障害児者支援における情報通信技術コーディネート
に関する実践研究
著者
爲川 雄二
号
1
学位授与機関
Tohoku University
学位授与番号
教情第2号
URL
http://hdl.handle.net/10097/59741
学位の種類 学位記番号
学位授与年月日
学位授与の要件
最終学歴
学位論文題目論文審査委員
ため かわ ゅう じ矯川雄
博士(教育情報学)教情第
2
号
平成 23 年 3 月 2 日
学位規則第 4 条第 2 項該当障害児者支援における情報通信技術コーディネートに
関する実践研究(主査)
教授
渡部信一教授
准教授
熊井正之中島
平
教授出口利定(東京学芸大学)
〈論文内容の要旨〉
本研究は論文提出者(以下、筆者)が行なった障害児者支援における a情報通信技術コーディネー トの実践から、障害児者支援における情報通信技術コーディネートのモテ、/レを提唱し、コーディ ネートに求められる知識・技能を考察した。 第 1 部「序論」では、第 1 章において本研究の問題を、そして第 2 章において本研究の目的、 構成と特色を論じた。 20 世紀末から 21 世紀初頭にあたる近年、情報通信技術と障害児者支援の双 方において大きな変容が起こったが、障害児者支援における情報通信技術の利用については、一 部の支援者の負担を増す結果となり、さらには領域の狭間で取り残される事が危慎される状況に ある。そこで、筆者のこれまでの実践から情報通信技術の利用促進に求められる知識・技能等を 帰納的に明らかにし、今後の障害児者支援において a情報通信技術をコーディネートする際に必要 とされる知識・技能等を明らかにする事を、本研究の目的とした。本研究は近代科学の主流であ る仮説検証型の研究ではなく、実践を帰納的に考察したものであり、近代科学では捉えきれない具体的な現実に即した「臨床の知」の立場からの研究であるという特色を有する。また本研究は 特別支援教育や障害者福祉の領域への示唆に限らず、情報通信技術の発展とともに発足した学際 的領域としての「教育情報学」への示唆をも提供でき得ると考えた。 第 2 部では 3 章にわたって、障害児者支援における情報通信技術利用とその周辺領域に関する 文献研究を行なった。第 3 章ではこれまでの特別支援教育における情報通信技術利用について、 筆者の情報通信技術のコーディネートにおける主たる対象である知的障害児教育を中心に近年の 動向を論じた。第 4 章では周辺領域の一環として、近年開始された認定試験について述べた。す なわち、福祉情報技術(アシスティブテクノロジー)コーディネータ認定試験と教育情報化コー ディネータ試験である。また第 4 章では、福祉情報技術(アシスティブテクノロジー)コーディ ネータ認定試験との関連として、総務省「障害者の IT 利活用支援の在り方に関する研究会」の報 告書において提唱された支援者育成のカリキュラム案について、さらに教育情報化コーディネー タ試験に関連して、米国の学校教育における情報通信機器導入の先駆的な例について述べた。続 く第 5 章では、本研究の関連領域において展開されている各種のモデ、ルについて、生産管理や品 質管理等の管理業務を円滑に進める手法として開発された PDCA モデル、 PDCA モデルが教育・ 福祉の領域に派生したモデル、ソフトウェア工学の領域における情報システム開発の各種プロセ スモデル、教育における情報通信技術利用のプロセスモデル、そしてイノベーション決定過程の 段階モデルについて述べた。 第 3 部では筆者が行なった障害児者支援における'情報通信技術コーディネートの実践について、 3 章にわたって論じた。第 6 章では主に学齢期以下の発達障害児あるいは発達障害が疑われる児の 保護者・養育者・支援者等を対象とした、インターネットで利用できる発達と障害特性の簡易評 価システム、第 7 章では筆者が近年開発に従事した知的障害児自身の利用を想定した電子メール 擬似体験システム、そして第 8 章では高次脳機能障害者(失語症者)を対象とした音声言語の聴 覚的理解訓練システムについて論じた。各章において、開発の背景、システムの概要、試験運用 の結果と考察を述べ、その後にシステム開発の経緯を詳述し、筆者のコーディネートを考察した。 筆者のコーディネートの実践や、福祉情報技術コーディネータや教育情報化コーディネータに 求められる知識や技能、そして関連領域における各種のモデ、ル、これらを総合的に考察し、障害 児者支援における情報通信技術のコーディネートのモデルを第 4 部(第 9 章・第 10 章)で提唱し た。すなわち、障害児者支援における情報通信技術コーディネートについて、第 9 章ではプロセ スモデ、ルを、そして第 10 章では学際性モデ、ルを提唱して、コーディネート的役割に求められる知
識や技能を、第 2 部と第 3 部の研究で得られた示唆に基づいて考察した。プロセスモデ、ルで、は特 に、開発の初期段階における目的のコンセンサス形成と、試用の段階における結果に基づいた目 的や対象の再確認が重要であると論じた。また学際性モデルでは、直接的な領域である障害児者 支援と情報科学の他、親和性の低い両学問領域を包括的に結び付けるための認知科学を配置し、 元来より学際的領域である認知科学の役割を論じた。両モデルに共通して、筆者の実践を提示し て論じ、障害児者支援における情報通信技術のコーディネートに求められる知識・技能等を考察 した。 障害児者支援における情報通信技術利用について、実践からより多くの示唆が得られ、それら を精査していく過程を経て、障害児者支援における情報通信技術利用が特別なものではない一般 的な活動として位置付く事を待望し、今後の課題とした。
〈論文審査の結果の要旨〉
本論文は、筆者である矯川氏がこれまで行なってきた障害児者支援の場における情報通信技術 のコーディネート(開発要請から実装・試用)の実践をまとめたものであり、実践研究として非 常に貴重なものである。 本論文は近代科学の主流である仮説検証型の研究ではなく、実践を帰納的に考察したものであ る。近代科学では捉えきれない具体的な現実に即した「臨床の知」の立場からの研究であるとい う特色を有する。また本論文は、コーディネートそのものの対象(支援者等)と、構築されたシ ステムの実際の利用者という 2 つの対象(障害児の保護者等)が混在している。これらの対象の 相違に応じて、適切なアプローチを採用した研究であるという特色も有する。種々のパラダイム・ アプローチが有する長所・短所を把握し、それらを柔軟に使い分けていながらも、研究全体の目 的である「障害児者支援における情報通信技術コーディネートに求められる知識・技能の考察」 からは逸脱せず、最終的には種々のパラダイム・アプローチを有機的に総括している点は高く評 価できるところである。 本論文ではコーディネートの実践を帰納的に考察するために、文献研究(第 2 部)にも力点が 置かれている。その範囲は、当該分野である障害児者支援における情報通信技術の利用に関する 近年の動向に留まらず、近接領域において展開されるコーディネータ資格試験や各種プロセスモデ、ル等と、広く展開されている。特定の分野に限定せず、より広い視野で学際的な文献研究をふ まえた結果、第 4 部における総合考察がより深みを増している。 第 3 部の実践において実装され、現在も試用を継続中の Web サイト(第 6 章)が近年では年間 10 万アクセスを超える点からも、本論文におけるコーディネートの実践が有用であった事が間接 的に示されている。また、学際的な立場から考察・提唱された本論文の知見は、障害児者支援の みならず広く教育・福祉等の分野における情報通信技術のコーディネートの現場において有用な ものとなっており、教育情報学の分野に多くの示唆を供するものとなっている。 よって、本論文は博士(教育情報学)の学位論文として合格と認める。