡7g,黄䊫3g,半夏5g,生姜1g,     人参3g,大棗3g,甘草2g 効 能 和解少陽・解表清裏 適応症 ①傷寒少陽証:往来寒熱・胸脇苦満・食欲不振・      心煩(イライラ)・喜嘔(吐き気)・口苦(口      中不快)・咽乾・目眩・舌苔薄白・脈弦     ②婦人傷寒・熱入血室(生理中に傷寒に罹り,      熱邪が血と結合):胸脇苦満・往来寒熱(瘧疾)・      譫語     ③黄疸および内傷雑病で少陽証候の者

小柴胡湯を理解する

(14)

小柴胡湯主之」とあるように,「往来寒熱・胸脇苦満・ 嘿嘿不欲飲食・心煩喜嘔」の4大主証と,「心下悸・ 小便不利・咳・渇・脇下痞䌤」などの客証(随伴す る症状で,現れたり消えたりする)に対して用いら れます。  4大主証の「往来寒熱(悪寒発熱が交互に起こる)」, 「胸脇苦満(脹満感で苦しい)」,「心煩喜嘔(イライラ し吐きたがる)」,「嘿嘿不欲飲食(気持ちが塞ぎ食べ られない)」などは,自覚症状を鮮明に描き出したも のです。  また太陽病中 37 条に「脈浮細而嗜臥者,……設胸 脇満痛者,与小柴胡湯」,中 99 条に「身熱, 悪風, 頸項強,脇下満,手足温而渇者,小柴胡湯主之」とあ り,「胸満脇痛」を繰り返し強調しています。これら の条文を根拠に,吉益東洞をはじめ,多くの日本の漢 方家は,脇下の抵抗・圧痛・不快感を「胸脇苦満」の 他覚症状として認識するようになり,腹診の発展に繋 げました。有名な『腹証奇覧』『腹証奇覧翼』の絵図は, 現在でも多くの解説書に引用され,柴胡湯類の処方選 択の一手段となっていることは,周知の通りです。  また,太陽病下 144 条に「婦人中風,七八日続得 寒熱,発作有時,経水適断者,此為熱入血室,……小 柴胡湯主之」とあり,邪熱が血室で血と結び(血熱互 結),寒熱往来・脇下満痛・少腹満痛・譫語・精神錯 乱などが発症したときにも用いられます。このとき, 桂枝茯苓丸や桃核承気湯の併用を必要とする場合があ ります。  さらに『金匱要略』嘔吐噦下利病脈証治に「嘔而発 熱者,小柴胡湯主之」,黄疸病脈証併治に「諸黄,腹 痛而嘔者,宣柴胡湯」とあり,発熱・嘔吐・黄疸の治 療に用いられます。 ◆作用機序の考察  小柴胡湯は,解表(柴胡・生姜),清熱(柴胡・黄 䊫),止嘔祛水(半夏・生姜),補気生津(人参・大棗・ 甘草)の効能を有し,「上昇・下降」「開・閉」「扶正・ 祛邪」に作用することから,「調和解表」すなわち「和 解」の作用を有する方剤といわれています。  少陽病は,『傷寒論』少陽病 263 条に「少陽之為病, 口苦,咽乾,目眩也」,266 条に「本太陽病不解,転 入少陽者,脇下鞭満,乾嘔不能食,往来寒熱」などと あるように,「寒熱往来・胸脇苦満・口苦・嘔吐・目 眩・脈弦」が特徴で,太陽と陽明の間の半表半裏証で す。また太陽病中 97 条に「正邪分争,往来寒熱,休 作有時」(正邪分かち争い,往来寒熱,休作に時あり) とあるように,表裏の間で邪気が徘徊し,正気との争 いの中で,寒熱往来が起こり,少陽の枢機不利により, 気機の失調(上下内外の気の流れが滞る)が生じ,嘔 吐や口苦・食欲不振・目眩・精神不振などの症状が発 生します。  「休作有時」には,①「時に現れ時に休む(一定の 間隔)」という意味と,②「一定の時(子午卯酉の時 刻の説もある)」という意味をもつと解釈され,定時 に発病する疾病のすべてに小柴胡湯を用いて治療でき ると考える臨床家もいます。例えば,子の刻に決まっ て腰痛が起こる「子夜腰痛」や,卯の刻になると決まっ て喘息発作を起こす疾病に,小柴胡湯加減で効果を上 げています。そのほか,決まった時刻(定時)になる と,熱が出たり,胃痛や胆石発作・精神抑うつ・吐き 気などの症状が現れる場合に使われています。  半表半裏証は,表証でないため禁発汗,また有形の 実熱証ではないので禁吐・下が原則です。少陽病は邪 が少陽に侵入し,津液を傷つけ化熱した半表半裏熱証 です。治療には,「和解少陽・解表清裏」の小柴胡湯 が適切といえます。小柴胡湯を「三禁湯」と別称する のは,少陽病に禁発汗・吐・下の三禁があるからです。 ちなみに柯琴は,『傷寒附翼』の中で小柴胡湯を「少 陽枢機の剤,和解表裏の総方」と呼びました。 ◆適応症の分析  『傷寒論』の条文から,小柴胡湯の適応が広範囲で あることがわかります。主に次のような病証に適応す る方剤といえます。 ①少陽病を主治,②外感熱病・諸雑病発熱(柴胡証),

小柴胡湯の臨床応用

漢方エキス製剤を使いこなす③ / 小柴胡湯類 10● 伝統医学 Vol.11 No.1(2008.3) − 10

(15)

③三焦不利(昇降機能失調による嘔吐・便秘・小便不 利),④気鬱腹脹,⑤肝胆鬱滞(口苦・胸脇脹痛),⑥ 熱入血分(血室熱),⑦黄疸など,多岐に使われます。  以上から,主に表1のような疾患が対象となります。  小柴胡湯類方のエキス剤には,柴胡桂枝湯・柴胡桂 枝乾姜湯・柴胡加竜骨牡蛎湯・四逆散・大柴胡湯・ 大柴胡湯去大黄・柴朴湯・柴苓湯・柴陥湯・小柴胡 湯加桔梗石膏・抑肝散・柴胡清肝湯・加味逍遙散・ 滋陰至宝湯・竹筎温胆湯など多くがあります(表2)。 いずれも柴胡が,解熱・解鬱・昇挙陽気などの働きを 目的として処方に含まれていますが,一緒に使う生薬 (薬対)により,柴胡の担う役割に違いがあります。  柴胡・黄䊫の薬対は,清・透併用により半表半裏の 邪を取り除くことができ,少陽病の口苦・咽乾・目眩・ 寒熱往来・胸脇痛を治療します。小柴胡湯・柴胡桂枝 湯・柴胡桂枝乾姜湯・柴胡加竜骨牡蛎湯・大柴胡湯・ 柴朴湯・柴苓湯・柴陥湯などに配伍されています。  柴胡・枳実の薬対は,柴胡の解鬱(向上・向外)と 枳実の理気(向下)の相反作用により三焦の気機阻滞 を通調し,肝気鬱結を治療しますが,さらに鎮痙・鎮 痛の 薬甘草湯を配合した方剤に四逆散(柴胡・枳実・ 薬・甘草)があります。『傷寒論』少陰病 318 条に「少 陰病,四逆,其人或咳,或悸,或小便不利,或腹中痛, 或泄利下重者,四逆散主之」とあるように,肝気鬱結 し三焦不利により気血水が巡らず,四逆(手足末端の 冷え),腹痛,裏急後重を伴う下利(渋り腹),尿が出 にくい,咳嗽,動悸などに用いられます。  例えば,過敏性腸炎などで,下利便秘のとき,四逆 散に桂枝加 薬湯や桂枝加 薬大黄湯を合方使用する 場合があります。ちなみに大柴胡湯や大柴胡湯去大黄 にも「柴胡・枳実・ 薬」が含まれ,四逆散の効能を 内包します。  柴胡・ 薬の薬対は,平肝(疏肝・柔肝)解鬱し, 胸脇痛を治療しますが,エキス剤には,さらに涼散の 薄荷を加え疏散解鬱の効果を一段と高めた加味逍遙 散・滋陰至宝湯があります。加味逍遙散は,イライラ や精神不安などの精神症状を伴う生理不順・生理痛・ 更年期障害などに使われ,滋陰至宝湯は,同じような 精神症状を伴う咳嗽・寝汗・食欲不振・全身 怠など に用いられます。  柴胡・桂枝の薬対は,『傷寒論』太陽病下 146 条に 「傷寒六七日,発熱,微悪寒,支節煩疼,微嘔,心下 支結,外証未去者,柴胡桂枝湯主之」とあるように, 表1 小柴胡湯の適応疾患 分類 疾患 内科系疾患 感冒 ・ 気管支炎 ・ 肺炎 ・ リンパ腺炎 ・ 気管支喘息 ・ 胃炎 ・ 胃潰瘍 ・ 胆嚢炎 ・ 胆石症 ・ 肝炎 ・ 肝硬変 ・ 肝臓がん ・ 狭心症 ・ 心筋梗塞(少陽病証あるいは肝気鬱結者) 婦人科系疾患 子宮疾患に伴う悪寒発熱 ・ 乳腺炎 ・ 月経前緊張症候群 精神神経系疾患 神経症 ・ 心身症 ・ 身体化障害 ・ 記憶障害 ・ 片頭痛 ・ 三叉神経痛 皮膚科 脱毛 ・ 過敏性皮膚炎(アトピー性皮膚炎・蕁麻疹・湿疹) 眼 科 結膜炎 ・ 視神経炎など 耳鼻咽喉科 咽頭炎 ・ 扁桃腺炎 ・ 中耳炎 ・ 耳下腺炎 ・ 耳管狭窄など

小柴胡湯の類方

(16)

太陽・少陽の二陽併病に用いられるほか,147 条に「傷 寒五六日,……胸脇満微結,小便不利,渇而不嘔,但 頭汗出,往来寒熱,心煩者,此為未解也。柴胡桂枝乾 姜湯主之」とあるように,少陽の表裏の寒熱を去る目 的で使われています。  ちなみに,生薬学の臨床研究に優れた名医・章次公 (江蘇鎮江人,1903 ∼ 59 年)は,『薬物学』の中で, 柴胡を「祛瘀・解熱・泄下」の3治法に用いると述べ, 李慶業(北京中医薬大学,1940 年∼)は,桂枝を「解 肌・温通経脈・化気行水」に働くと解説して臨床応用 の幅を拡げています。  そのほか,柴胡・升麻の薬対を含むものに,中気下 陥による脱肛・胃下垂・子宮脱などの内臓下垂や,気 虚発熱に用いる補中益気湯があり,柴胡・升麻は,と もに熱を発散する作用と陽気を上昇させる作用をもち 相須に働きます。   以上から,小柴胡湯類を用いて治療するには,主薬 である柴胡の「解熱・解鬱・昇提・祛瘀・泄下」の効 能と,配伍薬による処方構成を十分に理解したうえで, 自覚症状や腹候・脈診などを勘案して基本エキス剤を 選択し,さらに必要に応じ解表剤や清熱剤・理気剤・ 理血剤・祛痰剤・祛湿剤・治風剤・治燥剤・安神剤・ 瀉下剤・補益剤などのエキス剤を併用します(表3)。  15 歳,男子,高校1年生。数日前より,食事をす ると胃痛が出現。胃が絞られるように痛む。入学以来, 担任教師との関係があまり良くなかったが,最近小さ なトラブルがあり,強度のストレス状態に陥った。体 格は普通だが,顔色が悪く元気がない。伏し目がち。 舌淡紅・苔薄白・脈微弦・両側の胸脇苦満・腹直筋の 緊張・心下痞を認める。腹力は中等度。疏肝理気の四 逆散エキス剤 7.5 g / 日分3と鎮痙止痛の 薬甘草湯 7.5 g / 日分3を,1週間分処方。内服後,胃痛が軽減。 その後トラブルの解決があり,これを契機にお互いの 感情のもつれが解け,再発はない。 四逆散は,少陰病 318 条に「少陰病,四逆し,其 の人或は咳,或は悸し,或は小便利せず,或は腹中痛 み,或は泄利下重するものは,四逆散之を主る」とあり, 本来は熱厥の軽症に用いる方剤ですが,構成生薬の分 析解釈から,「肝脾(胃)不和・気滞陽鬱」を主治する, つまりストレスなどによる抑うつ(肝気鬱結)から生 じた胸脇痛・胃痛・腹痛・下痢などの胃腸疾患に用い られるようになりました。  47 歳,女性。生理が乱れ,来潮が早くなってしまっ たのでホルモン治療を受けたところ,吐き気が出現し, 食欲がなくなり,あまり食べられなくなったため漢方 治療を求め来院。生理の乱れとともに,顔のほてり・ 手の痺れ・イライラ・動悸・不眠・不安・ 怠感があ る。更年期の初期症状と考え,加味逍遙散エキス剤 7.5 g / 日分3,六君子湯エキス剤5g / 日分2を2週間 分処方。服用後,ほてり感はいくぶん解消,副作用の ためホルモン剤を中止したこともあり,吐き気は消失 し食べられるようになった。  しかし,イライラ・動悸・不安感・不眠は相変わら ず軽減せず,柴胡加竜骨牡蛎湯エキス剤 7.5 gに変え て処方。服用後これらの症状がかなり軽減した。その 後,更年期症状は柴胡加竜骨牡蛎湯エキス剤のみで, コントロール可能となった。  42 歳,男性。半年前より,首より上が熱い・頭痛・ 肩こり・背中が張る,仕事が忙しく責任も重くなり, 次第に血圧が高くなってきた。仕事上でイライラする ことが多い。最近血圧が 150/100 前後と高止まりし ている。舌淡紅・苔薄白・脈弦滑。軽度の胸脇苦満あ り。腹力中等度。二便正常。加味逍遙散エキス剤 7.5 g / 日分3と釣藤散エキス剤5g / 日分2を2週間分 症例2 症例3 症例1 更年期症状に加味逍遙散合六君子湯と 柴胡加竜骨牡蛎湯が有効であった例 頭部の熱感とイライラ感・高血圧に 大柴胡湯が有効であった例 強度のストレスに四逆散合 薬甘草湯が 有効であった例 漢方エキス製剤を使いこなす③ / 小柴胡湯類 12● 伝統医学 Vol.11 No.1(2008.3) − 12

(17)

表2 小柴胡湯類方 処方名      出典      組成       効能         適応症 柴胡桂枝湯 『傷寒論』太陽病下 146 条・ 『金匱要略』胸痹心 痛短気病脈証治 和解少陽・ 発散表邪 柴胡5g,半夏4g,黄䊫2g, 甘草2g,桂皮2g, 薬2g, 大棗2g,人参2g,生姜1g 太陽少陽併病。発熱微悪寒・支節煩疼・微嘔・ 心下支結 『傷寒論』太陽病下 147 条 和解散結・温裏祛寒 柴胡6g,黄䊫3g,䈅楼根3g, 桂皮3g,牡蛎3g,甘草2g, 乾姜2g 柴胡桂枝乾姜湯 柴胡加竜骨 牡蛎湯* 三陽併病。胸満煩驚・譫語・小便不利・ 一身尽重・不可転側・脈弦細微 四逆散 『傷寒論』太陽病中 107 条 柴胡5g,半夏4g,桂皮3g,茯苓3g, 黄䊫 2.5g,大棗 2.5g, 人参 2.5g,牡蛎 2.5g, 竜骨 2.5g,生姜1g,(大黄1g) 和解鎮静 (清熱・安 神・祛痰) 『傷寒論』少陰病 318 条 柴胡5g, 薬4g,枳実2g,甘草 1.5g 邪解鬱・ 疏肝理脾 少陰病。四逆あるいは咳,あるいは悸,ある いは小便不利,あるいは腹中痛,あるいは泄 利下重 大柴胡湯 『傷寒論』太陽病中 103 条,下 136 条・ 163 条 『金匱要略』腹満寒 疝宿食病脈証治 柴胡6g,半夏4g,黄䊫3g, 薬3g, 大棗3g,枳実2g,生姜1g,大黄1g 和解少陽・ 内瀉熱結 (表裏双解) 少陽陽明合病。往来寒熱・胸脇苦満・嘔不止・ 鬱々微煩・心下急あるいは心下痞硬・腹満痛・ 大便不下・脈弦数 柴朴湯 『世医得効方』 本朝経験方 柴胡7g,半夏5g,茯苓5g,黄䊫3g, 厚朴3g,大棗3g,人参3g,甘草2g, 蘇葉2g,生姜1g ◆小柴胡湯+半夏厚朴湯 和解少陽・ 理気化痰 少陽枢機不利で,痰湿阻滞(胸苦・喀痰咳嗽・ 悪心嘔吐) 柴苓湯 柴胡7g,沢瀉5g,半夏5g,黄䊫3g, 蒼朮3g,大棗3g,猪苓3g,人参3g, 茯苓3g,甘草2g,桂皮2g,生姜1g ◆小柴胡湯+五苓散 和解少陽・ 利水 往来寒熱・胸脇苦満・嘿嘿不欲食・心煩喜嘔, あるいは水入即吐・水腫・小便不利・短少・ 目眩・舌苔白・脈弦あるいは浮 ◆小柴胡湯証と五苓散証を主治。 柴陥湯 本朝経験方 柴胡5g,半夏5g,黄䊫3g,大棗3g, 人参2g,黄連 1.5g, 甘草 1.5g,生姜1g, 䈅楼仁3g ◆小柴胡湯+小陥胸湯  和解少陽・ 清化熱痰 少陽枢機不利で,熱痰あるいは小結胸(脇痛・ 咳嗽・黄色粘痰・舌苔黄膩) 小柴胡湯加 桔梗石膏 本朝経験方 柴胡7g,半夏5g,黄䊫3g,甘草2g, 大棗3g,人参3g,生姜1g,桔梗3g, 石膏 10g ◆小柴胡湯+桔梗石膏 清熱瀉火・ 利咽排膿 咽喉腫痛・扁桃炎・扁桃周囲炎 抑肝散 (加陳皮半夏) 『保嬰撮要』 (本朝経験方) 蒼朮4g,茯苓4g,川芎3g,当帰3g, 柴胡2g,甘草 1.5g, 釣藤鈎3g,(陳皮3g, 半夏5g) 平肝熄風・ 疏肝健脾  肝鬱化風の痙攣・不眠・神経症 (興奮・イライラ)・小児の夜泣き 柴胡清肝湯 一貫堂創方 柴胡2g,黄䊫 1.5g,黄柏 1.5g,黄連 1.5g, 䈅楼根 1.5g,甘草 1.5g,桔梗 1.5g,山梔子 1.5g,地黄 1.5g, 薬 1.5g,川芎 1.5g,当 帰 1.5g,薄荷 1.5g,連翹 1.5g,牛蒡子 1.5g 清熱解毒・ 祛風排膿・ 養血 血虚熱毒(皮膚化膿症・咽喉頭炎・扁桃炎・ 中耳炎など) 加味逍遙散 『和剤局方』 柴胡3g, 薬3g,蒼朮3g,当帰3g, 茯苓3g,山梔子2g,牡丹皮2g,甘草 1.5g, 生姜1g,薄荷1g 疏肝健脾・ 和血調経・ 瀉火 肝鬱血虚化火で,イライラ・易怒・頰赤 (顔面紅潮)・口乾・生理不順 滋陰至宝湯 『万病回春』 柴胡3g,香附子3g, 薬3g,知母3g, 陳皮3g,当帰3g,麦門冬3g,白朮3g, 茯苓3g,甘草1g,薄荷1g,地骨皮3g, 貝母2g 疏肝解鬱・ 健脾和営・ 養陰清肺 虚弱者(肝鬱血虚・肺陰虚)の咳・痰 竹筎温胆湯 『万病回春』 半夏5g,柴胡3g,麦門冬3g,茯苓3g, 桔梗2g,枳実2g,香附子2g,陳皮2g, 黄連1g,甘草1g,生姜1g,人参1g, 竹筎3g 清胆和胃・ 理気化痰 少陽病痰熱内擾。少陽病で発熱が続き,煩躁多痰 胸脇満微結・往来寒熱,但頭汗出・心煩・口渇, 不嘔・小便不利 *柴胡加竜骨牡蛎湯は,大・小柴胡湯,柴胡桂枝湯,桂枝甘草竜骨牡蛎湯の合方加減といえます。  太陽誤下後,邪が内伝し三陽表裏とも病み,上中下三焦に余邪積熱(痰熱)し,上焦痰熱による「胸脇満悶」,中焦胃熱による「煩驚譫語」,三焦不  利による「小便不利」,少陽枢機不利による「一身尽重,不可転側」の症候を併せています。

(18)

処方。服用後,首から上の症状は軽くなったが,漠然 とした不安感があり,忘れっぽくなった気がする。気 持ちが逆に下方に下がって行く感じがして,些細なこ とが気になるようになった。血圧は 130 ∼ 140/80 ∼ 90 前後,脈が弦から緩遅になっている。柴胡桂枝 乾姜湯エキス剤に変えて1カ月服用。気が下がる感じ は消えたが,再び夕方になると顔が熱くなり,肩がこ る。血圧も再び高くなる傾向にあり,大柴胡湯エキス 剤に転方。服用後熱感は消失し,不安感もなく,気持 ちも楽になった。血圧は 130 ∼ 140/80 ∼ 90 前後を 維持。 緊張の継続,精神的な重圧による高血圧に対し,大 柴胡湯は1つの選択肢になります。しかし血圧の数値 改善がみられない場合,降圧剤との併用が必要です。  70 歳,男性。数年前,退職後に耳鳴りが出現し, 次第に大きくうるさくなってきた。高温でキーンとい う音が連続している。聴力は落ちていない。血圧はや や高め。イライラもなく,睡眠も普通。気が短い性格 でセカセカしている。以前より腰痛があり,長く歩く と痛みが増す。すぐに治せと言わんばかりの口ぶりで 要求。舌淡紅微暗・苔白・脈弦。軽度の右胸脇苦満が あり,小腹不仁も認める。柴胡加竜骨牡蛎湯エキス剤 5g / 日分2と牛車腎気丸エキス剤5g / 日分2を処 方。腰痛と耳鳴りは消えないが,以前より我慢できる という。かなり改善されているように見えるが,本人 は症状がすべて消失しないと,良くなったと言わない と心に決めているよう。ときどき,同じ処方を求めて 来院。  48 歳,女性。聴衆の前で話をする機会が続き,心 身疲労が蓄積し,半月前から咽頭痛出現。さらに1週 間前から声が枯れて言葉が出にくくなった。肩こりが つらく,頭痛もある。舌淡紅で,舌と咽喉が乾燥して いる。滋陰至宝湯エキス剤9g / 日分3と 根湯エキ ス剤 7.5 g / 日分3処方。次第に声が出るようになり, 咽頭痛・肩こりも改善。2週間の服用で廃薬。  20 歳,男性。4日前から発熱し,咽頭痛がひどい。 痛みのため声も出せない。感冒薬を服用しても改善せ ず,来院。扁桃腺が紅く腫れ,咽喉の半分以上が閉塞 し,膿が付着している。両側の頸部リンパ腺も腫脹し, 圧痛顕著。抗生物質に小柴胡湯加桔梗石膏 7.5 g / 日 分3と黄連解毒湯 7.5 g / 日分3を処方。抗生物質の 効果もあり,4日分でほぼ治癒。 *『傷寒論』『金匱要略』条文は,『傷寒雑病論(三訂版)』『現  代語訳・宋本傷寒論』『金匱要略解説』(いずれも東洋学術出  版社)による。 症例 5 症例 6 症例4 風間洋一先生プロフィール 1948 年 東京都生まれ 1976 年 東邦大学医学部卒業        東邦大学附属大森病院第二内科 1977 年 東京女子医科大学脳神経外科 1978 年 東邦大学附属大森病院第二外科 1980 年 風間医院開業        茨城県取手市戸頭 4-3-6 疲労咽頭痛に滋陰至宝湯合 根湯 が有効であった例 化膿性の咽頭痛に小柴胡湯加桔梗石膏 合黄連解毒湯が有効であった例 耳鳴りと腰痛が柴胡加竜骨牡蛎湯 合牛車腎気丸で改善された例 漢方エキス製剤を使いこなす③ / 小柴胡湯類 14● 伝統医学 Vol.11 No.1(2008.3) − 14

(19)

表3 エキス剤の併用方法例 小柴胡湯類方 効能または症状 併用エキス剤 小柴胡湯 駆瘀血 蓄血証 桃核承気湯 瘀血在胞宮 桂枝茯苓丸 血虚 四物湯 生理痛 ・ 生理不順 当帰 薬散 下腹部痛 ・ 便秘 大黄牡丹皮湯 理気 香蘇散 ・ 四逆散 ・ 半夏厚朴湯 清熱 黄連解毒湯 ・ 茵䋄蒿湯 ・ 茵䋄五苓散 ・ 白虎加人参湯 瀉下 調胃承気湯 ・ 大黄甘草湯 ・ 大承気湯 ・ 麻子仁丸 咳嗽 ・ 喘鳴 麻杏甘石湯 ・ 五虎湯 ・ 小青竜湯 ・ 麦門冬湯 ・ 清肺湯 胃腸疾患 ・ 腹痛 桂枝加 薬湯 ・ 薬甘草湯 ・ 平胃散 ・ 小建中湯 ・ 黄耆建中湯 ・ 当帰建中湯 急性肝炎 黄連解毒湯合茵䋄蒿湯 柴胡桂枝湯 胃腸疾患 安中散 ・ 薬甘草湯 ・ 人参湯 咽痛 ・ 咳嗽 桔梗湯 ・ 桔梗石膏 過敏性腸炎 二陳湯 柴胡桂枝乾姜湯 咽痛 ・ 咳嗽 桔梗湯 ・ 桔梗石膏 咳嗽 苓甘姜味辛夏仁湯 ・ 麦門冬湯 血虚 四物湯 腹満 ・ 食欲不振 平胃散 不安 ・ 不眠 甘麦大棗湯 頻尿 ・ 神経症 ・ 不眠 清心蓮子飲 めまい 苓桂朮甘湯 柴胡加竜骨牡蛎湯 清熱 白虎加人参湯 ・ 黄連解毒湯 (熱毒) ・ 防風通聖散 (風熱) 気虚 補中益気湯 胃腸症状 薬甘草湯 ・ 半夏瀉心湯 血瘀 桂枝茯苓丸 四逆散 胃腸症状 平胃散 ・ 六君子湯 (柴 六君子湯) ・ 薬甘草湯 理気化痰 半夏厚朴湯 血瘀 (例:乳房痛) 桂枝茯苓丸 生理痛 当帰 薬散 熱毒 黄連解毒湯 大柴胡湯 胆石 ・ 胆嚢炎 ・ 膵炎 茵䋄蒿湯 ・ 茵䋄五苓散 ・ 竜胆瀉肝湯 ・ 黄連解毒湯 血瘀 桂枝茯苓丸 ・ 桃核承気湯 ・ 通導散 ・ 芎帰調血飲 脂肪肥満 ・ 高脂血症 防風通聖散 ・ 五苓散 高血圧 釣藤散 柴朴湯 血虚 四物湯 熱毒 黄連解毒湯 ・ 温清飲 (血虚・熱毒) 咳嗽 小青竜湯 ・ 五虎湯 ・ 清肺湯 胃痛 ・ 腹痛 薬甘草湯 ・ 安中散 不安 甘麦大棗湯 ・ 酸棗仁湯 柴苓湯 下利 ・ 腹痛 平胃散 ・ 薬甘草湯 ・ 桂枝加 薬湯 皮膚疾患 四物湯 ・ 黄連解毒湯 柴陥湯 咳嗽 ・ 喘鳴 小青竜湯 ・ 麻杏甘石湯 ・ 五虎湯 ・ 麦門冬湯 抑肝散 (加陳皮半夏) 胃腸症状 薬甘草湯 ・ 桂枝加 薬湯 ・ 半夏瀉心湯 熱毒 黄連解毒湯 ・ 三黄瀉心湯 理気化痰 半夏厚朴湯 不安 ・ 不眠 甘麦大棗湯 ・ 酸棗仁湯 加味逍遙散 血虚 ・ 熱毒 四物湯 (血虚)・ 黄連解毒湯 (熱毒)・ 温清飲 (血虚熱毒) 湿疹 消風散 吐き気 ・ 嘔吐など 小半夏加茯苓湯 ・ 六君子湯 ・ 胃苓湯 煩躁不安 香蘇散 ・ 桂枝加竜骨牡蛎湯 ・ 酸棗仁湯 血瘀 桂枝茯苓丸 ・ 桃核承気湯 ・ 温経湯 高血圧 七物降下湯 ・ 釣藤散 ・ 大柴胡湯 滋陰至宝湯 粘痰 ・ 乾咳 滋陰降火湯 腎虚 六味丸

(20)

 暑い夏,強すぎる冷房の中で暮らす,冷たく甘いもの を常食する,臍出しや足腰を晒す,あるいは逆に過度の 辛熱性の食事を好むなど,現代人は身体に優しい生活を 送っているとは思えない情況です。その結果,便秘・不眠・ 高血圧・皮膚病などに悩まされる人が増えています。こ れらの疾患の治療に際し,承じょう気き湯とう類を含め大だいおう黄類方に習 熟することは,臨床力を高めるうえで必須と思われます。 古典の代表処方である大承気湯条文の理解を通して,「宣 通」の意義を学び,適応をしっかり身につけましょう。 ◆構成生薬の働き  大黄の性味は,苦・寒,帰経は脾・胃・大腸・肝・ 心で,主に①通便(瀉下攻積),②瀉熱(清熱瀉火解毒), ③活血祛瘀止血,④利胆退黄の効能があります。大承 気湯中では,大黄は腸の蠕動を促進し,寒の性質をもっ て熱によって形成されたものを下す働きをします(寒 下熱結)。  芒ぼう硝しょうの性味は,鹹・苦・寒,帰経は胃・大腸で,軟 堅瀉下・清熱消腫の効能があり,水分を腸内に集め糞 便を希釈するとともに腸を刺激して蠕動運動を高めま す。その結果,大黄・芒硝の薬対は瀉熱祛実に働きます。 多用量の厚こうぼく朴・枳き実じつの薬対は行気(下気)消脹に働き, 4薬を一緒に使うと,向下攻瀉の力が増強され,「痞」 「満」「燥」「実」を除くことができます。ちなみに「痞」 は心下(胸脘部)の閉塞感,「満」は胸脇・脘腹部の 脹満および抵抗感,「燥」は腸内の燥いて堅硬した糞塊, 「実」は大便不通あるいは下利清水臭穢して腹中硬満 がなくならない状態を言い表したものです。 ◆大承気湯の薬効  「六腑以通為用,以降為順」(六腑は通を以て用と為 し,降を以て順と為す)といわれるように,「通」と「降」 の不及(不足)と太過(過剰)に因り,伝導機能が失 常すると,ある種の腑病が生まれます。胃と大腸は六 腑に属し,正常な働きは「伝化物」(飲食物を消化吸 収し伝送すること)です。そこで胃気が上下に滞り流

漢方エキス製剤を使いこなす④

風間 洋一

風間医院 風間医院(茨城県取手市)

承気湯類

(大黄類)

大承気湯を理解する

組 成 厚朴5g,枳実3g,大黄2g,無水芒硝1.3g 効 能 峻下熱結 適応症 ①陽明腑実証:大便不通(便秘)・腹部硬満・      腹痛拒按・潮熱・譫語・手足漐漐汗出。脈沈実・      沈遅有力。舌紅・舌苔黄乾燥。     ②熱結傍流:下利清水臭穢・臍腹疼痛・按之      堅硬有塊。口舌乾燥。脈滑実。     ③裏熱実証の熱厥・痙病・譫語狂躁(発狂)など。

はじめに

● 伝統医学 Vol.11 No.2(2008.6) − 69

表 2 エキス剤の併用方法例 併用エキス剤承気湯類方証候・症状 大承気湯 陽明経腑同病(高熱・口渇) 白虎加人参湯 胸脇苦満(胆嚢・膵臓疾患など) 大柴胡湯・小柴胡湯 腸癰(急性虫垂炎など) 大黄牡丹皮湯・桂枝茯苓丸 肝火上炎(頭痛・目赤・イライラ・耳鳴など) 竜胆瀉肝湯 めまい 苓桂朮甘湯 調胃承気湯 陽明経腑同病 白虎加人参湯 血虚裏熱・月経困難 四物湯・温清飲 胃もたれ・腹満 平胃散 気鬱・腹満 香蘇散・四逆散 湿熱 茵 蒿湯 桃核承気湯 血虚血瘀(生理不順) 四物湯 精神神経疾患 柴胡桂枝乾姜湯・四

参照

関連したドキュメント

子どもたちは、全5回のプログラムで学習したこと を思い出しながら、 「昔の人は霧ヶ峰に何をしにきてい

ASTM E2500-07 ISPE は、2005 年初頭、FDA から奨励され、設備や施設が意図された使用に適しているこ

親子で美容院にい くことが念願の夢 だった母。スタッフ とのふれあいや、心 遣いが嬉しくて、涙 が溢れて止まらな

・如何なる事情が有ったにせよ、発電部長またはその 上位職が、安全協定や法令を軽視し、原子炉スクラ

モノづくり,特に機械を設計して製作するためには時

夜真っ暗な中、電気をつけて夜遅くまで かけて片付けた。その時思ったのが、全 体的にボランティアの数がこの震災の規

都調査において、稲わら等のバイオ燃焼については、検出された元素数が少なか

下山にはいり、ABさんの名案でロープでつ ながれた子供たちには笑ってしまいました。つ